面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語 作:ジャギィ
今更ですが本作の序盤に大量出現したオベリスクフォースは、特別な時を除いてアカデミア兵に変更しておきました。それとユートと瑠璃の関係に関しても感想で指摘されましたが……あくまで兄と同じくらい親愛、ということでお願いいたします!風斗も同じくらい
それでは、ようやく動き出した第31話ドーゾ!
「やっと、この日が来たか」
ここまで…この世界に来て約8ヶ月にも渡る月日をなんとか過ごせた自分への賞賛とこれからさらに波乱万丈になるであろう未来への憂鬱、両方の意味を含んだため息を吐きながら僕はそう呟いた
デュエルスタジアム観客席の出入り口…結構高めの位置から見下ろしたアクションフィールドが展開した荒城が建つ密林の中で、デュエルは行われていた。そのデュエルは、新たな力…ペンデュラム召喚の登場と共に決着がついた
『「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」がレベル5以上のモンスターと戦闘した場合、そのダメージは2倍となる!「リアクション・フォース」!!』
『ぐわああぁぁぁーーーーっ!!!』
「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」のブレスを弱体化した「バーバリアン・キング」は真正面から直撃し、その効果も発揮されストロング石島のライフを一気に0にした。途中アクションマジックや罠の妨害も行っていたが「時読みの魔術師」と「星読みの魔術師」のペンデュラム効果により封じられた
デュエルの終了と同時に、物凄い歓声が周囲から沸き立った。誰も見たことのない(この場の例外者2人)召喚法であるペンデュラム召喚、それにより長年チャンピオンだったストロング石島相手に予想外の逆転劇を披露……興味を持つにも、話題となるにも十分過ぎるものだった
「長かった…本当に長かった…!遊戯王ARC-Vに転生できたと思ったらエクシーズ次元なんて最初から難易度インフェルノなところに放り込まれて、瑠璃を助けるために融合次元に乗り込んで、命を危機を乗り越えながらもスタンダード次元にやっとたどり着いたと思ったら社長に目ぇつけられて扱き使われて疲労困憊の日々……なんか、なんか違うだろ!僕が望んだ遊戯王の日々って、こんなもんじゃなかったはずなのに!!」
日々押し隠してた不満を爆発させる。熱狂のあまり大声で叫んだ不満が掻き消されたのは幸運と言えるだろう…だからって不満がなくなるわけじゃないが
『説明が長々しすぎるし切実な思いが伝わってくるからそれ以上は止めろ…こっちまで悲しくなってくるだろう』
「うっさいこの傍観者。人格の入れ替わり出来るとか言っておきながら今まで1度も変わったことないくせに」
曰くフワフワする感覚で喋る・考える・見ること聞くことくらいしか共有出来ないらしいから変わるのは引け気味だったとはいえ、楽がしたくないわけじゃないんだからたまには働けよこのニート!まさか人格入れ替えとか嘘なんじゃなかろうか?
だがまあ、物語はようやく動き出した。今日を機に赤馬もペンデュラム召喚の解析に忙しくなるだろうし、そうなれば他の3つの召喚法のカード開発も後回しにせざるをえなくなる。対アカデミアの決め手となるものを欲していた赤馬からすれば、ペンデュラムはまさに未知の力……何としても手に入れたいはずだ
「…でもそうなると、遊勝塾への接触は目に見えてんだよなー……」
細かい理由は分からないが、赤馬は榊遊勝に対して一定の感情…尊敬のような念を抱いている節がある。そんな奴が現状遊勝の遺産とも言える遊勝塾を乗っ取ろうなどと考えたりはしないだろう。アニメでもLDS理事長殿が独断で動いた感じだったし
何より遊勝塾に僕が所属していることを赤馬は知っているのだ。たった1回のデュエルとはいえ、赤馬零児が僕に負けたという事実は
