面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語   作:ジャギィ

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禁止制限で猿とチェイン逝ったザマァァァーーーーーッ!!

ドクロバットとペンデュラムコールと名推理と汎神とウワアアァァァーーーーッ!!

フゥ……それでは脱ぎ捨てられる第15話ドーゾ!


Shad was mask

揺れる羽飾りのピアス、半分に欠けた羽根……シルクのようになめらかな長い紫色の髪、彼女はシャツの上に動きやすいノースリーブベストを着込んでいた

 

黒咲瑠璃は応接室のソファに座りながら、小さな子供2人の視線を一身に受け止めていた。その顔は若干苦笑いである

 

「瑠璃お姉ちゃん、本当に柚子お姉ちゃんに似てる〜」

「しびれるくらいそっくりだぜ〜」

「あはは…私も、最初に柊さんを見た時は驚いちゃったからね……」

 

少年少女にそう返す。レジスタンスで子供の相手をしていたこともあり、瑠璃の対応は大変穏やかであった。彼女の兄ならば、間違いなく無言で睨みつけるくらいはするだろう。風斗ならば、実に面倒くさそうに悪態づきながらも相手するに違いない……彼は子供相手には、何かと甘いところがあるから

 

アユとフトシに返した言葉通り、実際瑠璃は本当に驚いた。自分にそっくり…少しの違いを含めても、それほど柊柚子と黒咲瑠璃の2人は瓜二つだったのだから。さらにそこにユートと雰囲気こそ違うものの、榊遊矢は鏡写しのようなレベルで顔が似ていたのだから。偶然で片付けれない事態が、彼女の前で繰り広げられていた

 

そんな瑠璃たちとは少し離れた位置で……遊矢・柚子・権現坂・修造の4人が、実に難しい表情で話し合っていた。あの中に割って入るにはかなりの勇気が要するほどに、緊迫とした空気が充満していた

 

「預かっていてください…か……」

 

修造が真剣な表情でそう呟きを漏らす。ちらりと視線を横にずらすと、そこには自分の娘と瓜二つの女の子が優しい声音で塾生の子供達と会話をしていた。顔といいブレスレットといい、本当に何から何まで似ていた

 

「今までこのようないたずらが多くはあったが、今回ばかりはそうとは思えんな」

 

そこに一石を投擲。権現坂の芯の通った言葉が、修造の胸中を代弁していた

 

それもそのはず。先ほど修造は、黒咲瑠璃という訪問者に対して軽く質問をしたのだ。彼女が言い渋ったのもあって、教えてもらったこと自体は実に少なかった…が、分かったことは実に多かった。その時の彼女の必死さや偶然には片付けられない娘と瑠璃の類似性が、悪意あるいたずらなどではないと如実に物語っていた。少なくとも本当という保証はなくても、嘘である証明もないのであった

 

「しかし、あのような少女を無理矢理拉致して監禁するなど、誘拐犯もそれを企てた者もけしからん!」

 

瑠璃に教えてもらったこと…それは、彼女は故郷で家族や仲間と過ごしていたところを拉致監禁されたこと、1週間近く監禁されていたところで彼女の仲間が助けに来たこと……そして、その仲間……手紙の主である白星風斗という人間が、瑠璃をこの塾に誘導したこと

 

その時に、瑠璃はまだ話していないこともあった。エクシーズ次元や融合次元などの多次元の概念やエクシーズ次元の惨状、攫われた組織の名称がアカデミアであることなどである。しかし瑠璃はこの次元に移動する際に、風斗から多次元に関する話はするな…と口止めされていた。余計な面倒ごとに他の人間を巻き込みたくないという風斗の良心が、咄嗟にそれを伝えたさせたのだ。そしてその意図を、彼女は何となくだが理解していた

 

「でも、それって手紙に書いてある白星って人が来なかったらなのでしょ?」

「それに、夕暮れまでに迎えに来なかったらなんだろ?だったらその後に考えても別に大丈夫なんじゃ……」

 

そこに遊矢と柚子が会話に参戦する。2人は迎えの人物たる風斗が来るのだから大丈夫であろう…という、少し楽観的な考えの上での主張であった。権現坂も少し考え込むように腕組みをし目を閉じる

 

「……いや、俺は来ないかもしれないと思う」

 

しかしこの場において、修造だけが違った。彼だけが不安を感じさせる目つきでそれを否定する。普段の明後日の方向に向かった前向きさがある彼には考えられないネガティヴな発言であり、幼馴染の中学生3人は目を丸くした

 

「どうしたのお父さん、いつもらしくないわよ」

「そうだな、いつもなら「熱血だーー!」って言いながら1番信じそうなのに……」

「柚子の親父殿、何か理由があるのか?」

 

権現坂が、自身を含めて3人の疑問を代弁して修造に語りかける。言うべきかどうか、ここで大きく悩んだ…が、この子達は例えはぐらかしても全く納得しないだろう。だがもし自分の想像通りであったら、それを言えば瑠璃に対してたくさん気を使うことになるかもしれない。娘に似た彼女が落ち込む姿を考えると、なんとも言えない気持ちになる…きっと、娘と重ね合わせてしまっているんだろう

 

余計なことを口走ってしまったと内心毒づきながら、悩みながらも修造の出した答えは……

 

「すまん!今言ったことは忘れてくれ!」

 

…正直に断ることだった。そんな真摯な態度の父の姿に柚子は少しムッとなった。遊矢と権現坂も強い意志を瞳に秘めている。何としても聞き出そうという気マンマンであった。しかし修造、態度は依然変わらず。頭を下げて手を合わせる姿勢の修造に、中学生ズの視線が突き刺さる……

 

「……ハァ、分かったわ」

 

5分に及ぶ攻防の末、ようやく折れたのは柚子であった。それに同意できなかったのか、遊矢が話しかける

 

「柚子、良いのか?」

「良いも何も、こうなったお父さんは意地でも喋らないわ。それに、理由がないって訳じゃなさそうだし」

 

きっとハリセンで(はた)いても話はしないだろう。柚子がそう思った瞬間に、修造の背筋に寒気が走る。娘が引いてくれたことにホッとはしたものの、いつもハリセンの一撃をもらう頭が痛むような感覚が父親の脳内によぎった

 

そして、そんな彼女の考えに同調する者も増える

 

「分かった。柚子がそういうならば、俺も引こう」

「権現坂も」

「遊矢、柚子の親父殿も何か訳があって俺たちに黙っているのだ。この男権現坂、柚子の親父殿の気持ちを信じるぞ」

「権現坂……」

 

権現坂の言葉に、遊矢も触発される。「分かったよ」と2人に告げた後、修造に深く追求したことを遊矢は謝罪した。大人である彼もそんな遊矢を一言で許し、この話は一時保留で終了を遂げた

 

まだ色々聞きたいことがあるのか、3人ともアユやフトシと話し合っている瑠璃に近づき、彼女たちの会話に参加した。瑠璃も柚子も、みんながみんなでとても楽しそうに語り合っている

 

だからこそ、心配でならなかった。瑠璃が信頼している人物が、もしかしたら危機的状況に陥っているかもしれないことに

 

どこで手に入れたか分からない伝説のカード…瑠璃から聞いた誘拐犯のこと……そして、手紙の()()()()()

 

(手紙には「万が一、億が一にでも」…と書いてあった。もし元々この塾に来させることが目的ならば、彼女と一緒に来れば良いだけではないのか?わざわざ手紙を渡してまで瑠璃1人に来させた理由は……)

 

最悪の予想である。そして、残念なことに最も有力な線

 

