株式会社 鎮守府   作:不可

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30. お疲れの球磨姉ちゃん

 鎮守府の本棟は基本的に俺が使う施設が詰まっているが、他の艦娘たちのための施設も併設されている。

 食堂をはじめ即応部隊の待機室といった重要な部屋もあるが、艦娘たちが余暇を過ごす娯楽部屋というのも本棟に置いている。

 本来駆逐艦級なら駆逐寮、軽巡洋艦級なら軽巡寮といったふうに艦種ごとの寮が建っているのだが、それはあくまで寝るための棟でしかなく、寝室以外にはトイレくらいしかない。

 

 艦種ごとに交流するのは結構なことである。

 しかし実際の出撃ではその艦種のみで編成されることはないという事情を鑑みて、そういった艦種の垣根を越えた交流ができることを期待しての配置である。

 無論、だからと言って同じ艦種の娘とは絶対交流するなというわけでもないので、結局近しい者同士で遊んでいることが多いのだが、それはまぁそれで構わない。

 大事なのはそういう場があることだからだ。

 

 そんな交流室というか娯楽部屋はいくつかあるが、いつものごとく暇を持て余している俺はその内の一つに何となく赴いていた。

 たまには俺自身からこういう場に出ないと、自分から執務室に来ないような艦娘とは話さずじまいになってしまうからな。それではいかにも寂しい。

 せめて顔を見せ合うくらいはしておきたいと思うのだ。実際に話すまではいかずとも。

 

 そんな考えを巡らせながら部屋の扉をくぐると、中にはほんの数人の艦娘が屯っているだけだった。

 他の娘たちは別の部屋か外か、あるいは訓練にでも出ているのだろう。

 

 部屋の中にいるのは五人ほどの駆逐艦、それと二人の軽巡洋艦のようだ。

 駆逐艦の一人は部屋の奥の隅っこで静かに本を読んでいる様子の時雨、その近くの壁際の机で何やらガリガリと絵を書いている様子なのは秋雲か。他の五人は全員部屋の真ん中に置かれている大きな丸ごたつに群れてきゃいきゃい言っているようだ。

 こたつに集まっている艦娘たちはどうやらカードで遊んでいるようで、机の真ん中に重ねられていくカードを見ては一喜一憂というか、随分と楽しそうだ。

 

 いや、一人というか二人ほどはあまり盤面に興味が無いようで、ただそこのこたつに入っているだけだな。

 軽巡の球磨とその妹の多摩だ。

 球磨が何やらぐったりした様子でこたつの天板にへばりつき、そのもっちりしてそうなほっぺたをべったり張り付かせている。

 その横では多摩が、自分の姉にベッタリ張り付いていて嬉しそうにしている。

 どうやら球磨はお疲れの様子である。

 

「あ、提督さん。いらっしゃい、夕立たちに何かご用?」

「いや、ふらっと立ち寄っただけだ。暇だからな」

「じゃあ提督もご一緒しますか? 七並べ」

 

 部屋に入ってきた俺に気付いた夕立が声をかけてくる。それに合わせて、まさに今渋い顔で眉根を寄せていた綾波が俺を誘ってくれる。

 どうやら七並べをしていたらしい。盤面はおよそ最終局面を迎えていて、スペードとダイヤは全部揃っているようだが、ハートの四と八、クラブの十を止めているヤツがいるようだ。

 まぁ、皆の手札を見ても、もうそろそろ終わるだろう。

 

「そうだな。じゃあ次から混ぜてもらおうかな」

「つ、次も七並べ、しますか?」

 

 潮がちょっと噛みながら聞いてきた。彼女はどうも男だからか提督だからか俺を前にすると緊張するらしい。別に嫌われてるとか不快だからってわけじゃないのは確からしく、申し訳無さそうに相談されたことがある。

 まぁ緊張してしまうだけなら別にいいだろう。害があるわけでもないし、作戦時はきちんと働く良い娘だし。

 

「いや、何でも良いぞ。お前たちの好きなゲームにしてくれ」

「花札にしましょうか!」

「貴女以外にルール知らないでしょ」

「そうだな。スマンが俺もよく知らんからなぁ。重巡の連中が空母たち相手によくやっているのは知ってるが」

 

 綾波がいい笑顔で花札を提案してくるが、俺にはさっぱり遊び方がわからない。

 この機会に習っても良いのだが、叢雲が言うように他に知ってる娘が少ないなら別の機会でもいいんじゃなかろうか。

 ちなみに重巡連中と空母連中の遊びで、昔麻雀に誘われたことがあるが、良いようにカモられて以降あいつらと勝負事はしないようにしている。

 

「まぁ普通に七並べでも大富豪でもババ抜きでも、その辺で良いだろう。なぁ、ちょっと意地悪な初霜さん?」

「て、提督……、な、なんのことですかっ?

