面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語   作:ジャギィ

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怒涛の連続投稿!(2日置き)

いやぁ、書きまくってると自然と文字数が多くなっていく…これが社畜精神か……

それでは、誇り高き第23話ドーゾ!



「同居」

「風斗、無事に瑠璃は救出できたか?」
「アイエエエ!黒咲!?黒咲ナンデ!?」
「何故そこまで驚く」
「いや驚くだろ!なんで漫才次元に…いや、いいか。それより瑠璃か?今はスタンダード次元のあるデュエル塾で一緒に居候させてもらっている」
「そうか…ところで居候ということは、瑠璃と一緒に寝ているということか…?」
「そんなことはないから「ライズ・ファルコン」しまえ」
「お前には鉄の意思と鋼の強さが備わっているな」
「まぁ色々不便なのは変わらないけどな。この間も風呂入ろうとしたら瑠璃がいたのに気がつかなくて……」
「何だと!?」
「ア、ヤベ」
「「ブレイブクロー・レボリューション」!!」
「待て黒咲あれは事グワァーッ!」


誉れ高き融合対決!

「ハァ……」

 

口を開くとため息ばかりが出てくる。心なしか頭もズキズキと痛むが、これは絶対にストレスによる頭痛だ。間違いない

 

「どうしたの?早くデュエルを始めるわよ」

 

こめかみを指で押さえながらそんなことを考えていると、目の前から気の強そうな声音でそんなことを言ってくる者が1人

 

光彩の強いルビーのような瞳がはめ込まれたつり目から、キツい視線が身体を貫く。彼女の肌は活発に動くからなのか少し日焼けしており、長めに切り揃えられた黒髪を手で掻き上げる。何とも絵になる仕草なものだと思った。服装は黄色い長袖をさらに上から水色の大きめの半袖に袖を通しており、スパッツを履きデュエルディスクを入れるポーチを腰に巻いていることから動きやすさを重点に置いた服装なのだと理解した

 

そんな彼女……光津真澄の挑戦的な顔を見て、砕羽竜太郎は呟かざるをえなかった

 

「どうしてこうなった……」

 

 

 

 

 

1ヶ月ほど前にアカデミアのプロフェッサーこと赤馬零王…その息子である赤馬零児と色々な話をした。彼はプロフェッサーが創設したというLDSたる会社の2代目社長として表立って動き、融合・シンクロ・エクシーズを学ぶ最高のデュエル塾を経営していた……が、当然それは経営の為なのではない

 

彼はいずれ訪れるであろう融合次元の侵略の対抗策として、対アカデミアの決闘者(デュエリスト)を育成…そしてアカデミアを倒し、次元戦争(エクシーズ次元への侵略)を止めること。それが、赤馬零児の目的であった。俺はアカデミアが間違っていることを教えてもらった……いや、間違っているのだと気付くことができた。赤馬零王の掲げた次元統一を目的とした「アーク・エリア・プロジェクト」は崇高なる聖戦などではなく、他を犠牲に己の私欲を肥やす…そんな我欲にまみれたものだった

 

俺は、アカデミアの暴走を止めたい。次元戦争を止めたかった……が、白星と赤馬曰く「まだその時ではない」らしい。それまで自分の腕を磨き、あわよくば楽しいデュエルでもしておけ…と白星に言われ、特にやりたいことはないから修造さんの手伝いをしながら日常を過ごしていた

 

そして今日。急に白星に呼ばれて、LDSに足を運んだ。そう…それが今回のことの発端だった。強烈なキャラクターの人物と出会い、白星にデュエルディスクを準備しておけと言われて…そしたら、光津と呼ばれる女子が現れ白星にデュエルを申し込んできたのだ。そしたら……なんと俺に2連勝で勝ったらデュエルしてやるという条件を光津に突き付けたのである。ここで俺は悟った……こいつ、俺を囮にする為に今日は連れてきたな

 

しかし、ここはLDS本社で闘志に火をつけた光津はもはや止まらない。分かりやすい挑発なのにあえて乗った光津に無理矢理手を引っ張られてーー

 

……これが、今の現状に至るまでに起こった出来事である。俺が今いる場所はアクションデュエルをする為のデュエル場なのだそうだが…遊勝塾と比べたら、設備の差を痛感するな。…いや、これは修造さんや遊勝さんという人に失礼か

 

「あなた、アクションデュエルの経験は?」

 

不意に、光津がそんな質問を投げかけてきた。何で今そんなことを…?何て思ったが、別に答えても減るものではないので答えることにした

 

「この街に来てあまり経ってないからな…それでも5、6回はやったから経験はある方だな」

「そう、それは良かった」

「何故だ?」

「アクションデュエルをやったことがない…って言い訳がされなくて済みそうって意味よ」

 

明らかな挑発だ。いっそ清々しいほどに笑いを口元で浮かべながら、光津はデュエルディスクを起動させる。絹のように艶やかな髪が、一瞬だけフワリと浮かぶ

 

今の俺からすれば、アカデミアでの人生は…思い出したくもない悪夢な過去だ。親の期待に応える為に監獄のような孤島で必死に訓練をし、人として間違った価値観と倫理観を植え付けられ、それに気付かずエクシーズ次元の人たちを無差別に、無慈悲にカードに変えた……罪に溢れかえった過去

 

「……俺は……」

 

だが、俺は過去を絶対に忘れない。俺のしたことは、どんな善行を積んでも帳消しになどできない凄惨な出来事だ

 

「俺は、俺を信じてデュエルするだけだ」

 

だからこそ、人の為に戦おう。戦いたくても戦えない人たちの為に、これ以上たくさんの人を苦しませない為に……そして、みんなと一緒に幸せになる為に

 

デュエルディスクが、白い光のプレートを形成する。強い気持ちをもってして、光津を見つめる。光津はそんな俺を、少し驚いた表情で見ていた

 

「……とても、澄んだ眼ね」

「…へ……?」

「あなたみたいな眼、初めて見るわね。曇りも陰りもなくて、真っ直ぐな黄色い瞳……石言葉に「誠実」があるトパーズがピッタリだわ」

 

何だ?石言葉?トパーズ?意味は分からないが、少なくとも貶してるような雰囲気でないのは確かだと思う

 

「白星とデュエルする為の踏み台程度に考えていたけれど…考え直す必要がありそうね」

「だが、俺にも決闘者(デュエリスト)としてのプライドがある。全力でデュエルして、その上で勝つ!」

「おあいにく様、それはこっちもなの……マルコ先生が見てるもの!しっかり勝たせてもらうわ!」

 

燃え上がるような闘志、勝つという感情以外見出せないその気迫に押されるも立ち向かう。デュエルコートのアナウンスから、件のマルコ先生という人の軽快な声が聞こえてくる

 

『アクションフィールド、オン!フィールド魔法「クリスタル・コリドー」!』

 

その掛け声と共に、周囲の殺風景な景色が書き換えられる。どこかの尊大な宮廷みたいな広々とした廊下……俺の頭に一瞬だけアカデミアの見覚えのある景色を幻視させ、重ね合せるが…すぐに首を横に振り余計な考えを霧散させる。違う、ここはアカデミアではない、大丈夫。あそこは、こんなに煌びやかなところじゃない…外見も、中身も

 

「あら、私の1番得意なアクションフィールドじゃない。マルコ先生も人が悪い」

 

ふふ…と、妖艶に笑う光津を見て気を引き締める。いつかどこかで聞いたことがあるのだが、「笑う」というのは元々攻撃的行為の前兆や最中に浮かべる表情らしいのだ。そして「クリスタル・コリドー」を見てからの発言……つまりあいつは、勝てるという気持ちがより強まった…といったところか

 

だが、勝負は水物だ。勝つ時もあれば負ける時もある、だからこそ勝ちも負けも糧にしてその時に全力を出せばいい。……これは全部、白星からの受け売りだけどな。だけど、心にストンときたことから俺はこの言葉に納得して、これからも俺を支える力の1つになってくれる筈だ。ついでに言えば、この言葉も白星が知る決闘者(デュエリスト)のあるセリフをオマージュし、自分の信条とした…らしい

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者(デュエリスト)たちが!」

 

自分を奮い立たせ、アクションデュエルの口上を先に述べさせてもらう。光津もそれに続くようにセリフを繋げてゆく。あとはいつも通り…連鎖的に言葉が吐き出されてゆく

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!これぞデュエルの最強進化系!」

 

「「アクショ〜ン……」」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

砕羽 竜太郎 LP4000 手札 5枚

VS

光津 真澄 LP4000 手札 5枚

 

 

「先行は俺からだ!俺のターン!」

 

…と、勢いづいたものの手札は正直微妙なところだ。このデッキの主軸となっている「サイバー・ドラゴン」は、相手の場にのみモンスターがいる時手札から特殊召喚できるカード。例え今そのカードが手札にあったとしても、先行では特殊召喚することはできない。かといってフィールドをガラ空きの状態でターンを渡せば、大ダメージは免れない…最悪、次のターンで決着がつく可能性だってある

 

ならばここは……!

