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暇だ。
海で泳ぐのは不可能じゃ無いが迷惑以外の何物でも無い。
艦内の探索は徹底的にした、どこに誰がいるかも把握した、飯の味も安心できる。
そういえば調理場は今頃…………まあいい、どうにでもなるだろう。
周辺に敵の気配も無い、こんな真昼間の視界が開けている所では攻撃のしようも無いが。
「あっBOSS!また葉巻吸ってるんですか?」
「ん……マーリンか、何かあったか」
「いえのんびり出来ていい感じですよ〜・・・今のところは」
「そうだな、だが昼間は気楽だ。彼女たちがいるのも心強い」
「……だからってBOSSは呑気すぎません?」
「そうだな、だが射撃練習をするには弾薬が心もとない」
「ならあの娘たちにCQCを教えたらどうです?」
「ダメだ」
「どうしてです?」
「……あのなぁ、あいつらは護衛で神経をすり減らしている。
それに担当時間を回していても所詮娘だ、疲れ切っている。
そのためのローテーションの休憩時間にお前は彼女たちをいじめる気か?」
「うぅぅぅ……」
「……まあちょうどいい、相手をしてやる」
「本当ですか!?」
「ああ、なら艦首の方に行くぞ」
「いやぁ〜張り切っちゃうなぁ〜!!」
こいつ、単純すぎやしないか。
…………まあいい、こういう性格なら連中とも上手くやっているだろう。
「おいマーリン、部屋の艦娘とは仲良くやってるか」
「ああ金剛と吹雪ちゃんですか。そういえばBOSSは吹雪ちゃんに会ったたんですよね?」
「そうだ、北方海域から来るときの護衛に居た1人だ。その時に少しだが話もした」
「言ってましたよ『この日本語、どういう意味なんだ』って聞かれたって」
「カズから送られてきたカセットテープは役にたったんだが、漢字はまだ読めないのも多くてな」
“漢検一級ドリル”なんて問題集を渡されて解いてはみたが……“所轄”とか“渉猟”やら“霾”とか訳がわからない文字が多かった。
……そういえば吹雪といってたあの娘に聞いたら苦笑いされたな
「漢字は難しいですからねぇ……私もやっと書類書けるようになった位ですし、
ウェーバーですら未だに辞書が手放せませんから」
「そうなのか……それで部屋の連中とはどうなんだ」
「まぁ金剛ちゃんがアレですけど…………今のところは大丈夫です。
ていうか毎回でしてくれるお茶がものすごく美味しいです!」
「・・・・・・本当か」
「はい!」
「……後で案内してくれ」
「……じゃあ相手お願いします」
話をしているうちに艦首側に来れた。
甲板上の船体前方には捕鯨砲があり、その設置スペースのために近接訓練をするにはちょうどいい空間がある。船の側面には開発班の連中が連日の作業でこしらえた銃座が並んではいるが、肝心の本体はまだ設置されていない。
先はまだ長い……………か
9隻の輸送船は現在、赤道付近に位置し単横陣を組みその周辺を艦娘が囲んでいる。
前方を長良・三隈・白露・夕立・深雪
後方を名取・最上・時雨・村雨・叢雲 の計10人が担当し、周辺警戒の任に就いている
主に対潜哨戒のため駆逐艦が水中探信機を、航空巡洋艦の2人が上空からの周辺警戒、
そして軽巡の2人は前後のやり取りを一手に担っている。
《キャッチャーから長良へ、定時報告をしてくれ》
「こちら旗艦の長良です。周辺に敵影なし、電探にも反応ありません」
《了解した、あんまり気張りすぎないでくれ?
気楽に気楽に……とはいかないが、肩こらせるなよー》
「あははは……」
そう言って無線が切られる。
「名取、そっちの状況は?」
《えっ……まあ特になにも無いかな》
「そう、あなたは大丈夫?」
《大丈夫って?》
「それは……体調とか」
《大丈夫だよ、じゃあまた後でね》
素っ気なく無線が切られる。
名取は悪い子じゃ無いんだけど私と話すときですら……ぎこちないからしょうがないかな
説明しよう
この船団の無線状況は特殊だ。
というのもこの船団は単なる歩兵を輸送している訳ではなく、
伝説の傭兵とその傭兵が従えるMSFという組織を輸送している。
そのため普通の軍隊より暗号無線が凝っており、それは艦娘に元から備わっている無線機能
でも探知できても音声を拾うことは困難だ。
つまり艦娘の無線とは別の回線が存在しているのだ
そのため海上で輸送船とやり取りをする際は専用のインカムでやり取りをする事になった。
艦娘の回線は任務にそのものには影響を出さない。
しかし対潜哨戒には聴音機が不可欠のため、インカム渡すと対潜哨戒が出来なくなる。
結果、軽巡洋艦などにインカムを渡しやり取りをする艦娘を事前に決めておく必要があった。
「……こうなるとやっぱり暇になっちゃうよね……」
だがそうなるとインカムを渡された者は水中音を聞くことが出来ないため、
肉眼や電探で補足する以外に方法が無い、電探も逆探知される恐れもあるため長時間使えない
もっともスネーク自身はその電探の話を聞いて
『逆探知か……おいティム!ECMは展開できないか?』
『残念ながらBOSS、機材が揃わないと無理ですよ。
それに海上自衛隊もジャマーを展開したらしいですけど、効果は今ひとつだったみたいで』
『そうか……向こうに着いたら——」
『ええ、報告します』
という何だがトンデモ無いことを話していたがそれはまた別の話だ。
場面を戻すが、この特殊な無線状況のおかげでインカムを渡された者は何もする事がほとんど無い、という少々厄介なことになるのだ。
それに哨戒の邪魔になるため無線で無駄な話をする訳にもいかない。
航海をしているためやる事……と言っても艤装や機関の具合に注意するぐらいで他にやる事が無い。
〈慢心、ダメ、絶対〉とここで言えそうな物だが、慢心と言うより注意力が継続出来ない。
もちろん周辺警戒を厳にしているが、どうしたって暇な気分に襲われるしかない。
「……そういえば霧島さんは大変そうだけど、あれを手伝うのはちょっと……無理だし——」
《おい、今護衛任務で暇してる奴は誰だ?》
その声を聞いた途端背筋を伸ばす。
何せ自分の事以外に当てはまるのは名取ぐらいで、他には彼女しかいないからだ。
それにこの声の主は……………………………………………………………………………………………………
「あっあの……長良です」
《そうか、お前いま暇すぎて退屈だろ?》
「えっ!?いっいやそんな事あるません!」
《……あるのか、無いのか?」
「ありませうっ!!」
《……まあ暇ならいい、少し話さないか?》
「……はい?」
《俺も暇でな、さっきまで少し別のを相手してはいたんだが一旦部屋に戻ってな。
だから適当に話し相手が欲しいんだが……大丈夫か?》
「はぁ……けど——」
《安心しろ、潜水艦に関してはこちらでも警戒している。
それにお前は進行方向を気にする以外何も無くて気まずいんだろ?》
「……………まあ」
《なら俺の話し相手をしてくれても問題無いだろう。嫌なら俺も部屋に籠るんだが体が鈍る》
「……わかりました、けど何を話すんです?」
そう言ってとりあえず話をする事になった。
それに自分が暇すぎて、他がちゃんと任務に着いているのに自分だけ何もしていない事に罪悪感に近いものも感じていた。
話す事が任務かと言われれば何とも言えないが、少なくとも気持ちは紛れる。
《そうだな……前々から気になっていたんだが、クジラ肉っていうのはどんな物なんだ?》
「え……クジラ…………ですか?」
《美味いのか?》
「えっと……」
《食べた事はあるか?》
「はっはい、クジラベーコンなら……」
予想外にも程がある。何せ初めて見たときから感じていた“何かしらの雰囲気”から食べ物の
話をするとは誰が予想できるだろうか?
