1975年11月23日横須賀鎮守府、明朝
そこには一隻の船がいた。
元は捕鯨船として活躍し、一昨年その役目を果たしやがて消える存在だった。
……がその船に手が差し伸べられた、差し伸べられた手の居場所は
OUTER HEAVEN
天国の向こう側からのそれは果たして一筋の希望なのかわからない。
だがこの船はそれに相応しいほど様々な困難に遭遇する。
これから起こる出来事はその第一歩だ
$『おはようございますBOSS!!』
「……お前ら日本語を喋ろ、俺は良くてもこいつらが理解できなければ意味が無い」
『失礼しましたっ!』
「……すまんな、こう言う奴らだ」
「そう言えば皆さんも最初こんな感じでしたものねぇ……」
「えっ……そうなの?」
「私は質問しようとしましたけど夕張さんが地雷踏んで怖くて怖くて……」
「ああ〜改造方法を教えてって聞いてきて他が夕張さんを消そうとしたやつね」
「そうです」
「秋月ちゃん……まだそれ言う?」
「まぁ今は全然恐怖感は無いですけどね」
「朝からスゴい話聞いちゃったわねぇ……」
……そう言えばそんな事もあった
最初の頃のこいつらみたいな事は起きないだろうが、言っておいた方が良いだろう
「お前ら、元気なのは構わん、俺もやりやすいからな。だがこいつらは味方だ、敵じゃ無い。
これから一ヶ月近くこの船もそうだがこの船団を護衛してもらう。
何らかの問題も起きるだろうがその時は俺を呼べ、何もするなよ」
『……了解です』
「お前たちにも言っておく、こいつらは俺の部下だ、信頼できる。
だがこいつらはお前たちを信じていない、お前たちもそうだと思うがな。
だから何か問題が起きたらすぐに誰か呼べ、そうすれば話し合いが出来る」
『はい』
「あと全員の共通事項だが……」
『仲間にナイフを向けるな、銃口を向けるな』
船に乗っている連中が声を揃えて答える
「そうだ、ここにいるのは全員味方だ、仲間だ。それだけは頭に入れておけ」
……俺が言うような事でも無い、正直疲れる。
あとは部下の連中に任せるか、まだ時間もあるしな。
「BOSS、どちらへ?」
「俺は提督に話がある、こいつらに案内してやれ。
若い奴には若い奴がやった方がゲストも頭に入るしな」
「若いって……俺はもう30ですよ」
「十分若い、まだ8年だろ?」
「わかりました わかりました、ガイドを務めさせて頂きます」
「そうしてくれ」
そう言ってからタラップで一旦鎮守府に戻る
……葉巻もついでに吸っておくか
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「……さぁてここで立ち話も何だ、中を軽く案内したいが時間は大丈夫かい?」
「ええ、1時間くらいなら」
「それならよかった、総員起こしまでには終わらせるさ」
そう言って“若い”隊員が21人もの艦娘たちを奥へ誘導する
その後ろにいつもの5人もいる。
「おっ!久しぶりだなティム!!」
「お前っ開口一番がそれかよ、まぁ元気そうだな?」
「元気も何も、こんだけ可愛い子がいればどんな場面でも男なら元気になるって」
「あらぁ〜それには私もカウントされてるのかしらぁ?」
「大丈夫大丈夫!エアーは可愛いじゃなくて美人だから」
「それはどうもっ」
「あ、あの〜」
「あっごめんね、こっちだけで盛り上がって。
いやぁ日本にいてもいつでも会えるわけじゃ無いからねぇ」
そう言って若い隊員が艦娘の方を見る。
目は青く、背が高い典型的な外国人そのものだ。
「まず俺の自己紹介。
名前はルイ、まぁ知ってるとは思うけどBOSSの部下だ。
いやぁ改めてみんな可愛い!日本にいて良かった!」
そう言われ艦娘の面々は苦笑する。
それもそうだ、面と向かって可愛いと言われることなど鎮守府の中で常に生活していれば早々無い。
「まぁ俺が喋るだけっていうのもみんながつまんないだろうし、
俺もみんなと話したいからこっからは案内しながら質問タイムって事で。
俺の事でも船のことでも、何ならBOSSの事でも何でも聞いてくれっ。
あっ、機密関係は無しね、そこの管理人に消されるから」
「誰が管理人だって?」
「ウェーバー以外に誰がいると思う?」
「そういう誤解を招くことを言うな」
「はいはい、まぁとりあえず移動しようか。みんな着いてきてねぇ」
そう言ってルイは先頭を歩きガイドをし始めた。
まずは艦橋だが、早速質問が来た。
「はいはーい、ルイさん!」
「何だい?あっ、ついでに名乗ってくれる?俺わかんないから」
「駆逐艦の白露って言います!