 

「俺は手札から「サイバー・ヴァリー」を召喚!」

 

フィールドに「サイバー・ドラゴン」モンスター特有の、蛇のような形状をした機械のモンスターが現れる。メタリックな装甲には青みがかかっており、大型犬程度の大きさの「サイバー・ヴァリー」の瞳はポッカリと空虚に空いていた

 

サイバー・ヴァリー

レベル1 ATK 0

 

俺の出したモンスターに、相手は眉をひそめる

 

「攻撃力0?そんなモンスターを攻撃表示で召喚して、何を考えているの?」

 

口ではそう言っているが、光津の目には明らかな警戒を宿している。その考えは正しい…けど、攻撃してもしなくても同じなのだろうと俺としてはされない方が個人的には動きやすい……そればかりは向こう次第か

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 

砕羽 竜太郎 LP4000 手札 4枚

 

サイバー・ヴァリー

レベル1 ATK 0

VS

光津 真澄 LP4000 手札 5枚

 

 

「カードも伏せないなんて…私のターン、ドロー!私は手札から魔法カード「ジェムナイト・フュージョン」を発動!」

「いきなり手札融合か!」

「手札の「ジェムナイト・サフィア」と「ジェムナイト・ラズリー」を融合!」

 

青い装甲を身に纏った藍色の戦士と瑠璃色の宝石を胸に秘めた少女が、青を基調とした渦の中で混ざり合う

 

「堅牢なる青き意志よ!神秘の力秘めし(あお)き石の片割れよ!光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん!」

 

現れたのは、顔が隠れそうなほど大きな甲冑を身につけた藍色の騎士。武器を手に持たないその姿は守護する騎士を想像させ、右手に構えられた黒と青の丸い盾の中心部に眩く光るアクアマリンの宝石がはめ込まれていた

 

「融合召喚!現れよ!慈悲深き仲裁者!「ジェムナイト・アクアマリナ」!!」

 

ジェムナイト・アクアマリナ

レベル6 DEF2600

 

現れたのは、2600もの守備力を誇る「アクアマリナ」という融合モンスター。この場で守備力の高いモンスターを召喚したということは……守備に徹する気か

 

「融合素材として墓地へ送られた「ジェムナイト・ラズリー」のモンスター効果!このカードはカード効果で墓地へ送られた時、墓地の通常モンスター1体を選び、そのモンスターを手札に加えることができる。私は同じく融合素材として墓地へ送られた「ジェムナイト・サフィア」を手札に加える!さらに墓地の「ジェムナイト・フュージョン」の効果!このカードが墓地に存在する時、墓地の「ジェムナイト」モンスター1体をゲームから除外することで墓地の「ジェムナイト・フュージョン」を手札に加えることができる。「ジェムナイト・ラズリー」を除外して、「ジェムナイト・フュージョン」を回収!」

 

あっという間に回復した光津の手札。3枚以上のカードを消費する手札融合を行ったとは思えないフィールドに、固唾を呑む。なるほど、あの「ジェムナイト・フュージョン」という融合カードを使う回して連続融合するのが、光津のデッキ「ジェムナイト」の特徴ということか……このターンは何も仕掛けてこないつもりみたいだから、融合召喚はもうしてこないだろうが…これは思いの外手強いかもしれないな

 

「私はリバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

 

砕羽 竜太郎 LP4000 手札 4枚

 

サイバー・ヴァリー

レベル1 ATK 0

VS

光津 真澄 LP4000 手札 4枚

 

ジェムナイト・アクアマリナ

レベル6 DEF2600

 

伏せカード 1枚

 

 

「ヴァリー」は場に残ったか…リバースカードは1枚、引き次第ではこのターンで動いていかないとな

 

「俺のターン!ドロー!」

 

無作法にデッキからカードを引き抜き、それを見てから「アクアマリナ」を見る。あいつ…単に守備が高いだけなのか?他に何か能力があるのだとしたら……

 

引いたカードを右手の中指と薬指の間に挟めて持ったまま、手札からカードを取りそれをデュエルディスクにセットする

 

「俺は「サイバー・ドラゴン・コア」を召喚!」

 

「ヴァリー」よりも一回り小さい、楕円球が連なった「サイバー・ドラゴン」が現れる。胴体の真ん中の部位から、身体を支えてる赤く細いコードが4本垂れていた

 

サイバー・ドラゴン・コア

レベル2 ATK400

 

「こいつは召喚に成功した時、デッキから「サイバー」または「サイバネティック」と名のついた魔法・罠1枚を手札に加えることができる!その効果で永続罠「サイバー・ネットワーク」を手札に!そして「コア」を対象に魔法「機械複製術」を発動!このカードは、俺のフィールドの攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選び、そのモンスターの同名カードをデッキから2体特殊召喚する!」

「デッキから2体も!?融合素材を揃えるつもり気…?」

 

手札の少ない消費でモンスターを並べる腕前に感心しつつも、大量展開に警戒を強める光津。相手は融合使い、弱小モンスターで融合召喚をしてくるに違いない……そんな彼女の考えは、途中で断ち切られた

 

「現れろ!「サイバー・ドラゴン」!」

 

何故なら、フィールドに出現した2体もモンスターは「サイバー・ドラゴン・コア」や「サイバー・ヴァリー」とは程遠い……白銀の光沢に照り輝いた人間大の大きさを越す機械竜だったのだから

 

サイバー・ドラゴン

レベル5 ATK2100

サイバー・ドラゴン

レベル5 ATK2100

 

「な…?!どうして!?あなたのフィールドには「サイバー・ドラゴン」なんていないのに!」

 

予想を上回った戦力の登場に髪を激しく揺らしながら彼女は叫ぶ。その疑問に対して、俺は冷静に答える

 

「「サイバー・ドラゴン・コア」はフィールド上・墓地に存在する限り、「サイバー・ドラゴン」として扱えるモンスターだ。だから「サイバー・ドラゴン・コア」は攻撃力400の「サイバー・ドラゴン」として扱われて、「機械複製術」の効果で「サイバー・ドラゴン」を召喚することができたんだ」

「「サイバー・ドラゴン」として扱うモンスター…ということは、そのモンスターが……」

「そうだ。この「サイバー・ドラゴン」が俺のデッキの主軸であり、中核となるモンスターだ」

 

説明を聞いて納得したのか冷静になれたのか、気を引き締めた顔つきで光津はアクションフィールドを走り回る。「サイバー・ドラゴン」では守備力2600の「アクアマリナ」を突破することはできないが、何をしてくるか分からないから念の為にアクションカードを手に入れるつもりか

 

「「サイバー・ヴァリー」のモンスター効果!このカードと俺のモンスターをもう1体ゲームから除外することで、デッキからカードを2枚ドローできる!「サイバー・ドラゴン」と一緒に「ヴァリー」を除外し、2枚ドロー!」

「「サイバー・ドラゴン」を除外した…?「サイバー・ドラゴン・コア」を残して、何を狙っているの……」

「そして俺は「融合」を発動!フィールド上の「サイバー・ドラゴン」と「サイバー・ドラゴン」として扱う「サイバー・ドラゴン・コア」の2体で融合召喚する!」

「…!来る!」

「可能性の機械竜よ!2つの首を混じり合わせ、新たな進化の姿を現せ!」

 

