とある科学の無能力者【完結】   作:ふゆい

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 更新です。上やんカッコいいよ、上やん。
 間章最終話です。次回から新章突入。二人の運命やいかに。


第二十一話 本当の想い

「アンタは、明日になるのが怖くはないの?」

 

 そう言って佐倉の顔を不安げに覗き込む美琴。心配そうな上目遣いには、佐倉が学園都市の闇に堕ちることに対しての不安や恐れ、そして、佐倉を闇堕ちさせてしまった自分への後悔などが含まれているように見える。普段の彼女らしからぬ陰鬱な表情と言動に、この空気と状況を打破する軽口を考えていた佐倉の思考が一気に霧散した。ふざけた返事をできるような雰囲気ではない。彼の決して優秀とは言えない思考回路でも、その程度のことは分かる。

 美琴の言葉を受け、佐倉は思わず黙り込んでしまう。条件反射や咄嗟の言い訳が許されるような場面でもないため、彼は持ち得る語彙と知識で彼なりの答えを精一杯模索していた。

 彼女には嘘をつけない、つきたくない。

 誰よりも御坂美琴を愛し、信じている自分が、彼女を裏切るようなことをするわけにはいかなかった。

 

 明日は九月一日。学生の天下である夏休みが終了し、二学期が開始される日だ。同時に、佐倉の平穏な学生生活に終止符が打たれる日でもある。

 学園都市が抱える闇がどれだけのものであるのかなんて、普通の社会情勢すらロクに把握していない佐倉に想像できるはずがない。そこでどんな命のやり取りが行われているのか、どれだけの人が死んでいるのかなんて、予想することすらできはしない。スキルアウトに所属していたとはいえ、今までの佐倉は少し素行が悪い程度の一般人でしかないのだから。

 現実味がない。だからイマイチ恐怖感がない。それも理由の一つではある。

 だが、佐倉にとってそんな要素はさほど重要なものではない。

 そもそも、今回の暗部行きは半ば自分で選択したようなものだ。美琴の命が危うかった状況上仕方がなかったとも言える結果だが、最終的に意思決定したのは誰でもない佐倉自身である。強くなりたい、美琴を守れるようになりたい。そんな希望を叶えるために自分が選んだ結果だ。不安はあれど後悔はない。そのため、『怖い』という感情を彼はイマイチ持ち合わせてはいなかった。

 

(御坂を守るためなら、人生だって捨ててやるって決心したんだもんな。絶対逃げねぇって)

 

 以前美琴と交わした一つの約束。既に佐倉の芯を形作っていると言ってもよい彼女との約束は、美琴や佐倉が思っている以上に彼の行動指針を制約していた。佐倉は無意識のうちに『力』を欲し、半ば本能的に美琴を守ろうと奔走する。今回も、そういう例の一つにしか過ぎなかった。 

 だが、佐倉は気付かない。それがどれだけの危険を孕んでいるかということに。

 優れない顔つきで佐倉の返事を待つ美琴の頭に手を乗せると、彼なりの真剣な面持ちで口を開く。

 

「怖くねぇって言ったら嘘になるけど、俺は間違った選択はしてねぇって思ってる。世間的にはクズみてぇなことかもしんねぇ。でも、俺は俺なりに考えたうえで垣根の提案を飲んだんだ。後悔はねぇよ」

「でも、もしかしたら死んじゃうかもしれないのに……」

「死なねぇよ」

「え?」

「死なねぇ。俺は、お前が生きている限り絶対に死なねぇ」

 

 もう一度繰り返すと、今までにない真面目な眼差しで美琴を見据える。普段軽口や誤魔化しで強がることしかしない佐倉が、今この瞬間は確固たる意志と想いを胸に美琴に決意を伝えている。

 学園都市の裏側にどれだけの闇が潜んでいようとも、佐倉は死ぬつもりなんて毛頭ない。彼はあくまで美琴を守れるだけの力を手に入れるために堕ちるのであって、命を散らしに行くわけではないのだから。

 むざむざ死にに行くなんて、まっぴら御免だ。

 