早速ですけど、ルイさんってどの部署担当なんですか?」
「……なんか早速深いところ突っ込むねぇ……」
「聞いたけど、後ろの5人は元々戦闘班でフォレストさんは医療班にも居たんでしょ?」
「何だお前ら、言ったのか?」
「だって隠す意味無いし」
「……それもそうか。俺も元は戦闘班だったけど今は諜報班で支援を中心に扱ってるかな」
「支援って砲撃支援みたいな?」
「おいおい、日本でそんな事やったら君たちにはもちろんこの基地から攻撃されちまうよ。
そもそもそんな話聞いたこと無いだろ!」
「じゃあ何の支援なんですか?」
「物資の輸送、管理だ。日本じゃほとんど必要無いけど」
「だからって日本一周するバカがいるか」
「……日本一周って?」
「……このバカ、深海棲艦が出てきて暇になったら自転車で日本を回ったんだ」
「はいぃぃ!?」
「いやぁ楽しかったぞ?北九州の方で砲撃くらいそうになったけど」
「なんかぶっ飛んでます……」
「まあ質問の答えとしては暇な部署に居ますってところかね……さて着いたぞ」
案内としてまず着いたのは船の中枢である艦橋だ。
もっとも捕鯨船は大きくても900トンぐらいの船舶である事、そもそも捕鯨のための船であるため
艦橋は駆逐艦よりも一回り小さく、高さも無い。
その代わり、クジラを捜索するため高い見張りようのマストがある。
「艦長、ゲストをお迎えしました」
「……入れ」
「入ります」
今まで明るかったルイの声が冷たく、低くなる。
それだけ真面目な場面だとすぐ察知し、艦娘たちも背筋を伸ばす。
重そうな艦橋へのドアが開き、中に何人か居た。
「……艦長、意見具申よろしいですか」
「構わない」
「・・・話し方もう戻しません?」
「……だな、肩苦しいのは私も勘弁だ」
「というわけで紹介お願いしますっ」
「紹介承った私が艦長の沖田だ、ありきたりな艦長名で悪いな」
「まぁまぁ格好いいじゃ無いですか」
「……さて、他も紹介してやれ。私は人見知りなんでな」
「艦長が人見知りとか致命的っw」
「笑うなよっ」
とか言いながら艦長自身も笑い出す。
それを見た艦娘たちは驚きを隠せない、それを見たルイがフォローに入る。
「ああ、こんな感じだけど本当に艦長だから。
元々この捕鯨船で船長をしてた人で、そのままに流れで雇ったんだ。
他の艦橋メンバーもこの捕鯨船で働いてた人達だから階級とか無いんだよ」
「こっちもやりやすい、何せみんな軍人なのに堅苦しく敬う必要とか無いんだからな」
「ちょっとは敬ってくれても良いんですよぉ?」
「一生無いな」
「へいへい……じゃあ艦長のご命令通り他のメンツも紹介する」
「今度は私かね」
そう言うと明らかに他より歳を食っている男がこっちを見た。
「この人は赤松さん、この中じゃ最年長かも」
「明らかに歳を食ってる私に かも、とはどう言う意味からだい?」
「だってこの子たちって元々軍艦なんですよね?
