ざくざくざくと、三人は雪原を歩く。もうすぐ目的地だ。別のルートを通って接近してきた、同じ基地の別働隊の人影も見えてきて、お互いに手を振ったりしていた。
「うーん。やっぱ顔見知りが多いと安心できるね」
「アホ!合図にしても方法があるだろ!ついさっき敵兵ぶっ殺したばっかりなんだからよ、向こうだって警戒してる可能性高けぇだろ!」
「うきゃっほおおおおおい!」
「ヴレイア!跳ねるな!コイキングか!」
いい加減、一人でツッコむのに疲れたヘイヴィアは白いため息をついた。
「ったく、お前ら……一応、ここは戦場だぞこの野郎」
「さっきペンギン見てたの誰だよ」
「いや、それ言われると何も言えないんだが……」
ヴレイアにツッコまれ、ヘイヴィアは押し黙った。すると、通信機から声が割り込んで来る。
『ペンギン?』
お姫様からだった。それにはクウェンサーが答える。
「あ、ああ。お姫様。赤ちゃんペンギンがアホウドリに狙われててな。俺たちは敵も味方も忘れてペンギンの応援してたよ」
「ヴレイアの野郎は、その内に敵を全員ブッ殺してたけどな」
ヘイヴィアも付け加えるように言った。
『……あなたたち、こっちがあつい思いしてるときにそんなことしてたの?』
「は?暑い?」
『クウェンサー、エアコンのちょうせつメンテでしくじったでしょう?』
「うぐっ……!そ、そうだっけ?」
『うー……あっつい。だれも見てないから、とくしゅスーツぬいじゃおうかな。どうせこうそくせんとうなんておこらないだろうし』
「それはイマジネーションで俺達の体温を上昇させようという配慮なのか……?」
『?』
そんな会話をしながら歩いてると、ヴレイアが足を止め、双眼鏡で周囲を観察し始めた。エレバス山の麓に着いたからだ。
すると、雪原の向こうに、四角い建物が一つだけあった。そして、それを囲むように太さ80センチ、長さ9メートルほどの筒が横倒しに置いてあった。
「……調査機が地上から対空ミサイルの照準用レーザーで狙われたって場所がこの辺だって話だけど」
「残りのテロリストは何処にいやがるんだ?寒さに耐えかねて立ち去ったとかって話じゃねぇだろうな」
クウェンサーとヘイヴィアも双眼鏡で覗きながら呟いた。
『無人観測所の中で暖を取っているなら、襲撃すれば済むけど、そうじゃないと面倒ね』
突然、無線機からフローレイティアの声が聞こえた。
「どういうことすか?」
『いるかいないかも分からないテロリストを捜し出せって追加命令が下るだけよ。このクソ寒い南極の隅から隅まで、どこかに隠れていないかかたっぱしからね』
「マジかおい。おい二人とも、さっさと無人観測所確かめようぜ。下手に逃げられたらこっちが凍え死にしちまう。早く早くほら早くさっさとすませりゃ暖かい毛布とエアコンが待ってるんだからよ」
「そうもいかないっぽいよ」
ヴレイアが珍しく冷や汗のようなものをかいて言った。
「あ?どうしたよ」
「あそこに倒れてるアレ、なんだか分かる?」
ヴレイアは観測所の周りに横倒しになっている棒のようなものを指して言った。
「あん?分かんねーけど。クウェンサー、分かるか?」
「…………」
「おい、クウェンサー」
「聞きたい?」
「あ?」
「オブジェクトのスペア砲」
「……聞かなきゃ良かったぜ」
そんな事を言った直後、そのスペア砲が動き出し、三人に砲身を向けた。
「「嘘おおおおおおおおおおおおひゅっ!」」
ギャグマンガのような雄叫びをあげた後、ヴレイアに襟首を掴まれて引っ張られ、変な息が漏れるクウェンサーとヘイヴィア。
引っ張ったヴレイアは、思いっきり伏せてなんとか一撃目を躱すことが出来た。
「すまんヴレイア……!」
「次は避けれないよ!」
そう言った通り、スペア砲は第二射を放とうとしていた。
「クウェンサー、ヴレイア!潜れッ‼︎」
ヘイヴィアが声を上げた。言われた直後は意味わからなかったが、振り返って理解した。第一射の衝撃波によって大地にできた亀裂の中に飛び込め、とのことだった。