それは、瑠璃を安全に逃がすために、あえて残って囮になった……という線。それならば、瑠璃がどこか落ち着いてない理由も、妙に走り書きな手紙の文字にも説明がつくのだ。おそらく大切であるカードを託してまで、決死の思いで彼は……

 

柊修造の今の気掛かりは、これからの塾の経営よりも、顔も知らない青年の行く末であった

 

 

 

 

 

 

 

オベリスクフォース LP200 手札 1枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1100

 

伏せカード 1枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

&

オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

闇の呪縛

 

伏せカード 2枚

&

オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

伏せカード 1枚

 

 

「うぅ……ぅ…ぅぁあ……!」

 

彼は、その透き通るような白髪を揺らしながらも起き上がろうとする。しかし、敗北への恐怖が気力と力を奪っていた。1枚だけの手札がハラリと手から落ちる。カードの角から硬質な磨かれた床に落ち、枠が緑で塗り潰されたカードの表が公開される。カードに書かれた名前は「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)

 

「なんだ?あのマヌケ、手札を落としたぞ」

「魔法カードか、あれは?」

「……ハハハハハ!「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」か!今の状況では役立たずのクズカードだな!」

 

デュエルもクソもない集団リンチ。マナー違反やルール違反が横行する場で、オベリスクフォースの嘲笑が響き渡る

 

古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」。自分の墓地のエクストラデッキのモンスターを任意の枚数除外して、除外した数だけ融合素材モンスターを無条件で特殊召喚し、「古代の機械(アンティーク・ギア)」融合モンスターを融合召喚する

 

決して弱くはないカード。だが、エクストラのカードが墓地に1枚もないと使用しても召喚できるモンスターは今はあまりにも力不足で……この状況では、何の役にも立つことができない…彼の、無力さを証明していた。涙をこぼし、歯をくいしばる……心に感じたのは、悔しさ

 

(ちくしょう…何で俺は、このカードを、入れたんだ……。このフィールドじゃあ、何も出来やしない…こんな、デュエルが、俺の最期のデュエルなのか…?……ふざけるな……)

 

込み上げてくるのは、理不尽による怒り。なぜ俺がこんな目に、今までの罰なのか?ならばそこで笑っている奴らは?後ろで見下ろしている男は?何で俺は、こんなデュエルをしている…!

 

もはや彼には、死への恐怖など薄れ掛けていた。胸に秘めるは、負けたくないという思い。エクシーズ次元のデュエルで、敗北にも意味があることを知った。次があるからこそ、敗北にも意味が見出せる…敗北を重ねて、人は強くなれる。強くなるまで数え切れないほど負けたと…今も負ける時があると、白星は言っていた。だからこそ、デュエルは楽しいのだと……

 

だが、これは違う。これはデュエルではない。今行っているこれは、俺たちが繰り返してきた……!

 

「生きたいか?」

「ッ!」

 

後ろから投げかけられる、低く冷たい音声。この現状を生み出す指令を出したアカデミアの王は、裏切り者と断言したオベリスクフォースを無機質に見下ろした。その変わらない目は、断じて人を見る目ではなかった。目的を果たすために使える道具かどうか…品定めでもするかのような冷酷さが見え隠れしていた

 

辛うじて動かせる首を後ろに振り向かせて、彼は赤馬零王を見上げた。彼は答えを言わなかった。答えるだけの余力すらも残っていないのか、壊れそうな心を支えて意地で答えないのか……未だ強気な眼光が、理由を後者なのだと裏付けていた

 

しかし関係ないと言わんばかりに、赤馬零王は提案を持ちかける

 

「今ここでもう1度アカデミアに忠誠を誓えば、お前の裏切りを不問とし、オベリスクフォースとしてもう1度アカデミアの戦士として戦うことを許可しよう」

「ッ?!」

 

不意打ちの発言に精神が大きく揺れる。吊り天井のような何かが心を圧迫する。心なしか、身体も抑え付けられたような錯覚に陥る

 

悪魔の取引である。生き永らえるために、取り戻した良心を再び捨てろと言っているのと同義。強者ゆえの傲慢、暴君ゆえの身勝手。そんな条件を飲む気など、微塵もない…

 

ない、つもりだった……

 

「う……ぅぐう……!」

 

顔を俯かせ、弱々しく呻きながら呼吸を乱す。長く熟考している彼の顔は、苦痛で歪められ玉のような汗を垂らしていた

 

乗る気などあるはずもない。長い間閉じ込められていた己の心を封じてアカデミアの傘下に入る。それは奴らに対する屈服。通常ならばそのような唾棄すべき腐った交換条件など、応じる必要すらなかった

 

だが、退路を断たれ、打開策もなく……何より手招きしている死神への恐ろしさが、天秤を傾かせ服従を選ばせる。それでも彼が簡単に頷かないのは、自身が取り戻したモノ()の執着があまりにも強いから

 

死を選んででも己を取るか、己を殺して生き延びるか……究極の二択とも言える選択が、彼を苦しませる

 

(悔しい…何も出来ない俺が、俺自身が……けど、死ぬくらいなら……)

 

押し潰される

 

姿形を変えながらも己を保とうとする心が、重いプレッシャー(死への恐怖)により破壊されようとしている

 

不思議と気が楽になった。そんな気がした彼は、忠誠を誓うべく先ほどまで動かすのすら困難だったその足で立ち上がろうとし……

 

「選択の余地はない。さぁ、忠誠を誓えオベリスクフォース」

「……オベリスク、フォース……」

「そうだ、お前は誇り高きアカデミアのデュエル戦士、オベリスクフォースだ」

 

赤馬零王の声は、途中から彼の耳には届いていない。オベリスクフォースと呼ばれる自分に、疑念を抱いた

 

(オベリスクフォース……俺の名前は、オベリスクフォース…?)

 

違う、そんな名前ではない。ちゃんとした自分の名は、しっかり己の記憶に刻まれている。だが、アカデミアの兵士…駒に、名を名乗る資格など……

 

『お前ってさ、本当の名前なんて言うの?いつまでもオベリスクフォースオベリスクフォースじゃ、名前呼ぶときに長ったらしくて面倒くさいんだけど』

『…アカデミアの兵士に名前なんてない』

『嘘つけ。じゃあなんで紫雲院やユーリは個別で名前があるんだよ。敵味方の区別がつけらんねーんだから教えてくれよ』

 

頭によぎったのは、コンクリートの部屋での短い会話。男が無神経に振った唐突な話題…名前の、話

 

『……俺は、オベリスクフォースだ。オベリスクフォースの1人である俺に、名前なんて意味はない』

 

そんな訳がない。心にもないことを言って、自分を偽っていただけだ。その仮面の奥を見てみろ俺……今にも泣きそうで、辛そうな顔をしているくせに、何故俺はあんなことを言った…?

 

『いやいやちょっと、名前教えるくらい別にいいじゃん。つーかお前捕虜なんだから、もうオベリスクフォースとか関係ないだろ?』

『…………』

『……ハァ、お前がそう思ってんなら僕は何も言わないけどさ……少なくとも、僕は名前を呼ばれるのが好きだぞ』

 

何故俺は思い出している?今こんな状況で、あの時の話なんかを……

 

『……名前を呼ばれるとさ、生きてる…って思えるんだよね』

『…生きてる……?』

『この世界でも、僕は確かに生きてるんだって……名前を呼ばれるたびに、そう思う』

『この世界?』

『…………間違えたこんな世界だった今の忘れろ』

 

……生きて、いる…?

 

重みが増す。ミシミシ音をたてながらも()()は重圧に耐えられなくなり……そして

 

ピキィッ!

