株式会社 鎮守府   作:不可

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お読みくださり、ありがとうございます。

※誤字を修正しました。(2016.01.23)


31. 一途な神通

 結局あの後は大乱闘に発展した。

 理不尽な上官命令に対して果敢に抗命する三人に逆上した球磨が襲いかかった。

 当初はかなり劣勢に追い込まれた夕立・綾波・初霜の三人だったが、同席していた叢雲と潮に加勢を頼み込んで引き入れてどうにか五分五分まで持ち込むことに成功。

 しかし球磨姉ちゃんの殴る蹴る投げ飛ばすで室内を縦横無尽に吹き飛び回る五人の駆逐艦を見て、俺は流石に戦略的撤退を敢行。

 球磨姉ちゃんの殴り飛ばした艦娘の手足に引っ掛かりでもしただけで俺の身体はミンチにされてしまうからな。

 

 ちなみに争いの気配を敏感に感じ取った多摩はこっそりと部屋の隅に移動し、ニヤニヤしながら観戦を決め込んでいた。お前の姉を止めろ。

 更に言えば、最初から自分を貫き続けていた時雨と秋雲は室内のドンガラ騒ぎも何のその。一切気にした風もなく読書と創作活動に専念していた。ここまでマイペースを保てるのはある意味かっこいい。

 

 そんなことがあった翌日。既に本日出撃の艦隊は全て見送った正午にほど近い午前。早い話が十一時頃、俺と神通は執務室の応接用ソファにテーブルを挟んで向き合って座っている。

 二人の前に置かれた茶器は明らかに紅茶用のティーカップだが、入っている中身は緑茶だ。しかもお茶請けはプリンである。執務室に残っていたおやつと茶葉がこれしかなかったとはいえ、若干のアンバランスさは禁じえない。

 応接用のセットは補充が必要だな。というか、なぜ湯呑みがないのだろうか。せめてそれだけでもあればまだマシだったろうに。

 

 そんなこんなで微妙な雰囲気の中、神通はこれまた微妙な面持ちだ。

 緊張しているというか、悲壮感に溢れているというか。

 確かに呼び出したのは俺だし、話の内容はいわゆる説教だ。気が重くなるのもわからないではないが、普段の神通ならこれほど暗い態度で人の説教を聞くことはない。もっと真剣で、熱心に聞いてくれる。

 そういうことを考えると、やはり追い詰められているのだろう。

 

「さて、呼び出した理由なんだがな、神通。最近のお前はどうも訓練に入れ込みすぎている。その結果、一部の艦娘に過剰な負担がかかっているわけだが、知っていたか?」

「……はい。球磨さんや金剛さんをはじめ、色々な方にご迷惑をおかけしています」

 

 知っていたのか。そしてその顔を見るに、知っていて迷惑というか訓練を頼み込んでいるのか。

 

「……理由を聞こうか」

「私が弱いからです。いえ、自分が水準以上の実力を持っているという自負はあります。ですが、自分の実力が球磨さんや鳳翔さん、日向さんや長門さんと比べて大きく劣っていることも事実です。あまつさえ、先日は深海棲艦である戦艦棲姫には相手にもされず、万一には提督のお身体を危険から遠ざけることすら危ういほど、私には力がありません」

 

 球磨は流石である。神通は戦艦棲姫の相手を一人でもできるようになりたいそうだ。

 しかし球磨や多摩が言っていたように、いくら相手が戦艦棲姫一人だからといって、彼女は正真正銘の化け物だ。

 艦娘が単独で戦艦棲姫に挑むなんて、非効率どころかただの愚行である。

 

「そうか。だが、神通。お前もわかっているだろうが、そもそもお前一人では……」

「わかっています! ……わかって、いるんです。私一人で立ち向かう必要はない。この鎮守府できちんと艦隊を編成し、お互いの役割をきちんとこなした連携が上手くできれば、例えあの戦艦棲姫さんであろうと、私たちの勝ちは揺るがないと、わかっているんです……」

 

