株式会社 鎮守府   作:不可

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お読みくださり、ありがとうございます。

※イクちゃんの名前を間違っていたので修正しました。 「伊九」→「伊一九」(2016.01.16)


18. 泊地制圧作戦

 結局、伊一九からの報告も踏まえて、敵の総数は二百五十隻に昇ると予想された。

 ここに至っても敵艦隊に鬼級や姫級の存在は確認されていないため、今回は確実にただの泊地である。

 

 巨大泊地に集結した五百隻の深海棲艦よりも、鬼級に率いられた五十隻の深海棲艦のほうが遥かに恐ろしいし厄介なのだ。その厄介な存在が居ない分、対処はかなり楽になる。

 はずだったのだが。

 

「泊地制圧? 爆撃ではなく?」

「はい。深海棲艦の研究のためにも、ある程度完全な状態の泊地を制圧したい、とのことでした」

「それで? ウチの艦隊に集結している二百五十隻を艦隊戦でどうにかしろ、と?」

「方法は指定されていませんが、向こうの要求している内容はつまりそういうことでしょう」

 

 敵地の詳細を政府に知らせ、こちらにどういう対応をして欲しいか尋ねてみたところ、そんな要請があったと、躊躇いがちに大淀は告げる。当然だろう。俺だってこんな内容を自分の上司に報告したくない。

 

 敵の戦力が集中しているのだ。古来より戦力の分散が愚行と言われているのは偏えに、集中した戦力が持つ力が強大だからだ。数に物を言わせた軍勢の突破力や圧力は、並大抵の策では覆らない。

 

 ウチの鎮守府の戦力が総動員できれば、相手が二百五十隻だろうと三百隻だろうとどうにか処理できるだろう。だが、それに付随する損害に見合った戦果が得られる可能性は皆無である。

 

 敵の大艦隊に対して総力戦を仕掛ければ、あり得ない仮定だが、仮に轟沈しないにしても艦娘の被害は甚大なものになる。

 一方で烏合の衆どもが密集している時に多数のミサイルで攻撃しまくれば、労せずして敵の大艦隊を壊滅状態に追い込むことができる。その上で掃討戦に移ったとしても、バラバラに生き残った深海棲艦の各個撃破など、統率の取れた味方艦隊にとっては朝飯前だ。

 つまり、戦果に対する損害の割合を考えれば、爆撃による一方的な殲滅と、艦娘による敵泊地の制圧は、比べようにも比較対象が小さすぎて認識できないレベルで効率が違う。

 腹が減った時の対応として、買ってきた即席麺にお湯を注ぐ方法と、農場の土壌から改良して小麦を育成生産して工場を立てて麺に加工し更に一手間かけて乾燥麺にした上で別に用意した工場から容器を作ってそれにパッケージした即席麺を自分で開けてお湯を注ぐ方法との差ぐらいには効率が違う。

 

「自分でやれって言っておけ。ウチにそんな無駄なことをする暇な余剰戦力は無い。同じような要求を今後また一度でも繰り返したら、本土に供給している全ての資源輸出を三年間ストップする、と宣言しておけ。譲歩は一切認めん」

「了解しました。ただ、流石に断られるのがわかっていたのか、第二の要請があります」

「それはそれは。無駄にこっちの心証を悪くするのがお好きのようだ」

「……コメントは差し控えます。こちらも少々どうかとは思いますが、要は政府側のミサイル攻撃で手加減するから、ちょっと残敵が多いかもしれません、とのことでした」

「……百隻以上残ったら撤退。以後は泊地戦に関する一切の依頼を受けない。五十隻以上残ったら追加報酬として依頼料の倍額を貰う。つまり総支払額は元の三倍だな。この条件でよければ契約しよう」

「はい。では早速そう返信いたします。契約締結後の鎮守府全体の艦隊編成案をお持ちしましたので、ご確認ください。失礼します」

 

 百隻未満の敵戦力であれば、相手が万全に構えていてもどうにかなる。特に高速戦艦の金剛型を主力に据えた高速編成の水上打撃部隊と、正規空母と軽空母に万全の護衛艦隊をつけた機動部隊を連携させて、一撃離脱を繰り返す戦法を取ればこちらの被害もかなり抑えられる。

 理想は五十隻以内だ。この程度の残り方なら三回ほど遊撃すれば勝負は着くだろうが、高望みはするまい。

 

 大淀が渡してくれた編成案もちょうどそんな感じだ。長門たち周回遠征組は北方の巡回があるため今回は動員できない。長門が居てくれれば心強いが、いかんせん彼女は航行速度に多少重さを感じる。艤装による航行ではなく、自力での海面走行であれば高速艦にも負けず劣らずの速度で行動できるが、いかにも非効率的だ。北方の陣頭指揮も疎かにはできないわけだし、こいつは動かせない。

