ーー寒い空の下でも一人じゃないから
15話
心悟とフェイトが吸収され、一人になってしまったなのは。 圧倒的戦況の不利を眺めている者達がいた。
「ちょっとちょっと! あの子一人になっちゃったじゃん!」
「……そうだな」
「助けに行かなくていいのクロノ?」
「……」
ギル・グレアムの使い魔のリーゼロッテとリーゼアリア、そして渋い表情でいるクロノであった。 だがその様子は少し変わっている。 ロッテとアリアはその両手をバインドによって拘束されており、その近くにクロノが監視するように立っているからだ。 理由も明白、ギル・グレアムが双子を使って極秘に「闇の書」を永久凍結させようとしていたからだ。 だが先日の心悟との対談の後、ハラオウン親子に全てを告白した。 その結果クロノが二人を拘束、現場に出なければならないため二人を連れてここに来た。 自分以外では手が余ると判断したからだ。
「バインド解いてよ、別に逃げたりしないから」
「あの子を助けましょうよ」
「……」
双子は既に自分達の手でどうこうしようとは思っていない。 確かに「闇の書」は主であるギル・グレアムの因縁の存在。 そのグレアムが若い世代に任せると言ったからにはそれに従わざるをえない。 今だって目の前のピンチを何とかしたいと思っている。 だがクロノはそれを聞かない。
「……僕達が動いていいのは後だ」
「いやいやいやいや、んなこと言ってる場合!?」
「このままだとあの子まで……」
「……そんなことは分かっている、だがまだなんだ」
ここで双子は気付く、クロノが何かを待っていることに。 一体何を? 「闇の書」の情報を持ってくるユーノ? それともリンディからの援軍? それとも……
「……心悟に言われたんだ、『絶対に大丈夫、彼女達に何かが起ころうと……起こる前に何とかなる。 絶対にだ』……と」
「でももう……」
「……君たちは木村 心悟と言う男をどこまで知っている?」
『?』
突然問われる心悟の存在、もちろん大した時間話をしていた訳ではない双子は首を傾げる。 そんな双子にクロノは教える。
「彼は絶対に憶測や計算で『絶対』という言葉を使わない。 常にあらゆる可能性を検討し、あらゆる状況を想定する。 そんな彼が『絶対』と言う言葉を使うということは……きっと誰にも代え難い出来事が起こるからだ」
「だからって……」
「僕は信じる、僕は彼のことを……友達だと思っているからだ」
『……』
そこまで言われては黙るしかない。 自分達の知らないクロノを知れた双子は嬉しそうな顔をしている。 ……が、それもすぐに変わる。
「……あ! マズイよ!」
「……ッ!」
クロノが険しい視線を向けている先には、もうなのは側に近づいた女性が「闇の書」を取り出してなのはに向けている。 目に見えて分かる窮地、だがクロノは動かない。
「……まだなのか!?」
もう、いいや。
だって、頑張ったよね?
フェイトちゃんと心悟君と一緒に頑張ったけど、仕方ないよね? だってキリン君や……『あの人』がいないんだもん。 勝てっこないよ。
「……戦意を失ったか」
そうだよ。 分かるよ、貴方がとっても強いんだって。 レイジングハートが強くなってくれたけど……
「ならば眠れ、優しい闇の夢に堕ちろ」
私は……ずっと弱いまんまだもん。
だからーーーー
ーーーーもう諦めるのか?