渦から飛び出してきたそれは、細部の異なる2つの首を伸ばした機械竜。「サイバー・ドラゴン」よりもさらに巨大な機械の胴と首をくねらせながら、低い電子音を折り重ね唸りあげた

 

「融合召喚!現れろ!レベル8!「サイバー・ツイン・ドラゴン」!!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

レベル8 ATK2800

 

「「アクアマリナ」の守備力を超えてきた!?くっ、早くアクションカードを…!」

 

2つ首の「サイバー・ドラゴン」の出現に光津は焦りの声をあげる

 

俺は召喚された「サイバー・ツイン」の2つの首の間に乗り、高い位置からアクションフィールドを見下ろす。光津の行き先には、黒光りする石柱の凹みに入ったアクションカード

 

「やらせるか!「サイバー・ツイン・ドラゴン」で「ジェムナイト・アクアマリナ」を攻撃!「エヴォリューション・ツイン・バースト」ォ!!」

 

機械の駆動音をけたたましく響かせながら、1つの標的に狙いを定めて口から太い光線を同時に放射する。電撃を弾かせ迫る光はーー「アクアマリナ」を覆う透明のバリアによって防がれた。ふと対戦相手を見てみる。するとそこには、青い背景に攻撃を躱す絵柄のカードが発動されていた…これが表すことは、1つ

 

「残念だけど、「回避」を発動させてもらったわ!あなたのモンスターの攻撃は「アクアマリナ」には届かなかったようね」

 

額に一雫の汗を流しながらも、不敵にこちらに語りかけてくる。クソ、攻撃が躱されたか……だが!

 

「確かに防がれてしまった…1回目の攻撃はな!「サイバー・ツイン」は1度のバトルで2回の攻撃を行える!再び「アクアマリナ」を攻撃だ!」

「な、連続攻撃ができるモンスター!?」

「「エヴォリューション・ツイン・バースト」!!2回目ェ!」

 

もう1度撃ち込まれる高熱と電撃の合わさった光線は2度も防ぐことはできず、光るアクアマリンにヒビを入れながら藍色の騎士は爆発した

 

「キャアアァ!」

「「アクアマリナ」、撃破!」

「クウゥ……フィールドから墓地へ送られた「ジェムナイト・アクアマリナ」のモンスター効果で、相手のカードを1枚手札に戻す!「サイバー・ツイン・ドラゴン」には消えてもらうわ!」

「何!」

 

それは「アクアマリナ」の最後の抵抗。爆心地の周囲に撒き散らされた青色の宝石は粉々に砕けた後に潤いを得て、水のような透明感のある輝きを発し霧へと化す。意志を持ったかの如く濃霧は「サイバー・ツイン」を覆い尽くし、苦しそうに身体を捩らせた後…光に還った

 

「うわあぁぁッ?!………うおっと!」

 

そして「サイバー・ツイン・ドラゴン」が消えたということは、それに乗っていた俺は当然の如く落下する……が、デュエル戦士として鍛えられた俺の身体は瞬時に落下に対応、両脚と片手が地面につくものの、何とか怪我を負わずに済んだ。皮肉なことに、アカデミアでの訓練が俺を助けてくれたみたいだ

 

しかし、「アクアマリナ」は破壊されてもカードを除去する効果を持っていたのか……だが、だとしたら何故わざわざアクションカードを使ったんだ?攻撃を「回避」で防がなくても「サイバー・ツイン」を手札に戻せば……いや、違う。さっき光津は「墓地へ送られた時」と言っていた。つまり「アクアマリナ」を融合素材に使えば、俺のフィールドのカードを減らした上で融合モンスターを展開することができる。このデッキの性質上、相手ターンに「サイバー・ツイン」が手札に戻されてたら攻撃を一身に受けるハメになっていた……そういう意味では、「サイバー・ツイン・ドラゴン」の効果に助けられたという訳か

 

とりあえず、場をガラ空きにするのだけはマズい。壁となるモンスターを用意しなければ

 

「…バトルは終了、俺は手札から魔法カード「サイバー・リペア・プラント」を発動!2つある効果の内、1つを選び効果を発動する。俺はデッキから光属性・機械族のモンスターを1体手札に加えることができる効果を選択、デッキの「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」を手札に加え、自身の効果で特殊召喚する!」

 

船の上部が下部にも対称になるようについた、紫に染まった船体が宙を翔ける。帆船の上下にはそれぞれ風を受け止める為の巨大な帆がつけられていた

 

太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)

レベル5 DEF1200

 

「「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」は自分フィールドにモンスターがいない時、手札から攻撃力・守備力を半分にして特殊召喚することができる。俺はカードを2枚伏せ…ターンエンド」

 

 

砕羽 竜太郎 LP4000 手札 2枚

 

太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)

レベル5 DEF1200

 

伏せカード 2枚

VS

光津 真澄 LP4000 手札 4枚

 

伏せカード 1枚

 

 

「私のターン!ドロー!私は「ジェムナイト・フュージョン」を発動!手札の「ジェムナイト・ラピス」、「アンバー」、「オブシディア」の3体で融合!」

 

癒しの力を宿すラピスラズリの化身が、電撃で形成した刃持つ戦士が、堅牢な黒曜石の守護者が、それぞれの力を溶かし…強大なダイヤモンドに変容する

 

「神秘の力秘めし(あお)き石の片割れよ!力分け与えし樹石よ!鋭利な漆黒よ!光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん!」

 

「ジェムナイト」たちの王が「クリスタル・コリドー」の内装を照らす数多の光をダイヤモンドの身体で吸収し、虹色に…それ以上の眩きを発した

 

「融合召喚!現れよ!全てを照らす至上の輝き!「ジェムナイトマスター・ダイヤ」!!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ

レベル9 ATK2900

 

「「マスター・ダイヤ」は墓地の「ジェム」モンスターの数だけ攻撃力を100アップさせる。私の墓地には4体の「ジェムナイト」がいる…よって攻撃力は、3300まで上昇する!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ

レベル9 ATK3300

 

光津の目の前に降り立った、7色の宝石で装飾された大剣を地面に突き立てこちらを見据えるダイヤの騎士。目を覆いたくなるほどに輝いており、肉眼で視覚するだけでチカチカしてきた

 

「この輝き……これがお前の切り札か」

「そうよ。このモンスターこそ、あなたを倒すのに相応しい…同じ融合使いとして、負ける訳にはいかないのよ!」

「融合が、お前の力なのか」

 

融合、か

 

アカデミアでは融合こそが至高で誉れ高き召喚法だと学んだっけな……それを教えているアカデミアが堕落した存在だと知った時は、融合を捨てたい気持ちにも駆られてしまった。ほんの一瞬でも、捨てれば罪から逃れることができるのではないのかと期待していたゆえに

 

だが違うのだ、融合は何も悪くない。ましてや、他の召喚法が悪と断じられる訳でもない。融合を捨てたところで俺のしたことは変わらないし…融合は、俺とずっと寄り添ってきた力なのだ。その融合を、光津は自分の誇りとしてデュエルしているのだ。まるで自分のことのように嬉しくなってくる

 

「手札から墓地へ送られた「オブシディア」の効果発動!墓地の通常モンスターを特殊召喚することができる!「ジェムナイト・アンバー」は墓地に存在する時、通常モンスターとして扱うデュアルモンスター!私は「ジェムナイト・アンバー」を特殊召喚する!」

 

ジェムナイト・アンバー

レベル4 ATK1600

 

「そしてデュアルモンスターはこのターンモンスターを召喚する代わりに再度召喚することで、効果モンスターに変化する!「アンバー」を再度召喚!」

 

何の能力も感じさせなかった「アンバー」…その戦士は掌の琥珀を擦り合わせることにより、電気を発生させる。黄色の雷は小振りのナイフにような形を維持し、「ジェムナイト・アンバー」は真の力を発揮したのだった

 