……産まれた歳の定義が決まって無いじゃ無いですか」
「…………確かになぁ」
「まあ続けますよ。
んでこの人は航海長、この船の操舵には一番慣れてらっしゃいます」
「お前さんがそんな敬語を使う意味がわからん」
「だって赤松さんもうすぐ60でしょ?」
「まだ50になったばかりだ。まあ若かぁ無いが気軽に接してくれや」
「ほんでもって奥に居るのが書記の山田」
「良く学級委員長って言われる山田 智明だ」
学級委員長という紹介に全員が笑い出す。
そんな中吹雪だけが何故か首を縦に振り共感するような素振りを見せていた。
「さーて、質問は?」
「では私から、あっ霧島って言います。この船のスペックを教えてもらえますか?」
「じゃあ……操舵関係だし赤松さん答えて下さい」
「うむ、この船は最大船速が30ノット。回頭180度が20ノットで10秒くらいかね」
『早!?』
「ん?捕鯨船はこんなもんだぞ」
「なんで駆逐艦並みの機動力が?」
「クジラを捕まえるためよぉ、このくらい動けなきゃ捕まえられんから。
あいつらはあの巨体でも10ノット以上で泳ぐからなぁ」
『へぇ〜〜』
「……なんか社会科見学をやってる気分になるなぁ」
「あのぉ……あの艦首にある長10センチ砲見たなものは……?」
「あれか?あれは本物の砲だがぁ……」
『・・・はい!?』
「赤松さん……そういう誤解を招く事言わないで下さい」
「……まあ正しくは捕鯨砲や。早い話銛を発射する砲なのだよ」
『へぇ〜〜』
「……本当に見学会だなこりゃ。
おいルイ、お前はまだ案内するんだろ?時間も限られてるんだからさっさと次に行け」
「それもそうかっ、じゃあ沖田さんまた後で」
「おうよー」
そう言って艦橋から出て行き、今度は甲板に出て行く。
そこには先ほどタラップでスネークに挨拶をしていた面々が何人か居た。
「あの人たちは何を?」
「まぁ出航への最終調整と、色んな準備、下ごしらえって言った方が正しいかな」
「それって……カタパルトとかかい?」
「おっ!良くその単語が出てきたね、もしかして君……航空巡洋艦?」
「うん、僕は最上って言うんだ」
「なるほど、最上か……けどカタパルトとはちょっと違うかな」
「じゃあ何を?」
「そいつはとっておきだ、見てから楽しみにするかそこにいるティムに聞くんだな」
「げっ俺かよ」
「だってお前も手伝うんだろ?」
「ああ……まあな」
「ティムさん、何するの?」
「言ってみればそうだね…………とりあえず銃座だね」
「それって輸送船に付ける機銃かい?」
あまり知られていないが、輸送船にもある程度機銃が設置されて居た。
それらは自動で撃てるようになっており、敵機が容易に近づけ無いようにする働きがある
…………ように設置されたものの、敵機からみれば同じ場所にしか常に撃っていないため回避が容易で実質的には威嚇程度にしか効果がなかった。
「おいおい、そんな安っぽいものを取り付けるとでも?」
「お前言い方が上からすぎる」
「あっ……ごめんね」
「はぁ・・・、まあルイの言った通りただ弾が出るだけの物を設置する気は無いよ」
「それじゃあ……なんだい?」
「固定機銃、重機関銃、対空機関砲、あと簡易的な観測機器だ。
他にも色々付け加えたいんだけど……日本じゃ目立つから航海中にね」
「そうなんだ……」
「まっ後々航空機の運用は考えてるけどね」
「私たちも航空機ぐらいなら相手にできるからね〜」
「へぇ〜けど私たちが頑張りますから!」
「それは心強い!」
((正規空母6隻の波状攻撃を1人加わっただけで無傷で切り抜いた人たちよ……))
などと高雄・摩耶の2人が思っていた時、隣の秋月の様子がおかしくなっていた!
「ははははは………」
「あ 秋月?お前どうしたんだ?」
「いえぇ本当にやっちゃうんですからぁ……」
〔……摩耶、何とか出来ないの?〕
〔何とかって……どうすれば良いんだよ〕
〔だって秋月ちゃん明後日の方向向いちゃってるし……〕
〔まあ時間が解決してくれるのを待つしか——〕
「あのねぇ秋月ちゃん、私たちはたしかに敵機なら撃ち落とせるけどそれだけしか出来ないの!
魚雷も主砲ほどの火力も私たちには無いの!だから自分の出来る事をやって?
