エピローグ
祝歌は死んだ、そしてその後を追うようにリインフォースも消えた。 リインフォースは自らの転生システムを消去するために、自らの罪を償うようにはやての元を去った。 それから年が明けた元旦、悲しみにくれる彼女達に一つの手紙が届いた。 その手紙によって再び元気が戻ったなのはやフェイトがはやてを励ます。 一通の手紙が皆に笑顔を戻した。 そしてその手紙はある男の元にも……
「いらっしゃいませ……おぉ! 都さん!」
「お久しぶりです、高町さん。 あけましておめでとう」
「ええ、あけましておめでとうございます」
正月の三が日も終わり、再び元の街に戻った海鳴。 営業を再開した翠屋に正刀が来店した。
「まだお休みでしたっけ? いつものあなたならお仕事に向かうと思っていたんですが」
「いやぁ……たまには遠慮なく休めと上から言われまして。 恥ずかしながらまだ休養中です」
「はは、あなたは働きすぎですよ。 さ、こちらへ」
士郎は正刀を席へと案内し、いつも正刀が注文するコーヒーのブラックを前に出す。
「今日はごゆっくりなさってください」
「……実は今日高町さんにご相談があって」
「……ほう、私でよければ聞きますよ」
士郎は正刀の対面に座る。 普段相談などしない正刀からの言葉に思わず笑みがこぼれる。 珍しいこともある、そう思って正刀の話を聞くことにした。
「実は……手紙が届きまして」
「それは……あぁ! 『キリン』君の手紙ですね」
「おや、知っていましたか」
「ウチのなのはや……彼の友達にも届いたそうです」
「それなら話が早い」
正刀はコーヒーで口を濡らす。 いつもの香ばしい香りを堪能しながら肝心な部分を話す。
「その……恥ずかしながら手紙を読むのを……何故か緊張してしまって、それで高町さんと一緒に読もうかと思いまして」
「……フフ」
「……? おかしなこと……でしたか?」
士郎は思わず笑ってしまった。 普段の正刀からは想像も出来ない言葉に、どこかの笑いの琴線が触れたようだ。
「いえいえ、あなたも人の子ですから。 もちろん構いませんよ」
「ではお願いします」
そうして二人は手紙を開封し、内容に目を通す。 それはなのは達に送られたのと同じ文章だった。 だが、よく見れば手紙は2通あった。 それはなのは達にはなかったモノだった。
「これは……」
「恐らくは都さん宛でしょう」
「私宛……」
「取り敢えずあなただけ読んでください」
「ええ……」
2通目は折りたたまれていた。 それほど長くないが、紙にビッシリと書かれていた。 正刀はそれに目を通す。
「…………」
それほど長くはない。 だが何度も何度も読み直す。 噛みしめるように、間違いのないように、何度も何度も……。 そうしているうちに、正刀の目から静かに涙が落ちる。 そして一滴の涙が手紙に落ちたことで、ようやく自分が涙を流している事に気付いた。
「……おっと、いけないいけない。 せっかくの手紙を濡らしてしまうところだった」
正刀は手紙をテーブルの上に置く。 まだ涙が止まらない正刀に士郎がティッシュを渡す。
「どうぞ。 涙も鼻水も、存分に出してください」
「……すいません、お恥ずかしいところを」
ティッシュを渡した士郎は正刀が読んでいた手紙を手に取る。 そこにはこう書いてあった。
『初めまして、文面での挨拶で申し訳ありません。 オレはキリト君の身体を借りている『村咲 輝凛』です。 キリト君のお父さんとお母さんには未だ会えず申し訳ないです。 そして誠に勝手なんですが、もう少しキリト君の身体を使わせてもらってもよろしいでしょうか? オレは彼の為に、もう少し長生きしないといけなくなりました。 そして彼の為に、あなた達に『親孝行』させてください。 今すぐとは行きませんが、必ず戻って来ます。 その時はお父さん、お母さんと呼ばせてください。 それでは必ず会う日までどうか息災で』
手紙を読み終えた士郎に、涙を流しながら正刀が言う。
「士郎……息子とは……家族とは本当に素晴らしいものですね……!」
「えぇ、これからもっとたくさんの素敵なことがありますよ」
昼下がりの翠屋の奥の席で、二人の男がいた。
一人は歓喜の涙を流していた。
もう一人はそれを本当に嬉しそうに見ていた。
月日は流れた。 冬が終わり春が訪れ、桜が散れば夏になり、葉が紅く染まり秋になり、再び雪化粧の街に戻る。 何度も繰り返された春夏秋冬、気づけばなのは達は中学生に上がっていた。 はやての足はもうすっかり良くなり、なのは達と同じ中学生を通っている。 なのはとフェイトはアレからアリサやすずか、そして家族達に自らの力について説明した。 そして魔導師として生きていくことを決意する。
そしてはやて達も同じく管理局の魔導師として少しでも罪を償うと決め、嘱託魔導師として活躍している。 そして八神家の新たな行事が増えた。
「うはーここはいつも眺めがいいなぁ」
「ヴィータ、あまり身体を乗り出すなよ」
「む……やはり雪が多いな」
「ザフィーラ大丈夫? 靴下する?」
ヴォルケン達は暖かい格好をしている。 それもそのはず、12月25日は冬なのだから。
「やっほー、今年も来たでー」
はやてが挨拶したのは小さな石。 石は一つではなく、いくつもの石が重なり支えあっている。 その形は墓石のようだった。
「ちょっと雪に埋もれてますねー」
「せやなぁ……やっぱり大きのにしたいんやけど、そしたら色々面倒やし……」
「シグナム、ちょっとここら辺の雪溶かしてくれよ」