「手札の「ジェムナイト」と名のついたカード…私は「ジェムナイト・サフィア」を墓地に送ることで、「ジェムナイト・アンバー」のモンスター効果を発動!ゲームから除外されている「ジェムナイト・ラズリー」を手札に加える!墓地の「オブシディア」を除外し「ジェムナイト・フュージョン」を手札に……そして発動!手札の「ラズリー」とフィールドの「アンバー」で融合!神秘の力秘めし(あお)き石の片割れよ!力分け与えし樹石よ!光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん!」

 

ズシン!と何かが着地し大地が揺れる。着地点にいたのは、己自身の身体ほどはある頑強な剛腕を2つ持つ、灰色の鎧の騎士。その腕の先端にはダイヤモンドの模造品として使われる巨大なジルコニアが埋め込まれており、ダイヤモンドに似て非なる眩きを放っていた

 

「融合召喚!現れよ!幻惑の輝き!「ジェムナイト・ジルコニア」!!」

 

ジェムナイト・ジルコニア

レベル8 ATK2900

 

「「ジェムナイト・フュージョン」によって墓地に送られた「ラズリー」の効果で「ジェムナイト・アンバー」を手札に!そしてこれで最後よ!リバースカード「廃石融合(ダブレット・フュージョン)」を発動!このカードの効果により墓地の「ジェムナイト」モンスターをゲームから除外し、融合モンスターを融合召喚する!」

「罠カードによる墓地融合だと!」

「私は墓地の「ジェムナイト・ラピス」「ラズリー」で融合!神秘の力秘めし(あお)き石よ!今光となりて現れよ!」

 

その姿は、今までの「ジェムナイト」たちとは違って華奢で細身な女性の容姿をしていた。袖の下が垂れ下がし円柱状の碧い外殻から脚を伸ばすその見た目は、まるで和服のようであった。重ねられた胸部装甲の中心で光り輝く宝石は瑠璃…共にスタンダード次元で過ごすエクシーズ次元の少女が、砕羽の脳内に過ぎった

 

「融合召喚!レベル5!「ジェムナイトレディ・ラピスラズリ」!!」

 

ジェムナイトレディ・ラピスラズリ

レベル5 ATK2400

 

「融合モンスターが3体も……!」

「「ラピスラズリ」のモンスター効果!エクストラデッキの「ジェムナイト」モンスターを墓地に送ることで、フィールド上に存在する特殊召喚されたモンスターの数×500ポイントのダメージを、相手プレイヤーに与える!私はもう1体の「ラピスラズリ」をエクストラデッキから墓地に送り、効果発動!」

「特殊召喚されたモンスターの数だと!?俺のフィールドには特殊召喚された「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」、光津には融合モンスターが3体いる……」

「つまり!4体×500の、2000のダメージを直接与える!」

 

宝石の前に碧いエネルギーが蓄えられる。両手で優しく添えられたその球体は俺の足元に放たれ、強い衝撃で身体と脳を揺らす

 

「ぐわあッ!」

 

砕羽 竜太郎 LP2000 手札 2枚

 

くぅ…一気に半分もの効果ダメージを与えてくるとは……!

 

「まだよ!「ジェムナイトマスター・ダイヤ」のモンスター効果!墓地の「ジェムナイト」融合モンスターをゲームから除外することで、その名前と効果を得る!「ラピスラズリ」の効果で墓地に送った「ラピスラズリ」を除外!」

「何だと!?「ラピスラズリ」の効果を得るということは…マ、マズい!」

 

このままでは「ラピスラズリ」の効果を使用されて、もう1度2000の効果ダメージ…俺のライフはちょうど0になってしまう!迫り来る敗北から逃れる為に、俺は周囲を見渡し……絢爛(けんらん)なシャンデリアの上にあったアクションカードを発見する。「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」の乗り、それに近づくように指示を出す

 

「上にアクションカードがある!急げ!」

「これで終わりよ!「ラピスラズリ」の効果を得た「マスター・ダイヤ」の効果!3枚目の「ラピスラズリ」を墓地に送り、再び4×500の…2000ポイントのダメージで!」

 

「マスター・ダイヤ」はその豪剣を手に、力に任せて縦に凪ぐ。碧い剣撃は衝撃となってこちらへの距離を一気に詰め……

 

ダメだ!このままじゃ間に合わない……なら!

 

「うおおおぉぉぉぉぉーーーッ!!」

「なッ?!」

 

空飛ぶ船を足場に、降板を力一杯蹴り戸惑うことなく跳躍。高い身体能力により天高く舞う身体はーー黄金で豪華な照明に危うくながらも着地。中部に置かれたカードを無造作に手に取り、急いでディスクにセットする

 

「アクションマジック「ダメージ・カット」を発動!効果により発生したダメージを無効にする!」

 

シャンデリアごと囲う不可視の壁……幾千、幾万とカットされた丸い宝石のようなバリアは、金剛の騎士の斬撃を逸らすように弾いた。勝負がまだ続いている事実に、ホッと息を吐く

 

「なんて無茶……」

「言っただろ、全力を持ってデュエルすると」

 

目を丸くして光津はこちらを見上げているが、俺からすればあれくらいはまだ許容範囲内だ。アカデミアの訓練にはもっと無茶なものもあれば、メチャクチャなものもあった…あれらと比べれば軽い方だ

 

「…でも、あなたのフィールドにはモンスターが1体だけ!どちらにしろ負けよ!墓地には「ラピスラズリ」「アクアマリナ」「アンバー」「サフィア」の計4体の「ジェムナイト」がいる!よって「マスター・ダイヤ」の攻撃力は3300までアップする!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ

レベル9 ATK3300

 

「私は「ジルコニア」で「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」を攻撃!」

 

太く大きな腕による剛撃が、「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」に降り注ぐ。破壊される前に「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」に乗り込み、攻撃が当たる直前に大地に飛び降りる。凹まされた命中箇所に小爆発の華を咲かせ、飛行船は破壊された。爆発の余波が埃を舞い上がらせる

 

「今度こそ終わりよ!「ジェムナイトレディ・ラピスラズリ」でダイレクトアタック!」

「リバースカード「リビングデッドの呼び声」!これにより、俺は墓地から「サイバー・ドラゴン」を攻撃表示で復活させる!」

 

サイバー・ドラゴン

レベル5 ATK2100

 

トドメを遮るように現れる「サイバー・ドラゴン」。突然の乱入により「ラピスラズリ」は攻撃を一瞬だけ躊躇うが…続行、機械竜を破壊できる力が灯った流動する結晶が加速しながら「サイバー・ドラゴン」に向かって発射される

 

「さらに永続罠「サイバー・ネットワーク」を発動する!その効果で、デッキの光属性・機械族の「サイバー・ドラゴン・ドライ」をゲームから除外!」

「!さっき手札に加えていた罠カード!」

「除外されたことにより発動する「ドライ」のモンスター効果!このターン俺の「サイバー・ドラゴン」1体は、戦闘及び効果では破壊されなくなる…グオォッ!」

 

砕羽 竜太郎 LP1700 手札 2枚

 

「これも耐えるなんて!でも戦闘でのライフダメージはその分削れる!「マスター・ダイヤ」で「サイバー・ドラゴン」を攻撃!」

 

その言葉と共に戦闘が執り行われ、「マスター・ダイヤ」は仲間によって高まった力で再び重い斬撃で攻撃する。「ドライ」により途轍もない耐久を得ても「サイバー・ドラゴン」に抵抗する術はなく、受けた攻撃による余剰ダメージが砕羽と周囲を貫く。近くの柱に僅かな()()が入る

 

砕羽 竜太郎 LP500 手札 2枚

 

「これでターンエンド。ターンの終了と共に「廃石融合(ダブレット・フュージョン)」で召喚された「ラピスラズリ」は破壊される。次のターンでトドメをさしてやるわ!」

 

 

砕羽 竜太郎 LP500 手札 2枚

 

サイバー・ドラゴン

レベル5 ATK2100

 

リビングデッドの呼び声

サイバー・ネットワーク

VS

光津 真澄 LP4000 手札 0枚

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ

レベル9 ATK3300

ジェムナイト・ジルコニア

レベル8 ATK2900

 

 

「俺のターン……」

 

