面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語 作:ジャギィ
それでは仮面な彼の第14話ドーゾ!
太陽が真昼間から傾き始めた時間帯、スタンダード次元の舞網市。その町の河原近くにある建物…遊勝塾
質量を持った
そのアクションデュエルで注目を浴びた
「このォ……バカ遊矢アァッ!!」
「アッダァッ!?」
…そして、デュエルを師事する教育機関…デュエル塾。その1つであり、エンタメデュエルを学ぶ遊勝塾…現在は事情があって、人気の少ないこの塾で、少年の頭に同じ年頃の少女のハリセンが炸裂した。強烈なツッコミが放たれるこの光景は、この遊勝塾では日常茶飯事であった
「イッタタ……そんな思いっきり叩くことないだろ柚子!」
「何言ってんのよ!あんたがモンスターに乗って変な動きするから、
「う……それは、悪かったけど…」
バツの悪そうに顔を逸らす、首に青いクリスタルのペンデュラムをかけた、赤と緑の髪色をしたトマトにも見えるヘアースタイルの少年…
何故遊矢がハリセンをもって制裁されているのかといえば、彼のデュエル中に起こしたおふざけの結果、モンスターの突撃により
しかしハリセンの柄を強く握り締める様子から、彼女の怒りが収まってないことが窺えた。白目を剥きながら左手で壊れた装置を指差し、柚子は遊矢にまくし立てた。萎びたトマトのように遊矢はシュンと俯き、右手に持ったハリセン片手に憤慨する柚子……普段の2人の力関係が垣間見えた状況であった
だが、そんな彼女の肩に手を置き、止めさせようとする勇者がこの場にいた。…いや、彼にとってこの行動は己の信念に基づいたものであり、同時に友を助けようという優しい心が起こしたものなのである。さらに言うならば、日常茶飯事と化したこの光景を止めているのも殆どこの男…だからこそ、彼が喧嘩(一方的)の仲裁に入ることは別段珍しいものではなかった
「権現坂……」
「柚子、お前の気持ちはよく分かる。だが遊矢も悪かったと思っているのだ、許してやってくれんか?」
白ランに鉄下駄、リーゼントに赤いハチマキと、
「遊矢、お前ももう少し考えてから行動するべきだ。今回は何事もなかったが、下手をすればお前は大怪我を負うところだったのだぞ」
「う…ゴメン、権現坂」
そして遊矢にしっかり注意を促す。真に友達を大切に思うからこその行動であり、権現坂らしい理由であった
「お父さん、
柚子が振り向き、機械を忙しなくいじる男に話しかける。少し錆びの目立つ工具を片手に、手の甲で汗を拭う父と呼ばれた…
「ダメだ。今まで自力でなんとか修理してきたが……今回ばかりは俺1人では直せそうにない」
「「えぇーーー!!」」
遊矢と柚子、2人の声が綺麗にハモる。当然の反応であろう。遊勝塾はアクションデュエルを通して、エンタメデュエルを学ぶための場所……その肝心のアクションデュエルができないなど、野菜のない八百屋同然…はっきり言って詐欺である。そうなればより人は来なくなり、ただでさえ厳しいこの塾の存続が更に危ういものとなる
乱雑に床に置かれた、炎をイメージさせる体育着のような上着のジャージを手に取る。いつものようにそれを羽織り、柊修造は眉間のシワを濃くした
「柚子の親父殿、1人では…と言ったが、他に誰かいれば直せるのか?」
「あぁ……けど、それでも専門の知識を持った人じゃないとダメだからな。下手に素人がいじったらどうなるか……うおーー!俺が不甲斐ないばっかりにー!!すまんー!」
「お父さん落ち着いて!」
己の頼りなさに号泣する父と、それをなだめる娘。なんとも立場の逆転した構図であった
『ただいまー!』
そこに呼び水をかけるように、快活な子供の声が聞こえてきた。デュエルフィールドに入り込んできたのは、遊勝塾で数少ない塾生。その手にはお菓子が幾つか入ったビニール袋があり、どうやら買い物から帰ってきた様子のようだ
小学生の2人……黄髪で太っちょな男子…原田フトシと、外っ側にはねた赤髪とバンダナがトレードマークの女子…鮎川アユは、泣き止んだ修造に話しかけた
「塾長〜お客さんだよ」
「…ん?お客さん?」
「さっき黒いコートを着たお姉ちゃんが、遊勝塾を知らないかって俺たちに聞いてきたんだよ。それで案内して、今塾の入り口で……」
ギラリと、柊修造の目が輝く。わざわざ聞き込みをしてまでこの塾に入ろうとするほど、世間の評価は優しくはなかった。だと言うのにそこまで塾を探そうとする理由は……!
