大炎上した模様。
泡を食ってこちらの出した条件を快く受け入れてくれた政府の依頼を受けて、鎮守府の宮古島遠征艦隊は出撃した。
種子島を一時拠点にしたウチの艦隊が到着し、大休止と戦闘前最終確認を終えたため、政府が九州方面の自衛隊基地から短距離ミサイル攻撃を十分にぶっ放した。
およそ二分間に渡って大量のミサイルが宮古島を囲む海域に降り注ぐという大盤振る舞いだった。
これほどの大攻勢を受けては照準を受けない深海棲艦といえどもひとたまりもない。空間全てを埋め尽くさんばかりの連続大爆発だ。当たる当たらないの問題ではない。その海域にいれば必ず死ぬ。
日本がこれほどの物量攻勢に出られたのも鎮守府が原因である。
今の日本の存続を根底から揺るがす脅しをかけられた政府は、かねてより鎮守府から提供を続けていた弾薬の在庫を吐き出したのだ。
環境破壊なぞ何を恐れるものかとばかりに撃ち込まれたミサイルは完璧な効果を発揮し、敵泊地は完全に消滅。残存艦も近海を紹介していた部隊か潜水艦級くらいなものだったので、当日中に掃討は完了し、早々とウチの艦娘たちは帰島した。
当然ながらその美麗さで謳われた沖縄の海は復旧も無理というか海図と地図が書き換わるレベルで無残にも破壊されたので、宮古島周辺出身の避難民や平和主義者の政府に対する非難がかなり強かったようである。ウチの知ったことではないが。
確かに下手な手加減をして過剰に敵艦を残されても困るといったのはウチだが、限度というものがあるだろう。
加減も知らずに全力で火力を集中させたのは焦った政府のうっかりだろう。こっちの所為にされても困る。
何はともあれ、遠征に出した資源分と艦娘たちの休養日が減っただけで無事に終わった泊地制圧作戦だが、我が鎮守府は既に通常運転に戻っている。
「先日の泊地の件ですが、あの戦法は意外と有効かもしれませんね」
執務室でいつものごとく暇を持て余していた俺に、書類確認の仕事を携えてやってきてくれた大淀が、思い出したかのようにそう言った。
「何度も繰り返せる方法ではありませんが、あれほどの空間を埋め尽くす火力を同時に運用できるのでしたら、例え鬼級や姫級が相手でも防ぎようがないかと思われます」
「敵がその海域に長期間留まっていればの話だろう?」
「はい。小規模艦隊の指揮官級ではあまり有効な戦術ではありませんが、特定の海域で勢力を集めるタイプの指揮官級には有効な戦術になりえます。積載量を増大させたミサイル護衛艦を当鎮守府でも導入することを検討してもよろしいかと」
ミサイル護衛艦か。
流石にコンテナ船やタンカーとは比べ物にならないくらい高価な船だが、現在の金余りの鎮守府財政的には良い買い物かもしれない。
何せ本土とは一方的に輸出する関係なため、健常な交易関係とは言えないのだ。たまにはドカンと高いものを買っておかねば、通貨の流通も滞ってしまうだろう。それでどんな問題が起こるかなんて俺にはよくわからんが、昔テレビか漫画かで金を回すのが経済の要だとか言っていた気がする。
それに、肝心のミサイル自体は鎮守府で無尽蔵に補給できるわけだから、敵拠点への面制圧力を高める意味では確かに有効かもしれない。
「そうだな。向こうの防衛省だか政府だかに言って、退役艦でもいいから売ってくれと頼んでみるか。まだこの間の脅しにビビってるかもしれないが、普通に正規の値段で買い取ってくれていいからな。変に値切らせるなよ」
「わかりました。明石さんたちがまた張り切りそうですね」
「あの輸送船の魔改造は異常すぎだろう。なんで荷物満載時で二十五ノット(四十五キロくらい)も出るんだ? 積載量十万トン超だぞ?」
「鎮守府謹製の改良型主機の性能によるものでしょう。コンセプトは艦娘の艤装化なら戦闘速度も再現せよ、だったそうです」
「……現在輸送任務に就けているタンカーにも使えるのか?」
「夕張さんが言うには、流石にコンテナ船ほどの速度が出せるわけではないけど、艦娘の航海練習時の巡航速度程度なら出るかもしれない、とのことです。その代わりに艦娘でなければ操作できなくなるし、補給も修理も鎮守府以外では一切できないものとなってしまうそうですが」
