……実際にこんな感じの記者って居るんですかね?
ー1975年10月29日 日本 防衛省にてー
記者会見が始まろうとしている。
内容は、一昨日の事件に艦娘が関わっていた事に関する会見。すでに報道陣は集まり会見が
始まるのを待っていた。
そもそも、なぜ会見が開かれる事になったのか?
普通なら各メディアにFAXを送れば済む話だ。
艦娘はただ単に訓練後の帰還途中に巻き込まれたと宣言すれば良いだけだ。
仮に訓練の内容が明かせられないのであれば、技術協力のうんぬんカンヌンと茶を濁すことも出来る
だが事態は、世間は、メディアは、政治は、世界は、それでどうにかなる状況ではなかった
まず、世間では艦娘という存在に対しての印象・評価は別れている。
いつか提督が言っていた様に、世間やネット上では艦娘の事を“少女兵・違法実験による人間兵器”
といった評価がなくも無い。
そんな物は無視してもあまり問題無いのだが、問題なのは政府見解が未だに決定していない事だ。
というのも、“兵器”として扱うのか“人”として扱うのかで困っている。
……政府が困っているとは、とても弱々しい印象だがここは皆さんに理解していただきたい
なにせ兵器として扱うにはあまりにも見た目から抵抗がある。
それに、提督達や大本営も“彼女たち”と艦娘を表現し、人として接し、命令を出している。
何より個人の自覚がある
嫌がる物もあれば、好きなものもある、文句も言う、感謝もする
戦闘後には疲労し、血を流し、傷は再生し、食事をし、寝る
とても兵器と同じ扱いをするには、管理する方もされる方にも無理がある。
仮に兵器として運用し、噂が立ち、万が一情報が漏れれば………………………………。
まあ、情報が漏れなくとも目撃されるのを完全にシャットダウンするのは不可能だ、
女を兵器として運用している姿は印象の良いものでは無いのは確かで……まあ国民から嫌われるだろう
一方、人として扱うにも色々と問題が山積みだ。
彼女たちに人権が存在するのか、国籍の取得は可能か、そもそも人なのか…………とても書き切れない
それに、彼女たちがどこからやって来たのか未だにわかっていない、
唯一わかるのは海からやって来た存在だという事、つまり深海凄艦と同じ海から来た、ということ。
艦娘も人類の敵なのでは? と疑う者も少なくない
そのため、これもまた迂闊に決定すれば選挙に勝てない可能性があった。
おかげで政府どころか各政党でも見解がまとまっていない
考えてみれば当然だがこの艦娘に関する問題は外交問題や国内政策と違い、政党理念に基づいて判断出来る代物では無い、個人の価値観で判断するしかない案件だ。
いくら国会議員でも、人なのかどうか判断する羽目になるとは思わなかっただろう、想定外の事態だ
しかし、コレだけでは記者会見をしなければならない理由の説明になっていない
もう少し長文に付き合っていただきたい
さて、上では世間や政治の艦娘に対する価値観を書いたが、
メディアも同じでコメンテーターや記者で意見は別れている。
好意的な考えも、週刊誌みたくスキャンダルな報道も、ありもしない噂で論評も起こっている。
一応、鎮守府内には艦娘たちにそういった情報が流れないよう、情報の遮断はされてはいるものの、
完全には不可能なわけで、本人たちも悩んでいる事の1つでもある。
しかし、世界規模ではさらに面倒な事になっている
さかのぼる事1年前
まさにスネーク達が核武装を遂げたコスタリカでの“ピースウォーカー”に対処した直後の時期
その頃、深海凄艦が最初に行った攻撃……アメリカ船籍の貨物船が沈没した頃、日本に艦娘が現れた
詳細は省くが、この時日本政府は彼女達を信用できず軟禁した。
だが、貨物船の沈没から1ヶ月後に行われた大規模作戦の直前、彼女たちの情報の正確さがわかり、
自衛隊に艦娘の管理を極秘に命じ、彼女たちは大規模作戦に合流するハズだった。
しかし、記憶があるとはいえ慣れていない状況……艤装に慣れていない状態では艦隊運動に苦労し
合流は不可能だった。
それでも情報だけは生かされ、致命的な軍事力の消耗は回避されたのだ。
問題はその後だ
人工衛星がある時代、しかも民間の衛星がある時代、情報は世界中に深海凄艦が活動していても届く
作戦が失敗し
艦娘という存在が世界中に知れ渡った。
各国のメディアは彼女たちを批判し、
その存在があまりにも不自然だという事、作戦に参加できなかったのは日本の策略だ、と。
世間では想像・妄想が膨らみ、噂として沿岸地域の混乱と共に広がった。
おかげで海外では極端に印象が分かれている、ある所では天使・英雄、別の場所では悪魔・化物
……映像や画像が流失していないためにその思い込みは激しさを増している
その一方で、軍人・諜報員には深い関心をもたらす事になった。
・海上で艦船以上に軍事的に行動が可能
・しかも深海凄艦という化物相手に渡り合える火力
・そしてその特徴的な武器と存在
関心を持たない訳がない
事実、スネークまでも情報を引き出す程に艦娘の存在・謎の解明には価値がある。
また、その希少とも言える戦力の確保は各国間で争われていもいる。
今のところ、艦娘以外で深海凄艦と渡り合った軍事集団は1つも存在しない、
