面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語   作:ジャギィ

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ドーモ 鬱回その2、です

正直今回は賛否両論が激しいことこの上ないかも知れません……けど、投稿前から決まってた設定なので、そのまま推して参る!

では、色々とアレな第9話ドーゾ…


黒い星と背負う罪

「…………」

「あっ…師匠、おかえりなさい」

 

自室に戻ると、弟子が挨拶してくる。………あぁ…また忘れてた…

 

「ただいま…」

「…あの……師匠、大丈夫ですか…?あの時のは、その……師匠のせいじゃないですよ、絶対に…」

 

慰めてくれる暗斎の頭を撫でる。その顔は、不安の色が見え隠れしていた

 

「ありがとう…そう言ってもらえるだけでも結構気分が楽になるよ……優しいやつだな、お前は」

「師匠……」

「けどゴメンな、やっぱ気持ちの整理には時間を掛けたいんだ。……すっぱりあの時のことを忘れたら、瑠璃に申し訳ない気持ちになるから……」

 

本当は、こうやって慰められることすらも苦痛ですらある。だけど、数日前に…瑠璃が攫われたあと、誰1人として……黒咲には、胸ぐらを掴まれはしたが…最終的には僕を責めなかった……殴ってくれた方が、気持ち的にずっと楽なのに

 

そんな気持ちのまま、僕は服も着替えずに布団に包まった

 

 

 

瑠璃が融合次元に連れ去られてから、早数日経った。あの日の戦いには勝利したにも関わらず、レジスタンス内のムードは最悪の一言である。…当然だ、みんなを守るためのあの戦いは1人の人間を連れて行くための…文字どおり、餌だったのだ。そんな与えられた勝利など喜べない…そうじゃなくても、黒咲瑠璃という1つの柱のようなものが失ってしまったことにより、難民キャンプのみんなも落ち込んでいる

 

けど、何より影響が強かったのはやはりか黒咲だった。今からでもアカデミアに乗り込むと言った時は説得が本当に大変だった。だけど、ユートの「お前がいなくなれば瑠璃が悲しむ」という言葉に折れて、とりあえず無茶なことはしないと言ってくれたものの、きっと近いうちにまた怒りを振り返すだろう

 

…瑠璃が攫われたのは僕の責任だ。だから、助けに行くというのならば、僕が行くのが筋というものだ。だがどうやって助ける?アカデミアに行くことはできるが、そこでどうやって瑠璃を見つける?敵地のど真ん中で敵に見つかった場合は?仮にだが紫雲院や…ユーリに出くわしたら?次々に湧いてくる、どうすれば安全に瑠璃を助けれるかという疑問。…問題は、その安全に僕も含まれていることなんだよな……自分の命を度外視してまで助けようと思っても、実行に移せない。どこまでいっても自分が可愛いということか、反吐がでる

 

……だけど、この喪失感はなんだ?この苦しみは?何故あの時僕は、彼女を、瑠璃を必死で助けようとしたのだろうか……

 

「……分からない………」

 

いつも何も考えずに、考えなしで生きてきた。面倒くさいこととかやらなきゃいけないこととかは、必死にない知恵振り絞って生きてきた。けど……本気で、その時やりたいと思った時は…やりたかったことは、本当にこうした方が良いって認識程度でしか考えなかった。そのくせして、行動力はその時だけ異常にある

 

つまりあの時は……瑠璃の救出は、僕の本心だったといったところだろう。でも、あの時の湧き上がった熱い気持ちが、今はどこにあるのかすらも分からない

 

ふと、時計を見てみる。朝の11時、もうすぐで昼の時間帯である。…どうやら、また長い間考え込んでいたらしい。数日前から頭がガンガンして痛いし、眠気のせいかまともな思考も成り立たない

 

「………止めとこ……」

 

いくら思考を張り巡らせても、今は無駄なだけだ……。気持ち自体はだいぶ落ち着いては来た、大丈夫だ……

 

とりあえず、敵を…アカデミア兵を多く倒す。ユーリが怪我で動けない以上、早く……

 

僕は、幽鬼の様な足取りでハートランドに出掛けるために、部屋のドアノブに手を掛けた

 

 

 

 

 

 

 

ふらふら、と

 

暗い感情が可視化できそうなほど思い詰めた表情と雰囲気でハートランドに繰り出す風斗を見て、ユートは悲しそうに呟いた

 

「風斗……」

 

瑠璃が攫われてから彼はずっとこの調子だ。まるで死に場所を求める様にアカデミアの人間にデュエルを挑んで……いつも無傷で帰ってくる。攫われる前と比べたら尋常ではないくらいに早く戻ってくる……しかしユートはなんとなく分かっていた。それは風斗が1人2人倒して戻ってきているのではなく、いつも通り…いやいつも以上の早さでデュエルに勝っているのだろう

 

そんな風斗をユートは危なっかしく思えた。彼が早く戻ってこれるのはそれほど早く敵を倒しているということ。だがそれは彼が戦場で1番気をつけている、いつも弟子や自分たちにも口酸っぱく話している……勝利への安全性を考慮したデュエルをしていないことに他ならなかった。いずれ破滅するであろう…いや、破滅を望む戦い方を自ら行っているのだ

 

当然ユートも最初は止めた。他のメンバーも止めに入ったし、力ずくで気絶させようともした。しかしそれでも彼は止まらなかった。受け答えはするが、瑠璃を救えなかったことへの罪の意識や謝罪ばかり話していた。誰もそのことを責めてはいなかったのにである。隼ですら、既に終わったことだと踏ん切りをつけている。風斗の手に握られていた羽根のイヤリングが、彼が最善を全力で尽くしたのだと理解していたからだ

 

だが、彼の中では思いの外あの失敗を引きずっている様である。流石に異常だと思ったが、彼は瑠璃がアカデミアに狙われているのではないかという予想をし、その上で強く警戒していた…と、隼が言っていた。風斗はそのことを隼にしか話さなかった様であり、それを聞いたユートが抱いた感情は納得よりも疑問の方が大きかった

 

(風斗……なぜ、お前は俺たちに瑠璃のことを話さなかった?隼にだけ話した?俺たちは…お前にとって、そんなに頼りないのか…?)

 

実際、ユートの懸念は全くの見当違いであった。風斗が隼にだけ話したのは彼が瑠璃の兄だったから…という感情的な理由と、狙われているという事実はそもそもみんなを納得させるほどの理由と根拠が説明できない…だから、余計な混乱は生まない方がいいと思ったから他の者には自らは言わなかった…という理由からである。さらに言うなら、これは自分だけしか知らない未来の出来事……だからどうにかできるのは自分だけで、それで周りに迷惑をかけるわけにはいかない…という考えからも及んだ出来事。風斗の責任感が変な形で発揮したが故の事態であった

 

「……何も起きなければいいが……」

 

だが、風斗から何も話さなければユートたちには何も分からない。分かるわけが、ない。加速するすれ違いの中、レジスタンスのリーダーは不吉な未来がこれ以上起きないことを祈った

 

 

 

 

 

 

 

「師匠……」

 

いつもの覇気がまるで見当たらず、ただ淡々をカードを1人で回しながらアカデミア兵たちを圧倒する己が師の姿に、暗斎迅は複雑な心境を隠せずにはいられなかった

 

『「ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン」でダイレクトアタック。「インフィニティ・サイト・ストリーム」』

『グワァアアァァァァァーーーーー!!』

 

 

