とある科学の無能力者【完結】   作:ふゆい

2 / 68
 今日も元気に更新です。テスト勉強? なにそれうま(削除されました)
 早く原作に飛び込みたい今日この頃です。


第二話 スキルアウトの仲間達

 半蔵と同じくスキルアウトの先輩という立場である浜面仕上、駒場利徳と合流した佐倉は、いつも通り浜面の盗んできたワンボックスカーに乗り込み仕事現場へと向かった。

 青春真っ盛りな男四人が集まってがやがやと騒がしい車内。これだけ見ると旅行に向かうバカ四人だが、彼らはただのバカではない。今からとある大それた悪事を働きに行くバカ四人だ。

 

「おっしゃー、見えてきたぞ今回の仕事場が」

 

 慣れた手つきでハンドルを捌いていた浜面が金茶髪を掻きながら前方を顎で示した。佐倉が後部座席から頭を覗かせると、視界に入ってきたのは大きめのコンビニエンスストア。第七学区ではそれなりに利用者のいる、学生御用達の理想郷。

 とてもワンボックスカーに乗った男達総出で向かうような場所ではない。彼らが学校帰りに菓子を買い食いしようとしているのなら頷けないこともないが、今回はあまりにも事情が違った。

 駐車場に車を止め、佐倉達はぞろぞろと雁首揃えてコンビニに入っていく。そして浜面だけが、コンビニから少し離れた昼休み中の工事現場に走っていった。

 

「いらっしゃっせー」

 

 バイトらしいレジ打ちの兄ちゃんがやる気なさげな接客を始める。ゴリラのような巨体を持つ駒場に一瞬目を丸くしていたが、学園都市にはこんなやつもいるんだろうと目を逸らした。ある程度の人外ならばそれなりに受け入れてもらえるのがこの街の怖いところである。

 店に入った三人は商品を物色するわけでもなく、まっすぐレジの方へと足を進めた。怪訝な表情をするバイトに、彼らはポケットから取り出した黒塗りの物体を静かに突きつける。

 

 拳銃だ。

 

「……え、え~とぉ……ほ、本日はどのようなご用件で……」

 

 それでも泣いて逃げださず、店員としての役割を果たそうとするその精神だけは褒め称えられてもいいと思う。バイトにしては大したものだ。無気力に見えて、なかなか肝が据わっている。

 思いのほか冗談の分かる店員に表情を和らげた半蔵は、拳銃を突きつけたままこれまたニッコリとおでんを注文する時のように爽やかに言い放つ。

 

「ATM一つ貰えますかね?」

 

 ドゴシャァァアアアッッ!! という想像を絶する破壊音と共にコンビニの壁をぶち壊して登場したのは、黄と黒で塗り固められた工事現場の建設重機だった。

 

 

 

 

 

                      ☆

 

 

 

 

 

「ひゃっほう上手くいったぜ流石は我らが浜面だ!」

「おいおいもっと褒めていいぜ? 遠慮はいらねぇ!」

「工事現場から重機盗んで突貫するなんて男の中の男っすよ!」

「おぉー! 佐倉てめぇ分かってんじゃねぇか!」

 

 ハンドルを握る浜面、助手席の半蔵、後部座席から身を乗り出す佐倉が揃って下卑た笑い声をあげる。佐倉の隣ではATMを抱えた駒場が窮屈そうに顔をしかめているが、それでもやはり嬉しさが滲み出ていた。

 工事現場から建設重機を盗み出し、コンビニの壁をぶっ壊してATMを強奪する。

 文字にすればそこまでスペクタルな感じはしないが、当事者からしてみればハルマゲドンもびっくりな強盗劇である。巻き込まれた店員が顔を青ざめながらもペイントボールを投げていたのがまたさらに笑えた。

 腹を抱えて笑っていた佐倉はようやく呼吸が整ったのか、少しばかり落ち着いた調子で浜面に問う。

 

「でも浜面先輩、このままじゃ俺達警備員に捕まっちゃうんじゃないですか? ほら、ATMってGPS発信機付属だから」

「それは前回で学習済みだ。だから今回は獲物から発信機を外した上で担ぎ込んだよ。またあの巨乳警備員に追いかけられちゃたまんねぇからなー」

「あぁー、半蔵さんが恋してるっていうウチの教師ですか」

「あれはやべぇぜ佐倉。なんといってもあの巨乳がヤベェ。夢に出てくるくらいヤベェ」

「……性犯罪はノーだぞ半蔵……」

「何度も言うなよわぁーってるって」

 

 ひらひらと右手を振って応じる半蔵に駒場は肩を竦める。分かっているくせに、半蔵はあえてそういう発言をする傾向がある。駒場も彼の性格は理解しているためそこまで口うるさくは言わないが……それでも注意してしまうあたり駒場の真面目さが見て取れる。

 仕事を終えた解放感のせいでテンションがハイになっている四人は適当に雑談しながらアジトへと向かっていたが、不意に聞こえ始めたサイレンらしき音に気が付くと揃って後方に視線を向ける。

 警備員御用達の高速車両から身を乗り出し、拡声器片手に叫ぶ巨乳女が目に入った。

 

