また後日活動報告でお知らせしますね。
5話
日は暮れ、もう夜の8時になろうとしていた。 祝歌は晩御飯までご馳走になり、その時もシャマルの料理を処理した。 ……食べたではなく処理したとはこれいかに……? シャマルの料理を食べている姿はヴォルケンの面々から見てみれば、まさに英雄と呼ぶに相応しい立ち振る舞いだったそうな。 ……それでいいのかヴォルケンズ。
「本当に帰っちゃうんですか?」
「まぁね、帰ると言ってもホテルに戻るだけだけど」
場所は八神家の玄関。 靴を履いている祝歌をはやてが引き止める。
「せっかくですし泊まっていけば……」
「いいんだよ。 それにこれ以上ここにいると『彼女』の機嫌がますます悪くなるだろうし、今日はここまで」
『彼女?』
その場にいたヴォルケン達も思わず声を出す。 彼女とは一体誰を指しているのか分からないからだ。 その様子に気づいた祝歌が説明する。
「あぁ、彼女とはあの『本』の事だよ」
「え、物に性別とかあんのかよ……」
ヴィータが驚きの声を上げる。 あの『闇の書』に性別があるとは到底思えないからだ。 だが、祝歌はそんな反応に答える。
「もちろん。 だってシグナムさんのレヴァンティンにだって性別はあるし、どんな物にも『声』が宿れば自ずと性別も生まれるさ」
「闇の書が女……キショいな……」
想像も出来ない恐ろしいものでも想像しているのだろう、ヴィータの顔はヒクついている。
「俺の父親が言ってたけど……『女性に対して決してしつこく構ってはいけない』、だ。 引き際を見極めないとね」
「……いや、今日のお前は結構しつこく闇の書に話しかけていたよな……」
「……それじゃお邪魔しましたー!」
『逃げた……』
反論出来なくなったのか、祝歌はそそくさと家から出て行く。
「明日会いましょうなぁ〜!」
「うん、また明日!」
去り際にはやてと挨拶を交わす。 はやては笑顔で手を振る。 それに答えて祝歌も笑顔で手を振った。
海鳴はその名前にもある通り海に非常に近い土地だ。 真冬の夜は海からの吹く風が肌に刺さるくらいに冷たい。 そんな中、祝歌は八神家から少し離れた場所で立ち止まっていた。
「……おっかしいなぁ、はやてちゃん達に『この家の周りには猫って寄ってくるの?』って聞いたら、『そんなことはない』って返ってきたのになぁ……」
祝歌は誰もいない路上で『誰かに向かって』話し出す。 その表情は少し険しい。
「なのに……なぁんで家の中で『聞こえた』猫の声が、俺を追いかけてきてるんだろうなぁ……!」
今日、八神家に入ってから祝歌は時折「猫」と思われる『声』を耳にした。 それも一回や二回ではない、何度もだ。 そして八神家にて、人間の姿をしながら、物や動物達と同じように声が聞ける存在を知った。 そこで祝歌にはある仮定が生まれた。 もしかしてこの猫の声は、『シグナム達と同じ人間の姿をしている存在なのではないか?』と。
「そこに……いるんだろう……」
この時祝歌は緊張していた。 もしシグナム達と同じ存在なら、人ならざる力があるに違いない、そう思っていた。 もし襲われたのなら……抵抗しても意味がないのかもしれない……そう思わずにはいられなかった。
「……お望み通り出てきてやる」
そんな緊張状態である祝歌の前に姿を現したのはマスクを付けた男だった。 男は深い暗闇の中から現れた、その姿を見て祝歌は……
「……アレェ?」
「……?」
疑問の声を上げる。
「え……うーん……お?」
「……何だと言うんだ」
腕を組み考え事を始める祝歌を前に、マスクの男は呆れた声を出してしまう。 うんうん唸っていた祝歌は何かに気づいたのか、ポン、と手を叩きそれを口にする。
「なるほど! 男装子ってやつだな!」
「はぁ!?」
予想を遥かに超えた内容にマスクの男は思わず素っ頓狂な声を上げる。 祝歌はそれを気にも止めずに話し続ける。
「なるほどなるほど……前に何かの本で読んだことあるぞ。 男装が趣味の『女性』がいるって、ははぁん……確かに『見た目』だけなら男にしか見えないなぁ」
「……待て貴様……っ!」
ここまで聞いて、男は気付く。
「何故……私が『女』だと気付いた……!?」
自分の正体に気づかれた事に。