暇つぶしとはいえ、話すとしたら自分の事か深海棲艦の事だろうと思っていた。
《クジラベーコンか……美味そうだな》
「だけど、食べるのは難しくなるかもしれないです……」
《どうしてだ?》
「詳しい事は知りませんけど、2年くらい前に国連の会議で捕鯨の禁止が宣言されたらしいんです」
《美味いんだろ どうしてだ?》
「それは…………多分クジラが少なくなるからじゃあ……」
《……だがまだ食べられなくは無いんだよな?》
「えっ?……まぁ流通はしてますけど」
《そうか………………………………………………………………………………………………………………》
妙に長い沈黙
その瞬間、長良の頭にはある事がよぎった。
…………恐る恐る無線を通して聞いてみる
「・・・あのスネークさん」
《何だ?》
「まさかですけど捕鯨砲見てませんよね?」
《どうしてわかった!?》
あっこの人意外と子供だ、
そう長良は思った。
「……仮にクジラがいたとしても加工できる船が無いんですから意味無いですよ?」
《確かにな………なら日本に帰ってから食べるか》
「そうして下さい……ところでスネークさんもそうなんですけど……」
《どうした?》
「どうやってそんなに日本語喋れるんですか?みなさんどこかで習ったんですか?」
これは長良はもちろん、艦娘や初めて彼らと話す者が最初に抱く感想だ。
何せ外人が喋るにはあまりにも流暢で訛りも無く、誰にでもわかる位綺麗な日本語なのだ、
それも隊員全員が、だ
《……あのなぁ、俺らはこれでも諜報員だ、スパイだ。
活動地の現地語が話せなければ仕事にならないからな、喋れるのは当然だ》
「いやっそうですけど……日本語って難しく無かったですか?」
《まあひらがな・カタカナ・漢字という独特の三種類の文字を日常的に扱っているからな。
発音はどうにかなっても読むのが大変だ。おかげで習得するのに2週間もかかったしな》
「……えっ?」
《どうした?》
「……今、何て言いました?」
《まあひらがな・カタカナ・漢字という独特の三種類の文字を日常的に扱っているからな。
発音はどうにかなっても読むのが大変だ。おかげで習得するのに2週間もかかったしな、
……って言ったが》
「あの……2週間で喋れるようになったんですか?」
《ああ、吹雪が相手してくれたのも大きいがな》
「吹雪ちゃんが?」
《日本に来るときに世話になったからな》
「そうなんですか……じゃあ私も英語話せるようになりますか?」
《当然だ、話すだけなら死ぬ気で現地の人間と話せば1週間あれば十分情報収集は出来る様になる。そもそも帰国子女とか言う金剛が居るだろう、あいつと英語で話せば勝手に話せる様にはなる》
「あっそれは無理です」
《どうして》
「金剛さんは佐世保鎮守府所属です、私は舞鶴なので……」
《なるほどな》
「はぃ……」
《・・ーぅ・・・ク……スネーク!・・・の時間ねっ
ん? ああ今行く、すまんが用事ができた、無線を切るぞ》
「ああはい、わかりました」
《相手してくれてありがとうな》
そう言って無線は切れ、再び長良の周りは静かになる。
だが不思議と退屈にはならなくなった。
「あの声って……金剛さんだよね、スネークさんを誘ってお茶会を開くの?
…………あの人作法とかわかるのかな?」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
……さて行くか、ここからが本番だ。
「アラ、お取り込み中でしたカ?」
「……いいや、大丈夫だ」
「ならティータイムねッ!」
「そうだな」
金剛の横にはマーリンもいる。
紅茶が飲める事が相当嬉しいらしく、顔が俺なんかと手合わせする時より笑っている。
…………だいぶ期待できるな
「それで、どこで開く?」
「ちょうどパッツィーの部屋で開くヨー」
「……大丈夫かそれ」
「まあ今は無駄に広いですから」
「……それもそうだな、なら医務室を借りるか」
まぁ医務室で茶会を開くのはどうかと思うが医療機器が搬入されてない今、
パッツィーの部屋は診察台と薬品棚以外無く、スペースはあと30人分のベットは余裕で入る
「ところでお前……イギリス生まれなのは良いが……」
「ああ、BOSSも思います?」
「……何デス?」
『日本語が下手だな(じゃない)』
「He⁉︎」
「あっ私と一緒だ」
「……いや、いくら帰国子女だとしてもそこまで訛らないだろ」
「そっそんな事ナイヨー、スネークたちが頑張りすぎなダケヨー?」
『それはない』
「ドウシテ!?」
「……だって金剛さんは1年近く日本に住んでたんでしょ?
