株式会社 鎮守府   作:不可

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※誤字を修正しました。(2016.02.17)(2016.03.17)


32. 対抗手段と代償

 深海棲艦がこの世界に出現してから早三年の月日が流れようとしていた。

 どうにも最近は時の流れが早く感じる。鎮守府開設当初の人手不足から解放された結果、忙しさが格段に減ったのがその原因だろうか。

 

 本土との関係は相変わらず良好、と言いたいところだが、若干軋轢が増している。いや、向こうがウチに依存しきっているという一方的な力関係は変わらないんだが。

 というのも、連中が頑張って開発していた艦娘用艤装の汎用化に実用レベルで成功したからだ。こう言ってはなんだが、やはり実戦がすぐそばにある方が開発速度も凄まじい。かつての平和な日本であったなら、このような兵器開発がこれほどの迅速さでもって進められたはずがない。

 

 汎用化に成功した艤装はあくまで武器のみである。つまり、駆逐艦用の小口径砲や軽巡洋艦用の中口径砲のうち、単装砲で反動の小さなものだけだ。

 水上の機動に関しては、艦娘からの技術転用がほぼ不可能と断念した結果、基本的には水上バイクを使うことにしたらしい。汎用化艤装への補給も考えると、やはり人型のパワードスーツ程度のサイズではまともな運用ができなかったらしい。そのかわり、人型では使えなかった魚雷も二発だけだが使えるようになったので悪いことばかりではない。まっすぐにしか射出できないので命中率はお察しレベルだが。

 

 とにかく、人間の自衛隊員がどうにか運用できるレベルの汎用化に成功したため、日本の防衛力は一応改善された。

 所詮小口径砲の上、人間の肉眼による照準のため、有効射程はどう頑張っても五キロが限界である。当然深海棲艦の方が基本的に射程が長いため、かなりの確率で一方的に狙撃されることもある。

 相手が駆逐艦級のみであればどうにか勝負に持ち込めるが、軽巡が相手ではかなり分の悪い賭けになるし、重巡か軽空母でもいれば確実に全滅する程度の防衛力ではある。

 しかしながら、駆逐艦相手であってもまともにやりあうことのできなかった日本の自衛隊にとっては、それでも快挙なのだ。

 正直な話、水上バイクでロケットランチャーでも撃っていた方が遥かに安上がりではあるのだが、それでも汎用化艤装を使っていた方が生存率は高い。何せ射程が段違いに長いのだ。

 

 元々、艦娘の使う小口径砲でも十キロは届く。それで十分に深海棲艦を沈められるかと言えば、かなり運に恵まれなければ無理だろうが、それでも一応有効射程だ。

 一方で従来の軍用品であるロケットランチャーなどはそこまで長射程の装備がない。そもそも陸上装備なので、精々数百メートル先の戦車に目視で当てることが狙いなのだから当然である。よほど長射程にこだわって開発されたものでもない限り、そもそも海上で使うような装備でもないのだ。特に艦隊による砲撃戦などでは。

 それでも使わざるをえないのが、現在の世界情勢であり、高価なミサイルをばかすか注ぎ込めない諸外国の懐事情というやつだ。

 

 日本の防衛は、大規模かつ継続的な敵の対応を我が鎮守府に委託し、大規模ながらも一時的な集団には鎮守府提供の潤沢な弾薬パワーに物を言わせたミサイル護衛艦隊で面制圧、小規模な勢力には敵の編成次第でどちらが担当するか決めている、というのが現状である。

 かつてはほぼ全てを我が鎮守府で引き受けていたというのだから、そりゃあ人手不足でヒィヒィ言うのも頷ける。

 鎮守府が旧棲地のエネルギーを資源に変換し、更にそれを元に鎮守府の各施設で燃料や弾薬などを製造しているため、今では自衛隊も十分な装備を整えた上で戦うことができるようになった。

 まぁ、その結果として鎮守府の仕事は多少減って余裕も出てきた。本土の方も、鎮守府に余裕ができたくらいなんだからある程度落ち着いてきているのは事実だ。

 かなり悲惨な落ち着き方だが。

 

 自衛隊員の汎用化艤装と水上バイクの組み合わせは確かに深海棲艦に対抗しうるものではあるが、そこは所詮出来立てホヤホヤの新技術である。しかも五キロも先の軽トラック程度の大きさの敵艦に、肉眼で照準を合わせるなんて無謀もいいところだ。

 何せ海上である。波もあれば風もある。

 本家本元の艦娘でさえ一部の例外を除けば有効射程圏内での命中率は三割前後なのだ。まともな人間では至近弾ですら難しい。

 その辺の命中率の問題は、威力を犠牲にして連射性を確保しながら人員を揃えることで面制圧力を高めてどうにか解決したらしいが、当然ながらそんな作戦と運用では自衛隊員の犠牲は右肩上がりだ。

 本土の自己防衛力は多少改善されたが、毎月の戦死者は莫大な増加を遂げた。

 

 こんな結果でも政府の一部では拍手喝采らしい。曰く、いけ好かない離れ小島のガキの鼻を明かした、と。

 どうにも国防を民間人の俺に依存しているのが気に食わなかったようだが、それで犠牲を拡大させているのでは世話ない。海外諸国の平均戦死者数と比べれば確かに微々たるものだが、遺族や戦死者本人からしたらたまったものじゃないだろう。