「俺は、お前のためなら死んでもいいって思ってる。盾になって銃弾浴びるのも厭わないし、壁になって罵詈雑言を防ぐのも喜んでやってやるよ。でもな、お前を守る前に死ぬなんてぇのはこっちから願い下げだ。超能力者だろうが軍隊だろうが、俺は『御坂を守る』っていう究極の願いを叶えるためならたとえ地獄の底からでも生還してやる」

 

 それは佐倉の決意であり、覚悟だ。御坂美琴という一人の少女に命を救われた彼ができる、精一杯の恩返しだ。

 馬鹿らしくてもいい、醜くてもいい、無様でもいい。

 世間から罵られようが、見下されようが、そんなことは構わない。

 彼女を守るためならば、血反吐を吐いて地べたを這いずり回る覚悟はもうできている。

 だから、

 

「お前は何も心配しなくていい。ただ普段通りに接して、いつもみてぇに口喧嘩をしてさえくれれば、それで俺は満足だからさ」

 

 他に望みなんてない。美琴との日常さえ待ってくれているならば、自分はどんな苦境でも乗り越えてみせる。

 無能力者であり、最弱であり、一般人である佐倉には、それ以上のことを望む余裕も意味もなかった。一つの希望を目指して邁進するのが、今の彼にできる全力なのだから。弱者なりの最大公約数的な考えだが、別にそれで悔いは無かった。

 だが、

 

「……なによ、それ」

「御坂……?」

「なによそれ……ふざけんじゃないわよアンタ!」

 

 激昂したように目を吊り上げると、佐倉の胸倉を掴みあげる。ギリギリと砕かんばかりに歯を食いしばるその姿は、まるで佐倉の何かに我慢しているかのようにも見える。何か不満なところがあったのか、唐突な激怒に頭の回転が追いつかないながらも、精一杯自分の駄目な点を模索し始める佐倉。

 ――――御坂美琴は怒っていた。彼女を取り巻くあらゆる事象に対して、どうにもならないほどの憎悪と憤怒を抱えていた。

 自分を守ると豪語し続ける目の前の無能力者に呆れを覚えていた。

 佐倉望にそんな気持ちを抱かせてしまった美琴自身に激怒していた。

 彼に闇堕ちという選択肢を与えた垣根帝督に憎しみを感じていた。

 

「私を守るためにですって……誰がそんなこと頼んだのよ!」

 

 ――――超能力者なのに何もできない自分が嫌だ。

 

「アンタはいつも私の事ばっかり……少しは自分の保身や平穏について考えなさいよ!」

 

 ――――目の前の友人一人救うことができない自分の無力さが嫌だ。

 

「死なないとか守ってみせるとか、理想論ばっかり語ったって説得力ないっての! だいたい、人間ってのはアンタが思っている以上にあっさり死んじゃうものなんだからっ……!」

 

 許せなかった。許したかった。

 救いたかった。救えなかった。

 願いは後悔に変貌し、希望は絶望へと変遷する。何の変哲もない普通の日常を望んでいたはずの二人の世界は、当事者の想いなど知ったことではないという風に彼らをおいて進み続ける。終わりの見えない、『絶望』という名の列車は汽笛を鳴らして速度を上げる。

 服を掴めるほどに近くにいるのに、今の佐倉は何故か遠い。目の前でへらへら笑っているはずなのに、美琴と佐倉の間には破ることが出来ない壁が存在するように思えた。

 何がいけなかったのか。そもそもすべてが間違いだったのか。

 どれだけ考えても答えは出ず、どれだけもがいても光は見えない。蜘蛛の巣に捕まった蝶のように、抵抗すればするほど自分達は深みに嵌っていく。

 もう耐えられなかった。今まで溜めこんでいた感情が、堰を切ったように溢れ出す。想いは涙、気持ちは叫びとなって佐倉へとぶつけられる。

 

「アンタに死んで欲しくない! ずっと一緒に馬鹿やっていたい! 悪口言い合って、ゲーセンではしゃいで、買い物で一喜一憂して……そんな日常を、アンタとこれから先も過ごしていきたいの!」

「御坂……」

「あぁくそっ! やっとこの気持ちの正体がわかったわよ畜生! 今まで胸の中でモヤモヤしていた想いが、今になってようやく形になったっての!」

「……は? いや、お前、何言って……」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い! 人の気持ちも知らないくせに! 私の願いも知らないくせに!」