私も1年くらいだけど、変なアクセントはちゃんと抜けたしっ」
「そっそれは……」
「俺なんかはまだ……二ヶ月ぐらいか」
「Huh⁉︎」
「……金剛ちゃんさ〜もしかして——」
「キャラ作りか」
「ハミュッ!?」
「何か進化した?!」
「……お前ら落ち着け、あと金剛、キャラ作りくらい否定しろ」
言った途端金剛の口は上下し、足取りもおぼつかない。
何よりあからさまに動揺している。
「そそそそうですネ!私が性格を作ってるわけ無いですよ」
「カタカナは?」
「!?」
「マーリンもうよせ、こいつが可哀想だ」
「何言ってるんデスカ!?」
「大丈夫よ金剛、みんな気にしないから」
「何を!?」
「何って…………頭が弱いところとか?」
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁl!!!!!!!!!!!」
「何!?……………マーリン、これどういう事?」
「パッツィー うるさくなる前に全員に異常は無いと知らせておけ」
「あっ……はい」
悲鳴を聞いて飛び出してきたパッツィーに連絡は任せ、とりあえずマーリンに金剛を担がせ
医務室に運ぶ……横須賀じゃこんなに騒ぎにならなかったんだがな。
「連絡はすみました、何か機関室の異常音かって艦橋は騒いでましたよ。
護衛の子達も何事か心配してるみたいですけどロワゼルがいま説明してます」
「何て」
「金剛さんがびっくりしただけだ、と」
「何にだ」
「……ゴキブリとかですか?」
「……もう良い、とりあえずベッドに寝かせるぞ」
「ほらマーリン、運びなさい」
「はいはい、って何か思ってたより重い……」
「重いって何デスか!!」
「あっ起きた」
「………………」
体重は女子には厳禁だろ、しかも年頃の女子だ。
「まあとりあえず担がれてて、軽く診察するから」
「えっ?……エエ」
急な階段を上り、三階の居住区に着き左にあるドアを先に開け3人を中に通す。
マーリンは手前にある診察台に金剛を寝かせ、パッツィーは机から聴診器を取り出す。
「一旦俺は出た方が良いか?」
「大丈夫ですよ、BOSSは奥で座ってて下さい」
「そうか」
「マーリン、そこの血圧計持ってきて」
「はいはーい」
パッツィーに言われた通り奥にある椅子に座る。
窓も近く左舷の光景が見え円状の机にはあと6人分の椅子がある。
「……で、マーリンあんた何したの」
「何で私なの?」
「BOSSは女にトドメは刺さないから」
「ああ……確かに」
「で、何て言ったの」
「何って…………頭が弱いって言ったけど」
「あんたねぇ……貴方にだけは普通言われたく無いわよ」
「なんで?」
「なんでって——」
「お前は体育会系であって学問関係は全くダメな印象があるからだ。
それにそいつはプライドが高そうだからな、一気に刺さったんだろ」
「ぐぅぅ……」
「えっ!そうだったの!?」
「……まあ健康面には問題無いわ、あとは紅茶を飲みながら話を聞くとしましょう。
それに他の子達もそろそろ戻って来るだろうし」
「他の娘……他の艦娘も来るのか?」
「アレ、BOSSに言いませんでしたっけ?高雄・霧島・千歳の3人ともお茶を一緒に飲むって」
「……お前、俺にわざと言わなかっただろ」
「何でですか!?」
「いや……いい」
うまい紅茶が飲めるのは結構なんだが……他全員が女の茶会はいくら何でも居づらい。
・目の保養にはなる
・良い休息にもなる
だが会話に参加するのはいくら俺でもキツい。
「大丈夫ですよBOSS、ただ味わってれば良いんです」
「……なら準備してもらうとしよう、俺は座って待つか」
「じゃあ私も待ってよー」
「なら私が色々持ってくるわ。金剛、案内するからついて来て」
「了解ネェ……」
そう言って金剛を連れてパッツィーが一旦出て行った。
恐らく食堂だろう
「……おいマーリン」
「何です?」
「からかうのも程々にしておけ、金剛だからこれですんだが他の艦娘だったらこれで済んでいない」
「……わかってますよ、だから言えたんですし」
「まぁあれはキャラ作りでは無いんだろうが……」
「けど演じてますよね」
「だろうな、だからそれをここで話そうかと思ったんだが」
「良いじゃ無いですか、本人に言っても」
「だが妹もいるぞ」
「……その妹もいるからです、他の艦娘も知ら無いでしょうけど他の2人は大人ですから。
少なくとも簡単に言いふらすタイプじゃありません」
「……なるほどな、ならそうさせてもらおう」
「……ところでBOSS〜、どうやったらBOSSに勝てるんですか〜」
「それを俺に聞くな、自分で経験して見出すんだな」
「あと何回叩かれれば良いんですか!」
「数え切れないくらいだろうな、そんなに元気があるなら大丈夫だ。いつか一人前になれる」
「はーい」
そう言って机にうつぶせになった
…………警戒心のかけらも無いな
《BOSS、さっきの声聞こえましたか》
「ん、ウェーバーか……ああ俺に目の前で起きたからな」
《ここでも聞こえたんで何事かと思ったんですが》
「金剛がゴキブリに驚いただけだ、気にするな」
さすがに本人も頭が悪いと言われたショックで叫んだとは言いにくいだろう
「それで、そこはどうだ」
《スコールが発生しなければ快適ですよ。スコールの前兆が一番わかるのもここですけど》
「そうか、もうしばらく頼むぞ」
《了解です》
「ウェーバーも聞こえたんですかあれ」
「それだけ力があるんだな、流石戦艦だ」
「あのーそこで戦艦だという事を感心されても困ります」
「アハハハ……自分のせいだから何も言えないデース……」
見るとヤカンとティーポットを持った金剛と銀のトレイを持った霧島、さらに後ろにケーキスタンドを持った千歳と高雄もいた、だがジャムやクリームを持っている奴は誰もいない。
そのヤカンとポットをさっきまで自分が寝ていたベッドに置いた。
……まあ後で言っておくか
「あれ、随分豪華だね今日は」
「当然デース!今日はゲストが居ますから!」
「俺か」
「Yes‼︎」
「……霧島はどうだ、調理場には慣れたか」
「凄いですよ…………あの量が毎食毎食消えるんですから………」
「なら鎮守府の食堂にも感謝するんだな、自衛官の分まであそこでは作ってるんだ」
定食ではあるが食堂の飯も中々美味い。
それを300人以上に毎回提供しているんだ、感謝はしても文句は言えない。
「はい、帰ったらまずそうします」
「私も伊良子さんに今度何か奢らなきゃ……」
「鳳翔さんって何をあげたら喜びますかね……」
「はいはい、それはお茶を飲みながら話そうよ、まずはみんな座って座って!」
マーリンが急かすように3人を座らせる。
……主催者は金剛のハズだが何でお前が仕切ってるんだ?