《えー、犯人に告ぐ犯人に告ぐー。こちら警備員第七三支部の黄泉川愛穂……つーかいつもの私じゃんよ分かってるだろクソガキ共。今回もこの前と同様の容疑だ。盗難と器物破損と殺人未遂と公務執行妨害とその他諸々で全員逮捕じゃんよ!》

「げぇっ、黄泉川!」

《んぅー? 今の叫び声はどっかで聞いたことがある気がするじゃんか》

「やっべ!」

 

 何かに勘付いた黄泉川から逃れるように佐倉はシートの下に身を隠す。ヤバいなんてものじゃなかった。今の警備員が何を隠そう先ほど話題に出た彼の高校教師なのだ。バレたらどうなるか分かったものではない。しかもそれが常習犯の三バカトリオと一緒ともなれば、生きて帰れるかも分からない。

 どうしよ停学とかなったら上条達に馬鹿にされちまうー! とか何故か非常に偏った方向に心配を向けている愛する後輩に憐憫の視線を向ける先輩達ではあったが、その中の一人半蔵は佐倉のワイシャツをむんずと掴むと座席の上に引き摺り上げた。

 

「ん?」

「あ」

 

 いつの間にか隣に接近していた黄泉川とばっちり目が合いもう涙目。

 

「なにしてくれてんすか半蔵先輩ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「いやー、バレちまった方が面白いかなぁって」

「他人の人生をそんな軽いノリで破滅させないでくださいよ!」

「お前もしかして隣のクラスの佐倉だな!? こんなとこで何してんじゃん月詠先生が泣くぞ!」

「だぁーっ! 俺の周囲は敵ばっかりか!」

 

 先輩にも裏切られどうしようもなくなった佐倉はとりあえず浜面に全力逃走を打診する。

 

「先輩逃げましょう! どうせこのままじゃあの女に鉄拳制裁されちまう!」

「でもよ佐倉。あの女前回タンクローリーで俺達を追っかけてきたんだぜ? 今回だってもしかしたら戦車とか使ってくるかもしんねぇじゃん。それならお前を生け贄に捧げて俺達はトンズラってのが一番現実的な案だと浜面さんは思うわけですよ」

「この先輩最低だ!」

 

 何食わぬ顔で自分を贄にするとかこの茶髪頭イカレているのではなかろうか。

 こうなれば最後の頼みは頼れるリーダー駒場利徳しかいない。義理と人情で有名なこの大男ならば自分の事を守ってくれるのではないかと淡い期待を持って顔を上げるが、

 

「……仕方がない、か……」

「チクショウ!」

 

 なんだか真面目にそういう方向に進みつつある流れに憤りと悲しみを隠せない。これが後輩の運命と言うものか。所詮は上司のために命を張るだけの悲しい役割なのか。

 だが彼はその時思い出した。出発する前に、自分は半蔵に何かを渡していたではないか。

 絶体絶命がそこまで来ている状況を打破すべく、佐倉は最後の一手を繰り出す。

 

「半蔵先輩! さっき渡したアレ、今こそ使うときですよ!」

「エロ本の事か?」

「違う! ほら渡したじゃないですか出発する前に!」

「あー、アレね」

 

 そうしてポケットから取り出したのはソフトボール大の球体。上部に金属のピンのようなものが付いている形状からして、手榴弾にも見える。ただ、外殻が真っ黄色なのが気になるが。

 助手席の窓を開け、高速車両に狙いを定める。ボンネットを目がけて、彼は全力で投擲を開始する。

 

「ほーらよっと!」

 

 投げられた球体は放物線を描き、華麗にフロントガラスへと着地した。軍隊で使われていそうな形状のソレにやや焦った表情を浮かべるのは件の巨乳警備員黄泉川愛穂だ。このままでは車と一緒に花火になりかねない。そう判断した彼女は自分の身も顧みずボンネットの上に移動した。

 そして球体を手に取った彼女は、あることに気付く。

 

「コレ、安全ピン外されてないじゃんよ」

 

 一般的な手榴弾には、安全ピンと呼ばれるセーフティシステムが取り付けられている。使用する際にはその安全ピンを外し、投擲する際に別の安全バーを離せば爆発するというワケだ。M67手榴弾がいい例か。とにかく、安全ピンを外さないと手榴弾はただのボールになってしまう。

 そんでもって今彼女の手元にあるのはそのただの球体であるからして。

 

「……いいこと思いついた」

 

 にやりとあくどい笑みを浮かべるその姿はとても警備員ではなかったとその後同僚は口にする。あの時の黄泉川愛穂は確かに悪魔であった、とコーヒー片手に談笑する。

 黄泉川は拡声器を再び構え、ボンネットに膝立ちのまま警告を始めた。

 

《そこのバカ四人よく聞けー。お前らの投げたコイツは、どこぞのアホがしくじったおかげで爆発する様子はなーい。つーか安全ピン抜かずに手榴弾投げるとかバカの極みもいいところだぞー》

「なにやってんだアンタは!」

「い、いやー、忍者ってあーゆー近代兵器あんまし使わないからさぁ」

 

