面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語 作:ジャギィ
それでは予想外な22話ドーゾ!
「エンタメデュエル」
「レディース&ジェントルメーン!お楽しみは、これからだ!」
「エンタメデュエルか。好きだよな遊矢、そのセリフ」
「うん!俺の父さんの決め台詞なんだよ!父さんは凄いプロのエンタメ
「プロの
「そうなの?どんな人?」
「ファンサービス精神旺盛な
「そうなの?どんなデュエルをするのか見てみたいなぁ!」
「いや、それだけはやめといた方がいい」
「え?どうして?」
「兎にも角にもやめといた方がいい。夢が潰れるぞ」
「夢が!?一体どんなデュエルをするんだよその人!」
「ファンサービスなデュエルだ」
歓喜の炎が、舞い上がる。それは酸素を奪い、周囲の森林を炙り、逃走の為の退路を塞いでいた。大きく揺れる赤とオレンジのサークル……その中央で、2人の男が佇んでいた
神に恵まれた体躯・頭脳・地位を利用し、他者を蹂躙し略奪し支配することに快楽と生を見出していた……周囲を欺くような白いスーツを着たそんな男は、今膝をつき、泥と土と砂で汚れながら苦痛に喘ぐ
もう1人は…レックスは、並々ならない殺意と怒りで表情を歪めている。瞳の中にはドス黒い何かが燃えており、心は狂喜と哀愁のせめぎ合いでもはやボロボロであった
(これでネフィの、愛した女の仇打ちは終わる…今までの復讐の6年は、この男を後悔させて殺すことで…ピリオドとなるーーー!)
両手に握られた2挺の拳銃。左は返り血とコールタールな黒が混ざり合って復讐の彩っており、もう片方は掌が火傷するほど熱く熱せられていて、 赤く歪められたフレームは引き金と撃鉄すら動かせないよう固まっていた。目的を遂げられるのは、左の銃のみ
恋人を大勢の人間と一緒に虫ケラのように殺された復讐者は、それでもと銃口は2つとも目の前の怨敵に向ける。乱れた呼吸を整えるべく熱気を吸い上げ、小さく咽せる。片目はガラスの粉で機能が停止し、唇の端を横断するように血涙が流れ、滴る
そんな中、かつての強者は歯が砕けそうなほど噛み締め、老熟した肉体に負荷を掛ける。敗北など許さない傲慢が彼を立ち上がらせ、懐に手を入れる。スローラーは我慢ならないといった感じで、面の皮をかなぐり捨てて怒鳴り散らす
「私の築き上げた
「そ、の……負け犬…に、今…から殺され、るのが…おま、えっだ…!」
罵詈雑言を飛ばし合い、オレンジに照らされた血まみれの身体を軋ませる
暗い夜、人気などなく、燃える闘技場の中で
引き金に力を込ーーー
「ーーー人………風斗!」
「ハイィッ?!」
急に現実に引きずり戻された僕は、思わず奇声を上げ驚いてしまう。そんな僕の様子に若干呆れながら、瑠璃は落ち着かせるように話しかけてきた
「…風斗、本を読むのはいいけどせめて返事くらいはして……」
「あぁ、うん…ゴメン。次から気をつける……それで、なんて言ったの?」
……どうやら僕は本を読むのに夢中のあまり、瑠璃の呼び掛けが聞こえてなかったらしい。申し訳ない気持ちになりながらも、瑠璃に何の用なのかを聞いた
「ご飯の用意、出来たわよ」
「分かった。今行くよ」
『もうそんな時間か』
誠に残念な限りだが、飯時となっちゃ無視することはできない。柊家の食卓は柚子(最近は瑠璃も)が牛耳っているから、いらないなんて言ったらガチで飯抜きになってしまう。……まあ余程なことを言わない限りそんなことはしないと思うが、せっかくご飯を用意してくれたのだからその気持ちを受け取らないのも無粋というものだ
本の続きはまた後で読むことにしよう。そう思い本にしおりを挟み、分かりやすくかつ汚れないように置く。借り物だから大切に扱わないとな。丁寧に本を置いた後、僕は瑠璃と一緒に応接室を出る
「今日の晩飯は何?」
「コロッケよ。遊矢くんのお母さんがたくさん作ったからって、持ってきてくれたの」
「マジか、それは楽しみだ」
遊矢のお母さん…榊洋子さんの作る飯はうまいというか何というか、安心感みたいなのがある。ガキの頃はお母さんが作る料理以外はロクに口にしなかったしなー……思い出補正というやつかもしれん
…もう、あの温かいご飯は食えないんだよな……
「……ダメダメ……」
思考がネガティヴな方向に引っ張られてしまいそうなのを、首を横に振って気持ちを切り替える。確かにもう僕はずっといるつもりだったあそこに戻ることは出来ない…
だけど、僕はこの世界で生きることを決めた。大袈裟だが、瑠璃とデュエルの未来を守る為に……大事な思い出を、胸にしまって
「?どうかしたの?」
「…いや、何でもないよ」
瑠璃がいなくなれば、黒咲は間違いなく怒りに支配されて、己を見失う。僕自身も、何をするのか予想出来ない。……あの物語の主人公みたいに、融合次元の人間を全て殺すのだろうか…?瑠璃が消えるのは、絶対に嫌だ。理由はない…分からないけど、ひたすらに嫌だった……何故瑠璃に限って、なのだろうか
先ほど読んでいた本の主人公の奪われることにより湧き上がった、苦痛に満ちた心境……僕はそれが、とても気になって仕方なかった
「………あ、やっと見つけた」
LDS首席メンバーとのデュエルから軽く10日くらいの日にちが経過した日付に、僕は珍しく砕羽を連れてLDS本社である人物を探していた
塾生は受講中なので1人で探し回っていたところで、幾つか跳ねている深い茶色と金髪のもみあげの髪型が見えたので声を掛けた。こちらを振り向いた彼の左目は前髪で隠れており、背景にバラでも映ってるかのように爽やかな笑みで話しかけてきた
「あぁ、ユーかい。僕に何か用でもあるのかな?」
「ドーモ、マルコさん。借りてた本を返そうと思って…これ、なかなか面白かったですよ。ありがとうございます」
「そうかい、それは良かった。ユーにもこの作品の魅力が分かったんだね」
実に嬉しそうに、融合コースの講師…マルコ先生ことマルコさんはそう言う
