お陰でシナリオが重いって言われてんだよ!
だから最後にはハッピーエンドが待ってんだよ!
ーーーー手を握ったからじゃない。 手から手へ、貴方を感じるから
17話
ここまで辿り着くのに時間がかかった……いやかからなかった。 険しい道のりだった……いやたくさんの人に助けられた。 祝歌の目的にして人生最後の終着点。 初めは助けを求めている声だけを頼りに歩いてきた、何時しか魔法やらなんやら……不思議な世界に辿り着いた。 でも祝歌の目的は変わらない、『声の主』に会う。 そして救う。 祝歌の旅はいよいよ最終地点に、そして迎えてくれるのは銀の女性、玉座に座り眠っているはやて。
「よく……ここまで辿り着きましたね……」
迎え入れる女性。 女性の言う通りよく辿り着いたものだ。 もし祝歌が夢に溺れてしまったら、もし男性が転生しなければ、祝歌はここまで辿り着けなかった。 祝歌は二人の側まで歩み寄る。
「……」
「何か?」
「いや……随分と優しく迎え入れてくれるんだなぁ〜……って」
「私自身に争う意志はありません」
「……でもシグナムさんやヴィータちゃん達を……」
「そ、それは……その……仕方がなかったと言いますか……た、確かに許されざることですが……その……」
痛いところを突かれ少し俯くが、祝歌の方を見ると祝歌が何故か笑っている。 それを見て女性は察する。
「……私に嫌がらせをして楽しんでますね?」
「そ、そんなことはないよ! うん!」
「へぇー……」
ジト目で祝歌を睨む。 当の祝歌も女性にイジワルをして、ちょっと仕返しがしたかったのでどっこいどっこいである。
「……にしても本当にどうやってここまで来たのですか? ここは私と我が主しか入れないのに……」
「シグナムさん達の相棒達が案内してくれたんだ。 あと……あの刀を持った人のおかげかも」
「刀ーーまさか彼!?」
祝歌の言葉を受けて女性は考える。 あの時の男は言っていた、この刀はウイルスソフトのようなものだと。 ならば書き換わったプログラムの中に誰かをここまで導くように仕向けたプログラムがあってもおかしくはない。 そう遠くはない未来に、起こり得る可能性のために残しておいたのだ。
「だから貴方がここに……」
「……何か最初の印象より物腰が柔らかいんだね」
「それは……あの時は主を守るために殺気立っていたといいますか……」
「はやてちゃん……」
祝歌は玉座に座りながら眠るはやてを見る。 はやては寝ている、そして祝歌の時と同じように『優しい夢』を見ているに違いない。 だのにはやての表情はそうは見えない。
「何か……無表情だ」
「主はあなた方のように夢に抗っています」
「……じゃあ何で起きないんだ?」
「それは……」
女性は目を逸らす。 口にするのが辛そうに。
「あなた方のように……完全に否定が出来ないからです」
「……否定?」
「はい……貴方はあの幸せな夢を否定しました。 『辛い過酷な現実』と向き合う覚悟が貴方を夢から解放させました。 ですが、我が主は違います」
女性ははやてに視線を移す。 静かに眠るはやてに。
「……主は心の内側では夢を受け入れています。 ですが貴方や友達の彼女らの事を忘れ切れない、この二つの葛藤の中にいます」
「こっちから呼びかければ……」
「もちろん主には届きます。 ……それでも主の『幸せな夢』を否定させなければ無意味です」
「そっかぁ……」
女性の話を聞いて祝歌ははやての側で膝をつき、視線をはやてに合わせる。
「何を……?」
「人間との『会話』ってのはあんまり得意じゃないけど、やってみるしかないよね」
「……いくら貴方でも主は人間です。 貴方の能力は意味を……」
「分かってるさ。 だからここからは……」
祝歌は笑いながら寝ているはやてを見る。 祝歌の顔に諦めの文字などない。
「俺の……『人間』としての言葉だ。 しっかりはやてちゃんに届ける!」
生まれて初めてかもしれなかった。 祝歌がこんなにも誰かに言葉を届けようとするのは。 祝歌と言う人間は人と話すのが苦手だ。 モノや動物達と違って嘘か本当か分からない、自分の身体を見る医者もいつも食事を持ってきてくれる母も、いつも自分の為に奮闘してくれている父でさえも祝歌は話すのが苦手だった。 なのは達に初めて会った時も、正刀に尋ねられた時も祝歌は内心緊張していた。だが……
「……そう言えば、君に会った時は別に緊張したりキョドッたりしなかったっけ」
はやては何故か違った。 それは周りに人間ではない存在が沢山いたからかもしれない。 はやても自分と同じ重い病気を患っていたからかもしれない。
「俺さ、君に言ってないことがあるんだ」
もしかしたら感づいていたかもしれない、けれども言わないといけない気がした。
「実は不治の病ってやつでさ……多分明日明後日には死んじゃうんだと思う」
祝歌の病、治ることのないその病ははやての動かない足に状況が似ている。
「でも……本当は多分もっと早く死ぬはずだったと思うんだ。 だって生まれた時から死ぬことが決まってたみたいなのに……死ぬ死ぬ騒いでいたらこの年になってた」
祝歌の余命は常に変動していた。 1年と言われれば5年と言われ、ころころ変わる余命だった。
「何で死なねーのかなぁって考えてさ、今ようやく分かったんだ」
祝歌のこれまでの灰色のような青春、泥水のような濁った生き方。 そんな祝歌が今もなお息をし続けるのは何故か?