「……え?」
そこにいるのはフードを深くまで被った私と同じくらいの子。 その子が私と女の人の間に立っている。
「情けない……君は本当に高町 なのはか?」
「え、え、貴方は……?」
聞いたことがある声……ううん、ずっと聞いていた声。
「何者だ……私が気配すら察知出来ない存在……一体どうやって……」
「……ふむ、取り敢えず貴様には下がってもらおう……!」
「ーーーーッ!」
突然女の人がビックリした表情で後ろに飛んだ。 あ、あれだ、猫に見つかった時のユーノ君に似てる。 まるで『本能』が危険を察知した時みたいに……
「ハァハァ……何だ今の感じたことのない圧力は……」
「そうだ、そこら辺で待っていろ」
「こ、この私が恐怖を感じた……のか……?」
あの女の人がすごい怖がってる……それだけのレベルがあるんだね。
「さて……」
目の前の子がフードをめくる。 そこから出てきたのは何度も見た人……ううん、私の大好きな人でした。
「久しぶりだ、なのは」
「
私がそう聞くと拳君は少し呆れた様子で答えてくれました。
「……何を言う、この世界で……どれだけの世界を跨いだとしても俺は一人だけだ」
「本当に……拳君なんだね……!」
「お、おい泣くな。 俺は女性を慰める方法なぞ知らんぞ……」
「ううん、嬉しいだけだよ。 だから気にしないで」
私を救ってくれたのは、私のヒーローでした。
遠く離れた所で様子を見ていたクロノは安堵していた。 心悟の絶対、まさか本当に『絶対の存在』が何とかするとは思ってもいなかったからだ。
「やれやれ……まさか彼が来てくれるなんて……」
「……おいおいクロ助、一人で納得してないで私らに説明してくれよ」
「あぁ、彼は『真条 拳』。 かつてのジュエルシードの騒ぎで僕ら……主になのは達をサポートした非常に優秀な人だ」
「クロノがベタ褒め何て珍しいわね」
「あと……恐らくというか、確定的に次元宇宙最強クラスだ」
『え、何それは……』
事情を知らないリーゼ姉妹に拳の事を話す。 聞かされた双子は困惑気味だが、説明したクロノでさえ言っていて頭がおかしくなりそうだった。 それは拳の事を観察していた女性も同じで……
「……どういうことだ!? あの少年からは魔力を一切感知できない……なのに漂ってくるこの『未知のエネルギー』は何なんだ……!? まさか『神』や『悪魔』類の神話的パワーの持ち主なのか……?」
拳は魔力を有しない。 代わりに『神の力』を持っている。 だがそれは魔力と違って数値で表すことはおろか正確に感じ取ることすら出来ない。 表面上には決して出て来ない潜在的とも言える力、拳は『神の領域』にいるのだ。
「……なのにあの子は嬉しそうに話してるねぇ」
「当然だ、彼女らは友達だからな」
久しぶりの再開になのはは嬉しそうな顔を拳に向けている。 先ほどまでの燃え尽きたような表情とは大違いだ。
「そういえばキリン君や翔次君はいないの?」
「彼らはまだダメだ。 ……フェイト・テスタロッサには悪いがな」
「そっか……でも元気にしてるんだよね?」
「あぁ……二人とも元気過ぎて困るがな」
「なら大丈夫だよ」
頬が緩みきっているなのは、こんなにも嬉しいことはきっと人生でも数えるほどしかない、そう思った。 別れたのは今から数ヶ月前、それから一度たりとも会うことも会話することもなかった。 手紙の一つもないので一体何をしているのか、何を見ているのかまるで想像もつかなかった。 そして目の前でまたしても助けてくれた拳を見て、ちっとも変わりがないことを理解する。
「さて……なのは、そろそろ大事な話をしてもいいか?」
「……うん」
少しの会話の後、拳は真剣な顔をして本題に入る。 なのははこれをすぐに理解し、だが微笑みを絶やさずに聞く。
「本来であるならば、キミ一人であの「闇の書」と渡り合えるはずだ。 だがそれは今は叶わない。 ……恐らくは俺が原因だ」
「それって……?」
「キミは俺を好きになった、なってしまった。 それ故に心が脆くなって、砕けやすくなってしまったのだ。 心の弱さが際立ってしまっている、いや本来のキミの姿とはかけ離れてしまった」