「ではみなサン、私がオイシイ紅茶を淹れるまでこれでも食べててネッ」
「……スコーンか」
「美味しいですよ、金剛が焼いたスコーンは」
とか言いながら自分の皿を取り出しトレイからスコーンを1つ取り頬張るマーリン。
だが急いで食べる事なく、それなりに上品には見える。
なら俺も食べてみるか………………!
「……BOSS?」
「……………………美味いな、あのスコーン独特のパサパサ感が無い。焼きたてなのもあるが
バターを多めに入れて牛乳は……その分脂肪分が少ないのを使っているからか。
それにパンの様に一気に高温で焼き上げずにゆっくりと火を通したから熱にムラが無く、
表面だけをカリッと焼き上げている。なるほど、ジャムやクリームが無いのが不思議だったがこれだけ風味があればむしろ付け合わせが無い方が美味いか…………………おいどうした、食べないのか?」
高雄・霧島・千歳の3人が目を見開き俺を見ている。
……俺が何かしたか?
「いや……驚きと感心が合わさって驚いているだけです」
「驚きが2回現れてるが」
「ただ食べるだけじゃ無いんですね、スネーク」
「何を言ってるんだ千歳?」
「見てないのに何で……」
「いや見ていなくてもコレぐらいは俺でもわかる、はっきり味がわかるぐらいにコレは美味いんだ」
「ねっ、BOSSは味はわかる人よ」
「……パッツィー、お前こいつらに何を言った。何か変な事を吹き込んじゃいないだろうな」
「一昨日のお茶会でこの子たち“スネークって味わかるの?”
みたいな発言をしたんで私がじゃあスコーンを食べさせればわかるよって言ってあげただけです」
「……まぁ気持ちは分からなくないが傭兵が何でもかんでも適当に飯を食べてる訳じゃない。
食事は戦場では日常と同じようにリラックスし他の連中と気楽に話せる唯一タイミングだ。
その場にマズイ料理は似合わない」
それだけ食事の一時は兵士には重要だ。
酒は美味くなくても誰も文句は言わない、どんな酒でも呑めば酔う事が出来るからだ。
だが料理は別だ
好みは一人一人違うだろうが味の文句は誰でも言える、たとえ戦場の最前線であってもだ。
その飯が常に不味ければ兵士の士気は下がり、命中率も下がりかねない。
逆に美味い飯を常に食わせられる人間が戦場にいれば士気は高く維持される。
それだけ人間にとって食は重要だ。
「まあほとんどの連中は食をおろそかに扱ってるのは事実だがな」
「いい上司ね」
「上司じゃないよーBOSSだよー」
「………待って下さい、今何と?」
「えっ?いやBOSSだよ?」
「ああ霧島さんや千歳さんは知りませんでしたね。
スネークさんは本当にボスなんですよ、今回友軍として扱われている傭兵組織の総司令です」
「……いやいや、総司令って元帥の事ですよね?
そんな方が最前線に出向いたり、わざわざ交流戦みたいな戦闘が出来るわけが——」
「まあ俺は単なる傭兵だからな、動く事だけが取り柄だ。
後ろでただ指示を出すだけじゃ体が錆びていくだけだ」
「…………本当ですか」
「何が」
「本当に総司令なんですか!?」
「……一体俺を何だと思ってたんだ」
「いえ……その…………分隊を預かる下士官かと……」
「こんな100人近くを預かる下士官なんて聞いた事ないわよ、幹部はどこに消えたのかしら」
「ルイさんがそれかと思ってました、けど若すぎるのでスネークさんが……」
「いや、ルイは分隊長だから」
「……霧島みたいな勘違いはさすがに思ってなかったけどまさか総司令とはねぇ」
千歳は本当に知らないらしい、どうやら金剛たちの事は知らないようだ。
……というか霧島はどうかと思うが
「高雄ふぁ提督はら聞いたのん?」
「おいマーリン、美味いのはわかるがスコーンは一口で食べろ、マナーだ」
「……で、高雄は提督から聞いたの?」
「はい、あれでも総司令で組織を預かっている人だと」
「あれでもは余計だな」
「ですが私たちの提督はここまでアクティブじゃありませんから」
「当然デース、才能は持っても元は普通の人ネ。
体は鍛えても戦うためじゃないシ、頑張って勉強しても経験は少ないヨー」
「それでもこの規模を指揮できているんだ、日本政府なのかは知らんがいい人選だ」
「デース!!」
「……何か急に元気になったわね」
「お姉さまは提督らb——」
「Burning‼︎」ガン
「大丈夫!?」
「おお、上手く入ったな」
霧島が金剛が提督をどう思ってるのか言おうとしたら殴った。
いや、ゲンコツって言った方が正しいのか
「馬鹿め……」
「高雄!?」
「あら、どうかしましたか?」
「私は何も聞いてないわよ」
「千歳さんまで……」
「霧島がタジタジしてるなんて珍しい事もあるものネ〜」
「お姉さままで……」
「ほらみんなっていうか金剛が殴ったんでしょ!とりあえず謝りなさい!!」
『えー何で……』
「金剛と高雄が今日は私の部屋でねr——」
『すいませんでした』
「……お前、どんな弱みを握ったんだ」
でなければこんな見事なお辞儀は見られないんだが……
「嫌ですねBOSS〜ちょっと教育してるだけですよー」
「……程々にな」
「知ってます」
……まあエアーやマーリンみたくストレートに心をえぐる事はしないだろう。
…………だがゆっくりと毒していきそうなタイプだ。
「……けど霧島の言う事もわかりますけどね」
「んー?何のこと言ってるの高雄?」
「マーリンさんもそうですしみなさんそうですけど、
その何というか……鎮守府でもいつも馴れ馴れしく接してるのでとても親しみやすい雰囲気からとても総司令には見えないって事です」
「けどーみんなの提督との接し方も似たようなものだと思うけど?」
「けれどジョークまで言えませんよ」
ジョークというジョークじゃ無いがな、それに別に馴れ馴れしくも無いとは思うが……
「鳳翔さんがよく相手しているじゃん」