白星 風斗 LP1000 手札 0枚

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン(インフェルニティ・ネクロマンサー)

レベル8 ATK3000

氷結界の龍 トリシューラ

レベル9 ATK2700

インフェルニティ・デス・ドラゴン

レベル8 ATK3000

煉獄龍 オーガ・ドラグーン

レベル8 ATK3000

 

伏せカード 2枚

VS

アカデミア兵A LP 0 手札 4枚

アカデミア兵B LP 0 手札 4枚

アカデミア兵C LP 0 手札 3枚

 

 

凄まじい、の一言だった。暗斎は師である白星風斗が様々な召喚法に精通しているのは知っていた。だがこれは、もはや召喚法に精通しているというより()()()()()()()()()()()()()()を長いことやっていないと出来ない芸当。師匠から聞いたらそろそろ10年は経つ、と言ってはいたが……

 

(師匠は……どうやってここまで強くなったんだろう…?だけど、今の師匠は早く終わらせたがっている。そのために、あんなにライフを減らして……)

 

途中で風斗が使った「ソウル・チャージ」とかいう魔法カード。墓地からモンスターを複数蘇生できる代わりにその数だけ1000もライフを失い、さらにそのターン攻撃も出来ないというハイリスクハイリターンのカード……それを躊躇なく使うほど、勝負に急いでるように見えた

 

後ろに控えていたアカデミア兵と改めて対峙する風斗。その顔色は真っ白と言っても過言ではなかった。しかし彼はデュエルを、止められなかった。いったい何が彼をそこまで突き動かすのか…悲しみか、怒りか、贖罪か………そこまで考えて、別方向を見てみる

 

「あっ!」

 

高台の天辺にいた暗斎が見たのは、まだ遠いがこちらの方向に向かってくるアカデミアの精鋭…オベリスクフォース。このままこっちに来れば、挟み討ちの形で風斗と出会うことになる。ただでさえ疲弊しきっている師にこれ以上デュエルを続ければ……最悪デュエル中倒れて、カードにされるかもしれない

 

だが、暗斎は師である風斗からアカデミアには絶対に単独でデュエルするな…と言いつけられていたのである。それがオベリスクフォースともなると以ての外……だから、風斗にこのことを伝えてすぐ逃げるようにすればいいと振り返る。視線の先の彼は、とても辛そうな表情だった

 

「…………」

 

もし…もしこのまま逃げても、逃げ切れない可能性は十分にある。囲まれ逃げられない状況に陥れば、風斗は必ず自分の前に立ち塞がり、逃げろと命令するだろう。そして逃げて、もし師匠が帰らなかったら……

 

『暗斎、何かで迷った時は、自分のやりたいことを優先した方がいい…と僕は思う。何もやらずに後悔するより、何かやって後悔した方が、次は絶対やり遂げるって気持ちになれるからな……まあ、僕が言っても説得力がないけど。…つーか子供相手に何言ってんだか僕……』

 

ふと、いつの日かそんなことを教えてくれたことを暗斎は思い出す。そして考える。ここで2人のどちらか、あるいは両方がいなくなる選択を、俺は取ることができるのか…?

 

ダメだ、それだけは絶対

 

暗斎の気持ちは、すでに決まっていた

 

(すみません、師匠!)

 

そう思った暗斎の行動は早かった。出来るだけ風斗にバレないように、かつ素早く移動する。屋上から屋上へ、さらに地面へとジャンプで移動しながら……彼は、オベリスクフォースたちの前へ立ち塞がった

 

「……なんだ?お前は」

「…俺の名前は、サウザンド・フェイス!ここは通さない…!」

 

突如目の前に現れた子供にオベリスクフォースは驚きの顔を一瞬浮かべるも……すぐに、下品な声で笑いながらディスクを構える

 

「サウザンド・フェイスだと?こんなガキがか?」

「聞いていた特徴と随分違うな……だが、わざわざターゲットが目の前に来てくれるとはな!」

「プロフェッサー直々の命だ。貴様には消えてもらうぞ、サウザンド・フェイス!!」

(やっぱり、こいつらの狙いは師匠…!!なおさら絶対に通さない!)

 

自分の師の抹殺を企む精鋭たちに足が竦むも、心を奮いたたせてデュエルディスクを起動させる

 

そして子供であろうと、サウザンド・フェイスと思い込んでいる以上3人がかりのスタンスを崩さないオベリスクフォースは、その牙を暗斎にかけた

 

 

 

 

 

 

「…クソッ……まだ頭痛が止まらねえ……」

 

アカデミア兵を速攻で倒したものの、頭の痛みは増す一方だ。風斗は昔、1度だけ本気で死にかけた事故にあったことがある。その時は頭が割れそうなほど痛かったし、事故にあった日の一晩が三晩にも感じられたほどに混乱もしていた。その事故以降、今はほぼ治ったものの脳挫傷(のうざしょう)という脳に傷を負った状態のせいで時々起こる強い頭痛に悩まされていた

 

今となっては頭痛がする時は決まって強いストレスを受けている時か、過剰な寝不足によるものが常の理由だった。しかし、瑠璃が攫われてからの数日、強弱はあるもののずっとズキズキと頭が痛むのだ。こんなことは今まで1度もなかったから、どうすればいいかも分からないまま、それによるストレスをアカデミアの奴らにぶつけていた。……自分のしていることが、ただの八つ当たりだというのは彼自身が1番理解している

 

「けど……どうしようもねえだろうが…!」

 

己の苛立ちを言葉に変えて、強く…しかし弱々しく呟く。頭痛だけならば彼はここまで取り乱したりはしない。ここまでの攻撃性に変えたのは…()()()()()()()があった

 

 

……どうしようもなくはない。お前の行動は、自分を満たすための自己満足にすぎない……

 

 

声が、風斗の頭で鳴り響く。やけに心に染み入るそれは、風斗の心にストンと入り込んだ

 

「…うるさい……」

 

だからこそ、風斗は黙らせようとする。そのやけに納得する言葉を聞くと、瑠璃のことで悩み、苦しんでいる自分がまるでバカで、無意味に感じるから

 

これが、瑠璃が攫われてから起きたもう1つの変化。風斗が何かしらの言葉を発するたびに、それを否定するようなことが聞こえるのだ。最初は幻聴だと思った。とことん無視はしたし、睡眠不足がたたったのだと気にしないようにしていた

 

 

……他の者は、自分のすべきことを理解し、その為に前に歩んでいる。お前のそれは、ただの足踏みだ……

 

 

…だというのに、何故……ここまで、この声は己の奥底まで響いてくる?この声を聞いていると、頭が無理矢理にでも冷静になってしまう。そんなのは、嫌だ

 

「うるさい…!」

 

 

……お前は、何がすべきか分かっているのだろう?お前の心の奥底の本当の気持ちは………

 

 

「うるさいうるさいうるせぇ!黙れェ!!その声で喋んじゃねぇ!!」

 

その聞き覚えのある声で、僕に説教垂れるなーーーーーッ!!

 

思わず耳を両手で塞ぐ。耳栓なんぞで物事を解決しようものなら、彼はここまで心を乱されていないはずなのに。風斗は自覚がないが、大きすぎる変化と度重なるプレッシャーが彼を錯乱状態まで追い詰めていたのである

 

(瑠璃はいなくなった!誰のせいだ!?レジスタンスも難民のみんなも落ち込んでいる!誰のせいだ!?黒咲は怒りで無茶をしようとした!誰のせいだ!?……全部僕のせいだろうが!!)