そして本音を言ってしまえば、僕はそれを止めたくない……というか止めた場合色々と面倒になる可能性が多い。既に融合・シンクロ・エクシーズの概念を遊勝塾のみんながさわり程度で理解しているとはいえ、ペンデュラムを慣らすという意味ではデュエルの経験は多いに越したことはない。何より遊勝塾乗っ取り3連デュエルの後の遊矢と赤馬社長のデュエル……自分以外にもペンデュラム召喚を使う奴との対面が遊矢の成長には必要なのだ。そのタイミングを奪って、あまつさえ他の人間がペンデュラムを使うという事実を知る時期を誤ってしまったら、遊矢が挫折することもあり得る。原作に比べて随分心が強くはなっているが…一抹の不安は残る
『まあでも、少なくとも沢渡に命令してペンデュラムカードを奪うなんてことはしなくなるだろう』
黒星が反響する声でそう言う。それは間違いないだろ。向こうからしたらペンデュラム解析の忙しい時に同盟相手を怒らせてレジスタンスをも敵に回せば、融合次元のアカデミア相手どころじゃなくなる。実質2つの次元を敵に回すことになるんだからな
赤馬は高校生な年頃だがそれでも社長という立場に立っている…だから頭もキレるし経営者としての損得勘定も上手い。出身が不明な…しかしエクシーズ次元の味方をしている僕がどういうことを怒り、そして何をするかの最悪を考えれば、敵対を思いつくことだろう
もっとも、よほど私欲且つ自分勝手なことさえしなければ、見限ることなんて絶対ないだろうけど。あいつのアカデミア打倒の決意は、半年赤馬と共に行動した僕でも分かるほど強い。せめてその気持ちがこれからの僕たちにとってプラスに働いてくれることを祈るしかないな
〜〜デーンデーンデン♪デーンデーンデン♪デーーーンデデデーンデン〜〜♪
「……うん?」
ふとポッケに締まっていたスマフォが震えたかと思うと、なんだか聞き覚えのある曲が流れていた。というか、5D’sの終盤で流れるアバンの曲だった。ほら、『人々は、5D’sと呼んだ(呼んでません)』ってやつ…なんでそれが聞こえてくんの?メールはガッチャさんのテーマ、電話はブックスのテーマにしていたはずだが。この世界じゃ、機能することなんてまずないが
疑念を解消するために電源をつけて指紋認証でロック解除を行うと…もう使うことはないアマゾンに計算王と一緒に並んでいるアプリ、更新王のアイコン右上に小さな赤丸に1の数字
「これは」
『OCGの新たなカードと禁止制限がアップデートされたってことか』
「だろうね」
被せてきた声に同調するよう返事をする。なぜ今急にって思うところもあるが、カードが増えるということは新たなデッキ構築、戦術が増え、広がることに他ならない。全く新しいテーマのデッキを作り、回し方を覚えるのはあまり…というかかなり苦手なのだが、そう言うのは割り切って頑張って覚えていくしかない
それに僕からすれば、重要なのは新規カードよりも……
「禁止制限……大丈夫だよな?また弱体化とか食らわないよな…?」
『この瞬間が何よりも恐ろしい……』
どうやら黒星も禁止制限の波に流されるのは恐怖を覚えるらしい。どうでもいい知識を得ながら新規とリミットレギュレーション、一体どっちを先に見るべきか2人して葛藤する。
「……えぇーい男は度胸!!ポティッとな!」
色々迷った結果、禁止制限の方から先に目を通すことにした。そしてその変化した環境に目を通して……肩の力が抜けた
「……か、緩和だけか…びっくりさせやがって」
今回の禁止制限は前回禁止から戻ってきた「クリッター」と「サウザンド・アイズ・サクリファイス」、前々から制限カードだった「光の護封壁」が準制に、準制の「超再生能力」が制限解除されただけだった。特にめぼしいカードが
とにかく、リミットレギュレーションの更新は特に異常なし!といったところだな。強いて言うなら、「超再生能力」緩和のおかげで「
「さてと、1番の問題は杞憂だったし新しいカードでも見ていくか」
『どんなカードが増えてるんだろうな』
絶望が通り過ぎればあとに残ってるのは希望だけだ。気分はまさにパンドラの奥の希望に手を伸ばす感じで、どんなカードが出てきたのかなと内心ワクワクしながら新規カードと書かれたアイコンをタップする。新しいカードの総数は、正直かなり少なかった。40か50種類くらいって、新規パックのカードってもっと種類が多かったような…なんか妙に少なくない?
