株式会社 鎮守府   作:不可

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お読みくださり、ありがとうございます。

※本日の午前二時五十七分頃に既に投稿しております。それを見てからでないと急展開すぎてあれなので、もし未読のようでしたら是非先にご閲覧いただきますようよろしくお願いします。


25. 戦艦であって戦艦ではない

「すまんな。何せ客を迎え入れたことなんぞ経験がなくて、皆緊張している」

「何、気にすることはない。連絡もなしに訪問したのは私の方だからな」

 

 鎮守府自慢の応接室。その最初の利用客は深海よりの使者、戦艦棲姫であった。

 世界各国を滅亡の危機に追い込んでいる深海棲艦。その首魁の一角をなす指揮官級の中でも上位個体として君臨する姫級である。

 そんな深海棲艦の主力というか重鎮とも言える存在が、何の索敵網にもかかることなく鎮守府に出現し、あまつさえ鎮守府をその異能で以って展開している提督たる俺の背後を取ったのだ。

 これに色めき立たない艦娘たちではなかった。

 

「しかしそちらの艦娘とやらは随分と躾が行き届いている。これがル級やヲ級であればこうはいかんな。人質の安否にかかわりなく総攻撃だっただろう」

「それは困るな。それにあいつらは躾けられているわけじゃねぇ。自分の意志で、自分たちの考えで俺の指示を守ってくれているんだ」

「なるほど。そういうものか」

 

 差し当たって会話を望むという相手の要望通り、戦艦棲姫は俺を攻撃してこなかった。絶好の機会だというのに、俺を害そうとする素振りすら見せなかった。

 ここに話し合いの意志は確かにあるようだと確信した俺は彼女を鎮守府の応接室に案内することにしたのだ。

 当然無線で大淀に客が来たことは迎えたので、仕事をそつなく彼女の手腕もあって応接室での接待に慌ただしいことはなかった。

 

 ただ、そこまでの道々に殺気が満ち満ちた艦娘の花道はあったのだが。

 

「純粋な殺気だけでなく、闘気の迸りも実に心地よい。我々の兵士どもには望むべくもない練度を感じるな。羨ましいことだ」

「お前たち全員がウチの艦娘と同じだけの練度で押し寄せてきたら、流石にキツい。やめてくれ」

「素直なのはいいことだ。それに免じて勘弁してやろう」

 

 睨みつける艦娘たちの視線などどこ吹く風といった調子で、鎮守府の建物までの道を物珍しそうにキョロキョロしたり、鎮守府の内装を物珍しそうにキョロキョロしたりと観光気分な戦艦棲姫だった。

 

 そもそも戦艦棲姫といえど、その戦力は所詮個体レベルでの話だ。確かに戦艦の装甲すら紙屑同然にぶち抜く馬鹿火力、それなのにこちらの戦艦の砲撃は簡単に弾く理不尽な装甲の厚み、そして群れを統率した際の集団戦闘の巧みさ。どれを取っても厄介極まるものには違いない。しかし、それにしたってミサイルの飽和攻撃でどうとならない問題でもなかった。実際、普段遭遇する中では一番性能的に近いだろう戦艦のフラッグシップ級はそれでどうにかなる。

 それが何故こうも恐れられているのかというと、それは偏に姫級が持つ異常なまでの再生力に由来する。

 

 簡単にいえば、姫級は殺しても死なないのだ。流石に下半身が吹っ飛ぶような損傷であれば戦線離脱を図るようだが、腕がもげようと首が取れようと、姫級は冗談のようなその再生力によって即座に傷を回復させて反撃してくる。

 

 過去世界の何カ所かで確認された姫級の発見例。その中でも戦闘を生き残ったごく僅かな報告例では、姫級に勝利するには無限に近い相手の弾薬を全て吐き出させて、抵抗の手段をどうにか奪ってから遠距離での狙撃を繰り返すしかなかった、とある。

 当然粘っている間にも相手は侵攻するし、人類側は被害を拡大させる一方であった。そもそも粘るというのも「戦って時間を稼ぐ」のではなく、相手が「こちらを虱潰しに処理する」から侵攻を遅滞出来るだけであった。つまり、人類が取れた戦法とは、とにかく敵に補給をさせないこと。それだけであった。

 

 そんな化け物という言葉の体現者である姫級の、それも戦艦棲姫は、艦種こそ戦艦ということになっているが、戦艦らしいのは精々動きの鈍さくらいで、後はもう移動要塞と変わらない。

 鎮守府でも何度か戦艦棲姫と遭遇しているものの、その度に被害は甚大になっていた。

 それを思えば、目の前の彼女に対する艦娘たちの敵愾心も無理からぬことだ。だからと言って無闇矢鱈に攻撃をけしかけられても困るが、今のところ俺が話し合いに応じる姿勢を見せているため、辛うじて抑えてもらっているような現状だ。