私たちは出来る事をやってるだけなんだから」
「マーリンさん……!」
「おー何か青春みたいだ」
「……ルイ、関心してないで案内してやれ」
「そうだなっ この甲板上にはあんまり用は無いし、みんなのおかげで作業の邪魔にもなりそうだ」
「それは可愛いからかしら?」
「ああ、こんな大勢の素晴らしいゲストは来た事が無くてね。
おかげさまで皆んな緊張して作業が進みそうに無いからなぁ」
「あらお上手ですね?」
「貴方のお褒めに感謝します、して名前は——」
「ちょっと!千歳お姉に馴れ馴れしく触らないでよねっ!」
「……それもそうか、失礼した」
「ちょっと千代田ー、良い感じだったのに……」
「えぇ何よそれぇ……」
「ほら2人とも次行くわよ」
エアーに言われ ちとちよ の2人は集団に着いて行く。
ルイは次に船の宿舎とも言える居住区へ案内する。
だが、そこは……………………………………………………………………………………………………………………………
「次はここなんだが……ここで最後だし俺の案内はここまで」
「えっ?じゃあ誰が案内を?」
「おーい!パッツィー!」
「……何かしら ってゲストさん達?」
一番手前にあるドアから突如女性が1人現れた。
一言で言うと おなじみの3人組より身長は同じ位でも とある部分が出て谷が存在する。
「みんなに紹介する、この人はパッツィー。ここの船医兼寮母さんみたいな人」
「何かしら寮母さん“みたいな”人って?」
「だって寮母さんは嫌だろ?」
「……まぁまだおばさんじゃあ無いわ」
「えっと……何でルイさんじゃなくて新しい人が?」
「ここからは男子禁制だからよ、BOSSはさすがに入れるけど基本的に緊急時以外入ったら……」
そう言って右手にスタンドロット・左手にサバイバルナイフを取り出す
「容赦しないわ」
『…………………』
「えっと、みんな引いてるけどコレはマジだから俺は撤収する!それじゃあ後は頼んだぞ!!」
「はいはい、じゃあ皆んな入ってきて。部屋を決めないとね」
そう言っていつの間にか両手には何も無く、ルイも下の方に向かっていった。
ちなみにウェーバーとティムも軽くパッツィーに挨拶した後どこかに行ってしまった。
「それじゃあ改めて、私の名前はパッツィーよ。
さっきルイも言ってたけど私は医者、あと この部屋の管理人かしらね」
「…………えっと」
「ちなみに、何で脅しまがいの事を最初にしたかって言うとここは女子の聖域だから。
それを守るのが私の役目だから 初めて来た2人に教える必要があったからです。
怖がらせてすいません」
「あなたが素直に謝るなんて……」
「ちょっとフォレスト、それどういう意味っ?」
「ふふ、あなただって自覚してるでしょう?」
「……そうね、ひと昔前ならありえないわね」
「……フォレストとパッツィーはフレンド、デスか〜?」
「まあ同期みたいなものかしらね?」
「そうね……ってまだ1年くらいだけど」
「そうだ金剛、いい問題出してあげようか?」
「ウン?なんデスかエアー?」
「私とパッツィー、どっちが年上だと思う?」
「What⁉︎・・・アァ・・・ちょっとわかんないネェ」
「だってさ」
「はいはい、じゃあ部屋割りしますよ。まず3人グループ作って!」
そうは言っても大体同じ艦種・鎮守府で固まっているため、馴染みのあるメンバーで固まった
7グループが出来上がった。
「それじゃあこのカード1人一枚もらって、部屋の番号だから」
そう言ってパッツィーが1人1人にカードを配る。
「これって……鍵ですか?」
「そうだよ、ここのドアはオートロック式だから常に首にでもかけて持って無くさないでね。
私に言ってくれれば新しいの支給するけどみんなのお給料から天引きされるから」
『ええ!?』
「当然よ、何事もお金がかかるの。あとそのグループのメンバーとは同じ部屋番号じゃ無いからね」
「あっ本当だ、私201だ」
「Ohブッキィもデスかぁ!私もネェ!」
「えっ!皆んな混合なの?」
「なんデスか!?」
「いや皆んなが“金剛さん”って意味じゃ無いと思います……」
