オレは声の主に会いに行く   作:ほったいもいづんな

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心悟の話をしていきます。 ……やっぱりなのは成分がなくなる。


ーー心を何に例えよう?


7日目の決意 《Colors of the Heart》

 13話

 

 

 

 

「心悟、おはよ!」

「木村君、おはよう」

「先輩、おはようございます!」

 

 気が付いたら周りに生前の高校にいて、大勢の生徒や先生に囲まれていた。 いつの間にか背格好は17、8程度になっており、高校時代に戻っていた。

 

「ようシンちゃん!」

「……心導(しんどう)

 

 僕のことを『シンちゃん』と呼ぶのはこいつしかいない。 『心導 優人(しんどう ゆうと)』、こいつは生前の数少ない僕の友達。 神童と言われた僕に何の隔てもなく接してくれた男だ。

 

「ほら、そろそろ授業が始まんべ。 教室に行くぞ」

 

 そう言って心導は僕の腕を掴み、生徒たちを掻き分けながら教室に向かう。 どこを見ても確かに僕の母校の高校だ……校門から下駄箱、廊下から教室まで、どこをとって見ても間違いない。

 

「……そうか、これが夢を見させるってやつか」

 

 僕は間違いなくあの女性に吸収された。 そしてこの『夢』の世界に落とされた。

 

「……なるほど、確かに『都合のいい夢』だねぇ」

「……? ほらシンちゃん急げって」

「あぁ、行くよ」

 

 そう、『都合のいい夢』。 だって僕は高校で『嫌われていた』から、生徒からも先生からも……

 

「お、おはよう木村」

「おお、木村ぁ。 今日は遅刻スレスレじゃないか」

「先生聞いてくださいよぉ〜シンちゃんがボーッとしてたんすよ」

「ははっ! あの木村でもそんなことがあるんだな! まぁいい、席に着け」

 

 だからこんな風に扱われるわけがない。 クラスの奴らも、担任の先生も、僕に関わろうとしない。

 

 僕は幼い頃から周りより頭が良かった。 ……いや、良すぎた。 生まれた時から無駄に頭が良かった僕は周囲にいつも影響を及ぼした。 周りの子どもから煙たがられ、教師は扱いに困り果てる。 僕はそれを自覚していたし、そうなっている理由も理解していた。

 

 いつかの保護者面談で聞いた話だ。

 

『おたくの息子さん……非常に成績がいいのは喜ばしいのですが……そのせいで周りの子ども達からやる気を奪ってしまっているのです』

『……そんな』

『いつも一人でいますから……友だちと呼べる子どもも居ません。 周りからは理解してもらえないのです』

『うちの子はとっても優しい子なんです! いつも家の手伝いをしてくれて……困っている人だって助けてあげれます』

『そうは言ってもねぇ……』

 

 僕は一人廊下で聞いていた。 自分の所為で両親を困らせていた、その事がかなりショックだったのは覚えている。

 

 

 

 だから高校は別の市の高校を受験した。 小中一緒だった奴らと同じ高校に行きたくなかったから。 そして心導に出会ったのは高校からだ。

 

『木村 心悟かぁ……じゃあシンちゃんだな!』

『……は?』

 

 そいつはバカだった。 大バカと言った方が適切かも知れない。

 

『シンちゃぁ〜〜ん! 勉強おせーてー!』

『帰ろうぜシンちゃん。 途中でエロ本拾いながら』

 

 そんな大バカ者とまったく同じ姿をした男が目の前にいる。

 

「ほらほらシンちゃん、『みんな』待たせちゃ悪いぜ」

 

 だが……

 

「『みんな』の人気者が迷惑かけちゃあいけねぇ」

 

 ……違う。 本当にこいつが心導なら……

 

「こんなことは言わない」

「……え?」

「本物の心導はかつて言った、『頭のいいシンちゃんしか知らない奴らは仲間とは呼ばない』……と。 そんな奴の口から『みんな』だなんて言葉は決して出ない」

「……」

 

 心導はこちらを黙って見る。 そして苦く笑いながら言う。

 

「……やっぱりバレちった」

 

 そう言った瞬間、周りにいた生徒や先生は消え、教室には僕と心導だけが残った。

 

「……『夢の中』でもシンちゃんはシンちゃんなんだな」

「……何?」

 

『夢の中』だと? こいつ、あの書が生み出した都合のいい存在じゃないのか?

