「いいか、先に俺とヘイヴィアが突入する。その五分後にヴレイアは来てくれ」
と、クウェンサーが言った。
「え?僕が先行しなくていいの?」
「見れば分かるけどあの腑抜け具合だ。侵入だけなら容易い」
「……了解」
二人は先に突撃した。
「がんばってー」
ミリンダが小声で二人を送り出した。
「………」
「………」
気まずい。別に仲良いわけでもなく、話をしたことがあるわけでもないので、気まずかった。ヴレイアは女性と話すのが苦手だから尚更だ。
「…………ねぇ」
「は、はい!」
声をかけられ、年下の女の子に丁寧な返事をしてしまった。
「そういえば、あなたが助けにきてくれたりゆう、きいてない」
「あ、ああ……そ、そですね……」
「どうして?」
「い、いや、その……なんとなくですよ……」
「こわくないの?」
「こわい?なんでですか?」
「あいては、わたしのオブジェクトをたおしたのよ?かくへいきも効かないようなばけものよ?」
「……あー…いやでもほら、軍人って戦うものでしょ?」
「!」
「僕は、戦うために軍人になったのに……守られてばかり、じゃないですか。後は、まぁクウェンサーやヘイヴィアを守りたい、とか……」
「………そう、なんだ」
「…………」
会話が止まった。ヴレイアは気まずさを紛らわすために自分の銃にサイレンサーを取り付ける。
「……あの、僕は行きますから……その、ここは動かないでくださいね」
「わかった」
ヴレイアは銃を構えて塔を出ようとした。
「ヴレイア」
「えっ?」
「がんばって」
「………うん」
そう答えると、ヴレイアは「割と女の子とも話せてるかも……」と思いながら出て行った。
○
簡単に侵入した二人は、倉庫の中にいる。倉庫の中には直径1メートル、全長5メートルほどの戦闘機のエンジンのようなものが並んでいた。
「足まわりじゃないかと思うんだけど」
「ああ。ウチの部署は戦闘記録を分析して、敵オブジェクトの設計図の逆算作業を進めていたが、大体こんな感じの予想図を描いていたはずだ」
二人はタービンの側面に記されている数字を見た。おそらく、使用電力などの簡単なスペックなのだろうが、すごい数字だった。
「なんだこりゃ。桁を間違えてないか?本当にこの数値なら、オブジェクトの主砲の2倍以上はありそうだぞ」
「あれだけの巨大を浮かばせて高速移動させるには、それぐれぇの無茶をする必要があんじゃねぇのか。……おい、見ろよ」
ヘイヴィアはタービンの整備用のカバーを開けて、中を覗き込んだ。
「こんなにゴチャゴチャとセンサーつけやがって。これだって、高出力のタービンが暴走する前に、その予兆を的確に掴んで早い段階でシャットダウンするための神経質なセキュリティってヤツだろ」
「そう言えば、常時エネルギーを生み続けてると、タービンが溶けてしまうかもって話があったっけ?」
「溶けてからじゃ遅ぇんだよ。多分、タービンが溶けて機能停止したら、変圧器や放電器でも対応しきれねぇ。装置の方が粉々に吹き飛ぶんじゃねぇのか」
「……なるほどな。尖った性能とはいえ……随分とゴリ押しな設計してるんだな」
「それも雪原に特化したオブジェクト作るための一環だろ。深い雪の中じゃ、どうしても動きは単調になるからな。そんな中でスイスイ動けるオブジェクトってのはデカいポイントなんだよ。……実際、それでお姫様もやられたしな」
つまり、とクウェンサーは思った。こいつらをアメンボが戻って来る前に壊せれば自分達の勝ちだ。だが、量が多過ぎる。
「どしたもんかね……」
クウェンサーが呟いた。
○
一人になってしまったミリンダは、暇潰しに双眼鏡でみんなの様子を見ていた。が、クウェンサーとヘイヴィアは室内で見えないので、ヴレイアの事だけだが。
「………すごい」
思わず声を漏らした。あっさりとレーダー網を掻い潜ると、すぐに一人目の首の骨をあっさり折った。さらに、次の獲物に襲い掛かる。そして、殺した相手から上着だけ拝借して羽織ると、見張り台の上に上がってスナイパーも仕留める。
