面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語 作:ジャギィ
あとデュエル描写がないに等しいです
そんなこんなですが少しダウナーな第8話ドーゾ…
絶望
今の心境を表すならばそれが1番わかりやすく単純明快であろう。しかし風斗は同時に混乱もしていた
(何故だ?何を間違えた?どこで何をどう、間違えたんだ…?)
おおよそ考え付く限りの過ちを頭の海に浮かべていく。しかしその思考は今更であり、そんなことを考える余裕はない。今の彼がすべきことは忙しなく動いて己に課せられた罰を終わらせる……
「お兄ちゃーーん!!もう全部食べちゃったから早くしてーー!」
「すみません風斗さん、こっちもおかわりいいですか?」
「白星さーーん!こっちも追加お願いしまーーす!!」
……ことではなかった。彼の額に、2つほど青筋が浮き上がる。完全に感情メーターが怒りで地平の彼方まで振り切っていた
「ガキどもも
風斗はホットケーキを何枚も焼いているところを、後ろで姦しくとても美味しそうに出来立てのホットケーキを頬張る元凶たちへ、並ならない嫉妬の絶叫を叫ぶことで調理を一時中断させた
彼の幸せな休暇は、新たな仕事の増加とともに水の泡となったのであった
「クソォ…どうしてこうなった……」
「いつまでもグチグチ言わないの。私も手伝ってるんだからもう少し頑張りなさいよ」
焦げ目がつかないように焼き加減に気をつけて、フライパンの上の白い泥状のそれがプツプツ沸騰したらフライ返しでひっくり返す。綺麗な小麦色に焼きあがったのを確認すると隣の瑠璃を見る。彼女はホットケーキの素を作っていた
「そうは言うがよぉ、せっかく出来立てのホットケーキを食ってみようと思って作ってたらアリのごとくすごい数の面子がやってくんだぞ?これにヘコむなという方が無理だろ…ハァ」
そう、前日の紫雲院と出会った帰りに良さげなシロップとホットケーキの素とか見つけたもんだから、何の仕事もないこの日にホットケーキを作って瑠璃に紅茶でも入れてもらってからホットケーキと紅茶のセットで昼食でもしようと思ってたのだが……だが……!
大きな食堂のようなところで誰もいない時に作れたのは良かった。調理も特に失敗はなかった。…けど最悪のタイミングでガキどもが遊びに来ていたのである。そして匂いを嗅ぎつけられて、食べたいとねだられた…といったところだ
でも最初は別に良かった。増えたといっても7、8人なら少し作る量が増えただけ、ちょっと増えたくらいなら特に手間もかからないから大丈夫だと見逃していた…だけどそれは最大の間違いだった。ガキの喧騒を聞きつけて暗斎や半田といったいつものメンバーがやってきたのである。そして僕が食う予定だったホットケーキを見て変な解釈をしたのか、座って食べ始めたのである。そしてその喧騒がさらに大きくなると他の奴らも駆けつけ、さらに大きくなりまた他の奴が来て……想像できただろうか?あとは倍々ゲームで増えた結果、ガキどもと殆どのレジスタンスメンバーに昼食を奢る羽目になったというわけだ。ちなみに最初のガキどもはもう見当たらない。おそらく満足してどこか遊びに行ったのだろう。助かった……
「人数もだいぶ減ってきたし、そろそろ僕の分作るか……あ。あいつら、シロップまで殆ど使い切ってやがる…!……もう良いや。シロップ少なめでも良いからとっとと作って食お…」
「そこまでホットケーキが食べたいの……?」
「そうじゃない、予定を狂うのが嫌なんだよ僕は。嫌いなことの1つなんだよ…」
残りの素をフライパンに流し込みながら後ろの食器の数々を一瞥する。大きめのを複数作る予定で良かった……もしこれが小皿とかに盛るタイプだったらあんまりな未来にぶっ倒れていたであろう
「そんなことではこの先生き残ることは出来んぞ。常に最悪の事態を想定しなければ、大切なものを失うことになる」
「こんな時まで反逆発揮してんじゃねえよ。つーかお前がここにきたことが何より予想外だわ」
気がついたらみんなの中に自然に溶け込んでホットケーキを食している黒咲の姿はシュールなこと他ならなかった
軽く雑談してる間に最後のホットケーキも焼けたので、キッチンの火を消してそれを皿に乗せ、食器等を片付けようとしたところで水が足りないことに気づいた。他にやらないことも多いしなぁ……
「瑠璃、悪いけど水汲んできてくんね?ポリタンクの半分くらいで良いから」
ちょうど人手が空いていたので瑠璃に助けを求める。黒咲なら間違いなく自分でやれとか言うからな…
「分かったわ」
「ゴメン、また今度なんか手伝うから」
「じゃあ、また何か作ってくれない?」
「誰にもバレないように、ならな…」
それだけ言うと、ポリタンクの取っ手を持って瑠璃は水を汲みに行った。その間にホットケーキを2枚重ねて1枚6つに切り分ける。6つずつその辺の綺麗なビニール袋に入れると軽くしばってテーブルに置いといた。さて、残りの水で包丁とか軽く洗っとくか……そう思いキッチンに身体を向けると、黒咲が話しかけてきた
「なんだ?これは」
なんだ?…とは、ビニールに入れたホットケーキのことか?