そう、あのマルコ先生である。光津の回想に出てきたと思ったら2回目の登場でカード化されてご退場した、「異星の最終戦士」大好きのマルコティーチャーであったのだ。出会いは他塾の講師という形で他の先生方に自己紹介をした際、赤馬の指示で試作融合カードをテストプレイの時に会話したのが接点であった
最初は後々面倒になると思って出来るだけ避けていたのだが、デュエルしたのをきっかけで少しずつ話したりするようになったのだ。話してみたら思った以上に良い人だと発覚した。それからはLDS内の人間では社長、中島さん、各コーストップ3人組の次くらいにはよく会う人物である
「でも、意外でしたよ。マルコさんがこんな殺伐とした本を読むなんてねぇ…もっとこう、純愛物を好むイメージだったんですけど……いやマジで」
ちなみに借りた本のタイトルは「
何かデュエル以外の暇潰しがないものか、とこぼしたところをマルコさんに聞かれてオススメされた作品なのだが、どうもこの町の住民には知られることすらないほどファンの層が狭いマイナーなシリーズ……らしい
「フフフ、見た目のイメージならホッシーも相当じゃないか。ユーのような好青年がLDS塾生を相手に全戦無敗……誰も想像出来ない、それと同じようなものさ」
「いや、それはなんか違う気が……あとホッシー止めろ。何回目ですかこのやり取り」
彼が馴れなれしいのか、僕のガードが緩いのか……こうして冗談と軽口を言い合う程度の仲ではある。けどホッシーはホント止めてくれ。間違ってでも広まっちまったら、もう気恥ずかしさでLDSに来れねえよ
「……ところで、後ろのユーはホッシーの知り合いかい?」
「え、あっはい、砕羽と言います。こんにちは……」
「そう固くならない。もっとフレンドリーで構わないから!」
「は、はぁ……」
訳ありで連れてきた砕羽は、目の前のインパクトのデカ過ぎる大人に困惑していた。僕の耳元に近寄って、疑問を囁く
「白星、この異様に独特な人は一体……?」
「LDSの融合コース講師を勤めてるマルコ先生だよ。僕はマルコさんって呼んでるけどね……今日お前を連れて来たのは、この人に関係のあることだ」
「何…?」
いつもは1人で来るLDS。最近まではあまり理由がないので砕羽を連れては来なかったのだが……今は事情が変わって、連れてくる必要が出てきたのだ。……
「……まさか、アカデミアに関係のある人間か…?こんな人は見たことがないが……」
「いや、出身も育ちもスタンダード…マルコさんはシロだよ。お前に頼みたいのは、もっと別のことだ」
「別のこと……?」
「その時になったら説明する……だが先に言っておくぞ、ディスクの準備はしておけ」
何か言いたげな様子だったが、僕の真剣な雰囲気を感じ取ってくれたのか、最新のデュエルディスクを左腕につける
こいつの今のデュエルディスクは、瑠璃と砕羽が次元転移の時に使用したアカデミア製のディスクをLDSに提供した代わりに赤馬が用意してくれた、文字通り砕羽個人のものである。流石に僕のデュエルディスクは調べたら何が出てくるか僕にも分からないから、当然解析などさせてはいない。あと愛着ゆえに渡したくない…というのもあった
「とりあえず、今日も誰かとデュエルするか……誰にしよう?」
「なら、僕とデュエルするってのはどうだい?」
ボソリと、意図せずに漏らした胸中のお小言……そして聞こえていたのか、ここでマルコさんからのお誘い。LDSのトップチームあるいはそれに準ずる実力を持つメンツには、その経験と先読みと対策によって負けることも多々ある。マルコさんもそのうちの1人…だから歯ごたえのあるデュエルをするって意味では、この提案はとてもとても魅力的と言える。……ある問題がなければ、ね
「……あーうん。僕は構わないんですけど……問題があるじゃな…」
「見つけたわ!今日こそデュエルしてもらうわよ!」
「…いですかほらー…やっぱ現れやがった……」
後ろで女の声が聞こえたので誰かを分かりながらも振り向くと…やっぱりといったところか、光津がいきり立ってこちらを指差していた。どうやらいつの間にか講義が終了していたらしく、逃げ切る前に光津に見つかってしまったみたいだ
何故光津が僕にデュエルを申し込んでくるのかというと、最初は赤馬印の試作デッキの対戦相手にいつもの3人+αで選抜しててデュエルをし、負け越してくると向こうから挑んでくるようになったのだが……僕がマルコさんと交流をもっていると光津が知ってから、こいつはさらに僕にデュエルを仕掛けてくるようになったのだ。具体的には、1日20戦くらい
「こないだ散々デュエルしたじゃん。20戦くらいしたじゃん1日に。デュエルしたいなら
「他の奴と戦ったって意味はない!アンタを…マルコ先生の前でアンタを倒すことに、意味があるのよ!」
『そもそも今日こそって、鬼畜連戦デュエルから3日も経ってねえじゃねえか』
「まったくだ。なんたる面倒くささ……」
悟られない程度に唇を動かしながら黒星に同意する。一応言葉の説得を試してみるものの、聞く耳持たずでご覧の有様である。つーか、こいつのリベンジマッチにはどう見ても私情が入り混じっている…マルコさんの前で、堂々とその理由宣言してるし。あからさまな嫉妬である。煩わしくて鬱陶しい……
「まあいいだろ。相手はしてやるよ」
だが
「た〜だ〜し〜……僕が今日連れてきた砕羽に2連勝で勝ち越すことができればなァ!」
隣で疑問符を浮かべている白髪の少年を澄まし顔で指差しながら、僕は光津にそう言い放った。突然のご指名に砕羽は理解が追いつかず硬直しており、光津は目を丸くしてキョトンとしていた
「……ッ?!ハァ?!白星!?」
「こいつは僕と一緒にこの街にきた奴だが実力は申し分ないというか僕とのデュエルで4、5割近くの戦歴をもっている数少ない人間だそいつに勝てる
電源が落ちたパソコンが再起動したかのように砕羽は疑問をぶつけてこようとするが、その言葉を被せるように息継ぎ無しで早口にマシンガントークをぶっ放す。自分の主張を遮られて困惑する砕羽を一瞥しながら、光津は鼻で笑った