あ、でも新規カードの中に「サイバー・エンジェル」とか「ズシン」とか「
「これは、「
カードリストの終盤には、非常に忘れがたいカードの名前が明記されていた。それは、このスタンダード次元で赤馬の下で動いていた半年の間に起きたある出来事と起因している。それらの内容については割合するが、とにかくその出来事の過程ですることになったデュエルで自身の敗北の決め手となったモンスター…それがこの「
なぜあの時のカードがこのリストの中に?最初こそ驚きが隠せなかったが、1度冷静になってカードテキストを読んでみると「
ここまで見て、僕はようやく1つの結論に辿り着いた
「……もしかしてこれ、コレクターズパックのカードなのか?」
コレクターズパック。それはアニメや漫画で登場しても長い間OCG化されなかったカードを長い年月の果てにOCG化したカードや、絶版あるいは入手が困難なカードが再録し、それらが詰め込まれたパックの名称である。特定のデッキの強化カードが大量に入ったブースターパックと似たような感じで、共通としてパックに入っているカード種が通常パックと比べて半分くらい少ない。だから通常パックよりも一気買いや箱買いがしやすくて、同じカードがダブりまくってもスーレア求めてついつい買っちゃうんだよねー
話が逸れてしまったが、要は今回の更新王によって追加されたカードがコレクターズパック1種類分だけだったって話だ。「サイバー・エンジェル」や「ズシン」もあったし、見たことがない「
でもそうなると、誰が「
「いやいや、ないないないない」
エクシーズ次元にはほぼ2ヶ月も居たんだ。アストラルと引き分け、トロンに負けた時以外は全勝している鬼戦歴のカイトがレジスタンスにいたならば、絶対に噂になるほどの怒涛の活躍をしているに決まっている。なんせ弟のために命懸けのデュエルをするほどの男なのだから
そういう話を一切聞かなかったことからして、エクシーズ次元に天城カイトがいることはあり得ないだろう。けどまあ、今度機会があったら瑠璃に色々聞いてみるか
「しかし、改めて「
しかも素材もレベル8を2体の縛りなしだし…また新しいのランク8が増えちゃったよ。以前から強化された「
青空を見上げてあるはずもない懐かしい街や家を空想しながら、僕は前世の世界の遊戯王環境が気になった
遊矢がストロング石島に勝利したその翌々日。ガラリと、もぬけの殻も同然な遊勝塾。現在では我が家のように過ごしているここの自室(応接室)でソファに寝転がりながらデッキに使えるカード、使えないカードの整理を行っていた。しかしカードを触れる手はストレスもあって雑で粗暴な動き、端から見ても…というか自分自身でも分かってるくらい苛立っている。イカンイカン、カードに当たるとか子供じゃあるまいし…ああでも腹が立つ
この、今すぐにでも大爆発させたい溜まりきった怒りの感情。なんでこんなにイライラしているのかといえば、事の始まりは昨日、あからさまにペンデュラム目的で入塾しようときたガキどものイカサマ発言が原因であった
観客に見せるための遊矢と柚子のデモンストレーションデュエルで遊矢はスケール8の「時読みの魔術師」とスケール4の「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」でペンデュラム召喚しようとしたのだが、その結果、手札にあったレベル2と3のモンスターがペンデュラム召喚できず、 何もできないまま遊矢は敗北したのであった。それによりペンデュラム召喚できなかった遊矢を入塾希望のガキどもはイカサマ扱いし文句を垂れたのだ
たった1回ペンデュラム召喚に失敗しただけで見限るっつー我慢弱さも、気に食わない結果だからってやれ「ズル」だの「細工」だの好き放題文句を言う口の軽さも……これだから、こういう自分勝手なガキ…いや、人間ってやつは嫌いなんだよ。少しは遊矢の気持ちを考えてみろよな
あまりに腹が立ったので、その場で遊矢から「星読み」「時読み」「ペンデュラム・ドラゴン」を借りて僕のデュエルディスクでペンデュラム召喚を実演、当然ながらペンデュラム召喚は成功。セットしたペンデュラムモンスターのスケールによって召喚できるモンスターが違うんじゃないか、的なことを言ったらその場の全員が納得した。遊矢だけ一瞬微妙な顔をしたが、瑠璃を除いた遊勝塾のみんなと一緒に「たった2回見ただけでペンデュラム召喚のことが分かったのか!」と凄いものを見る目で僕を見つめていた。誤解だ、元々ペンデュラムのことは知ってたんだ…なんて言えるはずもなく、その間だけちょっと居た堪れない気持ちを味わった。借りたカードはすぐに返した
