※霧島の「榛名お姉さま」を「榛名」に修正しました。(2016.01.13)
緊急出動も無事終わり、いや、一部の駆逐艦たちにとっては悪夢の訪れとなったかもしれないが、とにかく一段落ついた。
司令部には武蔵がもうしばらく詰めて別働隊や潜水艦の警戒に当たる。
俺はとりあえずお役御免というか元々不必要なので、挨拶だけして司令部をあとにしていた。
緊急出動組の出迎えもきちんとしたことだし、執務室に戻ることにする。
明日からの強化訓練の計画に燃える二人の軽巡洋艦には、ほどほどにな、としか言えなかった。
こんな援護射撃しかできない情けない提督を許してくれ、駆逐艦たちよ。
「よう、戻ったぞ。お疲れ様」
「お帰りなさい、提督。鎮守府近海には敵影無し。他海域にて作戦行動中の艦娘たちにも状況を連絡し、警戒を怠らないようにとの指示を出しました。その際の返事によれば、どの部隊にも今のところ異常はなく、概ね予定通りに行動中とのことです」
「そうか。無事ならいい。全員、無理をせず行動するようにと伝えておいてくれ」
執務室に戻った俺は、秘書艦たちの詰め所に顔を出した。大淀がその後の連絡をまとめて報告してくる。
「それと提督。先程の件の返書を作成しましたので、ご確認を」
「うん。……いいんじゃないか? じゃあこれで出しておいてくれ」
「はい。それと、九州方面の自治体から契約修正の依頼が届いています」
差し出される紙は二枚で、一枚は向こうからの依頼書、もう一枚は従来の契約内容と変更後の契約内容のまとめだ。俺が理解できるように、優しく生真面目な大淀が作ってくれたのだろう。
内容は主に警備増強についてだ。現在の警戒網構築から一歩踏み込んで、敵襲への応戦協力を求めている。
「むぅ。契約料はそれなりだが、ウチにそこまでの余力があったか?」
「ありません。警戒網の構築は潜水艦による索敵と高速艦隊の定期巡回によって、いわば余禄的にできているものです。しかし、恒常的に拠点防衛の戦力を出張させるとなると、現在の鎮守府の運用体制が瓦解します。いえ、九州方面に限れば不可能ではありませんが、増加する負担は無視できるレベルでは無い、と言ったほうが正確です。それに何よりも、これを皮切りに日本全土から同様の要請を受けて、実際に鎮守府から戦力を派遣すれば、こちらの防衛戦力が確保できません」
「確かに。今でこそ余裕を持った休養日を設定できているが、出撃や迎撃が増えればそれも確保できなくなる。そして休養が不十分な艦娘はその戦闘力を著しく低下させる」
「はい。ですので、この応戦協力は受諾するべきではありません」
我が鎮守府はあくまで営利企業である。殉国精神や博愛主義によって自分の命を危険に晒すつもりは無い。
確かに向こうからの報酬はこちらの戦力に見合ったものかもしれないが、無い袖は振れない。社の存続が危ぶまれるような契約を結ぶわけにもいかないのだ。
「まぁだからと言って無碍に断るのも忍びないな。……輸送船の護衛能力にはまだ余裕があったよな?」
「はい。コンテナ船であれば三隻ほど、タンカーであれば一隻程度ならば現在の護衛艦隊で十分に守れます」
「では向こう方には、あくまで物資であれば当方に増量の余地はある、と返してくれ」
「わかりました」
「あぁ、それと今度は返信内容の確認はいい。そっちで最後までやってから報告してくれればいいから」
「了解です」
軽く呆れたような微笑を浮かべて、大淀は秘書艦室に戻っていった。
それと入れ違いに、今度は霧島が執務室に入ってくる。
「提督、本日の夜間出撃について確認です」
そう言われて時計を見ると、もう一六二○だった。
「おおぅ、もうこんな時間か。もう皆はドックに?」
「はい、出撃体制は整っています。向かわれますか?」
「もちろん。さて、今日はどんな編成だったかな」
当南鳥島鎮守府は絶海の孤島で、文字通り孤立無援の孤軍奮闘企業だ。援軍なんて望めない。
しかも元棲地であるという来歴から、深海棲艦の攻勢たるや引っ切り無しである。
そして、いかに艦娘たちがヤツらに対抗できるからと言って、ヤツらの物量に正面から対抗できるという意味ではない。
その為、鎮守府は周辺海域一帯に莫大な量の特殊自走式機雷を設置している。これも鎮守府の馬鹿げた供給能力の為せる力技だ。
南鳥島から半径百キロメートル、幅およそ百メートルの円環状に無数の機雷を設置することで深海棲艦の侵攻を阻止している。
ただ、全周を完全に塞いでしまうと損害を無視した強行突破や鎮守府を無視した本土襲撃に全力を挙げられてしまうため、あえて開けている穴が昼間は三つ、夜間は二つある。
この意図的に開けられた機雷の空白地帯に深海棲艦をひきつけることで、拠点防衛をより容易なものにしているのだ。
この機雷はかなり特殊且つ高機能なシロモノで、艦娘以外の存在を感知したら高速で突撃し、大爆発する。まともに喰らえば戦艦級だってタダでは済まない。しかも魚類等の食料には優しいので、鯨も誤認せず素通しする。