正しくは、誰もやろうとしていない
なにせ現代兵器による史上最大の作戦が失敗したのだ、致命的な軍事力の消耗は回避できたものの
成功の見込みの無いモノに人員も物資も回せない、回さないのが軍隊の基本だ。
さらに混乱の鎮圧も必要のため深海凄艦と対抗しようとなど思わない。
だが楽に、戦術的に武力を展開できるなら話は変わる
世界の救世主……になるかは知らないが、少なくとも資源と領土を独占的に確保する事が可能になる。
実際、日本は反抗作戦や出撃によって最低限……スネークがアメリカから日本に渡れる程度には
制海権・制空権を確保し鼠輸送や護衛を行いその報酬として資材・燃料を得ている。
日本は軍を持たないため威嚇していないが
艦娘という軍事力は核並み、それをも上回る抑止力になり得る。
そのため…………艦娘の鹵獲作戦も計画され今も動いていた
つまり、艦娘という存在は世界から注目を浴びているのだ
……その注目が良いのかどうかはさておいて、冒頭で書いた答えはただ単に「関係無い」と宣言する
のは不可能、仮にやっても無意味だという事が理解できるだろう。
もしFAXなどで済ませれば
国内では勝手な憶測を呼び政治が混乱し
海外ではトップニュースとして報道され
艦娘は海外での展開が難しくなり
そして…………艦娘が突然消える可能性が高まる。
流石に艦娘の拉致は言い過ぎだが、艦娘が勝手に海外に亡命しかねない。
そうなればもはや打つ手が無くなる。
防衛省内に設置された大本営の会議室で、提督は国内での艦娘の捉え方による士気・精神面への
影響を懸念していたが、彼の上司……上層部は海外からの圧力や視線を懸念していた。
もっとも、どちらの考えも重大な懸念材料である事は変わり無い。
そのため艦娘本人ではないが、彼女たちを管理している提督の顔ごと出す事で、注目をそちらに集め
今まで誰も知らなかった……艦娘は弱いという事を会見で発表し、参考人招致も乗り切るという魂胆だ
そんな訳で、いま提督と広報官2人には 様々な視線や思惑から思いのほか重い重圧が加わっている
……もっともこの様な重い捉え方をを広報官2人はもちろん提督はしていない。
何せ今まで書いた内容は、彼らが知らない所で発生している事のがほとんどだ
“なんでも知っている人”でもなければ、この会見が意外と重要な事を知らない、理解できないだろう
そんな背景がある中、記者会見場に提督達は入ってきた
「只今から、先日発生しました事件に関する会見をさせていただきます」
進行役がそう言った後、私たち3人は軽く礼をし席に着く
「左から〇〇一等陸尉、〇〇2等陸尉、横須賀鎮守府提督です。
まず、〇〇一等陸尉・〇〇二等陸尉から説明があります」
そう言って、最初の説明を始めた。
私はただ何もせず、じっと話す時まで待つだけだ。
今説明をしている内容は殉職した隊員についての説明と、負傷した隊員達の容体、品川に居た理由だ
一通り説明し終えた後、記者から手が上がる
進行役が許可を出したあと、質問が来た
「毎朝新聞の東(あずま)です、昨日◽︎◽︎氏が今回の事件の調査委員会で参考人招致を求めたのは
ご存知でしょうが、発言の中に「何故兵器の護衛で血が流れたの」かという発言がありました。
何故、艦娘の護衛を自衛官が担っていたのでしょうか?」
予想していたより優しい質問だったが、答え様によっては爆弾になる。
……出番か
「それに関しては横須賀鎮守府提督から説明して貰います」
広報官の言葉で、私の方に目線が集まった
……殺気に慣れてしまったからか全く緊張しない、困ったもんだ
「では、私から質問に答えさせていただきます。
と言っても答えはシンプルで、護衛が必要だったという事です。
具体的に説明させていただくと、かn……艦娘は陸上で武力を展開できません、
また、艤装を扱う事が出来る事以外では少女となんら変わりません。
そのため、艦娘だけでは緊急事態に対応できないので、
陸上自衛隊に移送中の護衛を私が大本営を通して要請しました」
全てが真実ではないが、嘘は言っていない。
確かに体力や身体スペックは訓練された兵士並だが少女と変わりないのはすでに証明された
また、陸上での艤装の展開はできても行使は出来ないに等しいため彼女たちには禁止している。
大本営を通して防衛省に依頼のを通した事にもなっている
「では……艦娘は弱い、という事ですか?」
「その認識に間違いはありません」
会見場がざわつく
それもそうだ、上層部ですら交流戦の結果に動揺した。
ましてや深海凄艦と戦っている艦娘の認識は良くも悪くも“とても強い”という概念で成り立っている
その真逆の事を、彼女たちを管理している提督の口から認めたのだ、驚くだろう
「もう少し説明させて頂くと、艦娘は専用の武器を持ち深海凄艦と戦い、艦船としての特性を持った
艤装を装着し海上を航行する事が出来る存在です。
艦娘はそれが出来るだけの存在であり、それ以外で人となんら変わっているところは見つかって
いません。しかし、深海凄艦とまともに対抗出来るのも今のところ艦娘だけです。
そのため護衛が必要でした」
「では、そもそも移送する必要がない様にすれば良かったのではないでしょうか?