そしてペンデュラム召喚が実在すると分かって喜んでいる入塾希望のガキども全員に対して…僕は目も合わせず帰れと告げた。憤慨する様子を尻目に、「ここはペンデュラムではなくエンタメを学ぶ塾だ。召喚法を学びたいならLDSにでも行け」と論を唱えた。なんなら紹介状を書いてもらえるよう頼んでやろうか?と煽れば、子供全員が失望しながら塾から出て行くのに時間は掛からなかった
その後、塾長と柚子に勝手なことをするなって怒られた。めっさ怒られた。流石にやり過ぎた自覚はあったから正座で説教を大人しく受けたが、でも塾の大事なところを良く見ていてくれていたのは嬉しいって塾長に嬉し泣きしながら抱きつかれた。顔を引き攣らせて助けを求めるが、みんなして唯一遊勝塾でエンタメデュエルを学びたいと残っていた山城タツヤを囲んで歓迎していた。今は関わりたくないという感情をひしひしと感じながら、おのれ覚えてろと呪詛の言葉を吐き出した
……とまあ、そんなことがあったのだ。ぶっちゃければあのクソガキどもに言ったことは何も間違ってないし、後悔とかも当然してない。今の今まで散々“卑怯者の息子”とバカにしておきながら、ペンデュラム召喚を使える唯一の存在と知ったら掌返して近づいて、でもペンデュラムが使えないと分かったら“卑怯者の息子”に加えて“イカサマ
おまけに帰った後、あいつらが好き勝手言ったのか入塾者は昨日以降トンと減り、イタズラ電話まで掛かってくる始末。マジで面倒くさい限りだ。毎回掛かってくるイタズラ電話に大声で「わざわざこんなイタズラしてくるなんて余程ヒマなんですね!!それとも頭に蛆でも湧いてんのかな!!」って言ってブツ切りするこっちの身にもなれってんだ。でもクソガキ入塾者が減るのは大歓迎だけどね
しかし今回増えたカード、ホントに新規が少ねーな。「
〜〜デーレ、デレレンデレレン♪デーレ、デレレンデレレン♪デレレン、デレレン、デレレン、デレレン♪
…なんて考えてたら、デュエルディスクの電話機能のコールが鳴り響いた。このBGMはトマトくんか。いったい何の用だ?通話状態にして左耳にディスクを当てる
「ノックしてもしも〜……」
『風斗!?良かった、出てくれて!』
「おうっ!?」
ちょっとふざけて電話に出てみたら切羽詰まった感じの遊矢の声が耳を突き抜けて変な声を出してしまった
「っ〜〜〜!あーもううるさい!聞こえてんだから電話くらい静かに喋れ!」
『ご、ごめん!でも大変なことが起きたんだ!すぐにLDSの3番デュエルコートに来て欲しいんだ!』
「大変なことだと?」
『沢渡ってやつに、俺のペンデュラムが盗まれたんだ!!』
「……あ〜〜〜……」
伝えてきた事実に思わず拍子抜けする。いや、遊矢からすればそんな緊急事態にわざわざ僕に連絡してくるもんだから、余程まずいことでも起きたのかと思ったからだ。確かに赤馬がペンデュラムカードを強奪するはずがない!と思ってはいたから驚きこそしているものの、それは結局のところ僕の勝手な評価による判断だから別に言うほど予想外って感じでもなかった
いや待て、そもそも社長が命令を出してペンデュラムを強奪したとも限らない。沢渡は自尊心の塊みたいなやつだ、たった1人だけが持つ召喚法なんざレアな俺にこそふさわしい的妄言の元、単独でペンデュラムを奪った可能性もある…けどまあ、その辺の確認は後でいいや
ただ、今ちょっと修造さんから頼まれて遊勝塾の留守を任されているから、遊勝塾から出たら誰もいない状態になるんだよなぁ…鍵は修造さんと柚子の2人が持ってるし、誰かが来たら対応する人間がいなくなる。あ、でも柚子と小学生組3人が人質に取られることを僕は知っているわけだから、事情を話せば行っても大丈夫か?でもこの先の遊矢の勝利を知ってることから考えたら、正直二度手間な気がするし……
「…分かった。でも僕留守頼まれてて塾から離れることができないからさぁ、今から砕羽に連絡入れてそっちに向かわせるよ」
色々考えた結果、砕羽を
出来れば僕の方が沢渡にプレッシャーをかけれるという意味では行きたいのだが、大人って理由で留守を選抜されたわけだし、ここはあいつに任せるのが得策だな。曲がりなりにも元オベリスクフォース、リアルファイトもデュエルも充分な援軍と言えーーー
『でも早くしないと!沢渡が人質を取っているんだ!柚子と瑠璃と、アユたち3人も!』
「………あ゛ぁ゛?」
人質として挙げられた名前に声が荒ぶる。おかしいな、柚子と小学生組3人は原作通りだから特に差異はないのだが…瑠璃って名前が聞こえたのは聞き間違いか?