 

「やることなんか決まってんだろうが!瑠璃を助けるんだよ!そうじゃないと、そうしないとーーーーー……」

 

ーーー嫌な気分になるんだよ!喉まで出かかったその言葉は、どこからか聞こえてきた大きな破砕音が遮った。直後にビルが倒れるような地鳴りと揺れを感じ取った彼は、周囲を見渡す。すると、少し遠くのところに全てを踏みにじる破壊魔が確認できた

 

「「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」…!?」

 

アカデミアでも一部の人間しか使わない「古代の機械(アンティーク・ギア)」の最強モンスターともいえる存在が、ハートランドの廃墟に突如現れた。それも、確認した限り2体

 

(何故こんなところで「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」が……!誰かと戦っているのか?……まさか黒咲が!?)

 

彼の心境は一瞬にして不安で埋め尽くされていた。瑠璃を連れ去られて半ば暴走している黒咲ならば、あの場で戦っている可能性が十二分に高かったからだ。これ以上の犠牲者を良しとしない風斗は、すぐに現場に向けて走り出した。全力で地を蹴り、障害物を飛び越え、ビルとビルの隙間を駆ける。しかし、機械の巨人は無慈悲にも、モンスターを掴んだその腕を振り回し、勢いよく地に叩きつけようとする

 

「………え……?」

 

だが、突然風斗は走るのを止め、「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」の腕を凝視した。そこに捕らえられていたのは、黒咲のモンスター「RR(レイドラプターズ)」でも、ましてやエクシーズモンスターでもなく……

 

 

 

ーーー玉座に座る女神「エルシャドール・シェキナーガ」という()()()()()()()だった

 

「「シェキナーガ」……?なんで、「シェキナーガ」が……?」

 

混乱の極みだった。自分がおおよそ予想したモンスターとはあまりにもかけ離れた目の前の事態。あそこでやられているのが、エクシーズモンスターならまだ分かる。だが…だとしたら、何故エクシーズ次元でアカデミアが融合使いと戦っているのか…?

 

風斗の頭の中で、最も最悪のパターンが浮かび上がった

 

「まさか!!」

 

再びダッシュする。ただし、さっきよりもバランスを大きく崩し、とても非効率に。彼の胸中と同じくらい、身体は揺れ動いていた

 

風斗にはすぐ理解できていたのだ、この次元で融合モンスターを使うのは風斗ともう1人だけ。そしてその片方が本人な以上、戦っているもう1人は必然と限られてくる。何よりあのモンスターは「シャドール」カテゴリの1体、答えは火を見るより明らかだった

 

(んなわけあるか!絶対あるか!あれだけ忠告もしたし釘も刺しておいたんだ!だけど、だけど……!)

 

認めたく…信じたくはなかった。だが、己の冷たい心はすでに理解していた……認めたくない事実を、肯定していた

 

ようやく見え始めた大通りの道に足を踏み入れる。そして今まで自分でも見たことがないほど、信じられない残酷な真実が…そこに転がっていた……

 

 

 

ボロボロの暗斎迅が、うつ伏せで倒れ伏していた

 

 

 

 

 

 

 

「……なん……で…なんでだ………」

 

なんで…!なんで!お前がそんなところで倒れているんだよ!!

 

「暗斎!!」

 

思わず倒れている我が弟子に駆け寄る。それを見たオベリスクフォースの面々は、実に愉快に笑っていた

 

「なんだ?そのガキの味方か?」

「だが残念だったな!そいつはもうおしまいだ!」

「噂のサウザンド・フェイスも、大したことがなかったってわけだ!」

 

クソどもが何かを語っているがどうでもいいことだった。すぐに暗斎の身体を仰向けにして……

 

「…………ハ…?」

 

なにか、おかしい。何故こんなにだらんとしている?何故もう開かないように瞼を閉じている?何故……

 

顔に、手を当てる。……なにもなかった……鼻息、すらも…

 

「……なんで……息が……」

 

止まって……暗斎は…死んだ……?

 

暗斎の身体を地面に仰向けに置き、心臓マッサージを試みる。なんでなんでなんで……!

 

「ふざけるな!ふざけるなァ!なんで!なんでなんでなんで!なんで……!」

 

心臓の位置に垂直に、一定のテンポで、強く左胸を押す。自分の命も何もかも、吹き込むように人口呼吸をする。頼む……!

 

一体どれほどの時間が経ったのか……。可能な限りの処置を施すが……それでも、暗斎は息を吹き返さない。その死に顔は、とても誇らしく笑っていた

 

「………なんで………?」

 

瑠璃は、攫われた。そして…暗斎も、亡くなった。何故こうなった?僕のせいか?僕が暗斎にデュエルを教えたから?僕があいつに気を使ってなかったから?僕が……

 

「なんだ?死んだのか、そのガキは?」

「ハハハハ!我々に楯突くからこうなったんだよ!」

「カード化出来ないのが残念だな。噂の悪魔の決闘者(デュエリスト)とやらを、みんなに見せてやりたかったのだがな」

 

 

 

「………ッ……」

 

……違う……暗斎が……僕の弟子が、死んだのは…!

 

暗斎を、優しく抱き上げる。そのまま近くの比較的平らな場所に彼を置くと、僕はディスクにデッキをセットする

 

それを見たオベリスクフォースは、あからさまな嘲笑を浮かべてディスクを構える

 

「ほう?貴様も我々と戦うというのか?」

「バカなやつめ!サウザンド・フェイスを葬った我々に敵うやつなど、もはやこの次元にはいない!」

「貴様はそのガキのように死なないように注意しなければな」

「違いない!ハハハハハハハ!」

 

そういって勘違いをしながらこちらを嘲笑うオベリスクフォースに対して抱いた感情は、いつものような侮蔑でも、哀れみでもなく

 

……そうだ…己の心を下手な理性で抑えようとするな。僕の心赴くまま……直感(ほんのう)に、己に従って動け

 

不思議だ。先ほどまでの頭痛が、嘘のように消えてる。それどころか、晴れやかな気分ですらある。あの幻聴も、とてもスッと心に染み渡っていく…まるで、僕の気持ちと理性が一致したかのような……

 

 

……今回は、手を貸してやろう。直感(ほんのう)のままに戦い、心を大きく揺らせ……

 

 

直感…。…僕の、今やりたいこと…それは……!

 

「こいつらを…!……ぶっ殺す…!!」

 

 

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 

白星 風斗 LP4000 手札 5枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚

オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚

オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚

 

 

「俺の先行!俺は魔法カード「融合」を発動!手札の「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」3体で融合!いにしえの魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬たちよ!群れなして混じり合い、新たな力と姿を見せよ!」

 

先行1ターンから出てきたのは、3つ首の機械猟犬。3つの口から威嚇の声を上げるが、今はその姿すらも鬱陶しく思えた

 

「融合召喚!レベル7!「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 

白星 風斗 LP4000 手札 5枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

 

伏せカード 1枚

オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚

オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は手札から「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」を召喚!」

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

「そしてカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

白星 風斗 LP4000 手札 5枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

 

伏せカード 1枚

オベリスクフォースB LP4000 手札 2枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

伏せカード 3枚

オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚

 

 

「俺のターン!俺は手札から「融合」を発動!手札の「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」3体で融合!融合召喚!レベル7!「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

 