それは本来の、元あるべき世界の話。 フェイトが吸収され、残されたなのはは一人孤軍奮闘し「闇の書」と対等かそれ以上の戦いを見せた。 それは本来のなのはの力、心の強さ、そして挫けぬ精神が可能にした。 だがなのはは拳に恋をした、好きになった。 そのせいか心に隙間が生まれた、その隙間は知らずしらずのうちにドンドン広がっていった。 その結果が今のなのは。 勝ち目がないと諦め、一人では何も出来ないと思い込んでしまう心の弱いなのは。 そしてその原因は拳にもある。
「だがキミはここで勝たなければならない。 負けるわけにはいかない。 だが今のキミにはそれが難しい、よって二つの選択肢を与える」
「選択肢?」
「そうだ、一つはこのままキミ一人で奴と戦う。 そしてもう一つは……」
拳は二つ目の選択肢を言う前に少し俯く。 そしてすぐに顔を上げ伝える。
「俺が代わりに奴を倒す、その代償としてキミの記憶から『俺を消す』。 俺という存在そのものをキミの中から消す」
「……!」
流石にこれは予想外のなのは、表情は崩れ動揺をあらわにする。 なぜ? そう問わずにはいられなかった。 そしてその疑問に拳は答える。
「……もうこのようなことが起きないようにキミの中から俺という存在を消す。 そうすることで本来の強い心を持ったなのはに戻る」
「私の心……拳君が居なくなる……」
胸に手を置き固く握る。 拳の事を忘れるなんてそんなのは嫌だ、諦めたくはない。 そうは思っても拳の言っていることはきっと正しい、ならばそれに従うべきでは……? だがなのはには別の疑問が浮かぶ。
「……どうして話してくれたの?」
「なに……?」
「だって、今までの拳君ならそんなことは言わないですぐに実行してた。 それが本当に正しいことならなおさらだよ、なのにどうして私に話したの?」
「……」
拳という男は常に正しいことの白の中にいる。 正しい道の上を歩く、正しい世界を見る。 それはきっと間違っていないし何よりも正しいことである。 だからなのはの記憶を消すのは正しいことで、拳だけの記憶が消えるのならば大した事ではない……以前の拳ならそうしたはず。 だが今の拳はどうだろう? なのはを気遣い、なのはを心配するその姿は神の使いと言うよりは『普通の人』のようだ。
「……キミは諦めが悪い」
「……?」
「だから記憶を消した後、死後の世界で俺を思い出した時になのははきっと死ぬほど後悔する」
「……」
「死ねば魂は元ある姿に戻る、そうすれば俺のことを思い出して……後悔するだろう。 そんななのはを見たくはない……何故かそう思ったんだ……どうしてかは俺にも分からん」
拳の心の変化、関わってはいけないはずなのに揺れ動く心に拳自身もどうすればいいのかが分からない。 だから問うた、選択肢を与えた、なのはの言葉を求めた。 これじゃあまるで人間のようではないか。
「……分かった、拳君、私は決めたよ」
哀れで愚直で、それでも折れることのない人間のようだ……
「私、頑張るよ。 一人だけど戦うよ」
「なのは……」
「だって、夢で終わらせたくないもん。 私が拳君のことが好きなのを夢なんかで終わらせたくない!」
拳はここで理解する。 あぁ、高町 なのはとはこういう人間だった、ずっと真っ直ぐに生きてきた女の子だった、と。 今更都合のいい展開なんて望まない、最後まで自分の思いを貫く。 たとえそれが叶わぬ思いでも……
「……ならばなのはよ」
「うん?」
かける言葉はもう一つだけ。 その一つを照れ臭そうに拳は言う。 目をそらさずに、なのはに伝える。
「……『がんばれ』」
「っ! 頑張る!!」
最高の笑顔でなのはは答える。 そして女性の方に向くと女性のみを見据える。
「ごめんねレイジングハート」
《いいえ、お待ちしておりました》
「じゃあ……行こっか!」
女性に向かって飛び出す。 もう振り向かない、そう決めたなのはの背を見て拳は満足そうに目を閉じる。
「あの少年と来ないのか?」
「頑張るって誓ったんだ! もう負けないよ!」
再びぶつかり合う桜色の閃光と漆黒の輝き。 立ち向かっていくなのはの姿を見て、再び姿を消した。
(さようならだ、もう会うことは……いや、
人知れず姿を消した拳、なのはは振り返って拳の姿を確認はしなかった。 何故ならもう、『魔導師』の高町 なのはになったからだ。
拳君がデレてきてる、ただそれだけの話。 今作のやりたかったことその2。 一つ目は前回のフェイトとアリシアの会話、あと残りは……これからの話全部だな。(全力疾駆)
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。