 

ヒビが、入った

 

「……何……?」

 

訝しげな、赤馬零王の呟きだけがフロア一帯を響かせる。玉座の階段近くにいる白髪の少年。1度起こった破砕はもう止められず、出来上がったヒビは徐々に大きく広がってゆき……

 

仮面が、完全に割れた

 

そう、心ではない。砕けて壊れたのはオベリスクフォースを象徴する兜と同化した仮面。彼は足元の仮面を、自ら踏み砕いたのであった。真っ二つになったそれを見下ろしてから、視線を玉座に座す指導者に向ける。その黄色い眼は、太陽のように照り輝いていた

 

「……何のつもりだ?」

 

赤馬零王は強く睨みつける。後ろの3人からも敵意を感じ取った

 

この状況で、オベリスクフォースとしての仮面を砕くこと……それは反抗の意思であった。お前たちに決して屈することはないという、強い意志。自分の命が懸かった状況でありながら、それを投げ捨てた。何故ーーー?

 

「……違…………ベリス……ォースじゃ…い……」

 

ボソボソと、声を発する。あまりに小さくて誰にも聞こえなかったそれを、今度はハッキリと伝える

 

「…違う…俺の名前は、オベリスクフォースじゃない…!」

「何だと?」

「俺には!」

 

声を荒げる。恐怖を取り払う。心の奥底にへばりついていた仮面を……脱ぎ捨てる

 

 

 

「俺には、砕羽竜太郎(さいばりゅうたろう)って名前があるんだ!オベリスクフォースなんて名前じゃ…ない!!」

 

彼は…砕羽は、生きることを選んだのだ

 

自分の名を誰にも知られず生きていくよりも…砕羽は、名を叫ぶことの方が……ずっと生きているのだと、思い至った

 

そこにいた彼は、仮面をつけて偽りの自分を演じてた彼よりも……恐怖に屈して自分を捨てようとした彼よりも……もっと輝いていて、もっと強く、砕羽竜太郎として…存在していた

 

砕羽の決別の言葉。それだけで、オベリスクフォースの3人が殺気立つのは十分すぎた

 

「キサマァ!オベリスクフォースの誇りの仮面を、よくも!」

「何が誇りだ!俺たちがしてたことは、人を不幸にして、デュエルを穢してただけなんだよ!そんなものが誇りになるか!」

「プロフェッサーの慈悲を無駄にするとは、愚か者が!」

「自分を捨てないことが愚かなら、俺は愚か者でいい!お前たちと一緒よりはずっとマシだ!」

 

息をするように吐き出される罵詈雑言の応酬。お互いがお互いを否定し、怒りを撒き散らす。数十秒にも満たないマシンガントークの末に、オベリスクフォースの1人がデュエルディスクを砕羽に向けて構える

 

「キサマなど、デュエルをするまでもない!」

 

そんな台詞を聞けば、いやでも何をするのか想像がつく。勝つ見込みのない砕羽をカードにしようとしているのだ。もやはオベリスクフォースは、決闘者(デュエリスト)としての誇りすらも見失った悪党に成り下がっていた。身体を覆うであろう光に思わず身構えて……

 

『乱入ペナルティ 2000ポイント』

 

機械音声が、不意に聞こえた。後ろから何が降り立った音も

 

「ドーモ 赤馬零王=サン オベリスクフォースの皆さん」

 

身構えながらも身体を後ろごと振り向く。そこに居たのは、見知った顔。デュエルディスクから紫電を発生させながらも悠然とドローしたカードを手札に加え、灰の腰巻きを揺らしながら辺りを見渡す。ネックウォーマーで覆った口元の上にある細めた目の黒い眼光が、砕羽には死神めいて見えた

 

「サウザンド・フェイスです」

 

 

 

 

 

 

 

「何!?サウザンド・フェイスだと!」

「他の奴らは何をやっている!?」

「そもそも、どうやってここに入り込んだ!」

 

突然の僕のデュエル乱入に心底驚いた様子でざわつくオベリスクフォースたち。侵入方法?上のシャンデリア近くについてた天井穴からだが何か?もっとも、いちいち教えてやる必要はないがな

 

「白星、お前…何でここに。エクシーズ次元に逃げたんじゃ…」

「それは後だ。まずは…あぁっと、その前に……」

 

こいつに言わなくちゃならないことがある

 

「一部始終、しっかり見てたよ。悪いな、助けてやらなくて」

「何!?」

 

実は途中からとは言え、僕はシャンデリアの上でこいつのデュエルの状況を観戦していたのである。見てただけの理由は……これはこいつの問題であることだから

 

僕の発言に驚いた後、眉間にしわを寄せてお冠状態であることを示す。怒るな怒るな

 

「このデュエルはお前の今後を決めるデュエルも同然、そこに僕が介入するなんか、KY(空気が読めない)も良いところだ。…流石に危なくなったら助けるつもりではあったがな」

 

階段をゆるりと下りながら、それに…と付け加える

 

「自分の力で戦えたじゃねーか。デュエルじゃねーぞ?アカデミアのクソ共に従わないって意味でだ」

「…あ……」

「特にあの啖呵、あーゆうの生で初めて見たよ。カッコいいじゃねーか、砕羽」

 

そう言いながら砕羽の真っ白な髪の頭を撫でた。少し長めの髪は指と指の間に乱雑に入り込み、するりと隙間をぬって元の形状に戻る。……考えてみれば、こいつも中学生くらいの歳なんだよな…

 

「教育と洗脳は紙一重…ってか?なぁ、赤馬零王」

 

すっと、視線を玉座にふんぞり返っている機械パーツを頭部につけた血管ハゲにずらす。何を考えているのかが一切分からない灰色の目と目が合い、お互いに逸らさずに見つめ合う

 

………数十秒の長いメンチの切り合い……それを崩したのは、口を開いた向こう側だった

 

「お前が、サウザンド・フェイスという男か」

「どうも、アンタ…つーかアカデミアの評価は色んな奴らから聞いてるよ。……幼気(いたいけ)な女子中学生2人を誘拐するとはなぁ…何が目的だロリコンハゲ」

「黒咲瑠璃をどこにやった?」

 

軽くストレート、と言うよりハイキックを2発ほどぶつけてやるものの、簡単に流されてしまった

 

あらら、ロリコンとハゲ…両方で同時に攻めれば少しくらい表情変えるんじゃないかと思ったんだが、まったく崩さねえよこいつ。それどころか無視して瑠璃の居場所を聞いてきやがった

 

こういう…1つのことに執着している奴ほど厄介な奴は、他にはそうはいない。何とも手強いメンタルの持ち主だな……遊矢見習え

 

「言うと思うのか?」

「黒咲瑠璃は、次元統一に必要な要素の1つ……お前という障害を取り除き、再び黒咲瑠璃を手に入れるだけだ」

「テメェ、頭脳がマヌケか?そんなことは断じてさせねぇ。僕がいる限り、断じてだ…!」

 

オベリスクフォースを見やる。奴らは僕を親の仇のように睨みつけ、強い敵意をぶつけてきた。だがそんな下らないことは放っておいて、このデュエルの決着の下準備を始めた

 

 

オベリスクフォース LP200 手札 1枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1100

 

伏せカード 1枚

&

白星 風斗 LP2000 手札 6枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

&

オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

闇の呪縛

 

伏せカード 2枚

&

オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

伏せカード 1枚

 

 

「僕のターン!手札の「真源の帝王」をコストに「汎神の帝王」を発動!効果でデッキから、カードを2枚ドロー!」

 

今回は「帝」デッキ……だが、このデュエルの決着は僕がやるべきではない。真に戦うべき奴は……

 

引いたカードを確認する。これならば大丈夫…!