「十分だろう」
「では工廠にはそのように打診しておきましょう」
艦娘の巡航速度は艦種によっても若干違うが、概ね時速二十ノット(三十六キロくらい)だ。二十万トン級のタンカーでそんな速度が出せるなら十分すぎるだろう。本土と片道五十時間程度で済む。今のタンカーが中古なのもあって十~十二ノット(十八~二十二キロくらい)程度の速度しか出せないので、いつも大体百時間もかかってしまう。それが半分の時間に節約できるなら改造の価値は計り知れない。
現状でも機雷群を抜けるために艦娘による半艤装化をしているのだから、大淀の入ったデメリットなどデメリットとも言えないレベルの変化だろう。
それにここ最近、明石を遠征にばかり付き合わさせてしまっていた。たまには好きなだけ実用も兼ねた趣味的な機械いじりの作業を割り振って労っておくべきだろう。
以前追加購入していた輸送船たちの改装もまだだったし、ついでにこれらにも改良型主機とやらを導入してもらっておこう。
「艦娘たちの休憩具合はどうだ?」
「問題ありません。元々戦闘による疲労などはほとんどなかったので、交代で半休を取らせたら特に士気が低迷したり戦闘能力が落ちるといったことも見られませんでした」
「そうか。じゃあ明日以降近い内に大規模艦隊戦のための訓練を組み込んでくれないか?」
「大規模艦隊戦ですか? 可能ではありますが、一体どうしてでしょうか」
「今回の泊地では最悪、百隻以上の敵艦隊と総力戦に入るかもしれなかった。戦力的にはこちらの艦隊も負けはしない数ではあるが、こちらも三十人もの大艦隊が一度に連携するなどという経験もなかった。十人の艦隊が三組で交代している編成はあっても、三十人全員を一斉に、というのは無かったからな。だが、今回のようにその可能性がある以上、訓練しておいてしかるべきだろう?」
艦隊戦における数は単純に強さであるが、数が増えればそれでいいというわけでもない。
増えた数によっては実行できる戦術とできない戦術があるし、少数艦隊の時は有効であった攻め方が大規模艦隊でも同様に通用するとは限らない。
大規模艦隊をより効率的に運用するには、その数に見合った戦術と訓練が欠かせないはずだ。
「なるほど。失念していました。確かに我が鎮守府もかつての人員不足の窮状を脱し、二つもの三十人編成の艦隊を捻出できるまでになっています。これまではいずれも少数艦隊でしたが、敵の指揮官級が大規模艦隊を率いてくる可能性もないわけではありません。早急に大規模戦闘の訓練について協議し、実施いたします」
「そうしてくれ」
「はい。……それにしても提督。こう言っては失礼ですが、本当にご成長なさいましたね。私たちでは考慮にも入れていなかったことをご指摘いただけるとは。私ちょっと背筋がゾクゾクしました」
ちょっと昂揚したような顔で「背筋がゾクゾク」とか言わんでくれ、大淀。妙な気分になってしまう。
「とは言っても、俺自身ではどんな戦術が良いかまではわからんし、訓練内容に関しても口出しなんか全くできんからな。まだまだだよ」
何せ最近になって之字運動の意味を理解できたくらいだ。いや、この理解も正しいのかはまだ怪しいところだが。
「それでも素晴らしい成長ですよ、提督。私は誇りに思います」
「……ありがとう、大淀」
何やら妙に気恥ずかしい空気を残して、上機嫌な大淀は執務室を後にした。
敵泊地の大勢力との決戦なんてありませんでした。相手が固まってて動かないんなら舐めプせずにぶっ放しますよ。誰だってそうしますし、作者だってそうします。見せ場? 戦闘シーン? はて、何のことでしょうか……?
そして鎮守府から抜け出せない提督の所為で、ひたすら大淀との絡みが増え続けます。
他の艦娘より提督との接触が実際に多いので仕方なくはあるんですが、このままでは作者が妙に大淀贔屓だと誤解されてしまいかねませんね。いえ、大淀さんは大好きです。美人な上に可愛くて痴女スカート装備とか無敵やん? しゃあないやん? かわいい。
どうにか他の艦娘の出番を増やしたい所存であります。