「さらに手札から魔法カード「死者蘇生」を発動!俺の墓地の「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」を復活させ、その効果を発動!自分の場にこのカード以外の「古代の機械(アンティーク・ギア)」が存在する時、このカードを含めた融合召喚を行うことができる!俺は「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」と「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」で融合!いにしえの魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬たちよ!群れなして混じり合い、新たな力と姿を見せよ!」

 

機械の猟犬たちが混じり合い現れたのは、巨大で凶悪な口を腹に持つ3つ首の猟犬。その全ての敵を噛み砕かんとする姿は敵の強さを理解できてないように見え、頭の悪いだろうそいつに向かって哀れなやつと見下してやった

 

「融合召喚!レベル9!「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」!」

 

古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)

レベル9 ATK2800

 

「「究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)」の効果で、融合召喚時に相手のライフを半分にする!喰らえ!」

 

究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)」が腹の口を大きく開き、そこからあらゆるものを焼き尽くす炎を放射し、僕の身体を大きく覆う

 

白星 風斗 LP2000 手札 5枚

 

「ハハハハ!我々に刃向かうからこのような目に……」

 

だが、オベリスクフォースを驚きで目を剥いていた。…なんだ、その顔は?…そんなに僕が立っていることが不思議で仕方ないのか?この雑魚が…!

 

「どうした?その程度か?…「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」でも召喚してみたらどうなんだ?…それでも勝てんがな」

「ふん、負け犬がよく吠える!永続魔法「古代の破滅機械(アンティーク・ハルマゲドン・ギア)」を発動!俺はこれでターンエンド!」

 

 

白星 風斗 LP2000 手札 5枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

 

伏せカード 1枚

オベリスクフォースB LP4000 手札 2枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

伏せカード 3枚

オベリスクフォースC LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)

レベル9 ATK2800

 

古代の破滅機械(アンティーク・ハルマゲドン・ギア)

 

 

(俺の伏せカードは融合モンスター以外の攻撃を封じる永続罠「融合塹壕−フュージョン・トレンチ−」。サウザンド・フェイスを倒した今、奴らにこのカードの突破手段はない!)

(仮に突破してきたとしても、俺の3枚の伏せカードのうち2枚が「聖なるバリア−ミラーフォース」と「炸裂装甲(リアクティブアーマー)」。もう1枚も「古代の機械(アンティーク・ギア)」カードの効果ダメージを倍にする永続罠「古代の機械増幅器(アンティーク・ギアブースター)」)

(そしてこの「古代の破滅機械(アンティーク・ハルマゲドン・ギア)」は、モンスターが破壊されればモンスターの攻撃力分のダメージをコントローラーに与えるカード。味方があれほどカードを伏せたなら破壊カードが1枚以上はある…。奴にはもう勝ち目はない!)

 

 

ターンの終了を告げると、非常に気色悪い笑みを浮かべるオベリスクフォース…。すでに勝った…って面してんなぁ……。…その顔、すぐに恐怖と絶望の色で塗り替えてやる…!この手札なら、十分()()()

 

「僕の、タァァーーーンッ!!!」

 

勢いよくデッキトップからカードを引き抜く。そしてそのカードを見……ほくそ笑んだ。これなら、この怒りをぶつけられる…!

 

「まずは「ギャラクシーサイクロン」をお前の真ん中のセットカードを対象に発動!そのカードを破壊する!」

 

カードを指定する。すると人1人覆えるくらいの竜巻が対象のカードに向かい、それを突き破る。伏せられたカードは光の塵となり霧散した

 

「クソ!「炸裂装甲(リアクティブアーマー)」が…!」

「手札から「名推理」を発動!相手はレベルを1つ宣言する!そして僕のデッキトップを確認していき、宣言したレベルと違う特殊召喚可能なモンスターの場合特殊召喚!違う場合墓地に送られる!確認したカードも墓地に送る!さあ、お前だ!早く宣言しろ!」

 

僕は真ん中の奴に指を突きつける。早く言え!早く!

 

「ふん、運任せのカードとはな。俺はレベル4だ!」

「カードドロー!レベル4「インフェルノイド・アスタロス」!」

 

ドローしたカードを確認させると、オベリスクフォースたちは声を揃えて笑い出した。それが僕には甲高い不協和音に聞こえ、より殺意をみなぎらせた

 

「ハハハ、やはりレベル4か!」

「お前たちは所詮獲物だな!学習能力がまるでない!」

「さぁ、早く早くターンを終わらせろ!」

「何言ってやがる、「名推理」の効果はまだ続いている」

 

それを告げると、僕がおかしなことを言ったかのように怒り出した

 

「ふざけるな!貴様が引いたのはレベル4のモンスターだ!自分の発動したカード効果も理解できないのか!」

「理解がないのはテメェらの方だろうが。さっき僕は言ったぞ、特殊召喚可能な場合特殊召喚する…と。そしてこの「インフェルノイド」モンスターは1種を除き自身の効果以外では召喚・特殊召喚が行えないカードだ。よって「名推理」の効果で特殊召喚は出来ない」

「なに!」

「「アスタロス」を墓地に!ドロー!罠カード「ブレイクスルー・スキル」!墓地に!ドロー!魔法カード「煉獄の死徒」!墓地に!ドロー!「インフェルノイド・アドラメレク」!墓地に!ドロー!永続罠カード「輪廻独断」!墓地に!ドロー!「インフェルノイド・アシュメダイ」!墓地に!ドロー……」

 

来い!早く来い!奴らの死の淵に叩き落とすあのカード…来い!

 

「インフェルノイド・ネヘモス」、「ブービートラップE」、「煉獄の虚夢」、「煉獄の死徒」、「インフェルノイド・ヴァエル」、「インフェルノイド・ルキフグス」、「モンスターゲート」、「名推理」、「インフェルノイド・アスタロス」、「インフェルノイド・ベルフェゴル」、「オーバーロード・フュージョン」、「インフェルノイド・ルキフグス」、「インフェルノイド・ヴァエル」、「モンスターゲート」、「王家の神殿」、「インフェルノイド・アドラメレク」、「輪廻独断」ーーー…!

 

「ッ!……レベル5「サイバー・ドラゴン」、このカードは特殊召喚可能でレベルも違う…よって特殊召喚!」

 

ようやく引いたカードを、場に特殊召喚する。その全身が機械で構築されており、腕も足もない蛇のような機械竜は、ガラス越しの眼光を黄色く光らせる。本来なら美しい銀色を放つ「サイバー・ドラゴン」は……とても深く黒ずんでいた

 

サイバー・ドラゴン

レベル5 ATK2100

 

「チッ…違うレベルのモンスターを入れていたのか…」

「手札から永続魔法「王家の神殿」を発動!」

 

後ろに、巨大な神殿が地から浮き上がる。その神殿の前は祭壇のようなものが開放的に曝け出されており、儀式が行われるかのように横向きの黄金の棺の周囲には松明が静かに燃え上がっていた

 

「このカードが場にある限り、1ターンに1度だけ罠カードを伏せたターンに発動できる」

「罠を伏せたターンにだと!?」

「僕はカードを1枚伏せ、そのまま発動!永続罠「輪廻独断」!機械族を選択!」

 

お互いのフィールドに、薄く照らされた輪っかが浮かび上がる。その外輪には機械の残骸のようなものが、右回りでゆっくりと回転していた。それは、まさしく輪廻の統一

 