 

「「天帝従騎イデア」を召喚!」

 

目を覆いたくなるような眩き。まるで光のカーテンとも言えるオーロラから姿を現したのは、銀色に煌めく鎧を着込んだ従騎。関節部のところどころが金で装飾された鎧はとても細く、優しげな出で立ちから女性のように感じた。実際その辺はどうなんだろうかね…

 

天帝従騎イデア

レベル1 ATK800

 

「攻撃力800でレベル1を攻撃表示で通常召喚だと?」

「こいつはお笑いだ!あのサウザンド・フェイスがプレイングミスとはな!」

「残っている奴も既に虫の息の裏切り者だけ…この勝負、貰ったな」

 

召喚されたモンスターの貧弱さに不愉快な笑い声を上げるオベリスクフォース。ホントこいつら、人をイラつかせる才能があるな…

 

「黙れ」

「何だと!?」

「鬱陶しいんだよこの畜生風情が……ルールとマナーを守って楽しくデュエルも出来ねーのか?…いや、意味のない質問だったな」

 

ステータス主義のバカどもには何を言っても無駄だろうしな

 

「とりあえず下準備は終わらせる。召喚・特殊召喚に成功した「イデア」の効果!1ターンに1度、デッキから「天帝従騎イデア」を除いた攻撃力800・守備力1000のモンスターを特殊召喚する!「冥帝従騎エイドス」を守備表示で特殊召喚!」

 

闇が、吹き上がる。フィールドの一部を覆い尽くした闇の衣は数秒蠢いた後、ドロリと溶け始める。中から現れたのは黒い甲冑を着た魔法使い。刺々しさを感じる鎧の背には漆黒のマントが揺れており、頭を覆う兜から不気味な光が弱々しく輝いた

 

冥帝従騎エイドス

レベル2 DEF1000

 

「ただし「イデア」の効果を使ったターン、僕はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚出来ない」

 

衝撃の宣告。それは敵にとっては吉報であり、砕羽にとっては絶望的な知らせであったようで、それを聞いたオベリスクフォースたちは顔を愉悦に染め、砕羽はあからさまに動揺した

 

「し、白星!それじゃあ融合召喚もエクシーズ召喚も出来ないってことだろ!一体なんでそんなモンスターを……」

「良いんだよ…このデッキはそういうデッキだ。特殊召喚に成功した「エイドス」の効果!1ターンに1度、通常召喚に加えて僕はメインフェイズに1度だけ、アドバンス召喚を行える!」

「アドバンス召喚だと?」

 

疑問符を浮かべるオベリスクフォースの皆さん。まぁこの世界の価値観からしたら、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの方が強いと感じるんだろうがな……

 

あいにく、アドバンス召喚も僕の世界じゃバケモノじみて強いんだよね!

 

「墓地の「汎神の帝王」を除外して効果発動!デッキの「帝王」と名のついた魔法・罠カードを3枚選び、相手に選ばせる!「帝王の深淵」3枚を選択する!さぁ、選べ」

「ふざけるな!どれを選んでも同じだろうが!」

「そう、同じだ。お前たちに選択の余地なんざ必要ない……「帝王の深淵」を手札に加える。手札の攻撃力2800・守備力1000の「轟雷帝ザボルグ」を公開して「帝王の深淵」の効果発動!このカードは1ターンに1度、手札の攻撃力2800あるいは2400・守備力1000のモンスターを公開することで発動可能…デッキから「帝王」魔法・罠を1枚手札に加える。永続罠「溶撃の帝王」を手札に」

 

手札は潤沢、伏せも問題ないと判断して動く。そしてそんな僕のプレイングを見て、砕羽が小さく一言

 

「手札が、減ってない……」

 

そう、これが今の環境を食い込む「帝」デッキの強み……単純に手札消費が少ないか、1枚でそれ以上のアドを取る。だからこそ、エクストラデッキからの召喚が常識なあの魔境で未だ戦い続けれる。……まぁ、2ヶ月も経ったし向こうじゃそろそろ何か制限ひっかかってもおかしくないけどな……

 

「「天帝従騎イデア」と「冥帝従騎エイドス」をリリース!雷撃轟かせ!世界を支配せし雷の帝王!アドバンス召喚!」

 

強烈な閃光を発して、雷が地に打ち付けられる。弾けるスパークの中から見えたのは、重厚で太い白の鎧と肩の歪曲した紅い巨角。両掌からバチバチ電気を生成しながら、濃い緑色の髪を小さく揺らした

 

「レベル8!「轟雷帝ザボルグ」!」

 

轟雷帝ザボルグ

レベル8 ATK2800

 

「攻撃力、2800…!」

 

凄まじい威圧感を漂わせる「ザボルグ」を相手に、オベリスクフォースは緊張感ある顔つきをする

 

「墓地に送られた「天帝従騎イデア」の効果で除外ゾーンの「汎神の帝王」を対象に発動。チェーン2で「轟雷帝ザボルグ」の効果!このモンスターがアドバンス召喚に成功した時、フィールド上のモンスター1体を対象に発動!対象のモンスターを破壊する……僕は、「轟雷帝ザボルグ」を対象!破壊する!」

「なっ…!?」

 

隣で砕羽が目を見開いているが効果は止まらない、止まれない

 

「轟雷帝ザボルグ」は自らの体内を溜まり込んだ雷で焼き焦がし、身体中から青と白を解き放つ。まるで線香花火のように命を燃やし尽くして……力の源が途絶えた「ザボルグ」は映像投影(ソリッドビジョン)特有の青い粒子となり消えた

 

侮蔑の感情を交えた声で奴らは叫ぶ

 

「血迷ったか!自分のモンスターを破壊するなど!」

「そんなわけあるかよ。「轟雷帝ザボルグ」の効果はまだ続いてんだぜ。「ザボルグ」の効果で破壊したモンスターが光属性だった場合、破壊したモンスターのレベル・ランクの数だけお互いのエクストラデッキからモンスターを選んで墓地に送る!破壊した「ザボルグ」はレベル8、よって8枚墓地に送ることになる!」

「何だと!」

「この状況だと、この場にいる全員のエクストラから8枚墓地に送る……さらに光属性の「天帝従騎イデア」をリリースしてアドバンス召喚したことにより「ザボルグ」のさらなる効果発動!墓地に送るカードは僕が選ぶことになる!さぁ、エクストラデッキを見せろ!」

 

カツカツと、白いシューズで強く地を蹴りながらオベリスクフォースたちに詰め寄る。忌々しげに歯軋りをしながらも、3人はそれぞれ10枚の融合一色のカードを見せてきた

 

フム……やっぱりオベリスクフォースたちのエクストラも固定か。3枚ずつ入った「古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)」「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」…そして1枚だけ入っている「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」……情報アドはゲットしたな

 

「どうした!早く選べ!」

「……「古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)」2枚を除いた全部を墓地に送れ。他の2人も同じだ」

「チッ……」

 

露骨に舌打ちした後、3人は8枚のカードを墓地に送る。しっかりとこの目で確認したので、砕羽の方に戻って再び対峙する。そして砕羽の方へ顔を向ける

 

「お前は確認の必要ないよな?ちょうど8枚しか残ってないみたいだし」

「…あぁ……」

(だが、これで俺は融合モンスターを融合召喚出来ない……完全に「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」が死に札になってしまった……)

「僕は「旧神ヌトス」「PSY(サイ)フレームロード・Ω(オメガ)」3枚ずつの計6枚のみのエクストラデッキのカードを墓地に送る。そしてチェーン2解決、「イデア」の効果で「汎神の帝王」を手札に加えるぜ」