 

 応接室のソファ。間に品の良いテーブルを挟んで向かい合う形で配置されたその座り心地の良いそれぞれのソファに俺たちは対面して座っている。

 先程榛名が淹れてくれた紅茶を躊躇いもなく口に運んだことからもわかるが、この戦艦棲姫の度胸は大したものだ。いや、こちらから毒を入れるつもりは全く無いし、深海棲艦に毒が効くとも思いはしないが。

 

「それにしても鎮守府というのは凄いな。このソファとやらといい、この紅茶とやらといい、無駄に心地よい。土産に持って帰りたいものだな」

「ほう。ノコノコと敵前までやってきた挙句に、無事に帰れると思っているとはな」

「やめろ、武蔵。……お褒めに預かり恐縮だがね、俺としては本題に入りたいものだ」

「艦娘とやらと遊ぶのも魅力的だが、それもそうか。では早速お話と参ろう」

 

 泰然自若といった様子の戦艦棲姫に苛立ちを隠せないのか、武蔵などは早くも暴発寸前である。

 護衛として鎮守府最大火力を誇る彼女が立ち会いたがったのもまぁ良しとしたが、こんなことならまだ金剛の方が穏やかな空気を保てたかもしれんな。

 

 対談に先立ち、室内で俺の護衛に就くと言って聞かない艦娘たちを人数制限したのは大淀だ。

 下手に人数をまとめてしまって、俺の意図しない方向に皆が暴走してしまったらそれこそコトだ、と言って何とか宥めたらしい。

 そんな彼女は俺のご意見番として、俺が座るソファの若干斜め後ろに立って沈黙を保っている。俺の右手側にな。

 左手側には先程の武蔵が、艤装をフル展開させた状態で控えている。いや、艤装のでかさ故にまるで控えていない。少しは控えろ、大和型二番艦。

 ちなみに相手側のソファの斜め後ろ、相手からすれば右手側、俺から見れば左手側には艤装を展開させず、日本刀を片手に携えた日向が自然体で、反対側には同じく神通が一切の不穏な動きを許さないという決意溢れる表情で控えている。

 特に神通の方は左手で鞘を引きつけており、右手こそ脇に垂らしているものの、いつでも抜刀して斬り掛かれる体勢だ。血の気が多すぎる。

 

 そしてそんな四人の存在などまるで意識していないかのように振る舞う戦艦棲姫。さしもの彼女もこの戦力を前にしては十分な戦闘もままならないとは思うが、それでも崩されることのない余裕は切り札でもあるのか本当に話し合いだけのつもりだからか。

 

「何、難しい話ではない。私は単にかつての我が家に帰りたいだけだ」

「つまり、棲地を取り戻したい、と?」

 

 武蔵から漏れる殺気が一層高まるし、神通もついに右手が刀の柄に伸びた。やめんか馬鹿者。一人自然体の日向は面白そうな顔をしている。

 大淀の表情は見えないが、状況を判断するにも相手の話をより聞く必要があると思っているのは俺と一緒だろう。

 

「そうでもあるが、そうでもない。私は別にここに鎮守府があろうとなかろうとどうでもよいし、どうしても棲地を復活させたいというわけでもない」

「どういうことだ」

「だから、単純にこの生まれ故郷に帰りたいだけだよ。それで何するというわけでもない」

「そもそもお前はここを故郷というが、どういうことだ? お前がこれまでここを攻めてきたことは無かったように思う。しかしお前はここで生まれたというが、いつの話だ?」

「貴様らの数え方でいえばおよそ二年前のことだな。私はここで生まれ、そして大洋を渡り世界中で色々と戦ったよ。私が旅立ってから半月もすると、私にずっと力を与えてくれていたこの棲地からの供給が途絶えたため、当初は困ったものだったがな。しばらくして周りの雑魚どもを喰うことで補給できることがわかると逆に喜ばしく思ったものだ。何せ供給源たる棲地からどれだけ離れても問題なくなったのだからな。おかげで世界中の海は渡れたし、様々な人間どもの足掻きも堪能できた。存外詰まらんものだったがな。アレならまだ兵士どもと戯れていたほうがマシだった」

 

 衝撃の事実というか、なんというか。

 

「驚いたな。深海棲艦の中にも旅行好きなヤツがいるとは」

「提督、そういう問題ではありません」

 

 大淀の迅速なツッコミはちょっと癖になりそうだ。

 

「つまり、一通り世界一周の度は満喫したから、里帰りをして羽を休めたい、ということか?」

「ああ。最初から言っているようにな。我が家も随分と様変わりしたものだが、これはこれで居心地も良さそうだ」

「なんというか、すさまじい度胸だな」

「里帰りに覚悟が必要とは、人間も難儀なものだな」

「そうじゃねぇよ」

 

