タナミ砂漠に到着。三人は車から降りて荷物を持って砂漠、というより密林の中を歩いた。
「おい、あれ……」
クウェンサーが指差す先にはオブジェクト整備用のベースゾーンのようなものがあった。四角く、巨大なコンクリートの建物、50メートル級の建造物を覆えそうなものだ。
クウェンサーは軍用の腕時計を見た。
「しめた。動力炉があったまるまで2時間はある。0.5世代は動けないはずだ。周りにどれだけ兵隊が控えてるか知らないけど、」
「僕がいればやれるね」
クウェンサーの台詞にヴレイアがニヤリと笑った。だが、ヘイヴィアは顔色が優れない。
「……おい。でもなーんか様子がおかしくねぇか?」
そう言った時だ。何やらガタガタと振動が三人の足元に伝わってきた。
「これ絶対ヤバイだろ⁉︎動力炉が動いてる雰囲気だぞ」
「ね、ねぇ……とりあえず離れない?」
そう言った直後だった。ガッゴォォォォンと鈍い音が聞こえた。整備場のシャッターが開いた音だ。そして、白い蒸気が溢れ出し、遅れてオブジェクト様のご登場だ。
「……暴走したってのは間違いなさそうだな」
主砲は一本だけしかないし、複数のワイヤーで吊るされて補強されていた。
「………なんか、ダサイ」
ヴレイアの口から正直な感想が漏れた。その隣でクウェンサーが真面目に分析する。
「おそらく電気的なブースターを使って、炉の温度を強引に上げようとしたんだ。けど、それが失敗して小規模の爆発が起こったんだ」
「あの分じゃ、整備場で働いてたメンテナンス要員は全滅だな。メンバー集めて華々しく出陣式でもやろうとして、部下を全員吹き飛ばしたんだ」
ヘイヴィアもそう言った。
「なら、あいつをぶっ壊せば全部終わりってわけだ」
「けど、そんな単純にはいかねーぞ。あれでもオブジェクトだ」
「分かってるよ。とりあえず、勘付かれないようにこっそり近付こう」
ヴレイアの台詞で三人はゆっくりと近付く。まるでこそ泥のようにオブジェクトを見た。
オブジェクトはまるで準備運動のように主砲を上下させると、景気付けに一発カマした。それが三人の真上を通る。
「危ない!」
ヴレイアが2人の手を引いて無理矢理木の茂みの中に突っ込んだ。
「すまん、助かったヴレイア」
「何今の、バレたの?」
「いや、にしては狙いがテキトー過ぎる。慣らし運転の一貫だろう」
言いながら三人は大きく迂回するように匍匐前進でゆっくりと進む。
「意外に下草が体を隠してくれるもんだね」
「地雷やトラップが隠れてる可能性もあんだから、気を抜くんじゃねぇぞ」
「さっき一個地雷拾ったよ」
「拾うな!」
ガチャガチャと音を立てながら三人は移動。クウェンサーが移動しながら呟いた。
「にしても、やっぱ旧式って感じだな」
「ガンダムだと旧型はカッコいいんだけどなぁ」
「それでもスケールの桁が違う事に変わりはないぞ」
「なぁ、あの0.5世代、どうやって照準合わせてると思う?」
「やっぱ基本のカメラ照準だろ。各砲についたカメラで狙いを定めてるとしか思えねぇ。超音波でこっちの鼓動を探ってるとしたら、下草なんか遮蔽にならねぇだろ」
「……つまり?」
「従来の明細が通用する。おい、服に泥つけとこうぜ。それだけでも結構変わるぞ」
と、いうわけで途中で泥を付けながら移動し、ようやく0.5世代まで300メートルの位置まで接近、ちょうどオブジェクトの背後を守る位置についた。
「……ようやく冷静に弱点探しができるな」
「……おい、そろそろ基地の敷地に入っちまうぞ」