「誰と誰と誰が捕まったって?」
『柚子と瑠璃とアユとフトシとタツヤの5人だよ!………風斗?」
「……ほう?」
今度はきっちりと聞こえた。柚子と瑠璃とアユとフトシとタツヤの5人か……そうかそうか、聞き間違いじゃなかったかぁ
「オーケイ分かった。第3デュエルコートだったな…すぐ行く」
『え、ちょっと、風ーー』
聞こえてくる声を無視しながらプッ、と通話を切って、ディスクに砕羽竜太郎と表示されたところをタップする。少しコール音が鳴った後、塾の入り口から件の人物の声が聞こてきた
「ただいまー。どうしたんだ白星?急に電話をかけてくるなんて」
どうやら砕羽はすでに遊勝塾の近くまで帰ってきていたらしい。正直な気持ち、どうして瑠璃から離れたのか小一時間問い詰めてやりたいところだったが、今はそんなことをしている暇がないから理由は後で聞くことにしよう
そんなことを思いつつ入り口まで移動し、スーパーの袋2つを片手に持つ砕羽の肩に手を置いて一言だけ告げる
「ちょっくら出掛けてくるから。LDSの第3デュエルコートまで」
「は?」
「てなわけで留守よろしく」
「あ、おい!」
後ろからの叫びをスルーしながら、ガラス張りのドアを押し開けてコンクリートを蹴り走る。舞網市で象徴するかのようにそびえ立つ、レオ・コーポレーションに向かって
LDSの第3デュエルコートでは、少し遅れてやってきた遊矢がペンデュラムを奪った沢渡とデュエルを行っていた。沢渡のペンデュラム召喚により徐々に地力を失っていく遊矢だが、普段から戦うサイバーデッキに比べればパワーは大したことがないと己を奮い立たせながら、必死に食らいついてゆく
「ちょっと!早くこれ外しなさいよ!」
「クッ……ダメだわ、外せない」
そして、高い位置にある見学のための部屋、そこで沢渡の命令で人質とされた柚子、瑠璃、アユ、フトシ、タツヤの5人と人質を監視している沢渡の取り巻き3人がニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。柚子と瑠璃だけは手を後ろ向きの状態で縛られていて、小学生組3人が解こうとするも小学生には固すぎる結びだった
「固くてほどけないよ〜…」
「下手に力づくでやったら2人の手が傷ついてしまうし…どうすれば」
「俺たちを人質にとって柚子と瑠璃を縛るなんて、しびれるくらいきたないぜー!」
さらわれたことも含めて、汚いことをする沢渡の取り巻きたちに原田フトシは怒る。…が、その返しは柿本から始まった逆ギレであった。頬には赤い紅葉がうっすら残っていた
「うるせえ!大人しく捕まっていればよかったものを!柊は山部にハリセンで叩いて、柊そっくりの奴は俺にビンタ!大伴に至っては、背負い投げされてさっきまで気絶してたんだぞ!」
そう、最初は人質が増えたと喜んでいたが、瑠璃のスナップを聞かせた平手打ちから始まり、次に柚子のハリセン殴打、最後には見事な一本背負いで柿本、山部、大伴の3人を撃退していたのである。だが隙を突かれて気絶までしていなかった柿本と山部に瑠璃が羽交い締めにされ、結果的に捕まった瑠璃を理由に人質とされてしまったのであった
頭をさすっていた山部は、瑠璃に投げられた大伴は腕を組みながらウンウン頷く。でも、そんな出来事があったとしても子供たちはジト目なまま見続けている
「そっちが先に悪いことしたくせに」
「そういうのをいんがおほーだって、風斗が言ってたぜ!」
「正しくは因果応報ですよ、フトシくん」
