オブジェクト整備長の雑用係   作:フリーザ様

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親指トムは油田を走る
トライコア


 

 

ヘリの中。次の作戦の船の上に移動中だ。その作戦会議室でクウェンサーはヴレイアに殴り掛かった。

 

「オラァッ!」

 

「だからそんなおお振りじゃ当たらないってば」

 

言いながら拳を躱して、溝に肘打ちを叩き込むヴレイア。

 

「ぐあっ!」

 

「何やってるの?」

 

フローレイティアが作戦会議室に入ってきて聞いた。

 

「いや、どうせならヴレイアに稽古つけてもらおうと思いましてね。アラスカの時こいつ、ほとんど素手で敵兵全滅させてましたから」

 

ヘイヴィアが言った。

 

「どうでもいいけど、作戦前に怪我だけはやめてよね」

 

フローレイティアに注意され、三人は大人しく椅子に座った。で、作戦内容をフローレイティアはクウェンサー、ヘイヴィア、ヴレイアの前で説明する。

 

「地中海の玄関である、ジブラルタル海峡を突破しようとしている敵軍のオブジェクトがいるの。こいつの侵入を許してしまうと大変な事になるから、海峡突破前にオブジェクトを爆破しないレベルで行動不能にしろ。以上よ」

 

「以上よ、じゃねっすよ」

 

「了解です!」

 

「ヴレイア、テメェも良い返事はやめろ」

 

ヘイヴィアの当然のツッコミが帰ってきた。

 

「上のお偉いさんは本気でそんな注文をして来ているわけよ。どうやら今度のオブジェクトは大量の原油を勝手に盗んで運搬してる最中らしくて、それを回収したいみたいだけど。ただ現場の私はもう少し現実性のある命令を出してあげるから安心して。盗まれた原油の行方なんぞどうでもいいから、とにかくオブジェクトが海峡を突破するのを阻止しろ。以上よ」

 

「わかりました!」

 

「だから良い返事はやめろヴレイア」

 

ヘイヴィアが呆れ声で言った。

 

「全然それでも無謀な命令なんですけど……」

 

「素直な子の方が好きよヘイヴィア?ねぇ、ヴレイア」

 

言いながらフローレイティアはヴレイアの頭を撫でた。

 

「うえっ⁉︎」

 

ボンッ!と顔を赤くするヴレイアに、フローレイティアは少しビックリして手を引っ込めた。

 

「……何よ」

 

「い、いえ……その……」

 

「フローレイティアさん!ヴレイアは純情なんですよ!」

 

「虐めないでやってくださいよ!普段の俺たちのエロトークにはついてこれても女性に対する耐性はゼロなんですよ!」

 

「おい、お前ら殺すぞ……」

 

顔を赤くしながらヴレイアはアホ二人を睨んだ。生身最強兵士を怒らせる前にクウェンサーは話題を変えた。

 

「それより、海峡を突破されるとどうなるんですか?」

 

「我が国が6ヶ月かけて兵糧攻めにしている敵軍のベースゾーンがある訳だけど、その6ヶ月が無駄になるの。敵軍のオブジェクトは石油採掘機能も備えているらしくてね。公海も他国の領海もお構いなしに海そこから石油を吸い出しては体の中に抱えてるらしくて、オブジェクトの同盟国に配って歩いてるみたいよ」

 

「テロ指定国家への宅配サービスってとこですか。ここで沈めておいたほうが世界のためだぜ」

 

ヘイヴィアがそんな事を言った。

 

「オブジェクト主体の戦場に、石油なんて必要あるんですか?」

 

「オブジェクトそのものじゃなくて、メンテ用のベースゾーンが石油を消費するわけね。アラスカでお前たちが襲った基地と同じよ。整備できなくなればオブジェクトも身動きが取れなくなるの」

 

なるほど……と、クウェンサーとヘイヴィアは相槌をうち、ヴレイアはついてこれていない。

 

「現在、ジブラルタル海峡の端から端までゴールテープを張っているの。等間隔で機雷を巻きついてる網ね。まぁ気休め程度のものなんだけど。だから正面からお姫様のオブジェクトをぶつけて、裏からお前達に動けと命令が来たみたいね」

 

「激戦区だな。流れ弾で100回死ねる」

 

ヘイヴィアはおデコに手を押さえてため息をついた。クウェンサーもやれやれといった感じだ。その二人にヴレイアがキョトンとした顔で聞いた。

 

「で、僕達は何をすればいいの?」

 

「作戦開始よ」

 

無視された。

 

 

 

 

船に着陸した。

 

「……おい嘘だろ。ど真ん中じゃねぇか」

 

