※適当設定のタグに恥じぬ適当設定説明回です。
「何故人間を殺したいのかと聞かれてもな。貴様らは、どうして時間は進むのか疑問に思ったことがあるのか? またあったとして、どういう理由があって時間が進むのか説明できるか?」
戦艦棲姫を歓迎した翌日。
適当な部屋を見繕って彼女をそこに泊まらせたが、彼女は睡眠というものを必要としなかったらしく、ベッドというそれ専用の道具を酷く不思議がっていた。
それはともかく、他の艦娘たちもとりあえず強引ながら通常任務に戻したので、大淀と明石を伴って戦艦棲姫に色々聞いてみることにした。
今回の護衛は球磨と多摩の二人だけだ。倒せないまでも、何もさせないことは十分可能な二人である。どうしてもと迫る神通たち警戒派に切願されて受け入れた護衛だ。二人とも眠そうな顔をしているが。
「それくらい本能的な衝動ということですか?」
「本能といっていいかは知らんが、似たようなものだな。特に疑問もなく、むしろ快感すら覚えるものだった」
「今ではもうその衝動は無いと?」
「全く無いわけでもないが、そうだな。貴様らはどうか知らんが、人間は蚊を嫌うらしい。近場にいれば殺したくなるし、血を吸われれば確実に殺す。遠く離れた蚊の群れにだって、絶滅すればいいのにと思うのだろう? それに近い感覚だな、今の私は」
大淀と明石が代わる代わる質問し、その返答を大淀が記録している。
「では、提督に対しては? 提督は人間ですが、そのような殺意を抱くのですか?」
「ふむ。幾つか誤解があるがな。私は人間を本当に蚊と同じように見ているわけではない。いや、どちらも似たようなものだという意識はあるが。それに自分に害を与えないとわかりきっている虫をわざわざ殺すほど私も酔狂ではない」
「それは艦娘に対しても?」
「そもそも艦娘なる存在に対しては何の感慨も抱かん。ただ邪魔だから排除するだけで、我々の目的はあくまで人間の駆除なのだ」
「この鎮守府を集中的に襲撃しているのは何故でしょうか」
「別に襲撃しているわけではない。私と同じように、補給のため棲地に立ち寄ろうとしているだけだろう。その進路上に艦娘どもがいるから衝突しているだけだな」
「では深海棲艦は、相手をしなければ艦娘に手を出してこないと考えられますか?」
「それはない。我々は己の目的を妨げかねない脅威には敏感だ。貴様らの存在は看過しえぬ。その点に関しては私も戦意の高まりを禁じ得ぬな」
割りとドライな殺戮マシーンだったようだ。
しかし、人類を駆除する本能か。棲地から解放された戦艦棲姫にはそこまで強い意志はもうないようだが、それは棲地に由来する感情というか指令だったのだろうか。
いや、人類が確認してきた中での話だが、棲地の出現は深海棲艦自体が出現して暫く経ってからの話だ。辻褄が合わない。
「棲地から解放されて人類を駆除する意志が薄れたと言ったな。つまり、棲地は指令塔のようなもので、お前たちはそれに従う兵隊ということか?」
「少し違う。棲地はあくまで我々の家、拠点だった。その拠点は世界の深海を巡るエネルギー総体が凝固してできるものだ。そして我ら深海棲艦も、そのエネルギー総体から派生して受肉する存在であり、人類を駆除せよという欲求はそのエネルギー総体から植え付けられるものだ。棲地はそのエネルギー総体との中継器に過ぎない」
「なっ……」
「これは、ちょっと話のスケールが大きすぎますね……」
大淀と明石も絶句の様子だ。明石のほうが若干余裕があるか。球磨と多摩は相変わらずうつらうつらしている。いや、多摩のほうは完全に寝てるな。働け護衛。あ、いや、お前らが働くような事態は御免ですすみません休んでてください。
「そのエネルギー総体ってのは何だ?」
「そのままの意味だ。地球に存在するあらゆるエネルギーの集合体というか帳尻を合わせたものというか……悪いが、エネルギー総体という他にアレを説明する言葉を私は持たん。ただ、貴様ならそれに触れられるとは思うがな。この棲地を調伏してそのエネルギーを思う様に扱っている貴様なら、な」
