株式会社 鎮守府   作:不可

38 / 39
お読みくださり、ありがとうございます。


38. 提督リフレ

 ググッ……。

 

「あ゛あ゛ーっ」

 

 ぐにぃ~ぐにぃ~。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 グリグリっ。

 

「ぅう゛へぁ゛~……」

 

 会議室に残っていた他の秘書艦たち、榛名と伊勢と由良の視線が集まる中、お疲れ有頂天の駆逐艦叢雲が年頃の少女としてはちょっと考えものな、ある意味はしたない声を上げまくる。

 俺が叢雲の後ろに立って肩を揉んでいるという立ち位置の関係上、その表情をハッキリとは窺い知れないが、謎の猫耳っぽい艤装に挟まれた可愛らしいつむじの向こうから立ち昇る雰囲気的にはかなり気持ちよさそうだ。

 先程から物凄く性別と年代を疑うような声音を上げまくっているのだが、この様子からすると本当に無意識のようだ。

 

 しかし、何と言ってもこの肩が異様だ。まるで冷凍庫で三ヶ月位保存した納豆を全く解凍せずに混ぜ合わせているかのような錯覚に陥る。

 まずは表面からでも全体を温めて取っ掛かりを作ろうと、掌と指をべったりと叢雲の肩に密着させながら使って力強く全体的にマッサージする。イメージとしては、一合炊きの炊飯ジャーでぴっちり炊きあがった白米を、しゃもじで切りほぐすのではなく、ジャーの端からするりとしゃもじを滑り込ませて白米全体の形を崩すことなく掬い上げる感じだ。まずは骨と一体化したかのようなこの肩の筋肉を剥がさないことには、うまく揉みきれないと思う。

 肩を広い範囲で揺り動かして、骨との癒着がマシになったような感触がした。次は塊のままズリ動かした筋肉全体を揉みほぐす。今度も肩の広い部分を一度に手の内に収めることを意識して、全体を割りと全力でゆっくりと揉み込んでいく。イメージ的には手捏ねハンバーグを作っている感じなのだが、叢雲の肩があまりにも堅固なので、ハンバーグというよりは凹凸部が擦りきれて浅くなったレゴブ○ックの塊をゴリゴリしている感じがする。

 ある程度レゴブ○ックをバラバラのピースに分解できたところで大詰めの工程だ。ブロックの塊を崩したとはいえ、まだ連結した小さな塊も散見される。これを見つけては揉みほぐし、また見つけてはまた揉みほぐす。最後にはそれぞれのレゴブ○ックのピースも、せめて柔らかいビニールブロックのパーツ程度の硬さになるまで捏ね回す。

 納得行くまで柔めたら、最後の仕上げだ。揉みほぐしたと言っても筋肉とは所詮筋の集まり。まさか筋繊維の一本一本をバラバラにしているわけではない。それでも、筋繊維がいくつか集まり大きな束となって僧帽筋とか三角筋をなしているはずだ。それぞれの束になった大小様々な筋。これらを掴んだり逆に押し揉んだりして筋と筋のまとまりをハッキリさせる。凝り固まって一つの塊のようになっていた筋を、袋麺をお湯に入れてバラバラにほぐすように、ゆとりのある状態にするのだ。

 

 ここまでおよそ十五分ほどか。時折、巌のような首筋や、肩の凝りにつられてかガチガチになっていた上腕部も交えて揉みに揉んだ。

 その間中ずっと叢雲はあられもない声を唸らせていたわけだが、最後のあたりは全体的に凝りが取れてきてスッキリしたからか、割りとまだ女性らしい「はぁーぁ……」とか「んふー……」といった、息の漏れてしまう系の声になっていたのがせめてもの救いか。

 

「……さて。どうだった? 叢雲」

 

 まぁ、聞かなくてもわかる気もするが、一応確認する俺。

 というか、何か周りの空気が怖くて目を向けられない。会議室にいる四人の秘書艦たちからただならぬプレッシャーを感じるのだ。

 

「えぁー……? はっ、えっ? あ、ええ……凄かったわ! スッキリバッチリ、こんな爽快な感じ、久々ね。何よアンタ。マッサージ師かなんかだったの?」

 

 何やらトリップした感じかボケーッとしていた叢雲は、確かに先程とはまるで月とスッポンというか赤子と腐乱死体ばりに打って変わって顔色が良い。良いというかむしろ紅潮している。ついさっきまでは死人でももうちょっと明るい表情をしていると思っていたが、今やすっかりいつもの叢雲だ。いや、どちらかと言えばちょっとハイテンションな叢雲だな。いつもならあんまり見ないが、今は何やら無邪気にはしゃいでいる。