残りライフは僅か500。相手フィールドにはダイヤモンドとジルコニア…それぞれの硬さに比例した強さを持った輝石の騎士と戦士が静かに佇んでいる。しかも光津は無傷の4000ライフのままだ。手札の2枚では突破できず、状況は圧倒的に不利

 

……なのに、何故だろうか。何なのだろうか、胸の奥から湧き上がる…この高揚感は。心臓の高鳴りはーー

 

……そうか。これが、楽しい…って、ことなのか……

 

「……光津」

「…?何?」

 

俺の心に浮き上がった感情……思わず誰かに伝えたくなり、目の前の対戦相手の少女に人生最高であろう気持ちを吐露する

 

 

 

「デュエルってーーーこんなに、楽しいものなんだな」

 

楽しく、笑いながら

 

「ーーー……」

 

風が、長い黒髪を優しく()かす。口を小さく開けてポカンとした表情で光津はこっちを見ていて……数秒経ってから、顔を隠すように横を向いた

 

「……?どうした?」

「な、何でもないわよ!良いから早くデュエルを続けて!」

「…あぁ、それもそうだな」

 

デュエルディスクに手を当てる。今の俺のデッキ…信じるべきカード。何かを引けば勝てるのか…ではない、勝てる為のカードを引く…!たった1枚で、この逆境をひっくり返せる…そんなカードを!

 

目を閉じ、カードを力と思いを込めて引き抜く

 

「ーーーッドロォーー!!」

 

………一瞬、それよりも遥かに短き刹那のドロー。引いたカードを見て……脳内で繋がってゆく勝利へのルート、道標

 

「「サイバー・ドラゴン・ドライ」を召喚!」

 

鋭利さと滑らかさ、対極する2つの見た目を両立させた「サイバー・ドラゴン」が姿を現す。身体を縦断する黒の線に、黄緑の光が浮き上がる

 

サイバー・ドラゴン・ドライ

レベル4 ATK1800

 

「「ドライ」は召喚に成功した時、「サイバー・ドラゴン」全てのレベルを5にする!「ドライ」も「コア」と同じように、フィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ

レベル5 ATK1800

 

「レベルを上げる効果…?…同じレベルのモンスターが2体!?」

「俺はレベル5の「サイバー・ドラゴン」と同じくレベル5となった「サイバー・ドラゴン・ドライ」で、オーバーレイ!」

 

機械竜はその姿形を黄色の光球に変えていき、点々と星が光る宇宙の中心に飛び込んで……光の柱を立てた

 

「可能性の機械竜よ!その首1つに重ね合わせ、進化の道を突き進め!」

 

鉄の翼が影を落とし、光を突き破りその姿を見せたのは大きな翼を得た「サイバー・ドラゴン」。胸部と思わしき部位から、赤いコアが爛々と点滅する

 

「エクシーズ召喚!これが俺の新しい力!「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」!!」

 

サイバー・ドラゴン・ノヴァ

ランク5 ATK2100

ORU(オーバーレイユニット) 2

 

「エクシーズモンスター!?あなた、融合使いの筈じゃあ!」

「俺は、サイバー使いだ!「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」で、再びオーバーレイ!可能性の機械竜よ!力をさらに積み重ね、進化の最果てに行き立て!」

 

「ノヴァ」よりもさらに洗練された機械竜。紫電を走らせ、暴力的な咆哮をあげるその姿は、まさに頂点に行き着いたモンスターに相応しい威容であった。甲高い機械音声が、竜の叫びを代弁する

 

「エクシーズ召喚!現れろ!「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」!!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ

ランク6 ATK2700

ORU(オーバーレイユニット) 3

 

「エクシーズモンスターを使ったエクシーズ召喚…白星が北斗とデュエルした時の同じエクシーズ召喚まで……」

「「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」は、ORU(オーバーレイユニット)の数だけ攻撃力を200上げる。そして「インフィニティ」は1ターンに1度、フィールド上の攻撃表示モンスター1体を自身のORU(オーバーレイユニット)として吸収する!俺は「マスター・ダイヤ」を選択!」

「「マスター・ダイヤ」を吸収!?クッ…!」

 

咄嗟に身体を動かし、近くのアクションカードを拾いに行く光津。だがそれよりも早く、「インフィニティ」は赤いコアから触手を伸ばし……

 

(ダメ!間に合わなーー)

「「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」の効果!ORU(オーバーレイユニット)を1つ使うことで、カード効果の発動を1度だけ無効にして破壊する!」

「えッ…?」

「「インフィニティ」自身の効果を無効にし、破壊する!」

 

それは、途中で中断された。「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」は自身の攻撃を自ら妨害し、傷を負う。小さなヒビは数秒も経たないうちに徐々に広がってゆき……致命傷にまで至った機械体は爆裂し、消えて無くなった

 

光津の口から憤慨の罵倒が飛び出る……前に、近くに落ちていたアクションカードを拾い、迷いなく発動させる

 

「アクションマジック「マッド・ハリケーン」を発動!俺のフィールドのカードを全てデッキに戻す!」

 

泥が混じったかのような暴風が俺のフィールドカード全てを巻き上げる。「リビングデッドの呼び声」と「サイバー・ネットワーク」、それらのカードをデッキに戻す。フィールドは何も生きていない、罠も一切ない文字通り更地と化す

 

「そんなデメリットのアクションマジックをここで?!さっきから何を考えてるの!」

「俺は魔法カード「異次元の埋葬」を発動!俺の除外されている「サイバー・ドラゴン」「ドライ」「ヴァリー」を墓地に戻して…「オーバーロード・フュージョン」を発動!フィールド・墓地から融合素材モンスターを除外し、闇属性・機械族融合モンスター1体を融合召喚する!墓地の「サイバー・ドラゴン」と全ての機械族を除外する!」

「ということは…9体の融合召喚!?」

 

墓地から飛び出てきた「サイバー・ドラゴン」「サイバー・ドラゴン」「サイバー・ヴァリー」「サイバー・ドラゴン・コア」「サイバー・ドラゴン・ドライ」「サイバー・ドラゴン・ドライ」「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」「太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)」。合計9体のモンスターが異次元に繋がる穴に吸い込まれながら量子分解していき……時空の彼方から、6つの頭から轟咆が轟く

 

「可能性の機械竜よ!数多の同胞と混じり合いて、新たな進化の姿を現せ!」

 

それは巨大な「サイバー・ドラゴン」の胴から尾までの形であった。首から先の部位には禍々しさを感じる黒のパーツがついており……そこに穴が開いて、同じ形状の「サイバー・ドラゴン」の首が6つ伸びていた

 

「融合召喚!現れろ!レベル9!「キメラテック・オーバー・ドラゴン」!!」

 

その竜は、砕羽にとっての因縁。砕羽にとっての…分岐点といえたモンスターであった

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK7200

 

「こ、攻撃力……7200…!?」

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の攻撃力を見た反応に、自分も初めて「キメラテック」を見た時はあのようなリアクションをしてたのだなと、似たような反応をしている光津に妙な親近感を抱いた。……もっとも、あの時白星が召喚した「キメラテック・オーバー・ドラゴン」はまさに規格外だったわけだが

 

「「キメラテック・オーバー・ドラゴン」は融合素材の数だけ元々の攻撃力を800ポイント上げる融合モンスターだ。素材は「サイバー・ドラゴン」と機械族モンスターを1体以上だから、融合素材を増やせば増やすほど攻撃力が上昇する!」

「そんな効果が…!だから墓地のモンスターを増やす為に、わざと自分のカード効果を無効にしたのね!」

「あぁ…そしてこいつが融合召喚されれば俺のフィールドのこのカード以外のカードを墓地に送る…「サイバー・ネットワーク」が墓地に送られると倒せなくなるからアクションカードで戻させてたというわけだ!」

 

 

砕羽 竜太郎 LP500 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK7200

VS

光津 真澄 LP4000 手札 0枚

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ

レベル9 ATK3300

ジェムナイト・ジルコニア

レベル8 ATK2900

 

 

「「キメラテック・オーバー・ドラゴン」で「ジェムナイトマスター・ダイヤ」を攻撃!「エヴォリューション・レザルト・バースト」ォ!!」

 

全てをかき消せる殺戮の光。その光が、輝石の王に迫り……

 

「ッ!アクションマジック「回避」を発動!モンスターの攻撃を無効にする!」

 

絶対防御の壁により遮断された。行き場を失った光は粒となり、「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の攻撃が防がれた

 

「これで「キメラテック・オーバー・ドラゴン」の攻撃は終わり…逆転劇はここまでよ!」

「いいや!俺の勝ちだ!「キメラテック・オーバー・ドラゴン」は、融合素材の数だけモンスターに攻撃することができる!攻撃残り回数は、あと8回!」

「嘘!?」

 

必死に周囲を見渡すも、辺りにアクションカードは1枚たりとも残っていない……完全に詰みだ!