そして、今現在ピンチに陥りかけていた状況が…塾長としての責任感が、彼の思考力を鈍らせた。そもそも遊勝塾のこと自体を知らなかったとか、大事なことを頭の中からすっぽかして
「それは本当か!?このタイミングで新しい入塾希望者…このチャンスは逃さない!うおーー熱血だああぁぁーー!!」
話半分しか聞いていない修造は、誤解を抱えたまま走り去っていった。少女が待っているという入り口に
「待っている……って、行っちゃった……」
「ちょっとお父さん?!まだ入塾希望者って決まったわけじゃないでしょー!」
ハリセン片手にすぐに暴走した父親を追いかける柚子。今の2人の姿は、親子らしく似通っていた。非常にストロングだった
「…でも、変なお姉ちゃんだったね、フトシくん」
「変なお姉ちゃん?」
遊矢の素朴な疑問を、アユは顔を向けながら答える
「えっとね、きっと遊矢お兄ちゃんたちと同い年くらいのお姉ちゃんだったんだけど……全部真っ黒なぶかぶかの服を着てて、顔もフードで隠してたんだよ」
すでに修造はコートのフードを深く被り顔を隠した女の子のもとに辿り着いていた。彼女の右手を両手で握りながら、年甲斐もなく喜んでいた。入塾してくれる人がいた事実がそれほど嬉しかったらしい
「おぉ!君が入塾希望の子だね?ようこそ遊勝塾へ!歓迎するよ!」
「きゃ……えっと…その……」
困惑するフードの少女……黒咲瑠璃。突然現れたかと思うと、大人の男の人に暑苦しい笑顔で歓迎されたのだから誰だって混乱はする。少女が知る人間とはまたタイプの違う変わった人に少し驚いたが、彼女がここに来た本来の目的を語る
「あの……私、ある人に…遊勝塾の柊修造って人に、これを渡しに…会いに行けって……柊、修造さんは…いますか……?」
「む……入塾希望者じゃなかったのか……これは失礼!私がこの塾の塾長を務めております、柊修造ですが……これは?」
おずおずと渡された手紙のようなメモ用紙と3枚のカードに眉をひそめる修造。ふと何のカードかを見てみると…目を疑った
「えっ…?」
渡されたカードの絵柄。それは
遥か昔、デュエルモンスターズ創世記の遊戯王が使ったと言われている…伝説のカード
「「ブラック・マジシャン」……?!」
そう、この世界では名があげられていない伝説のデュエリスト……武藤遊戯。かの者が切り札として使用した、今や誰も見たことがない最高級のレアカード「ブラック・マジシャン」であった。これ1枚売るだけで、豪邸を建ててもあまり余る財産が残る……それほどに稀少性の高いカードなのである
そしてその「ブラック・マジシャン」と同じくらい…いや、場合によってはそちらの方が認知度も価値も高い「ブラック・マジシャン」唯一の弟子のカード……「ブラック・マジシャン・ガール」。最強のアイドルカードたるこのカード…コレクターに見せれば、喜んで全財産を全て渡す人もいるだろう。……いるのだ、そういう人間も
最後に残ったのも「ブラック・マジシャン」等ほどにはないとしても、充分伝説たり得るモンスター「カオス・ソルジャー–開闢の使者–」。ステータス・効果も極まって、この世界では強者の部類に間違いなく立つヒエラルキーの頂点の1つ
「こ、このカードは…一体……?」
次にこんがらがった考えになるのは修造の番であった。何故入手はおろか、存在すら危うい超レアカードたる「ブラック・マジシャン」を持っているのか、そんなカードを何故自分に渡すのか、そもそも君は何者なのか……