「鳳翔さんは特別ですよ、実質的な秘書みたいにいつも執務室にいるんですから会話も日常的です」
「あー そゆこと」
「……けど戦いのときは頼りになります」
「そうなんですか?」
「そんな雰囲気はこの人から感じないけど?」
「BOSS程安心できるパートナーは居ないかなぁ」
「俺は1人が良いんだが……」
「まあ正面戦闘は私の仕事ですからっ!!」
「正面戦闘って何のことデスー?」
「戦車とか戦闘ヘリとか随伴兵の相手だけど?」
「……何か聞いてはいけない事を聞いた気がしマース……」
「まあBOSSが全部一人で倒したけど」
『!?』
「……支援はしてもらったがな」
あの時レーションが無ければ厳しかった。
「……それより悪いんだがそろそろ紅茶が飲みたくなった」
「Oh!スイマセンネッ、今出すヨー」
……本当に忘れてたのか
「ねえマーリン、スネークってどんな人?」
「何で私に聞くの、千歳が直接聞きなよ」
「だって本人に聞いても無視されそうだし」
「BOSS〜」
「千歳の言う通りだな」
「ですか……まあ話しても良いけど」
「本当に?」
「うん、いいけどーその前に金剛と霧島に聞きたいんだけどー」
「何デスか?」
「何でしょう」
「まあ単刀直入に…………………2人は佐世保の提督からの命令で私たちに何を聞きたいの?」
7人分のソーサーを運ぶ金剛の顔が硬直した、霧島もその言葉に動揺が隠せていない
カタンと妙に大きくテーブルに7杯の紅茶が置かれる
高雄に千歳は何のことかわからないのか驚いている
パッツィーに助けを求めるように見ている
そのパッツィーは置かれた紅茶をさっさと取り
「いい匂いだわ……カモミールかしら」と楽しんでる
マーリンも紅茶を手を取り自分の前に置いた
霧島の方はまだ治っていないが金剛の方は既に戦闘準備は整ったらしい
顔が引き締まっている
「まあ教えてくれれば教えるんだけど、理由だけは聞きたいかなぁ」
「……何の事デスか?聞きたいことなんて——」
「いやいや、私の端末勝手にいじってたじゃん」
「アレはブッキーが勝手に——」
「じゃあ霧島に聞くね、私たちの何が知りたいの」
「…………何の事でしょう」
「妙な間、瞬きの回数上昇、瞳孔の縮小、どれも冷静になろうとして現実逃避に走る前兆。
冷静さは大事だし逃げたい気持ちもわかるけどっ」
「っ……………」
「霧島がダウンね。なら金剛に振るけどさー何を知りたいの」
「だから、一体何の事デスか!!」
「じゃあ左袖の中身全部出して」
「……どうして」
「さっきベッドにポット置いた時、盗聴器仕掛けたでしょ」
「!!」
まあ驚くか
少なくともマーリンはベッドの方に背中を向けていた。
それに金剛の動きもさまにはなっていた、見えてないのにバレたらそりゃ焦る……切り時だな
「……それぐらいにしろマーリン、金剛と霧島も諦めておけ お前らは所詮素人だ、
勝ち目は無い」
「!!」
金剛が席を立つ……だが
「ストップ、話は最後まで聞いた方がいいわよ」
すかさずパッツィーが金剛を強制的に席に戻す。
別に無理矢理ではない、自分の席をずらし そこに金剛を転ばせる形で座らせた。
霧島は逃げる気は無いらしく、金剛も退路はパッツィーによって絶たれている。
「まあ落ち着け、少なくとも俺ら3人はお前らをどうにかする気は一切無い。
とりあえず話だけ聞け、あと俺らにお前らの話を聞かせろ」
「で、これが盗聴器ね」
マーリンがさっさとベッドから金剛が仕掛けてた盗聴器を持って来た。
盗聴器だけは一級品だ。
ついでにパッツィーは出入り口を施錠した。
「あっ2人も待機ね、他のメンバーとか特に駆逐艦の子にバレると後々大変だから」
『………………』
「とりあえず、2人は冷めないうちに紅茶でも飲んでて」
「えっ……ええ」
パッツィーの言葉にどうにかそう答えた高雄はソーサーを取り、一口飲んだ。
千歳もそれを見て紅茶を一杯取り、様子を見守るように静かになった。
「……で、とりあえずお話しようか」
『………………………』
「まず事前の情報収集がなってない!」
『…………え?』
「霧島ちゃんなんて緊張で体がここ1週間固まってたしさー」
「調理場の話がなかったら……どうなってたかわかったもんじゃ無いもの」
「金剛ちゃんの方は……なんか違和感があったし」
「夜に活動するのはいいけど、もうちょっとバレ無いようにしよっか」
「あとここに盗聴器仕掛けても意味無いから!」
「それねぇ、仕掛けるならむしろ調理場の方が効果あるわよ」
「あとあと霧島!」
「はっはい!?」
「情報収集がなってないにしても、BOSSの事くらいていうか対象の情報くらい仕入れること!」
「まあ誰が一番偉いのかくらい知っておかなきゃ……ねぇ?」
「……あのぉ——」
「いいか、俺から言わせてもらえればお前らの行動がスパイ“ごっこ”に過ぎん。
イギリス生まれだろうが情報戦に精通してるわけじゃあるまい、慣れて無いことはできる
範囲だけでやる事だ、でなければすぐにバレる」
「…………ならどうしてアドバイスしてくれるんですか?」
「俺に聞くな、こいつらに聞け」
「そうだね〜……気分?」
「そうねぇ余りにも酷いから、そんなんじゃ下手したら死ぬわよ」
『!!』
「まあここではその運命じゃない、安心しろ」
「あらBOSS?もしここで私が本気を出したら——」
「何だ」
「…………………………いいえ、度が過ぎました」
「わかれば良い」
全く、変な所で調子に乗るな
お前が暴れたら俺とマーリン、下手すればマーリンも制圧する羽目になる。
無駄に疲れるのは御免だ。
「話を戻すけど、お二人さんは本当に何を求めてるのさ?」
「……全部ネ」
「お姉さまっ!」
「もうムリよ霧島、この人たちの前ではネ」
「ていうか私たち舐めすぎよ」