 

「夢の中でくらい死んだ友達に会いたかった……そう思っていたらこんな夢を見ていたんだ」

 

 こいつ……まさか……

 

「シンちゃんに会いたかった……なのにこの夢は変なんだ。 俺はこんな夢を望んでない。 こんな……周りの連中にちやほやされる夢なんて見たくもなかった。 ……ましてやあの高校の連中にだ」

 

 こいつも周りから一歩引かれていた。 バカだからなのか、それともこんな僕とつるんでいたからか。

 

「でも……夢の中でくらいシンちゃんが周りに認められてもいいんじゃあないかなって思ったんだ。 ……でもやっぱりシンちゃんはそんなこと望まないよな」

「……心導」

 

 君は本物……なのか。 僕の友達の……心導 優人なのか。

 

「……来てくれシンちゃん」

 

 心導は廊下に出て僕をどこかに案内しようとしている。

 

「もう一人……この夢にいるんだ。 きっとシンちゃんに会いたい人が」

 

 僕は言われるがまま後を歩き出す。 その人に心当たりがあったから……

 

 

 

 

 廊下を歩く。 いつもは廊下に溢れんばかりの生徒がたむろしていたが、今は僕と心導だけ。 二人の足音だけがこの世界の存在を証明しているようだった。

 

「ところで……もう一人いると言っていたねぇ。 誰だい?」

「シンちゃんなら察しが付いていると思う」

 

 ……こんな嫌われ者に会いたい変人……一人しかいないな。

 

「……美術の色瀬(しきせ)先生か」

 

 色瀬先生は1年の美術の担当の先生だった。 僕の恩師と言っても過言ではない。

 

「そ、色瀬先生と俺だけが夢を見ているんだ。 他は……あれだゲームのモブ的な?」

「……なら君からの僕はなんだい?」

「…………」

 

 僕の言葉に心導は足を止める。 そして立ち止まったまま答える。

 

「……俺の作った亡霊かな」

「……」

「俺が勝手に作り上げた亡霊……シンちゃんの事を一番の友達だと思い込んで生まれた俺のエゴ……かな」

「…………」

 

 心導……君……

 

「君……随分ボケが上手くなったねぇ」

「あらぁ!? ボケのつもりはなかったよ!?」

「おやおや……僕的には君がいつの間にか君にとって難しい単語を覚えただけで笑い転げそうになったよ」

「おいぃぃぃ! こちとら真剣なんだぞ!?」

「ふはは……悪い悪いねぇ」

 

 いやぁ……まさか小説すらまともに読めなかった君が亡霊だとかエゴだとか、そんな詩的な言葉を口にするとは思わなくって……くっくっ。

 

「……ったく」

「それに……だ。 僕は君の妄想ではない」

「……え?」

「と、言うかだ。 そもそもこれは僕の夢だ、君と先生は僕の夢に入り込んだだけなんだよねぇ」

「…………???」

 

 お、その意味不明そうな顔。 いつもの君じゃあないか。

 

「ま、僕は本物……ってことだけ分かればいいよ」

「ほ、ホゲェェ!! 本物の幽霊!?」

「違うんだけどなぁ……まぁ今はそれでいい」

 

 転生しました、だなんて心導の頭じゃあ理解出来ない……いや、こいつの漫画脳ならいけるか? いや、やめとこうか。

 

「……何だよ、俺ってばハズレてんじゃん」

「そうだ」

 

 僕は俯く心導に間違いを言う。

 

()()()()なんかじゃないさ」

「ーーーーえ」

 

 僕の言葉に反応して顔を上げる。 少しマヌケな顔をした心導にしっかりと告げる。

 

「君は僕の、生前の一番の友達さ」

 

 心導は僕の言葉を一瞬理解出来なかったのか、少し間が空く。 そして数秒後、理解した心導は表情が崩れる。

 

「うわぁぁぁ〜ん! シンちゃん〜〜!!」

「こら、離れろ抱き着くな。 僕はそんな趣味はない」

「俺も! シンちゃんの事一番の友達だと……お……お……お゛も゛っ゛でる゛よ゛ぉ゛〜〜!!」

 

 心導は号泣する。 ……涙で濡れるから止めてくれないかねぇ。 まぁいいけどさ。

 

「うおぉぉぉん! うおぉぉぉん!」

 