ヘイヴィアが機関砲を前後に二門だけ取り付けただけの雑な軍用ボートの上で呻き声を上げた。海峡を突破しようとしている敵軍オブジェクトを迎え撃つための、簡単なベースゾーンのようだった、

 

「これじゃ的ですよ。でかいのがやってくると分かってるなら、ジッと待っていないで空軍でも動かせば良いのに……」

 

空軍なんか通用しないとわかっていても、そんな声を漏らしてしまった。ヘイヴィアもクウェンサーもうんざりしてる中、三馬鹿の中でもとびっきりの馬鹿がウキウキしていた。

 

「やっぱり大きい基地にくるとテンション上がるよねー」

 

「お前なぁ、少しは緊張感持てよ」

 

クウェンサーに言われた。

 

「分かってないなぁ。船から単独で敵を殴りかかるなんてまるでモビルスーツじゃん」

 

「その馬鹿の馬鹿な理由でテンション上げてるの、本当にやめてくれる?」

 

「お前馬鹿って言いすぎでしょ!僕だっていつも能天気なわけじゃないんだぞ!」

 

「自覚はあったのか、偉いぞ」

 

ヘイヴィアにウンウンと頷きながら言われ、思わず死にたくなるヴレイアだった。そんな三人に後ろから声が掛かった。

 

「おい、遊びに来ているんじゃないの。さっさとロッカーに荷物を置いて、配置につくの。聞いた話だとお偉いさんもちょっとは注目しているみたいだから、ここでヘマすると響くよ」

 

「そういや、支給品の爆薬がC4から『ハンドアックス』に変わってたっけ?グラム単位の価格はプラチナよりも高いとかいう奴」

 

「何にせよ、オブジェクトの装甲には傷一つ付かないんだけどね」

 

クウェンサーは任務内容を思い出し、ウンザリした。そして、隣のヴレイアに耳打ちした。

 

「(……なぁ、リアルな話なんとかなると思うか?)」

 

「えっ?うん」

 

「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」

 

クウェンサーはヘイヴィアに同じことを聞いた。

 

「いや、俺も今回は何とかなるんじゃねぇ?とは思うぞ」

 

「……今からでも遅くない。治療を受けろ。馬鹿が感染してる」

 

「手遅れでしょ。あんたら三人とも」

 

フローレイティアの毒舌はこの際無視した。

 

「だってよ、今回は俺らだけじゃなくお姫様のオブジェクトもいるんだぜ?こっちは裏でコソコソやるだけだし、その裏の方も白兵戦最強の馬鹿がいるわけだし、アラスカとは訳が違うと思うぜ」

 

「そんな……モンか?」

 

「そんなもんだろ。見ろよ」

 

ヘイヴィアは海の向こうを指差した。

 

「急造とはいえ、オブジェクト整備施設だけで30くらいあるんだぜ?仮にメンテ施設が一つ二つ狙われたって、お姫様のオブジェクトを運用できるように準備を固めてあるんだ。俺らの帰還率も自然と高まるって事だな」

 

クウェンサーもその海の向こうに浮かぶベースゾーンを眺めた。

 

「そうだよな!大じょ……」

 

ドォォォォォォォォォンッ!

 

「……………」

 

轟音が響いた。隣のベースゾーンが粉々に吹っ飛ばされた音だ。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「なん……っだ、いきなり⁉︎欠陥建築か‼︎」

 

「馬鹿、現実逃避してんな!オブジェクトに決まってんだろ!」

 

「隕石じゃないの?」

 

「もっとねぇよ!」

 

そして、三人は見た。自分達の正面に山のように巨大なオブジェクトがこっちを睨んでいるのを。海戦特化型オブジェクト、トライコア。他のオブジェクトとは違い、動力炉が三つもある。

 

「おいおいおいおい!何なんだよあれどうやって動かしてんだ⁉︎」

 

「知らねーよ!どうせ空気で船を浮かばせるエアクッション船とかウォータージェットとか気合いとか色々組み合わせてるんだろ!」

 

二人の少年など御構い無しにトライコアは片っ端からベースゾーンを壊していく。

 

「くそ、俺らは屋台の射程の景品か⁉︎そもそ機雷つきのネットを張ってるって話はどうなってんだっつの!」

 

「普通の爆薬なんか通じるか!薄々分かっていたんじゃなかったか⁉︎」

 

ギャーギャー騒ぐ二人にマスクが飛んできた。酸素ボンベだ。

 

「あ?なんだこれ」

 

「おい、ヴレイア。こんなもん渡してどうするつも……」

 

「とっつげきィィィィィッッッ‼︎‼︎」

 

「ええええええええッッ‼︎⁉︎」

 

二人の腕を引っ張って、ヴレイアは海に飛び込んだ。

 

 

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