「まだ僕が1つも食べてないだろ?ここで食うのもアレだから、持っていって適当な時に食う。もう1つはユートの。あいつだけ仲間はずれっていうのもアレだからな…」
とりあえず、瑠璃が戻るまである程度は終わらせるか
「……というわけだ。貰っといてくれユート」
「…そうか、ありがとう風斗」
あの後瑠璃が戻ってきたらすぐに食器を洗って、我らがリーダーの元へ駆けつけた。僕らよりも気を張っているのか、少し疲れ気味な様子だ
ユートが、一切れ口に運ぶ。僕も一切れまるまる口に放り込む
「…美味いな…ほどよく甘くて良い感じだ…」
「……そうか、それは良かったな…」
「?どうした?声が震えてるように聞こえるが…」
「なんでもない。多分作りすぎて疲れたんだろ」
そうだ、なんでもない。決して残りのシロップを少なめにかけた奴を誤って渡したりなんかしてない。仮に渡してても喜んでくれてんだから別に良いじゃないか!
己の失敗を心の中で誤魔化して蓋しながらホットケーキの一欠片を口に放り込む。あぁ、すごく甘い…同時に罪悪感もヤバい……
「ユート」
「なんだ?」
軽く咀嚼しながらここにきたもう1つの目的を話す
「この間のアカデミアの尖兵に会ったって話は聞いてるよな?」
ここでもその尖兵とは紫雲院素良である。だけど名前も顔も明かしていないから、仮に出会ってもこれから話すことを質問することもされることもない。だからこの先のための重要なことの出自が問われてもバレることはない
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「その時に尋問に成功してな、アカデミアの結構重要な情報を手に入れた」
「なに!?」
当然尋問などしていない。しかし僕のこの情報は今までの他の情報と照合わせても特に違いがないから、実際真実と言える
ユートの顔が驚愕一色になる。だけど質問を受け付ける気は一切ないから畳み掛けるように情報を提供する
「アカデミアの統治者の名前は赤馬零王、周囲からプロフェッサーと呼ばれていて次元統一を目的としているらしい」
「次元統一…?では他にも次元があるのか?」
「あぁ、そしてここからが重要な話の肝なんだが……他の次元にあるスタンダート次元に赤馬零王の息子がいるらしい」
「息子?」
そう、あの赤馬零児である。中の人がファンサービスで裸足で針金マフラーとかが特徴のあの赤馬社長である。DDDとか権力で作った鬼畜社長だ。あととっても強い
そして、後のランサーズを設立し次元戦争の元凶たるアカデミアを倒す計画はとても前から決められていた……と、僕は記憶している
「スタンダート次元…そこへ行き、息子…赤馬零児と交渉しようと考えている」
「!?アカデミアを統治している者の息子と交渉だと!?」
ユートは訳が分からない、といった感じだ。もっともな反応だ。先のことが分からない人間からすれば、僕のしていることは銃を持った敵に握手を求めるのと同義なくらい…つまり自殺行為である
だが説得の手段は考えている
「ユート、考えてみろ。もし赤馬零児がお前の想像するようにアカデミアの人間ならば、なぜアカデミアでなくスタンダート次元にいる?」
「……それは、スタンダート次元を統治する為なのでは…」
「違うね。もしそうだとしたら、この次元に赤馬零児または赤馬零王がいないとダメなことになる。だいたい組織のボスともいえる存在が本拠地から離れるか?赤馬零児だってアカデミアの人間ならば次期アカデミア統治者だろうに、そんな跡取りを敵地ど真ん中に放り込むか?」
「ム……」
プロフェッサーの命令が何より優先しているアカデミアの連中は、きっと赤馬零王が倒れればなし崩し的にアカデミアは終わりを迎えるだろう。そういう風に教育したにしろしてないにしろ、命令を第一優先させるならばその命令者がいなくなるのは何としても避けたいはず
「まぁ穴だらけだとは思うが、僕の考えは1つ。赤馬零王と赤馬零児は敵対関係にある…といったところだな」
ユートは……考え込んでいる。僕の考えはそこそこの信憑性はあると思う。そりゃそうだ、この世界の話をもっともっと大きな観点でずっと見ていたのだから。それでもユートはレジスタンスのリーダー、1人の人間の話を鵜呑みにしてみんなを危険に晒すわけにはいかない。だからきっと迷っている
「……ユート」
肩に手を置く。ハッとして俯いた顔をあげてこちらを見るユートの目は、すべてを吸い込む漆黒の色で、綺麗に澄んでいた
「お前は…まあリーダーなんだ、みんなを守る為に簡単に決断はつけれないだろ」
「風斗……」
「ダメならダメで良いよ。そんときは、1人ででも……」
「ユートさん!!」
扉が勢いよく開かれた。外からの急な来訪者はレジスタンスメンバーの一員だった。名前は忘れた
「どうした?」
「アカデミアの連中が大軍で攻めてきた!今、黒咲さんたちが戦っている!」
「なんだと!?」
「早く来てくれ!今はまだ大丈夫だが、このままじゃみんなバラバラになっちまう!」
彼は顔を青くして助けを求める。アカデミア……こんな何もない時に攻めてくるとは、なんのつもりだ?……面倒だからあとで考える。それより今は現状だ
おそらくは唐突な敵の攻撃に指揮系統が乱れているのだろう、それをユートの指示で持ちなおさせるつもりでここにきた、といったところか
「分かった、すぐ行く!」
ユートも二つ返事で承諾すると、すぐデュエルディスクを腕につける。リーダー殿もやる気か…
「…ったく、この重要な話の時にやってくるなんて…空気読めねぇ奴らだなアカデミアは……」
侵略者の訪問に苛立ちながら、ネックウォーマーを鼻の頭まで隠しフードを被る。手袋もつければ、アカデミア兵が皆恐れる《サウザンド・フェイス》の誕生である
「白星さん!」
「先に行っとくぞ」
開け放たれた窓から飛び出し、僕は全力で駆け抜けた。敵のいる、戦場に向かって……
「行け!「
『グワアアァーーーーーッ!!』
反逆の隼の一撃が、それぞれの「
しかしその後ろから再びアカデミア兵が湧いてくる。中にはオベリクスフォースも交じっている。いくら黒咲といえど、これだけの人数を同時に連続で相手していては早いうちに限界も来るだろう。複数の人間を守りながら戦っていたらなおさらである
「くっ……!」
「隼さん!これ以上敵が増えたら…!」
半田は弱音を吐いてしまうが、これだけの戦力差での戦闘は黒咲も初めてであった。色濃い敗北のムードがその場のレジスタンスたちに伝播する…守ってる人たちの中ではすでに泣き崩れている者もいる
「諦めるな!すぐに増援が来る!ユートたちを信じろ!」
それでも、と。黒咲は己と味方を奮起し立ち上がる。度重なる逆境はこの程度では彼の心をへし折らなかった
(こいつらは全員叩き潰す!そして瑠璃の、子供たちの明るい未来を取り戻……ッ!!)