今更な疑問も含めて、全てが思考の海に波となって打ち寄せる。今の彼は、まさに打ち上げられた魚状態である。脳が酸素を欲しているのだ、普段の熱血が発揮できずにいる
そこで自分の手には、もう1枚のカードとは違う紙があることを思い出した。もしかしたら、この手紙に理由足り得る情報が書かれているかもしれない。一抹の望みをかけてメモの文字に目を通し……
「………これは……」
頭が急激に冷えた。脳細胞に液体窒素でも送り込まれたかのようである。柊修造は、大人本来の冷静さでそこに書かれた切実な願いを、脳内で
『柊修造様へ
この手紙を読んでいるということは、瑠璃は遊勝塾に無事たどり着いたのでしょう。あなた方の塾の状況を理解した上で、1つの頼みがあります
この手紙を渡した日の日が暮れる前には彼女を迎えに行きます。しかし…万が一、億が一にでも来なかった場合は、彼女を預かっていてください。いつかは分かりませんが、彼女の家族が必ず迎えに現れます。あなたに渡したカードも、売るなりなんなり自由に使ってください
その代わりに彼女を…瑠璃を、どうかよろしくお願いします』
…訳が分からない…と言うのが、脳をフル回転させて出した修造の結論だった
突如預かってくれと頼まれた瑠璃という?少女、共に渡された伝説のカード……このような怪しさ満点で問題が抱えまくってそうな人間など、冷やかしと思って無視するのが1番と思った。実際遊勝塾は、この手の嫌がらせも多数受けていたのだから
……しかし……
(もしそうだとしたら、このようなカードまで用意するか?)
今までと同じ手口ならば、カードを同封してきても破られたカードだったり使えないカードだったり……。もちろんこのカードが偽物という可能性もあり得る……が
何かに怯えている彼女と、書き殴ったような文字の必死さが……手紙の内容が嘘である可能性を大きく激減させた。修造は、話を聞くくらいなら…という考えが浮上したのだった
「…とりあえず、上がりなさい。えっと…瑠璃ちゃん、でいいのかな?」
「は、はい……」
「……ん?」
応接室にでも上がらせよう。そう思って彼女に呼びかけて、瑠璃が遊勝塾に入り込み……そこで、ずれたコートの袖からキラリと光る白銀の装飾品。修造には見覚えがあった。彼が大切にして止まない、娘にもつけられていたブレスレット…それと、そっくり
「そのブレスレット……」
「お父さん!まだお客さんなだけで、入塾者って決まったわけじゃないのよ!」
遅れて、娘の柚子がやってきた。彼女はいかにも「頭に来てます!」といった形相で、ハリセンを今にも振り下ろしかねない雰囲気だった。このままではツッコミの一撃を貰いかねない!…と、修造は脂汗を流しながらも身体ごと柚子に振り向く。身体の軸がずれたことにより、瑠璃の視線上に柚子の顔が……映った
「ッ?!私……?!」
「…え?」
深く被った、フードを外す。見間違いかもしれない。ひょっとすれば、ただの目の錯覚なのかもしれない。服装も違うし、髪型も色も違う……しっかり見る必要が、瑠璃にはあった
しかし、視界を遮るものを取っても結果は同じ。瑠璃の目に映るのは……同じく瑠璃の顔を見て、驚愕に顔を染める柚子と修造の2人
「見間違いじゃ、ない……?」
「わ、私と、同じ顔……?」
「ゆっ柚子が…ふ、2人ィ!?」
娘と同じ顔の少女に、父親は絶叫を上げる。…そんな塾長の絶叫を聞きつけて、遊矢と権現坂が現れるのだが……
「何があったんだ!?急に大声で叫んで…って、えぇッ?!」
「ユート?!どうしてここに…?」
「どうした遊矢ァ!一体何が……な、柚子が2人いる!?」