「人の話を聞かないわけ?私が戦うべき
まあ、そう言うだろうねぇ……煽りに弱い志島や好戦的な刀堂ならこれで引っかかるのだろうが、あいにく相手は人を見る素質がある光津だ。この程度の提案では首を縦に振らない可能性は十二分にあった……
だからこそ、連れてきたのが砕羽なのだ
「砕羽は融合使いだ」
「…何ですって?」
普通の声音で何気なく言ったその単語に、同じく融合使いの彼女は小さく反応する
光津はマルコさん、ひいては彼に教えてもらった融合召喚に強いこだわりと敬意を持っている。今後に起きるある事件を調査する為の原動力になる程に、マルコさんを尊敬している。僕には崇敬してるようにも見えなくもないが……
「砕羽を倒せるということは、お前の恩師が教えた融合が最強なのだとより証明できるわけだ。それとも何だ?大口叩いておきながら、砕羽に勝つ自信がないということかァ?ンン〜?」
とにかく、そのような感情をマルコさんに抱いている光津からすれば僕のこの挑発は絶対に怒りの琴線に引っかかる…間違いなく。その証拠に、表情は冷静ながらも明らかに怒ってますオーラが全身から噴き出していた。ちょっと引くレベルの怒気に思わず後ずさる
「……良いわ、そこまで言うなら相手になってやろうじゃない…!砕羽って言ったわね?デュエルをするから早く着いてきなさい!」
そういって砕羽を睨みつける激おこ真澄ん…睨まれてる砕羽はあんまりな理不尽に声を荒げた。真剣なさっきの顔とは違い、今は混乱に満ちていた
「おいどうする気だ!?珍しく連れてこられたと思ったら、どうして俺がここまで酷く状況に振り回されなきゃいけないんだ!?」
「いや、僕もやり過ぎたと思ってるよ、ゴメン……でも、今あいつの目にはお前しか写ってないと思う。だからその、頑張れ」
「黙れ!…ま、待ってくれ!俺が白星を説得してデュエルできるようにするから、落ち着いてくれ!」
「そいつとのデュエルなんて今は良いのよ!アンタを倒して、マルコ先生が教えてくれた融合召喚の強さと凄さを改めて教えてやるだけなのよ!」
「目的と手段が入れ替わってないか!?わ、分かった!デュエルする!だから引っ張るな!」
必死に抵抗を試みるものの無駄に終わり、光津に腕を掴まれドナドナされながら砕羽は僕への怨み節を叫びながらデュエル場に続く扉の先へ消えていった。女子に引きずられるとは、デュエルマッスルが足りてねえなぁあいつ。まあ、今回のデュエルで何かしら経験値でも積み重ねられれば良いが……おっと、忘れるところだった
「すみませんマルコさん。あなたの教え子を侮辱するような発言をして」
「ハハハ…いや、こちらこそ、あの子が迷惑を掛けたみたいですまなかったよ。…でも、良かったのかい?彼、連れてかれちゃったけど」
「いえ、元々その為に連れてきましたから……それに、あいつもたまには刺激のあるデュエルをしたいでしょうからね」
そこで少しだけセリフを区切ってから「まあ、ささやかなプレゼントって奴ですよ」とマルコさんに言った。そんな言葉を聞いたマルコさんは優しく微笑み、アクションフィールドまで連れてこられた教え子をガラス越しに見た。やっぱ良い人だなぁ…見た目と言動で損してるけど
「ユーの教え子と僕の生徒…それも融合同士の戦いか。どちらが勝つか、見ものだね」
「教え子って、弟子は1人で十分ですよ。砕羽は何ていうか……後輩?腐れ縁?……普通じゃない関係なのは確かですね」
なんせ、元は殺す殺されるの関係だったのだから。センチになっていたのを含めても気まぐれで生存することが出来た砕羽は、別の価値観とそれの為に戦う人間を知ってアカデミアに疑問を見出せた。自分にとっての間違いを認めて…砕羽竜太郎は埋め立てられた己を取り戻した。そして、アカデミアを止める為に今は僕と一緒に行動している……人生ってのは、ホントに分かったもんじゃねえなぁ……
「へえ?ユーには弟子がいるのかい?それは是非とも会ってみたいものだね」
「…まぁ、いつか会えますよ。いつかね……」
……エクシーズ次元においてきたウチのバカ弟子は…暗斎は、今頃どうしているのか。手紙通りに修行を頑張っているのか、それとも僕を恨んで何もしてないのか。そもそも生きてるのか?カードにされたのか?一瞬エクシーズ次元に戻りたい衝動に駆られるが、それを実行すれば赤馬が僕の行動をどう捉えるかが若干不安だ
それにそんなことをすれば、皆に黙って出て行ったことが無意味になる。皆といれば、きっとエクシーズ次元に未練が残る。過ごしたのがたった2ヶ月でも、あそこは僕にとってこの世界の故郷みたいなものだ。そこに留まることは一時の幸せだろうけど…それじゃあ、一生融合次元に蹂躙されることになる。ここにいるのは、ハートランドを救う為の決意だ。その為に皆に任せてスタンダードに来た。あいつらを信じて、ここに来たんだ…なら、僕のやることをこの次元でするだけだ
「頑張れよ…砕羽」
なんにせよ、これで最大の脅威は取り除いた。あとはゆっくりじっくり適当に対戦相手でも選んで、いつも通りデュエルするだけだ
「それじゃ、僕はそろそろテスターの仕事をしてきますので……デュエルが終わったら迎えに行くと、砕羽に伝えといてください」
迎えの伝言を頼むと快く頷いてくれたので、大丈夫だなと安心しながら僕は別のデュエル場に向かって移動を開始した
さて…今日は誰と相手をするかなっと
鼻歌交じりにそんなことを考えながら、デュエルをしたり観戦したりの塾生たちを見比べる。僕の登場に皆はどよめき、全員が自身と僕を除いた人間全てを見渡す。視線と雰囲気が物語っていた。今日は誰がデュエルをするのか、と
「誰にしよっかな〜」
闘志を微塵も感じさせない間延びした声を吐き出す。
現状LDS塾生相手に無敗の
「ハッ!どいつもこいつもだらしねえ奴らだぜ。ここはこの俺が直々に、LDSにやってきたっつー噂の奴をケチョンケチョンに……って、何でテメェがここに居やがる?!」
『あ、沢渡』