(でも、ちょっとグロいかも……)
今まで何機ものオブジェクトを破壊してきた自分の言える台詞ではないが、よくもまぁ簡単に人を殺していけるものだと感心してしまった。しかも、ほとんど騒ぎにせずに殺している。まるで必殺仕事人のようだ。
その時だ。嫌な聞き覚えのある電子音が聞こえた。そっちに双眼鏡を向けると、敵のオブジェクトが戻って来ていた。
(………まずい)
すぐに無線機で三人に知らせようとしたが、その手が止まる。レーダー施設が近くにあるからだ。その近くで無線通信など行えば気付かれる。
(わたしだけならともかく、それがきちに向けてはなたれたものだって分かったら……どうしよう)
迷ってる間にも、ウォーターストライダーはベースゾーンに向かって行く。
(てきのさいゆうせんは、オブジェクトをそうじゅうするエリート……)
そう思い浮かべると、頬に冷たい汗を流しながらミリンダは唾を飲み込んだ。そして、覚悟を決めた。
○
「っ! この音……」
見張り台の上の敵を始末した所で、ヴレイアはオブジェクトの接近に気付いた。しかも、よりにもよって高い所にいる時に帰って来やがった。
(………マズイな)
すぐにしゃがんで壁に身を隠したが、壁越しだろうとオブジェクトは人を感知する。隠れているような格好をいつまでもしてると、気付かれる。その時、たった今仕留めたスナイパーを見た。そして、なんとかその場凌ぎになりそうな事を思い付く。
(………よくもまぁ、こんな事思いつくな僕は)
思わず自己嫌悪をした。
(あとは、クウェンサーとヘイヴィアがちゃんと爆弾を仕掛けてくれたのを祈るだけか)
行動開始した。
○
整備基地ベースゾーンの真ん中。クウェンサー、ヘイヴィア、ミリンダの三人はそこで、両手を頭の後ろへ回すような形で膝立ちにさせられている。彼らの背後には一人ずつ付いていて、ライフルの銃口を頭に突きつけられている。
クウェンサーとヘイヴィアはとりあえず逃げ出そうとしたが、捕まってるミリンダを見つけて、どうしようかウダウダしてる内に捕まってしまったのだ。
「泣かせる話だろ。お姫様の危機に、ナイト様は必ず戻って来るって良い見本だ」
「ふざけてるの?」
「ちくしょう、オブジェクトが整備場に入っていきやがる」
ヘイヴィアとミリンダの会話を無言で聞きながら、クウェンサーはゆっくりと移動していくウォーターストライダーを目で追っていた。
「(……ヴレイアは何処だ?)」
「(何処かで身を隠してるんだろ。じゃなきゃ先に逃げたかだ。オブジェクトが帰ってきた以上、ここに残ってりゃ、捕まるのは時間の問題だろうな。まぁ、よっぽどの馬鹿じゃない限りもう逃げてんだろ)」
ひそひそと話してると、敵兵の一人の男がクウェンサーとヘイヴィアの前に立った。
「お前達はオブジェクトの主砲で焼く」
そして、ミリンダを見た。
「お前は暗示と電極を使って、頭の中身を引きずり出す。人格は二度と元には戻らんが、30分程度で完了するだろう。それが終わったら、生きたまま裸に剥いて凍死するまで主砲に吊るす。野山を駆け回っている蛮族共も、それを見れば少しは諦めがつくだろう」
「……捕虜に関する戦争条約もお構いなしか。どっちが蛮族だよ、クソッタレ」
思わずヘイヴィアが呟くと、分厚い軍用のブーツが飛んで来た。
「蛮族は貴様らだ。こちらの兵を随分と殺してくれたな。今すぐにでも消してやりたいところをわざわざオブジェクトで焼いてやると言ってるんだ」
一瞬、頭の上に「?」が浮かんだが、それをすぐに打ち消す。
「(ヴレイアのこと?)」
「(多分ね。通りで俺たちを囲む兵が少ないはずだ)」
ミリンダの台詞にクウェンサーが呟いた。周りにいるのは、三人の後ろにそれぞれ並ぶ兵隊と、目の前の奴が一人、さらにその周りに五人だけだ。見張り台の上にも人がいるようには見えない。
「そろそろ、オブジェクトの整備が終わるはずだ」
目の前の奴がそう言う。三人の背筋に、冷たい汗が流れた。