 同じ理由で大和型も動かせないのだが、今回は司令部詰めではなく鎮守府防衛戦に出撃させる。

 宮古島泊地への攻撃隊に金剛型が全員取られるため、戦力が目減りしてしまう鎮守府近海の円環状機雷原の隙間防衛で切り札を切っておく。特に最近は東方面の敵の質が若干上がっているため、そちらの増援としては最適だろう。

 宮古島組への洋上補給は、種子島付近にこちらも簡易の泊地を作り、そこに物資を集積する。今はその準備中だが、本体が出撃するのに合わせて輸送隊も出撃するので、そこまで慌ただしくもない。編成は普通に水雷戦隊で、対潜警戒を厳にしたものだ。

 

 それにしても、宮古島への派遣も三十人か。スケジュール表を確認してみるが、休養日だった艦娘も普通に編入されている。戦闘そのものは一日か二日で終わるだろうが、輸送船でも同伴させて道中の疲労は最低限に抑えたほうが良いだろう。

 ちょうどこの前買ったコンテナ船の魔改造が完了したようだし。何せ荷物満載時での最大船速が毎時二十五ノット(四十五キロくらい)だ。下手な戦艦よりずっと速い。どんな改造をしたのか明石と夕張と妖精さんたちに聞いたものの、ニンマリと口を見事にいやらしい三日月にするだけで何も教えてくれなかった。どうでもいいが、「いやらしい三日月」という字面の破壊力がヤバい。開けてはいけない禁断の世界への扉が開きそうだ……。

 

 作戦決行は政府の決定待ちだが、予想では早くて四日後。今更紛糾する議会の事情を考えると多分六日後かもしれない、と大淀のくれた資料に書いてある。

 自分の国土への攻撃だからな。沖縄奪還を目論む勢力からの反発は必至だろう。どうせ奪回できても維持するだけの防衛力がないので無駄なのだが、故郷を物理的に奪われた彼らにそんな理屈は通用しない。俺も同じ立場だったらそうなるだろうし。そんなヤツらとの接触が嫌だからこうして起業したんだし、国防への協力も極力ドライにやっているのだ。

 何にせよ、そういった反対勢力を押しのけて強行採決に踏み切るタイミングは世論次第でもある。多分今回の宮古島泊地の件はある程度の情報が国民に広く公開されるだろう。

 恐慌した民衆が何をするか、それにどう対応するかは治安維持に責任ある政府の仕事なので、頑張ってほしいものだ。

 

 最近は徐々に追い詰められている人類の焦燥が日本人にも微かに香ってきたのか、彼らの創出する文芸に光るものが増えてきている。

 やはり人間、生命の危機を実感している時のほうが創作意欲もアイデアも豊かに湧きでるようで、ここ数ヶ月の嗜好品輸入は鎮守府を挙げて大変な楽しみになっている。

 

 本土との関係は良好なものでありたいし、本土の状態もいい具合に末法めいたまま平和であってほしいものだ。




日本も今の、鎮守府に依存しきっている現状を良しとはしていません。
資源の輸入元としては深海棲艦の出現以前と比べても、多少輸入量が減っただけで、むしろ貿易支出額はガッツリ抑えられたのでウハウハでもあります。輸出額については、最近始めた資源の公開横流しで名目上は上向いてきているので、なんちゃって経済的には好景気です。薄氷の上の好況ですが、完全に崩壊しているよりは遥かにマシ、とのことで政府も容認しています。

問題は防衛力の件で、装備や弾薬を鎮守府に依存するのは辛うじて許容できても、実際に戦闘を行って問題を解決する戦力を、体裁的には一民間企業である鎮守府に依存しているのは国家として危機感を覚えています。
そのため、敵の研究に余念がないし、研究者としてはなるべく完全な形でのサンプルができるだけ欲しいのです。
今回は特に宮古島という本州の目と鼻の先に泊地ができたのですから、敵対的生命体の生態分析やら何やらの絶好の機会なわけです。当然そういった分析を重視する派閥からの突き上げもあって、今回の最初の依頼条件となっていたわけですが、流石に政府だって防衛省の上層部だってあの要求が無茶なのはわかっています。
ただ、あくまで分析派の顔を立てるためと、自分たちの目的がどこにあるかを伝えるために一応載せていた、という事情があったのです。

提督たちにしてみれば知ったこっちゃないクソ事情ですが。その辺は政府からしてもお互い様ということで、両者とも禍根を残すようなことにはならないです。
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