「断る、こんな所で魔法を使うわけなかろう」
「シャマル……毎回手料理を持ってくるのはどうかと思うぞ」
「えぇ……だってあんなに美味しそうに食べてくれたんだもん」
ヴィータはシグナムと、シャマルはザフィーラと。 ならはやては誰と? そう、八神家に新たな家族が増えたのだ。
「可哀想だから雪を取ってあげるのです」
はやてが2年かけて作り上げたユニゾンデバイス。 外見は人間そのものだが、そのサイズは遥かに小さい。 おおよそ身長は約30センチ、移動などは浮遊したり誰かの肩に座ったりなので、地球にいる時はあまり外に出れない。 もちろん魔法で身長を誤魔化せるが、燃費が悪いので余り多用はできない。 名は『リインフォース
そんな彼女は初代リインフォースを見たことはないし、その名の由来である祝歌の事も当然である。 だが、他の八神家の人間から話は聞いているし、そしてこの名の意味もよく知っている。
「にしても……祝歌さんには一目でいいから会ってみたいですー」
「会ってどうするん?」
「聞きたいことがあるのです!」
「聞きたいこと?」
「誰が一番好きなのかを! です!」
『ッ!?』
ツヴァイのまさかの発言に驚きつつも、どういう反応をすればいいか分からないヴォルケン女性陣。 ツヴァイはまだまだ生まれたての子ども、どうもこういうのが気になる年頃。
「やっぱりシグナムかシャマルなんですかね?」
「待てリイン、私はない。 と言うか私は初対面で剣を向けたからそういうのはないと思うぞ」
「じゃあシャマル?」
「えぇ……えぇっと……」
飛び火したシャマルは受け取った爆弾が爆発する前に誰かに渡したかった。 弄られるのは料理ネタだけでいい、そう思ったシャマルはヴィータにパスをする。
「な、なんやかんやでヴィータちゃんとも仲よかったわよ?」
「ちょっ! こっちに飛ばすな!」
「そうなんですかヴィータちゃん!!」
「だぁもう! 私だったらあいつがとんでもねぇロリコンじゃねぇか!」
「違うんですか?」
「……あいつは人外に対するのだからもしかしたらロリコンの方がマシかもな」
「じゃあ残ったのは……」
女性陣は全滅、ヴォルケンで残されたのは漢、ザフィーラである。
「……ないぞ」
「嫌でもそういう方の可能性も……!」
「ない! 誰だ、リインに変なものを読ませたのは!」
「あ……多分それすずかちゃんや」
ザフィーラも外れ、アテがなくなるツヴァイ。 そんなツヴァイにはやてがいう。
「多分……初代リインフォースやろ」
「初代……ですか?」
「そうなのかはやて?」
意外な答えにヴィータも食いつく。
「せや、あの二人ってよぉ〜考えると毎日のように話していたし、くっ付いていたし。 しかも私が目覚めるまで二人きりやったし……『そういう事』起きてもおかしないで」
「そうだったんですかー!」
「……こんな時までネタにされるのかあいつは」
「まぁ、奴のことだ。 許すだろう」
ようやく結論が出た所で、ふとツヴァイがはやてに聞く。
「はやてちゃんとはどうだったんですかー?」
「……私ぃ?」
ここに来てのはやてである。 そしてそれに便乗するヴォルケン達。
「そう言えばはやても結構祝歌と仲よかったよな」
「よく笑顔で話されていましたし」
「お互いの境遇とか似てるから結構感情が近い感じだったし」
「ある意味命も救われている……」
「脈ありです!」
「ちょっ、ちょっ、まっ!?」
はやては両腕を大きく振り回し、顔を真っ赤にしながら頑張って否定する。
「た、確かに祝歌さんは恩人だし大切な人だけど……す、好きとかちゃうもん! likeやけどloveではないから!! ホンマや!!」
(照れてる)
(照れてる)
(照れてる)
(照れてる)
(照れてる)
アタフタ慌てるその姿にヴォルケン達の心は一致した。
『可愛い!!』
「ホンマちゃうからぁ!!」
そこから数分後、ようやく祝歌への報告に移るはやて。 まだその顔は赤い。
「あんな祝歌さん、私卒業したらミッドチルダに行くんや。 そんでそこで少しでも罪償うために働くねん」
はやてはもう中学3年生、卒業後は高校へは行かずミッドにて魔導師として働くのが決定している。 だから容易にはここにはこれない。 そのために今日は来たのだ。
「大変だと思うけど……めげずに頑張るから応援よろしく。 落ち着いたらまた来ますね」
墓石は何も語らない、だがそれでいい。 そう思ったはやては立ち上がる。
「さて、帰ろか」
「もうですか? もう少しいても……」
「ええの、心配かけ過ぎて化けて出てこられたらたまらないし」
「……分かりました」
それぞれ手を振り別れを済ます。 帰路につく、その瞬間だった。
ーーーー頑張れ、はやてちゃん
最後尾を歩いていたはやての耳に『言葉』が届いた。 驚き振り返るもそこには物言わぬ石だけ。 だが今聞こえた声は間違いなく……
「…………」
だからはやては笑った。 愛おしそうに墓石を見た、感謝の念を持ちながら見た。
「……ちゃんと『人』に『言葉』が届くようになったんですね」
声の主をはやては知っていた。 その声が自分を救った。 だからもうはやては夢に落ちない。 だが夢見た男の強さを忘れない。
『声の主は祝歌』だった。
第二部、完。
色々言いたい事がありますが、それらは全部設定公開回にて言います。
一つ言わせて貰えば……やったー! 早く終わらせられたぞー! です。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。