モヤシで呪うハイスクール   作:谷原きり

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呪いの方が得意なのに占いばかりしていたのは多分平和な証

日曜日。それは、仕事や学業から解放された人々の安らぎの一時。

そのため、日曜日には、デートを行う男女が多い。

 

兵藤一誠もその一人。

 

『ごめんなさい、待たせちゃった!?』

『い、いや全然!俺も今来たばっかりだし!』

 

この二人のやり取りを初々しいと取るかテンプレート過ぎてつまらないと思うかは人によるかもしれない。俺は後者だった。

 

あ、占った兵藤が気になって覗き見中の俺です。気になって、といっても大したことはない。なんかヤバそうな結果だったので軽くサポートしてやろうかと思っただけ。

ヤバそう、というのも、『不幸がある』と言った、その不幸が致死レベルの高さなのだ。一応は級友。死なれたら教室の空気が悪くなる。べ、別に中学の体育の時に『はい、二人組作ってー』でボッチになって、その時に助けられた恩返しとかそんなんじゃないんだからね!

 

そんな風に脳内でツンデレつつ水晶玉から放たれる光をプロジェクターのように投影してコーラを飲む。気分は映画鑑賞だ。ポップコーンも用意している。

 

さて、兵藤のデート相手。天野夕麻というらしい彼女は、中々に端整な容姿の女性だった。楚々とした立ち振舞いの美少女で、中々見ることのないタイプ。

それを堕天使がしているのだから、笑えるというか。

 

監視していて、一目見てその気配が少し暗い光の力を宿すことに気づいた。堕天使特有の力の波動。肉体的には三下以下の俺は、危機の察知が必須。四六時中探知の網は巡らせている。それに知人の彼女?が引っ掛かるとは思わなかったが。

 

ありきたりなやり取りを終わらせた二人は、繁華街に向かう。兵藤は普段からは考えられないくらいイヤらしい目をあまり向けない。多分緊張でそれどころではないのだろう。手汗やばそう。

天野の方はというと…ちょっと不味い。時おり、嘲笑うかのような、悪辣な表情で彼を見下している。典型的な人間を見下す人外。

 

なんとなく察した。このままだと、兵藤はこいつに殺される。だから、罪悪感を感じつつもまじないを掛けてやることにした。

 

まずは準備。即座に監視に使っていた使い魔に彼女の髪を採らせる。ほんの数分で髪の毛を掴んだ小さな虫が飛び込んできた。

その虫を再度向かわせ、髪の毛を微塵に粉砕、溶かした蝋に混ぜる。その蝋を素材に魔法を使って蝋燭を作った。

 

何をするのかというと、歌う。アニメのキャラソン、恋愛系の歌詞。

歌というのは昔からよくある呪いまじない祈祷、そんな話は聞いたことがある人も多いはず。分かりやすいのは讃美歌。ただの人間にも如何にも神聖!といった雰囲気を伝える、力のある歌。

ならば恋愛系の歌詞の曲ならどうか。恋愛に関して、感情が増幅される。あれだ、喫茶店でラブソングが流れる程度に雰囲気に流してやるのだ。

ただ単に聴くだけで効果はあるのだが、流石に水晶玉越しに伝えるのは厳しい。しかしそこは呪術。魔力を込めて、特注のアイテムも使って色々と代用をさせてもらう。

 

天使は火から作られたという。堕天使もそれは変わるまい。なので彼女の代わりに髪の毛を混ぜた特製の蝋燭(芯を不純な聖水に浸したもの)を用意。火を点ける。その蝋燭の揺らめく様を心に少しばかり投影してやるのだ。

ただし気を付けないと、この蝋燭の火は消える。ハッピーバースデイトゥーユー♪なんてして消えた瞬間、彼女の感情が醒める。そうなれば死亡ルートまっしぐら。幸い、兵藤はよく気を利かせてデートしており、天野も悪くないらしい。ほんの僅かにでも恋愛感情が刺激されていなければ、そもそも火が点かない。それでも、点いたのは線香の先にあるようなごくごく小さな灯火。これを炎に変えるかは、兵藤のデート内容8割と俺の煽り2割による。

 

俺はアニメのキャラソンだったり48人集まったアレの歌だったりを歌う。明るいものではなく、なるたけ穏やかなものから始め、段々盛り上げていく。

 