“先にやったのはそっちだから自業自得だ”という実際真理的な言葉と正論であるが、小学生までに…むしろ小学生に言われたことで取り巻きたちの理不尽な怒りは増すばかり
「くそ!ガキの分際でなまいきな!」
「落ち着け柿本、こんなことでいちいち怒るな」
「もう少しで沢渡さんがペンデュラムの力で榊遊矢を叩きのめす。そうなれば、ここ最近負け続きの沢渡さんもNo. 1になれるぜ!」
『聞こえてんだよ大伴ぉ!俺があいつに負けるのは、あいつが赤馬零児から最新のカードばっか使わせてもらっているからだ!ペンデュラム召喚さえ手に入れれば、どんな奴も恐れるに足らねえよ!』
アクションフィールドの目立つ場所から上の大伴に向かって叫びをあげる。そのまま余裕の顔で遊矢に向き直る姿を見ながら、柿本、山部、大伴は小さく文句を言い合う
「まったく…人使い荒いくせによく文句も言う人だよな」
「これも全部白星が塾に来たせいだよなぁ。あいつに負ける日…てかほぼ毎日機嫌悪いし、LDSの授業内容も難しくなったし、他の奴もメチャクチャ強くなるしで散々だ」
白星、という名前に、瑠璃を除いた人質全員が驚く
「あ、でも俺この前シンクロコースの奴とのデュエルで逆転勝ち出来たんだぜ!」
「本当かよ!スゲェ!」
「『シンクロやエクシーズは特殊召喚を多用するから、「増殖するG」を打てば相手がそのターンで仕留めれる自信がなければ、大幅な展開はだいたい抑えられる』って言ってて使ってみたら、モンスターを揃えられてもシンクロ召喚してこなかったんだ」
「「増殖するG」!?あんなゲテモノカードお勧めしたのか白星の奴!?」
「あの時の相手、ドローよりもGを見たくないって理由でシンクロ召喚しなかったみたいだぜ」
山部が哀愁漂う顔でそう伝えると、柿本と大伴が引き気味に答えた
「あいつ、まさかそれを見通して教えたんじゃ……」
「あり得る。流石みんなに《外道
「へぇ〜そんな風に呼ばれてたんだ僕。詳しく聞いてもいいか?」
「……ん?」
「…は?」
「ゑ?」
ふと割り込んできた、今聞こえてはいけない声に3人は順番に疑問符を浮かべる。バカな、あいつは今日講師の仕事は休みだったはずでは?あり得るはずがない。信じられない、否、信じたくないという思いのもと、そーっと声の聞こえた方向へ顔を向け……
見覚えのある顔と、目が合った
「やっほ♪」
「「「な、な、な……白星イィイイーーッ!?」」」
「風斗!」
仲の良い絶妙なハーモニーで、彼らは共に悲鳴をあげた。なぜならそこには、白星風斗がにこやかな笑顔で笑っていたのだから。瑠璃が喜びの声をあげる。なぜならそこには、何度も自分を救ってくれた素晴らしい仲間がいたのだから。遊勝塾の最終兵器の登場に、柚子とアユとフトシは目に見えて喜ぶ。タツヤだけは周りの大きな喜びように少し困惑している
「な、なんで!」
「どうやってここに入った!?」
「いや、そもそも何でここにいる!?」
恐慌状態になりながらも3人は問う。そもそも今回のペンデュラム強奪の話は、沢渡がLDS上層部の人間から持ちかけられた話なのである。奪ったペンデュラムカードを渡してくれれば、完成したペンデュラムカードを真っ先に沢渡と取り巻き3人に渡すという交渉により、今回の強奪事件が起きたのである