海上を航行し鎮守府に帰還する事は可能ですよね?」
「残念ながら、それは危険です。
一昨日実施した実験に参加した艦娘は23人、この多人数で航行すれば確実に深海凄艦が来ます。
実際、7人以上で艦隊を組んだ場合深海凄艦が突如出現・攻撃して来るのはすでに実証されています
それは深海凄艦の方も同じで、こちらも探知する事が容易になります。
そのため深海凄艦も最大でも6隻でしか1艦隊を組んでいません、艦娘もです。
もし23人もの人数が固まり航行した場合、どんな事態が発生するかは見当もつきませんが、
危険なのは確かです。そのため陸路での帰還を行い、護衛を陸上自衛隊に要請しました」
「……ありがとうございました」
ここまでまくし立てればひとまず安心できる、一番マズイのは彼女たちの外出禁止だ、
士気にも関わるが、そんな事を我慢する彼女たちを私は見ていられない。
だが、彼女たちや深海凄艦の性質と結びつければ理由になる
更に被害を出させるべきだなんて考えはないし、自衛隊との連携を止めるべきだなんて考えは
外道だろう。
この会見の意義……艦娘の擁護は成功だ
仮に私の発言は嘘だろうと決めつけようとも、だからと言って彼女たちを外出禁止にするべきだとは
言えない、そんな事をすれば、艦娘や深海凄艦の謎を解き明かす事ができなくなる
という事にした
……実際は彼女たちに休暇を取らせたいだけなんだが、
そんな事を言えばいいバッシングの材料で、上層部にもそれ相応の迷惑をかける事になる。
流石に謎を苦手ではあるが迷惑をかけるのは後々面倒になる、なのでついでに働くか。
また別の記者が手を挙げた、恐らく上層部が面倒がっていたアレだろう
「週刊現在の伊藤です。それで今回の事件と艦娘には関連があるんでしょうか?」
「……現在も警察と連携しながら調査中です。
ただ、今のところ関連性があるという証拠は上がっていません」
「しかし、否定できる証拠もありませんよね?」
「そうですが、ココで私が関係ないと発言しても、貴方が勝手に書いても憶測に過ぎません。
断定する事は不可能だ。私からは以上です」
「………………」
「では他に質問はありますでしょうか?」
ないだろう
すでに広報官らの説明で自衛隊に責任がない事は説明された。
そのほとんどはスネークの言葉を引用したものだが
そして艦娘について どうこう言う事も無い。
せいぜい憶測を社説として掲載する以外私の言った事を報道するしか無い
嘘や妄想を書き並べ拡散するのはネット住人の仕事であって、報道関係者がやる仕事ではないだろう
「ではコレで記者会見を終了させて—–」
「艦娘を女性として扱い、時には悪戯を働いているという噂がありますが!?」
……おい、今までの雰囲気ぶち壊しだ
この流れでわざわざ質問に来た馬鹿は……ああ、適当な週刊誌か
他の記者も哀れんだ目でその記者を見ている
「一昨日の事件に関しての会見ですのでその質問には答えかねます」
「悪戯も国家機密ですかぁ〜!?」
進行役が止めようと答えたが、なんか面倒な事になったようだ
……答えるか
「あえて答えます、その様な事実は無い、噂に過ぎません。何か?」
「誰でもそう答えますよぉ〜?」
「今日は噂話を検証する場では無い」
「・・・はあぁ〜!?」
…………ああ、こいつ馬鹿だ
世間が騒げば何でもいいと思っている、周りに迷惑しかかけないタイプだ
実際、今もテレビ局のカメラに被っている、編集が大変になるだろう
「では会見を終了させていただきます」
「ちょっと!まだ答えて無いですよ!!」
だが他の報道関係者までも席を立った
私たち3人も一礼した後、そのまま帰った
……そうか、ただ単に映像をカットすればいいだけか