サービス回です。
※誤字を修正しました。(2016.01.19)
俺自身が人外になっていたと聞いて流石に冷静では居られなかったのも今は昔。つい二日前だが。
多少悩ましい思いで自室に塞ぎこんでしまったものの、よく話を聞けば俺が人間で無くなったのも鎮守府を拓いて以来というし、今まで大過なく過ごしてきたわけだし、そう気にすることでもないかとあっさり吹っ切ることができた。
戦艦棲姫は鎮守府に馴染んだようだ。
彼女の補給に関しても、艦娘用に変性させた資源でも大丈夫だったので、エネルギー総体とやらの変な影響もほとんどない状態で済ませることができた。
そして最初の約束通り、鎮守府では艤装を展開していないし艦娘が突っかかっていっても悠然とそれを見つめるだけで暴力を振るってもいない。
また艦娘たちの鎮守府防衛にも二日とも出撃してくれたらしい。
その戦闘がまた圧倒的過ぎたらしく、一緒に出撃した艦娘たちは落ち込んだり訓練に更に励んだりと様々な反応を示したようだ。
大淀と明石も、戦艦棲姫にもっと詳しい話を聞いて深海棲艦の生態をある程度明らかにしたらしいが、それが今後の戦闘に役立つかは微妙とのことだった。
基本的にエネルギー生命体とも言うべき深海棲艦には毒のような搦手は効かない。
物理攻撃にしても、生物を基準とした致命傷程度ではどこを狙ってもやはり効果は薄いらしい。
通常兵器であれば深海棲艦の装甲を全て吹き飛ばすだけの熱量や衝撃が必須なのは変わりない。
結局は今やっている攻撃方法を継続させるしかないというわけだ。
「さて、とりあえず風呂でも入るかな。部屋にシャワーは付いてても風呂がないんだよなぁ、この部屋。まぁシャワーがあるだけでも上等か」
通常任務に移っているというのに、見送りや出迎えもせずに二日も過ごしてしまった。
気分をさっぱり入れ替えるためにも、一度風呂にゆっくり浸かってからまた仕事に励もう。励むほどの仕事はないが。
私室を出て一路風呂場を目指す。
鎮守府は大きな施設群だが、提督である俺は執務室や司令部、購買部に食堂を有する本棟で起居している。
そしてここ本棟では、入居施設とは別に入浴施設も併設されているのだ。
普段艦娘たちは帰島後に艤装を修理に出した後、戦塵を落とすためにもドック備え付けの大浴場で入浴する。
それとは別に、秘書艦などの内勤で一日を終えた者がわざわざドックまで赴かなくてもいいように、且つ俺が気軽に楽しめるようにと本棟にもちょっと豪華な小浴場を作ったのだ。
男女別にしても良かったのだが、そもそも利用するのが俺か内勤の艦娘くらいという極少数だったため、入り口に誰が入浴中か示すホワイトボードを掛けておくだけにしていた。
俺も毎日風呂に入るわけじゃなくシャワーで済ませることも多いし、もったいないからな。
私室からの道すがら何人か艦娘とすれ違う。その度にやっと部屋から出てきた引きこもりを歓迎する母親のような歓声を上げられるが、手短に挨拶だけしてとにかく風呂に急ぐ。
たしかに引きこもっていたが、そこまで大げさにしなくてもいいだろうに。まったく、恥ずかしい。
風呂の入口のホワイトボードには誰の名前も書いていなかった。
とりあえず「提督入浴中」と書いておいて、脱衣場に入る前に中の気配を探る。俺に他人の気を感じるような技術は無いが、せめて話し声とか物音がしてないかを確かめる。
以前、何も書かれていないホワイトボードを全面的に信用して入ったところ、脱衣場で着替えていた艦娘と遭遇すること二回のベテランである俺に隙は無かった。いや、あれは眼福でしたな。
幸い、特に物音もしないので慎重に脱衣場に入る。うむ。誰もいないな。