カードを奪う場所としてこの第3デュエルコートが選ばれたわけだが、ペンデュラム奪取を確実にするためにこの場所は今日立ち入りを禁じていたのであった。それにカギだって閉めている…正面口は榊遊矢を誘い込むために開けてはいるが、仮にそこから入ったならば誰が確実に気づくはずだ。だから誰にも気づかれず近くまで風斗が現れたことに柿本、山部、大伴たちは狼狽したのであった
だけどそんな取り巻きたちの動揺は無視して、風斗は瑠璃たちに近づく
「大丈夫か瑠璃!?」
「ええ、大丈夫。ただ、私と柚子は手を縛られちゃって……」
「…あぁ、だから脱出できなかったのか…納得した」
勝手に変な納得をしながら、風斗は2人の拘束を外した。結びの固さと形状から無理に縄を解いたら縛りがキツくなると即決で判断し、縛りを解くではなく緩める方向で縄の結びを動かして、2人の手首から手錠型で固まった縄を取った
「これでよし」
「ありがとう風斗」
「助かったわ」
「どういたしまして…っと」
一仕事終えたかのようなオッサンくさい動作で立ち上がり、緩やかなスピードで振り返る。彼の後ろでは人質5人が解放されていた
不気味なほど静かな表情で、柿本たちの質問に答えていく
「どうやってここに入ったか?侵入自体は簡単だったぜ。いくらドアのカギを閉めようと…まあ正面は開いていたけど。……窓を開け放してちゃ意味ねえだろ」
ちなみに殆どのデュエルコートの窓は、ビル3階分ほどの高さである
「あ、あの窓から入ってくるバカなんか想定できるか!」
「そしてここにいる理由だったなぁ」
聞く耳持たんといった感じで話を続ける
「あそこでデュエルしている遊矢と…お前らが人質にしている柚子とガキども3人は、僕の生徒だからだ」
「ハァ!?生徒!?」
「そういやお前、別の塾の講師っつってたよな…?」
「その塾ってまさか…遊勝塾なのか!?」
風斗のカミングアウトから示し出した答えに柿本たちは狼狽える。そして、風斗から滲み出る怒りの感情に、徐々に動揺は恐怖に変わっていく
「そして何より、お前たちは瑠璃に手を出した…絶対に、ゆ゛ る゛ さ゛ ん゛ っ!!」
クワッ!!と、表情が変わる。まっさらな能面の顔が真っ赤な般若に変貌する…他人から見れば、そんな変化だった
「こ、こわい……」
「しびれるくらいおそろしいぜ…」
「あの人は、きっと怒らせてはダメな人ですね…」
小学生組がそれぞれの感想を漏らしながらも、それを聞き流してブォンと赤いデュエルディスクを展開し、思い出したかのようにまた静かに怒りを潜ませながら…一言
「おい、デュエルしろよ」
柿本と山部と大伴の3人は、この時の風斗を見てこう思った。「今の白星は、デュエルディスクが死神の鎌に見えるほど怖かった」と
「く、くそぉ…。この沢渡シンゴ様が、あんなクズモンスターにトドメを刺されるとは……!」
あまりにも悔しそうな感情を声に込めながら、沢渡はアクションフィールドの水路から這い上がる。レアカードであるペンデュラムモンスターさえ自分の手に渡れば、榊遊矢など恐るるに足らないと完璧に思っていた
だが、結果は遊矢の逆転勝利。中盤まではペンデュラム召喚によるレアカードのゴリ押しで優勢な状況だったが、沢渡がクズカードと遊矢に捨て渡した「ブロック・スパイダー」を使った
優雅にお辞儀をして締めくくった遊矢のエンタメ
ペンデュラムは取り返され、デュエルも負け。このままでは作戦は失敗し、ペンデュラム召喚はあいつだけのものになる…プライドの高い沢渡は、その事実がどうしても許せなかった
(レアな俺だけが持つならまだしも、あんな弱小塾の奴だけがペンデュラム召喚を持っているとか我慢ならねえ!!)