 

効果は全て解決され、僕の場がまっさらになった…

 

その矢先、フィールドの地に穴が開きそこから3体の女神が降臨する。それは、先ほど「ザボルグ」の効果で墓地に送ったモンスター「旧神ヌトス」

 

「なんだ!?一体何が!」

「「轟雷帝ザボルグ」の効果で墓地に送った「旧神ヌトス」の効果を、チェーン3まで組み込んで発動した。対象はお前たちが伏せた3枚の伏せカードだ。「ヌトス」は墓地に送られた場合、フィールド上のカードを1枚対象にとり、そのカードを破壊する効果がある。…伏せカードは使うか?」

 

そう告げても、2人はそれぞれをチラチラ見ながらも落ち着きのない様子をとり、伏せてあるカードを使う仕草を見せようともしない

 

「…何もないならチェーン解決!「ヌトス」3体分の効果で、3枚の伏せカードを破壊する!」

 

輝く槍。投擲される槍。流麗な曲線を描いて3本の槍の先端は裏側表示のカードを貫き、破砕音とともに粉々に砕けた

 

「グッ…俺たちのリバースカードを潰すのが目的だったか!」

「今更すぎるぜ、気づくの。1ターンに1度、墓地の「天帝従騎イデア」を対象に墓地の「冥帝従騎エイドス」の効果発動!」

「墓地からカードを発動だと!」

「「エイドス」を除外して、対象のモンスターを特殊召喚する!守備表示!」

 

天帝従騎イデア

レベル1 DEF1000

 

「「エイドス」のこの効果を使ったターンはエクストラからモンスターを召喚出来ねぇが……既に「イデア」の効果を使った手前、意味のない制約だな。さらに墓地の罠カード「真源の帝王」の効果発動!墓地の「帝王」魔法・罠…「帝王の深淵」をゲームから除外して発動!モンスターカード扱いで、このカードを特殊召喚!」

 

光のカーテンが、何かを遮っている。逆光で見えないものの、白く巨大な杖を持ったそれが玉座に座り込み、沈黙を貫いていた

 

真源の帝王

レベル5 DEF2400

 

「今度は、罠カードを墓地から……!?」

 

何度目かも分からない驚愕が、オベリスクフォースたちを覆い尽くす。あまりに自分たちとはかけ離れた戦い方とカードの群勢に、これがサウザンド・フェイスの力なのかと戦慄していた

 

「墓地の「PSY(サイ)フレームロード・Ω(オメガ)」の効果、墓地のこのカードと自分か相手の墓地のカード1枚を対象に発動。それぞれをデッキに戻す。墓地には3体の「Ω(オメガ)」が存在する。この効果を使って僕は「ヌトス」2体と……」

 

横に顔をずらす。視線の先にいた砕羽を指差して、宣告する

 

「……砕羽の墓地の「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」を3体の「Ω(オメガ)」と共にデッキに戻す!」

「………え?」

 

二呼吸ほど遅れて、砕羽はこちらを向き何を言ってるのか分からないと言った表情で呟いた。だが、これでいい。後はこいつに委ねるだけでいい

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

オベリスクフォース LP200 手札 1枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK1100

 

伏せカード 1枚

&

白星 風斗 LP2000 手札 4枚

 

天帝従騎イデア

レベル1 DEF1000

真源の帝王

レベル5 DEF2400

 

伏せカード 2枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

&

オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

闇の呪縛

&

オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

 

「砕羽、あとはお前がやるだけだ。手札には「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」、墓地にはエクストラデッキのモンスターが4体ある……ここまで言えば、何が狙いか分かるだろ?」

「な、なんで俺に……お前がやった方が、ずっと勝てる見込みが…」

 

困惑しながらも僕にそう語りかける砕羽。そうだ、まさにその通り。自惚れるようだが、僕ならこいつら3人を瞬殺することなど容易である。先人たちの戦術と知恵が、数多のカードがあるから

 

……しかし、だ

 

「僕がやる訳にはいかない。これは本来ならばお前1人のデュエル……自分の因縁には、自分で決着をつけなければならない」

「だ、だけど……俺の手札は、1枚だけで…」

「どっちにしろエンドしてしまったからもう僕には何も出来んよ。……お前なら、あいつらをぶちのめせる。そう信じている」

「白星……」

 

こちらを見る黄色の瞳が、その色にふさわしく希望に満ち溢れてくる。そんなこいつを見て、内心自己嫌悪する

 

…僕の伏せカードは永続罠の「帝王の溶撃」と「連撃の帝王」、そして手札にはもう1枚の「轟雷帝ザボルグ」が残っている。仮に相手を倒しきれなくて「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」を召喚されても「連撃の帝王」の効果で「ザボルグ」をアドバンス召喚、エクストラデッキを破壊した後に「帝王の溶撃」を使えばフィールド上のアドバンス召喚したモンスター以外は効果が無力化される。砕羽の方にも被害はあるものの、少なくとも自分の独壇場で奴らを倒すことができる……

 

信じるなどほざいておきながら、()()()()()()()()()がいるのだ。2枚の伏せカード(保険)が良い証拠だ

 

それでも

 

例え上っ面だけの言葉だったのだとしても、僕はこいつに賭ける。信じる

 

アカデミアのオベリスクフォースではなく、砕羽竜太郎という……1人の決闘者(デュエリスト)

 

「お前の思うように戦え。デュエルっていうのは、そういうものだ」

「………あぁ!」

 

 

 

 

 

強い返事だった。デッキトップに人差し指と中指を置き、目を閉じて黙考している。指と腕に、自然と力が入る

 

(ここで「融合」を引かなければ、俺は終わる……俺は、生きたい…絶対に勝ちたい……!)

「俺は……!」

 

脳内を埋め尽くすのは……勝利の、二文字

 

 

 

「俺はァッ、負けたくないぃぃぃーーーッ!!!」

「ブフゥッ?!」

 

呟きは叫びに……勝利への執着を指に乗せ、力の限りの雄叫びと共にカードをドローした。腕は華麗な弧を描き、見るもの全てを惹きつけるだけの何かが今の彼にはあった

 

……思いがけずに出てきたセリフに真顔で吹き出した風斗は、必死に込み上げる爆笑を口を手で抑えることで防いだ。あまりにも不謹慎であったが、彼の環境からすれば仕方ないとも言えた。内なる戦いを繰り広げる風斗の姿は、誰の目にも止まっていなかった

 

「魔法カード「貪欲な壺」を発動!墓地の「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」2体、「古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)」、「古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)」、「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」をそれぞれデッキ、エクストラデッキに戻し……2枚、ドローッ!」

 

右手に納まった2枚のうち、1枚のカードを見る。そのカードの絵柄は、青と橙の色で描かれた渦のカード……奇跡の、結晶

 

「ッ!俺は今引いた「融合」を墓地に送り、「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」を発動!」

「「古代の機械混沌融合(アンティーク・ギア・カオス・フュージョン)」だと……!バカな…!後のないこの状況で、「融合」を引き当てたとでもいうのか!?」

 

彼は、引いたのだ。「融合」を……未来を切り開くための、逆転のキーカードを

 

「墓地の「古代の機械(アンティーク・ギア)双頭猟犬(・ダブルバイト・ハウンドドッグ)」2体と「古代の機械(アンティーク・ギア)究極猟犬(・アルティメット・ハウンドドッグ)」2体をゲームから除外!デッキ・エクストラデッキ・墓地から融合召喚するモンスターの融合素材を召喚条件を無視し、効果を無効にして特殊召喚する!来い!「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」!「双頭猟犬(ダブルバイト・ハウンドドッグ)」!「参頭猟犬(トリプルバイト・ハウンドドッグ)」!「究極猟犬(アルティメット・ハウンドドッグ)」!そしてこいつら4体で、融合!!」