というか沢渡だった。名前は忘れたがいつも付き添っているであろう3人の取り巻きを率いて現れた。僕の顔を見るなり口をあんぐり開けて一瞬だけ固まるが、すぐに指を指して大声でまくしたてていた。あーもううるさい、脳に響く……
すると取り巻きの1人の…えっと、大……いや、山……何だっけ、名前忘れたや。この世界じゃ異常なくらい普通な濃い緑の髪型の奴が、そんな困惑する沢渡に話し掛ける
「あいつッスよ沢渡さん!沢渡さんが留守の間にLDS内を荒らし回ってる
「何だと!?オイお前!どういうことか説明しやがれ!」
いや、むしろ僕が聞きたいくらいなんだけど。噂って何?荒らし回ってるってマジ何?何だかその噂とやらに尾ひれがついてる気がするんだけど……でも沢渡の質問には最初のも含めてしっかり答えられるから、その辺はハッキリ答えて誤解を解いておく
「噂とやらがどんな内容かは全く知らんが…僕は別の塾から出張みたいなもんでこの塾に来てんだよ」
あと新カードのテスターも兼ねてだけどね。このデュエル塾にいる本当の理由はLDSでも上層部のトップチームのメンツか赤馬社長とその周囲の人間しか知らなく、その他のLDS生たちには別塾の講師の出張という形でここにいることを説明している。だからこれで納得してくれる筈なのだが……
「じゃあ何でLDSでしか教えてない3つの召喚法が使えるんだよ!おかしいだろ!」
今度は赤土色の髪色の取り巻きがそう反論してくる。あぁ、なるほど…なんかデュエル中周りからやたら視線を集めると思ったら、僕が融合・シンクロ・エクシーズを使っていたからか。んーでもなぁ、テストプレイのカードは全部が3つの召喚法のどれかに関するカードばかりだからな〜……怪しまれる訳は分かったけど、許可なしにテスターのことを話すわけにはなぁ…。赤馬曰く、カードは未完成だし塾生たちも使うにしてはまだ未熟だから、らしいんだけど……どうしたものか
「テメェみてえな怪しい奴、放っておいたらLDSの名折れだぜ。デュエルだ!俺が勝ったら、テメェが知ってることを全部話してもらうぜ!」
「沢渡さん!どうか俺たちの仇を!」
「なーに!お前たちから聞いた話通りなら、俺が負けることはないぜ!デュエルに勝った後のデザートを用意して待っていな!」
「おぉ…デュエルを始める前からもう勝利宣言とは…!」
「「「流石!沢渡さん!」」」
「そう!俺様こそ、沢渡シンゴ!!」
何か知らない間にトントン拍子で話が進み、デュエルをする流れになってしまった。奇妙な連帯感で沢渡を褒め称える取り巻き3人組と、これまた奇妙なポーズで勝利宣言をする自分に酔う沢渡……なんだこの茶番
しかし、知ってること全部、か…ここでいう知ってることって、何故僕がLDSにいるかってことに関連することだよな……どうしよ、喋っていいものか…
「沢渡!テメェじゃ勝てねえよ!止めとけ止めとけ!」
「僕たちじゃライフを減らすこともできなかったのに、沢渡じゃ勝負にすらならないだろうね、刃」
「うるせえぞテメェら!俺はテメェらと違って、持ってる男なんだよ!俺の本気をこのデュエルで見せてやるぜ!」
刀堂と志島にからかわれてこめかみをひくつかせながら沢渡はそう言い返す。うぅむ、テスターの仕事も考えれば願ったり叶ったりなのだが…返答に困るな
「いつまで黙ってるつもりだ!さっさとデュエルディスクを構えろ!」
「分かった分かった。デュエルだろ?負けたらお前の質問に答えることを検討しておくよ」
……まあ、一応保険はあるし特に問題はないだろう。沢渡もプレイングはいい方だが、テストプレイのデッキも元々は僕が渡したカードの複製みたいなもんだ。よほど相性が悪くない限りまだ僕が勝てるだろう
左腕に装着されたデュエルディスクからカードをセットする赤い光の板がブーメランの形状に伸びる。それを僕は前面に出し、思わず湧き上がった高揚感により笑みを不敵に浮かべる
「だが、負ける気なんざさらさらないぞ?負けた時の言い訳は、今のうちに考えておけよ?」
「ンだとォ!?そこまで言ったからには手加減抜きだ!覚悟しやがれ!大伴、アクションフィールドを用意しろ!」
「アクションデュエルをするつもりですか沢渡さん?!流石に勝手にするのは……」
「勝手にやろうが問題ねえだろうが!とっととこいつをぶっ倒すんだから早くしやがれ!」
「わ、分かりましたよ!……機嫌が悪いとワガママだなぁ、あの人」
沢渡の怒号に背筋をピッと伸ばして
そんなどうでもいいことに思案しているとマイクのスピーカーからキィーン…とハウリングが小さく鳴り響いて、そこから茶髪くんの息切れする声が音量を上げて聞こえてきた。どうやら全力疾走したみたいだな…お疲れちゃん。乱れた呼吸音は徐々に落ち着いていき、軽く深呼吸をしてから……取り巻きはフィールド魔法をセットする
『アクションフィールド、オン!フィールド魔法「嵐雪の氷海」!」
ドットのような小さい四角のツブツブが下から上を塗り潰し…白と青の世界を作り上げる。北極や南極のように降り積もった白い雪が圧縮されて固まり、広大な大地として形成される。その白銀の世界には小ぶりなものから山のように巨大なものまでの大きさの、空色の透明な氷が杭の如く地面に突き刺さり、灰と白の雲空とは正反対に彩りを与えていく。白い地に踏みしめた僕の背後は険しい崖であり、荒ぶる氷海が水流を渦巻きながら崖下の氷を小さく削った
「うえぇッ?!寒あぁ〜〜!!マジさっむあぁ〜〜……!」
『実際は全然寒くないがな』
その美しくも残酷な大自然の情景に、頭のてっぺんから足のつま先まで拒絶反応が起こる。掌を擦り合わせ、鳥肌がたった腕を摩擦熱で温め、身体を小刻みに震わせ体温を維持させる。…1つの問題を挙げるとするなら、僕のこの行動は滑稽以外の何者でもない…といったところだろうか
も〜マジヤダー!何だってこんなクソ寒そうなフィールド選んだんだよ!実際はそうでもないのに見ただけで震えが止まらない…!デュエル大丈夫だろうか…?否!大丈夫とかじゃなくてやるしかない!デュエルは常に全力よ!