「きっと……『はやてちゃんを救う』ために俺は生きているんだ」
それは全て目の前の少女のためであった。
「絶対に何とかなる道がある、それを君に教えるんだ。 そして君の口から言わせるんだ、『生きたい』って。 だから俺はまだ死なない、君が目覚めるまで……」
祝歌の言葉、紛れもない心からの言葉は眠るはやての心に送られる。
ーー大丈夫ダイジョーブ!
ずっとそう言い聞かせてきた。 病気って教えられた時も。
ーーダイジョーブダイジョーブ!
両親が死んで一人ぼっちになったときも。 ずっとそう言い続けてきた。
ーー大丈夫だから安心して!
いつも誰かに言ってきた。 誰かが自分のことを可哀想と思う、同情の視線を向ける、その度に言い続けてきた。 誰かに頼るのは申し訳なかった、助けを求めるのが情けなかった、だから一人で生きてきた。 はやてのこれまでの人生、幸せだったと呼べるものはなかった。 常に何かに向かって虚勢ばかり張っていた。 そんな彼女に家族が出来た、それははやてにとって最上の幸せ。 何者にも変えることのできない幸せ。 そしてはやては気付く。 これ以上の幸せがないと言うなら……
ーーもう私には絶望しかない
はやては一人孤独に生きてきた、だから死ぬ時は一人だと思い込んでいた。 でも新しい家族が出来た時、もう孤独に死ぬことはないと思ってしまった。 はやてはもう死んでもいいと、本人が気付かない心の内側でそう思うようになった。
ーーだから仕方ない
いつしかはやては……
ーーしょうがないんだ
諦める言葉ばかり心に現れるようになった。
ーーだって誰かが頑張ってくれる
はやては今も眠っているが、外の状況は手に取るように分かる。 外ではなのはが奮闘している。 中ではフェイトと心悟が夢から抜け出している。 自分には出来ないことをやってのける人がいる。
ーーだから私が戦わなくてもいいよね?
はやては自らの意識を闇に落とす。 夢に落ちる…………
夢に落ちる……………………
夢に…………………………
『きっと……『はやてちゃんを救う』ために俺は生きているんだ』
落ちない。 まだ心に言葉が届けられる。
『君の口から言わせるんだ、『生きたい』って』
ーーーー何で?
『俺はまだ死なない、君が目覚めるまで』
ーーーーどうして?
『俺は必ず死ぬ、『7日間しか生きれない蝉』みたいに、絶対に明日が来ないんだ。 君を救うまで俺に明日は来ない』
ーーーー放っておいて
『俺の明日は君の未来になるから』
ーーーー私はもういいの
『それに、もしかしたら君のその足も明日には何とかなるかもしれないし』
ーーーー何度もそう願った
『一人じゃあ奇跡は起こせないけどさ、俺の分を分けるから』
ーーーー?
『俺の起こるはずの奇跡を君に分けるからさ』
ーーーーどうしてそんなに私に構うの?
『きっとドデカイぞ? 何せ不治の病を何とかするかもしれない奇跡を君にあげるんだ。 とんでもないことが起こるはずさ』
ーーーーどうして……
『君の明日は、今までの明日じゃなくなるんだ。 それを俺の分まで見てくれよ』
ーーーーどうして私に希望をくれるの?