…十数曲歌って、休憩。なんでこんなことしてるんだろうとか考えながら、天野の様子を見てみる。

案外、上手くいっているようだ。純粋にデートを楽しめているようだし、最初のあの悪辣な面は今やほとんど見られない。それどころか、頬が時折上気している。満更でもなさそうだ。

 

実は、少しばかり兵藤にも干渉している。性欲減衰の呪いを途中、慣れてきただろう頃に掛けておいたのだ。

これだけで、多分兵藤の対女性における欠点、過剰すぎる性欲は薄れ人並みになる。いやらしい視線が減るだけで、兵藤の人格的長所は生かされる。はず。

というか、この呪いは一定時間アソコが不能になるレベルのものなのだが、それでも人並みになる辺り、兵藤すごい。

 

最後らへん、歌う曲に迷って演歌入れたりもしたけど、終始穏やかにいちゃついてもらった。

…こうして出歯亀してるわけだし感謝しろとは言わんが兵藤。実は俺の喉という犠牲も、このデートにはあったのだ…

 

しかし、問題が一つ。

天野が、どうも思いつめた表情をしていた。デートも終わりだろう頃合いで。

 

…なにか事情があるのだろうか。決して脈なしではない、どころかかなり惹かれているのは火のようすと表情でわかる。見事な火になってくれていた。だからこそその表情が気になった。

 

「むぅ…ここで占って出る結果でもなさそう。直接会って占って話を聞いてみるべきかな?」

 

恐らく、兵藤は彼女に殺されはしないだろう。そう、たかを括っていたのだが。

 

天野が変身した。痴女に。

 

「げぶぉっふごほっ、げふ、な、何でげほっ!?」

 

飲んでたコーラ吹いた。蝋燭からは逸らしたが、めっちゃ噎せる。何事か話している内に、悲しそうに作り出した槍を構える。

ヤバい。

 

「い、『簡易呪法:狂乱の眼』、『簡易祝福:陽炎の衣』!」

 

あの世界の命中低下の呪いを即興で掛ける。次いで回避上昇の祝福を兵藤に。効くかは解らん、使うのなんざ初めてだ。ちょっとした力はあっても荒事に関わらずに生きてきたんだ、当然だ。それでも使える手札は多分それだけ。

祈るように槍の行き先を見て、安心する。兵藤の脇を掠めるようにして、地面に刺さっていた。

しかし危機はまだ去っていない。ヒステリックで、泣きの入った声を上げた天野は何度も槍を投げ付ける。慌てて呪いを重ねた。

簡易呪法:狂乱の眼は、効き目がたったの3秒。しかも1秒ごとに効果は半減していく、簡易と付くだけはある呪いだ。

しかし呪いを重ねることで効果時間は乗算される。効果も倍々になるので、かけ続ければどんどん命中率を下げられる。

十分に掛け終わる頃には、肩で息をする痴女態天野が泣きながら崩れ、それを見ていた兵藤が男らしく決意したような眼で近づいていく。

 

『ひぐっ、ごめ…ごめんなさい…私、っ、やっぱりダメ…来ないでっ…!』

『…俺、よくわかんないけどさ…デートしてて、たった数日の付き合いとはいえ彼女が泣いてるのに、なにもしてやれないなんて、嫌なんだよ』

『…っ』

 

俯く天野を抱き締める兵藤。ビクリと震えた後、彼女は兵藤にしがみついてわんわん泣いた。

 

そんなわけで。

 

「…エンダァァァァァァァイヤァァァァァァ」

 

ミッションコンプリート。




簡易呪法、簡易祝福
オンラインゲーム時代の技。神官系の職業が使える。
普通の神官は呪いを使いたがらないが、力のベクトルが違うだけで同種のもの。じゃなきゃ解呪とかできない。
呪いは三秒、祝福五秒と制限時間があり、時間経過で効果が著しく下がる。しかしボスなどの強力な攻撃に合わせられれば、かなり有効な手段となった。
ちなみに主人公は邪神官。文字通り邪神の神官だった。

あと作中の呪いは適当にそれっぽい理論を使ってるだけ。ガチのオカルトマニアには敵わないヨ!

あとイッセーをこの話に限りただのイケメンにしといた。安心してください、次から戻りますよ!
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