とある科学の無能力者【完結】   作:ふゆい

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 今回は短いです。キリよくなっちゃったから切っちゃいました。
 アカン……シリアス書きすぎて日常書くのが下手になってきちょる……。
 とにもかくにも、新章:大覇星祭編です。

 ※ゲコ太缶バッジとストラップが届きましたー。


大覇星祭編
第二十八話 大覇星祭


 大覇星祭。

 九月十九日から二十五日まで行われる、学園都市における大運動会と言えば分かりやすいだろうか。約百八十万の学生達が学校の威信と己のプライドを賭けて死に物狂いで勝利を掴み取りに行く体育祭。日頃高位能力者から馬鹿にされ続けている底辺校も、この機会に目に物見せてやろうとそのやる気は普段の八割増しだ。能力至上主義である学園都市だが、作戦次第では無能力者でも勝利できるというのが大覇星祭の見所でもある。

 今日は九月十九日、つまり大覇星祭開幕日だ。豪華絢爛獅子奮迅の開会式を前に、学生達だけでなくわざわざ外部より駆け付けた保護者達のテンションもエラいことになっている。それもそうだろう。なんといっても学園都市というのは子供の頃に見た未来都市そのもの。さすがに人型汎用機動兵器や巨大戦艦がカラフルなビームをピキュンピキュン撃ち合うような光景が日常風景となるところまでは到達していないが、掌から火球を出し、人が自力で宙を舞う世界である。超能力が現実となったとなれば、いくら現実主義者でも一度は訪れたいと思うのが世の常であろう。漫画の世界が現実になった都市。現代日本で学園都市は密かにこう呼ばれていた。

 通りを見ればそこには無数の人、人、人。どこを見ても人がいるような混雑具合に大覇星祭運営委員の方々は汗水垂らして交通整理に励んでいた。車道の、ではない。大覇星祭期間は一般車の乗り入れが禁止されているため、車道を使うのは無人の自律バスくらいだ。彼らが整理しているのは、言わずもがな歩道である。

 内外合わせて五百万人は超えるのではないかという異常な総人数。確認するのも煩わしいほどの混雑っぷりを見れば、放っておくと将棋倒しが起きて大事故になってしまうのは馬鹿でもわかる。わざわざ一般開放までして外部からの観光客を取り入れているのに、こんなしょうもない事故で学園都市の面子が丸つぶれとか笑えない。

 そこで、運営委員の方々はヘルメットとホイッスルを装備してピッピピッピと交通整理に励んでいるのであった。今日も大覇星祭の平和は彼らによって守られる。

 そんな交通整理によってスムーズに歩道を歩いていく、一組の男女がいた。

 

「ふむぅ……ドラム缶型の警備ロボットに清掃ロボット。人員コストの削減及び手間暇を考えると効率的な体制ではありますが……やはりドラム缶というのがイマイチですね。美少女ロボットとかイケメンロボットの方が人気も出るしボランティアも増えるのでは?」

 

 顎に手を当て真剣な面持ちであまりにも本日の雰囲気にそぐわない呟きを漏らしたのは、佐倉叶(さくらかなえ)。とある無能力者の父親である。外見は四十中盤ほどの年齢そのままだが、どこか堅苦しい雰囲気のせいで詳しい年齢が気にならなくなるような男性だ。黒い糊のきいたスラックスに半袖のワイシャツ。クールビズを象徴するノーネクタイ。七三分けに四角い黒縁メガネも相成って、どこからどう見ても真面目なエリート会社員にしか見えない男性だ。よく手入れされた革靴をカツカツ鳴らして歩道を進んでいく。

 道行く警備ロボットを見て自分なりの考察を行う叶に対して、

 

「もぉー、せっかくの大覇星祭だってーのに堅いこと言ってんなよ叶ちゃぁーん! 今日は真面目な雰囲気なしで、夫婦水入らず望ちゃんの応援頑張りながらイチャイチャしよぉーぜぇーっ!」

 

 叶の腕に抱きつくようにして隣を歩く佐倉千里(さくらちさと)がブーイングを漏らした。外見年齢は三十手前。しかし驚くことなかれ、彼女こう見えても一児の母である。しかも息子は十六歳。実年齢は乙女の事情その他諸々で伏せさせていただくが、反抗期拗らせた不良少女がそのまま大人になったような外見をしていた。金髪のポニーテールや色白肌が日本人離れしているものの、彼女は祖母がイギリス人のクオーターなので問題ない。いや、イギリスでも金髪は希少種なのだけれど、そこら辺は気にしては駄目だ。

 真面目な男と不真面目女。学園ドラマでは生徒会長と不良少女か。絵に描いたような凸凹夫婦がそこにはいた。

 千里は自身の貧しい胸部を腕に押し付けるようにしていっそう強く抱きつくと、叶が歩きづらいのも気にせずにその状態で視線をあちこちへと彷徨わせている。

 

「でも肝心の望ちゃんがいねぇーんだよねぇー。あの子待ち合わせは第七学区のサッカースタジアム前って言ってたのに……母さん待たせるたぁいい度胸してんじゃねぇかぁーっ!」

「落ち着いてください千里さん。いくらホットパンツにタンクトップとはいえ、あまり無茶に大暴れするとその健康的な太腿が大衆の下に晒されてしまいます」

「あぁん? なんだなんだ、もしかして叶ちゃんは千里さんの柔肌を他人に見せるのが嫌とかいう独占欲丸出しの隠れ狼だったのかにゃーん?」

「その通りですが、何か」

「んなっ……!?」

 

 からかってやろうとニヤニヤ笑いで言ってみたらまさかの逆襲。表情筋を一ミリも動かさずに淡々とデレてくるものだから千里としては恥ずかしさここに極まれりである。そういえば、こいつはこういう奴だった。