…誤解が誤解を呼び、状況はさらに複雑かつややこしくなるのだった
今アカデミアは、一種の恐慌状態に陥っていた
アカデミアにとって、恐怖の代名詞にして最強最悪の敵…サウザンド・フェイス。千の顔を持つ
サウザンド・フェイスによって起こった事態は、監禁していた重要人物の脱走…そして今尚も、アカデミアのデュエル戦士たちを蹂躙し暴れ回っている現状であった。怒号を撒き散らしながら、赤と黄と青が城内を駆け回る
「クソ!どこに隠れた!?」
「報告によると、今のサウザンド・フェイスはいつもの黒い服装ではないらしい!それ以外の怪しい服装の奴がいたら、場所と分かりやすい特徴を教えろ!」
「お前はそっちを探せ!俺はこっちを回る!」
まるで蜂の巣でも突かれたような騒ぎ。普段はエリートと半端者と落ちこぼれという肩書きの元に、アカデミアでは差別のようなことが横行していた
しかし、たった1人で融合次元に乗り込んできたバカとしか言いようがない
(実に皮肉が効いてるな、ザマァミロ)
綺麗に気配を消して柱の陰に隠れながら、風斗は邪悪にほくそ笑んだ。右往左往して自分を探し回っている連中に、頭の悪い奴らだと心の中でコケにしながら、姿勢を低くして移動を再開した。彼は敵と判断したものをとことん見下せる人間なのである
ちなみにバレットのあとに戦った1人のアカデミア兵以降は、4・5回も交戦……どころか出会ってすらいない。送り込む戦力に限度のあるエクシーズ次元の戦場はともかく、ここは
(どれがあのオベリスクフォースなのか分かんねぇよ!どいつもこいつも似たような声しやがって…!)
前言撤回。白星風斗、彼は間違いなくバカな人間であった
(あぁもうダメだ
そんなことを考えながら窓から城壁に移動し、ヤモリのようにゆっくりと降りていった
…ここまでの状況に至ってなお「オベリスクフォースのことを忘れてスタンダード次元に行く」という考えが思い浮かばないのは……それを思い浮かべれないほどバカだからか、はたまた単に見捨てられないだけなのか……
真相は、風斗自身にも分からない
ただひたすらに広い荘厳な空間。混乱の叫びが飛び交う外の音など一切を遮断する、不気味なほど静かな玉座の間。そこに座るは、頭部に機械のパーツを埋め込ませたスキンヘッドの男…赤馬零王。計画が妨害されてもやけに冷静なこの指導者に……仮面の男が、1人近寄る
「プロフェッサー、帰還が遅くなり大変申し訳御座いません」
仮面の男は、オベリスクフォース……風斗らエクシーズ次元の人間と面識のある、捕虜だった男である。彼は跪き
「消息を絶ったというオベリスクフォースか……他に同行していた者はどうした?」
その問いかけに、彼は息が詰まる。同行していた者…というのは、今は骨となり、エクシーズ次元の大地に眠っているあの2人のことであろう
戦場では死がつき纏う。同じことをしたのだから自業自得とはいえ……自分たちは、今外で騒ぎの中心となっている男の、その逆鱗の1つに触れたのだ。自分が生還しているのは、本当にただ運が良かっただけ……本来ならば、3人仲良く土に埋もれていた可能性の方が遥かに高かったのだから
風斗がせめてもの弔いにと埋葬したあの2人は、もうこの世にはいない。だからここでプロフェッサーに、サウザンド・フェイス…白星風斗という人間によって、あの2人を殺されたことを伝えなければならない
だが何故だ?何故口を閉ざす?何故声に出さない?何故……喋った場合あの男に起こる状況を……
(俺は考えている…?俺は……あいつが、消えていなくなることを恐れているのか?何故…?)
