株式会社 鎮守府   作:不可

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お読みくださり、ありがとうございます。

ちょっと長くなったので分割しています。こちらが後半。
前半もよろしくお願いします。


22. 鳳翔さんの本気 後編

 演習後に急いで治療を施し補給を済ませたら全員を集め、その前で反省会を取り仕切ったのは、揺るがぬMVPの鳳翔さんである。

 普段の優しげな表情が一切ない、かなり厳しい表情だった。

 

「今回は初めての大規模艦隊行動でしたから、戸惑いや違和感を禁じ得なかった点はわかります。ですが貴女たちは対戦相手である私達をよく知っていたはずです。どのように行動すればいいか、詳細に関してはまだ慣れぬから仕方ないとしても、方針すら誤っていたのはこちらとしても看過しえぬところです」

 

 声そのものはいつもの優しくて落ち着いた良い声なのだが、そこに込められた語気や真剣さが、とてもではないがこちらを落ち着かせない。直接言われているわけではない俺ですら思わず背筋が伸びる。いわんや、直接対峙している彼女たちであれば。駆逐艦の吹雪などションベンちびりそうな震え具合だし、睦月や如月も涙目だ。不知火と叢雲は目に涙こそ浮かべていないが、顔から血の気というものの一切が失せているのがわかる。

 

「私の戦闘機の性能も、金剛さんの狙撃能力も、初霜さんの防空能力も、伊八さんの隠密能力も、皆さんよくご存知のはずです。確かに戦力の一極集中は有効な戦法ではありますが、あれほど密集していたら航空機の立体的な機動という利点を一気に奪ってしまいます。むしろ私の継戦能力の低さを突いて、少数部隊による波状攻撃で確実に私を疲弊させたほうがより有効だったでしょう。貴女たちの相手は少数部隊だったのですよ。例え数を揃えたところで、一度に攻撃できる航空機の数はあまり変わりません。では他は無駄に撃墜の危険に晒しているだけ、ということになります」

 

 流石に空を埋め尽くす勢いの航空部隊を全滅させた人に言われても、あまり説得力はないかもしれないが、鳳翔の言うことは確かかもしれない。

 相手だって無限の補給があるわけではない。棲地にいるなら話は別だが、敵が強大なら、その戦力をゆっくりと減らして補給させなければいい。つまりはこういうことだろうか。

 

「それに金剛さんの射程だって、知らなかったとは言わせません。何が何でも十五キロの距離に入らないよう、私たちとの距離を保つ移動をしていればよかったではありませんか。何故無謀にも近付き、あまつさえそこから逃げなかったのです」

 

 金剛は基本的に無駄球を撃ちたがらないので、十五キロ圏内に入るまでは一切攻撃しない。流石に深海棲艦が相手なら牽制弾くらい撃つが、それにしたって他の姉妹や重巡に大抵は任せている。

 演習ならもう絶対に撃ってこないので、極端に言えば金剛との距離を十五キロ以上保てるなら完封できる。高速戦艦から常に一定の距離を保って逃げ回れるなら、という条件はあるが。

 

「対潜警戒にしても理解できません。こちらに伊八さんがいるのはわかっていたのに、どうして之字運動すらしていなかったのですか?」

 

 鳳翔さんの指摘が五十鈴にも向かう。対潜警戒は彼女の担当だったからだ。まぁ、鳳翔さんの航空機部隊を見てしまって動揺した挙句、そちらに専念してしまったというところだろう。

 常に誇りを持って自己の研鑽に余念がない五十鈴は、いかにも悔しそうだ。

 決してヒネた意味で悔しがっているのではなく、自分のあまりな迂闊さに羞恥の気持ちが募ってたまらないのだろう。

 それがわかっているから鳳翔さんも厳しく指摘する。同じ失敗を繰り返してほしくないし、相手もそれを望んでいるとわかっているから。

 

 それはあの一航戦コンビも同様である。反省会が開始してからどころか、港に上がった時点から落ち込みまくっていた二人は今、鳳翔さんのお叱りを痛切に聞いているし、その胸の内で自らを痛烈に詰っていることだろう。

 

 全くの慢心だった。

 自分たち正規空母と軽空母がこれほどの数揃っていれば、力押しであの鳳翔さんを押しきれるのではないか、などという幻想を胸に抱き、それを信じ込んでしまったのだ。

 自分たちの戦力に対する過信、慢心、油断。かつての大戦で敗れた原因であるそれらを、未だに反省しきれていない自分たち。

 この事実を痛感した赤城と加賀は今、絶望に近い失望を自らに感じていた。

 何らの成長も見せていない自分たち。このままではまたあの時を繰り返してしまうかもしれない。

 そんな思いに駆られた彼女たちだが、だからと言ってやさぐれたり投げ出したりする二人ではない。

 一航戦の誇りを正しく持った彼女たちは、自らの欠点があればそれを改善する努力を一切惜しまない。自らが成長するためなら、自分たちへの失望すら糧にしてまた立ち上がるからだ。

 