 当初予想していた通りのような予想外のような、そんな感じの穏やかな話し合いだったが、穏やかでは居られなかったヤツも当然居るようだ。

 

「提督、こんな話を本気で信じているのか?」

「お前は信じられないのか、武蔵?」

「信用できんっ! できるわけがない! 相手は深海棲艦だぞ! それも姫級の!」

「提督。私も武蔵さんに賛成です。彼女から敵意は感じられませんが、だからと言ってそれが信頼に値するともいえません」

「神通。それに武蔵も。それを決めるのは私たちではない。提督だ」

「日向さん! それでは貴女はこの深海棲艦の話を信用するというのですかっ!」

「無論、私とて全面的に信用しているわけではないが、否定するに足る根拠もないのは事実だ。そして相手に積極的な戦闘の意志がない以上、その決定権は我々の指導者であり親でもある提督にあるべきだ。違うか、神通?」

「それは、その通りですが……」

「それで提督が害されることがあったらどうするつもりだ、日向っ!」

「そう熱くなるな、武蔵。それも含めて全ての決定権が提督にはある。私たちはその決定の中で最善を尽くせばいい。そうだろう? それとも、お前が提督に変わって提督のお命も鎮守府の命運も預かるというのか?」

「ぐっ……むっ……!」

 

 どうにも抑えが効かなくなりつつある武蔵と神通だが、ここに来てひどく冷静な日向が二人を抑えてくれた。

 

「まぁ二人とも落ち着け。そう気が立っていては考えも狭窄するばかりだ。大淀はどう思う?」

「鎮守府としての立場から言えば全くもって反対です。受け入れるリスクが高すぎます。しかし、私個人の意見で言えば、彼女の話に矛盾は感じませんし、それに深海棲艦に対する理解を深めるという意味では絶好の機会です。どちらの判断であっても、損するだけ、とはならないかと」

 

「話し合いは済んだか? であれば結論を聞かせてもらいたいものだな」

「その前にいくつか確認しておきたい」

「何なりと答えよう」

「お前に鎮守府を攻撃する意志はあるのか?」

「無い。そもそも貴様は我が家を奪った盗人でもあるが、私を棲地から解き放った救世主でもある。比率で言えば貴様に対する感謝の念のほうが大きいからな。理由もなく害そうとは思わん」

「そうか。では、里帰りを果たしたとしてどうする? またどこかへ旅立つのか?」

「今のところそのつもりはないな。しばらくは単に羽を休めるつもりだ。……ああ、叶うことならエネルギーの補給をしたいな。適当にその辺の雑魚を貪ってもいいのだが、あいつらは味気なさすぎる。久々の故郷の味というのも堪能したい」

「うむ。ではあえて聞くが、お前に人類、あるいは陸地への侵略の意志はあるのか?」

 

 これまでも張り詰めていた護衛たちの雰囲気が更に硬くなった気もする。

 

「……無くはない。そもそも我々深海棲艦は人類を駆除するために発生した存在だからな。貴様ら風に言うなら、アイデンティティの根幹をなす欲望とも言える。だが私はあの時、棲地という縛鎖から解き放たれたからか、そういった意志がひどく薄れた。向こうから攻めてくるなら気分よく殲滅してやるが、そうでないならわざわざ殺そうとも思わん」

 

 どうしてか、酷く重要な情報を聞いた気がする。

 これは大淀の言うように、深海棲艦の謎を解く絶好の機会なのだろう。

 しかし、だからと言って艦娘たちの心情を丸無視するのも問題だろう。俺の決定には従ってくれるだろうが、後々妙な軋轢を生みかねない。

 

「質問は終わりか? まぁ他に何か聞きたいことがあればいつでも聞くがよい。……それでは、貴様の結論を聞かせてもらおうか」

 

 さて、どうしたものか。




戦艦棲姫ちゃんはもうちょっとお姉さんっぽい喋り方をしているようですが、ウチの戦艦棲姫は発生から二年も経って健在のベテランさんなので、ちょっと威厳があるというか偉そうな喋り方を心がけています。
まぁ、あくまで作者のイメージなので、もし読んでくださっている方のイメージと異なっていてご不快でしたら申し訳ありません。

ちなみに世界中で姫級の出現率はかなり低いのですが、出現した場合は必ず陸地の深くまで切り込まれています。
陸上では深海棲艦もほとんど補給できないので、燃料弾薬が尽きたところを総攻撃でどうにか退治しているわけですね。
肉片一つからでも再生したという報告もあるため、研究対象として確保するわけにもいかなかったからか、その正確な性能や生態はまだわかっていません。その所為で津波みたいな扱いです。
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