「戦いの殿堂に集いし
そんな意気込みで自分に発破をかけていると、刀堂が竹刀を突きつけながら口上を述べていた。その横には実に様になっている顔つきで笑っている腕組みをしている志島。その
今回はお前たちか……何気に見たことないな、こいつらでアクションデュエルの口上は
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ!これぞデュエルの最強進化系!」
「「アクショ〜ン……」」
「「デュエル!!」」
白星 風斗 LP4000 手札 5枚
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 5枚
「先行は俺がもらうぜ!俺は手札から「ゴブリン突撃部隊」を召喚!」
胸元だけにぶら下げた胸当てと丸っこい兜を被った全身真緑のゴブリンが、棘のついた黒い棍棒を手に何体も現れ、1箇所に集まり1つの部隊となった
ゴブリン突撃部隊
レベル4 ATK2300
「ゴブリン突撃部隊」?あいつのデッキって、初期は「ダーツ」だとかのデッキだった気が……いや、コロコロデッキ内容が変わるような奴だからな。今のデッキは攻撃力の高いモンスターだけを使った寄せ集めビート、といったところか?でも、あの攻撃力は若干面倒だな…「突撃部隊」に除去カード使うのもなんか勿体無い気がするし
「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」
白星 風斗 LP4000 手札 5枚
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 2枚
ゴブリン突撃部隊
レベル4 ATK2300
伏せカード 2枚
ターン終了を告げると、沢渡は周りを見渡し始める。その視線の先には、いくつもバラバラに散らばったアクションカードのうちの1つが落ちていた。アレを狙っているのか…ならば取る!
沢渡が動くよりも先に身体を走らせながら、デッキからカードを引き抜く
「僕の、ターン!」
「あ!俺のアクションカードを横取りする気か!?」
誰も拾ってないんだからお前のものではないだろ。少し遅れて向こうも全力でダッシュして取りにかかるが…あいにく、身体は鍛えてるからメチャクチャ速いんだよねぇ!出遅れた奴に取られるなんて、なおあり得ないね!
固まった雪の大地は凹凸が激しくて非常に走りづらかったものの、柱のように高く積み上がった雪の窪みに指を一瞬突っ込み…引き抜く。その手には目的のアクションカードが収まっており、そのカードを確認してニヤリと口角を浮かべる。これは、良いカードを取ったもんだな
「手札から「炎竜星–シュンゲイ」を召喚!」
空に、熱気が収束され炎が現れる。急に吹き上がった炎を掻き分け現れたのは、胴長で薄い赤の鱗と小さな翼を持った竜。しかし、その顔と四肢は猛獣のような獰猛さを剥き出しにしており、陽炎で周囲を少し揺らしながら「シュンゲイ」は吠えた
炎竜星–シュンゲイ
レベル4 ATK1900
「攻撃力1900だ?ハ!そんなモンスターじゃ、俺のモンスターを倒すことなんて出来ねえぜ!」
「甘いな。僕の手札に何のカードがあるのか、もう忘れたのか?」
「ッ!俺のアクションカード!」
だからお前のじゃないって。この頃の沢渡は俺様度が酷いな〜…
「バトルフェイズだ!「炎竜星–シュンゲイ」で「ゴブリン突撃部隊」を攻撃!そしてダメージステップ開始時にアクションマジック「極北の追い風」を発動!エンドフェイズまで「シュンゲイ」の攻撃力を500上げ、逆に「ゴブリン突撃部隊」は攻撃力を500ダウンさせる!」
「何だと!?」
炎竜星–シュンゲイ
レベル4 ATK2400
ゴブリン突撃部隊
レベル4 ATK1900
攻撃力が逆転する。炎竜が激しく燃え上がる火の玉を「ゴブリン突撃部隊」に向かって吐き出す。瞬間、身体が揺らされるほどの北風が1方向に吹く。それは風や氷程度では弱まらない火球を加速させ、逆に地上にいる戦闘部隊の隊列を乱す。混乱に陥る中、炎は雪と氷が混ざった地面を蒸発させながらも着弾し……爆発。爆風は「ゴブリン突撃部隊」と近くにいた沢渡を吹き飛ばし、僕のところへは生暖かい風で衣服を少しバタつかせる
沢渡 シンゴ LP3500 手札 2枚
吹き飛んだ沢渡は雪の山に頭から突っ込み、手足をジタバタさせて冷たい拘束から逃れた。肩で息をしながら、忌々しそうに僕を睨んできた
しかし、伏せカードは使わなかったな……使えなかった?それとも展開補助か……「ゴブリン突撃部隊」が入る展開型のデッキって何だ?まあ、やってみりゃ分かるか
「プハァ!テメェ、やってくれやがったなぁ!」
「何で僕に怒るの?何にも悪くないのに…カードを1枚セット。エンドフェイズに「シュンゲイ」の攻撃力は元に戻る。これで僕はターンエンドだ」
白星 風斗 LP4000 手札 4枚
炎竜星–シュンゲイ
レベル4 ATK1900
伏せカード 1枚
VS
沢渡 シンゴ LP3500 手札 2枚
伏せカード 2枚
「俺のターン、ドロー!来たァ!やっぱり俺ってば、カードに選ばれ過ぎィ!」
「カードに選ばれる、だと?とんだロマンチストだな!」
「ほざいてな!この勝負、俺の勝ちだぜ!俺はこのカードを、リリースをなしで召喚する!来い!「神獣王バルバロス」!!」
白い地を割り、抉り、巨大なナニカが突き抜ける。槍だ。成人男性の平均身長の倍の長さは軽くある巨大で赤い槍が、螺旋を描いて
イヌ科のような形状の黒々しい肉体…鞭のように細くしなやかな尻尾の先端には、武器の槍のように鋭利に硬質化し血のような色に染め上がっていた。そして、その肉体から上は…鍛え上げられた人間の上半身。たてがみを彷彿させる長く荒れた金の髪…両こめかみから顎にかけて伸びた、金色の機械パーツ。
神獣王バルバロス
レベル8 ATK1900
「バルバロス」…だと?何でこのタイミングで…同じ攻撃力だから相打ち狙い、いやアクションカードか?だとしても勝ったって……あれ?なんか凄く嫌な予感が……
「「バルバロス」はリリースなしで召喚することができる最上級モンスター!もっとも、リリースなしで召喚すれば「バルバロス」自身の効果で攻撃力は1900ぽっちになっちまうが……これと組み合わせれば何の問題もない!永続罠「スキル・ドレイン」を発動!」
「……スキル……ドレイン………?…「スキル・ドレイン」ッ?!」
それはライフコストを1000払うことで、存在するだけでフィールドにいるモンスターの効果を永続的に無効にする所謂メタカードと言ったやつだ。だが、僕がいた世界ではこのカードを主軸にした簡易なビートデッキが存在していて……
待てよ、「ゴブリン突撃部隊」は攻撃したら2ターンは守備表示になるデメリットモンスター…それに「バルバロス」?……まさか…当たらずとも遠からずってところだが、沢渡の使ってる今のデッキって「スキドレビート」!?