 てへへと舌を出すが彼は美少女でもなんでもないので佐倉達の怒りを煽るだけである。

 めんごめんごと反省した様子のまったくないふざけた先輩に佐倉は瞳に暗い輝きを灯したままボソリと呟いた。

 

「……もうこうなったら半蔵先輩生贄にしたらいいんじゃないですか?」

「おぉーい! 悪かったって言ってるじゃんかそんなに怒んなよなぁおい!」

「いいじゃないか、お前あの女に恋してんだろ?」

「だからってマッポに飛び込む理由にはならねぇ!」

「……いいから飛べ、半蔵……」

「もぉー! マジで勘弁してくれよ駒場のリーダー!」

《命乞いは済んだかー? まぁ何を言っても痛い目に遭わせるだけだけどな!》

『あの女マジで教師か!?』

 

 とても教育者とは思えない豪快ぶりに戦慄を覚える。警備員はどんな人材を集めているのか心底疑問であった。

 未だに騒々しいスキルアウト達を満足げに眺める黄泉川は、そろそろ待つことに疲れたのか球体を振りかぶるとプロ顔負けの速度で前方のワンボックスカーに放り投げた。

 

 もちろん、安全ピンとバーは外して。

 

 コツンッという軽快な効果音をあげてフロントガラスに落下する手榴弾。そして目の前に現れた先ほど自分達が放ったはずのソレを目にして空気が凍りつく四人。

 

「……えーと、これってもしかして」

「お約束ってやつですね……」

 

 もはや抵抗する気力さえない。彼らはそれぞれ信じてもいない神への祈りを済ませてから、無理やり走馬灯を思い返して自らの人生を振り返りつつ、

 

『ッ!!』

 

 それでも悲鳴を上げながら盛大に車ごと吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

                     ☆

 

 

 

 

 

 ドリフターズもびっくりな爆破オチで大輪の花となったバカ四人は、額に青筋浮かび上がらせた鬼教師によって留置場へとぶち込まれていた。ちなみに何度目かというと数える事すら憚れる。監視の兄ちゃんと顔見知りになってしまうくらいには頻度があると思う。

 そして現役高校生佐倉望はというと、黄泉川愛穂の監視の下反省文百枚と絶賛格闘中だった。どうにかこうにか二時間の死闘の末、残り一枚にまで達した彼は「うだー!」と獣の如き慟哭を上げる。

 

「やってらんねぇーよこんな量! イマドキ風紀委員でもこんなに書かねぇっつーの!」

「無駄口叩く暇があったらさっさと書け! 停学処分をこれでチャラにしてやるっていってんだから安いもんじゃんよ!」

「ぐ、それを言われると弱いな……」

「ほら、小萌先生にチクられたくなかったらとっとと終わらせるじゃん。私だっていつまでもお前なんかに付き合いたくないんだからな」

「へーい……」

 

 この世の終わりを見たかのような表情で必死にペンを動かす佐倉。ただその内容はひたすらに「ごめんなさい」を書き連ねるだけというのだから甘いものだ。文章にすらなってはいないが、それで許してくれる辺り彼女の優しさが察せる。

 そうして三十分が経ち、ようやく試練を終えたので疲れ果てた顔のまま学校を後にする佐倉。高校生活史上最も疲れる時間だったと胸を張って言える。自慢できることではないが。

 

「先輩達、出所したらお菓子持って行ってあげよう」

 

 お勤めご苦労様ですとの労いも忘れてはいけない。しっかり出迎えて娑婆の空気を吸わせてやらねば。……後は日頃の報復をちょっとばかし。

 ぐふふのふとか三下よろしく含み笑いを見せる佐倉だったが、自転車を取りに行くために街を歩いているとふとこんな光景が目に入った。

 

『よぉよぉ嬢ちゃん今暇ぁ?』

『よろしければオレ達みてぇなクソ野郎共とお茶しようぜお茶』

『なによアンタ達、イマドキ珍しいくらいテンプレなチンピラね』

『へっへー、面白いこと言うじゃねぇか嬢ちゃんよぉ』

「……まだいたのかあんな奴ら」

 

 通りの一角でサマーセーターを着た茶髪の少女を不良の集団が囲んでいる。どこからどう見ても穏便では済まされない光景だ。警備員に通報した方がいい状況に見える。

 しかしこの程度で天下の公務員達がわざわざ出向いてくれるとは到底思えない。しかもさらに面倒くさいことに、近くを通りかかる人達は全員が全員見て見ぬふりを強行中だ。面倒事には巻き込まれたくないのだろう。その気持ちはわかるし正しい判断だとは思う。人間困難から逃げれば楽だ。

 だが、佐倉は先日もう逃げないと誓ったばかりのニュー佐倉。今までのヘタレな自分とは味が違う。そもそも佐倉という人間は、基本的に悪事は働くが弱者をいたぶることが嫌いな部類のため、こういったいわゆる『強制ナンパ』のような事態に直面すると後先考えずに介入するという非常に面倒くさい癖があったりする。

 というわけで、

 

「はいはいそこのお兄さん達ちょっと待とうかストップストップ」

 

 佐倉望はまったく物怖じすることなく物語に介入する。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。