そこで黒咲は、ギリッと歯軋りをした。目の前にいる数多い融合次元の尖兵……その後ろから、3人のオベリスクフォースが巨大な機械兵を宙に浮かせて現れた。あれは、エクシーズ次元の人間なら誰もが知っている。自分たちの故郷を土足で踏み荒らした存在…
腕に、肩に、膝に、足に、身体に、そして顔にも凶悪な番犬の頭が形取られた10の獣の首を持つ巨人……「
「隼さん!これ以上はもう無理です!撤退を!」
「お前たちだけでも逃げろ!奴らは俺が殲滅する!」
「な…?!バカ言わないでください!いくらなんでも無茶ですよ!」
「ここで退けば、難民キャンプにまで被害が出る!それだけは何としても避ける!」
「けど……!」
「来るぞ!」
「
「グッ……!」
黒咲は「ライズ・ファルコン」に乗るとそのまま巨人に向かって攻撃を仕掛ける。…だが……
「黒咲さん!横だ、まだいるぞ!」
「何!?」
レジスタンスの男が、悲鳴にも似た忠告を黒咲に告げる。しかし「ライズ・ファルコン」はすでに「
「クソッ…!」
忌々しく顔を上げると、そいつは3体も並んでこちらを見下ろしていた。そのうちの1体は1つだけのカメラアイを爛々と輝かせ、もう1度暴力の嵐を振り下ろす。今度こそエクシーズ次元を滅ぼすために
(瑠璃…!)
黒咲は後悔の未練の中、ただ1つの大きな心残りがあった。たった1人の俺の兄妹、大切な妹。彼女は俺がいなくても生きてくれるのか…それだけが本当に心配だった。だったが…きっと大丈夫なのだろうと思った。ここで自分が死んでも、仲間が、親友が……瑠璃の新しい拠り所である異邦者が、きっと守ってくれるだろう
(ユート……風斗……瑠璃を、頼む……)
自分の身勝手な頼みは、あいつらに届くだろうか?そこまで考えて上を見る。拳が、隕石のごとくここを粉砕しに落ちてくる。誰かの声が聞こえるが、黒咲にとっては雑音にしか感じられなかった。そして、「
「やれ、「キメラテック・オーバー・ドラゴン」!!「エヴォリューション・レザルト・バースト」ォ!!ジュゥグォレンダァッ!!」
ーーー15の光が、「
後ろを振り向く。そこには、機械で作られた巨竜がいた。ずんぐりとした図体に、そこから伸びた数々の頭がついた首……6つの首と頭を持つ異質な機械竜の頭部の1つに、黒い人影が映った。……いや、人影ではなく、文字通り黒の人間だった
黒いコートをたなびかせ、フードを被り顔は目元しか判別できない。しかし、黒咲は彼が何者かをよく知っていた。正確にいえば良くは知らない…だが。この状況では最強の援軍であり…黒咲が認める、熱い心を持つ
彼が、飛び降りる
「大丈夫か?黒咲」
「…あぁ、お前のおかげで助かった」
「ちょっとだけ休んどけ……ゴミ処理は僕がする」
希望。レジスタンスにとってはこれ以上ない程恐怖を打ち破る戦力が投入され、士気はとても高まった
アカデミアに向かって、男は歩き始める。そして少し前へ進んでから、音を勢いよく鳴らせ両手を合わせた。この世界に来てからの、彼の儀式のようなもの…一方通行な、礼儀
「ドーモ 融合次元のみなさん…」
そして名乗る。白星風斗という本名ではない、敵が恐れてやまない「異名」を…
「サウザンド・フェイスです。…テメェらには、2度と下らねぇことが出来ねぇようにトラウマを刻みつける…!!」
白星風斗は、ざわつく戦場にデュエルディスクを起動させて降り立つ。怨敵を、悪夢と恐怖のどん底に叩き落とすために
辺り一帯に、人が倒れている。皮膚まで服を切り裂かれた男、その身に雷が落ちたかのように身体を少し焦がす女、全身に耐え難い打撃を打ち付けられた男etcetc……。色んな傷を負う人間が地に伏していた。それもかなりの数。災害があったわけでも事故があったわけでも、ましてや犯罪があったわけでもない。僕が倒しただけだ。奴らの言う狩りなど生ぬるく感じる、一方的な殺戮の蹂躙……別に殺してはいないがな…。倒れた奴らは男女問わず、次々に青の粒子となりその場から消えていく
目の前の人間を見てみる。相手は、巨大な溶岩の塊でできた化け物を2体従えている。その身体は遠目でも陽炎が揺らぐほどに高熱であり……その身体を、2体のうち1体の首からぶら下げた鉄製の檻に閉じ込められていた
白星 風斗 LP2400 1枚
セットモンスター 4枚
伏せカード 3枚
VS
アカデミア兵A LP 0 4枚
&
アカデミア兵B LP 0 3枚
&
アカデミア兵C LP1000 1枚