 

「いやいや、マッサージなんて人にやったの今が初めてだぞ」

 

 正真正銘初体験である。自分で肩を揉んだりすることは稀によくあるが、それでこれほど好評なのだから、俺は意外と肩揉みの才能があるのかもしれんな。

 もしかしたら本土でマッサージ師とかエステ師として生きる未来もあったのかもしれない。

 まぁ、俺が異能に目覚めて鎮守府で提督をやってなかったら日本自体がとっくに滅亡していただろうから、結局はマッサージ師にはなれなかっただろうけどな。

 

「はー。アンタにも特技って言えるものがあったのね。自慢していいわよ」

「俺が無能提督だということは俺自身認めるところではあるが、もうちょっと言い方ってもんがさぁ」

「でも実際コレ、凄いわよ?」

 

 そういう問題じゃねぇよ。

 

「叢雲。提督のマッサージは、それほどなの……?」

 

 その時、俺と叢雲から少し離れた席で座っている伊勢が、感情を窺わせない平坦な声を上げた。

 その声に妙なプレッシャーを感じた俺はちょっと怖気づいたんだが、そこは同じ艦娘だからか、叢雲は一切物怖じせずそれに応える。

 

「ええ、それはもう凄いわ。正直そこまで期待してなかったんだけど、もう世界が変わったみたいにスッキリ。肩も首もだけど……うん、全身が一挙に軽くなったみたいね」

 

 そう言いつつ椅子から立ち上がって体の調子を確かめる叢雲。確かに身動きが前と比べて断然軽やかだし、無理している様子も全く無い。

 それにしても、こうも手放しで褒められると流石の俺も鼻が高くなるってもんだ。

 マッサージ師、いいかもな。

 

「確かに。本当のようね……。どう思う、榛名、由良?」

 

 対する伊勢の顔つきは至って平坦、というかむしろ真剣なんだろうか。いや、真面目と言うには瞳の奥に若干のギラつきを感じてしまうな。

 

 伊勢に声をかけられた榛名と由良。二人とも全く伊勢の方に視線を向けずに応える。

 

「榛名は、大丈夫です……」

「私も、これは天佑だと思います」

 

 最近の激務が祟ってか、榛名は大抵の言葉に自分の口癖で応えるようになってしまった。それもこれも、仕事を任せてくれたという信頼に対して彼女が自分の力で以って全力で応え続けている誠実さがあってのことだ。基本的に榛名は断らないし、抱え込んで一人でやりきっちゃうからな。仕事に支障が出てなくても、色々と限界を超え続けているからにはこうなるのも已む無しか。ちなみに、榛名の秘書艦事務仕事量は大淀に次いで鹿島と同率二位らしい。流石は戦艦である。

 

 由良はまだ余裕のある回答だが、その余裕もあくまで榛名に比べれば、だ。いつもは柔らかい表情と穏やかな声で俺や秘書艦仲間、あるいは出撃の際の仲間たちの心を安らがせてくれる由良。その由良の表情も声音も、どこか鬼気迫るものだ。彼女はコンスタントに仕事を消化させて疲労の蓄積を防いでいるのだが、今のところコンスタントに限界ギリギリオーバーな仕事量で連勤中なので、疲れの溜まり方もコンスタントすぎて軽減できていないフシがある。

 

 そんな二人は、尋ねかけた伊勢の方などまるで意識も向けず、ただ一心に、そして決死に、俺と叢雲の方を見つめている。正確には、俺を。より正確には、俺の右手と左手を。

 

 

「提督。ものは相談なんですけどね……」

 

 そう言って切り出した伊勢の話は、ある意味予想通りというか何というか。

 俺としてはまぁ、これだけ苦労をかけている艦娘たちへの感謝の気持ちと考えればむしろ当然のことだった。

 

 

 ググッ。

 

「ばっちりじゃない! コレってば!」

 

 ぐにぃ~ぐにぃ~。

 

「由良のイイとこ……知られちゃった……」

 

 グリグリっ。

 

「榛名は……大丈夫じゃ、なかったんですね……」

 