「何ィィィーーーッ!?」
「驚いたか!「スキル・ドレイン」の効果で1000ポイントも俺のライフはなくなっちまう訳だが……」
沢渡 シンゴ LP2500 手札 2枚
「代わりにフィールド上のモンスターは全て効果をなくす!お前のモンスターは効果を封じられるが、俺の「バルバロス」はむしろ自分の効果の制限が解除され、真の力を発揮する!」
初期ライフの1/4が沢渡のライフから引き抜かれる。それと同時にフィールド全てのモンスターの特殊な力を奪っていく……が、沢渡の場に限ってそのモンスター効果で力を制限された王が鎮座している。本来毒となるその力は「バルバロス」にとっては呪いを解く薬であり、見えない鎖でも解き放たれたかのように神獣王は立ち上がり、神に準ずる威圧感を放った
神獣王バルバロス
レベル8 ATK3000
「俺は柿本たちから全部聞いてんだよ!お前が3つの召喚法を使いこなせることも!その中から特にシンクロ・エクシーズをよく使っていることも!モンスター効果を多用するデッキを使っていることもなぁ!」
「くッ……」
「そしてお前はライフを削られても、余程のことがなければ防御しないことも聞いている!つまり!お前は防御カードや回復カードを最低限にしか入れてない、攻撃特化のデッキって訳だ!」
痛い、ホントに痛いところを突かれた。沢渡の言ってることは半分以上が正解だ。僕はOCGの環境慣れゆえに、ライフが大幅に減らされようと「最終的に勝てばよかろうなのだァ!」理論を地で行ってるのだ。だから隙を突くようなワンキルデッキ相手によく負けることがあった…「サイバー」とか「クラブレライロ」とか
だからこそ、それを沢渡に指摘された今は酷く動揺していると思う。ちなみに当たってない半分は、このデッキの「竜星」は破壊後に発動する効果が主だから「スキドレ」はそこまで脅威ではないこと(それどころかデッキに入ってすらいる)と、シンクロ・エクシーズを多用するのは単にそれらのカードの開発の方が多かったからである。まあ、今となっては蛇足か…それよりも現状だ
伏せカードは「竜星」のリクルートを加速させる「竜星の具象化」…「ビシキ」でも特殊召喚して素材にすれば「スキドレ」の効果は回避して「ガイザー」や「ショウフク」をシンクロ召喚できるから、あとはそれらの効果で「バルバロス」を除去して……
「だが、俺はさらにその上を行くぜ!装備魔法「巨大化」を「神獣王バルバロス」に装備!」
「ハ?」
「「巨大化」の効果は俺のライフが少ない時、装備モンスターの攻撃力を2倍にする効果!つまりィ!攻撃力は6000!1ヶ月前に見たデュエルは忘れてねえぜ!中途半端にダメージを与えて反撃されるなら、1撃で倒すのが1番だぜ!」
「スゲェ!ワンキルする気だぜ!」
「さっすが沢渡さん!」
神獣王バルバロス
レベル8 ATK6000
ただでさえの巨躯が、見上げるほどに大きくなる。フィールドの1割は支配する巨大な化け物を前に、とうとう僕は悲鳴を上げてしまう
「ファーーーーーッ!?」
「口から変な悲鳴叫んでるけどあの人!?」
「おい!あいつまさか沢渡なんかに負けることはねえだろうな!?」
志島が僕の恐怖の悲鳴を指摘し、刀堂は焦燥しきったかのような叫びをあげるけど、物凄く言い返したかった。余裕ないから言えないけど
いやいやいやだって6000って!OCGなら全くもって怖くはないけど、この世界4000が初期なんだからね!?しかも伏せてる罠も破壊を前提としたカードだからダメージは絶対もらうことになる訳で……6000から1900引いても4100、普通にワンキル圏内じゃねえか!
ヤバい!アクションマジック探さないと負ける!沢渡に!
「アクションカードで攻撃を躱すつもりだろうが、そうはさせねえぜ!やれ、「バルバロス」!あいつをモンスターと一緒に吹き飛ばしてやれ!」
「出た!」
「沢渡さんの」
「「「トラップコンボォ!!」」」
「やかましい!どこぞの鮫の取り巻きだよお前らは!イラッとするぜ!」
あまりに鬱陶しさに思わずツッコんでしまった。そんな余裕全然ないのに。ヤバい、アクションカード早く探さないと
「バルバロス」は身体をゆっくりと動かし、その槍をこちらに向けて構える。攻撃を回避する為に、目を細めて遠くを見て走り回って必死にカードを探してみるも、どこにも落ちていないのかアクションカードは全く見つからない。ヤバいヤバいヤバい!ヤバいがゲシュタルト崩壊するほどヤバい!このままじゃ……
『すぐ近くの氷の塊だ!ちょっと左の方にアクションカードが!』
不意にそんなセリフが頭に鳴り響く。言葉に従って左方向の手前を見ると、確かに小さめの氷の山がありアクションカードが2枚も存在していた
……氷の中に
「何でェ!?」
よりにもよってな事実と理不尽に文句を言わずにいられなかった。確かにあったよアクションカード!でも何だって氷の中に閉じ込められているんだよ!?試しに氷に手を当ててみるも、伝わるのはひんやりとした冷たい感触だけ
「クッソ、「シュンゲイ」!早くこれ砕け!」
瞬間的に僕は近くの炎の竜に命令を下す。僕の意図でも汲んでくれたのか、「シュンゲイ」は長い尾に力を少し込め…勢いよく氷山に叩きつける。中心部から砕けたからか、アクションカードはすぐに解放されたが、2枚あるからどれを取ればいいのか一瞬考え躊躇してしまう……が、後ろには既に空気を震わせ回転しながら迫り来る巨槍。マズい!
迷った挙句適当に右のカードを無造作に掴み、それを素早くデュエルディスクにセットする。頼む、使えるカードであってくれ…!