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム
レベル8 ATK3000
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム
レベル8 ATK3000
「た、頼む!もうここには来ない!俺の負けだ!だ、だから、ここから出してくれェ!」
アカデミア兵の顔は苦痛と屈服を表していて、溶岩で熱せられた鉄格子で掌を焼きながらも強く握って敗北を懇願するその姿は、言いようもなく負け犬そのものだった。自分より圧倒的に弱いと思い込んでた奴らに対して自ら恥も外聞も捨てて必死に許しを乞う……。都合のいい奴だ…そう思うと同時に、そんな奴らの心をどこまでもへし折ったという事実に……喜びの笑みを浮かべずにはいられなかった
「ターンエンド」
「ッ?!」
隠れて見えないが思わず気持ち悪いであろう笑顔のまま、ターンの終了を宣告する。相手は自分の言葉が微塵も届いてないことに戦慄を抱いた。どこまでも身勝手なこいつの最後の希望すらも奪うことも忘れない
「なんだその顔は?ゲームはまだ終わっていないんだ、降参なんてダメダメ……。お前らが抵抗すらもできない人たち相手にしてきたことに比べたら、こんなもん屁でもないだろう……ナァ?」
「ヒィッ!?」
ふざけるなと、喉が張り裂けてでも言ってやりたかった。しかし渇ききった口から出るのは悲鳴だけ。こんな情けない姿を晒させたフードの男に対して湧いた感情は、いつものような怒りやプライドに任せた憤怒では決してなく、処刑宣告を息を吐くように告げた悪魔の狂気に対する絶対的な恐怖。ゲームでもするかのように、無邪気に虫の手足をむしる子供のように実に楽しそうに…仲間たちをいたぶっていた。暗い感情が、戦士の心を縛り付け、締め付ける
実際風斗は、敵のしてきたことに対する怒りと同時に、どこか仕方ない…という気持ちもあった。向こうの一方的に仕掛けたものとはいえ戦争なのだ……いちいち敵に慈悲を与えていたら、それはいつか裏切りとともに手痛いしっぺ返しが自分だけに限らず周囲をも巻き込む。融合次元の奴らは当然そんな殊勝な気持ちなどないだろうが0とは言い切れない…言い切れなかった。だがそれでも彼らがしてきたことは断じて許されることではない
「お前のターンだ。そしてスタンバイフェイズに「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム」のモンスター効果、コントローラーに1000のバーンダメージを与える。2体いるからダメージは2000…どんな気分だ?いつもバーンをしているのに、逆にバーンでやられるってぇのは?」
だから笑う。高々に笑って、無慈悲に心を踏みつけて泥だらけの砂利だらけにする。それが、同じことをしてきた奴らへの罰。頑張って偽りの笑みを浮かべて、プライドもなにもかもを粉々に粉砕する。……ただ風斗は、その笑顔が己のドス黒い本心の1つから来てるものだと、気づいても無視していた……
「んじゃまあ、1度反省することだなァ……自分の考えを。溶岩に埋もれながらな」
「嫌だ!!嫌だ嫌だ!!」
鉄格子が同じ鉄とぶつかり檻を揺らす。「ラヴァ・ゴーレム」が1つに重なり、鉄槌とともに灼熱が罪人に降り注がれる
「嫌だアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
何かが焼ける嫌な音は、ハートランドの空を木霊する絶叫で掻き消された
白星 風斗 LP2400 1枚
セットモンスター 4枚
伏せカード 3枚
VS
アカデミア兵A LP 0 4枚
&
アカデミア兵B LP 0 3枚
&
アカデミア兵C LP 0 1枚
「ふ…風斗さん……ぃくらなんでも、やり過ぎですょ……」
思わず尻すぼみになるが、半田はそう言わずにいられなかった。あのようなデュエル、風斗らしくない。いや、戦い方自体はいつも通りではあった。ただ…相手を傷つけ、心を抉る…やり方には、味方たち全員が絶句している。黒咲ですら口を開こうとしない。もしかしたら開けないのかもしれない
「これくらいが丁度いいだろ…?「死んだほうがずっとずっとマシだ」って思わせてこれからの人生を奪うことが、あいつらの丁度いい贖罪だろうに」
都合のいいことをその口からよく垂らす…と、自身を罵りながら半田に己の答えを返す
溶岩に焼かれて、皮膚に深い火傷を負っているアカデミア兵をちらりと見る。呻いてはいるが気絶しているだけで命に別状はないだろう。ただこれから先、迫り来る溶岩の光景が網膜から2度と離れることがないだろうだけだ