 伊勢の提案というか頼みごとは無論、自分たちも俺に揉んで欲しい、というものだった。

 叢雲の肩を揉んだから実感したとおり、彼女たちも深刻な肩凝りなどに悩まされていた。

 伊勢の肩も冷凍した牛すじ肉並の剛体感があった上に、これでどうやって横に向くんだ? と思わず尋ねてしまったレベルの首筋。

 由良も伊勢と似たり寄ったりで、凝りの面積こそ伊勢よりマシだったものの、しぶとさでは圧倒的に上だった。伊勢は叢雲と同じく十五分程度で終わったが、由良は二十分もかかってしまった。

 榛名は二人より更に酷く、凝りの範囲が伊勢より広く、凝りの根深さが由良より強烈だった。肩甲骨はまともに動かない。首は左右五度以上動かない。肩の関節は三十度以上開かないと、外見からして若い少女にはあり得ないほどの惨状だった。彼女のマッサージには四十分もかかってしまった。

 

 全員が全員、まるで当然のごとくあられもない嬌声をあげるので、少々戸惑ってしまった。

 ちなみに最初の伊勢の上げた声を聞いてケラケラ笑った叢雲にムッとしたのか、伊勢が「貴女だってそりゃあすごい声を出してたわよ」なんて要らないことを言ってしまっていた。

 まさかと思って俺や他の二人に確認した叢雲だが、俺は目を逸らすばかりだし、後の二人は食い入るように俺に揉まれる伊勢を見つめながら微かに頷いただけだった。

 あまりにもあまりなので、俺は叢雲を思って完全にスルーしていたのに、伊勢が無情にも、叢雲があげていた例のあの声について詳細に説明してしまった。

 流石に信じられなかった、いや、信じたくなかったのか、俺に目を向けて真偽を確かめてくる叢雲。常日頃から艦娘に対して誠実であることを誓っている提督である俺は、その問いかける視線に対して頷くことしかできなかった……。

 

 それほど時間を掛けて四人全員をマッサージしていたのだ。途中、伊勢の肩揉みが終わったくらいの頃に他の秘書艦たちが帰ってきた。

 俺が由良を揉み込んで叢雲よりもずっとずっと女性らしい声で喘がせているのを見て、これまた目つきが変わった大淀・妙高・高雄・鹿島の四人が、上機嫌にも程があるだろうってくらい元気な伊勢から説明を受けていた。

 叢雲? あまりの羞恥に耐え切れず、真っ赤になって会議室の隅で頭を抱え込んでいたさ。

 

 その後はまぁ、当然ながらお茶とお茶菓子を補充してくれた四人にも肩揉みをせがまれたので、快くそれを承諾し、存分に善がらせてやった。

 

 いやぁ。日頃の秘書艦姿で慣れていると思ったが、大淀さんのあの反応には思わず腰が引けてしまった。

 ちなみに、恐らく最凶の肩凝りは榛名のアレだろうと思っていたのだが、上には上がいるもので、大淀の頭の付け根から腰にかけての全ての肉という肉がガチガチに凍った保冷剤のような感触だった。しかも中々解けず、結局彼女だけ一時間の大台を超えてしまった。

 流石に手が痛い。

 

 この体験を元に、俺のマッサージによる肉体的・精神的疲労の完全リフレッシュ効果は非常に有効だと判断された。

 そして、かねてよりの議題であった、鎮守府の雰囲気を改善しよう、艦娘たちの休養が減りすぎた問題を解決しよう、に対する最大効率最大効果最小コストの解決案として、提督による艦娘のためのリラクゼーション施設「提督リフレ」が爆誕したのも、至極当然の流れであった。




 今日は意外と空き時間が多いなぁ。→ 今日土曜日やんけ! → 書くんや! 今書かんでいつ書くねん! → 書き上がったで、工藤!

 ちなみに、マッサージに関する描写は基本的に作者の体験というか自分でやる時の理想的イメージです。特に整体とか人体工学的な説明ではないので、まぁこの世界ではそれでどうにかなるんだろう、さすが提督のゴッドフィンガーやでぇ、とご納得いただければ幸いです。
 もしプロのマッサージャー様などがいらっしゃいまして、より適切な凝りに関するお話をいただけたとしても、今から描写を書き直すのもめんd(ry難しいので差し替えや誤字ではない修正はできませんが、作者としては詳しいことを知れて大変嬉しいです。

 次回の更新がいつになるかは不透明です。とりあえず日曜日は執筆時間どころか投稿する時間すら無さそうなので、確実に無理ですが。
 しばらくはこんな感じの話を書いていきたいなぁと思っていますので、お時間がございましたら次回もお読みくだされば幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。