「アクションマジック……「回避」ッ発動!モンスターの攻撃を無効に…うおぁ!」
渦を巻いた衝撃波と槍が見えない壁に遮られる。激しい激突音に思わず耳を塞ぐも、衝撃の余波が周りの雪を掻き分け、僅かな水分へと変質する。どうやら、防ぎ切れたみたいだ
自分の確信した勝利を止められたことに沢渡は憤慨し、子供じみてその場で地団駄を踏む
「俺の攻撃を防いだだと!?クソ、計算外なことしやがって…!俺はこれでターンエンドだ!」
白星 風斗 LP4000 手札 4枚
炎竜星–シュンゲイ
レベル4 ATK1900
伏せカード 1枚
VS
沢渡 シンゴ LP2500 手札 1枚
神獣王バルバロス
レベル8 ATK6000
(装備)巨大化
スキル・ドレイン
伏せカード 1枚
「フ〜…何とか防いだか、ヒヤヒヤさせやがって」
「形勢は厳しいね。「スキル・ドレイン」でモンスター効果は封じられて、逆に沢渡はそれを利用している。ここから巻き返すのはかなり難しいね」
「あぁ…だが、あいつには何としても勝ってもらわないとな……」
状況の厳しさにため息を吐いていると、LDS主席3人組の男2人がそんな会話をしていて、心にグッとくるものが込み上げてきた。あいつら…普段はリベンジどうこううるさい奴らだけど、僕の勝利を望んでくれるなんて…なんて、なんてーーー
「「俺(僕)たちが沢渡より弱いなんて言われたら最悪だからな(ね)」」
なんて自己的でクソッタレなガキ共なんだ。込み上げてきた感動的感情は速攻で駆逐され、何かもう負けても良いんじゃないかって気持ちすら湧き始めてきた
でもまあ、沢渡に調子に乗られるのも腹立つのは確かだし、ここは見逃してやろう。感謝しろよな……次言ったの見つけたら満足ループの刑だけど。より巨大になった「バルバロス」の肩に乗ってこちらを見下ろしている沢渡を見ながら、そんなことを僕は考えていた
「僕のターン!ドロー!…キッツい……」
手札があんまりよろしくない。チューナーモンスターの1枚である低ステータスな「闇竜星–ジョクト」、墓地のモンスターをデッキに戻してドローする「貪欲な壺」と2枚の「竜星の輝跡」、そして今引いた「禁じられた聖槍」……この状況じゃあからさまに手札事故である。特に「貪欲」と「輝跡」。何でお前らそんなにダブってんだよ、仲良しなの?兄弟なの?それとも姉妹?どうでも良いわそんなこと
この状況の打破は一応可能ではある。適当な攻撃力増減のアクションマジック…このフィールドじゃあ「極北の追い風」か?…で「シュンゲイ」と「バルバロス」の攻撃力差を1000までに開かせ、「竜星の具象化」を発動してから「シュンゲイ」で自爆特攻。僕のライフは900まで激減するが、そうなれば「バルバロス」に装備された「巨大化」の効果…自分のライフが相手より多い場合、装備モンスターの攻撃力を半減させる効果で攻撃力は1500まで下がる。あとは戦闘で破壊した「シュンゲイ」と「具象化」の効果で、デッキのもう1体の「シュンゲイ」と適当な「竜星」を特殊召喚すれば「シュンゲイ」でそのまま「バルバロス」を戦闘破壊……出来るんだけど、3つほどの問題が残っている
1つは沢渡の残してある伏せカード。最初の「シュンゲイ」に反応しなかったところから「ミラフォ」とかではないと思いたい…けど、その辺は確信が持てないから下手に攻撃して反撃でももらったら、返しのターンで「バルバロス」ダイレクトで負ける。2つ目はそもそもそのアクションカードを拾えるかどうか…何か使えないアクションカードだったら、どうしようもないから目に当てられない。そして仮に伏せカードが使われずに終わったとしても、その時点で僕のライフは900。「スキドレビート」な以上、「ガンナードラゴン」とかを引かれた時点でアウト……
「……いや待て、シンクロ召喚は出来るよな」
そうだ、低い攻撃力を晒すことを危惧していたが、そもそもこのデッキのシンクロモンスターの攻撃力は高い。少なくとも、2000とはその辺は容易に越すから棒立ち状態でもそこまで問題ではない。ライフが1でも残っていれば、「竜星」特有の再生力で一気に次のターンに巻き返すことが出来る…なら、特殊召喚するのは「シュンゲイ」じゃなくて1600の「地竜星–ヘイカン」
あとは「具象化」で「水竜星–ビシキ」も特殊召喚して、メイン2に手札の「ジョクト」を通常召喚。レベル3の「ヘイカン」と2の「ビシキ」に、2の「ジョクト」をチューニングして「闇竜星–ガイザー」をシンクロ召喚すれば…かなり状況を立て直せる!
「おい!いつまで考えていやがる!とっととターンを進めろ!」
「…待たせたのは悪かった。だがおかげで、この状況をどうにかする算段がついたぜ」
「何!?」
周囲を見渡し…遠目に見える雪のオブジェの天辺に、透明の球体に包まれたカードを発見する。それに向けて全速前進する
『っておい!?何やってんだ、止まれ!』
すると何故か黒星が制止の声をあげるが、勝利を目指す僕の足はとうぜんノンストップである。いや、止まれる訳ねえだろ!いつアクションカードが取られるか分からない今、早く
これは賭けだ!守備に徹すればいいだけなのかもしれないけど、何らかの手段でダメージを与えられたら負ける…なら殺られる前に殺る!そういう賭けなんだよ!
「伏せていた永続罠「竜星の具象化」を発動する!そしてバトルフェイズ!「炎竜星–シュンゲイ」で「バルバロス」を攻撃!」
「ハァ!?あいつ何やってんだよ!?」
「このままじゃ、「バルバロス」の反撃でライフが一気に0になるぞ!」
僕の攻撃指示に素っ頓狂な声で異を唱える刀堂と志島。それでももう止まらない。「シュンゲイ」はどこか寂しそうに唸り声を漏らすが、少しして意を決したように空を飛び「バルバロス」に火球のブレスを撃ち込もうとする。その攻撃を無謀と捉え、沢渡は嘲笑する
「ヤケにでもなったか!そいつの攻撃力はたかが1900!6000の「バルバロス」の反撃によって、4100のダメージでお前は終わりだ!」
「ンな訳ないだろうが!お楽しみは…これまでだ!」
高くジャンプし、カードを守る丸のベールを指で突き破り弾けさせる。手に取ったそれを確認し…ほくそ笑む
罠カードの発動もない…いける!デュエルディスクにカードを差し込み、カードの発動を宣言する
「ダメージステップ開始時に、アクションマジック「極北の追い風」を発動!「シュンゲイ」の攻撃力が500上がり、「バルバロス」は500下がる!「竜星の具象化」が場にある限り、モンスターが戦闘破壊されればデッキから「竜星」モンスターを特殊召喚することができる!そして僕のライフがお前のライフを下回れば、「巨大化」のデメリットを「バルバロス」は受けることになる!」
「そうか!わざとダメージを受けることで、「バルバロス」を弱体化させるのが狙いだったのか!」
「沢渡の罠カードを見てたあたり賭けだったみてーだが…こいつは決まったぜ!」
これで「シュンゲイ」は破壊され3100もの戦闘ダメージを受けることになるが、「バルバロス」は元々の半分の攻撃力となり「シュンゲイ」と「具象化」によってデッキから……
「アクションマジック「ノーアクション」を発動!お前のアクションマジックの発動を無効にするぜ!」
「……え?」
本日何度目かも覚えてない、間の抜けた声。目を何度も擦り、改めてみるも……それは、信じたくないが僕の敗北を決定付けるカードだった
そして沢渡の位置をよく見てみると、それは僕が「シュンゲイ」に砕かせた氷に閉じ込められてたアクションマジック…それの残りであった。……そういや、2枚あったっけ。あのアクションカード
そうか、だからあの時もう1人の僕…黒星は僕に止まるように呼びかけたのか。近くにアクションカードがあるのにわざわざ遠くに取りに行く必要がないって。でもそうかーあれ「ノーアクション」だったかー……もしあっちを取ってたら最初の攻撃で僕は負けてた訳か……あれ?でも他にアクションマジックは周りになかったから、僕の負けは必然だった?