「あ、やっぱり女性であっていたんですね。 もしかしたら猫なで声が得意な男性の可能性もあったんですけど……当たって良かったぁ」
「こいつ……カマかけて……」
「違います。 今のはただの答えあわせです。 もちろん解答を教えてくれるのはあなたでしたが……」
「……っ!」
思わずたじろぐマスクの男……いや、女性は祝歌への警戒心をレッドラインまで引き上げる。 この理解不能の男を野放しにしてはならない、そう思わずにはいられなかった。
「くっ……」
「……あ、そうだ。 一緒にいた『もう一人』の方も出てきて下さいよ。 もっとも……大体の位置は『声』の方向でわかりますが……」
「なっ……!」
「あれ、あと一人で合っているんですね」
「ぐ……っ!」
本来なら晒される筈のない墓穴、だが祝歌にとって隠れている墓穴を晒し上げることなど造作もない。 あとは勝手に自ら墓穴を掘っていくだけなのだから。
「……しょうがない」
そう言うとマスクの男と全く同じ格好をした人物が現れる。 その見た目はまるで鏡合わせのようにそっくりで、違いを見つける事が困難であるほどだ。
そして二人の姿が変わる。 格好は二人とも一緒、唯一の違いを上げるとするならば髪の毛の長さが違うくらいだろう。 先ほどまで祝歌と大事していたのは短い髪、今さっき現れたのは無い長い髪の持ち主。 そしてどちらも祝歌の読み通り女性である。 完全に姿が変わると、髪が短い方の女性が口を開く。
「さぁ……て、ここまでバラしたんだ。 あんたにはちょぉ〜っと痛い目に遭ってもらうよ!」
「え! ちょっ、まっ!?」
そう言って二人は祝歌に近づこうと構える。 祝歌はまさかこんな展開になるとは考えてはいたが、まさか本当にそうなるとは思わなかった。 もちろん、祝歌の能力を使えば話し合いで何とかなったのかもしれない。 だが二人は確固たる意志のもと行動を決断している。 迷いや隙がなければ自身の能力は無意味であることを祝歌は知っているから。
「ま、待って!」
「待たない!」
祝歌は思わず目を瞑る。 ここまで舌戦には有利に立っていたが、祝歌に徒手空拳を期待することなど出来ない。 もし抵抗したとしても、二人がかりなら大した時間も掛からないだろう。
緊張が走るその一瞬。 そこに……
「あー……参ったなぁ……これは」
新たな人物のエントリーが祝歌を救う。
「誰だあんた!」
「魔力反応はなかった……あなたは一体……」
祝歌の背後から現れたのは一人の少年。 その少年は目の前の光景を目にしながら、ブツブツと誰かに言い訳を続ける。
「いやぁ……違うんだ……。 僕は決して原作介入するつもりはないし、たまたま『キリン』と前に行った店に行って来た結果なだけであって……」
その声に聞き覚えがあった祝歌は、目を開けて後ろを振り向く。
「君は……!」
「そもそも、僕は別に主人公になりたいわけじゃあないし。 だからここでの接触と言う名の事故はどうか見逃してくれないかな……?」
「心悟君!」
心悟は頭を抱える。 が、目にかかっている眼帯を外しながら祝歌の前に立つ。
「何がどうしてこうなったかは……まぁいいです。 とにかく何とかしますよ」
「うおおぉぉ! し、心悟君! 待つんだ、君まで巻き込まれてしまう!」
「何があったんですか……まぁ大体理解しましたけど」
心悟は自身の『心を覗く』能力で祝歌の心を覗いて状況を把握する。 そしてため息を一つ吐く。 その様子を見ていた二人の女性は心悟を警戒している。
「ガキンチョ、あんたはその男の味方なのか?」
「味方? ……味方なのかねぇ」
「ええっ!?」
「……じゃあ味方で」
「じゃあ? じゃあって何だ!?」
「それなら……一応味方で」
「一応!? 君絶対面倒なだけだよね!?」
警戒をしていたが、突如行われる漫才に二人の警戒は少々緩くなる。
「何なんだ一体……」
『ロッテ、あの少年は無視してもいいんじゃないかしら?』
『でもさアリア、もしかしたらヤバイ奴かもよ? だってあの目……ちょっとヤバそうじゃない?』
二人の間に行われる念話。 もちろん祝歌には筒抜けなのだが……
「……今、こいつは無視してもいい、って思ったな?」
『!?』
眼帯を外している心悟にも筒抜けだ。
「君たちの選択肢は一つだけだ。 ……このまま僕らの前から立ち去る事だけだ」
「何……!」