 

「「ジェムナイトマスター・ダイヤ」「ジェムナイト・ジルコニア」を攻撃!」

 

駆動音が加速する。余りの熱量に水分が蒸発しそうであり、蜃気楼のように周りの景色が歪む。そして、それよりもさらに強い熱源が…「キメラテック」の緩慢に開けられた口内で発生し……

 

「「エヴォリューション・レザルト・バースト」ォ!!ニレンダァッ!!」

 

光で、塗り潰される。尋常ではないプラズマの奔流が一直線に目標に向かい、直撃したダイヤモンドとジルコニアを削り取る。強過ぎる力の波の中で精一杯に反撃を試みるものの…既に時遅し。鎧を溶かされ、剣を折られ、自慢のダイヤの肉体もただの炭素の塊に変えられ……「マスター・ダイヤ」と「ジルコニア」は断末魔の叫びと共に爆発四散した

 

「キャアアァァァァァァッ!!」

 

爆風に揺さぶられ、光津は悲鳴を上げる……そしてふと周りを見渡して、俺は気がつく

 

いつ壊れたのか、鈍い光を放つ黒曜石の柱が途中から折れており、自重を支えきれなくなった柱が重力に従って光津の方向へ落ちてようとしていた。あのままでは、光津は柱の下敷きになって大怪我を負ってしまう

 

助けなければ。心の底から聞こえてきたようなその自分の言葉に無意識に従っていたのか、既に足は鏡のように磨かれた廊下を強く蹴っていた

 

「光津!」

「キャッ!」

 

俺はデュエルディスクを展開したまま光津の方へ全力疾走する。走りながら膝裏と背中に手を当てて持ち上げ、減速せずにその場を離れて……質量を持った柱がアクションフィールドと共に途中で消えたことで、すぐに立ち止まってしまった

 

 

 

砕羽 竜太郎 LP500 手札 0枚

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン

レベル9 ATK9600

VS

光津 真澄 LP 0 手札 0枚

 

 

 

映像投影(ソリッドビジョン)が途中で消えた…?あの人が消してくれたのか?」

 

少し冷や汗を流しながらも、そんなことをポツリと呟いた

 

つい反射的に光津を助けてしまったが、よく考えればマルコ先生って人がアクションフィールドを展開していたな……事故を未然に防ぐ為に立体映像投影(リアルソリッドビジョン)を消しただろう人物がいる場所に視線を移すが、ガラスの向こう側は既にもぬけの空であった

 

しかし、「サイバー・ツイン・ドラゴン」から落ちた時とシャンデリアの上のアクションカードを取った時…そして今光津を助けた時と、3度も自分の身体能力に助けられたな……ここまでこれば、いっそアカデミアの訓練を感謝するべきなのだろうか?

 

そうだ、光津は無事だろうか。そんな少しの不安感が湧いてきたので、腕に収まった光津を見てみると……何故か頬を紅く染めてボーッとしていた。どうしたんだ?別段怪我があるようには見えないが……

 

「大丈夫か?」

「ッ!だ、大丈夫よ!大丈夫だから早く下ろして!」

「お、おう…分かった」

 

心配になってきたので声をかけてれば、特に怪我をした様子ではないようで安心したが……何故早く下ろすように頼んだのか。重いとでも思われたくなかったのだろうか?寧ろかなり軽い方だとは思うが

 

下ろしたら少しは落ち着いたのか、多分普段通りの様子に戻ってお礼を言ってきた

 

「礼は言っておくわ…助けてくれて、ありがとう」

「怪我がないようで何よりだ」

「えぇ、おかげさまで……でも、負けてしまったわね」

 

本来の目的……白星とデュエルする為ならば、このデュエルで負けたことは悔しさを滲ませる筈だ。だけど、表情も声も清々しさというか達成感みたいなものがあって、とても満足している様子だった。思わず俺は問い掛ける

 

「どうする?デュエルを続けてやるか?」

「いいえ、もう良いわ。元々、融合使いって言われてたあなたの実力が見たくてデュエルした訳だし……正直、想像以上だったってところね」

 

一体何が想像以上だったのか。何となく気になる話題なのだが、それはアクションフィールド内に入ってきたマルコ先生によって聞くタイミングを失った

 

「マルコ先生…ごめんなさい。先生に教えてもらった、融合召喚で負けてしまって……」

「いや、ユーは良くやったよ。あんなに接戦とした、楽しそうなデュエルを見ることができたんだよ。ユーのような教え子がいるなんて、僕も誇らしいよ」

「マルコ先生…!はい!ありがとうございます!」

「砕羽くん、ユーのタクティクスも実に素晴らしかったよ。ユーとは1度、デュエルしてみたいものだね」

「…はい、そうですね」

「だ・か・ら、そんなに固くならない!さっきのデュエルの時みたいに笑った方が良いよ!」

 

やたらとハイテンションなマルコ先生に苦笑いしながらも、俺はこの貴重な体験を胸の中にしまった。新しい砕羽竜太郎の、本当の思い出として……

 

 

『…ところで真澄ん、お姫様抱っこをされた感想はどうだったんだい?』

『な?!マルコ先生!?』

『ふふふ、初々しい反応じゃないかい。恋愛をするのも学生の特権…青春だねぇ〜』

『からかわないでください!誤解です!あれは単に恥ずかしかっただけで……!』

 

 

……何やら2人は会話をしているようだが、周りに聞こえない音量で喋ってるあたり、秘密の話でもしているのだろう。なら、俺が話に突っ込むのは野暮というものか

 

しかし、光津がデュエルしないというならば、この場にいる理由もないから白星と合流しておきたいのだが……あいつがどこにいるのか分からないからな。俺がLDSに詳しくないというのもある…どうするべきか……などと考えていると、話が終わったのか光津が話しかけてきた

 

「砕羽、あなたこれからどうする気?」

「光津?……ここで白星が来るまで待つつもりだったが?」

「あら、ならちょうど良かった。これからあいつにデュエルを申し込みに行くつもりなのだけれど、一緒に行く?」

「分かるのか、あいつの場所?」

「えぇ、多分刃たちがいつも使っているセンターコートに入ると思うわ」

 

これはありがたい。どうすべきか困っていたところをこんな形で助けられるとは…渡りに船とはこのことか

 

「じゃあ頼む、案内してくれ」

「なら、こっちについてきて」

 

光津の提案に乗った俺は、彼女の後についていった

 

LDSに来たのはこれで2回目だ。だからだろうか、歩いていたら見えるものが全部新鮮に見えてつい足を止めてしまい、その度に光津に怒られてしまっている。間違いようもなく俺の非だから何も言い返せなくてツラい

 

そしてようやく着いたセンターコートという場所で……何ともひどいデュエルという名の私刑が執り行われていた

 

 

刀堂 刃 LP4000 手札 3枚

 

XX(ダブルエックス)–セイバー ガトムズ

レベル9 ATK3100

XX(ダブルエックス)–セイバー ガトムズ

レベル9 ATK3100

XX(ダブルエックス)–セイバー フォルトロール

レベル6 ATK2400

&

志島 北斗 LP4000 手札 0枚

 

セイクリッド・プレアデス

ランク5 ATK2500

ORU(オーバーレイユニット) 1

セイクリッド・トレミスM7(メシエセブン)

ランク6 ATK2700

ORU(オーバーレイユニット) 1

VS

沢渡 シンゴ LP2000 手札 0枚

 

 

「テメェら卑怯だろ?!2対1で戦うどころか俺のモンスターやリバースカード手札に戻した上で全部捨てさせるとか、やってて恥ずかしくねえのかよ!?」

「確かに今の俺たちは、お世辞にもお行儀の良いデュエルじゃねえ……だが、テメェより格上だってことを証明する為なら、禁じ手も使ってやるぜ!」

「これで終わりだ!「セイクリッド・トレミスM7(メシエセブン)」でダイレクトアタック!」

「グワァーーーッ!?」

「「「さ、沢渡さーーーん!?」」」

 

……一体何がどうしてこうなったんだ?