脱衣場で服を脱ぐ前に、風呂場内部の様子をまたも耳で探る。
これまた以前に、脱衣場までは確認して風呂場に突入したものの、静かに入浴していたり身体を洗っていた艦娘と出くわすこと三回の俺に隙は無かった。いや、あれは眼福でしたな。
精々掛け流しっぽい意匠のこの小浴場には、お湯が流れている音はしているものの誰かがいそうな気配はない。
そーっと扉を開けて中を覗いてみるものの、やはり誰も居ないようだ。いつものごとく、四、五人は同時にいけるだろう洗い場と、一度に十人は厳しいかと思えるくらいには広々とした浴槽が見えるだけだ。浴槽と言っても、妖精さん謹製のこの風呂は「温泉!」というイメージそのものなゴツゴツした岩で囲われたものなので、何となく違和感はあるが。
そんな温泉情緒たっぷりの風呂には、中々熱そうなお湯がこれもたっぷりと湛えられていて、そこに風呂場奥の方で鎮座する四十六センチ三連装砲をモチーフとした給湯口から止めどなくお湯が注がれている。
いつ見てもあの大口径三連装砲は場違いの極みだな。
まぁとにかくこれで安全は確保されたので、俺は素早く服を脱ぎ、風呂へと特攻を仕掛けるのだった。当然脱いだ服は脱衣カゴにきちんと入れてあるし、着替えも持参している。これまでに何度も替えの下着すら持ってくるのを忘れた経験のある俺に隙は無い。
まずは簡単に全身を洗って、そして湯船に浸かるのだ。他の艦娘も使うことはあるのだから、最低限その程度のマナーは守るべきだろう。
ぱぱっと頭も身体も洗い終わったところで、念願の全身浴である。
何十度あるのかは知らんが、中々熱めのお湯に足から入っていくこの感覚は正直たまらん。
湯に浸かった部分からビリビリ来るような熱を感じ、それに耐えること数秒でじんわりと熱が骨身にしみてくる。
下半身、上半身と進めて肩まで浸かれば、その緩やかだが強烈な湯熱に、思わず声が漏れてしまう。
「お゛あ゛ぁ゛ぁ゛……」
いかん、ちょっと声が汚かったかもしれん。
まぁ聞くヤツが居るでもない。構わんか。
そういえば以前駆逐艦の綾波が言っていたが、この風呂の湯はドックの大浴場と比べてかなり熱めらしい。
やはり大浴場ともなると三十人は一度に入れる大きさの風呂なので、どうしても湯の温度が下がりやすいようだ。
熱いのが苦手な娘もいるらしいし、何より疲れを癒やすために長湯するにはぬる目のほうが良いとのことで大浴場はそうなっていると明石が言っていた。
綾波としては皆と入る長風呂もいいが、こちらの身に染みる熱風呂も好きなようで、時間があればここに来ている。湯上がりの綾波は色っぽくもあるけど、緩みきった顔が幸せそうすぎてそんな気にはなれないくらい可愛いだけだった。
暫く自分のことや深海棲艦についてつらつらと考えながら湯に浸かっていたからか、のぼせそうだ。決して湯上がり姿の綾波を思い浮かべたからではない。
ガラッと風呂場の扉が開いた。
「ちょっ!」
「……む、なんだ、貴様か。部屋から出てきたのだな」
思いもよらない事態に驚く俺とは打って変わって、全くもって冷静そのものの戦艦棲姫がそこにいた。全裸で。流石に詳細は描写できませんね。ただ、白くて大きくて凄いです。
ええー。
「な、なんでお前入ってきてんだよ! 入り口に提督入浴中って書いてあったろ!」
「ああ、見たぞ。だからどうしたというのだ」
しまった。先日話している時にこいつが人間の事情にやたら精通しているというか理解している様子だったから油断したが、元々こいつは深海棲艦。
こういった人間の男女間の機微に関しては疎いというか興味が無いのだろう。