 心導は5分くらい咽び泣いた。 不思議と僕は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 ようやく泣き止んだ心導は僕を色瀬先生の待つ美術準備室に案内する。

 

「……そうだ、ここだったな」

 

 美術準備室の扉の前に立つ。 いつもここを訪れる時は何とも思わなかったが、今になって何だかその扉を開けるのに躊躇してしまいそうだ。

 

「……それじゃあ俺はここまでみたいだな」

「……心導……そうか、もう目覚めるのか」

 

 心導の体から小さな光の粒子が出る、それが出る代わりになのか心導の身体が少しずつ透けていく。 僕はすぐに察する、もう心導は夢から覚めるのだと。

 

「……どうしよっかな」

「どうしたんだい?」

「最後にどんな話をしよっかなぁ〜って」

「呑気だねぇ……」

 

 どうやらこいつはどんな時でも大バカだった。 相変わらず可笑しい奴め。

 

「……俺さ」

「うん」

「シンちゃんが勉強していた心理学の勉強してんだ」

 

 ほぅ……君は確か勉強なんざやってられねぇ、とか言って大学には受験しなかったはずだけどねぇ。

 

「あ、別にシンちゃんの事引きずってるわけじゃあなくってさ? ただ……」

 

 心導は少し恥ずかしそうに、だけどしっかりとした意志を持って言ってくれた。

 

「シンちゃんの見たがっていた景色ってどんなのなのかな……って思ってさ、見てみたいんだよシンちゃんの目指していた場所を」

「……」

「もちろん勉強は大変だけどさ? 俺、行けるとこまで行ってみるわ」

「……あぁ、行ってみろ。 君は走り出したら簡単には止まらないだろう?」

 

 そうか……まさか学年順位最下位の君からそんな言葉を聞けるだなんてね。 書に吸収されたのも悪くはなかったのかもね。

 

「忘れるな心導、僕はいつだって君の最高の友達さ」

「忘れねぇさ! いつだってシンちゃんは最高の友達さ!」

 

 僕らはいつの間にか握手を交わしていた。 もう透け切っているのに心導の手は熱く感じた。

 

「ーーーーーーーー」

「……ありがとう、心導」

 

 そして消えていった。 もう消えてしまったが、差し出した右手には未だに感触が残っている。 それを握りしめて扉を見る。

 

「さて、行くか」

 

 僕は扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美術準備室。 その名の通り、美術の授業で使う備品やら美術品やらが保管されている。 だがその実態は美術の先生である色瀬先生の自室だ。 彼が用意した暖房器具や冷房、よく分からないイスやダンボールごと積まれたコーヒー缶。 完全にプライベートルームと化した部屋の窓際で椅子に腰掛けながらタバコを吸う男がいる。 彼が色瀬先生だ。

 

「……よっ」

 

 先生は僕に気づいたのか咥えていたタバコを左手で持ち、余った右手をひらひら振りながら挨拶する。

 

「お久しぶりです、色瀬先生」

「おう木村、相変わらずぶきっちょな面してんなぁ」

「いつも通りでしょう?」

「いつも通りだな! はっはっはっ!」

 

 この人は美術の先生とは思えないくらいユーモアのある人だ。 美術の才能が無いと言う訳では無いが、少なくとも美術よりは向いている教科があると僕はいつも思っていた。

 

「木村ぁ、お前は幽霊か?」

「幽霊じゃあありませんよ……。 そうですねぇ、先生なら話しても問題ないですかねぇ」

「お、面白え話だな?」

「えぇ、三文小説程度ですがね」

 

 僕は自分が転生したことを話した。 先生はとても思慮深く、柔軟性も持ち合わせている。 僕の話に最初だけ驚き、後は面白そうに聞いてくれた。

 

「ほぅ……転生か……中々面白えじゃねぇの」

「そういう感想を言えるのは先生だけですよ」

「そうかぁ? やっぱり未知の領域ってのはいつだって胸を踊らせるものさぁ」

 

 ……絶対この人は先生に向いていない。

 

「ところでお前は何で制服姿なんだ?」

「あぁ……そう言えばそうですね……」

 

 僕は今の、子どもの姿を思い起こす。 すると自然にいつもの背丈に戻る。

 

「今は子どもなんです」

「はっはぁ、結構可愛いらしいじゃあないの? 俺のせがれくらいか? つーかその左目はなんだ?」

「これはですねぇ……」

「あ、あれだろ? せがれが読んでた漫画に出てきた邪気眼ってやつだな?」

 