「だからっ、何言ってんだよ御坂! はっきり言ってくれねぇと、意味分かんねぇって――――」

「いいわ、そんなに聞きたいのなら言ってやる!」

 

 もはや自分でも何を言っているのか分かっていない程に激昂している美琴は、先程よりも強い感情を視線に乗せると掴んでいる服をぐいっと引っ張った。突然発生した引力に、抵抗することもできずに美琴の方へと引っ張られる佐倉。

 自分の方へと倒れ込んでくる佐倉を見据えると、美琴は《凛!》とした面持ちで、なにやら決意を秘めた瞳で彼の瞳を見据え――――

 

「アンタのことが好きだってのよ! 少しは気付けこの大馬鹿!」

 

 

 呆けたように半開きだった佐倉の口に、思いっきり自分の唇を重ねた。

 

 

「っ!?」

「――――っぷぁ。……こ、これでアンタも、いい加減に気が付いたでしょ」

「な、なんで……御坂、お前……?」

「『なんで俺なんかを』っていう返事なら聞かないわよ。アンタの自嘲は、今は必要ないから」

 

 口を開きかけた佐倉を黙らせるように先回りすると、掴んでいた服を放す。不意打ちにも似た衝撃に頭の中が真っ白になっている佐倉は、マトモに応答することもできずにただ美琴の顔を呆然と見つめるしかない。

 その場の勢いとはいえ、いきなりキスしてしまったことは彼女的にも恥ずかしかったらしく、頬がわずかに赤らんでいた。夕焼けの中で赤みが判別できるのだから、実際には彼が思っている以上に羞恥心に苛まれているのだろう。元々恋愛関係においては奥手な美琴である。こういった積極的な行動に免疫がついているはずがない。

 美琴は内心の照れと動揺を収めるべくしばらく目線を泳がせていたが、ようやく視線を佐倉に戻すと先程よりも穏やかな口調で言葉を紡ぐ。

 

「『放っておけない』『友人として背中を支えたい』……最初は、そんな程度の気持ちだったわ。努力を途中で放り出したアンタが許せなくて、放っておけなくて。一人の友人として、佐倉望の努力をサポートしていきたい。そんな、普通の想いしかなかった」

 

 超能力者と無能力者。

 いちいち説明するのも憚られるほどに格差がある両者。片や畏怖と畏敬、片や蔑視と嘲笑という対照的な環境に晒されるお互いを知ったからこそ、美琴は佐倉を支えたいと思った。かつては自分も置かれていた泥沼から佐倉を救い出すために、友人として彼のサポートをしてあげよう。その程度の認識しかなかった。

 

「ただの友人。どこにでもいる友達。……でも、アンタはそんな友人でしかない私の為に一方通行と戦ってくれた。勝てるはずもない、死ぬしかないはずだったのに、アンタは迷うことなく私や妹達(あの子達)の為に拳を握ってくれた」

 

 美琴にとって最恐の、彼女の精神を崩壊させるほどに残酷だった絶対能力進化実験。約二万体のクローンが犠牲になるはずだったその実験を止めるために、佐倉はたった一人で一方通行と対峙した。世界中の軍隊を相手にしても平気で立っているような化物を相手にしても、決して逃げることはせず、美琴の抱える絶望を取り払うきっかけを作ってくれた。

 

「無能力者。武装無能力者集団(スキルアウト)。学園都市の最底辺。世間じゃクズ扱いされているようなアンタだけど、私を守るためになりふり構わず奔走してくれるアンタは、私にとっては間違いなく『ヒーロー』よ。どれだけ倒されても、絶対に諦めずに立ち上がってくれる正義の味方。ちょっとだけ自嘲癖が強い、私にとっての主人公」

 

 寝ている間に問題を解決してくれる神様なんて存在しない。振りかかる火の粉は自分で払わなければならないし、立ちはだかる壁は自分で取り去らないと前には決して進めない。

 だが、佐倉望はそんな障害を自ら引き受けてくれた。火傷を負い、重傷を負っても、彼は美琴が抱える問題を片っ端から解決しようとしてくれた。

 まるで、おとぎ話に出てくるヒーローのように。

 