「なんだ、これは!?」

「「輪廻独断」はフィールドに存在する限り、お互いの墓地にある全部のモンスターの種族を指定した種族に変更するカード。僕は機械族を指定した」

「墓地のモンスターの種族を変えるだと……?」

「だが、我々の「古代の機械(アンティーク・ギア)」モンスターは全て機械族!お前のカードはなんの意味もない!」

「意味がない…だと……?…意味がないのは、無駄なのはテメェらの存在だァ!手札から永続魔法「煉獄の虚夢」発動!1つ目の効果は、僕のレベル2以上の「インフェルノイド」のレベルは全て1となる。墓地の「インフェルノイド・アスタロス」2体、「インフェルノイド・ルキフグス」2体、「インフェルノイド・アドラメレク」、「インフェルノイド・ベルフェゴル」、「インフェルノイド・アシュメダイ」を除外することで、墓地から「インフェルノイド・ネヘモス」「インフェルノイド・アドラメレク」「インフェルノイド・ヴァエル」を特殊召喚!」

 

インフェルノイド・ネヘモス

レベル10 ATK3000

インフェルノイド・アドラメレク

レベル8 ATK2800

インフェルノイド・ヴァエル

レベル7 ATK2600

 

3体の煉獄の悪魔を前に、オベリスクフォースたちはようやくたじろぐ

 

「攻撃力2000以上のモンスターが4体だと…?!」

「墓地にカードを送ったのはこれが狙いか!」

(だが、俺の罠は攻撃モンスターを破壊する!破壊された瞬間が貴様の最後!)

「そして「煉獄の虚夢」のもう1つの効果!このカードを墓地に送り…手札・フィールドから素材を墓地に送り、「インフェルノイド」を融合召喚する!」

「……なに…?」

「相手にのみエクストラデッキから召喚されたモンスターがいれば、デッキから6体まで素材を墓地に送れる!場の「インフェルノイド・ネヘモス」「インフェルノイド・アドラメレク」「インフェルノイド・ヴァエル」、デッキの「インフェルノイド・リリス」「インフェルノイド・アドラメレク」「インフェルノイド・アシュメダイ」「インフェルノイド・ベルフェゴル」「インフェルノイド・アスタロス」「インフェルノイド・ルキフグス」の計9体で融合!!」

「な、なんだと?!」

 

驚愕するオベリスクフォースたち。デッキ融合に驚いたのではない、目の前の男が融合召喚を行ったことに、である

 

「バカな」「融合使いはすでに倒したはず」「どういうことだ」…焦りと困惑に満ちた声は、風斗には全く届かない

 

「罪を司りし創られた悪魔よ!その煉罪積み重ね、愚かな罪人を死で覆い尽くせ!」

 

暗い紫の、墓地に繋がる穴に8の炎が吸い込まれ……汚し尽くされた罪人を地獄に誘う悪魔がその巨躯を晒す。以前…暗斎の試験の時よりもより大きく恐怖を煽る雰囲気を放つ王は、その轟咆で大気を震わせた

 

「融合召喚!這い上がれ、レベル11!「インフェルノイド・ティエラ」!!」

 

インフェルノイド・ティエラ

レベル11 ATK3400

 

「なんだと…?!融合……召喚だと…?!」

「攻撃力、3400……」

「貴様!一体何者だ!?」

 

愚かな罪人は、身体と心の奥底から湧き上がる震えを必死に抑える。そして問う。自分たちを震え上がらせるほどのモンスターを、融合を使うお前は何者なのだと…

 

「融合召喚に成功した「ティエラ」の効果発動。この効果は、融合素材の種類に応じて召喚時効果の数が変動する。この召喚には8種類…3つの効果を発動!」

 

それでも、無視を決め込む僕。これから死にゆく運命の有象無象風情に答えてやる必要などない。しかし、何度も聞いたかのような質問だなぁ…

 

「1つ目、お互いのエクストラデッキのカードを3枚選んで墓地に送る。2つ目、お互いのデッキトップからカードを3枚墓地に送る。3つ目、お互い除外ゾーンのカードを3枚選んで墓地へ戻す。僕はエクストラデッキから「旧神ヌトス」を3枚墓地に送り、デッキトップを3枚墓地に送り、除外ゾーンの「アシュメダイ」「ベルフェゴル」「アドラメレク」を墓地に戻す」

 

デッキから墓地に送られたカードは……「インフェルノイド・ヴァエル」「煉獄の死徒」「ブレイクスルー・スキル」。今となっては、モンスターが墓地にいっただけマシか

 

「チッ……我々には除外されているカードがない。よって俺は「古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)」「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」とデッキから3枚を墓地に送る」

「俺も「双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)」と「参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)」と「究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)」とデッキの上のカードを3枚墓地に」

「俺も同じカードとデッキから3枚墓地に送る」

 

主軸のカードであるモンスターを墓地に…予備があるのと、「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」の召喚が目的だな。無駄なことを

 

「墓地に送られた3体の「旧神ヌトス」の効果!お前たちの残りのリバースカード3枚を対象に発動!対象のカードを全て破壊する!」

「なに!?」

 

その場にうっすらとだが出現する「旧神ヌトス」。女神たちは手に持った槍を奴らの伏せカードに向かって投擲し、直撃した裏側のカードは破壊された

 

「うおぉ…!」

「そして!「オーバーロード・フュージョン」を、発動!フィールド・墓地のモンスターを除外し、機械族融合モンスターを融合召喚する!僕の場の「サイバー・ドラゴン」1体と「インフェルノイド・ティエラ」1体、墓地の機械族となった14体の「インフェルノイド」と3体の「ヌトス」で……融合ォ!!」

「じゅ、19体での、融合モンスターだとぉ?!」

 

地から這い上がりし幾つも爛々と燃え上がる18の色の炎が、「サイバー・ドラゴン」の身に次々に侵食する。苦しみを表す機械音が耳をつんざき……機械竜は、変容する

 

「幾多もの首を持ちし機械竜よ!神と悪魔の炎をその身に宿し、怒りと殺意で全て滅ぼせ!」

 

太く、長いその黒ずんだ身体の先はゴツゴツとした球状にできており、穴のようなものが19つ確認できた。その閉じられた穴から……同じ形状の、しかしそれぞれ違う目の色をした竜の首が現れる

 

「融合召喚!!レベル9、全てを滅する炎!「キメラテック・オーバー・ドラゴン」ンッ!!」

 

己をも溶かしつくしかねない高熱を発しながらも、歪な進化を遂げた機械竜は……19の口から、怒りの咆哮を上げた

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK15200

 

「……ハ………?」

 

オベリスクフォースたちは、言葉を失った。今しがた自分たちの目の前に現れている化け物に、その異常な攻撃力に…唖然としていた

 

そこでオベリスクフォースたちは、ようやく風斗の服装に気づいた。フードを被ってはいないが黒いコート、顔を隠した姿……まさか…

 

「ま、まさか……まさか、こいつが本当のサウザンド・フェイス?!」

「攻撃力……15200…?な、なんだよ…それ……?」

「ふざけるな!なんだその攻撃力は!?ふざけるなァ!!」

 

己のバカな間違いにようやく気づく者、降り注がれる絶望に戦意を損失する者、理不尽すぎる力に怒りを撒き散らす者……三者三様であるが、それでも共通している感情はただ1つ

 

目の前の男に対する、ただならない畏怖だけであった

 

「「キメラテック・オーバー・ドラゴン」が融合召喚に成功した時、このカード以外の僕のフィールドカードを全て墓地に送る」

 