「……エアーじゃなくてマーリンと同じ部屋だからラッキーだと思ったデスが……」
こいつも……こう見えて十分仕込まれた諜報員だ、相手が悪かったな。
もっとも素人が俺らに情報戦を仕掛けるのがそもそも間違いなんだが。
「まあ舐められたマーリンにも責任はあるわね」
「うぅ……」
「……ところでどうしてパッツィーもマーリンもいつも通りなの?」
「何も問題は起きてないからよ、情報の漏洩っていう問題がね」
千歳がその言葉を聞いて目を点にしている。
……まあ普通なら手っ取り早く処理してるハズだからな。
「……取り残してるしている2人にもこの状況説明するわ。
早い話、金剛と霧島が私たちの組織に関する情報を得ようとスパイまがいの行動をしてお話中」
「いやっそれも信じらえないですけど……容赦なく営倉に入れるものだと……」
「何で?」
「何でってマーリンさん……まだ信じられませんが金剛さんと霧島さんは情報を盗もうと——」
「けどそれは出来てないし、そもそも“誰にも迷惑かけて無いよね”?」
『!』
マーリンの言葉に高雄も含め他の艦娘もここの大前提のルールを忘れていたらしい。
……一般人の感覚ならここでも適用されるとは考え付かないのも仕方がないが
「そういう訳で営倉にも入れないし尋問もしない。強いて言うなら……お願いかしら?」
「そうそう、だから出来れば経緯を教えて欲しいんだけど……」
「だそうだ、金剛・霧島」
「……わかりマシタ 話しマース。けどその前に1つ聞いてもいいデスか?」
「何〜?」
「……いつから私たちの事に気付いたノ?」
「何だそんなことー?あった時からだけど??」
「私は部屋割りした時だけれど」
「初めてあった時から怪しかったデスか!?」
「うん」
「そうね」
2人の宣告……と言うべきか告白と言うべきかわからんが、それを聞いた金剛はうなだれた。
こいつらでも感づいた位だ、ここで話しておいて正解だった、か。
「……確かに私はここ1週間緊張はしていましたが周りが気付くほどでは……」
「まあ素人目から見れば、ね。
けど私は医者だし、マーリンはこれでも諜報員だから違和感には敏感なのよ。
……まっこの子の場合は野生の勘って言った方が正しいかしら?」
「何それ!?」
「だってそうでしょ?
さっきの金剛が仕掛けた盗聴器も音で判断したでしょうに」
「だからって私は野生の動物じゃ無いよ!」
「音……デスか?」
「……金剛ちゃんさ、仕掛けた瞬間ちょっとだけ戸惑ったかしてで手の動きが固くなったでしょ?」
「……コレだけは仕掛けたかったからネ」
「けどその時気づくハズも無いミスをしたの」
「ミス?」
「ベッドに何か当てたような金属音がしたんだよ。
最初はヤカンかなって思ったけど……紅茶を持って来た時左袖が前よりヒラヒラしてて判ったんだ」
「それに俺からは完全に見えていたがな」
「そんな訳でスパイごっこって事でOK?」
「Oh…………」
「いやっ落ち込むところじゃ無いから」
「さっきも言ったが俺らを舐めすぎだ」
「じゃあここからは聞き手に回りましょう。……それで何を知りたいの?」
パッツィーが仕事に入る。
マーリンも紅茶を飲み一息付き金剛と霧島の方を見る。
他の2人は落ち着きを取り戻してはいる。
「……ズバリ、私たちの提督はあなた方を警戒してマス」
「だろうな、他の連中も似たようなものだろ?」
「……どうかわからないけど」
千歳の口ぶりからするに舞鶴の提督は疑いだけで行動にはまだ移していないようだ。
まあ佐世保の対応も間違ってはいないが……何なら武官を2人派遣した方が成功しただろう。
「それで、2人を派遣したの?それだけなら駆逐艦の娘に様子を見学してこいって言った方が自然だと思うけど……」
「要するに単なる情報収集じゃ無いのね?」
「Yes,やっぱり隠せないネ〜
……提督はあなた達がこの機会に艦娘を拉致をするんじゃないかと警戒してましタ」
「それはまた……穏やかじゃない話ですね……」
「けどそれこそ高雄も最初は心配してたでしょ、私たちが来た時」
「ええ……まあ。
けどマーリンさんのおかげで疑う事は無くなりましたけど」
「あははは……あの時はごめん」
「あんた……この子達にまで相手してもらってるの?」
「まあそれが向こうでの依頼だからな」
「そうですか……けど怪我させないでよっ」
「わかってるって何でまた私が怒られてるの!ほら金剛ちゃんの話聞こっ!!」
「……そうは言っても結構重いわよ?」
「しょうがないじゃん」
「はぁ……こっちまで調子が狂うわよ」
「……続けてもいいデスか?」
「どうぞどうぞ」
「……それでもし実行されるならその証拠を抑えて通報するのが私の役目でお姉さまは避難誘導みたいなもので」
「違うな」
「え?」
「証拠を掴み次第俺らを海に沈めるつもりだろ?
でなければさっきも言ったが戦艦に任せない、それこそ軽巡だけでも十分だ」
「…………………」
「なるほどね〜」
「まあ当然の処置ね」
「処置っていうか妥協だよねぇ」
「……証拠を集めようとしたけれどそんな物全く無かったヨ……」
「いや、だから残念がらないで……」
何とも言えない気分ではあるが……それも仕方が無い
「だから私の端末いじったり、わざわざここに盗聴器を仕掛けたわけね。
ここでならもしかしたら何か話すんじゃないかって期待したわけね」
「そうデス」
大方わかった、要するに信用されてないって事だ。
横須賀の連中とはこの2ヶ月相手をしていたおかげでそれなりの信用を得ている。
だが直接見ていない提督からすれば、よそ者はそれなりの脅威だろう。
俺でもそうする。
「……アレ、けど何で佐世保の提督は疑ったんだろ?」
「何を言ってるのマーリン?そりゃあ私たちが傭兵で海外から来た他所者の他無いからでしょ」
「けど霧島ちゃんはBOSSの事もまともに知らなかったんだよ?