「……アンタが一度決めたことを絶対に曲げないような性格だってことは知ってる。だから、私はアンタをもう止めない。これ以上怒鳴ることはしないし、泣きつくなんてこともしない」

 

 そこで一旦言葉を切る。これだけはしっかり伝えなければ、と気持ちを整理して息を整える。

 再び上げられた顔に浮かんでいたのは、確かな決意と未来への希望。

 

「待ってる。アンタが安心して帰って来られるように、私はいつまでもアンタをここで待ち続ける。今日みたいな平和を心の底から満喫できるように、私はいつも通りの日常と一緒にアンタのことを待っているから」

「……馬鹿だな。暗部の仕事がねぇ時は、普通に会ったりできるってのに」

「だったら、アンタと会う度にこの日常を届けてあげる。意地でも死ねない程の楽しさを、アンタと一緒に分かち合う。……これから先、美琴さんがプレゼントする幸せは、アンタが想像する以上に素晴らしいものになるわよ?」

 

 「ふふっ」後ろ手に手を組み、悪戯っぽく笑う美琴。一本取ったと言わんばかりに笑顔を浮かべる彼女を見ていると、佐倉が直面している混乱や戸惑いが不思議なくらいに消失していった。どこか吹っ切れたように放たれる彼女の言葉を聞くだけで、自然と希望や活力が湧いてくる。

 あぁ、そうか。頭の隅でやけに冷静な自分がいることに軽く驚きを覚えながらも、佐倉は自分の気持ちを整理する。

 

(命を救われた恩情とか、強さに憧れる崇拝とかじゃねぇ。俺がコイツに抱いている感情は、そんな距離を置いたようなくだらねぇもんじゃなかったんだ)

 

 『自分は御坂美琴に救われた』。そんな意味のない固定概念に囚われていたから、佐倉はいつまでも美琴に追いつくことができなかったのだ。そんなくだらない思い込みをしていたから、いつまでたっても上条のような『主人公』になれなかったのだ。

 以前半蔵に言われた台詞が今になって胸に刺さる。あの忍者先輩は、相当前から佐倉が抱いている美琴への本当の気持ちに気付いていたのだろう。あえて茶化すように言っていたが、おそらく佐倉以上に彼自身の本心を察していたのかもしれない。元々心理戦に長けた人だから、佐倉の気持ちを読み取っていてもなんら不思議はない。

 美琴は勇気を出して佐倉への想いを言葉にしてくれた。自分の苦痛や苦悩を綯交ぜにしてまでも、彼女は佐倉の事を『好き』と言ってくれた。想いを形にしてくれた。

 だったら、次は佐倉の番なのではないか。

 

「……馬鹿だよ、おめぇは。俺なんか好きになったって、何一つメリットなんかねぇのによ」

 

 だが、口を突いて出たのは捻くれた誤魔化しの言葉。本心を伝えようとは思っているのに、どうしても減らず口を叩いてしまう。恥ずかしい、照れ臭い。そんな思いが先行して、正直な言葉を阻害する。

 それでも、美琴は佐倉に笑顔を向けた。全部分かっていると言わんばかりに何度も頷き、そして一歩ずつ近づいてくる。

 

「アンタの告白は、全部終わらせてから聞いてあげる。ちゃんと私の所に帰って来られたら、また改めて話しましょう。それまでは、お預けにしといてあげるから」

「……すまねぇ」

「素直じゃないのはお互い様だからね。私も、さっきみたいな勢いが無かったら絶対言えてなかっただろうし」

「それはそうかもな。お前ツンデレだし」

「男子ツンデレ筆頭には死んでも言われたくないわ」

「……くくっ、筆頭か。それも間違ってねぇかもな」

「あははっ、自覚があるなら少しは治しなさいっての!」

 

 耐えきれなくなったように、笑い続ける二人。ようやく通じ合えた今を最後まで手放したくない。できるだけ長く一緒にいたい。そんな好意や愛情を軽口で誤魔化し合い、彼らはいたって普段通りに減らず口の応酬を繰り返していく。

