株式会社 鎮守府   作:不可

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※鳳翔さんが軽巡洋艦になっていた誤字を修正しました。(2016.01.16)
※誤字を修正しました。(2016.01.24)


20. 機動部隊の訓練

 大淀に大規模艦隊戦の戦術分析と訓練を導入するように言ってから三日。

 今日からしばらくは空母機動部隊、水上打撃部隊の二組に別れてそれぞれで練習し、ある程度連携と戦術をまとめることができたら一緒になってまたしばらく訓練することになった。

 本日は空母機動部隊の訓練日であり、とりあえずやってみよう、という日でもある。

 

 機動部隊の編成は、正規空母六名と軽空母三名を中核とし、護衛として軽巡洋艦一名と駆逐艦五名で構成されている。

 正規空母は一航戦の赤城と加賀、二航戦の蒼龍と飛龍、五航戦の瑞鶴、そして海外艦のグラーフ・ツェッペリンだ。軽空母は祥鳳と改装空母でもある千歳、千代田が編成されている。

 護衛の軽巡洋艦は対空戦闘にも対潜戦闘にも定評のある五十鈴が、駆逐艦は睦月型から睦月と如月、特型の吹雪型から吹雪と叢雲、そして陽炎型の不知火が参加している。

 護衛戦隊は主砲を換装して対空機銃と高角砲をメインに、対潜装備のソナーと爆雷も充実させている。念の為に魚雷も三斉射分は積んでいるが、機動部隊から離れるわけにはいかないので単なるお守りだ。

 

 さて、鎮守府の航空戦力をかなり結集させた本気部隊であるこの空母機動部隊だが、午前中の二時間でとりあえず航海練習を済ませている。

 やはりこれだけの大人数だと、ただ進むだけでも普段より気を遣うそうだ。これが戦闘行動になれば流石に違和感は拭えないかもしれない、とは加賀の言葉だ。

 過去の戦歴、艦としての魂の記憶による苦渋の経験から、強烈な反省を胸に刻みつけた一航戦の二人は、どんな些細な要素であっても自分たちの油断や戦力が十全に発揮できない状況に敏感に反応する。

 その彼女たちが違和感とまで言っているのだから、やはり大規模艦隊は即席では額面通りに機能しないのだろう。

 

 午前の二時間で艦隊運動をとりあえず形にできた彼女たち。今度は相手を用意しての戦闘演習である。

 

「提督! 今日は私達の訓練をずっと見学されるんですよね? どうでしたか? 私たちは!」

 

 一旦休憩となって上陸した彼女たち。港の一角で思い思いに休んでいる彼女たちの中で、元気にも俺に声をかけてくるのは駆逐艦の吹雪だ。

 

 俺も今日は特に急ぎの仕事もなく、最近働き詰めだった大淀に完全休養を取るように命令した後でここの見学に来た。

 せっかく自分が提案して実行された訓練なのだ。明日の打撃部隊のものとともに、最初の訓練くらいは見学しておきたかった。

 

 そうしてノコノコやってきた俺は、港の櫓から彼女たちの航行練習をずっと見ていた。

 正直な話、最初から最後まで何を意図しての動きだったのか、それが巧みだったのか拙かったのかはよくわからなかった。

 

「ああ。最初は皆ぎこちなかったが、最後の方はえらくスムーズだったように見えたぞ。お前ら適応力高いなぁ」

 

 訓練開始当初は吹雪がふらふらしていたり、空母同士でも間隔が狭まったり広がったりとガタガタだった集団が、休憩入りの直前には、一糸乱れぬとは言わないが、中学校の運動会で見る入場行進レベルには整って見えた。

 

「えへへ、そうですかっ? 頑張りました!」

 

 妙に嬉しそうにしている吹雪だったが、後ろからは鋭いツッコミが入る。

 

「吹雪さん。確かに艦隊での前進運動はマシになりましたが、まだ他の動きが未確認ですから、これからもっと頑張りましょうね」

 

 一航戦の厳しい方、赤城である。

 物腰は落ち着いていて柔らかいところのある彼女だが、こと訓練や戦闘に関しては一切の妥協を許さないことで鎮守府では有名だ。

 そんな赤城にとって、先程の練習での艦隊運動は耐え難いレベルのものだったのだろう。追加の訓練を念押しする彼女の決意は固そうだ。

 

「あ、赤城さん。も、もちろんです!」

「ふふっ、よろしくお願いしますね」

 

 そこに更に現れる影があった。一航戦のもっとえげつない方、加賀だ。

 

「提督。この訓練は非常に重要なものだと確認できました。しばらくは集中的に訓練を積みたいと思います」

 

 赤城は自分の周囲に百の努力を望みつつ自分は二百五十の鍛錬を重ねているのに対し、加賀は周りに百五十の訓練を課して自分を二百いじめ抜き、三百の戦果を叩き出す。

 赤城はあくまで自分だけで高みを目指すが、加賀は周囲にも妥協を許さない。

 神通と矢矧の訓練はゲロを何回か吐いたら終わるが、加賀の訓練に付き合うと、加賀の理想以上の結果を出すまで帰れなくなる、とは艦種を問わず艦娘の間で有名な話だ。

 何故か加賀をライバル視している瑞鶴などは気合と根性で付き合っているが、他に好んで自分から死地に向かう艦娘は少ない。

 

「そうか。まぁこの後の戦闘訓練でも頑張ってくれ。今日はあくまで全体の確認程度で留めておいてくれよ、加賀」

「わかっています。初めての試みなのですから、流石にそこまでの要求はしませんよ」

 

 わかってくれているなら良いが。

 

「提督さん。次の戦闘訓練の相手って誰なの?」

 

 また元気そうな声で話しかけてきたのは瑞鶴だった。

 しかしこいつは朝の打ち合わせで何も聞いていなかったのか?

