魔法使いと黒猫のウィズ 戦場のドルキマス外伝 元帥の幻想 作:烏零
「ごめんなさい、ディートリヒ、ごめんなさい……」
眼前にいる汚れた服を着た女、母が何度もうわごとのようにつぶやく。息は絶え絶えで、もう長くはないだろう。私は、それを不思議な目で見ていた。なぜ、この女は、ずっと謝っているのか、私には、それが理解できなかった。苛立ちすら覚えていた
母がボロボロになったシャツを掴む。母の目はうつろで、私のことが見えているかすらわからない。何か口が動いているが聞こえないため、顔を近づける
「お願い……ディートリヒ……生きて……」
母の息は、途絶えた
その最後の言葉に、私は困惑する
――――生きて?
――――自分のことは、どうでもいいのか?
――――私を見捨てれば、母はより長く生きることが出来たはずなのに?
母が死んだ、ということより、その行動の意味が分からず、ただ茫然としていた。何処からか砲撃の音が聞こえ、身を隠すため母を背負い近くの家屋に身を隠す。何かの物置のようだが、人気は無い、住んでいた人間はおそらく戦禍に巻き込まれたか徴兵されたかしたのだろう
壁にスコップが立てかけてある。それを取り、無言で穴を掘った。人ひとり入りそうな程度の穴を掘ると、そこに母を埋め、墓標代わりにスコップを突き刺す
勿論、母を悼む気持ちから作ったわけではない。ただそこに道具があり、それを作るのが習わしであるからそうしただけだ。今のこの国では、人が当たり前に死に、野ざらしになっていく。それでも母の墓を作ったのは、私が母に見せた唯一の優しさかもしれない
外に出て、煙で黒く染まった空を見る。周りは死者を抱き嘆くもの、人気の無い家に押し入る強盗、様々な欲望や悲しみが渦巻いている。私はそんな中、近くの死体を漁る。少しだが金が入っていた。それをポケットに押し込み、他の死体を漁る
別に、母から言われたからそうするわけではない。母は優しく、物を取られても笑って許すような大馬鹿者だった
そんな母や、私を捨てた父に、怒りを抱いている。私が生きるのは、二人に復讐するためだ
遠く、きらびやかな装飾に包まれた城を見る。その城と城下街は、私がいるようなスラム街とは対照的な、輝きに満ちている
よそ見をした私に、暴漢が襲い掛かって来る。その男の首を目がけ、隠し持っていた錆びた包丁を突き刺した。暴漢はすぐに動かなくなり、その体から金目の物を奪い取っていく
――――見ていろ
街の中心、その城にいるはずの国王を見据え、私は……ディートリヒ・ベルクは誓った
「必ず、復讐してやる……絶対に、絶対にだ」