気絶したままアカデミアにそいつも跳ばされる。前にはまだまだ多くの敵がいる、ホント物量戦しかしねぇなぁ……
「クソ……化け物が!」
「このままでは、壊滅的な被害を負うだけだ!」
「オベリスクフォースの増援を呼べ!」
そんなことを言うと、オベリスクフォースの1人が銃のようなものを空に打ち上げる。空高く上がったそれはやがて赤く大きな花火のようなものを上げる。花火よりもずっと無機質な感じで、面白みもなかったが。オベリスクフォースたちは、その場から早く離れた。増援と合流する気なのだろう
しかし増援か……ただの兵士なら別にいいが、オベリスクフォースとなると少し問題だ。数のこともあるが、何よりまだ黒咲が回復しきっていない。このままだとジリ貧か…
「隼、無事か!」
「ハァ、ハァ……黒咲さん!白星さん!遅れてすみません!」
「師匠!大丈夫ですか!?」
「?!…暗斎か!?なんでお前ここにいる!?」
「ユートさんに頼んだんです!俺でもできることがないかって!」
そんなことを考えていると、先ほど救援を呼びに来た奴とユートの他に、何故か弟子の暗斎もここに来ていた。思いもよらぬ援軍に少し戸惑う
「すまない風斗、俺が無理を言って連れてきたんだ」
「ユート!お前か!?なんだってこいつを……」
「しかし今は少しでも戦力が欲しいところなんだ、彼は必ず俺たちが守る!」
「…………」
本当ならば、無理矢理にでもこのバカ弟子を連れて帰るべきだろう。命を預かっている身な以上、引きずって戻るのが僕のやるべきことだ………しかし
「……暗斎、絶対タイマンで戦え。そしてすぐにヴェルズロックをかけて速攻で倒せ。お前のデッキは味方も敵も拘束するデッキなんだ、あと奴らのバーンには十分に気をつけろ」
状況が状況だ。暗斎の命を危険に晒す…人に任せるという、師として人として最低な行為ではあるが、ユートたちに弟子を任せる。ただし最低限大事なことは教えておく
「…師匠は?」
「あいつらが増援を呼んだんだ……どれくらいの数か分からんが、僕はオベリスクフォースを足止めしてくる。ユート!この場と暗斎を任せた!絶対に死人は出すなよ!」
「風斗!?」
僕の無茶な言葉にユートたちは反応するが、既に僕は離脱したオベリスクフォースを追うため、その足で建物の間を上に向かって三角跳びしながら屋上に降り立つ。そのまま屋上や屋根を伝いながら逃げた方向に跳躍する
……しかし、あの時僕は見逃していたのだ
離れる際にオベリスクフォースが、不愉快に口元を歪めていたことに
だだっ広いボロボロの建物の屋上。そこでは、圧倒的なデュエルが繰り広げられていた。三人一組のオベリスクフォースが何組もいる状況で…風斗は、多を圧倒していた
「「覇王黒龍オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン」で3人全員にダイレクトアタック!「殲滅の逆鱗 デストロイ・ディスオベイ」!!」
風斗の指示とともに、顎に2つの反り上がった逆鱗を持った黒龍が浮遊する。「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」よりも機械的で翼とは言い難い棒状のそれはそれぞれ3つずつ縦に割れながら暗い紫電を弾かせ、一気に急降下して地面スレスレで敵に向かって接近する。逆鱗で屋上の床を掻き砕きながらコンクリートの破片を撒き散らし……上に突き上げた一撃により、オベリスクフォースたちのライフを纏めて0にした。瓦礫の雨とともにそいつらは下に落ちてゆき、途中で3人とも光とともに消えた。「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン」も消え、同時に待機していたオベリスクフォースたちがデュエルディスクを構える
「また3人か……全員で掛かってこればいいものを、そんなに負けたいのか?」
いい加減3人連続のデュエルに飽きが来てしまった。別のデッキをディスクにセットしこちらも準備を整える
しかし何か妙な感じがする。というのも、9人くらいはもう融合次元に送り返しているにも関わらず、奴らは焦りや怒りを見せない。それどころか、余裕綽々な笑みを浮かべている始末。まるで……そう、作戦は順調だと言わんばかりの雰囲気である。何故?そんな表情をしている?最近の負け続きにとうとう頭がいかれたのか?