 ただ、そんな二人の内心は、真剣に演習の反省を告げている鳳翔には全く関係ない。

 鳳翔からしてみれば、自分たちの演習の結果、大規模艦隊が少数精鋭を相手取るに際して有効な戦法を真剣に意見しているというのに、その話を聞き入っているというふうでもなく、自分の内心の葛藤と決意に勝手に酔いしれているようにしか見えないのだ。

 自分を責めるのも更なる成長を決意するのも大変結構。だがそれは反省会という重大な話し合いを無視する免罪符とは成り得ないのだ。

 

 鳳翔から立ち昇る静かな鬼気を察したのか、金剛はさり気なく三歩は後退り、伊八はその隠密性を存分に発揮して存在感をかき消す。初霜はぷるぷる震えて目をぎゅっと閉じた。

 

「赤城さん、加賀さん。貴女たちが今何を考えているかはこの際重要ではありません。ただ、初めての大規模艦隊演習の反省会を気もそぞろに参加しているのは、栄えある一航戦のお二人であっても非常に残念としか言えません」

「……まっ、ち、違います! いえ、そうではなくてっ……そのっ、これはですねっ」

「ほ、鳳翔さん。落ち着いてください。私たちは決して鳳翔さんの反省会を軽んじたわけではないのです……」

 

 雲行きの怪しさに気付いた赤城と加賀だが、今更遅い。

 とばっちりを避けるために、他の空母組もさりげなく二人から距離を取る。

 

「加賀さん。反省会は総じて次の成長に繋がるとても大切なモノです。例え私の参加しない反省会であっても軽視するようなことがあってな、なりませんよ?」

「も、もちろんです! この加賀、一航戦の誇りにかけて反省会と名の付く話し合いを軽視したことなどありません!」

「赤城さん。貴女も一航戦としての矜持があるなら下手な言い訳はお止しなさい。見苦しさは栄えある一航戦にとって最も忌むべきものの一つです」

「申し訳ございませんっ! この赤城、一航戦の誇りにかけて以後、一切の言い訳をいたしませんっ!」

 

 鳳翔さんの迫力に押されてか、あの一航戦の赤城と加賀が微塵の余裕もなくビビっている。

 いつもなら一航戦というか、加賀を茶化すような口を挟む瑞鶴も、この鳳翔さんを前にしては流石に青い顔を禁じ得ないようだ。グラーフと共に静かに直立して震えている。

 その横では二航戦の蒼龍と飛龍も完璧な直立姿勢で硬直している。青くなってこそいないが、表情にいつものにこやかな余裕は一切見えない。

 

「よろしい。……それでは海に出ましょうか」

「えっ?」

「えっ?」

 

 鳳翔さんの「ちょっと表出ろや」発言には、流石の一航戦も衝撃を隠せなかったようだ。

 

「先程の演習の反省を踏まえた改善案を実際にやってみましょう、と思ったのですが、……何かご不満でも?」

「不満など一切ありませんっ! 一航戦赤城、出撃しますっ!」

「ご指導いただき感激の極みでありますっ! 一航戦加賀、出撃しますっ!」

「そうですか。……では他の皆さんも、準備してくださいね?」

 

 確かに演習の予定時間は昼食までだったのだが、あと二時間も余っている。

 もう一戦演習を繰り返しても、差し当たって問題はないだろう。

 ……艦娘たちの心境以外は。

 了解の返事は、金剛の口から出たものですら若干震えが混じっていた。

 

 ちなみに演習には一切私情を持ち込まない新旧一航戦の三人により、反省会で言われた改善案は順調に実施されたものの、鳳翔さんの戦闘機による攻撃は苛烈を極め、空母勢は艦載機をまたも全滅に追い込まれ、演習自体も機動部隊の全滅までの時間が伸びただけという有様で、鳳翔さんの部隊は相変わらずかすり傷ひとつ無かったという。

 

 演習に参加した駆逐艦の一部は、今日の鳳翔さんの迫力を間近に受けた影響でしばらくおねしょに悩まされることになった。




鳳翔さんの本気おこ。相手は死ぬ。

鳳翔さんは普通の相手には無限の優しさと慈愛で接しますが、自分に厳しい人に対してはそれ以上の厳しさで接します。
強くなること、成長することに命と誇りを賭けている一航戦の二人に対しては本当に厳しく対応するため、赤城さんと加賀さんは鳳翔さんに頭が上がりません。
実際に鳳翔さんと訓練すると艦載機操作の練度が着実に上がっている実感もある上、一航戦としても先輩だった鳳翔さんは生き方の指導者としても二人に慕われています。

それ故に、自分たちの至らなさで「キレさせた」時の鳳翔さんの苛烈さを、身を持って痛感している二人は二度目の演習を必死にこなし、反省会でも今度は失敗しないようちゃんと参加しました。
そのことを鳳翔さんに褒められた二人は誇らしそうなドヤ顔を晒しまくっていたのですが、それを鳳翔さんに慢心だと見咎められてまた落ち込む。

という一幕を妄想していたのですが、ちょっと蛇足感があるので後書きにて供養させてもらいます。
お艦強し、なのです。
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