 神通は俺の目を見ない。

 いつもは気弱な雰囲気ながら自分から話す時や相手の話を聞く時には必ず目を合わせる神通が、その目に涙を浮かべて俯き加減だ。

 完全に顔が隠れるほど俯いているわけではない。

 しかし、両膝の上で固く握り締められた拳の震えからもわかるとおり、彼女は今感情を爆発させている。

 それほどに、割り切れない想いなのだろう。

 

「それでも……私は提督をお守りしたいのです」

 

「……どうして、そこまで」

 

 艦娘たちは俺の異能が生み出した存在だからか、俺をまるで実の父のように慕ってくれることが多い。

 中には当然、俺とソリが合わず反目してしまう娘もいるが、基本的に皆俺に対して好意的だ。

 だからと言ってここまで一心に俺のために、という娘も少ない。

 大抵は「なるべくなら役立ちたい」くらいの気持ちでしかないのだ。部活の先輩後輩の関係にも近いかもしれない。

 

 よもや、神通は俺のことを……?

 

「提督は、特別なんです……」

「……」

 

 思わず喉を鳴らしてしまう。

 目の前にいるのは俺の娘も同然の神通だ。

 そして神通は艦娘たちの例に漏れず世間一般の女性たちとは失礼ながらも一線を画す美少女だ。

 普段は躊躇いがちに垂れ気味の目は、何か決意を秘めた時には冴え渡るように凛々しく。

 程よい感じに長い黒髪と白皙の額に巻かれた鉢金がその印象をより力強く、それでいて可憐に彩る。

 身体つきにしても年頃の少女というよりは年若い少女としてこの上なく均整のとれた、日々の鍛錬の賜物かまったく隙のないプロポーションと言える。いやむしろあの訓練漬けの毎日を思えば健康的なエネルギーこそ迸らせているものの華奢に過ぎるか。そうだとしても、世の少女たちが夢にも羨む理想を超えた肉体であることに変わりはない。

 

 まさか、こんな超絶美少女が、俺を……? いやいや、それはいかんぞ。俺と神通は、いや、俺と艦娘たちの関係はあくまで親と子、上司と部下の関係であって、男と女でもオスとメスの関係でもないのだ。我が娘も同然の存在にそのような欲目を向けてなるものか。どこの世界に自分の娘に気をやる親がいるというのだ。それではタダの変態、いや鬼畜ではないか。ケダモノだ。しかしこれほど極上の女性を前にしてそのような綺麗事をのたまうことが男として雄として許されるのだろうか。いや許される許されないの問題ではない。神通は俺の家族だ。大切な家族なのだ。そう、家族であるからには男と女は……いや、夫婦というのも男と女ながらに家族の関係……? いやいやいや。違うぞ、俺。神通は娘だ。決して、そう決してそういった夫婦の営みをくんずほぐれつ執り行うような爛れた関係ではなく、もっとこうプラトニックでハートフルでアットホームな、そんな関係なのだ。いやそもそも神通と俺は

 

「提督だけなんです。……川内姉さんの夜戦好きを肯定してくれるのは」

 

 そう、俺だけが川内を好きと肯定して……川内?

 

「艦娘としてこの世に生を受け、過去の艦の魂の記憶も受け継いだ私たちには、姉妹艦としての強い絆があります。それだけでなく、艦の魂の記憶とは別の新たな生命としての人格も生まれました。川内型軽巡洋艦である私たちも、川内姉さんが夜戦、私神通が訓練、そして那珂ちゃんがアイドルを、どういう理由か愛してやみません。私と那珂ちゃんの嗜好は個人としても集団の中でもある程度受け入れられ認められていましたが、川内姉さんの夜戦好きだけは同じ艦娘である皆さんにもあまり受け入れられませんでした」

「お、おう……?」

「鎮守府の防衛が二十四時間体制とはいえ、夜は基本的に就寝の時間です。そして常に戦場である鎮守府において睡眠とは非常に貴重なもの。どの艦娘たちにとっても、夜間出撃のない日に夜戦夜戦と騒ぐ川内姉さんは煙たいものとなっていったのです」