 おとなしくウチと一緒に共同戦線を張ればいいものを、ミサイル護衛艦も自衛隊単独でやるから、とか言われたので護衛を出さなくなったのだが、これまでに五回ほど全滅させられている。三回は敵潜水艦隊に全く対抗手段がなかったため魚雷の的に。二回は敵の進撃に間に合わず、散開して波状攻撃を仕掛ける敵艦隊を各個撃破できずに沈められた。

 ちなみに、こんな惨劇が繰り広げられたにもかかわらず、今も鎮守府からの護衛はいらないと突っぱられている。こちらとしては結局後で出動要請が来るんだから最初からちゃんと依頼しておけよと思わないではない。何せ出撃しないでいいと思って休みにしていたところに突然の救援要請だ。著しく士気を削ぐので、本当にやめてほしい。

 

 深海を巡るエネルギー総体、いわゆる深海棲艦たちの親玉だが、アレにとっては願ったり叶ったりだそうで上機嫌そうだ。アレに機嫌などという生物らしい感情はないが、この状況を歓迎しているのは事実だ。

 これまでの歴史で積み重ねられ魂に刻み込まれたエネルギーの回収を目的としているアレは、日本のような先進国、つまり大量のエネルギーを長期間にわたってジャブジャブ使ってきた人種の死は大歓迎なのだろう。

 エネルギー総体のエネルギーを変質させた食糧を摂取させられている日本人は特に魂の回収率が高いらしく、自分から勝手に死にに来てくれている現状は鴨ネギも良いところとしか言えない。

 

 俺としても、同じ日本国民なので多少の同情心は沸くものの、面識がある奴がいるわけでもないので、どうにかしたいわけでもない。

 精々開発の後押しとするべく物資の供給量を増やす程度なのだが、最近は横領による損失がかなりバカにならなくなってきたので、大して効果が上がっていない。

 他国に横流しで儲けていただくのもまぁ、俺としては別に損はないし、エネルギー総体的にも回収できる魂の量が増えて万々歳なので、今の所対処するつもりはない。

 

 ただ、その所為かどうかは知らないが、自衛隊員の犠牲者が増えていったことから国民の不安が増大し、遺族を中心にして不満を爆発させるようになってきたのはどうにかしてほしい。

 この間も鎮守府からの輸送隊が寄港した時に、謎の反鎮守府デモ隊がギャースカ言ってたと報告を受けている。

 艦娘も深海棲艦と変わらない得体の知れない化け物だ、という主張だったらしい。まぁさして的を外した指摘でもないのだが。

 かといって現在の日本の生活を支えているのは鎮守府の物資と艦娘の戦力なわけでして、俺の娘も同然の艦娘を卑下するような声を平然と上げてくる奴らを助ける義理はないし、助けたくもない。という文面の抗議文を政府に送りつけて、全艦娘と一緒に三日ほど完全に鎮守府に引きこもって通信途絶させてやったところ、政府首脳部が総出で血相変えて平謝りしてきた。デモ隊は全員収監のうえ国家騒乱罪が適用され、スピード裁判で有罪判決となったらしい。

 この辺に一向に縮まらない政府と鎮守府の力関係の差が見られてしまうなぁ、と反省している。

 

 ちなみに、鎮守府の収益はヤバいことになっている。

 何せ国内の物的商品の八割近い原料をノーコストで売却しているのだ。冗談でも比喩でもなく文字通り小国の国家予算数年分の純利益と成っている。

 あまりにも金が集まりすぎて、経済の循環的にヤバいかなと思ったので、かなり良心的な奨学金機構と投資銀行を立ち上げた。

 奨学金はまぁ、当然軍人養成課程のみの対象だ。エネルギー総体の目的を考慮するなら、やはり日本人には戦場に出てもらわねば困る。

 自衛隊の学校や訓練所は元々給金を払って生徒を確保していたのだが、深海棲艦出現後は財政的に厳しくなったため普通に授業料を取るようになっていたのだ。馬鹿としか言えないが、当時の日本はそれくらい追い詰められていたのだから仕方ない。

 現在は財政的にかなり改善されているのだが、どうにもそこらへんが放置されているため、ウチから資金を出すようにしたワケだ。それでなくても最近は自衛隊員の損耗が激しいのだから、補充には力を入れてもらいたいものだ。

 投資銀行はまぁ、ただの自己満足だ。

 鎮守府が原料や製品を大量に輸出するようになったせいで倒産したりした企業が結構あるし、海外との交流が無くなったため、あるいは海に出られなくなったために潰れた会社は数え切れないくらいある。

 つまり日本は今、失業者に溢れているのだ。

 それもよろしくないなぁと思ったので、投資銀行を経由して武器工場を大量に建設し、自衛隊の使う兵装や弾薬を大量生産させるようにした。それに合わせて鎮守府の提供する弾薬を、完成品ではなく原材料にすることで調整している。

 これで皆働けるといいなぁと思っている。

 

 頑張れ、日本。




ご無沙汰しております。随分と間を空けてしまい、誠に申し訳ございません。
今も続けてご覧になってくださっていたなら、幸甚に存じます。
先月の更新時点では二月頭までには色々片付くかと思っていたのですが、蓋を開けてみれば今もドタバタ、中々執筆に割く時間も作れずでした。
最近やっと落ち着きを見せてきたため、どうにか一話書いてみたものの、時間が空きすぎたこともあってか艦娘が一瞬たりとも登場しない謎の解説回となってしまいました。
おかしい……予定では艦娘とイチャコラしていたはずなのに……なぜこんなことに……。
次回はなるべく早く更新したいと思います。

イベント? 知らない子ですね。
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