株式会社 鎮守府   作:不可

24 / 39
お読みくださり、ありがとうございます。


24. 研究はある程度成功したらしい

 大規模艦隊訓練を開始して早数ヶ月。

 鎮守府開闢以来二年が経過したことになる。先日はその記念日でもあったので、鎮守府周囲に機雷群を隙間なく散布してから通常勤務も全て停止し、鎮守府に所属する全ての艦娘でお祝い騒ぎだった。

 普段は翌日の訓練や任務に備えてあまりどんちゃん騒ぎをしない我が鎮守府の面々だが、この日ばかりは俺が無礼講を確約したので凄まじい饗宴となった。まさしく狂宴でもあった。

 

 世界に深海棲艦が出現してからは大体二年半くらいの時間が経っている。

 日本を除く各国の状況は良くも悪くも変わっていない。

 資源国や当時の軍事大国がそれぞれの備蓄とささやかな資源を食い潰しつつ、どうにか延命を続けているだけだ。

 幾つかの国が深海棲艦により有効な兵器を開発してはいるものの、往年のように豊富な資金と開発資材が確保できる時代ではない。新兵器の開発は遅々として進まず、どうにか使いやすく量産可能な兵器を騙し騙し生産しているのが各国の限界だ。

 某国では水上バイクにロケットランチャーで特攻まがいの攻撃をさせているところもあるようだ。意外と戦果は挙げているようだったが、損耗率もバカにならないらしい。下手に戦艦や空母を失うよりも消費する資源と人員は遥かに少ないため、そういった小規模艇での戦術が今後は増えそうである。

 

 艦娘にしてもそうなのだが、船体が小さいというのは非常に有利に働く。敵の射撃間隔は通常の軍艦と比べて遥かに短い。装甲を簡単にぶち抜く砲撃を間断なく撃ってくるので、普通の駆逐艦サイズであっても的が大きい分被弾する確率がかなり高くなってしまう。

 水上バイクであれば小回りも効くため、どうしても鈍重になりがちな船よりは多少マシだ、ということだ。

 ただ、ロケットランチャーでは射程が短すぎるため、接近の際にかなりの被害が出てしまうことも否めない。ロケット弾の射程が精々三百メートルなのに対して、深海棲艦は駆逐艦であっても五キロ先であれば一割ほどの命中率を誇る。それをロケット弾の射程まで近づけば、だ。

 

 それでも水上バイクを千組用意したほうが駆逐艦を一隻造るよりは遥かに安上がりで資源の節約にも繋がるのだ。人気が出るのも仕方あるまい。

 

 そんな小規模艇での戦闘の研究は当然日本でも進んでいる。

 前々から提供している艤装の汎用化研究もある程度進み、艦娘でなくとも手に持って弾を撃つくらいはできるようになったらしい。

 何せ引き金すら無いような特殊な装備だ。分解してもどうして炸薬が反応したのかわからなかったようなトンデモ兵器を、よく二年足らずで汎用化できたものだ。

 

 水上歩行に関しては完全な再現はできなかったらしい。かなり短めのスキー板をつけることでどうにか浮力と踏ん張りを両立させることはできたようだが、推進力の確保に難航中のようだ。

 

 何故俺がここまで詳しい研究内容を知っているかというと、どうにも行き詰まってしまった向こうから恐る恐るといった様子で共同研究を持ちかけられたからだ。

 正直な話、随分以前から知っていたし、研究に関してこちらも流石に出撃回数が増えていて嫌気が差していたので、歓迎ムード一色だったが。

 

 ちなみに、タンカーの改修が二隻とも完了したので、石油の供給状況はかなり改善した。スーパーでもレジ袋を有料化という形で復帰させられるようになったのだが、別にアレを削減したからって石油の必要量自体はあんまり変わらない。

 そもそも石油を精製する中で生じる副産物の一部を使っているだけなので、他の部分での消費も抑えなければ極論だが最終的に石油の消費量は変わらないのだ。いや、それだけでも使わないに越したことはないが。

 

 ミサイル護衛艦の活用についてもかなり前向きに検討してくれたらしく、先月からこちらの遠征部隊に付き合わせて実用試験を進めている。

 深海棲艦の予想出現海域に出向き、出現を確認した後に護衛艦によるミサイル攻撃で一帯を面制圧。

 試験開始当初は流石に座標の特定が遅れたり逸れたりしていたため結果は芳しくなかったものの、経験を積んでいくに連れて成功率は上がっていた。

 