 

 確かにそんな報告を何度か聞いたことがある。

 静かに夜を過ごすことを好んだり、寝る時は静かな環境でないとリラックスできないという艦娘は一定数いる。

 そんな娘たちから、夜になると血が騒いで夜戦夜戦と叫びまくる川内が非常に五月蝿いと陳情を寄せられたことは一度や二度ではない。

 

「そんな時に提督が、提督だけが川内姉さんを否定しないどころか肯定して、更には励ましてくれたんです。お前の熱意は伝わった、その熱意を実戦で魅せてくれ、と」

 

 それほど夜戦が好きならと、川内を昼間の任務から完全に切り離して、基本的に夜間出撃をずっと担当させるようにした覚えもある。

 その際に、川内に「お前の夜戦に対する情熱、確かに受け取った。存分に楽しんで活躍してくれ」みたいなことを言った覚えはある。

 

「その日から川内姉さんは変わりました。それまでに増して精力的に、そしてまさに鬼神のごとく夜戦にて華々しく活躍するようになったのです。その戦果もさることながら、交戦時の川内姉さんの活き活きとした顔。帰島時に提督に迎えられて誇らしげに戦果を告げる顔を見て、私は川内姉さんが本当の意味で救われたのだと、二度目の生に充実を覚えているのだとわかりました」

 

「……」

 

「そう。川内姉さんが今輝いているのは、あの時提督に認められたから。そして今も提督が見守ってくださっていて、川内姉さんの活躍を欠かさず労ってくださっているからなのです!」

 

「……」

 

「提督を失ってしまっては、せっかくの川内姉さんの輝きを曇らせてしまいます……! 川内姉さんが今世を十全に充実させるには、もはや提督は決して欠かせないのです!」

 

「……」

 

「その提督をお守りするのは川内姉さんをお慕いする妹の当然の義務、いえ天命です! それを私は、己の不甲斐なさ故に提督を無用の危険に晒してしまいました……! それがどれほど川内姉さんの輝きにとって深刻な危機だったか、私にはわかっていたはずなのに……!」

 

「……」

 

「だから私は決めたのです! もう、何があっても提督のお身体を危険に晒してはならないと! そのような事態を未然に防ぐためにも、私は強くあらねばなりません! かの戦艦棲姫であってもその牙を容易に提督へ届かせないように……! 私は妥協するわけにはいかないのです!」

 

「…………神通は、姉想いなんだな」

 

「無論です! ですので、提督のご懸念は尤もなのですが、私としてはこれ以上訓練の手を緩めることはできません! 確かに最近では球磨さんや長門さんなど、極一部の方にのみお相手をお願いしすぎてしまった点については大変申し訳なかったと思います。訓練と訓練の時間を開けることすら惜しむあまり、付き合っていただく方々の疲労を推し量ることができなかった私の落ち度です。……ですが! 今日からはよりたくさんの方に声をおかけしてお相手していただくつもりですので、これまでのように一部の艦娘たちに負担が集中するようなことはありません!」

 

「お、おう……」

 

「では提督! 今日は旧西村艦隊の方々と午後一の演習、その後に二航戦のお二人と防空射撃訓練、夕食前に陽炎型駆逐艦の六名と特別体力増強訓練の予定がありますので、退出してもよろしいでしょうか!」

 

「…………よろしい」

 

「ありがとうございます、提督。失礼致します」

 

 ……。

 ……そうか。

 神通は、姉想いなんだな……。

 そうか……。




神通ちゃんはぐぅの音も出ないほどの一途な娘です。
川内ちゃんは純真な娘なので、自らの忠誠の主である提督の役に立つことを無上の喜びとしていてスゴイ・カワイイ。
アイドルは枕なんてしないし、へこたれない!(真実)

昨日は更新できずにすみませんでした。
リアル物質世界が忙しくなったので、しばらく更新が不安定になります。
ご容赦ください。
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