彼は今、一種の迷いの中にいる
欺瞞に満ちたアカデミアの美しい理想を信じるべきか、ツラくても楽しいデュエルが出来た…風斗の教えてくれた汚れた現実を取るべきか
無言なまま場違いな悩みを脳内で交錯させていると、その沈黙を赤馬零王は答えれないと判断したのか……
「……まぁいい、それよりも新たな任務を与える。…先ほど黒咲瑠璃が、ある人間の手引きによってこの融合次元から逃げ出した」
「ッ…!」
(あいつ…本当に助けたのか……!?)
確かにここまで風斗を連れてきたり、次元跳躍の方法を教えたりと様々な手伝いはした。…だが、それでも1人で瑠璃を探し出し救出するなど、地理も土地勘も知らないならば不可能なのだ
しかし、あの男は本当に成し遂げた。プロフェッサーの警戒を掻い潜り、致命的な計画の遅れを作り出した。改めて凄まじい奴だと、彼の中で風斗の強さを再認識した
「その手引きをしたのは、オベリスクフォースの報告にも上がっている…サウザンド・フェイスだ。奴はまだアカデミアの城内に潜伏している……何としても探し出し、黒咲瑠璃の居場所を聞き出し捕らえるのだ」
そして命令を受けた彼は……跪いたまま、動かない
「……どうした、早く行け」
そんな状態の彼を見ても赤馬零王は態度を特に変化しない。機械のように繰り返す、アカデミア兵を動かす言葉。サウザンド・フェイス抹殺の命令
「……プロフェッサー…不躾ながら、聞きたいことがあります」
「聞きたいこと、だと?」
「プロフェッサーの次元統一という目的……その理由は何なのですか?」
顔を上げ、固く閉じられたその口から出たのは、己の未来を左右するであろう言葉を切り出す
相手の顔は、能面のように固まっている。しかしそれは、決して動揺しているからではない。重苦しい雰囲気がそれを伝えていた
「…お前たちに、それを知る必要はない」
「プロフェッサー!自分は知りたいのです!エクシーズ次元を侵略してまで達成しようとする、次元統一の目的を!」
レジスタンスのリーダーは、こんな俺に許してもらえる方法を教えてくれた。レジスタンスの皆は、憎むべき俺に何も酷いことをしなかった
そして…白星風斗。あいつのおかげで、俺は自分の過ちに気付くことができた……デュエルが、本当は楽しいものなのだと……
だからこそ知りたい。あの冷たい部屋で行われた温かいやり取りがデュエルの本質なら、アカデミアのデュエルが…戦いなのか殺戮なのか
「プロフェッサー……!」
孤島で閉ざされた城の中で取り戻した、本当の自分の心。仮面越しの熱い視線が、赤馬零王に突き刺さる
「………なるほど……」
その訴えは、玉座に座す者の心を動かしたのだろうか?こちらを見下ろす赤馬零王は、その口を開き……
「…どうやら、余計なことを学んできたらしい……」
「プロフェッサー…?」
ふと、気配を感じ取る。後ろを振り向くと、そこに居たのは自分と同じ姿をした……元同胞の3人。列に並んだオベリスクフォースはデュエルディスクを起動させる。 3人の口元の笑みが、これから起こる自分の末路を想像させた
「この裏切り者を始末しろ」
「了解」
裏切り者、そのワードを示すのは一体誰なのか。考える間も無くそれを理解し…してしまい、反射的に玉座に振り返る
「プロフェッサー!?」
「お前は疑問を抱きすぎた……戦えない者は、この融合次元には必要ない」
オベリスクフォースの彼の言葉は、アカデミアの指導者には届かなかった。その傍若無人な返答をする赤馬零王が、彼には魔王に見えて仕方なかった
そしてその後ろに陣取る、連なる悪魔の手先
「随分愚かな奴もいたものだな」
「アカデミアに1人で刃向かう奴と、アカデミアを裏切る奴……力の差が理解できないのだろう」
「この、オベリスクフォースの誇りを捨てた恥さらしめが!覚悟しろ!」
「クソッ……」