 

「…いつもこんな感じなのか?」

「そんな訳ないでしょ。今やられたのは沢渡ね、舞網市の次期市長の息子でいつもそれを鼻にかけてる奴。何をやらかしたのかしら、あいつ」

 

実に嫌そうな顔とジト目で、光津は吹き飛ばされた彼に関してのことをそう説明してくれた。あの沢渡って男は、ここまで酷評されるほど酷い男なのか。それにしてはやられ姿に板が付いているというか、コミカルなイメージがあるというか……

 

「お前ら、いくら何でもあれはないだろ…いくら僕でも引くぞ、いやマジで」

「人のシンクロモンスター高笑いしながら吸収したりする奴が何言ってやがる!」

「刃はまだマシじゃないか!僕なんかロクにエクシーズ召喚もできないんだぞ!「プレアデス」とか召喚してもすぐに破壊されたり効果無効にされるし!」

「やかましい!少しは静かにしろよお前ら!」

 

聴き馴染んだ声が大きく響いてきた。声の発生源を見てみると、そこにはデュエルディスクを構えて威嚇している白星と先ほど一緒に戦っていた2人の男がいた。何をやってるんだお前は……

 

「見つけたわね…それじゃあ、私先に行ってくるから」

 

そう言い残して、光津は白星の元へ向かい話しかけていた。予想外の乱入者に白星は物凄く動揺している

 

「刃、北斗、私も加勢するわ」

「あれ?!光津!?何故光津がここに!?まさか自力で2連勝を!?」

「良いタイミングだぜ、真澄!」

「随分遅かったじゃないか」

「デュエルしてたら遅くなったのよ。でも1回だけで済んだから、まだ早いうちに来ることができたわ」

「砕羽テメェェェーーーッ!!」

「さあ、デュエルの相手をしてもらうわよ!」

 

悲壮さと理不尽さと怒りが合わさった叫びが、LDSのデュエルコートに木霊した

 

……結論を言うと、白星は3対1のデュエルを強制的に受けられて、刀堂と志島という男2人までは倒したものの、最後の光津との戦いで息切れを起こしてしまい、最近では特に珍しくもない白星の敗北となった。俺はデュエルを見学しながら、デュエルは学ぶことがまだ多いのだと再度実感した

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーってことが昨日あった訳だよ。アンダスタン?」

「なるほど、君が酷く疲労している理由は理解したが……何故それを私に話す?」

 

お前んところの塾生が原因だからだよコンチキショウ

 

昨日、沢渡に負けたことが原因でLDS3人組と文字通り日が暮れるまでデュエルをする羽目になった。特に最初の3人同時に相手するデュエルは本当に辛かった。刀堂は執拗にハンデスしてくるし、志島はいつも通り「プレアデス」だし、光津は「ラピスラズリ」でバーンしてくるし…しかもOCGの「ラピスラズリ」。おかげで「ラピスラズリ」を真っ先に処理しなきゃいけないのに「プレアデス」に妨害されるから志島を狙って、かと思えば「ガトムズ」のハンデスでロクに展開出来なくて……結局光津を残して倒しきったものの、その残りの光津にフィールドを圧倒されて敗北…となってしまった。なんで黒咲はこいつらに勝つことができたのか…僕も「RR(レイドラプターズ)」使えば勝てるかな?まぁやんないけど

 

おかげでいつも以上に疲れてしまったし、遊勝塾での仕事も残っている……愚痴の1つでも溢したくはなる。話を聞かされた赤馬は不服なご様子だけどな

 

「もし愚痴を言いに来ただけならば、わざわざ私を呼ばないでもらおうか。苦情ならば会社を通して言ってくれ」

「待て。ちゃんと真面目な話で来たんだよ…話が逸れ過ぎた」

 

僕を追い出そうとする赤馬を制止して、今日LDSに来た本題を語る

 

「赤馬、LDS…もといランサーズは、融合次元迎撃用の組織なんだよな?スタンダード次元を守る為にアカデミアの打倒を目的とした」

「その通りだ、その認識で構わない」

「いずれ準備が整い次第、融合次元に行きアカデミアを倒す……けど、仮にその前準備で攻め込まれたらスタンダードの人間は戦えるのか?僕から言わせれば土台無理な話だ」

「……何が言いたい」

 

薄い紫の瞳が睨めつける。僕の言葉の曖昧さ加減に文句をつけてるように見えた……だから、単刀直入に言う

 

「基礎的なことを言わせて貰えば大体が攻撃力しか見てないところ、応用的なところではアドを取れないところ……この2つが、スタンダード次元の皆には致命的に足りてない。争いとは無縁な次元だということを差し引いてもだ。あとLDSとそれ以外の塾の間での戦術に対する認識の違いと、単純に知識不足。両方共な」

 

LDSでデュエルしていて分かったことだが、LDSのみんなはカード効果もしっかり吟味した上でデッキを構築している…けど、それでも殆どが融合・シンクロ・エクシーズモンスターを出す為のカードばかりに過ぎない。デッキを回しやすくする為のサーチカードはもちろん、「ブラック・ホール」や「神の宣告」みたいな汎用カードすらも入れていない。特に今挙げた「ブラック・ホール」や「神の宣告」はアニメ世界にしては比較的安い値段で手に入るのにも関わらず、だ。カードプールの狭さと言ってしまえばそれまでだが…いや違う、カードプールは全然弱くない。10円コーナーみたいなところに「サクリファイス」や「金華猫」がある時点で十分過ぎるデッキは作れるのだ

 

そしてLDS以外のその他の塾…こちらは逆に効果を軽視しているところがある。違う、軽視はしていないのだ。ただ低い攻撃力というだけで雑魚モンスターと決めつける風潮がいけない。それにLDSが3つの召喚法を独占しているせいで、低ステータスから強力なモンスターが出てくるという意識が湧いてこないのだ。スタンダード次元を混乱させない為とはいえ、そのせいで他の召喚法の脅威性をイマイチ理解できていないのである。LDSとその他の塾では環境の違いから認識の違いも出てきて、それによりカードの価値観が両方の間でズレが出てくる……それによる弊害とは一体何か?

 

ズバリ、既存の戦術が狭まることである

 

OCGの環境を戦える人間たちが強いのは、強いカードを持っていて使いこなせるだけではない……知っていることが何よりの武器なのだ。皆が強い強い言うデッキの戦術だって、先人たちの積み重ねてきた膨大過ぎる知識ゆえの賜物なのだ。奇抜で特異な戦術がトップを躍り出て皆がそれに慣れれば、それらは普通の戦術となり、そこからさらに変わった戦術が現れ……気が遠くなるほどのそれを繰り返すことで、遊戯王は進化していった

 

たった数ヶ月で環境は激変できるのだ、これから…多分暫定1年も掛ければ、アカデミアから自衛できる程度には強くなることができるのだ…だが……

 

「皆が大人しく変わるとは思えねえしなぁ〜……」

 

1番の問題がそこなのだ。前の世界ではwikiやそれに伴った実績があったから、皆がデッキを変えていくことがあったが…それが出来るのは実績を残した人間だけだ。この世界に来て間もない僕の言葉に、一体どれほどの人間が耳を貸してくれるのか。仮に聞いてもらえたとして、皆が強くなるほど変わることができるのか……期待不安の未来しかない

 

