この鎮守府の購買部は非番の艦娘たちの持ち回りで運営されている。
その中でも中核をなす、バイトリーダーとか雇われ店長のような艦娘が航空巡洋艦級の娘たちだ。
その他は暇を持て余しがちな他の重巡洋艦級の艦娘がバイトをしているらしい。
あまり人手が必要な時間に行ったことがないので、店長役の艦娘以外にはほとんど会ったことが無い。
「お? 提督じゃん。何か買い物?」
今日は鈴谷が勤めているようだ。丁度商品を棚に並べる作業中だったらしく、背中まである長い髪を一括りに纏めている。所謂ポニーテールというヤツだろうか。しゃがみこんで棚出しをしているため、まぶしくも艶かしいうなじが酷く目に付く。
服装も、いつもの制服姿に落ち着いた色合いのエプロンと三角巾と、普段の言動に似合わずきっちりした着込みをしているため、調理実習中のJK感が半端じゃない。
軽く捲り上げられた袖からのぞく白い腕など、普段日差しと潮風の強い海上で長時間活動する艦娘なのに、どうしてここまで滑らかそうで柔らかそうで魅力的なのか。というか何故、こいつらはあまり日焼けしないのだろうか。これほど素晴らしい肌白さと日焼け跡とのコントラストが全くお目に掛かれず、これはこれで良いものの、やはりもったいなさも覚えずには居られない。鈴谷の日焼け跡とか、諭吉先生のお力をお借りしてでも拝みたいものだが。
「暇つぶしだ。何か面白いものでもないかと思ってね」
鈴谷は立ち上がりこっちまで来てくれる。彼女もまぁ暇だったのだろう。
「へぇ。じゃあ鈴谷と遊ぶ?」
後ろで手を組み、若干前かがみになることで斜め下から覗き上げるような鈴谷の上目遣いと口元に浮かんだ小悪魔じみた曲線が可愛い。
いろんな意味で鈴谷のパパになりたいものだ。
「それもいいけどな。また待機時間中なんでしっかり遊ぶわけにもいかん」
「えー、いいじゃん別にー」
「だめだ。俺は無能なんだから、せめて即応体制だけは整えておきたい。だから遊ぶなら執務室でだけだ」
「もー。提督はカタいなー」
どうにも若々しい言葉遣いにドギマギしてしまう。大淀もそうだし、他の艦娘たちも総じてそうなのだが、彼女たちはちょっと美少女すぎる。
元は引きこもりがちの童貞ボウイとしては、いささかならず刺激が強いのだ。
鈴谷との遊びは悪魔的な魅力で俺の後ろ髪を毟り取るが、ここは断腸の思いで辞退せざるを得ない。
今度彼女が秘書艦になったときにでもお願いしよう。絶対に。
「それよりも接客をしろ、接客を。せっかく買い物に来てんだから」
「鈴谷に接客させようなんて、提督ったら、ナニさせるつもり?」
「お前はオヤジか。何かオススメの商品でも案内しろってことだよ」
「えーっとねぇ、じゃあこっちの軍刀コーナーとかいいんじゃないかな。提督もこういうの好きっしょ?」
いや、まぁ、好きだけど。鈴谷のことも好きだけど。
でもなんで購買部なんかに軍刀があるんだよ。兵装部や工廠ならともかく。しかも真剣じゃねぇか。模造刀ですらないのかよ。
「いやぁ、艤装としての刀剣は開発部か兵装部で配給されるんだけど、個人的なコレクションとしての申請はできないじゃん? だから購買部から生産依頼を出すって形で仲介したり、本土の買出し部隊についでに頼んで仕入れたりしてんのよねー。数は売れないけど、単価も高いからウチの主力商品の一つでもあります、ハイ」
「天龍と木曾あたりがメインの顧客か……?」
「戦艦組は皆買ってるよ。やっぱ軍属のイメージ的に帯刀すんのがイイんじゃない? そういう意味では正規空母の人たちも皆買ってるね」
なんと。いやまぁ、戦艦も日向なんかは海上戦で日本刀を使おうとする刀馬鹿だから納得だが、他の戦艦もとは。それに空母勢は弓も使うのに刀も集めるのか……。
そして並んでいる軍刀コーナーは割と充実していた。軍用サーベルに太刀や打刀はともかく、短刀や苦無に手裏剣まである。苦無まではギリギリともかく、手裏剣はもう完全にジャンル違いだろう。
「まぁ確かに、こういう刀剣類ってのはオトコゴコロをくすぐるよなぁ」
「何人かの男気溢れる駆逐艦が買ってったりもするしね」
「す、水雷戦隊は敵陣に切り込むのが仕事だから……」
「ちなみに軽巡で一番の買い手は神通だよ」
「え、天龍じゃなくて?」
「天龍はおごりたがりだから金欠だし、そもそもコレクターだから同じ物は買わないじゃん」
「じゃ、じゃあなんで神通は……?」
「よく使い潰すからだよ。演習でいっつも砲撃切り払うから」
初速にして音速の倍を超えることもある艦砲の銃弾を、刀で切り払うなんてことが本当に可能なのか……? いや、あの神通なら有り得るかもしれない。戦艦組が口を揃えて「戦いたくない」と言い、空母組が「艦載機の無駄遣い」と諦めるほどの艦娘だ。決して不可能とも言えないだろう。
しかも詳しく聞くに、神通が買った刀を折ったことはあまりないのだと言う。基本的には銃弾を切った時の刃毀れを研ぎ直し続けた結果、刃の部分の鉄が無くなって切れ味が悪くなるから買い換えるらしい。その頻度が大体週に一度なので、最近ではかなりの上客だそうだ。
「なんでも、駆逐艦の子たちに薦められた漫画に、矢や銃弾を剣で切り払う演出があったらしくて。目から鱗でした、って言ってたよ」
「漫画の演出を見ただけで再現できるとか聞いただけで目が飛び出るわ。つくづく艦娘って物理法則に囚われないな」
「いや、流石にアレと一緒にされると困るよ。無理だから。艦娘でも無理だから」
ううむ。しかしこうなると一度神通の訓練は見学してみたくなったな。明日も暇だろうから、是非見に行こう。
などなど、鈴谷とくっちゃべりながら店内を練り歩き、結局眠気覚まし用のガムをいくつか買って購買部を後にした。
そろそろ午後三時だ。食堂に行って何かおやつでも腹に入れて執務室に戻るとしよう。
今更ですけど、鈴谷の口調に違和感があったらすみません。
まぁ作者の中の鈴谷はこんな感じっていうことで、ご容赦ください。
※伊勢と日向を間違えていたので修正しました。(2016.01.08.23:54)