「いやいや、遊びとはいえこれも勝負。勝てる手札を最大限有効に使うのは当然のことだぞ」

「あ、もしかして初霜ちゃんがさっきからハートを止めてるっぽい?」

「初霜っ、貴女ねっ!」

「も、もーっ。なんでバラしちゃうんですかぁ、提督っ」

 

 さっきから随分愉しそうな笑みを口元に浮かべていましたからねぇ、初霜さん。

 なんにせよ、ここまでくれば発覚するのはすぐだったろう。初霜の手札は残り三枚だ。

 

「まぁ、それはともかく。……随分とお疲れの様子だな、球磨」

 

 こうしてキャイキャイ騒ぐ駆逐艦たちに一切反応を見せず、ずっと机に突っ伏している球磨。

 果てさて。あの元気な球磨姉ちゃんが一体どうしたことだろうか?

 

「……球磨はあの訓練狂いの所為でお疲れにゃ」

「う゛ー……もうはたらきたくないクマー」

 

 どうやら神通さんの訓練に付き合わされまくった所為で疲労が抜けていないらしい。

 球磨は元々資源輸送の護衛任務で旗艦に就くことが多いため、一度の出撃で割りと気を遣っている。

 その球磨の休養はかなり重要なもので、俺は秘書艦との相談の上で遠征から帰島した部隊に、特にその旗艦の艦娘にはしっかりと休養を取るように命令している。

 これは自由時間などという緩いものではなく、疲労抜きという歴然たる任務だ。

 那智などなら「休養もまた戦いだ」と言うのだろうが、俺も全く同感である。

 艦娘の疲労というのが冗談ではなく戦闘能力に影響し、最悪轟沈に繋がりかねない重要な要素である以上、俺はそこに一切の妥協を許さない。

 

 確かに艦娘は美味い飯を食えば戦意は昂揚するが、だからと言ってその肉体に刻まれた疲労が一瞬で癒えるわけではない。

 流石にこれは神通に注意をせねばならないだろう。取り返しがつかなくなる前に。

 

「……神通の悔しさもわからなくはないクマ。球磨だって戦艦棲姫を前にした時はちょっと怖気づいたクマ」

「神通は勘違いしてるにゃ」

「勘違い?」

「鎮守府ができたばっかりの頃ならともかく、球磨たちは一度だって単独で出撃したことはないクマ」

「深海棲艦との戦いは常にチームプレイにゃ。神通一人が強くっても意味ないにゃ」

「そもそも軽巡が戦艦棲姫の装甲を全部ぶち抜くなんて非効率クマ。軽巡らしく豆鉄砲と魚雷で牽制しつつ、戦艦組にタコ殴りさせればいいだけクマ」

「せっかく砲撃を当てまくる戦艦がいるんだから、軽巡が無理して雷撃する必要もないにゃ」

「なるほど、確かに」

 

 今の神通は自分だけの力を上げようと必死だからな。もう少し川内や那珂のような力まなく程よい感じで周囲と連携することを意識させる方向で説教するべきか。

 

「だから球磨はもう白兵戦訓練はいやクマー! 何度投げ飛ばしてもぶん殴っても立ち上がって挑みかかる神通は怖すぎるクマ! 手足もいだり背骨折るまで終わらない訓練は訓練じゃないクマ!」

「お前らそんなスプラッタな訓練してたのか!」

「球磨だってやりたくてやってんじゃねークマ!」

「今度からは球磨じゃなくて夕立と綾波と初霜で行くクマ! 三人ならどうにかできるクマ!」

「え、ちょ、む、無理ですよそんなの!」

「く、球磨お姉ちゃんったら酷いっぽい! 夕立たちに死ねって言ってるっぽい!」

「球磨だってもう無理クマ! 上官命令クマ!」

「く、球磨さん……、私たちじゃあ三十分も持ちませんよ……。しかも白兵戦なんて……」

「初霜ちゃんの言うとおりっぽい!」

 

 どうやら球磨も神通に負けず劣らず追い込まれているようだな。

 ぎゃあすかぎゃーすか喚きまくって、もはやカードゲームどころの騒ぎではない。

 

 こんな騒ぎの中でも我関せずと本を読み続けたり絵を書き続けている時雨と秋雲はマイペースだなぁ。

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