「まっ私も201だからよろしくっ!」
そんな優しい(?)寮母さんの計らいで鎮守府・艦種・そして何よりエアー・マーリン・フォレストも
混ざった部屋割りが完成した、完成してしまった。
中身はこうだ
201.金剛・吹雪・マーリン
202.高雄・霧島・千歳
203.白露・長良・白雪
204.摩耶・叢雲・エアー
205.秋月・最上・深雪
206.夕立・名取・初雪
207.村雨・三隈・五十鈴
208.時雨・千代田・フォレスト
「何か心配なひ——」
「201で吹雪ちゃんがストレスまみれにならないか心配」
『何で(デス)!?』
「……私がフォローに入るから大丈夫よ、部屋もすぐ隣だし」
「そうね」
「じゃあ各自荷物……ってそれはまだか、まあ部屋を見る前にルールだけ教えるね」
そう言って一枚の紙を取り出す。
そこには確かにルールが書かれていた。
「……これがルールですか?」
「そうよ、変わってるけど簡単でしょ?」
—ここでのルール—
1.全ての行動に責任を取る
2.他人に迷惑をかけない
3.以上を守れない人は営倉で過ごす
「何か質問は?」
「じ じゃあ夜更かししてもいいっぽい?」
「ゆ 夕立ちゃん、いくら何でもそれは——」
「いいわ」
『いいの!?』
「……何で聞いた本人が一番驚いてるの……」
「だ だってここは寮なんでしょ!?
いつもは寝なかったら提督とか大淀さんにスゴく怒られるっぽいし……」
「……誰か翻訳してくれないかしら、コレはいつも怒られているって認識で良いの?」
「あっ夕立は口癖でいつもポイポイポイポイ言ってるだけでーす。
なので普通なら怒られるっていう認識で間違ってません」
「そうなのね……まぁありがとう。
まあ普通はありえないけれど、ここでは他人に迷惑かけなければ何でもOKよ。
だから夜更かしも他の人に迷惑かけなければ良いわよ」
「そうなんだ……」
「ただし!!」
パッツィーが声を張り強調する。
「それで任務がいつもより悪かったとか、訓練に集中できなかったとかは止めて。
この船団に迷惑どころか命かかって来るから」
「…………………」
「だから夜更かししても良いけど“他人に迷惑をかけない”、わかったかしら?」
「……ぽい」
「……コレは“はい”って返事?」
「そうです!夕立はこんな感じです!長女の私が保証します!」
「そっそう」
それを保証されても……ねぇ、と思いながらもそれに突っ込めば話が進まなくなると判断し、
パッツィーは他の質問を受け付ける方を選んだ。
「じゃあ他には?」
「では起床時間や就寝時間は無いのですか?」
艦娘の中で、一番ルールに厳しそうなメガネキャラ。
霧島をパッツィーはそう判断し質問に丁寧に答える。
「そうね、うちの組織は結構特殊で部隊ごとに仕事が違うの。
例えば技術班にいるティムは今回改装担当で夜中心に作業することになってるから20時〜08時までは必ず起きて作業する事になってるわ。
一方でさっきのルイは観測者だからローテーションで起きてる時間がばらばらよ。
それなのにいちいち全員集めたり集会するのはここは無駄だって思ってるから自分で時間は決めて。
もちろんここでだけならいつもしてる総員起こしをしても良いけど」
「……ではどうしますか」
『各自自由でっ!』
「……みんなはそう思ってるみたいよ?」
「……わかりました」
「だが生活のリズムを崩すのは止めておけ、思い通りに体が動かせ無くなるからな」
突如、全員の後ろから男の声が聞こえて来た。
振り返るとそこには何故かスネークがいた。
「久しぶりです、BOSS!」
「悪いな、こんな大人数を押し付ける形になって」
「いえ、この子たちのおかげで私たちは動けるんですから。
生活の世話ぐらいどうって事ありません」
『……………………』
「……そういえばここは男は厳禁だったな」
「いえいえ、BOSSは特別ですよ」
「…………この視線には耐えられないがな」
「それもそうですね、けどたまには顔を見せて下さい?」
「出来ればお前の世話にならない様にしたいが」
「無茶しなければ良いんですよ」