 そう言えばこの人奥さんと子どもがいたねぇ……

 

「最近息子に抱きつくと、タバコ臭いって言われるんのよねぇ……」

「……タバコ止めたらどうです?」

「やめらんねぇさ、夢の中でもな」

 

 先生は白い煙を窓の外に吐く。 そして灰皿にタバコの灰を落とす。

 

「……今日よ、お前さんの命日なんだわ」

「……!」

 

 そうか、もしやとは思っていたけど向こうも12月24日なんだねぇ……

 

「そういう日は不思議とタバコが不味くなる。 ……でも今日のタバコは不味くなかった。 不思議とな……だからなのかもしれねぇ、お前さんに会えるんじゃあねえかって。 そしたら夢の中で出てきてくれたもんだぁ……やっぱりタバコはやめらんねぇよぉ」

 

 僕がストーカされていた女性に殺されたのは今日、だから夢の中で不思議な共鳴が起こってこうなっているのか……? 駄目だ、さっぱり分からない。

 

「そう思っていたけど……今のお前さんを見てると何だか俺が女々しく見えてきやがる」

「なら禁煙して下さい。 あなたに早く死なれるのは嫌です」

「……そうだな、どうせこれが最後だ。 禁煙してみっか」

 

 先生はタバコを灰皿に押し潰す。 すると先生も心導のように透け始める。

 

「おぉ? どうやらもう満足しかけてるみてぇだな」

「……先生」

「……じゃあ木村、お前に最後の授業だ」

 

 僕は黙って先生の言葉を聞く。

 

「お前がそのアニメの世界で精一杯生きてんなら……帰る場所をキチンと見つけろ。 俺にとっての帰る場所はカミさんと息子だ。お前もそんな場所を見つけろ、そしたら男って奴は無敵だ」

 

 僕は先生の言葉を噛み締めながら返事をする。

 

「はい!」

「おう、いい返事だ」

 

 ……? 先生はまだ何か言いたそうにしている……?

 

「木村……そっちにはいるか?」

「……?」

「一緒にバカやれるとびっきりのバカはよぉ?」

 

 ……います。

 

「いますよ、とびっきりの大バカが」

「そりゃよかった」

 

 やはり色瀬先生はいい人だ。 この人はやはり美術の先生には向いていない。 でも最高の先生だ。

 

「達者でな」

「はい、先生もお元気で」

 

 最後に先生は笑って消えていった。 僕は目を閉じて心導と先生の言葉を思い返す。

 

「……」

 

 ……どうやらガラにもなく涙を流していた。 死ぬ時だって流さなかった涙が、今だけ僕の心から流れた。

 

「……もう大丈夫」

 

 涙を拭う。 そして未だ戦っている高町やフェイトの事を思い出す。

 

「僕も……そろそろ夢から目覚めなければ……な!」

 

 その時、僕の目……心を覗く左目に変化が訪れた。

 

「これは……!?」

 

 今まで人の心ばかり映し出していた左目が、目の前の景色のナニカを映す。

 

「これは……線……? いや……」

 

 近づいて触れていると分かる。 ソコだけ謎の感触がある。

 

「そうか……これは()()だな! 『()()()()』が見えるようになっている……ッ!!」

 

 そしてこれは綻び、つまりここから脱出が可能……? 右手を綻びに突っ込む、するとどこかに抜けた感触を味わい思わず手を戻す。 そして確信する。

 

「成長したんだ……僕の能力が成長したッ!!」

 

 僕は部屋の中にある鏡を見る。 その鏡に映った左目は、陰陽道や結界や魔方陣のようなもようが五重になって重なったような模様に変化していた。

 

「紫の中にだって赤と青の境界があるように、隠と陽にも境目が存在するように、現実と心の境界が存在している……その境界を僕は見れるッ!!」

 

 まだまだ不明瞭な部分は多いが、これなら脱出が出来る。 ふふ、久しぶりに高揚してきたよぉ……今までは名前なんて付けずに読んでいたが、記念に名前をつけよう!

 

「これからは『紫の境界眼(パープル・ボーダー)』と呼ぶッ!!」

 

 待っていてくれよぉ、僕が行く!

 

 

 

 

 

 




はい、心悟の過去の話と彼の成長でした。

こんな感じなのが後数話あります。 この作品の人物の成長録とでも思ってください。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。
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