2年ぶりに起動させたからか、0.5世代は各部のチェックを入念に行っていた。三人は匍匐で地道に進みつつ、双眼鏡で0.5世代を覗き込む。
(………あれか)
0.5世代から太い送電ケーブルが千切れてぶら下がっていた。それを見つけた時だ。ビーッ‼︎という甲高い電子音が鳴り響いた。
整備基地ベースゾーンの周辺を取り囲む、セキュリティ用の赤外線レーザーに触れてしまったようだ。
「しまっ……⁉︎」
オブジェクトは巨体を振り返らせる事はなかった。全体に取り付けられた副砲が三人を狙っていた。
「ヴレイア!ミサイルであそこの沼地を撃て!」
「え?お、おう!」
クウェンサーに言われるがまま、ヴレイアはミサイルをぶっ放した。泥沼の真ん中にミサイルが直撃し、泥を辺りに撒き散らし、オブジェクトのカメラに泥を貼り付けた。
直後、0.5世代は泥が付いたまま副砲を動かし、クウェンサー達に向けた。
「くそっ‼︎」
三人は慌ててその場から離れた。その直後、さっきまで彼らがいた場所が爆発した。背中から爆風を諸に受けた三人は吹き飛ばされる。空中に舞い上がったヘイヴィアとクウェンサーをヴレイアは抱えて、膝をどっかの木の枝に引っ掛けてグルッと周り、木の上に乗った。
「ふう……。2人とも大丈夫?」
「………お前ほんとに人間かよ」
「え?何が?」
「いや、いい。助かった。悪いな」
木の上で葉っぱを利用して隠れる三人。クウェンサーが隣のヘイヴィアに聞いた。
「あそこが弱点なんだろうけど、真面目な話、近付いてこいつを取り付けられると思うか?」
「テメェが筋トレ積んで、オブジェクトの砲撃を跳ね返せるまで成長したらな。……いや、待て」
2人はヴレイアをみた。
「え、何」
「テメェなら跳ね返せるんじゃねぇか?」
「本気で言ってんの?」
「冗談」
割と本気で睨むとヘイヴィアは謝った。そのヘイヴィアにクウェンサーが横から聞いた。
「なぁ、これ無線で通信しても大丈夫かな」
「じきに0.5世代に気付かれるだろうが、瞬殺って感じでもなさそうだな。だが、ほれより厄介なのはお姫様達が今すぐ駆け付けてくるかだぞ。グレートサンディー砂漠からここまでどれくらいの距離があると思ってんだ」
「やっぱり、それまで逃げ続けるしかないか?」
「そりゃ素晴らしいダイエット法だ。痩せるまでに100回死ねるな」
クウェンサーは無線機のスイッチを押した。
「あー、こちらクウェンサー。タナミ砂漠で捜索中のオセアニア軍事国側のオブジェクトを確認。繰り返す、タナミ砂漠で捜索中のオセアニア軍事国側のオブジェクトを確認。繰り返す、タナミ砂漠でオセアニア軍事国側のオブジェクトを確認。電子シュミレート部門の予測通り、技術レベルは0.5世代。俺達の最先端の機体を使えば主砲一発でおしまいだ。増援を要請する。どこの軍のものでもいい。とにかくデカイ主砲を積んだオブジェクトを一機でも連れて来てくれ!」
「早い者勝ちだ!さっさと来ねえとまた俺たちが表彰状さらっていっちまうぞ!」
「えーっと、あれだ!ニャースでニャース!」
クウェンサー、ヘイヴィア、ヴレイアと続けて叫ぶと、通信の向こう側から、まさか本当にあっちだったのか……?と歩兵の声が聞こえて来た。
『いいや、タナミ砂漠への増援は認められない。これは命令だ』
ジジイの声が割り込んで来た。
『繰り返す、タナミ砂漠からの通信は罠だ。従う事は許さない。独断行動を取るクウェンサー、ヘイヴィア、ヴレイアは極度に混乱しているようだ』
「……誰の声?」
ヴレイアがヘイヴィアに聞いた。
「フライド評議員だよ」
