※誤字を修正しました。(2016.01.17)
鳳翔が主導する大規模艦隊訓練の経過は順調だ。
毎回演習後に反省会を積み重ねているためか、打撃部隊も機動部隊も日に日に一戦に費やす時間が伸びている。
初日など一時間もかからなかったはずが、今では長いと二時間もかかることもある。更には、打撃部隊の砲撃や機動部隊の爆撃が教導艦たちに夾叉しだしてきたこともあって、今では全員訓練の成果を実感してきている程だ。
何せ機動部隊の方は毎回毎回文字通りに必死だったから、その成長具合も良好だった。
もう一週間ほど訓練を積んだら、機動部隊と打撃部隊を合併させた三十人の大艦隊での訓練を開始することは大淀が鳳翔さんの提言を受けて決定している。
三十人の艦隊演習とは、中々壮観な絵面になりそうだ。
その時は龍驤を是非教導部隊に加えて欲しいといった鳳翔さんの要望は、流石に退けさせてもらった。
旧一航戦の龍驤ちゃんである。現在は彼女の操る二百の式神の内七割ほどを本土の諜報に割いているから、確かに全力での航空戦はできないだろう。
しかし、何せ鳳翔さんと同じく旧一航戦の龍驤である。
彼女が全力で艦載機を操作できれば、鳳翔さんの艦載機を一人で三十分は足止めできる。撃墜こそできないが、絶妙な牽制と突撃を複数の艦載機で有機的に行う龍驤ちゃんの戦闘機隊は、鳳翔さんの艦載機に対する唯一のまともな対抗手段なのだ。
それにしたって鳳翔さんの艦載機は落とせないし、逆に徐々にだが龍驤ちゃんの艦載機が落とされるので勝ち目はないものの、鳳翔さんの航空戦力を最大三十分無力化できるほどの艦載機運用能力を誇る龍驤ちゃんだ。
流石に鳳翔さんと組まれたら機動部隊に勝ち目はない。
防空巡洋艦の摩耶を編入させることで勘弁してもらうことにした。
そんなこんなで例の訓練については一応の目処も立ってきたところで、今日は本土防衛関連の改善案を大淀と検討している。
「先日の泊地戦の結果を見るに、ある程度敵が留まっていることが多い幾つかの深海棲艦出現ポイントを、本土からのミサイル狙撃で対処させることができれば、鎮守府の負担も大きく減るかと思います」
「確かにそうだが、出現する深海棲艦をどうやって探知するんだ? 仮に察知できたとして、いつも同じ座標にばかり出現しているわけではない。多少の誤差というか、ズレがある。敵にミサイルの照準を合わせられない以上、座標の修正も難しい本土からの遠隔攻撃では対処しきれないんじゃないか?」
「照準に関しては広範囲へ大量に攻撃することで解決を図れることが前回の泊地戦で判明しました。散布界をわざと広げることでその内当たるようにします。出現タイミングについては確かに難しいですが、逆に言えばある程度決まった周期で発生しているわけですから……そうですね。自衛隊のミサイル護衛艦を頻繁に巡回させて、発見次第全力攻撃させる、と言うのはどうでしょうか。先制さえできれば被害も少ないでしょう」
「悪くはないが、観測は全て人力になるんだろう? まだ不慣れな観測手でそんなに迅速に測量して攻撃できるのか?」
「観測用の目立つブイを浮かべておいて、そのブイの番号次第で出現ポイントの座標をある程度簡単に特定できるようにすればいいかと思います。ミサイル一発を確実に当てる必要はないわけですし、面制圧の指標となればいいだけですから。ブイは使い捨てになりますが」
「……まぁ、俺には良い考えに聞こえるな。ミサイルの供給量は確保できるのか?」
「先日新たに三隻の輸送船が明石さんたちの手により改修されましたので、これで計四隻の輸送船が倍の速さで物資供給できるようになります。つまり、この四隻に関しては輸送量が倍になったとも考えられます。仮に自衛隊が毎週五百発のミサイルを使用したとしても千発ずつ備蓄させることができる供給力があります。他の資源・物資の供給量は増えませんが」
「輸送船の今後の改装計画は?」
「現在着手しているのが二十万トン級のタンカーですね。その後は十万トン級のコンテナ船を二隻、そしてまたタンカー、となっています」
もし護衛艦を頻繁に出撃させるようになればミサイルだけじゃなく護衛艦の燃料も確保しなければならない。
現状だって本土の燃料需要は完全に満たされているわけではない。
ウチで生産した原油モドキで経済は辛うじて回っているが、一般の船舶や漁船、飛行機などは厳しく運行制限することでどうにか燃料を全国で分配しているところだ。
ここに更なる燃料供給なしに護衛艦を動かせと言っても、政府は頷かないだろうし国民も納得しないだろう。俺だって嫌だ。
「よし、現在のタンカー改装は急がせろ。ただでさえ本土は油切れでピリピリしている。次のコンテナ船が一隻終われば先にタンカーを改装して原油の供給量をとにかく増やす。それで国内全体の燃料事情も大分改善されるだろうから、そうすれば国民感情的にも護衛艦の出動は受け入れやすくなるかもしれない」
「そうですね。政府としても、備蓄の少ない油を更に搾り出せ、と言われても困るだけでしょうから、タンカーの改修は急ぐべきかもしれませんね」
何せ原子力発電もできなくなった日本だ。科学技術が進歩するに連れて膨大に膨らんでいった電力需要に応えるための発電施設は、今や火力発電が主役も主役だった。
海から攻めてくる深海棲艦という脅威がいるのだ。全て海辺に設置されている原子力発電が万が一稼働中に破壊されては被害の甚大化に歯止めがかからないと、国内の原発は全て停止したのだ。
どうにも日本の悪癖というか、極端なところがある。徐々に停止していけばいいのに、一挙に停止させたものだから社会の混乱は絶頂を達した。電気が使えなくなったり、昼間はずっと停電していたりと、問題の投げ売りセールだったのだ。
更に酷いことに、足りない電力生産を解決しようと、備蓄もあまりない油をかき集めて火力発電に突っ込んでいたので、今度は交通網が麻痺したりしていた。
当時は阿鼻叫喚もいいところだったが、こうして俺が鎮守府を拓いてからは次第に騒ぎも収束していった。
それ以来本土の国民は油の備蓄量と供給の安定感にやたらと敏感で、煩わしい。
護衛艦を使うために燃料を確保するには、そんな彼らを納得させるか安心させるだけの油の供給量が必要なのだ。
「ミサイル護衛艦の件は改装タンカーが揃ってから打診してみてくれ。案外向こうも乗り気になっているかもしれんからな」
「了解しました」
一礼して出て行く大淀。
ふと考えるが、もしミサイル護衛艦を派遣するなら、汎用化に成功した艤装を装備した自衛隊員も同乗させられれば撃ち漏らしにも対処しやすいかもしれないな。
と言うか、ウチでも検討に値するやり方かもしれない。次に大淀が来た時に相談してみるか。
ミサイル護衛艦といっても、基本的には目視可能距離では行動しないと思うのですが、深海棲艦は人間の目視以外では観測できません。
高いマストの上から双眼鏡を手に水平線の奥の敵艦隊を探せと言われる観測手の皆さんは健気で信頼される人にしか任されない、本来の意味での名誉職なのがこの世界です。
ウチの鎮守府としても、せっかく三十人もの大編隊を組めるようになったわけですから活用したいわけですし、それには今のスケジュールでは不可能なので、仕事を減らそうと画策しているところなのです。