「それもそうだ、なら他の連中の顔も見てくる」
「そうして下さい、全員BOSSの顔を見たいでしょうし」
「そうかならそうするか。……そういえばこの船の名前は聞いたか?」
艦娘の全員が首を横に振る
それを見てスネークはこの元捕鯨船の名前を答えた。
「……ようこそ 平和丸へ」
07:00 横須賀鎮守府港湾沖
まさに横須賀鎮守府の目の前には蒼々たる光景が広がっていた
普通輸送船3隻、計1.5万トン
改装自動車専用船2隻、計30万トン
普通貨物船3隻、計40万トン
さらに捕鯨船が1隻が加わり、護衛の艦娘が輪形陣を組み計9隻の船団を取り囲む。
その光景はまさに大船団という他ない
その港湾に1人立っている男が居た
もっともいくつとも言えるツラ構えだが、その周りに存在する風格は威厳がある
そして他にも何にもの艦娘が見送りに来ていた
「提督、スネークさんと何を話したんです?」
「何の意味もないたわいもない話ですよ、強いて言うなら他所の鎮守府からの艦娘が多いから
あまりコキ使うなとは言っておいた」
「あらそうでしたか………………けど」
「ああ、それなりに大変だろうな」
スネークには言わなかったが、いくら航行しないとはいえ戦艦がしかも2隻も一緒に同伴するのは
異例のことである。
理由は説明したが事態はそれより酷い可能性もある。
もし強行偵察によって施設建設が急ピッチで進められていれば、2週間あれば不完全であっても
ある程度、少なくとも周辺の輸送航路に脅威を与えるには十分な運用が展開できる。
そうなれば連合艦隊を差し向ける必要があり、しかも防衛も激しく、鎮守府の消耗も回避出来ない。
その様に考えた結果、提督は金剛型の派遣を佐世保に依頼した。
佐世保の提督も負けず劣らずの変人であり、柔軟な発想もあり話ができる。
詳細を聞いた結果これを了承、結果金剛と霧島がやって来たのだ。
もっとも2人には別の任務も課せられているが。
「……だが、あの連中なら大丈夫だろうな」
「それは……スネークさん達の事ですか?」
「……ああ、鳳翔さんもそう思わないかい?」
「……………ええ、ですが今からは——」
「わかっている、今日から作戦会議だ」
彼の頭にはつい1時間ほど前にスネークと話した言葉が反芻していた。
“良いか、前にも言ったが常に最悪の事態を想定しろ。
指揮官なら常に相手を過剰評価しろ、それだけ相手を警戒出来ていれば部下も油断する事は無い自分たちにとって都合が悪い事を考えろ、常に劣っていると思え、それが正体不明の敵なら尚更だ。
そして…………………………………………最悪の事態を乗り越える方法を考えておけ”
「ロワザル!無線の調子はどうだ!?」
「全艦との感度良好、ジャズも流せます」
「流すわけないだろうが」
《こちら旗艦の長良です、全艦問題はありませんか?》
無線機から連合艦隊輸送部隊の旗艦を務める長良の声が流れる。
「赤松さん」
「おうよっと」
航海長が汽笛を出すレバーを引く
他の船からもそれぞれ低く、かつ力強い音が響いた
《……では出航します!》
「機関室!」
《いつでもどうぞぉ!》
「錨上げ!」
甲板から艦橋に向かって旗が上がる
「よし、両舷前進微速」
「両舷前進微速、よーそろー」
スクリューが動き出し、軽く船そのものが振動する。
同時に少しずつ風景が動き出した。
「随分……パワーがあるな」
「ああ、この船は排水量こそ少ないが力強いだろ。
ディーゼル機関ではあるが軽いおかげで速力と加速力はあるんだ」
「そうなのか……それで、ここから目的地まではどのくらいかかる?」
「山田!」
「約12日、12/4 15:00到着予定です。
航路はまず南鳥島南東5kmで転舵、その後目的地へ直進します」
「もっとも之の字航法にはなるがな」
「ああジグザグ航法か」
「そうだ、俺らの一番の敵は潜水艦だからな」
「あいつらも狼みたく襲ってくるのか?」
「しつこいな、まぁ優秀な護衛のおかげでこっちは警戒するだけで済む。
それにあんたの所の優秀な技師に見張り役も居るからな」