「「「「デュエル!!」」」」
ダメだ、今は考えても仕方ない。とりあえずこいつらをゆっくりでも良いから確実にぶちのめす。丁度先行を表示されたのでカードを発動する
「僕の先行、手札から魔法カード「召喚師のスキル」を発動。これによりデッキからレベル5以上の通常モンスターを手札に加える。レベル5のペンデュラムモンスター「クリフォート・ツール」を………」
ふと、前を向くと…紫色の何かが見えた。オベリスクフォースのフィールドにいるのではない。もっと後ろの、遠目で見てギリギリ見えるような程遠い場所に唐突に何かが現れていた
それはドラゴンだった。植物のように細長くしなやかな身体と尾、背中に突き出た4つのそれは肉食植物のように何かを垂らしながら口を小さく、しかし生物的恐怖を煽るように開かれていた。頭から黄ばんだ2本の太い角が歪曲に前に突き出されており、手足・胴・角・背の口のようなものにそれぞれの大きさの水晶球が赤と黄に分かれて色付けられていた
「「スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン」……ッ?!」
そう、それは融合次元にいる榊遊矢と似た男…ユーリが切り札としているモンスターだった。その切り札がいるということは、使い手であるユーリもいるという証拠に他ならなかった。信じられない来客に思わず混乱するも、頭を片手で押さえてなんとか考える程度に落ち着きを取り戻す
(何故ユーリがここに?!今回の攻撃に関わっているのか?!…それともとうとう瑠璃を攫いにきた?なんにせよ急いで奴のところに…)
急いで奴のところに。そこまで考えてふと自分の状況を思い出す。オベリスクフォースと戦っている最中だった。瑠璃の身が危ないかもしれないこの時に面倒な……面倒な?先ほど忘れようとした疑問が再び浮上してきた
そうだ、面倒。何故こいつらは同時に戦わずに順番に戦ってくる?仮に先行ワンキルの情報が漏れていたのだとしても一斉に掛かった方が倒せる率が高いのに。そして負け越してるにも関わらず笑っている理由はなんだ?一気に倒さなければ時間が掛かってこっちの増援が来て向こうも面倒な事態にっ
(………時間が掛かって?………?!)
時間を掛けて、笑っている?
何故時間を掛ける?時間を掛けた方が都合が良いから?
時間を掛けたらどう都合が良くなる?僕がこの場から動けなくなる?
僕は、理由が分かっているはずだ、僕だけの、この世界を知っているからこその理由。ユートたちも、僕も動けなければ………
ユーリは、何をしにここに来る?
「…………そうか…………」
俯いて、ポツリと僕は呟く。怒りで思わず声が震える。その怒りは、おそらく目の前でニタニタ薄汚い顔を晒しているクソ共に対して、だけではない。守ることができたはずのに…未然に防げたはずなのに。よく考えずに動き回った結果、まんまと敵の罠にはまって……瑠璃を危険にさらしてしまった、己の頭のバカさ加減に対しても
「足止めかテメェらァ!!目的は瑠璃か!!」
感情の限りを爆発させ、それを目の前の笑うゴミ共にぶつける。それを聞いて満足そうにムカつく声を上げる姿は、僕の質問を肯定しているも同然だった
さらにカッとなるも、まだ冷静な自分がいるのか
……落ち着け、落ち着け。まだ瑠璃は攫われていない。今からこいつらを瞬殺して向かえばまだ間に合う…だから落ち着け……
「…………」
ギリっと歯を噛み締めるも、妙に納得した己の冷静な判断に自己嫌悪しながらも心が急激に冷えきってゆく
そうだ、奴が来たからといって、すぐに連れて行かれるわけではない。黒咲も、戦う時に敵わないと思ったなら出来るだけ時間を稼げと瑠璃に教えていた。無責任だが、彼女を信じるしかない
そうと決まればやるべきことは1つ。こいつらを速攻で倒して、瑠璃のところに向かう……その為にも……
「「クリフォート・ツール」を手札に加えてそのままペンデュラムゾーンにセッティング!効果発動!800コスト払ってデッキから「クリフォート・シェル」を手札に………」
「「ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」で3体の「
3つの光線が「
「クソが!いい加減そこどきやがれ!!」
まだそれなりの数が残っており、しっかり足止めされながらデュエルを強制される…瑠璃のもとに行けない現状に、苛立ちを抑えられずにいた。「スターヴ・ヴェノム」が見当たらない、おそらく時間稼ぎの為に瑠璃が移動したんだろう。地形はこっちが詳しいとはいえ、それも時間の問題…。正直無理矢理にでも突破したいが、こいつらは身体能力だけはズバ抜けて高い。リアルファイトにでも持ち込まれたら、それこそボロ雑巾にされた上でカード化されるだろう。クソッ!どうすれば…!