気がつけば、風斗の背後に建っていた荘厳な神殿も、性質を書き換える輪廻の輪も……全てが、高温でドロドロに溶けて消えていった。場に残るのは、力の何もかもを収束させた…強大すぎる悪魔宿す竜のみ

 

 

白星 風斗 LP2000 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK15200

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

オベリスクフォースB LP4000 手札 2枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

オベリスクフォースC LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)

レベル9 ATK2800

 

古代の破滅機械(アンティーク・ハルマゲドン・ギア)

 

 

 

 

 

 

「「キメラテック・オーバー・ドラゴン」は、元々の攻撃力が融合素材の数×800の数値となる。そして、素材の数だけ相手モンスターに攻撃できる」

 

告げられたその効果は、悪魔の宣告そのものだった。つまりそれは、10000以上のダメージを食らうという意味で……

 

怒りを通り越した、冷静で冷徹な殺意が場の空気を支配する。38の眼光が、獲物を視界に捉える

 

「バトル!「キメラテック・オーバー・ドラゴン」で「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」を攻撃!」

「ヒィッ!?」

「「エヴォリューション・レザルト・バースト」ォ!!」

 

風斗の攻撃宣言とともに、「キメラテック」はその口に光を溜め込みながら……19の熱線を1つに束ねて放出した

 

「グアァ………!」

 

究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)」とオベリスクフォースはその光の柱に飲み込まれ……一瞬で全てをかき消した

 

光が消えた後に残っていたのは……黒焦げになったデュエルディスクをつけたオベリスクフォースの亡骸だけだった

 

 

白星 風斗 LP2000 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK15200

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 0枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1800

オベリスクフォースB LP4000 手札 2枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

オベリスクフォースC LP 0 手札 0枚

 

 

「……お、おい…?」

 

味方がピクリとも動かない姿に、思わず声を掛けるオベリスクフォースの1人。おかしい、いつまで経ってもアカデミアに強制帰還されない。ディスクが今ので壊れたのか?……なら、何故いつまでも地に突っ伏している?

 

…まさか……

 

「「キメラテック・オーバー・ドラゴン」で「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」を攻撃ィ!「エヴォリューション・レザルト・バースト」!!」

 

考える間も無く、再び放射される破滅の光。先ほどよりも弱い威力であろうそれは、もう1人と3つ首の猟犬を覆い尽くし…

 

「ギャアアアァァァァァーーーーー!!」

 

ーーー聞こえてくる悲鳴と爆砕音が、己の抱いた疑問の答えだとオベリスクフォースの男は結論付けた

 

 

白星 風斗 LP2000 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK15200

VS

オベリスクフォースA LP 0 手札 0枚

オベリスクフォースB LP4000 手札 2枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

オベリスクフォースC LP 0 手札 0枚

 

 

そして死体と化した仲間の姿を見て……躊躇なく人を殺した人間に睨まれて、身も心も凍りついた気持ちになった

 

デュエルディスクの次元移動装置を起動させようとする。しかしデュエル中に次元移動することは、いくらなんでも無理なことであった

 

死の感覚が、一気の膨れ上がる

 

「うっ、うわあああぁぁぁぁぁーーーーー!!」

 

逃げる。プライドも何もかもを投げ出して逆方向に走り出した。しかし今まで感じたことのない恐怖でオベリスクフォースはまともに足が動かない

 

(あれは…ッあれは悪魔だ!人じゃない何かだ!人間じゃない!もっと恐ろしい……化け物だ!!)

 

…だが、たとえ無様に逃げようと……

 

「ーーーぅわぁぁぁ!」

 

それを見逃すほど、今の風斗は温かい人間ではなかった。気がつけばオベリスクフォースと彼の召喚した「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」は、「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の2つの頭の口に咥えられている。宙を浮く感覚を味わいながらも、1人と1体は必死に抵抗する

 

「逃げるなよ…1人たりとも生かす気はない……」

「止めろ!止めろォ!この人殺しがァ!クソ野郎が!」

 

制止の声と同時に思いつく限りの罵詈雑言を浴びせるオベリスクフォース。今の彼にはもはや何か打開策を考える程の余裕がなかった。…もっとも、見逃して貰えないと心では理解した上での行動なのかもしれないが

 

罵倒の嵐を浴びせる男に、風斗は軽く返す

 

「人殺し、ねぇ…。じゃあ聞くが、お前たちがやっている人間のカード化は人殺しに含まれないのか?」

「……ッ!?何言って……」

「まさか元に戻す手段があるかもしれないから…なんて曖昧な理由じゃあるまいな?」

 

言葉に詰まった。自分が言いたいことを先に言われてしまい、新しい言い訳をつい考え込んでしまう。風斗は続ける

 

「お前たちがしたことは戦争でも無ければ狩りでもない、ただの虐殺だ。どういう教育を受けてきたのか知らんが、お前たちはすでに殺戮者なんだよ」

「……そんな!そんなことが…!俺たちの任務は、全ての人間の理想郷を作り上げる為の……」

「違わなくない。僕がしたことが殺人なら、お前たちも殺人者だ」

「…………」

 

信じたくなかった。今でもプロフェッサーの言葉は正しいと信じているし、自分たちがしたのも次元統一という崇高な目的を果たす聖戦だと思ってる。……だが…

 

「俺は……俺たちは……間違っていたのか…?」

 

 

 

ポタリ……

 

「キメラテック」が口に力を込めようとした時、生暖かい何かがその機械の身体に零れ落ちる

 

一雫が、繋がって幾つもの曲がったラインを作りながら「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の顎を伝って、地面を濡らした。水は、止めなく溢れてくる

 

「俺は……人を殺していたのか…?……今まで……?」

 

オベリスクフォースの男は、涙を流していた。風斗はとても信じられない光景だった。何があってもプロフェッサーの命令と正当化するような奴らが、自分の言葉で泣くなど思ってもいなかったのである

 

この男は、オベリスクフォースでも特に赤馬零王の思想と目的を信じていた男であった。感受性が豊かなことが幸にも不幸にも、彼のデュエルの腕を強くし多くの人間をカードにしてきたのである。そして、アカデミアは閉鎖的な戦士の養成所であり……人間性を忘れさせるにはうってつけの場所であろう

 

「…………」

「俺は…俺はァ…!…間違って……!?」

 

目と鼻と口から様々な液体を垂らす姿は情けないこと極まりなかった。声を震わせながら後悔を吐き出す姿を見れば、アカデミアの人間は全員が彼を見限るだろう

 

だけど、その姿が、頭によぎって…

 

「…どっちにしろお前は、暗斎を…僕の弟子を殺した。慈悲はない」

(そうだ、僕にとって預かった命を奪われた憎い敵!エクシーズ次元の……全ての次元の敵で…!)

「ッ!!…弟子…?……サウザンド、フェイスのか…?」

 

再び、力を込める。パキッと不可解な音がなりオベリスクフォースの身体が締め付けられ、後ろの「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」も火花を散らす

 

「……ッ……」

「…?」

 

更に力を込める。骨は軋み始め、機械猟犬は身体の半分が潰れる

 

「………サイ……ゴメン、ナサイ……」

「ッ!」

 

それでも、蚊の鳴き声よりも小さな呟きは……風斗の耳に届いた。自分の心に従った、彼の初めての懺悔を

 

(止めろ…!)

「ゴメンナサイ……」

(止めろ!止めろ!いくら涙の流したって…!)