なんと役得、いや眼福、いや、迂闊だったことか。
「……戦艦棲姫。人間というのは基本的に男女で同じ風呂には入らないんだ。だから俺が入っている時は艦娘たちは入らないし、艦娘が入ってたら俺も入らない。これにはお前も倣って欲しい」
「そうか。しかし私も貴様も人間ではないぞ」
「いや、だから」
「喚くな。貴様の言い分はわかったが、私は今風呂に入りたいのだ。くだらん茶々を入れるな」
俺の知らぬ間に戦艦棲姫は風呂というものがいたくお気に召したようだ。
だからと言って割りと本気な感じで睨むのはやめてください。かなり怖いです。いや、きれいです。
「そもそもその、雄と雌で湯を別つとは何の意図があってのことだ。好きなように入れば良いではないか」
「……随分と気に入ったようだな」
「うむ。深海より生まれた私は冷たい水しか知らんからな。熱い湯がこの肉に齎す快楽というものがこれほどとは知らなんだ」
「快楽て。ん? 深海って言うなら、海底火山とかはどうなのだ? あれは熱いだろう?」
「深海棲艦は潜水艦でもない限り海に潜れん。深海で発生する存在ではあるが、その目的は人類の駆除だ。海中には人間はいないからな。我らに海中で活動する機能は不要とも言えるからな。海面の温度で言えば赤道直下であっても所詮はぬるま湯にすぎん」
言ってる間にも戦艦棲姫は慣れた手つきで身体を洗い始めている。まだここに来て二日だというのに、なんでこんなに熟練しているんだ。
そしてそんな戦艦棲姫の洗体シーンに目が離せない。うおぉ、そんな動きが、まさか、そんな……。
戦艦棲姫の入念な洗体はやがて洗髪へ至る。す、凄い……あんな振動が、なんという……。
お、思わず見入ってしまった。いや、流石に仕方なかろう。不可抗力だ。
「む、そうか。人間は雄と雌が裸で向き合うと番うのであったな。なんだ。貴様も私と番ってみるか? 深海棲艦と深海棲艦に近いモノ。何が生まれるか楽しみではないか」
「い、いやいや。俺はまだ人間であるつもりだからな。そして紳士でもある。みだりに女性に手を出さないと心に決めているのだ」
「そうか。何と言ったかな、確かそう……童貞を卒業したくばいつでも申すがよい」
「ぶっ! だ、誰にそんな言葉を吹きこまれたっ!」
「秋雲といったかな、ヤツは。貴様が聞けば悦ぶと言っておったぞ」
そりゃあ嬉しいですけどね!
まったく、とんだドッキリだ。
髪も洗い終わったようで、戦艦棲姫が洗い場を立って湯船に入ってくる。ああ、またそんな無防備な……。
わざわざ俺の隣に腰掛けた戦艦棲姫から悩ましい声が上がる。うん、熱い湯に浸かるのは気持ちいい。確かに気持ちいいけど、その声はやめて。
あと本当そうなっちゃうのはわかるけど、男とか以前に他人がいるところでそんな気持ちよさ気な顔するのホントやめて。立てなくなるから。ある意味直立不動だけど。
「ふぅ……。久々に帰って家主が変わっていた我が家だが、こうまで快適なものになっているとは嬉しい誤算であった」
「……喜んでいただけているようで何よりだ」
その後は特に何もなく、戦艦棲姫と二人でじっくりと風呂の熱を楽しんだ。
さっぱりできたようなできなかったような。
ちなみに、お気づきの方はまだいらっしゃらないと思いますが、作者が深海棲艦で一番好きなのが戦艦棲姫ちゃんです。(唐突な告白) ほっぽちゃんでもコーワン姉ちゃんでも飛行場姫でもありません。彼女たちも好きですが。
ある程度書きたい設定を書き終えたので、これからは書きたいシーンを中心に書いていけたらなぁと思います。
ところどころまた説明口調がぶっこまれてしまうのは仕様です。ご容赦ください。