『どーせか細いロウソクみたいな命だ。 残りの火種で君に火がつけば十分さ』
ーーーーあぁ、そうか
『この言葉が君に届いているかなんて分からないけど、君が目覚めるまで何度でも送るよ』
ーーーーこの人はきっと私と同じなんだ
『絶対に……絶対に『諦めるな』よ!』
ーーーー私と同じ『絶望』を背負って、その上で私に『希望』をくれるんだ。 じゃあそれに応えよう。 誰もくれなかった『希望』をくれたんだ、だったらこんな夢の中にいちゃいけない。
ーーーー生きたい
「おはよう祝歌さん……」
『!?』
目覚めたはやてに驚くも、すぐに笑顔に変わる祝歌。 それとは対照的に驚いたまま表情が固まる女性。
「おはようはやてちゃん!」
「ふあぁぁ……よー寝た寝た」
「随分と大きな欠伸だね」
「あ、祝歌さん! 寝起きの女の子の顔、覗き込んだらいけないんですよ!」
「へ? あ、お、おう……」
起きたてなのにいつもの元気を発揮するはやて。 どうやら完璧に吹っ切れたようだ。 その様子を見て女性もそれを察知する。
「おはようございます、我が主」
「うん、おはよう」
「……もう夢の中はよろしいのですか?」
「うん。 もうそろそろ起きなあかん。 それに負けっぱなしっちゅうのはいやや」
「……はい」
負けられない、それは現実に対する言葉。 目の前の祝歌は現実と戦っているのに、自分だけ夢に溺れ現実に負けたままなのは悔しい。 はやての中に生まれた新たな感情だった。
「だけど、どうやってここから出るんだ?」
「そうですね……実は今困っておりまして、貴方のせいで」
「ええ!?」
「なんやなんや? 祝歌さん何かしたんですか?」
「何かしたっけなぁ……」
思い返すここに来てからの行動。 ほとんど歩いてばっかだったが、その中に一つだけ物理的干渉をした可能性のある行動があった。
「あ、ここに来るために扉を開けたこと?」
「そうです。 ここは言わば心臓部、そこに侵入貴方を逃さないためのプログラムが作動しています。 よって我が主でも抜け出すことは出来ない出来ません」
「えぇ!? ホンマに何したんですか!?」
「えぇ!? いや、あの刀を残したのはあの男の人だから!」
「はぁ……全く、手がないとは言ってませんよ私は」
「じゃああるんだね!?」
「えぇ。 ……最もそれが一番難解なのですが」
『?』
女性ははやて前に跪き、その方法を伝える。
「我が主、これは貴方にしか出来ないことです。 それも未だ誰も成功していない前代未聞の方法」
「はぇ……」
「そもそもこのプログラム自体が全て狂っているのです。 故に最大の呪縛とは私の『名前』なんです。この「■■の書」と言う名前が何もかもを縛っているのです」
「……? ごめん、もう一回言ってくれるか? 何の書やって?」
「■■、■■です」
「聞こえへん……何やノイズがかって……」
「まだ届かない……やはりダメなのか……」
思わず俯き息をこぼす。 その息の深さは女性の落胆の酷さを物語る。 やはりダメなのか、そんな言葉が当たりの空気を重くーーーー
「…………はい」
「……祝歌さん?」
「…………はいはいはいはい」
「どうされました?」
「はいはいはいはい! なるほどね!!」
ならない! 何故なら祝歌という男は稀に良く見るシリアスブレイカーだからだ!
「そっかぁ! 貴方の名前は「
「……………………はいぃ?」
女性は思わず祝歌の顔を見る。 そこにはパズルの仕掛けを解いて嬉しそうな子どもに似た表情をしている祝歌がいる。 少しムカついて2、3発ほど殴りたくなったが、そんなことよりも大切なことがある。
「なな、何で貴方がその名を……!」
「へ? だってさっき自分で言ってたよね? それにさっきここにくるまでに見た光景で男の人も言ってたし」
「で、でも「夜天の書」がその名を知られないようにプロテクトを……まさか!?」
何でもないようにしている祝歌と全く事情が飲み込めないはやてを置き去りに女性は自分の世界にのめり込んでいく。
「彼の能力の影響がここまで……? それなら主に届くはず……それに……ぶつぶつ」
「なぁはやてちゃん、彼女は君のところの家族だろう? 何とかならない?」
「私もこうやって言葉交わすの初めてですし……しかもイメージとは随分かけ離れて……」
「だよねぇ、見た目はシグナムさんみたいにキッチリしてると思ったんだけど……」
一人の世界に入り込むその姿にそれぞれの感想を言っている。 どうやら気になったらすぐに思慮にふける性分のようだ。 その姿は何だか少し可愛らしい。
「ま、まさか貴方の能力は「夜天の書」のプログラムすらも超越する超人的なレアスキル……!?」
「お、お〜い帰ってこ〜い……」
「はっ! いけない、今はそんなことよりも優先すべきことが……」