「風斗!」
「ッ!!」
後ろを振り返る。そこには先ほど向こうの救助に来たユートと暗斎、動けるようになったのであろう黒咲と半田が来てくれた
「無事か!風斗!」
「大丈夫ですか師匠!?」
「応援に来ました!もう大丈夫です!」
まだ余裕のあるユートや半田とは反対に、少し息の上がっている暗斎。どうやら向こうの戦いは終わったらしい。さらに言えば向こうも足止めのつもりのようで、ユートたちの登場にオベリスクフォースは舌打ちしていた。このタイミングで来るのは助かった
ディスクのカードをすぐにデッキに戻すと素早くエクストラデッキから「オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン」を召喚する。雷鳴とともに現れた「ボルテックス」の背中に乗ると僕はユートたちに叫んだ
「ユート!お前たちはそいつらを頼む!」
「風斗!?どこに行く気だ!」
「瑠璃が狙われている!すぐに探さないと間に合わない!」
「何!?瑠璃がだと!?」
驚愕の声を上げる黒咲。自分の妹が狙われていると知って驚きを隠せないのか、目を見開いて焦りを表情に変わる。すると何も言わずにデュエルディスクを展開し「ライズ・ファルコン」を召喚し、その背に飛び乗り飛翔した
「瑠璃イイィィィィーーーーーーー!!」
「あ、黒咲!…っクッソ、ユート!時間がホントにない!悪いが行かせてもらうぞ!」
「あぁ!瑠璃を頼む!」
僕も「ボルテックス」で宙を浮き、黒咲とは違う方向へ全力で飛ばした
「よいしょっと…。全く、随分移動しちゃったな…この娘ホントにすごく抵抗したなぁ…。プロフェッサーは君を悪く扱う気はないって何度も言ったのに」
その場でぐったりと倒れて気絶している少女…瑠璃を左肩で持ちながら、ローブを纏った男…ユーリは鬱陶しそうに愚痴を垂らした
「ま、時間掛けさせられたけどようやく終わったし、とっとと帰るか。魔法カード「ヴァイオレット・フラッシュ」発……?」
ふと、ユーリは足元に違和感を感じる。ここエクシーズ次元は昼夜問わず曇っているため暗い。しかし、自身の足元の影がやたら濃い。それに、どうも徐々に大きくなっているような……
「ッ!?」
咄嗟に上を見上げる。すると、「オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン」に掴まりフードとコートをバタバタ風でなびかせながら……白星風斗が憤怒の形相で垂直落下してきた。ネックウォーマーも下げており、歯並びの悪い歯を剥き出しにしながらその目が如実にユーリに語りかけていた……
お前を、殺すと
「クッ!」
瑠璃を落とさないように体を捻りながら横へステップする。瞬間、凄まじいスピードで落下した「ボルテックス」は身体を地面に叩きつけ、着地地点から数メートル周囲を大きく揺らし小さく砕けたコンクリートと砂埃を巻き上げる。突如襲ってきた襲撃と衝撃にユーリは身体を硬直させる…
「グッ!?」
そして顔を上げた瞬間、勢いのついた左ストレートが砂埃を円状に払いながら、ユーリの右頬を打ちつけた
「ッラァッ!」
しかしそれでも止まらない。殴りつけた左手を開いてユーリの服を掴むと、そのまま左膝で腹に向かって膝打ちを打ち込む。完全にトドメをさせる、避ける手段もない…
しかし、ユーリはとんでもない方法で攻撃を防いだ。突然ユーリの腹辺りに人影が覆う。瑠璃だ、ユーリは担いでいた瑠璃の身体を風斗とユーリの間に移動させたのだ。瑠璃を助けに来たのならば、彼女を攻撃するはずがないという、ユーリの考察とそれを実行する判断力がこの状況を作り上げた。このまま攻撃を敢行すれば、盾となった彼女は大怪我を負うことになる。すんでのところで膝を止める。しかし、片足だけを使った攻撃を急に中断すればその身体はバランスを崩すことになる。…そしてそれを見逃すユーリではない
「ッゥエ゛ッ!!」
お返しと言わんばかりに風斗の腹に前蹴りが直撃する。思わず手を離す。右足のつま先が腹の肉をめり込ませ、胃液を逆流させる。しかしそれを必死にこらえると左手で右足首を握り、今度は右肘をユーリの膝に振り下ろす
ゴリッ…という嫌な音が響き、何かが陥没する嫌な感触が…右肘を伝った
足が、腹から離れる。ようやく晴れてきた砂埃の中にいたのは、腹を抑え敵を鋭く睨みつける風斗と、肩に瑠璃を抱えて壁にもたれかかり脂汗を垂らしながらも余裕そうに笑うユーリだった。ユーリの右足はプラプラ揺れている
鋭く強い視線と緩やかで危険な視線が、交差する
「ゲホッ、ゲホッ!……テメェ……」
「フフフ、そんなに睨まないでよ。ほら、ボクは足がやられちゃったんだからさ……おあいこってことでいいでしょ……?」
「おあいこ?まさかこの程度で許してやるからどっか行けって言いたいのか?」
未だ腹をさすりながら態勢を立て直しカバンに右手を突っ込む風斗は、より深く見下す笑いを浮かべながらも移動を試みようと「ヴァイオレット・フラッシュ」を人差し指と中指に挟めるユーリを睨めつける。余裕を浮かべているものの、ユーリは唐突の不意打ちと肉体ダメージによってかなり精神的に来るものがあった。しかし今はプロフェッサー…赤馬零王の命令が第一優先、とっととコイツから離れようとカードを発動しようとし…
「瑠璃を攫ったくせに、この程度に済むと思ってんのか…ユーリ」
手を、止めた。敵が知らないはずの自分の名を呼んだからだ。…だが、すぐにオベリスクフォース辺りでも漏らしたのだろうと自己完結させ…
「使用デッキのカテゴリは「
ここで、初めてユーリは動揺した。名前だけに限らず、デッキのカード…そして、己の象徴とも言える「スターヴ・ヴェノム」を知るこの男に、強い警戒心を抱くのは十分だった
ユーリは男を見る。服装は黒く丈が足の裾までの長さがあるコート、フードもついていて、口元に黒い何かを巻いているところまで確認したところで、手袋までしてないが彼が
「……キミ…いったい、何者なんだい…?」
ゆえに、ユーリは問う。ここで彼という人間を見定めておかないと、のちの大きな障害になる。プロフェッサーの、融合次元の大きな障害にーーー!