 

風斗の中の、強い葛藤。何が何でも殺したい強い意志と殺さない方が都合がいいと理解している己の理性。2つの背反する感情は、風斗の決断力を多く奪っていき……

 

「ゴメンナサイィ………!」

 

 

 

 

 

『ゴメン………ッ!』

 

自分を、幻視させた

 

彼の中の、何かが弾けた

 

 

 

「キメラテック」は、その顎で咥えているものを容赦なく噛み砕いた

 

バキャァ!

 

……それだけで、「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」は強く爆散し、機械の破片を撒き散らし消えていった。そして…

 

ドサッ…

 

「ウグゥ……」

 

咥えられていたオベリスクフォースは、したたかに地面に身体を叩きつけた。呻いているものの、命に別状はない様子だった

 

…風斗は、殺すのを止めたのだ。すでに2人も殺していて、躊躇など消え去ったはずなのに……自分を幻視した瞬間、湧き上がった怒りも冷たい殺意も……萎えてどこかに飛んでいってしまった

 

彼が見逃した理由はなんなのだろうか?殺す気をなくした?生かす理由ができた?…それとも重ねた自分は殺せなかったのか?それは彼自身も分からないだろう

 

だが、たとえ認識の違いでいがみ合い、人を虫のように扱えるようなことができても……本来の白星風斗は、優しい人間なのだ

 

 

 

白星 風斗 LP2000 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK15200

VS

オベリスクフォースA LP 0 手札 0枚

オベリスクフォースB LP 0 手札 2枚

オベリスクフォースC LP 0 手札 0枚

 

 

 

 

 

「…とことん僕も、お人好しすぎるな……」

 

目の前でぶっ倒れているオベリスクフォースを見下ろして、僕はそんなことを呟いた。そいつは仮面の下で涙を流しながら、小さく嗚咽を漏らしていた。そいつの腕についてるデュエルディスクは「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の攻撃の際なのかは覚えてないが、液晶画面が割れていた

 

ふと周りを見渡す。あるのは2つの死体……この世界で…前の世界も含めての、初めての殺人の証拠であった。死体のデュエルディスクを確認する。1つは少なくとも表面は黒焦げに見えて、中までダメージを受けてる可能性が高いだろう。もう1つは…意図して手加減したのもあって、1番修復が容易なやつだと判断した。もしかしたら直す必要もないかもしれない

 

「……とうとう、殺っちまったなぁ〜……これで僕も犯罪者の一員か…」

 

正直軽いやつだと思われても仕方ないだろう。他人から見れば心がないとまで言われるかもしれない。当然だ、人を殺してここまで平常運転なやつを見たら僕でも異常者だと思う。とどのつまり僕は異常者ということだ

 

だが、何も全然心に来てないわけではない。別に後悔なんてものはしてないし、だからと言って必要なことだった…なんて割り切れているわけでもない。…けど……

 

「……結構気分が悪くなるなぁ…次からは気をつけて手を抜かないとな……」

 

僕の殺人に対する認識に、【かなり後味が悪くなる】が追加された

 

後ろを振り向く。視線の先には、コンクリートの上に安置した暗斎の…亡骸があった。足取りが、とても重くなる

 

………ん?

 

「あれ……?」

 

痛烈な違和感

 

さっき僕は、暗斎をそのまま横に寝かせたはずだ。記憶を探ってみても間違いはないし、デュエル中とはいえ誰かが近づいた気配もなかったはず。なら……何故、顔がこちらを向いている?

 

「もしかして…まさかそんな!」

 

早足で暗斎に近づき、確認する。我ながら都合のいい妄想だと思ったし、そんなことはない、現実は非常だ…と冷静な自分は語りかけていた

 

だけど、不思議と僕の心には確信があった。理屈も何もない、直感だけに頼った確信

 

「暗斎!」

「…し……しょ、う……?」

「暗斎!!」

 

若干視線がぶれているし声も途切れ途切れだが、反応してくれた。近くに座り込んで顔に手を軽くかぶせる、息はしてある。脈を確認する、ドクドクなっている。左胸に手を当てる……少し不安定だが、心臓はしっかり動いている

 

「生きていたのか……」

 

心の底から安堵する。弟子の生存に安心したのか、思わずへたり込んでしまった。しかし何で生きているんだ…?確かに最初に確認した時は息もしてなくて、心臓も止まっていたのに

 

「仮死状態って奴か…?考えても分からんな……」

 

…とりあえず、生きていただけ良しとしよう……だけど、容態は心配だからレジスタンス基地には戻ろう。仮死状態になったのだとしたら、衰弱する危険もある

 

「オイ、聞こえてるか?聞こえてるなら呼吸を整えとけ。これからお前を運ぶから」

 

そういうと、小さく…弱く頷いてみせる暗斎。よし……

 

すぐにその場から離れて、オベリスクフォースの死体からデュエルディスクを回収する。まだ使用できそうなやつもあるし、ディスクが焦げ付いてなお無傷なデッキに手を出すのはさすがに気が引けたが……捨てるのも、あれだよな…。デッキとデュエルディスクを2つずつカバンにしまって……

 

もう1人、倒れている人間を見やる。そいつに近づき、手を伸ばした……

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当に僕って……極度のお人好しだなぁ……治せねぇのかなぁコレ……」

 

思えば断れないというか、変なところで助けてしまう性格ってどうなんだろうか?この世界で最初に瑠璃…とは気付けなかったから知らない人間を危険を冒してまで助けたし、そのあとも結局助けたし、ギブアンドテイクとはいえレジスタンスに加入したし、暗斎の弟子の件も断れたのに認めちゃったし……自覚はできてるのが何より恐ろしいな。面倒くさいから別段直そうとも思わないし……

 

そう思いながら()()()()()()()()()()()()()()()()、前で暗斎を抱き抱えながら歩いている最中。2人は重いか……

 

「……あの……師匠…」

 

だいぶ意識は回復してきたのか、暗斎はゆったりとだが話しかけてくる。流石決闘者(デュエリスト)といったところか…

 

「うん?なんだ?」

「なんで…その、アカデミアの人間を助けたんですか…?……俺たちの敵ですよ…?ましてや、師匠の命を……」

 

待っていたのは当然の疑問。僕の命ってところは意味が分からん…だけどおあいにく、質問の答えはすでに用意してある

 

「尋問するからな」

「尋…問……?」

「今はアカデミアの情報を多く知りたいからな……瑠璃のこともある。その為にもこいつを捕虜にしようと思った次第だ」

「でも……もし、暴れたりしたら……」

「ディスクは取り上げる……つーか、多分解析に使うと思うから、少なくともお前が心配するような事態には嫌でもならないだろうな。リアリストだろうと多勢に無勢だし。……それに…」

「…………?」

「……こいつは、もうアカデミアの為には戦えんだろ」

 

何故、と。腕の中にいる弟子は疑問の目をこちらに向けてくる

 

「……アカデミアのやってることが、人殺しの延長線上だって言ったんだよ。そしたら、泣きながら謝ったんだよ。ゴメンナサイって……」

「…………」

「信じられないだろうな。本当だとしても、今更ってのが本音だろう……けどな、泣いたんだよ。惨めったらしく、色んな液体撒き散らしながら、謝っていたんだよ」

 

アカデミアのやっていることは、到底許されるものではない……笑って虐殺をしているも同然なのだ。惨たらしく苦しんで死んだとしても、当然の報いだと踏みつけられるだけだろう

 

だが、殺人が許されないというならば、僕も同じこと。きっと奴らも相応の報復をした上で、殺そうとするだろう。死にたくはないから返り討ちにはするが

 