鎮守府防衛には絶大なる効果を発揮するこの機雷だが、欠点もある。
鎮守府の超常能力によって開発・生産されたこの機雷。確実に作動させるには鎮守府から百キロメートル以内に存在しなければならないのだ。
鎮守府から百キロ圏内を越えると、途端に感知や追尾性能が激減し、タダの浮遊物に成り下がってしまう。
一応最新型として、使用可能距離が百十キロまで延長した試作機雷が開発されたが、性能がまだ安定していない。
もしこれが鎮守府との距離に関係なく敷設できるようになれば、全世界の陸地防衛状況を一気に改善する大発明になりそうだが、難しい。
通常の機雷では海上を走る上に浮遊物を目視して回避する深海棲艦に対して効果が無いし、追尾式の機雷も従来のセンサーでは深海棲艦を捉えられない以上意味が無い。
その為、日本政府から開発強化を強くせっつかれている兵器の一つだ。
さて、こんなトンデモ機雷に守られている鎮守府だが、予め開けられている穴を塞ぐことは戦略上よろしくない。その為、昼夜を問わず敵の襲撃を受けるその三箇所は艦隊を出動して守らなければならない。
昼は三箇所に分散して各所の負担を軽減し、夜は敵の空母戦力が激減することを考慮に入れて二箇所に絞って艦娘の負担を軽減する。
それでもまぁ、中々に大変な攻勢ではあるが、こちらも歴戦の勇士たちだ。そう易々とは負けない。
それに、深海棲艦は近くに棲地が無い限りは大規模化しにくい。棲地があれば、その異常な供給性能から雲霞のごとく深海棲艦は発生し、圧倒的物量で押し寄せ続けることになる。
しかし、深海のどこかで自然発生する深海棲艦は基本的に連携しないし合流しない。各自の判断と言うか、全く別個の艦隊として陸地を攻める。
そんな事情があるので、鎮守府へ侵攻する深海棲艦がいない日は無いが、大軍勢で攻められることも、別々の艦隊が間断なく押し寄せるということも無い。
大体六隻から二十隻ほどの艦隊が断続的に攻めてくるので、索敵と編成がしっかりしていれば対応は難しくなかった。
「本日の昼戦部隊は旗艦がそれぞれ、西に金剛お姉さま、南に長門さん、東に加賀さんでした。夜間は明石・夕張の二人に護衛艦隊をつけて西側の機雷を設置、機雷原の空隙を埋めます。同時に南の夜間防衛に伊勢さんを旗艦とした二個艦隊十二人、東は榛名を旗艦とした二個艦隊十二人、両艦隊の後詰として、中間地点に那智さんを旗艦とした一個艦隊六人と足柄さんを旗艦とした一個艦隊六人を待機させます。出撃は合計三十六人で、鎮守府の即応部隊は一個艦隊六人となっています。相変わらず夜は多いですね」
「航空部隊による救援が難しいからな。より堅実な運用を、と言えばこうするべきだと言ったのは武蔵だったが」
艦載機が十全に運用できる朝から夕方までは空母が出ずっぱりだし、百キロ程度の距離なら鎮守府からでも急行できる。だから昼戦部隊は基本的に一艦隊ずつの出撃だ。
しかし夜は艦載機がまともに運用できない上、敵味方ともに被弾のリスクは急激に増加する。
ならば速攻戦になるよう、派遣部隊の数を増やしておくのは確かに有効だった。更に、敵が予想外に多かった時のための援軍も南西の方角に配置しておけば、防衛はより堅固になった。
ここ二ヶ月で導入した運用法だが、実際に防衛戦をする部隊からの評判はすこぶる良い。援軍が近くにいる、という心理的効果が絶大なのだそうだ。
その所為で消費する資源は跳ね上がったが、どうせ鎮守府の補給能力は艦娘の出撃がどれほど多くなろうと足りなくなることは無い。
「そうでしたね。それに、確かに有効な作戦です。ただ、休養のスケジュールを組むのが面倒になったと、大淀さんなんかは嘆いていましたね」
「あいつも働かせすぎだよなぁ。俺なんて大して何もしてないからいいけど」
「彼女も同じことを言っていますよ。私は出撃しないんだから、事務仕事くらいへっちゃらです、って」
「そろそろ休みを取るよう言っとくか」
「提督もお休みを取られては如何です?」
「おいおい、知らないようだから教えてやるぞ、霧島。社長に休みなんてないのさ」
それは一般の民間企業の話でしょう、なんて突っ込みを受けながら、俺たちは出撃前の艦娘たちが集まるドックに着いた。
ウチの鎮守府では、提督は必ず提督と呼ばれます。
個人的には、しれぇ! も好きなんですけど、司令も司令官も司令長官も隊長も別物やん! って先日知ったので、当鎮守府では霧島さんにも提督と呼んでもらいます。
ウチの電脳世界での提督もやっと少将になれたので、提督と呼ばせて差し支えありませんからね!
あと、やっと会社っぽい話を突っ込めました。
取ってつけた感溢れてて泣けますけど、当社は営利企業なので、不必要な出撃は一切しません。
日本がやばいな、ってなった時は一応、政府に連絡して、「助けてあげたいけど、わかるよね?」みたいな営業をします。つまり、営業の成功率は百パーセント。すごい(駆逐艦並の感想)。
だから大陸のほうとか太平洋挟んで反対側のこととか、明らかに鎮守府のキャパを超える場所の進退は気にしないことにしています。