「…ふむ、認識の違い…そして知識か……」

「うん、スタンダードのデュエルを変えるには、まずそこからメスを入れていくしかない……まあ、ただの一般人(パンピー)の戯言なんざ誰も耳を貸さないとは思うが」

『自虐的だなぁ、おい』

 

仕方ねえだろ。僕のやっていることは、21世紀の科学技術を中世ヨーロッパに持ち込むようなものだ。行き過ぎた戦術(科学)イカサマ(魔法)と誤解し、イカサマ師(魔女)として吊るし上げられる(処刑される)。我ながら良い例えだと思うが、結局そういう大仰なことは文字通り時代を変えられる人間じゃないと黙殺される

 

「君は確か今、金銭面の大きな悩みを抱えていると中島から聞いているが……」

「それ今関係ある?金持ちには分からん悩みだよ」

 

つーか中島さん、確かその愚痴恥ずかしいから内緒にしてくださいって言ったはずだよね?よりにもよって1番知られたくなかった人物に聞かれてるのですがそれは。この場に存在しない中島さんに呪いを掛けながら、赤馬の言葉の続きを待つ

 

「スタンダード次元全ての人間に言葉を伝えられ、認識を変えようとすることができる方法が1つだけある。ついでに君の金銭問題も解決することができる」

「え、マジ?」

 

思わず真顔で聞き返してしまう。嘘だよね?え、ホント?そんな素晴らしくステキなプランがあるっていうのか、マジで

 

「あぁ、本当だ。もっとも、上手くいくかは全て君次第だがな……」

「やるやる!そんな方法があるならやらない手はないって!何すれば良いんだ?」

「これだ」

 

執務を行う為のデスクの引き出しから、赤馬は1枚の用紙を取り出した

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の夜を照らしつける、真っ白を放つ証明とモノクロを彩るネオン……その中央にいるのは、ここ最近中堅の順位を維持し続けている1人のプロ決闘者(デュエリスト)だった

 

常に行われるはデュエルなこの巨大な会場……その実況席にて、1人の男がマイク片手に待機していた。警戒色のスーツに身を包んだ「胡散臭い」という言葉を体現したかのような風貌であり、縁が赤いオレンジ色のレンズの眼鏡……レンズの奥の目がキラリと光り、ニコ・スマイリーは喉を限りなく震わせた

 

『さてさてさて!!皆様、大変長らくお待たせいたしました!これより本日1番の大目玉、スペシャルマッチ戦を開幕いたします!』

 

名は体を表すとの通り、その表情は常に笑顔。ニコ・スマイリーによる開幕宣言に老若男女問わず、爆音のような歓声が湧き上がる

 

『今回の試合はァ、あっなんとォ!最年少プロ決闘者(デュエリスト)にしてあのLDS社長こと赤馬零児が推薦した、決闘者(デュエリスト)のプロデビュー戦となります!まずは対戦相手をどうぞ!』

 

その男は、まるで決闘者(デュエリスト)というより聖職者…否、聖なる加護を身に纏った白銀の甲冑を着た聖騎士とも言える出で立ちであった。腰には明らかに不必要である、煌びやかな装飾を施した剣が鞘に収まっていた。兜から見える表情は、不遜な態度が満ち溢れていた

 

『ここ最近着実にランキングの順位を上げてきた決闘者(デュエリスト)ォ!我が身を犠牲にするまさに騎士道精神溢れる戦い方!「聖なる決闘者(デュエリスト)」こと「ローライド・レイト」オォォーーッ!!』

 

甲冑の男…ローライドは、観客に聞こえないのを良いことに舌打ちをする。わざわざ遠い地からこの舞網市に上陸したにも関わらず、この街のプロ決闘者(デュエリスト)はどれもこれもレベルが低い……独自の感性によって考え至った宗教家な彼は、敗者には決まって「弱者に神の慈悲なし」と見下し続けていた。きっとこれから戦う者も弱者に違いない。根拠も理由もない確信を持っていた

 

『そしてェ!挑戦しますはLDSのお墨付き!容姿、出生、一切が不明!正体不明の決闘者(デュエリスト)ォ!』

 

入場用の入り口、そこに当てられたスポットライトの先には……誰も存在していなかった

 

『……ん…?』

 

1分経って、ようやくニコは違和感を感じ始める。自分の経験上、もうそろそろ誰かが姿を現しても良いはずだ。しかし、いつまで経っても誰の影も現れない……

 

小さい沈黙はやがて不信感を呼び、不安を煽り……ある事実に行き着いた観客の1人がヤジを飛ばす

 

『誰も現れねえじゃねぇか!いつまで待たせる気だよ!』

 

たった1人、1人である。しかし、その1人が生み出した波紋は周囲の人間を巻き込み、伝播し、あっという間に歓声はブーイングに変わっていった

 

やれ「金を返せ!」だの、やれ「ふざけるな!」だの、やれ「出て来い、臆病者!」だの。敬意のかけらもない罵詈雑言の嵐にニコはたじろぎながらも宥める

 

『み、皆様!どうか落ち着いてください!こちら側でアクシデントの対処をしておりますのでーー』

 

 

 

「……〜〜〜〜♪…〜〜〜〜〜♪……〜〜〜……〜〜〜〜〜♪」

 

 

 

音色が聞こえた。罵倒による大合唱を遮るようなハッキリとした音色……不思議とその音は心を落ち着かせ、その音の音源を観客たちは探し始める

 

『おい!上だ!あそこを見ろ!』

 

多数が上空を指をさす。否、正確には上空ではなく……開口されたドームの端であった。見ればそこにいるのは、黒いコートで冷たい風を受け止め、フードと暗闇で隠された顔にハーモニカを片手であてがい、1人寂しく吹いていた。彼は音色を止めハーモニカをポケットにしまうと、懐から取り出した()()を顔につけ……緩慢に前に倒れ、宙を落ちていく

 

女性の悲鳴が上がる中、何事もないように彼はデュエルディスクを作動させ、モンスターを召喚する。虚空から現れた一つ星を背に持つ昆虫「レベル・スティーラー」の束ねられた脚に手を引っ掛けながら、減速しつつも滑空し……途中で手を離し、高さ3メートルはある上空から難なく両足で着地した。ローライドはとある事実に、ささやかな疑問を頭に浮かべる

 

(何故モンスターに捕まることができた…?立体映像投影(リアルソリッドビジョン)であるアクションフィールドは起動してない筈……)

 

シンと会場が静まり返る中、ディスクにセットされたモンスターカードを手に取り、デッキに加える

 

異様な雰囲気の中、振り返ったフードの男の顔は……真っさらであった。異常なまでの白さとツヤ、眉・目・鼻・口……おおよその全ての顔のパーツが欠乏している表情……彼の顔は硬質な仮面で隠されていた。目が存在しないが…ローライドを見据える男が取った行動は、掌を身体の前面で合わせて頭を下げ……お辞儀をした。あまりに想定外な行動にローライドは戸惑う

 

「ドーモ 初めまして ローライド・レイト=サン……」

 

無機質な、肉声とはかけ離れた機械により変質した声で、男は名乗る

 

「ーーーサウザンド・フェイスです」

 

エクシーズ次元のレジスタンスであり、融合次元アカデミアの抹殺リストの危険度Sランク対象者

 

千の顔を持つ狂気の決闘者(デュエリスト)は、スタンダード次元で初めてその名を告げた




前話は微妙な出来だったので急いで書いたのですが…うん

と゛う゛し゛て゛こ゛う゛な゛っ゛た゛!!

気が付けば真澄んといちゃついてる砕羽くん…とても最初は噛ませフォースとして一方的に蹂躙されて殺される運命だったとは口が裂けても言えないね!


ダメージ・カット

①相手が効果ダメージを与えるカード効果を発動した時発動できる。その効果ダメージを無効にする



次回予告

突如プロデュエル界にエントリーした謎の決闘者(デュエリスト) サウザンド・フェイス。彼は一体何が目的なのか!?そして、その仮面の下に隠された正体とは、一体何者なのか!?(すっとぼけ)

「見せてあげましょう!新世界(デュエル)の神髄を!」

面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC–V物語
第24話 「その名はサウザンド・フェイス!」
お楽しみは、これまでだ!
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