……結局何が言いたいって、僕はもうアカデミアを非難する権利などどこにも持ち合わせていないということだ。お天道様の下で指を指すんじゃなくて、日陰の裏路地で陰口を叩く。罪人にはお似合いの姿といえよう。例え本当に暗斎が死んでいようと、敵討ちなのだろうと僕は殺すべきじゃなかった

 

けど僕はそれをしなかった。できなかった、ではなくしなかっただ。僕は怒りに身を任せ、人の一生を終わらせたのだ。その報いは、いつか、きっと……

 

「僕には、本気で悔いているやつを責めることなんてできない」

 

出来るわけが、ない

 

それをすれば、今までの僕の悩み抜いた決断も、葛藤も、すべて意味をなくす。そんなことだけはしたくなかった

 

「………師匠……」

「……それよりも、なんでお前は1人で戦っていた?」

 

痛いところを突かれたのか、俯いて口を紡ぐ。…ハァ……

 

「…なんの理由があったのかは特に聞かん。聞いたって解決出来るかは分かんねぇし、きっとなんか大事なことだったんじゃねえのか?僕には分からんが」

「…それは……」

「けどな、頼むから無茶だけはするな。自分勝手な理由だが、親御さんからお前を預かっている以上絶対死なせるわけにはいかねえし、忠告を聞かなかったからハイ監禁…じゃ、なんの為にお前にデュエルを教えたのか分からん。…分かったか?」

「……ハイ……」

ベネ(よし)

 

……そうこう言っているうちに、難民キャンプに近づいたようである。前から誰かが走ってきている。アレは……

 

「風斗!その怪我はどうしたんだ!?それに、背負っている奴は……」

「ユート、説明は後でする。とりあえず暗斎を医務室に…1度だけ呼吸が止まったから、念入りに頼む……」

「呼吸が…!?分かった!お前もすぐに医務室に……風斗?」

「…あと……こいつは…捕虜だ……なにか、優良な情報を持っている……かも知れんから、適当…な……とこ…ろ、に……」

 

あぁ、ヤバい。流石にもう限界……

 

せめて暗斎だけでも…とユートに弟子を託すと、目の前から聞こえる声の中、僕の意識は真っ暗闇に閉ざされた

 

 

 

 

 

 

 

「……ん………」

 

瞼を閉じていても感じる光に、堪らず目を開ける。視界の先の広がるのは、彼方向こうまで広がる白い空間…ここには、1度だけ来た

 

「…目覚めたか……」

 

後ろから響き渡る声。その声は、ごく最近に聞いたことのある……よく思い出せば、2ヶ月ほど前にも聞いたことのある声だった。振り向いて、そいつに語りかける

 

「なーんでまたここにいるのかねー僕は?つーかここはどこ?」

 

そこには、初めてレジスタンスに連れてこられた日にこの空で会った全身白タイツマンであった。目と口が雑に描かれた見た目である

 

「ここにいる理由は、貴様が本能と理性を分かつことに成功したから。ここは、いわゆる貴様自身の精神の部屋のようなもの…」

「…いまいち信じらんないけど今は置いとくか。じゃもう1つ…テメェ何者だ?」

 

本能と理性がどうこうは訳が分からんが、ここが僕の精神の中的なのはまぁ分かった。要するに僕の脳内妄想空間と言ったところか……字面が殆どあってるだろうだけに他人に指摘された時が怖い

 

とにかく指を突きつけながらタイツマンに問いかける。…少しの沈黙……口が、開かれる

 

「…我は、貴様の理性といったところか……」

「……ハァ?」

 

理性?こいつが?僕の?

 

「なに言ってんのお前?」

「…混乱の極みなのは理解している。だが、そうとしか答えようがない」

「……えーと、お前が理性?僕の?…じゃあ僕はなんだ…?」

「本能、といったところだ」

 

何故そこだけ確定してんだ我が理性(仮)

 

「貴様は、この世界に来てから強い感情の波によく生み出すようになった。キッカケは、黒咲とのデュエルの時…だな」

「オイ止めろ。なんだって人のトラウマを掘り返す」

 

よりにもよってあの取り乱しっぷりを思い出させられるのは……たまったもんじゃない…

 

「それだ」

「あん?なにが?」

「貴様は今、感情をすぐ表に出した。それがお前が本能たる理由。感情を抑えられるのが、理性の役目だからだ」

「…あーーーそういう?なんとなくだが理解した」

 

なるほど納得。ようはこいつは、僕の冷静な心というやつなのだろう。僕は冷静にものを考えることができるものの、殆どが直感任せな…特に考えないで行動を実行に移すタイプである。こいつはそういうのとは真逆の存在、といったところであろう。信じ難いが知略タイプの僕というやつだ

 

「それで、結局何の用なの?面倒くさいから早めにね」

「…話し合いも兼ねて、貴様に忠告に来た」

「忠告?」

「…もう少し己の本能に身を任せろ。貴様は、何の為にアカデミアと戦っている?」

 

本能に身を任せろ?…最初のは意味が分からんが……

 

「僕の理性を名乗る奴がなんでそんなことを聞くの?瑠璃を助けるために決まってんだろ?」

「…違う」

「違わない」

「違う」

「違わねえっつうの!…じゃあアカデミアを倒して平和な世界にするため!これはマジだ!」

「違う」

「違わねえっつってんだろうがいい加減にしろ!」

 

腹が立ってきた。どうして僕は自分の分身と名乗っているやつと意見が食い違っているんだ!?訳が分からん!

 

「…それは(理性)の理由。貴様は、もっと単純で純粋な理由だ」

「何が単純で純粋な、だ!メチャクチャなことほざいてんじゃねえよ!」

「…これ以上は無駄だな……」

 

その言葉と同時に身体に訪れる浮遊感。そしてタイツマンは上にいる……デジャビュを感じながらも、怒りをぶつけられずにはいられなかった

 

「ホンット何なんだテメェーーー…………」

 

テメェーーー…………テメェーーー……………

 

 

 

 

 

「……時間を掛ければ、思い出すかねぇ…」

 

口調が変わる。直後、男の頬からドットのようなものが徐々に全身に被さっていき……モザイクのようなそれは、剥がれだした

 

すると、男の姿は変わっていた。フードの付いた真っ白なコート、白いネックウォーマーで口元を隠し、白いカバンを肩にかけている。普通な髪型、普通な顔…だが、その色は白で染まっていた。髪色、服装、カバン、何から何まで白づくしだったが……その姿は、知る者が見れば誰もが驚くだろう。何故なら……

 

男の容姿は…先ほどの白星風斗と、対色的な外見を除けばあまりにも瓜二つだったのだから

 

「頑張れよ、直感系決闘者(デュエリスト)。ワクワクを、思い出すんだ」




はい、というわけでとうとうやらかしちゃった主人公です。これからもこの罪に苛まれながらも生きていけるのか…ちょっと不安になってきました……

あと今回はTFから「輪廻独断」というカードが出ました。効果は墓地対象の「DNA改造手術」といったカードですね。OCGだけが好みの方はごめんなさい

さて、ラストに盛大な設定を持ってきましたが、次かその次ですぐ回収するつもりなので深く考える必要はないです。ただ少し無理矢理な理屈は出しますかね…説明できない場合はすみません、出来るだけ頑張ってみます

さて、次回は一体誰が出るんでしょうね〜…?

????「う〜……」

それではまた次回!お楽しみは、これまでだ!
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