株式会社 鎮守府   作:不可

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8. 夜戦に向かう

 出港ドックとは言っても、艦娘用のここはあまり広いスペースを取っていない。

 なんせ艦娘は人間と同サイズなのだ。艦艇用の馬鹿でかい入渠スペースも波止場も要らない。非常に経済的だ。

 ただ、大人数が一度に出撃する時は前から結構あったので、ドック全体の大きさはそれなりだ。ちょっと大きめなホテルのロビーくらいはある。

 そんなドックに現在、艦娘が総勢三十七名集まっている。毎度思うが、中々壮観だ。

 

「さて、ちょっと遅くなってしまったな。すまない」

 

 彼女たちを前に、いつもの挨拶を始める。

 これは無能提督たる俺の、せめてもの誠意と思って始めた行事で、出撃前と帰島後にはこうして直接励ましと労いの声を掛けるようにしている。

 何ほどの効果があるかは知れないが、不評との声は聞いていないのでこれからも続けるつもりだ。

 

「お前たちの献身のおかげで俺は今日も飯を食ってるし、健やかに寝ることもできてる。感謝してもし足りん。だから死ぬなよ。何があっても生きて帰ってきて、俺に恩返しさせろ」

 

「了解!」と、三十六名の声が重なる。

 どの声も年若く、可愛らしい声だ。

 なんだって俺の異能は、艦娘って存在をこうもいたいけな美少女ばかりにしたのか。

 心の片隅で妙な罪悪感が生まれてしまうが、言っても詮無いことだ。

 

「今から配るのは俺がガキの頃から大切にしてきた鉛筆だ。どいつもこいつも俺の赤点回避に多大なる貢献をしてくれた、恩人というか恩師というか恩鉛筆だ。お前たちにも一本ずつ貸してやる。だから絶対返せよ」

 

 嘘偽りなく俺の人生を助け続けてくれた鉛筆先生たちだ。たまにドジッちゃうお茶目なところもあるが、肝心のところはキッチリ抑えてくれる頼りがいのある猛者でもある。

 そんな彼らの加護は絶大なるものに違いない。その証拠に、彼らを伴にした艦娘で大破した者は今まで一人もいない。

 霊験あらたかな先生たちを、立ち並ぶ艦娘一人ひとりに手渡していく。

 

「いいか。絶対にお前たち全員が、直接面と向かって、俺に返しに来るんだぞ。眠いからっつって仲間に頼んだりしたら承知しないからな」

 

「了解!」と、三十六名の声がまた重なる。

 彼女たちのコンディションは万全だ。そうなるように大淀たちが念入りに予定を立てているんだから当然だ。

 だから彼女たちが無事に帰ってくるのも当然でなくては困る。

 

「油断せずいけ。警戒は常に厳重に。火力は常に集中させて。被弾したヤツは明日から強化訓練をするって言ってる神通と矢矧の回避訓練に参加させる。戦艦組も休暇返上で参加させるから、気張っていけ」

 

 神通と矢矧の名前を出した瞬間、黙って俺の話を聞いていた艦娘たちがざわざわと騒ぎ出す。

 中には顔を真っ青にして震える駆逐艦もいたため、発破をかけるにしては過剰だったかもしれない。

 

「て、提督! 戦艦組もってのは、本当ですか……?」

 

 伊勢が少し焦ったような声で確認してくる。彼女は金剛型ほど高速では動けないため、回避運動は多少苦手なようだ。

 そもそも戦艦はその強靭な装甲で敵の砲撃を弾く重武装タイプの戦い方がメインなので、この条件では厳しいか。

 

「無論だ。ただ、流石に全弾回避に固執しては戦艦の持ち味を失ってしまうので、戦艦組はやむを得ない場合を除いて小破以上の被害を受けた者、にしておこう」

「む、むぅ……了解しました」

 

 まだ何か言いたそうな伊勢ではあったが、最低限の譲歩は引き出せたと思ったのか、素直に引き下がった。

 それに夜戦とはいえ十分に経験を積んで練度を高めた彼女たちは、そう易々と直撃弾を受けたりしない。当たるにしても、狙って装甲の厚いところで受け流すのがほとんどだ。

 油断さえしなければ問題無いだろう。

 

 まだ顔色の良くない駆逐艦が何人かいたが、それぞれ周囲の仲間に励まされて気を取り直している。

 うむ。頑張ってくれ。

 

「では提督。旗艦伊勢、以下十一名。出撃します」

「ああ。武運を」

「提督。旗艦榛名以下十一名、出撃します。勝利を、提督に」

「お前たちにも、武運を」

「提督。旗艦那智以下五名、出撃する。帰ってきたら酒盃の一つでも振る舞ってくれ」

「祝杯に関しては帰島後に霧島と相談してくれ。武運を祈る」

「提督。旗艦足柄、以下五名、出撃するわ。勝利の報告、期待してて!」

「足柄。お前はあくまで援軍だからな? 勝手に突撃するなよ? 武運を祈るが、この祈りが無駄になることを願ってるぞ?」

 

 一部の艦娘から、いささかの不安が残る意気込みを聞いたものだが、とにかく彼女たちは鎮守府を後にした。

 あとはもう、彼女たちの無事を祈るしかない。緊急連絡を受けて更なる援軍が必要になるかも知れないが、これでとりあえず俺の今日の仕事はほぼ終了した。

 昼戦組の出迎えが最後だな。明朝というか夜明けの一時間前に交代要員を送り出す時と、今出撃していったヤツらの出迎えの時にここに来るのが一番早い次の仕事だな。

 

 出港していった彼女たちの後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、横で同じように見送っていた霧島に声を掛ける。

 

「さて、戻るか。何か他に急ぎの仕事ってあったか?」

「いいえ、提督。特に急ぎの用件も、提督の裁可が必要な案件もありません。機雷設置の工作戦隊は先程予定海域に到着、作業開始したとの報告がありましたので、もう少しすれば金剛お姉さまの艦隊が戻ってくるかと思われます」

「お、そうか。今日はスムーズに行ったようだな。じゃあこの辺で待つか?」

「いえ、敷設作業の終了後の帰島ですから、流石にあと二時間は掛かりますよ」

「そうだったな。じゃあやっぱり戻るか」

「それがよろしいかと」

 

 今執務室に帰って待機しても暇なので、霧島だけ先に帰して、俺は鎮守府内をまたふらついて帰ることにした。




夜戦は連合艦隊がデフォなウチの鎮守府。
集中砲火の量を増やして、一気に撃滅したいんですよ!
なんでイベントの水上打撃部隊は第一艦隊がどっか行っちゃうんですか!
敵旗艦を逃しちゃうじゃないですか!
やめてください! あとちょっとなんです!
ほんのちょっとだけ連撃が決まればゲージ破壊できるんです!
戻ってきて、第一艦隊!
つーか、支援艦隊はなんで最初の一撃しか動かないんだよ!
おかしいだろ! 今こそ支援の時だろ!
\ガタンッ!/ うわぁぁあああ!

という思いをイベント毎に味わうので、当鎮守府ではそんな思いを反映させた運用となっています。
各艦隊の旗艦以外の娘たちも描写したかったのですが、三十二名もの名前だけで結構な紙面を使ってしまうので、断念しました。ご容赦を。
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