一方、風斗は能面のような顔の奥でホッとしていた。このまま逃げ仰せられる可能性が十分にあったからであって、少し足を止めれば良かったのだが、必要以上に効果があったらしい。嬉しい誤算というやつだ
風斗は、カバンの中で何かを操作する。目立つ音は聞こえない…だが、小刻みに揺れる彼の腕がそれを証明していた
「僕か…?……ただの、しがいない通りすがりの
こんな通りすがりがいてたまるか。ユーリは内心ツッコミを入れる
風斗とユーリの間の距離は5メートル弱……届くか、微妙な距離ではあった。…それでもと、右手のそれをユーリに向かってかざし……強い光を発した。少し経ってカシャっという聞き覚えのある音が周囲に響く
「ーーーよく覚えておけ!!」
風斗の手段は、この世界にも持ち込まれていた必需品の1つのスマートフォンであった。この世界ではこのような機種の電波が飛んでいない…と思っていたため、ずっとカバンの奥で出番もなくしまわれていたのである
しかし、彼ができるインターネット以外の使用用途で、どうしてもやっておきたいことがあった…それは写真を撮ることだ。風斗の考えていた本来の目的は、今後のユートとユーゴのいざこざの誤解を解くためにユーリの写真を隙あらば残しておこうと思って、カメラモードのままスリープ状態にしていたのである
そして今……瑠璃を助けるために、写真を撮るときのフラッシュを利用し、ユーリの隙を作ったのだ。腕で、ユーリは光を防いだ
…チャンスは今だけ!
全力疾走、足場の悪さもなんのそのでユーリに急接近する僕。これならばいける…!そう思い、ユーリの方を見て……「ヴァイオレット・フラッシュ」を発動しかけていた奴を見た。きっとこの時、僕は青ざめていた
紫の閃光が、ユーリと瑠璃を覆うように発する。このままでは、自分の知りうる展開になってしまう。瑠璃がいなくなり、ユートはユーゴを誤解し、黒咲は融合をより一層憎む
そんなのは……ーーーダメだ
スマフォなんぞ投げ捨てて勢いよく、ユーリに向かって跳ぶ。足を限界まで力を込めて跳び、右腕を可能な限り伸ばし、右手を際限なく広げる。僕のよく知る……笑顔の可愛い、彼女を救うために…!!
「ォォオオオオオーーーーー………ッ!!」
腕を伸ばす。ミシミシいってるが無視しろ!右手を広げる。皮が裂けていようが知ったことか!
ふと、瑠璃がゆっくりと目を開く。あの時…この世界に初めて来て見た綺麗な赤に染まった紫の瞳は、小さく揺れていた。瑠璃は、その細い左腕を伸ばす。瑠璃の左腕は、僕の伸ばした右腕とーーー
ーーー交差した………
強く握った右手は、小さい何かを掴んだ。プチっと何かが切れる音が鮮明に耳に残った
「…ァダアッ!」
少しの浮遊感からの顎と身体に打ち付ける強烈な痛み…そんなものなど全部無視して、素早く振り返る
「瑠璃!!」
だけど、後ろには何もない。一点を中心に砕けた道並みと荒廃しきった建物の数々、地面に落ちている僕のスマフォ……瑠璃も、ユーリの野郎もどこにもいない。…まんまと、連れ去られてしまったのだ。してやられた怒りに、強く歯を噛み締め、手を握り締める。そして違和感……右手に、小さな感触がある
開いてみると……半分に千切れた小さな白い羽飾りのようなものが掌に握られていた。美しい白色は、己の血の色で少し汚れていた
「……ァ………」
これは、瑠璃の耳についていた…イヤリングの、羽飾り
思わず、黙り込んで…考え込んでしまう。これは、証拠だ。僕は出来たはずなのに…助けれたはずなのに……僕の手に握らされたのは、断じて救おうとした証拠ではない
彼女を……瑠璃を、救えなかった確たる証。羽根に染まった僕の血が、罪の色に見えた
「瑠璃!」
着地音と黒咲の声が聞こえる。きっと、瑠璃を探しに来たのだろう……そう思うと、より一層申し訳ない気持ちになった。罪の意識だけが、心を支配する
「風斗!瑠璃は見つかったのか!?瑠璃は……」
「………メン………」
…本当のことを言えば、きっと黒咲は怒るだろう…助けれなかった僕を。殴るだろう、救わなかった僕を。だけどそれでもよかった…この気持ちが、少しでも薄れてくれるなら
「……ゴメン………」
「何…?」
黒咲は、唐突に謝られたことに疑問符を浮かべる。しかし、僕の手に乗せられたそれを見たのか、何かを察したかのように呟く
「………まさか………」
「ゴメン……ッ!!」
風斗は、涙を流さなかった。我慢していたのではない、何も湧き上がってこないのだ。彼の心に満ちていたのは、瑠璃を失った悲しみでもなければ、アカデミアへの怒りでもない。何もできなかった、無力な自分に対する失望感と、救えなかったことへの罪悪感で敷き詰められていた
乾ききった砂が、カバーの割れたスマートフォンを傷つけた
瑠璃イイィィィィーーーーーーーッ!!(様式美)
…というわけでシリアスいっぱいな鬱い終わり方でした。ツラいでしょ?ツラいですよね?…でも残念、もう少し鬱回は続きます
今回はデュエル描写書くと途轍もなく長くなりそうだったので全部省略しました。すみません、でも白星くん凄く足止めでデュエルしましたから。とても書ききれなかったんです。あとジュゥグォレンダァ!!に関しては完全にルールとか無視してますんでご了承ください
ちなみに瑠璃をどうするかですが、ネタバレになるので明かすことはできません。でもヒロインではありますので、大丈夫と思っていてください
次回は少し短くなると思いますが、更新を気長に待っていただければと思います