ようやく本題に。
「えっと……名前は分かったけど、それがどないしたん?」
「はい、今起こっている全ての原因は「夜天の書」が夜天の名であるからです。 ですので何度プログラムを書き換えても根元が変わらなければ意味がない。 つまりプログラムを一度リセットし、新たなプログラムに更新しなければならないのです。 そのために夜天の名が必要だったのです」
「なんやややこしいなぁ……。 よーするに貴方の名付け親になればええんやな?」
「……はい」
新たな名になるということは捨てるべき名があるということ。 パスワードを更新するために現在のパスワードを思い出すように。 その名は祝歌のお陰で何とかなった、あとは必要な新たな名前。
「……名前名前…………」
「……」
必死に名前を考える9歳の少女を見守る年齢不詳の男と年齢という概念すらあやしい女性が見守るという奇妙な図。 そんな中はやてがふと何かを思い出し祝歌を見る。
「……そう言えばこの間気付いたことがあったんです」
「……?」
「祝歌さんのフルネームって
それは周りには何の変哲もない雑談。 何故突然そんなことを言い出すのか、二人には分からない。
「アナグラムって知ってますか? 言葉遊びの一つで言葉を入れ替えて違う言葉にして遊ぶんです。 暇な時が多かったからそれで暇つぶしをしてた時に発見したんです」
アナグラムとは逆から読む回文とは異なり、意味のある言葉を発見するのは中々難しい。 しかも日本には同音異義語の漢字が沢山ある。 そんな中ではやてが発見したのは、一種の奇跡だった。
「『ふのくぜ しゅくか』を入れ替えると『しゅくふくのかぜ』……『祝福の風』って言葉になるんですよ」
「へ? そうなの?」
「はい、こんなん偶然で見つかるわけありません。 多分祝歌さんのお父さんはすっごい頭のええ人やったんと思います」
「へぇ……あの父さんが……」
「だからこれを名前にしよっかなって」
「え、それをですか?」
意外な所から出て来た候補。 まさか祝歌の名前のアナグラムからでてくるとは思わなかったようだ。
「いや?」
「え、その……嫌なわけではありませんが……少々気恥ずかしいのですが」
「大丈夫やって、何かカップルが同じ服着てるみたいなものや」
「カッ!? ななな……何を……!?」
「ん〜? だってそうやん? この約一週間はずっと声かけられてたし、そこらのカップルよりくっついてたやん?」
「なっ!? あれは媒体の本がくっついてたわけであって……」
「も〜そない慌てたらそうだと思ってしまうやろ? ホンマにそうなんかぁ〜?」
「あう……あう……」
(……楽しそうだなはやてちゃん)
少々のイジリがあったが、女性の名前を決めたはやて。
「あなたの名前は祝福の風、『リインフォース』」
「……リイン、フォース」
「そや、忘れんとき」
女性は……否、リインフォースは自分の名前を刻みつけるように何度も繰り返す。 何度も何度も、決して忘れぬように繰り返した彼女の顔は……
「はい。 この名を誇りに、貴方を守り抜きます」
「あはは、何や騎士みたいやな」
「ふふ……」
ひたすらに優しかった。 はやてを母親を見るような目で、子どもを見守る母親のような表情ではやてに微笑む。
「さぁ、それでは出ましょう。 もうそろそろ外も決着が着く頃でしょうし」
「外?」
「えぇ、どうやらあの子ども達がわたしを打ち負かしたのです」
「それってなのはちゃんやフェイトちゃんのことか!?」
「えぇ、それにあの少年も。 もしかしたらこの私より強いのかもしれません」
「ひえっ、恐ろしいなぁ……」
外の状況を話しつつ、リインフォースははやての手を取る。 そして先ほどのはやての発言を思い出し少し恥ずかしそうに祝歌の手を取る。
「で、では行きましょう!」
「おー!」
「今ちょっと声上ずったんね」
「あ、主!?」
リインフォースは握ったはやての手を見る。 暖かさと温かいは違う、はやての手から伝わるのは熱ではなく暖かさ。 この手から伝わる温もりを必ず守り抜くと誓う。
祝歌の手を見る。 この手によってここまで救われたのだ。 言葉というよりは言霊、言霊というよりは『声』。 音で認識する『声』でなく、心で認識する『声』。 それは祝歌という人間の生きるための力。 その祝歌の生き様を最後まで肯定し続けると誓う。
かつては感じることのなかった物を握りしめリインフォースは誓う、もう決してこの手で誰も不幸にしないと。
祝歌=リインフォースってやりたかっただけなんだよなぁ!
次回かその次で最後なんだよなぁ! 早いようで遅いな?
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。