けどBOSSの事はある程度情報が回ってるハズなんだよ、特にあのバカ騒ぎで」
「ああ、あなた達がテロなのかもよくわかんないの相手にしたアレね」
「そう」
「それも自作自演だと疑ってるんだろ、違うか?」
「……そうです、あの事件も狂言だと提督は予想されてます」
「ならその話しようか、ちょうど出港前に情報は回ってきたし」
『えっ!?』
……それは俺も知らなかった、マーリンも聞かされてなかったらしい。
パッツィーの方を直視している。
「いや、本来ならついた後のブリーフィングで軽く話そうかと思ってたんで。
出来るだけ全員にまとめて話かったんですけど、2人が怒られない為にもちょうどいい機会です。
それに他の2人も口漏らすタイプじゃ無いですし、事の重大性も判断出来てますから」
「……けど良いんですか?私から言うのもあれですが……拉致するんじゃ無いかと疑ってしましたし、それにそもそも私たちこそ部外者で——」
霧島が遠慮そうに言葉を続ける
その簡にパッツィーが俺に目線をやって来た。…………わかった、するんだな?
「確かに私たちは助かりますが——」
「パッツィー」
「はい」
「俺の権限で情報開示を許可する、この場で報告しろ」
「了解、資料を持って来ます」
「30秒だ」
パッツィーが薬品棚に駆け寄る。
棚のドアは開けず、棚の下にあるバンドエイドがある取っ手を引いた。
そこから茶封筒を引っ張り出し持って来た、表面にSECRET と赤字で書かれている。
「今から公開する情報は国家機密じゃ無いけどしばらく情報統制します。
許可なくここにいない者に話さないこと」
「許可なく公開したものは営倉で過ごしてもらう」
『…………………』
「では報告します」
そう言って封筒の中から数枚の写真、そして一枚のレポートを取り出した。
「コレはソ連領内のマガダンで撮られた物です」
「マガダンって?」
「北東部にある州だ、オホーツク海に面した港とデカい空港があった。
確かカムチャッカ半島の北西部だったな?」
「そうです、ウラジオストクほどではありませんが工業が発達していた地域です」
「……待って、この写ってるのって………」
「どうした」
「けど……そんなまさか……」
「だからどうした霧島」
「……BOSS、実はこの写真に写ってる右側の人間は深海棲艦の可能性があります」
「……詳しく話せ」
「艦種は私たちの持ってる情報ではわかりません……ですがあの地域は深海棲艦が一時
勢力下に置きました。
既に解放されていますが一般人はまず寄り付こうとしません。
人が来るのも月に一回の巡回のみです」
「だがこいつ……普通に動いてる様に見えるが?」
「ええ、しかもこれを見てください」
「……取引か?」
写真にはその深海棲艦と思われる者が黒服の2人とか会話している様に写っていた。
ボヤけていて顔まではわからないが……明らかに人目を避けている。
「いつ撮られた物だ」
「事件のちょうど2週間前、海外警備用の監視カメラに映ってた物を拡大したものです。
おかげで画質は悪いですし——」
「どこが動いている?」
「……すでにKGBがこの動画を抑えて捜査を開始、コレは深海棲艦だと断定してる様です」
「黒服の2人は断定出来たの?」
「まだよ、“人”なのかすら、ね」
「ふーん」
「……霧島、何でこいつが深海棲艦だと判断した」
「この特徴的な頭……恐らくヲ級かと」
「ヲ級?」
「深海棲艦の正規空母をそう呼んでるんです、そしてそのヲ級の特徴として頭部がこの写真
見たく饅頭の様な形をしてます」
「確かに……おまんじゅうだね」
「何だまんじゅうって」
「和菓子の一種です、中身があんこや最近だとフルーツジャムとかを入れてたりしますけど」
「うまいのか」
「そりゃあ日本の伝統のお菓子ですよ?」
「そうか!」
「……スネーク、あなた食べ物に弱いのデスか?」
「……そんなつもりは無いが」
「話が逸れるんで報告続けます」
「ああ、そうしてくれ」
「ンン…………………」
「……じゃあこれは敵の空母ってこと?」
「断定はできませんが深海棲艦だと言うなら、そうなります」
写真を再び見た後、スネークは話題を変える。
「2週間前か……犯人グループが新潟の倉庫に行ったのは1週間前と言ってたよな」
「ええ」
「なら倉庫に運び込んだ後か?」
「不明です」
「武器の入手先は」
「おそらくベトナムでの鹵獲品の一部かと。
一か月前にウスリースクの倉庫で盗難騒ぎがあって、その犯人は反共産主義だってそ噂が流れたらしいですけど、何故か揉み消されて直後捜査が始まったみたいです」
「ウスリースク……ウラジオストクとも近いな」
「だとすると…………もしかして」
「ああ、内部協力者がいるんだろうな、しかも深海棲艦側の」
「……本当デスか」
「そもそも深海棲艦と人がコミュニケーションを取るなんて……」
「わからないよ〜高雄ちゃん、化けて内部に潜入してる可能性だってあるしねぇ」
「そんな……」
「バカな話が無いわけじゃ無い、だが俺らには証拠も無い、それだけだ」
「以上で報告終わります、質問は」
「深海棲艦は陸上で活動できるのか」
「陸上基地型の深海棲艦はいますし、凄鬼と呼ばれるクラスも居ます」
「いやそういう意味じゃ無い、“お前たちみたいに”陸上で動けるのかと聞いている。
この……ヲ級っていうのも正規空母なんだろ?」
「それは……わかりません」
「そうか」
「本隊と合流した後、もう一度報告はします。
ですからそれまでこの事は他言無用、いいわね?」
『………………』
全員が黙って頷く、スネークやマーリンを除くが。
「……さーて、今までの事は無かった事にしてお茶しましょっ」
「そうだな、金剛」
「ハイッ?」
「侮っていたがこの紅茶は美味い、追加してくれないか?」
「…………ハイ」
そう言って金剛は俺のティーカップに新しい紅茶を注いだ。
他の面子も普通のティータイムを再開したらしい。
そんな中、マーリンが口を開いた。
「ていうか、わざわざカモミール出して来たからここが決戦会場になるって私は思って