見下す者、嘲笑する者、憤激する者…それぞれが違う感情を吐き出す
自分のデュエルディスクも展開させる。そのディスクにセットされたデッキは、自分たちが滅ぼしかけた次元で作り変えたデッキ……かつての自分を彷彿させる人間たちに、彼は立ち向かう。過去を、乗り越えるために…生きるために
「「「「デュエル!!」」」」
オベリスクフォース LP4000 手札 5枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
&
オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚
先行後攻の決定とともに始まった、裏切り者への粛清デュエル。多数で攻めることはあれど、されたことは1度たりともなかった。その事実だけで、彼の精神を締め上げることが容易であった
「先行はこちらのようだな。俺の先行!俺は「
もやは見慣れた、鉄と歯車で構築された無機質な猟犬。剥き出しで身体の大半を占める巨大歯車を回しながら、鈍く光る赤の眼光を離反したオベリスクフォースへ向け、小さく唸った
レベル3 ATK1000
「俺はこれでターンエンドだ」
オベリスクフォース LP4000 手札 5枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
&
オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚
「俺のターン!ドロー!俺も「
レベル3 ATK1000
「さらに1枚カードを伏せる。これでターンエンド」
オベリスクフォース LP4000 手札 5枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
&
オベリスクフォースC LP4000 手札 5枚
「俺のターン…ドロー!」
力強く、カードを引き抜く。初手は悪くはない、引いたカードも本来ならば十分勝機があるもの……
だが、多対一という未知の戦いが、ドローカードを劣悪なものを変容させてしまった
(「
「どうした!怖気づいたのか!何もする気がないならさっさとターンを終了しろ!」
苛立ちのこもった声でターンエンドを促すアカデミアの
そして、その敵の悪意に彼は少しの恐怖を感じた。負けを強要するならば、サレンダーをさせればいい。しかし、この男たちは勝ちに執着していない。勝つことが当然という思考ゆえに…どう痛めつけるか、それだけを重視して戦っている。この場で、痛めつけられるのは俺…!
そんな、堪らなく恐ろしい立場に立たされていることに震えが止まらなくなる。…が、手の震えを無理矢理抑えながら、彼はカードを引き抜く
「ウゥ…!俺は、「
レベル3 ATK1000
自分のフィールドに現れる機械猟犬。敵と同じモンスターなのに、その背中が今の彼にはとても頼もしく思えた
「
「
オベリスクフォースC LP3400
「グワッ!……ググ、貴様!」
「さらに魔法カード「融合」を発動!俺のフィールドと手札の「
小さな、極小の点が宙を彷徨う。それは次第に大きな色が混ざり合った渦となり、場と手札の「
「いにしえの魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬たちよ!その首混じり合わせ、新たな姿へと生まれ変わらん!」
金属をガチガチ鳴り響かせ、渦の中から這い出てきたのは2つの首を持つ融合モンスター。歯車の回転に合わせて、2つの尾をユラユラ揺らす
「融合召喚!現れろ、レベル5!「
レベル5 ATK1400
その4つの眼で3人のオベリスクフォースを適当に睨みつける「
「チッ……そいつか…」
「俺はカードを1枚セット、これで俺はターンエンド!」