 

砕羽のフィールドに埋め尽くされる、4体の機械猟犬。身体の生命線である歯車が音を立てて回り、10の首から咆哮が鳴り響く。そして4の身体と唸り声が、渦と1つに溶け…混ざり合う

 

「いにしえの魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬たちよ!身体と魂混ぜ合わせ、その力で大地を割り、闇を砕けぇ!」

 

地に踏み込み、その両脚で立ち上がる機械巨人。胴体についた頭部の開かれた口から見える巨大な金色の歯車が緩慢に回り出す。それに連動して他の歯車も回り出し、オレンジ色のモノアイが3人の決闘者(デュエリスト)を見下ろす

 

「融合召喚!砕け、レベル10!「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」ォ!!」

 

闇の巨人が、絶望を打ち砕くべく現れた

 

古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)

レベル10 ATK4500

 

「そんなバカな!「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」を召喚しただと!」

「落ち着け!今召喚したとて、あいつのライフはたったの200だ!」

「全部の「機械猟犬(ハウンドドッグ)」がやられても、最低でも2人は残る……あの裏切り者がおしまいなことに変わりはない!」

 

絶望的状況でのミラクルドローからの「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」の融合召喚に、目に見えて狼狽するオベリスクフォースたち。まだ風斗が残っていることも考えれば敗北は濃厚なのにも関わらず、ないも同然の勝ち筋に縋る。そして当然、砕羽にも最後の一押しが残っていた

 

「俺は、勝ぁつ!絶対にィッ!!リバースカード「リミッター解除」を発動!俺の場の機械族モンスターの攻撃力を、すべて倍にする!」

 

躊躇もなく、伏せておいたカードを発動する。効果の恩恵を受けた「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」は、2倍速で歯車を動かす。歯車を擦り減らし、砂鉄を振りまきながらも回る原動力により、「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」の身体に力がみなぎる

 

 

オベリスクフォース LP200 手札 1枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)

レベル10 ATK9000

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK2200

&

白星 風斗 LP2000 手札 4枚

 

天帝従騎イデア

レベル1 DEF1000

真源の帝王

レベル5 DEF2400

 

伏せカード 2枚

VS

オベリスクフォースA LP4000 手札 6枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

&

オベリスクフォースB LP4000 手札 4枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

闇の呪縛

&

オベリスクフォースC LP2800 手札 5枚

 

古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)

レベル3 ATK1000

 

 

攻撃力9000の全体攻撃モンスター…おまけに防ぐ手段もないとこれば、流石のオベリスクフォースも閉口せざるおえない。青ざめ、身体を震わせ、逃げ出しそうな足を抑える。風斗も笑いが収まったのか、両手をズボンのポケットに突っ込んで無言で「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」を見上げていた

 

「バトルだ!「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」で、3体の「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」を攻撃!「アルティメット・カオス・パウンド」!!」

 

熱量が、一気に膨れ上がる。ギアの回転運動により高熱を発する「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」の獣の顔がついた手を、拳を握るように口を閉じさせる。空気抵抗と摩擦熱により、拳の周囲がグニャリと歪んで見える。振り下ろされた腕は「古代の機械猟犬(アンティーク・ギア・ハウンドドッグ)」たちの近くの地面に降り抜かれ……大地を抉られるとともに凄まじい熱風の余波が「機械猟犬(ハウンドドッグ)」たちをオベリスクフォース共々襲った

 

外殻のフレームを捻じ曲げられ、ネジ1本も残さぬように機械猟犬たちは溶かし尽くされ爆散した。「古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)」の攻撃の衝撃に肉体が耐え切れず、悲鳴をあげることもなく3人の仮面の男たちはライフごと吹き飛ばされた

 

 

オベリスクフォース LP200 手札 1枚

 

古代の機械(アンティーク・ギア)混沌巨人(・カオス・ジャイアント)

レベル10 ATK9000

古代の機械(アンティーク・ギア)参頭猟犬(・トリプルバイト・ハウンドドッグ)

レベル7 ATK2200

&

白星 風斗 LP2000 手札 4枚

 

天帝従騎イデア

レベル1 DEF1000

真源の帝王

レベル5 DEF2400

 

伏せカード 2枚

VS

オベリスクフォースA LP 0 手札 6枚

&

オベリスクフォースB LP 0 手札 4枚

&

オベリスクフォースC LP 0 手札 5枚

 

 

「ワンタァーン、スリーキルゥ……」

 

風斗のやけに綺麗な発音の声が、砕羽竜太郎の耳に残った

 

 

 

 

 

 

 

何ともインパクトのあるデュエルだった……

 

だってしょうがないじゃん?「負けたくない」宣言からのリミ解「混沌巨人(カオス・ジャイアント)」サンレンダァ!…だよ?ネタの宝庫だよ?ヘルカイザーだよ?正直「負けたくない」の時点でかなり腹筋がヤバかった。無表情を貫くのがどれだけ大変だったか……

 

でも勝てたのはとても良かったからそれに関しては言うことなしだな。横を見てみると小さくガッツポーズをとって喜びに浸っている砕羽の姿。さてと、後はこいつをどうするか……

 

「居たぞ、あそこだ!」

 

ふと。唯一の正規の出入り口から、そんな叫び声と扉が開かれる音が鼓膜を震わせる。右に身体ごと顔を向けると、赤・黄・青がごっちゃになった制服のオンパレード…信号を間近で見てるみたいで目がとっても辛い

 

どうやら長いこと同じ場所に止まってたのがアレだったのか、とうとう居場所がバレたようである……だが、今となっては目的は達成されたも同然。隣の砕羽に小さく耳打ちをする

 

「……死にたくなかったらスタンダードに跳べ」

「何?」

「お前はアカデミアと完全に決別したはずだ……どうする…?」

 

永く、永く感じられた長いようで短い一瞬。砕羽の決断は瞬間的だった

 

「分かった」

「……なら、跳ぶぞ!」

 

後ろの赤馬零王にも、前のアカデミア軍にも当然見えないように《スタンダード》のコマンドを流れる動作で押す僕と砕羽。青白い閃光は周囲を一瞬で覆い、その輝きは僕たちを別の次元に跳躍させるのだろう

 

「赤馬零王」

 

移動までのインターバルを利用して、僕は赤馬零王に指差す。どう考えても負け惜しみなようにしか聞こえないが、それでも言葉を紡いだ

 

「お前が何を目的としているのかは知らんが、他の人間に……瑠璃に手ェ出した時点で結末は決まっている…今決めた。融合次元アカデミアは必ず滅ぼす…!僕の手で!それまでを怯えて待ってろ、アカデミアのクソ共がッ!!」

 

ふと、身体が何かに引っ張られる感覚。次元跳躍特有の、違和感

 

意識が飛んだ

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……」

 

不意に目覚めて、身体を跳ねるように起き上がらせる。地平線まで伸びるような、広い真っ白な空間……数度のみだが見覚えのある、僕の精神空間とやら

 

「よーやく起きたか。今回は早いなぁ」

 

そして消えてくるのは、聞き覚えのない声……いや違う、ある。()()()()()()()()()()()()()今は低くも子供じみた言動の声。何かと予感みたいなのはあったが、振り向いたところに立っていた白いコートの男を見て、予感が確信に変わる。なるほど、確かにこれなら……

 