「やめとけやめとけ、考えれば考えるほど……君たちはドツボにハマる」
二人が考えれば、その心の変化を心悟が見て理解する。 何かを考えるほど向こうの手札を読んでしまう。
「はっきり言おう。 僕と対面した時点で君たちの手札は丸わかりだ。 ジョーカーを切りたくなければ今すぐ去れ!」
「この坊や……!」
「これが噂の『転生者』……!」
ここで二人は理解する。 この見た目小学生にしか見えない少年は、我々を脅かす存在になりえる、そう理解する。
「……いいわ、ここは君に譲りましょう」
「ちょっとアリア、いいの?」
「いいの。 ……ロッテだって分かってるでしょ?」
「……分かったわよ」
二人はその場から飛び去る。 その際、祝歌と心悟のことを睨みつけていた。
「……助かった?」
「の、ようですね」
「そうか……ふぅー……」
二人はこの場から消え、張り詰めていた緊張が解けたのか祝歌はその場にへたり込む。
「助かったよ心悟君。 君がこなかったらどうなっていたことか……」
「いえいえ……正直な話、まさか素直に引いてくれるとは……」
「いやいや、あの場慣れ感はすごかったよ。 今までに似たような経験があったのかい?」
「……そうでもないですよ」
ほんの少し、キリンの事を思い出す心悟。 だがそれを表面にだすことはない。
「さて、僕はもう行きますよ」
「あぁ、助かったよありがとう」
祝歌は立ち上がり心悟に頭を下げて礼を言う。 そして顔を上げる際に右手で人差し指を立てて心悟に言う。
「一つだけ、今ここで質問していいかい?」
「……何でしょう?」
この時、心悟は自分の能力について聞かれるのだろうと構えていた。 今はもう眼帯を付けているが、祝歌は心悟の目を確実に見てはいるだろうと思っていたからだ。
「君の……」
「……」
だが。
「君の言っていたお店って食事が出来るところかい? よかったら教えてくれないか?」
余りに的外れな質問に思わずずっこける。
「……い、いいですけど」
そこか、そこなのか! そうツッコミたかったが、相手はあくまで年上。 ぐっと堪えた彼はきっと祝歌よりも大人だろう。
「ふむふむ……ありがとう! それじゃあね!」
「あ、はい。 お気をつけて……」
そう言って祝歌は反対の方向に去って行った。 そして取り残される小学生が一人。
「はぁ……あの人……本当に『転生者』じゃないみたいだねぇ……」
先ほど、一度だけ口にされた『転生者』というワード。 しかしそれに何の反応もなかった祝歌の心を覗いて、心悟は祝歌が転生者ではないと知る。 だから彼の思考は祝歌から先ほどの二人の女性にシフトする。
「僕の事だけでなく、転生者であることも知っていた……リンディさんが前回の事件は公表しないと言っていたし……」
ならば一体誰が? 心悟の思考は止まらない。
「いや、公表しないとは言っていたが、もし彼女よりも偉い人間から個人の依頼で話したとしたら……」
自身の持つ『記憶と知識』を総動員して犯人を割り当てる。 そして見つける。
「……あの二人が知っていた……ならやっぱり選択肢は一つだったか」
一つ、大きなため息を吐く。 それは導き出した結果生まれたものでなく、やはり的中してしまったことによるため息。
「……やっぱり『ギル・グレアム』か。 彼がリンディさんから個人的に話を聞いたと考えれば無理がない」
もちろん他の可能性もある、だが現実的に考えればこれしかない。 心悟は夜空を仰ぎ、遠く異国の地にいるであろう親友達に言葉を投げかける。
「どうやら僕が原作介入するのは確定らしい……もう関わらないと思っていたんだがな……」
一つ目に愚痴をこぼす。
「だが……君らがいつか帰る
二つ目に決意を示す。 どこまでも続く夜空の闇、いつか闇の向こうにいる彼らにこの言葉が届くよう願い、心悟は帰路に着いた。
はい、何かリーゼ姉妹が噛ませっぽくなってしまい、ファンの皆さんごめんなさい。 リーゼ姉妹好きなはずなんだけどなぁ……これも全部薄い本が少ないのがいけないんだ!(責任転嫁)
あ、そうだ。(唐突) ごちうさの読み切り、時間がある方は覗いてみて下さい。 別に見なくてもいいです、クッソ汚いんで。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。