オベリスクフォース LP4000 手札 1枚
レベル5 ATK1400
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
&
オベリスクフォースC LP3400 手札 5枚
離反者は、ターンの終了を告げる。そして順番が最後に回り、残りのオベリスクフォースのターンとなる。奴は口元を怒りに歪ませながら、乱暴にカードをデッキから引く
「俺のターン!「
場に出現する、3体目の機械猟犬
レベル3 ATK1000
「「
先ほどは敵にぶつけた火の玉……それがこちらに向かって距離を縮めてくる。暴力的な熱は服の当たった部位を軽く焦がし、そこから小さな煙を上げる。排気ガスのように汚い煙は鼻腔を刺激し、気道に入り込んだことで男はむせる
オベリスクフォース LP3400 手札 1枚
「俺はこれでターンエンドだ」
オベリスクフォース LP3400 手札 1枚
レベル5 ATK1400
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
&
オベリスクフォースC LP3400 手札 5枚
レベル3 ATK1000
「俺のターン!俺も「
「ウゥ…ッ…」
オベリスクフォース LP2800 手札 1枚
「俺はターンエンド」
オベリスクフォース LP2800 手札 1枚
レベル5 ATK1400
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
&
オベリスクフォースC LP3400 手札 5枚
レベル3 ATK1000
「俺のターン!俺も効果発動だ!「ハウンド・フレイム」!」
「グァ!」
オベリスクフォース LP2200 手札 1枚
それは、もやはデュエルではなく……そして戦いですらなかった。数で相手を圧倒して押し潰して擦り減らして、倒す。一方的に攻撃されるだけの彼は顔を苦痛で表していた。玉のような汗を垂らし、身体に小さな震えが宿る
まさに戦争の縮図であり……人間の悪質な部分を濃縮させた争い。その中で、被害者の立場である彼の心は既に折れかかっていた
(畜生…!これじゃいくら早く倒しても、他の奴らの攻撃で先に俺のライフが尽きる!何より、負けたらカードにされる…間違いなく!そしたら、俺は死んでしまう……死んで…しま………死ぬ…?)
死ぬ。何故このような単語が出てきたのか…?
こびりついていたのだ。彼の頭の中では…あの、ある意味運命のデュエルで最中で突きつけられた真実。自分たちの戦いが、次元を1つにするという素晴らしい目的のための行動ではなく、人の尊厳を踏みにじる凄惨な虐殺でしかないということを……
それをあのオベリスクフォースたちは行っている。誰に対して?……知れたこと、他ならない俺自身に対してだ。そうでなければ、死という文字など脳裏に浮かばない……が
これから自分の身に降りかかる死への自覚が、彼の奥底の恐怖を煽る
「あ……ぁ……」
仮面が意味をなさないほどに、隠せない怯え。痛みと苦しみの表情が、徐々に恐慌へと塗り替えられてゆく。誰にも見えない、臆病に揺れる瞳。息苦しさを感じるほどに、呼吸のリズムが狂っていく
「いい感じに怯えてきたな、それでこそこのデュエルの意味がある。俺はターンエンド……お前のターンだ」
オベリスクフォース LP2200 手札 1枚
レベル5 ATK1400
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
&
オベリスクフォースC LP3400 手札 5枚
レベル3 ATK1000
(死ぬ…このままじゃ、俺は死ぬ…!あの時に比べればマシとはいえ……こ、怖い…!死ぬのが、怖い…!)