ダメージステップに入った以上、攻撃はもう巻き戻せない。攻撃力が変動しないまま、「シュンゲイ」は「バルバロス」の反撃…「スパイラル・シェイバー」を直に食らった。強烈な刺突により「シュンゲイ」は無数の粒子へと還元され、止まらない槍の一撃は大地を突き貫き……そこから発生した爆裂的な暴風が、僕めがけて一斉に襲った
当然、躱す手段なし
「アーーーーーーーーーーッ!!」
久しぶりに負けたと…そんなことを考えながら、僕の意識は一瞬だけ刈り取られた
白星 風斗 LP 0 手札 5枚
VS
沢渡 シンゴ LP2500 手札 1枚
神獣王バルバロス
レベル8 ATK6000
(装備)巨大化
スキル・ドレイン
伏せカード 1枚
「沢渡さん、マジ強すぎッスよ!」
「まさか本当に勝ってしまうなんて!」
「おいおいお前ら、俺の実力を信じていなかったのか?フッ……だが今の俺は最高に気分がいい、このことは水に流してやるよ!」
「さっすが沢渡さん!LDS各コースの首席を倒した奴に勝ったってことは、実質沢渡さんが最強ッスよ!」
「そりゃそうさ!何たって俺は知力・判断力・精神力・容姿…全てが完璧に揃った
「「「沢渡さーん!!」」」
「オーイェー!」
デュエルが終わると沢渡は実に機嫌が良さそうにキメ顔で取り巻きたちに自慢しまくっている。取り巻きたちも楽しそうにはしゃぎまくっている。そんなに勝ったのが嬉しかったか?と思っていたが、よく考えれば僕ってLDSの塾生相手なら無敗同然だったからな…対策も兼ねてとはいえ、そんな奴に唯一勝つことができたなら嬉しくもなるか。沢渡も言葉通り機嫌が良いらしく、僕に聞き出すつもりだったことも完全に頭からすっぽ抜けてるみたいである。…まあ、知ってることを話すと
そして、そんなお祭り騒ぎな沢渡たちとは別に僕は……
「白星テメェ!何で沢渡なんかに負けちまったんだよ!」
「全くだよ!これから沢渡に弱いって言われるかもしれないなんて、屈辱以外のなにものでもないじゃないか!」
「お前らな?デュエル…つーか勝負に余程の実力差がない限り絶対はないんだよ。今回は沢渡の方が1枚上手だった、ただそれだけの話だろ」
何故か刀堂と志島に怒られていた。それも物凄く。僕が沢渡に負けたことで降り掛かる自分たちへの弊害が余程嫌だったらしい
でも、実際沢渡の着眼点は素晴らしいものだった。周囲の証言と1度だけ見たデュエルだけで、僕のデッキと戦術の共通する弱点を見つけ出し、それを的確に突く。しかもこれが個人1人のメタならまだしも、多数のデッキに対して有効な対策だった……沢渡の使うデッキが分かってなければ、例え「クラブレライロ」でも厳しいものがあっただろう…先行なら流石に勝てるとは思うが
それでも明確に対策を取られれば勝てないあたり、僕はやっぱり遊戯王世界の住人としては色々足りてないと…いうことだろ。運命力とか主人公補正とか。……そういや、さっき手札に「聖槍」あったよな?あれ「バルバロス」に打てば「巨大化」の影響が消えて耐えられたんじゃ…うわしまった。混乱のあまりプレミしてしまったらしい…僕もまだまだ未熟だなぁ
「文句なら沢渡に言ってくんない?お前らが沢渡に勝てれば解決する問題なんだし……それとも何?勝てないの?沢渡に?」
「何だと!上等だ!沢渡を倒したら、次にアンタも倒してやる!」
「速攻で終わらせてきてやるから、首を洗って待っていやがれ!」
僕の挑発に心底心外!といった感じで怒った2人は、ダッシュで沢渡たちに向かって走って行った。チョロいな……
しかし全然「竜星」回せなかったな……あとで刀堂たちと一緒にデュエルしてみるか。あ、砕羽迎えに行く…のは、デュエル終わってからで良いか
「今頃どうなってんだろうなぁ、あいつ」
身代わり人形代わりに連れてきた遊勝塾の融合使いを頭に思い浮かべながら、2対1でデュエルする沢渡たちの眺めていた
というわけで沢渡完全勝利UC回でした。嘘です完全勝利ではないです忘れてください
アニメ見ながら書いていると途中の話でボロが出る時があるんですよねぇ…出来るだけ直していくように頑張ります。あとようやく次回喋ってくれるらしいぞ瑠璃ィィィーーー!!
あ、あと今更ながらですが話のテンポって大丈夫ですかね?急に色んな事を書く事がこれからもあると思いますが、基本的には詳しく書いていくつもりなので、説明不足と思ったことは感想と一緒に添えてくれると嬉しいです
極北の追い風
①自分フィールドのモンスター1体と相手フィールドのモンスター1体を対象に発動する。このターンのエンドフェイズまで、対象の自分のモンスターの攻撃力を500上げ、相手モンスターの攻撃力を500下げる
次回予告
風斗の仕事の為の囮として連れこられた砕羽。成り行きで融合使いの光津真澄とデュエルすることになった砕羽だが…?
「デュエルって、こんな楽しいものなんだな」
「融合使いとして、あなたには絶対に負けない!」
「2体のモンスターで、オーバーレイ!これが俺の、新しい力だ!」
面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語
第23話 「誉れ高き融合対決!」
お楽しみは、これまでだ!