慌てて三人でその中へ潜り、なんとか第二射も凌いだ。
「おい、一番ヤバい問題はわかるか」
ヘイヴィアが二人に聞いた。
「スペアって言っても、あのオブジェクトの砲で四方八方から狙われてるってことだろ」
「違う。オブジェクトの砲を動かしているってことは、それを動かせるだけの動力炉があるってことだ!」
「おい、それって……」
「何がテロリストだよクソッタレ‼︎敵はオブジェクトを持ってやがるんだ!最悪ここを切り抜けてもオブジェクトが待っているかもしれねぇんだぜ‼︎」
クウェンサーだけでなくヴレイアもゾッとした。流石に今の装備でオブジェクトとぶつかり合う気にはなれなかった。
クウェンサーが無線機の周波数を合わせ始めた。
「ベイビーマグナムへ。こっちの位置は分かるか?そこから砲撃した場合、いくつの砲台を破壊出来る?」
『あいだに山をはさんでいるから、ちょくせつはねらえない。大きくこをえがくようにコイルガンをはっしゃすれば、しゃへいぶつのもんだいはクリアできるけど』
「命中率は?」
『五分五分。じゅうたんほうげきなら全てふきとばせるけど、それだとあなたたちもいっしょにけしとばすことになる』
「正確に当てるのは難しくても、とにかくここまで砲弾を届かせることはできるんだな⁉︎」
『う、うん。それぐらいなら、できる、けど……』
「グリッドで指示を出す‼︎座標000212を基準点に、W11、J18、G26、M19、L27、B20、R12‼︎そこなら風に流されても、誤差±15までなら味方の歩兵を巻き込まずに済む!今すぐバカでかいコイルガンの砲弾を降らせてくれ‼︎」
『そこだと、うってもてきのほうだいに当たらないとおもうけど』
「良いから早く‼︎それでケリがつく‼︎」
『?』
意図が掴めないながらも、従うミリンダ。ドォン‼︎という砲撃音が響き、コイルガンがはるばる放射されてきた。
それを確認もせずにクウェンサーは無線で自軍全員に向かって叫んだ。
「しっかり掴まれ!多分、亀裂は広がって崩落する‼︎」
「おい、結局何をどうしたんだよ⁉︎」
困惑しながらもヘイヴィアとヴレイアは従った。
そして、コイルガンの砲弾が真上から落ちてきて、大震災のような振動を巻き起こした。
「くそっ!敵も味方もオブジェクトってのはとんでもねぇな‼︎衛星からクレーターが確認できんじゃねぇのか⁉︎」
「僕もあれくらいのクレーターが出来るレベルのパンチが放てるようになりたい」
「テメェはだーってろ‼︎」
で、ヘイヴィアはクウェンサーの方を見た。
「おいクウェンサー!テメェのリクエストの所為でとんでもねぇことになってんぞ‼︎」
だが、クウェンサーは亀裂から出てヘイヴィアに言い返した。
「良いから登れ!」
「何言ってんのかわかってんのかテメェ!」
「登らないと死ぬんだよ‼︎」
怒鳴られ、仕方ないながらもヘイヴィアとヴレイアは亀裂から出た。
「ッ⁉︎」
「どうしたヴレイア⁉︎」
「いや屁が出ただけ」
「ッ! ッ!」
「蹴らんといて!蹴らんといて!」
バカ二人がそんなことをやってる間にも、クウェンサーは同じように味方に指示を出す。
その後、敵のスペアの主砲は大きくひっくり返った。
「なっ、なんだ?何が起こったんだ?」
質問するヘイヴィアにクウェンサーは答えた。
「レールガンを支えるために地面へさしていたアンカーを使い物にならなくさせたんだ」
「?」
「厳密にはアンカーをじゃなくて地盤そのものをだけど」
それを聞いて、なんとなくヘイヴィアは納得した。地盤を割った事により、レールガンを支えていたアンカーを緩め、撃った反動で大きく引っくり返らせた、ということだ。
「なるほどな。てことは、あとはこれを操ってる連中を捜せばおしまいだな」
「じゃあ、ヘイヴィア、ヴレイア。後はよろしくな。銃撃戦じゃ俺は役に立たないから」
と、いうわけで三人はまた雪原を走り始めた。