 これで水上歩兵の推進力さえ確保できれば撃ち漏らしにも自分たちで対処できるだろうし、そうなればウチの鎮守府がわざわざ遠征して回る必要もなくなる。

 政府と鎮守府との間にある、今の一方的な力関係も多少は解決されるだろう。

 まぁ、資源の輸入元は相変わらずウチだし、その輸入量も増加の一途だ。生半可な防衛力では覆らないだろう。何せその防衛力の源がウチなわけだし。

 

 とにかく、ある程度公開で研究の協力が依頼されたため、通常の物資輸送とは別枠で艤装や戦闘資源をかなりの量提供している。

 おかげで研究の成果も出つつあるのだから、もう一歩といったところだろう。

 今は艤装の推進力に頼らず、小型化したジェットエンジンでも付けられないか真面目に研究しているらしい。

 そんなもの背中に付けて姿勢制御を失敗したら、空を飛んでしまうんじゃないか?

 

 それこそむしろ水上バイクで良いと思うんだが。水上バイクで自分の射程まで侵入し、踏ん張りも効くならクロスカントリーのように走って細々とした回避だの更なる接近だのすれば良いんじゃないか?

 

 まぁその辺は実際に研究しているヤツらに任せよう。

 俺としてはとにかくウチの艦娘たちの仕事量を減らしていきたいというだけの話だ。

 俺は鎮守府という異能以外にはほぼ完全に無能なのでこうやって仕事をサボって釣りに勤しむことができるが、現状他の艦娘たちが仕事をサボると日本が沈む。

 家族のような、というか娘だとか姉妹のように思える艦娘たちを働き詰めにしているのは思っていたより心苦しかったのだ。

 この前の二周年の祝賀会で楽しそうにはしゃぎ回る彼女たちを見てそう思った。

 

 やはりウチの鎮守府にも余裕が必要なのだ。だらけきって緊張感がなくなるのは困るが、毎週全休の日を確保できる程度の余裕は必要だろう。

 

「ほう、こんなところにいたのか。……それは、釣りか? 人間が餌を得るためであったり、娯楽のためにやるという……」

 

 そんな俺に後ろから声がかけられる。

 ここは鎮守府正面の港と言うか波止場で、輸送船が入港する場所だ。今は全艦出払っているし、しばらく帰ってくることはないので閑散としている。

 水深もそれなりに深いので、魚が集まってくる時もあって意外と穴場だったりする。

 

 忙しくはないのも確かだが、自分がサボっているという自覚が何らかの後ろめたさを発しているのか、素直に振り返ることができない。

 ボーッとしていたからか、誰なのか声だけでは判別もできなかった。

 

「ま、まぁそんなところだ。今のところボウズだがな。今日はどうも調子が良くない」

「ボウズ、とは……?」

「ああ、魚が釣れてないってことだよ」

「なるほど」

 

 しかし、誰だ?

 一応鎮守府の艦娘たちとは全員顔合わせもしているはずだが、後ろの彼女が誰かわからない。

 割りと落ち着いた声だから駆逐艦や軽巡ではないと思うが、戦艦組や空母組で思い当たる艦娘が居ない。

 もしかして新造艦か? いやでも、最近は建造許可を出してないから違うか。

 

「それで、何か用なのか?」

「なんだ、用がなくては来てはならないのか?」

「いや、そうじゃないが」

「まぁ用事はある。ここの提督たる貴様と話がしたかったのだ」

「話? それは……」

 

 振り返って少しだけ後悔し、それを大きく上回る驚愕が俺を襲った。

 思わず喉も口内も乾き切り、舌は張り付いて声が引きつる。

 

「戦艦……」

 

 先程まで水に使っていたかのように全身ずぶ濡れで。

 

「何、大した話でもないさ」

 

 シミどころか皺一つ見当たらない完璧なその肌は、むしろ病的な白さで。

 

「かつての我が家について。ちょっと、な」

 

 その身に纏う服や水の滴る髪の黒さ、鋭い眼光に赤く光る迫力がその美貌とあいまって威圧感をこちらに与える。

 

「……棲姫」

 

 深海棲艦の最精鋭。姫級の一人が、鎮守府の波止場で釣りをする俺の後ろに、何故か悠然と立っていた。




唐突に急展開をぶっ込んでいくスタイル。
正直彼女の登場タイミングは投稿初期からかなり迷っていました。
ただ、書きたいシーンを書かないのも単純にストレスだよなーってことで、書いちゃいました。その影響でいきなり話が数カ月後とか言ってますが、仕方ないですね。
ちなみにウチの深海棲艦の姫級や鬼級はあんまりカタカナ使いません。書きにくいんですもの! 読みにくいんですもの!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。