それはつまり、俺が言うところの「深海棲艦が直接扱える資源」というヤツか。なるほど、確かにあの莫大な資源の供給源ともなればエネルギー総体としか言いようが無い。少なくとも俺の頭ではそうとしか理解できない。それほど圧倒的なエネルギーの奔流だ。
大元を辿っていったことはなかったが、下手に遡ると俺の意識が丸ごと飲み込まれそうな危険は感じていた。恐ろしい話だ。
それはいいとして。
「結局お前たち深海棲艦が人類を襲うことは止められるのか?」
「不可能だ。エネルギー総体の意志は人類を抹殺することであり、それによってエネルギーの回収をすることだ」
「回収? 人間を殺すとエネルギーが回収されるということか? どうやって?」
「空き缶を拾うような物理的な話ではない。これまでの長い年月を経て様々なエネルギーを消費してきた人類の魂には、高純度かつ莫大なエネルギーの蓄積というか経験が込められているのだ。エネルギー総体の尖兵である深海棲艦が人間を殺すことによって、その良質なエネルギーを深海を巡るエネルギー総体に還元できる」
何だそれは。話が唐突過ぎて理解が追いつかんぞ。ちょっと待って。
「それは……人間でなくてはならないのですか……?」
「無論だ。人間はかつてエネルギー総体がこの地球上にバラ撒いた家畜どもの一種。しかもその中で最も見事に肥え太った品種でもある。数も十分に揃ったことだし、エネルギー総体としても狩り時となったわけだ」
またまた謎の新事実だよ。何だそれ。そんな話聞いてどうしろってんだよ。
いや、まぁ別に俺としても世界を救おうとかそんなことまでは思ってないんだが。だかって家畜扱いされるのもなぁ。
「エネルギーの回収と言いましたけど、人間のエネルギーを回収してもそれを生み出すためのエネルギーは消費されているわけですし、それでは結局量は変わらないんじゃないですか?」
「む? ああ、なるほど。ここでいうエネルギーというのは人間たちの知るエネルギーとは別物だ。より高次元というか低次元というかは任せるが、とにかく総量が一定ということはないし、勝手に増え続ける類のものだ」
「ど、どういうことです……? ちょっと意味がわからないです」
明石よ、気にするな。俺にもさっぱり分からん。
「なんと説明したものか。うむ、そうだな。人間は雄と雌が番うことで子をなす。その肉体は貴様らの言うエネルギー保存則だとかいう、とにかく物理的な制約を受けている。卵子と精子が必ず必要だし、母体からの補給がなくば生育しない」
「ええ、その通りです」
「だが、子に宿る魂に関してはそのような束縛を受けない。二体の親から一体でも二体でも、条件さえ良ければ何十体でも魂は量産される。そしてこの魂の創出は、魂の総数だとか総量だとかいう制限を一切受けず、無限に増やすことができる。そしてエネルギー総体の狙いはこの魂にあるため、包装紙たる肉体を我々深海棲艦に破かせているのだ」
言わんとすることはわかる気もしないでもない。
人間の魂は世代を重ねるごとに値段が上がっていって、しかも放っておくと勝手に増える。
百円の牛が百五十円の子牛を産む。親が二匹で二百円、子牛が一匹なら百五十円だし、二匹なら三百円になる。十匹産めば千五百円だ。親のみの二百円を売り払うより、子牛も含めて売ったほうが利益はより高くなる。
こんな感じか? いや、なんで牛が一匹百円なのかは気にしないでおこう。俺の頭がおかしいわけじゃない。この話自体が頭おかしいんだ。
「我々がその役目を与えられた当初、エネルギー総体は人類のエネルギーを全て回収するつもりだった。しかし現在、しぶとく抗う人類とこれまでに回収できたおよそ十億体分のエネルギーを見比べたのか、どうにも考えを改めたようだ」
「どうしてお前が現在の総体の意志を知っているんだ? 棲地を中継した接続は切れているんだろ?」
「棲地との繋がりは失ったが、私も活動するために雑魚どもを喰ってはいたからな。ヤツらの与えられていたエネルギー総体の指令も読み取ることができたというわけだ」
「なるほど。それで、総体の考えが変わったっていうのは?」
「人類を抹殺するのではなく、細く長く搾り取ろうと言う考えだよ。人間どもが牛や豚にやっていることと大して変わらん」
今までは基本放置の放牧だったのを、管理していこうということか?