 

「対戦相手は軽空母鳳翔、戦艦金剛、駆逐艦初霜、潜水艦伊八の四名だ」

「え゛?」

 

 思わず、といった変な声を出す瑞鶴。どんな反応だよ、おい。

 

「ほ、本当に鳳翔さんが相手なの、提督さん? さ、流石にちょっと無理じゃないかしらっ。それに金剛さんまでなんて、ちょっと酷くないかしらっ!」

「何をそこまで焦っているかは知らんが、お前ら一応相手の三倍以上の人数がいるんだからな?」

「で、でも私達空母ばかりでしょっ? なのに相手に鳳翔さんがいたら、意味ないじゃないっ!」

「だからこそ訓練になるんでしょう。強大な相手に通常より多い戦力であたったらどうなるか、それを検証するためだとしても有効な訓練です。四の五の言わずに死ぬ気で戦いなさい、五航戦」

「アンタだって鳳翔さんには手も足も出ないじゃないっ!」

 

 世界で最古参の航空母艦であった鳳翔。その艦の魂の記憶を持つ軽空母の艦娘である鳳翔さんは、こと艦載機の扱いに関しては他の追随を許さない。

 何せ大戦前に建造された艦の中でも一航戦を務め上げた上で戦後まで生き抜いた化物艦でもある。その艦載機搭乗員の練度は冗談のような水準であった。

 艦娘として鎮守府で活躍する鳳翔さんも例に漏れず恐ろしい艦載機の操者だった。

 

 彼女の扱う艦載機はまず撃墜されない。

 どれだけの敵戦闘機が迫ろうと対空弾幕が厚かろうと、まるで実体がないかのように全てすり抜けて攻撃してくる。

 鳳翔さんの戦闘機は敵艦載機を全て撃ち落とすまで帰投しない。鳳翔さんの艦攻隊が飛び立てば同じ数だけ敵が被雷する。鳳翔さんの艦爆隊が爆弾を投下すれば敵の頭部が必ず吹っ飛ぶ。

 軽空母という艦種故に載せられる艦載機の数は少ないが、その航空戦力は正規空母最強と言って過言でない一航戦加賀ですら大人と赤子の関係よりも激しい差がある。まともに戦えば三十分と待たず加賀の艦載機は全て撃ち落とされて丸裸にされる。

 

 それに加えて「避けられない砲撃」とまで言われる金剛がいる。金剛は長門ほどに馬鹿げた遠距離射撃と火力を持ってはいないが、戦艦の名に全く恥じない火力は誇っている。そして何よりも彼女のキルゾーンである十五キロ圏内での戦闘において、彼女が直撃弾以外を放ったことはない。

 比較的単純で機械的な動きしかしない深海棲艦はともかく、練度を高めに高めた艦娘との演習でも必中だ。

 回避に特化した神通に対しても必ず直撃弾を放ってくるのだが、神通は迫る弾を切り捨ててやり過ごすためにどうにか直撃を避けるとかいう冗談みたいな艦娘だ。規格外さで言えばどっちもどっちである。

 

 初霜はとにかく的確な射撃と動きをするため、相手を撹乱しまくる。艦載機も射程圏内なら撃ち落としたり追い払う有効弾をバラ撒くし、潜水艦に対してもかなりの精度で発見捕捉撃沈させる。戦闘中は目立たないが、戦果を見ると妙に華々しいのが特徴だった。

 

 伊八はディーゼル潜水艦の艦娘に似つかわしくない隠密性の高さを誇る艦娘だ。

 艦娘は基本的に実際の艦ほどの音を立てずに航行するが、艤装を使えば流石に駆動音や波を切る音が出る。潜水艦であっても艤装の音は抑えきれない。

 それを伊八は無理やり解決した。艤装を機械ではなく霊的だかオカルト的な能力として自分の体に付与することでメダカ並みの静音性とマグロ並みの速度を手に入れたのだ。

 メダカが泳ぐ音など、通常のソナーでは検知できない。つまり海中で活動する伊八は、目視以外の手段ではほとんど捕捉できないということだ。

 

 そんな彼女たちが艦隊戦の相手なのだ。

 瑞鶴ならずとも気分を滅入らせる艦娘は多かったが、既に決定された教導官たちだ。

 しばらくはこの四人が大規模艦隊戦の対戦相手である。

 

 未だブーブーとぶーたれる瑞鶴をものすごい迫力で叱った加賀が、彼女の首根っこを捕まえて海へ向かっていく。それに続いて赤城や吹雪も向かうようだ。

 遠くを見れば、他の艦娘たちは既に海上に立っている者もいる。

 

 鳳翔さんたちは既に洋上二十五キロの地点で待機しているはずなので、俺もさっきまで見学していた櫓の上に戻っていった。




ウチの鳳翔さんはガチチート艦です。
同じく元一航戦の龍驤ちゃんは諜報というか式神特化の能力ですが、鳳翔さんは航空機特化。
火力も機動力も他に類を見ない超性能艦です。
鎮守府の主力の一人なのですが、唯一の欠点が継戦能力の低さです。
そのために鳳翔さんは鎮守府で即応待機している切り札なのです。
チート加減では金剛ちゃんも引けを取りません。何せ戦艦の主砲が百発百中などというトンデモ理不尽なのです。
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