たんだけど全然関係無かったんだー」
「………ああ、そういえばこれ本当にカモミールだったの」
「いや、私の勘だけどカモミールに違いないでしょ」
「そうですが…………それが?」
「……お前ら、カモミールの花言葉を知らないのか」
「花言葉ねぇ……私は知らないわ、霧島は?」
「……残念ながら花言葉はちょっと……お姉さまは?」
「・・・・・・逆境での力?」
「まさに金剛たちのそれでしょ」
「それは……自分で言うのも何デスが結構な sarcastic ネェ……」
「俺は関係ないと思ったがな。
……そろそろ哨戒の連中が交代だな、俺も用があるから失礼する」
「ああ、説明ですか」
「ルイも来ると言っていたし問題は無いと思いますよ〜?」
「BOSSだけでも十分だと思いますが?」
「そうかもしれん、だが俺がやりたい」
「そうですか」
内容は大したことじゃ無い、だが俺がいた方が早く済む。
誤解も無く進められるだろう。
「後は女だけでやってくれ、俺は外れる、今度は別の味も試してみたい」
「そうデスか……考えとくヨォ」
「ああ」
後始末はパッツィーがいれば十分だろ…………………しかし
あの紅茶は本当に美味かったな。
ー横須賀鎮守府ー
現地時刻、11月29日 明朝
こちらではもう一方の作戦である敵施設の破壊を任された艦娘たちが集まっている。
航路は硫黄島で燃料を補給したのち、西方海域へ進出、一気に敵を叩く。
編成は敵が地上施設という事、そして囮としての働きも担うため機動力が優先され、
低速戦艦は本土防衛の任に着き、空母機動部隊がこの別方面作戦を実行する。
機動部隊第1艦隊
加賀・翔鶴・大鳳・利根・青葉・衣笠
機動部隊第2艦隊
由良・阿武隈・川内・神通・陽炎・不知火
さらに万が一に備え、支援艦隊も準備しトラックにて待機、連続的な攻撃を展開する。
すでにここ1週間、舞鶴の輸送部隊が特化運用で必要な弾薬と資材は搬入した。
しばらくはトラック島を中心にした戦闘になる。
「……全員、準備は」
「カタパルトの調子は完璧じゃ!索敵は任せよ!!」
「まぁ私も偵察機は持ってきてますが」
「そう……そっちは」
「大丈夫ですよ加賀さん、対潜装備を中心にこちらは揃えました。
対艦戦闘は川内さんが居ますし」
「夜戦!……とは今回行かなそうだけどね」
「全員揃ったか、なら聞いてくれ」
艦娘たちが準備している工廠で最終確認をする。
補助として鳳翔も連れて来た。
「スネークたちの輸送船団はすでに赤道を越えガダルカナルから北東600マイル付近を航行している。
この艦隊の目的は2つだ、1つはここに点在している敵の建設中の拠点破壊だ。
そしてもう1つがこの輸送作戦成功のために他の敵を再建中のこの施設に釘付けにする。
つまりは囮だ」
囮と聞いて全員が苦笑いをする、それはそうだ。
新旧あれど、ここにいる正規空母は一航戦を経験し航空戦力の主力。
護衛役でもある第2艦隊には二水戦・三水戦の旗艦を務めた川内・神通までもいる。
それが囮なのだ、なんとも言えない部分はあるだろう。
「だが勘違いするな、囮と言ったが敵の施設は完全に破壊しろ。
それに敵の目を釘付けにする事が目的だ、派手にやってくれ」
『はいっ!!』
「質問は?」
「……もし敵の施設が完成していた場合は」
「無いと信じたいが、その場合は昼間の内に爆撃してから敵情を把握して離脱しろ。
トラック島に待機させている支援艦隊を主力として本土からも大和や長門を向かわせる事になる」
「ではもう1つ……もし船団全滅の可能性が高くなった場合は作戦を放棄しますか?」
それを今聞くか?
…………加賀だから聞くと思っていたがな。
「いや、お前たちの作戦はあくまでも敵施設の破壊が最優先だ。
船団の護衛は別の艦隊の役目だ、気にすることは無い。それとスネークからの伝言だ」
「……何です」
「“こっちの心配はするな、自分の身ぐらいは守る”……だそうだ」
「……わかりました」
他の艦娘からは質問は無いらしい……なら行ってこい!
「連合艦隊旗艦加賀に命ずる、西方海域に存在する敵施設を破壊せよ。
以降、艦隊の指揮は加賀に与える」
「旗艦加賀、任された」
「定期報告だけは怠るな、何かあればすぐ知らせろ」
そう言うと12人の艦娘が工廠から出て行き、港湾に向かう。
「……提督」
「わかってる、だがこれからは私には何も出来ないしする事も無い。
久しぶりにあいつと話をする位だ」
「あいつって……佐世保の提督さんですか?」
「いや、舞鶴の方だ。
今回の作戦は私よりあいつの鎮守府の方が働いているからな」
「そうですか……」
鳳翔がそう言って港の方を見る。
するとすでに全員が艤装を展開し陣形を組んでいた。
「加賀」
「……何ですか」
「生きて帰ってこい」
「……少し腹が立ちました」
「何でだ!?」
「………第1 第2艦隊抜錨、これより敵施設の破壊に向かいます」
『了解っ!!』
そう答え、全員が動き始めた。
加賀の顔は相変わらずキリッとし、適度な緊張感を感じさせた。
「皆さん、お願いしますよー!」
鳳翔が大きく手を振って送り出す。
12人の影はだんだんと遠く、小さくなって行く、同時に水平線に朝日が昇り始めた。
……暁の水平線、か
実はスネークからはもう1つ伝言……とは違うが言葉は預かっていた。
だが彼女たちの前で言うことでも無い、むしろその言葉が実現しないほうがありがたい。
……さて、部屋に戻るか。
「行きますよ鳳翔さん、私には直接出来ることはありませんが書類との戦いは永久に終わりません」
「ふふ、そうですね」
「ミーミー」
「ん?……お前はいつかの……」
この猫にここで会うとはな、ここにも餌はあるのか?
……そういえば他の2匹はどうしたんだ
「あら、ミーちゃん」
「ミーミー」
「……スネークは大丈夫だと良いんだが」
「あら、あの娘たちよりスネークさんですか?」
「生身の人間だからな」
「……そうでしょうか」
「……何が言いたい?」
「あんな人、私はこれからも見ることはありませんよ」