「おぉ、俺のターン!俺、はァ…「
レベル3 ATK1000
「「
「ムッ…!」
オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚
嫌だ、嫌だと。負の感情で埋め尽くされていく心、身体に変調をきたすほどに彼は死に怯える。フラッシュバックする、エネルギーの奔流に飲まれた2人の仲間。あのデュエルの恐怖が、トラウマの形で身体を蝕んでゆく
「「
なりふり構わず召喚口上を述べる。その己の狂気を振り払う様子は、怯え入り混じった姿も合わさって、とても哀れであった。オベリスクフォースの彼が滑稽に見えたのか、敵の3人は目に見えた高笑いを上げる。それすらも、彼の恐怖の炎を燃え上がらせるには十分すぎた
「融合召喚ッ!!レベル7!「
レベル7 ATK1800
「バトルだ!「
「攻撃前に永続罠「闇の呪縛」を発動!対象は「
「な…!?」
「対象のモンスターの攻撃力を700ポイント下げ、攻撃・表示形式の変更を封じる!」
公開される伏せカードの絵柄から、幾つもの鎖が真っ直ぐ「
レベル7 ATK1100
モンスターのコントローラーは、目に見えるほどに焦る
「「そんな…!?俺の「
だが、できることは何もなかった
オベリスクフォース LP2200 手札 1枚
レベル7 ATK1100
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
闇の呪縛
&
オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚
レベル3 ATK1000
「ハハハハハ!裏切り者に相応しい末路だな!俺のターン!「
「ウグゥ!」
身体に撃ち込まれる、熱量の塊。右腕に直撃し、彼は左手で押さえ痛みに耐える
オベリスクフォース LP1600 手札 1枚
「じわじわと嬲り潰してやる!カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
オベリスクフォース LP1600 手札 1枚
レベル7 ATK1100
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
闇の呪縛
&
オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
蹂躙は、止まらない
「俺のターン、ドロー!「
「グェ…!…ウオッ…エ゛ェッ……!」
次は腹に撃ち込まれる。内臓をシェイクされたことにより両膝をつき、胃からこみ上げてきた吐瀉物を床にぶちまける。ビチャビチャと、黄土色の液体が喉を通って口から吐き出される。あまりの苦しみと痛みに、見えない目尻に涙を浮かべた
オベリスクフォース LP1000 手札 1枚
「うわっ、汚ねぇ!この神聖な場所で吐きやがって……デュエルが終わった後に少しだけ殴ってやるか。ターンエンド」
オベリスクフォース LP1000 手札 1枚
レベル7 ATK1100
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 5枚
レベル3 ATK1000
闇の呪縛
&
オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
目にも当てられない光景であった。多がたった1人を踏みつけ、痛めつけ、
「俺のターンだ!「
それでも、奴らは止まらない。火炎の球は、頭部の仮面と同化した兜の黄色い宝石に命中し……大きくヒビを入れた。火球の勢いに押し負け、兜ごと後方に吹っ飛ばされながら、玉座の階段に背を激突させた。二酸化炭素を一瞬で肺から絞り出し、苦しみに喘いだ
彼の頭部は、真っ白であった。何も知らない穢れなき純白の白髪が外気に触れ、その場での異色さを醸し出していた。そして割れた宝石と同じ…黄色の目は潤んでいて、一雫の涙を零した
オベリスクフォース LP200 手札 1枚
「2枚のカードをセット。俺はターンエンド」
オベリスクフォース LP200 手札 1枚
レベル7 ATK1100
伏せカード 1枚
VS
オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚
レベル3 ATK1000
&
オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚
レベル3 ATK1000
闇の呪縛
伏せカード 2枚
&
オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚
レベル3 ATK1000
伏せカード 1枚
仲間から裏切り者として始末されるのも、この苦痛がエクシーズ次元の人間が受けてきたものなのだとか、これが白星の楽しませてくれたデュエルとは違うアカデミアのデュエルなのかなど、衝撃的なことが多すぎて彼の頭が破裂寸前であった
そんな中、敵のオベリスクフォースの1人が5枚あるうちの1枚の手札を見せつける。そのカードは「
「俺の手札には「
絶望しかなかった。今の白髪の彼の手札には「
デュエルの決着は、目前。勝敗は目に見えていた
そんな様子を、赤馬零王は無感情に見下ろしていた
オベリスクフォース同士のデュエルその1しゅーりょー!
続きが気になりますか?気になりますよね?…えっ?気にならない?結果は分かりきっている?……そうですか……
今回は同じモンスターを多数使うだけあって、文字数が今までで1番少ないです。前話のこともあるし、もう少しデュエル描写に力入れよっかなぁ…個人的には精神の葛藤とかに力注ぎたい。あとオベリスクフォースオベリスクフォースとオベリスクフォースがゲシュタルト崩壊引き起こしそうですが、基本的に裏切り者や離反者、敵や3人やアカデミアなどの言葉を使って区別はつけているので判別はしやすいと思います。……しやすいですよね?
というわけで次回
面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC–V物語 第15話
「Shad was mask」
デュエル・スタンバイ!