「あんまり過信しすぎないでくれよ?」
「何言ってるだ、うちの癖のあるディーゼルがこんなに言うこと聞かせてくれてるのは
あんたの所の技師たちだ」
「若いが多い中専属のベテランの機関長が教えてくれているからな」
「はたさんも喜んでたよ、あんなに生き生きしているのは私も初めて見た」
「……そうか」
スネークは思った
……あいつら無駄なことまで教えて無いだろうな、と
「では失礼するぞ、艦長」
「そうだ、あんたの事結局何て呼べば良いんだい?」
「……どういう事だ」
「いや、若いあんたの所の奴はみんなボスって呼んでるからな?」
「そういう事か……スネークでいい、俺もあんたを艦長やら沖田と呼び捨てにするだろうからな」
「それもそうだ…………ならスネーク、何かあれば教えてくれ。バカ話でも構わないがな」
「……そうさせてもらおう、これからしばらく長いしな」
そう言って艦橋員に敬礼した後、スネークは常に開けてあるドアを通り抜ける。
通路脇にあるハシゴのヘリを使い下に滑り降り、甲板に出る。
そこにはこの船に乗っている彼の部下……MSFの隊員達が整列していた。
その数25人
もっとも、機関室や通信局に常にいる隊員も含めると40人以上はいる。
さらに他の船舶に搭乗している者も含めると100に近い
「全員敬礼!」
ザッ
「……いいか、よく聞け。
俺たちは仲間を助けに行く、この船団の力を借りてだ、そしてこの船は今日から俺たちの船だ。
他の連中もいる中でお前達には一ヶ月間この船の運用を任せる、乗組員と協力しろ。
問題が起きれば俺が直々に指導してやる」
『…………………』
「2時間後、工程確認とブリーフィングを艦娘を交え全員で行う、他の連中にも伝達してくれ。
それまで各自出来ることをやってくれ、以上だ」
その言葉を聞いた瞬間から全員が一気に散らばる。
溶接を再開する者、船内で機材や銃の調整をする者、マストへ上がる者、
そしてスネークへ声をかける者
「BOSS」
「担当は決めたんだな?」
「ええ、この2日間は開発班上がりの者を作業にあたらせます。
糧食班は特に腕の良いのは選びました、もっとも他の輸送船に乗せた連中もやり手です。
不安としては戦闘ですが……」
「安心しろ、制圧戦をするわけじゃ無い。
防衛に徹すれば問題無いだろう、もっとも乗り込んでくる馬鹿もいないとは思うが」
「他の輸送船に乗った連中もまともな奴を選びました。
突っ走りやすいのはこっちに置いといた方が安心ですし」
「通信局はクリアです、暗号回線も仕込みました」
「妨害は」
「ティムが言うにはおそらく問題無いと」
「そうか……弾薬は」
「ウェーブなら10回は耐えられます」
「よく集めたな?」
「何せ日本じゃ使う事も無いので」
「腕が鈍ってるんじゃ無いか?」
「心配なさらず、射撃練習は十分しました」
「ならお前が分隊長だ、基本的な指揮はお前がしてくれ。細かい事は俺は苦手だからな」
「……了解です、スネーク」
「気楽にやってくれ、ルイ」
そう言ってスネークは船内に戻って行った。
「……ウェーバー 何が見える!?」
「まだ陸地だ、西に三浦半島が良く見える。
あとは後方に輸送船が広がってる、あれは円形になるみたいだな。
外周には艦娘が12人、同じ様に円形になってるな、周辺を警戒してるんだろ」
マストに昼間上がっているのはウェーバーだ。
狙撃手としても動ける彼は視力も良い、見張り役としては持ってこいの人材だ。
「ビルサー!そこの————」
日本から南方5400km
深海棲艦が拠点として現在建設中の泊地・港湾施設
そこに“奴ら”は居た
あの何隻もの潜水艦が発った場所であり、鎮守府周辺に配備している潜水艦を管制していた。
……だが異変を察知していた。
何せ1週間ほど前から“全ての潜水艦が途絶えた”のだ。
いくら定期的に掃海があるとはいえ全滅する事はまず無かった。
それなのにここ1週間全ての潜水艦がやられたのだ。
何らかの作戦
……そう判断したかは知りようが無いが、潜水艦は鎮守府からだいぶ距離を取り、
小笠原諸島沖に展開していた。