「僕の理性って言われても納得するな……合ってるよな?理性くん?」

「おうよ、大正解だぜ本能くん」

 

同じ顔であった。瓜二つとか双子とはそういうのではなく、僕とは色々真逆でありながらまさに僕その者であるこの感覚。少し長めの髪にパッとしない顔、着込んでいるコートまで対色的であることを含めてもそこに居たのは、もう1人の僕だった

 

「僕は確かにお前の理性だ。前の世界でお前のあらゆる感情を抑制していた、ブレーキ役といったところか…」

「……一応確認させてもらうぞ」

「どうぞ」

 

僕の考えでも分かるのか、やけにあっさりと許可を出すもう1人の自分。よし……

 

「僕の誕生日は」

「6月27日」

「集める本の傾向は」

「昔が漫画で今はライトノベル」

「挨拶は実際大事」

「古事記にもそう書かれてある」

「ノーゲーム・ノーライフ」

「ゲームのない人生なんて人生じゃない」

「…僕に友達は…」

「そもそも友達の定義が曖昧」

「………どうやら本当みたいだな……」

「…最後の質問に意味あったか?」

 

うるせぇほっとけ

 

数々の僕しか知りえない情報や感情などを言われたら、もう嫌でも信じるしかなかった

 

「……それで、何で僕は精神体とやらで話をしているんだ?そもそも僕、二重人格だったなんて記憶はないはずだが……」

「それは僕にも分からんよ。けど、その考えは的確だな……アニメの二重人格のように話し合うことができるし、僕が表に出ることもできる…主人格が本能(お前)で、別人格が理性()って言ったところか」

「主人格様とは言わないのか?」

「…言って欲しいのか?」

「……やっぱ良いや」

 

こいつに限ってないだろうが、人格乗っ取られそうな感じがして怖いし

 

けど、こいつは別人格というよりは半分になった僕のうちの1つなのだろう。何故こうなったのかは全く分からない……遊戯王の世界だからって言えば納得できてしまいそうなんだが、やはりシコリみたいなのは残る。僕が本能と理性とやらで半分に分かれた理由……

 

「分かんねぇなぁ…」

「とりあえず、僕とお前は記憶は共有しているが考えは一致していない……ことだけは教えとくよ」

「あいよ、ありがとう。……しかし、なんか王様(遊戯)になった気分だなぁ…そんな高尚なもんじゃないけど」

「分かるよ、うん」

 

腕組みしてうんうん頷くもう1人の僕を見て、思ったことが1つ

 

違和感こそあるが、こいつは僕自身だ。曖昧で、自分勝手で、自己中で欲に忠実で……世界も自分も真っ黒だけど、輝いていると信じてやまない大嫌いで大好きな僕その者。……今の考えすっごくナルシだったな……僕ってこんな奴だったっけ…?

 

「今の僕には、やるべきことがある…分かるよな?」

「あぁ…次元戦争を止める……つまりアカデミアを滅ぼす」

「出来ると思ってんのか?」

「やるんだよ」

「言うと思った……まぁ僕もフォローするさ、頑張ろうぜ」

「うん……うん?」

 

フォロー?どういう意味だ?今までのこいつの言動通りだと、ここでしか会話できない口ぶりだったが……

 

「おい、それって…」

「そろそろ起きた方が良いんじゃないか?」

「話逸らすなコラ」

 

なんて雑な逸らし方なんだ。ここまで一致するもんなのか、普通?…二重人格の一般論とか分かんねぇや……

 

「ハァ……あとで絶対聞くからな」

「安心しろ、すぐに分かる」

 

そりゃどういう意味だよ…白みが増す空間でそんなことを僕は呑気に考えていた。……あっ、そうだ

 

「お前さ、名前どうするの?」

「……いるか?名前?」

「区別はした方が良いだろうが……そうだ、黒星(くろほし)なんてどうだ?」

 

僕が黒いコートを着て白星だから、白いコートのこいつは黒星……うん、分かりやすいし素敵な響きだ。星がついてるのが何より良い

 

だが、そんな僕のネーミングセンスに呆れたのか、黒星(仮)はため息を吐いて微笑む。なんだその「こいつ、いかにも分かってません…」みたいなため息と笑みは……腹立つなチクショウ

 

「…お前って、能天気な奴だな……」

「失礼な…つーかお前も僕自身なんだぞ。目の前で自虐とか止めてくんない?結構凹むからさ」

 

白が、より強くなる。完全に目の前が塗り潰される…その一歩手前で、聞こえてきたのは返答

 

「…んじゃ、また後でな……白星」

 

それは、僕という存在が2つになることを肯定した瞬間

 

どういう理屈で僕の感情とも呼べるものが2つに分かれたのか……それは全くもって不明の状態である。それぞれの次元にいる同じ存在とかと同じ理屈なのかどうか…皆目見当もつかない。だからこそ、ゆっくりそれを探していく必要があるだろう……そのために、黒星(もう1人の僕)との協力は必要不可欠

 

「…あぁ、じゃあな、黒星」

 

だからこそ、肯定しよう。黒星が存在していることを

 

世界が、白色に染まった

 

 

 

 

 

 

 

年頃の女の子らしい1つの部屋。時間は既に8時を回っており、その部屋で瓜二つの2人…柚子と瑠璃が会話に花開かせていた

 

「それで、風斗と兄さんは喧嘩しちゃったのよ。2人とも凄く強いから、ユートが指示してみんなで止めたの…あれは本当に凄かったわ」

「ユートって、遊矢にそっくりって人?遊矢にそんなに似てるなら、私も1度会ってみたいわね」

 

たった2人だけの女子会。お互い自分にそっくりなだけに気兼ねなく普段の不満や苦労を口にする。そしてそれに同調できてしまうから、また気が合ってしまう……彼女たちは思いの外に仲良くなっていた

 

「それでね、ホント遊矢が酷いのよ。何度注意しても同じことを繰り返すし、今日なんて映像投影装置(ソリッドビジョンシステム)を壊したのよ?ホンット信じられないわ!」

「落ち着いて柚子。…でも気持ちは分かるわ、風斗も何かを思いつくたびにみんなを驚かすようなことをするの。予想を斜め上に大きく上回って……ハァ」

 

お互い笑い、お互い怒り、お互いため息を吐く。鏡写しのようなこの光景だが……瑠璃の顔から、憂いは取れてなかった

 

「…瑠璃、大丈夫……?」

「…ごめんなさい…せっかく励ましてくれてるのに……」

 

こちらを伺い心配してくる柚子に、瑠璃は笑みを顔に貼り付けながら謝った

 

……日没から2時間……白星風斗はやって来なかった。最初は時間が少しかかっているだけだと、待っていた。5分…10分…30分…1時間と……

 

しかし、いつまで経っても彼はやって来ない

 

「風斗……」

「…ねぇ瑠璃。その風斗って人って……」

「…本当に、色々と変わった人なの…変な言葉を喋ったりするし、子供っぽいところもあるし、時々人の話は聞かないし……」

 

正直、異世界人という点を理解した上でも訳の分からないところもあった。突拍子もなく色んな事をしでかす彼は、理解の範疇から外れるときもあった

 

…だけど……

 

「けど、風斗はデュエルがとても強いし……何より優しいの。いつも誰かのために戦って……いつも1人で、無茶なことして……」

「瑠璃……」

 

自分を犠牲にしてでも瓦礫の雨から私を救ってくれたり、たった1人で7人もの精鋭とデュエルしたり、私を助けるために…敵地に残ったり……

 

まるで自分を消耗品のように扱う彼には危うさのようなものがあった。傷ついて、それでも立ち上がろうとする彼を見て、なんとも言えない気持ちになる

 

この込み上がってくる感情(もの)はなんなのだろうか?彼のあのような姿を見るたびにこんな気持ちになってくる、この思いは一体…?