 いきなりのカウンターに目を白黒、全身を真っ赤とカラフルに変化していく千里を横目で眺めながらも、叶は右手でクイッと眼鏡のブリッジを上げると言葉を並べ立てた。

 

「そもそもそんな露出の高い服を着ていくことが僕は反対だったのに、千里さんが『ジーンズとかこのクソ暑い中着ていけるかぁーっ!』ってご乱心するから仕方なく許可したんですよ? それなのにあまつさえその扇情的な四肢を惜しげもなく暴れさせるなんて……これはちょっとばかりお仕置きが必要なのではありませんか?」

「おしおっ!? い、いやいやいや! ちょっと待とうぜ叶ちゃん! アタシが綺麗すぎて人に見せるのが勿体ねぇってのは素直に感謝だが、さすがにそれぐれぇでお仕置きってぇーのは酷すぎやしねぇか!? そ、それに今日は楽しい楽しい大覇星祭なんだぜ!? 宿泊用ホテルであんまりエグいことすんのはモラル的というか道徳的にどうなんよ! ほ、ほら、ここは仮にも学生の街! 昼も夜も健全に行こうじゃねぇかマイダーリン!」

「ふむ、確かにそれも一理ありますね。千里さんにしては久しぶりに正しいことを言いましたか?」

「なんか失礼なこと言われている気がするけどモーマンタイ! と、とにかくお仕置きは全力でノーだ! この一週間は学園都市観光に勤しむんだかんな!?」

「仕方ありませんね。それならば帰宅した時に思う存分虐めるとしましょうか」

「ひ、ひぃっ! 懐かしき恐怖の生徒会長モードが降臨なさった!?」

 

 自分は帰ったら何をされるのだろう、と止まらない汗と共に戦慄する千里である。

 

 

 

 

 

 

                     ☆

 

 

 

 

 

「なんか所々アンタに似た愉快なカップルが見えるんだけど、母親の方にやけに親近感湧くのはどうしてかしらね」

 

 視線のはるか先でギャースカ騒ぎ立てている佐倉夫婦をどこか焦ったような表情で見つめる常盤台の超電磁砲。母親の方がウチの大学生兼主婦に雰囲気が似ている気がするのはどうしてだろうと変な汗が背中を伝う。お調子者キャラがこんな一か所に集中していていいのだろうか。

 不思議なこともあるものだとか余計な思考を行いつつも、隣に立っている少年に声をかける。クセのない黒髪が特徴的な佐倉望は、久しぶりに会う両親を前にしてもどこか放心したような表情で立ち尽くしていた。若干俯き加減な様子はあまりにも大覇星祭の雰囲気と似合わない。そもそもが軽口ばかりの軟派野郎なだけに、今日のテンションは落差が顕著だった。

 本当に起きているのかすら疑わしくなる様子の佐倉に美琴は思わず顔を覗き込みながら声をかける。

 

「望大丈夫? 体調が悪いのなら、一旦日陰の方に……」

「え? あ、いや、大丈夫大丈夫。ちょっと周囲の熱気に当てられただけだから」

「それならいいんだけど……あんまり無理しないでよ? アンタがこんな行事に参加できるような精神状態じゃないってのは百も承知だし、無理して倒れちゃったら元も子もないんだから」

「っ……大丈夫だって。俺だって公私の区別ぐれぇはしっかりやるよ。いくら『仕事』がきつくても、こういう日はしっかり楽しむさ」

 

 「それに」いつまでも不安な表情の消えない美琴を安心させるかのようにぎこちない笑顔を浮かべると、佐倉は右手で美琴の頭を軽く撫でながら、

 

「久しぶりに、美琴と一緒にいられるんだから」

「ひゃぅんっ!? ちょ、ちょっと望! こんな人前でなんて恥ずかしいことしてくれてんのよこらぁー!」

「好きな奴の頭撫でるのがそんなにおかしなことだったか?」

「TPOを弁えろって言ってんのよちったぁ考えなさいバーカ!」

「の、のわぁぁあっ! で、電撃は反則だぞ美琴! 俺は上条と違って能力打ち消す右手は持ち合わせてねぇんだから!」

「わははははー! 日頃心配かけてる罰よ観念しくされやぁーっ!」

「ぎゃぁああああああああ!!」

 

 バチバチビリビリと静電気を若干強めたような電撃が佐倉の身体スレスレを襲う。空元気丸出しだった佐倉はいつの間にか自然な叫びを出せるようになっていた。美琴との会話でいくらか元気を取り戻したらしい。いくら暗部で精神崩壊ギリギリの生活を送っていたとしても、美琴としてはこういう時はいつも通りの笑顔でいて欲しかった。多少無理矢理だとしても元気が出るに越したことはない。

 

『凄ぇー、あれが超能力かぁ』

『電撃出すとかマジハンパねぇー!』

『あの男の子よく回避できるわね』

「のんびり見てねえで誰か助けろよクソッタレェエエエエ!」

「必殺! みこっちゃんミラクルスパーク!」

「それただのボルテッカーあばばばばばば!」

 

 美琴の帯電体当たりをモロ受けプスプス煙を上げながら倒れ伏す哀れな少年S。だが、その顔にはどこか幸せで満足そうな笑みが浮かんでいた。この平和を満喫しているような、そんな笑顔が。……決してマゾヒスト的笑みではないので、あしからず。

 足元で声にならない悲鳴を上げている想い人の肩を持って担ぎ上げると、美琴は騒ぎに気付いてこちらに走ってくる佐倉夫妻及び愛する母親に思いっきり手を振るのであった。

 

 

 

 

 


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