とんだ話だ。勘弁して欲しい。
「その点において貴様はエネルギー総体から随分と気に入られているようだぞ」
「俺が? どうしてだ。俺はむしろ総体のエネルギーを拝借している寄生虫みたいなものだろう」
「貴様が棲地を利用していることは関係ない。元々はより大規模な消費をしてアジア方面の人間を殺し尽くす予定だったからな。それに比べれば雀の涙だ。エネルギー総体が好ましく思っているのはそこではなく、貴様が棲地の機能を利用して人間を支配している点だ。回収できるエネルギー量が穏やかながら増えて喜んでいるぞ」
「随分人間臭い感情を持っているんだな、そのエネルギー総体とやらは。それに俺は別に本土の人間を支配しているわけじゃねぇ。支援してんだよ」
「ああ、いや。貴様にわかりやすいように言っているだけで、そこまでの感情は持っていないさ。私の印象だ」
「それにしたって、確かに俺は本土に物資を供給して日本人を支えているかもしれないが、それで増えた人命なんてまだたかが知れているだろう。それにそもそも日本は被害が少なかった国だし」
確かにウチの鎮守府が本土防衛に協力することで死ぬ人間はかなり抑えられているし、その浮いた人間が新しい魂を生むことはあっただろうが、所詮まだ二年ほどだ。
これまでに深海棲艦が殺したという十億人もの魂に比べれば、それこそ雀の涙だろう。その程度でそのエネルギー総体とやらが喜ぶとは思えない。
「なんだ、気付いてなかったのか? いや、それも仕方ないか。エネルギー総体についても知らなかったのだからな」
「何の話だ?」
「いや、貴様はこの鎮守府の機能とやらで棲地を通じてエネルギー総体から物資を生み出しているのだろう?」
「……そうだ」
「それを本土の人間に送り、食わせている」
「……その通りだ」
「それは当然、エネルギー総体の影響を人間どもの魂に与えているのだ。うっすらとだが、確実に」
「……それで、頃合いを見計らって日本人を一網打尽にするのか?」
まさか、良かれと思って差し渡していた食糧にそんなトラップがあったとは。
これは詰んだかもわからんね。
「そうではない。そもそもそんなことは不可能だ。元々はエネルギー総体の家畜とはいえ、進化の過程で随分と変質してしまったからな。今更エネルギー総体の命令は受け付けないし、それは食糧を通じて魂に影響を受けても変わらん。それに絶滅させてしまっては非効率だ」
「それは良かった。安心できるニュースだな。……で。じゃあどういう効果があるんだ、その魂への影響ってのは」
「単純な話だ。我々が直接手を下すよりは若干効率が下がるのだが、我々が手を掛けなくとも勝手に死ぬだけでエネルギーを回収できるようになる。手間も減るし、回収できる数も増える。エネルギー総体にとっては歓迎すべき事態だろう?」
なんてことだ。いや、案外良いことなのか? だってこれなら向こうはわざわざこっちを殺さなくて済むわけで、放置しても構わないってことだろう。
「……じゃあ、今日本を攻めてきている深海棲艦の手を引かせることはできるのか? わざわざ深海棲艦が手を出す必要はなくなったのだろう?」
「私にはわからんな。いかに手間がかからないとは言え、元々我ら深海棲艦はほぼノーコストで運用されている。発生させる時にいくらエネルギーを費やそうが、死ねばまた深海を巡るエネルギー総体に還るだけだからな。それに、やはり深海棲艦が直接殺したほうがエネルギーの回収率は高いのだ。どうせかかるコストが変わらんのなら、別に殺して回っても構わないと思わないか?」
「俺たちが一々邪魔をしているのを考慮しても、侵攻を選ぶのか?」
「現状そのものをエネルギー総体は歓迎している。これ以上の変化は必要ないと判断されれば、攻勢が緩むことも増すこともなかろう」
色々と衝撃の事実ばかりを知らされた気もするが、つまるところは現状維持というだけか。
「だったら俺は人間としてこれからも深海棲艦と戦うだけだな。つまり何も変わらん。お前も手伝ってくれるんだろう?」
「そういう約束だからな。……しかし、どうやら貴様はまだ誤解をしているようだ」
「誤解? 何のことだ?」
戦艦棲姫という戦力を使えるようになる利益は計り知れないものの、今日知った事実を含めて本土どころか、外部の人間には一切公言できないな。
俺にというか鎮守府を経由してエネルギー総体に頼るしか無いとはいえ、元はエネルギー総体による大虐殺だ。マッチポンプもいいところじゃねぇか。ひでぇ詐欺だ。
「貴様は人間などではないということだ。エネルギー総体から直接エネルギーを受けて利用できる。存在としてはむしろ我々深海棲艦に近いな」
全くもって口外できない話だった。
ああ、「深海棲艦しか直接扱えない資源」って、確かにそうだよな。俺は鎮守府という異能を経由してるとはいえ、確かにその資源を直接扱っているとも言えるのか……。なんてこった。
安定の説明回。しかも座談会形式なので会話文が多いです。
日頃モゾモゾ捏ね回していた妄想を形にできたので、作者的には絶頂ものの回でした。首吊りモノともいえますが。
ちなみに提督が人外になったのは鎮守府を拓いてからで、それまでは一応普通の人間でした。
普通の人間は深海棲艦の棲地になった南鳥島に単身乗り込んだりはしませんが。
戦艦棲姫ちゃんが人間の事情とかも知ってたりするのは、過去にイロイロ食べてるからです。
食べたものの知識や経験を何となく吸収できる戦艦棲姫ちゃんマジエロい。