 

風斗の渡した手紙は、柊修造の手に渡る前に瑠璃は読んでいた。当然カードも見ていた。そして、未だに彼は迎えに来ない……胸中にざわつく不安が、彼女に最悪の想像を駆り立てた。目からハイライトを失い、力なく項垂れる。悪夢のような言葉が、脳内を駆け巡る

 

(風斗は…風斗は……もう……)

 

 

 

ピンポーン……

 

柊家のチャイムが、玄関から鳴り響く。すっかり暗くなった夜の世界に、唐突に聞こえてきた訪問者を知らせる音色

 

瑠璃は急に立ち上がり、部屋から飛び出した

 

「え、瑠璃?!」

 

困惑する柚子の声も、彼女の耳には届いてなかった。玄関に向かって早足で歩き、髪の束を大きく揺らす

 

居ても立っても居られなかった。確信も根拠もない。何かを感じ取ったように、想いと願いだけを原動力に歩く

 

『はい、どちら様でしょうか?』

『ハァ、ハァ、ハァ……夜分遅くに、すみません…。黒咲瑠璃という娘を、迎えに来た…白星と言います……』

『ッ!白星……では君が、白星風斗くん?後ろの子は…』

 

足に、より力が込められる。遠めに聞こえてきた知っている声が、彼女をより感情的にさせた

 

ようやく着いた玄関で視界に映ったのは……赤いTシャツと青いジーパンに灰色のパーカーを腰に巻いた、ユートや兄と同じくらいの想いを抱く人

 

 

 

 

 

スタンダード次元に無事辿り着いたものの、どうやら向こうでかなりの時間を食っていたようで、オマケに時間が時間なだけに遊勝塾がどこなのかも聞き出せず、町中が少し暗いのもあって気がつけば8時を過ぎているだなんて大遅刻をしてしまった

 

こんな夜遅くに迷惑だとは思うが、話は早く終わらせておきたかったので柊家へGo、玄関での会話で話が通っていることから瑠璃も来ているようだ…って

 

「…あっ……」

「ん?……瑠璃ちゃん…?」

 

噂をすれば何とやら、肩で軽く息をしながら瑠璃は玄関に現れた。特に怪我などもないところから、何事もなく遊勝塾に辿り着けたようである

 

「瑠璃、どうやら大丈夫そう…ってウオッ?!」

 

いきなりだった。距離を一気に縮めて来て、瑠璃は僕の胸元に飛びついてきたのだ。その小さな手で赤い服を強く握りしめ、フルフルと身体を震わす

 

「瑠璃……?」

 

胸元に、生温かい感覚が走る。何かで濡らされたような水の感触、僕の服の胸元が濡れていた。急な感覚に思わず瑠璃を見下ろし……絶句してしまった

 

瑠璃が泣いていた、目を閉じて涙を流していた。何故泣いているのか、は考えれなかった。それよりもヤバいことが容易に想像できたから

 

こんな光景見られたら…黒咲に殺される……!

 

「る、瑠璃!?なんで急に泣いてるんだ?!何かあったのか?!」

 

黒咲に八つ裂きにされる未来を幻視してしまい、思わずテンパりながらも瑠璃を落ち着かせようとする。ヤバい、何で泣いているのか見当もつかない。女の子って涙脆いの?涙腺弱いの?確かにうちの妹もよく泣いていたが

 

「……事で……良……た……」

 

蚊の鳴き声にも満たない、極小の呟き。それをしっかりと聞き取ろうとし……もう1度、黙ってしまった

 

「良かった……風斗が、無事で……生きてて……戻ってきて…くれて……」

「…………」

 

何とも、言えない気持ちだった。正直なところ、こんなことを言われるなんて思ってもいなかった

 

前世で車にはねられて死にかけた時は、家族全員が涙を流したとお母さんが言っていた。あんな神経が図太いメンツがそれくらいで泣くものなのか、とも思っていた……けど何より、僕の生死で涙を流す人間がそういるものなのか…というのが、僕の本音だった

 

家族くらいしか泣いてくれるのを信じられなかった僕からすれば、他人は僕がどうなったところで眉1つ動かさんだろうとさえ思っていた。気分的な意味では何か思う人はいるかも知れんが……。だから、僕の生存で泣いてくれるのは前世の家族か、ガチものの聖人くらいだと思っていたが……

 

彼女は何故僕のために泣いてくれるのか。彼女が誰かのために涙を流せる優しい人間だからか?それとも…僕だからなのか……

 

「…………」

 

今やるべきことは、そんな問答ではない。僕は…瑠璃の頭にそっと手を置き、優しく撫でた。サラサラで滑らかな紫髪は、心地よい感触を掌に伝わらせた

 

「…ゴメンな、瑠璃……」

 

あの時、ユーリの襲撃の際に…僕は瑠璃を助けられなかった。結果的に助けたとかは結果論に過ぎない……いつか、別のことできっと後悔する時が来る

 

玄関で繰り広げられたドラマに感動している修造さんやいつの間にか来た涙ぐんでいる柚子や砕羽をよそ目に、次こそは瑠璃を守り通そうと……僕は心に誓った

 

「風斗……風斗ぉ……!」

「ゴメン、瑠璃……本当に…ゴメン……」

 

僕を呼ぶ声と嗚咽を漏らす瑠璃を、謝りながらゆっくり宥めた

 

時計の長針が、12を指した




長かった…本当に長かった…!第1章「始まりの次元」編、これにて終了です!タイトルの英語の意味は「脱ぎ捨てられた仮面」です。綴り自信ないですが無視していただければと思います

今回のデュエルで1つだけ不安点が。実はネットでも調べたのですが、蘇生条件を満たしてないモンスターは召喚条件無視とはいえ特殊召喚出来るのか…と言ったものです。「古代の機械混沌融合」のところです。一応修正案は考えていますが、出来ればこのデュエル描写が望ましいのであっていればと思います!

それと報告が2つほどあります。どうでもいいことと結構重要なことです

重要な方から。今回の話を通して味方サイドについた砕羽竜太郎くんですが、今後の彼のデッキを別の融合デッキにするか、オリジナルカードを許してでも「古代の機械」にするべきか!の話です。正直オリカは使わないで頑張っていこう!という意気込みで最初は書いていたのですが、段々TFとかアニメとかゆるゆるになってもうオリカ良いんじゃないの?って気持ちになってるのが本音ですスミマセン。それでアンケートを活動報告の方に書かせてもらおうと思っています。初めての企みなので色々変なところもあるかも知れませんが、こんなものだと目を瞑っていただければ幸いです。期間は3月24日まで、基準は出すべきか出さないべきかを先に10票集まった方とします。10票集まった時点でアンケートは終了致しますので、意見がある人は早めに票を入れてください

そしてどうでもいい報告。作者の魔術師オッドアイズ・帝フォート・インフェルノイドが4月で死滅することが決定いたしました。ブッダファック!猿どもはいいにしてもペンデュラムコールはあんまりだろう!あんまりどぅ!……とまぁみっともなく錯乱しましたが忘れてください

さて次回予告!

ようやくスタンダード次元についた風斗たち!この次元で頂点に君臨するLDS!そこにいる赤馬零児、彼を交渉のテーブルに引きずり出すことができるのか?

「ところで風斗、寝床はどうするの?」
「………ア゛ッ」

面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語
第16話「交渉術は土下座から」
デュエル・スタンバイ!

※6割嘘です
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