「フライドチキン?ケンタッキーのボスかな?あれ、でも確かカーネルじゃなかった?」
「あ?カーネルは確かロックマンのアレだろ」
「2人ともちげーよ。てか何の話ししてんのお前ら」
クウェンサーが冷静にツッコんだ。そして、無線機からはカーネル……プライドの声がする。
『データからも分かる通り、オセアニア側のオブジェクトは本当にグレートサンディー砂漠にあった。試作実験炉とオブジェクトの双方が同じ施設にあったのだ。オセアニア側は我々多国籍軍からの攻撃に驚き、急遽試作実験炉だけを置いて、オブジェクトを逃したのだろう。本物は現在もグレートサンディー砂漠を移動しているはずだ。この機を逃してはならない。ここでタナミ砂漠を引き返せば、0.5世代のオブジェクトを再び雲隠れしてしまう』
戸惑う兵士たちにフライドは更に続けた。
『クウェンサー、ヘイヴィア、ヴレイアはこの事実を知りながら、オブジェクトと戦う事を恐れて、わざとダミーのタナミ砂漠で時間を潰す口実を作ろうとしているだけだ。彼らはのちに捕縛するが、まずはグレートサンディー砂漠にいるであろう0.5世代が先だ。クウェンサー、ヘイヴィア、ヴレイアの言葉に惑わされるな』
「エロイムエッサイムエロイムエッサイムエロイムエッサイムエロイムエッサイムエロイムエッサイム」
『ついでに呪文にも惑わされるな』
「アバダケダブラァッ‼︎」
「お前黙れ」
ヴレイアが言うと、ヘイヴィアに怒られた。
「それより、どうなってやがんだ⁉︎俺達が極度に混乱しているだって‼︎当たり前だろ、本物のオブジェクトが目の前にいるんだからさ」
「フライド評議員か。確か軍需系の出身で、オブジェクト関係でも重要なポジションについてたな。『正統王国』軍でエリートの才能を磨くための部署を一括管理してたはずだぜ」
なんて話してると、またまた無線機から声が聞こえた。
『君達は我々の思惑から外れてしまったんだ』
「あ?」
『この通信は君たちにしか届いていない。我々の思惑から外れた君達にしかな』
「どちら様ですか?」
『カーネルだ』
「ああ」
「いや、納得するな。あんたもカーネル名乗るな」
『君達は頑張りすぎた。もっと無様でいてくれれば良かったんだ。生身の兵隊が超大型兵器オブジェクトを破壊する……。いかにも疲弊した人間に希望を与えてるような、素敵な話じゃないか。しかし、だ。希望を与えられたのは「安全国」の呑気な住人だけではない。世界中で無謀な戦いを続けている、ゲリラやテロリスト達にも活力を与えつつあるという事実に気づいているかな?』
「………」
『このオセアニアは君達が生み出した地獄だ』
「だから、俺たちにはこの場で死んで欲しいってのか」
『君達の戦果は戦争をイタズラに引き伸ばし、必要のない死者を増やしているのだ』
「………確かに」
「納得するなバカ」
ヘイヴィアの冷たいツッコミ。すると、クウェンサーが「ふざけるな!」と木を殴った。
「結局利権を守りたいだけじゃないか!オブジェクトを沢山持ってる国が主導権を握ってるって世界が続いて欲しいだけだろ!!」
『どの道、君達はここで死ぬ』
すると、クウェンサーは不敵に笑った。
「なら賭けようか。俺達が0.5世代に負けたら、アンタの天下。俺らが勝ったら、てめえは終わりだぜ」
そう言うと、無線を切った。
「やっぱ俺たちだけでやるしかないだろ」
「ああ。フライドのクソ野郎をぶん殴るまでは死ねねぇしな!」
「なんか話はよくわかんないけど、アレ壊せばいいんだよね」
三人は0.5世代を睨んだ。