 だが、以前とは確かに異なることがある。

 軽口で誤魔化そうとも、今の二人はそれぞれが放つ言葉に含まれた好意を感じ取れるようになっていた。お互いが抱く感情を再確認したからか、それとも元から似た者同士であったためか。どちらにせよ、天邪鬼な自分達の本心を察し合うことができるようになっていた。

 しばらく馬鹿みたいに笑い合うと、二人は更に距離を縮める。目と鼻の距離、数センチほどしか離れていないその場所で、佐倉達はお互いの目を真っすぐ見つめる。

 

美琴(・・)

「……()

 

 名前を呼んだ。それは今までの関係に変化を訪れさせる現象だ。相手が自分にとって特別な存在になったことを示す指標だ。

 佐倉の視線を受け、美琴が目を閉じる。心なし顎を上げ、軽く唇を突き出すような体勢になる。

 受け入れ姿勢に突入した美琴を抱き締めると、右手を後頭部に当てて美琴の顔を支える。狙いを外すなんて情けない真似をするわけにはいかない。絶対に一発で終わらせないと。

 ちら、と視線が一瞬美琴の唇に移る。瑞々しい、柔らかな先ほどの感触が鮮明に蘇り、思わず羞恥で蹲ってしまいそうになるが、なんとか踏み止まる。余計なことを考えると途中でやめてしまいそうだった。

 両目を瞑り、顔を近づける。

 そして――――

 

 

 

 

 

                      ☆

 

 

 

 

 

「よぉ、やっと来たか佐倉」

 

 放課後、垣根が派遣した男に案内されて佐倉が向かったホテルの一室。「こんなところに暗部のアジトが?」と半信半疑で扉を開いた佐倉だったが、目の前で偉そうにふんぞり返っている第二位を目にした瞬間にようやく確信が持てた。ちょっとだけ安堵してしまう辺り、まだ闇堕ちに慣れていないというところか。

 

「この人が帝督の言っていた新しい構成員? なんかパッとしないわねぇ」

 

 紅いドレスを着た女性がベッドに腰掛けたままこちらに視線を飛ばしている。顔立ちと身長的に年齢は十四歳ほどに見えるが、彼女が纏う雰囲気は殺人犯や罪人のソレと似通うものがある。おそらく、佐倉が想像している以上に相当の地獄を乗り越えてきたのだろう。年齢など関係ない、闇に堕ちれば子供でも容赦はされないというのは事実だったようだ。

 

「さて。構成員同士で仲を深め合っているところ悪いが、早速仕事だ。さっさと準備しろ」

「仕事?」

「あぁ。ちょっとばかり調子に乗り過ぎた馬鹿共を皆殺しにする、そんな簡単なお仕事だ」

 

 ニヤリと口元を吊り上げる垣根が浮かべるのは、獰猛な肉食獣の笑み。いい獲物を見つけたとばかりに表情を崩すと、心底楽しそうに拳を打ちつけている。そんなに『仕事』とやらが楽しみなのか。相変わらず性格破綻者だな、と他人事のように嘆息する佐倉。……自分も今から『殺す』のだと気付くと、自然と表情が引き締まった。

 そんな彼の様子に気付くと、垣根は「くはは」と喉を鳴らす。

 

「そんなに緊張してんじゃねぇ……って言っても無理か。ま、次第に慣れるさ」

 

 ポン、と安心させるように肩を叩く垣根。以前襲われた時とは違う柔らかい対応に軽くたじろいでしまうものの、やはり仲間という立場では対応も違うかと納得する。敵になるとあれだけ恐ろしいのに、味方という状況ではこんなにもカリスマ性に溢れた奴なのか。超能力者、第二位が持つ絶対的な人間性に自然と惹かれ始める自分に気が付いた。

 垣根が部屋の扉を開け、外に出ていく。少女が後に続き、佐倉は足を縺れさせながらも遅れるように飛び出していく。

 佐倉が扉を閉めると、垣根は少しだけ顔を振り向けて、『リーダー』としての歓迎をするのだった。

 

 

「ようこそ。クズ共が集う、クソッタレの世界へ」

 

 

 

 

 




 ※エツァリさんは上やんと一緒にログアウトされました。



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