「こうなったら実力行使だ!テメェのペンデュラムカードを、力づくで手に入れてやる!」
「な…!?デュエルは俺が勝ったのに、卑怯だぞ沢渡!!」
「そんなの、俺さまの知ったことじゃねえ!柿本、山部、大伴!榊遊矢からペンデュラムカードを奪いやがれ!!」
遊矢の至極もっともな正論を暴論で返しながら、ターゲットを指差して沢渡は3人に命令を下す
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
が、いつまで経っても沢渡の命令は実行されない。あまりに長過ぎる沈黙に無視されたのだと思い込んだ沢渡は、顔を赤くして人質が捕らえられている部屋に向かって怒号を叫ぶ
「聞こえてねえのかお前らぁ!!あの卑怯者のペンデュラムを奪えって言ってんだよ!!」
「卑怯者はそっちだろ!」
立場はどう考えても真逆なのに、そのあんまりな言い草に普段怒らない遊矢が大声でツッコミを入れる
その直後、部屋がピカッ!と光って爆発の衝撃を内側から外へ吐いた
「………ハ?」
「ぐわっ!」
「うげっ!」
「ぐへぇっ!」
そして落下防止のフェンスを勢いよく貫通しながら、柿本と山部と大伴の3人が順番に落ちてきた。潰れたカエルのような悲鳴を漏らした死屍累々がダークタウンの床に転がる。当然ながら怪我の類は一切負っていない
「お、お前ら!?」
動揺する沢渡に対して、取り巻きたちが捻り出した言葉は切実なものであった
「や、やられた…」
「あいつ、とんでもなく強え…強過ぎるぅ…!」
「沢渡、マジやばいっすよ……ガクッ」
言いたいことが言えて満足したのか、揃って同時に気絶する。3人が残した遺言(死んでません)にただただ混乱するばかりの沢渡
(こいつらが3人同時に相手して負けちまう相手だと!?だが、総合コースとはいえLDSだぞ!誰だ!一体、誰が……)
再び
人間じみた骨格の黄金に輝く躰と翼。神聖な眩きを抑え込むような白い装甲が腕、脚、身体、翼に沿う形でつけられており、肉体の至る所に埋まっている水晶と同じように意思のこもった瞳が翡翠に光る。もう1体の戦士然としたモンスターも龍と似た鎧を身に纏い、翼を広げるように見せつけた背中の白の曲線には、並びに並んだ黄金の剣。胸元の透明な円状に、周囲で浮遊していた
そして龍の右脚の鎧の膝上に、戦士の飛び出すような肩のアーマーの部分にそれぞれの自身を象徴する赤い古代数字が刻まれていた……龍には「99」、戦士には「39」の数字が
「いやぁ、久々に結構本気を出したな。2ターンは粘られると思ったんだが、伏せの1枚も伏せないとは」
「……普段、一体どれだけ手を抜いてたっていうのよ……?」
「ごめんなさい柚子。私、未だに彼の本気の基準が分からないのよ……」
「
唯一「
「ゲェッ?!な、な、何でテメェがここに!?」
「風斗!!」
無事柚子たちを助けてくれた味方の登場に歓喜しながら、それでも心配であるのかその場で座り込んでツインテールの少女に遊矢は近づく
「柚子、大丈夫だったか!?瑠璃に、それにアユとフトシとタツヤも!」
「え…えぇ。別に、何もされてないし、風斗にすぐ助けてもらったから」
ゆっくりと立ち上がるものの、その足取りは不安定だった
「本当に大丈夫なのか柚子?体がフラついてるぞ」
「もう、心配性ね遊矢は」
それでもと不安な表情の遊矢に、柚子はこれ以上心配をかけさせまいと笑顔で答えてみせる。その様子を流し見しながら、白星風斗は沢渡へと距離を詰める
「柿本たちをやったのはお前か!?俺様の計画を、よくもメチャクチャにしやがって〜!」
「遊矢に負けた時点で計画はすでに無駄も同然だろうが」
「うるせえ!だいたい何でここにいやがんだ!ここは今日立ち入り禁止だぞ!」
じゃあここにいるお前はなんなんだよ、という喉まで出かかったセリフをギリギリの所で飲み込む。取り巻き3人と同じ意味の質問を、風斗は質問で返す
「沢渡、逆に聞くんだが、柚子と結構似てる顔をしたこの娘のこと、覚えてるか?」
「あん?覚えてるも何も、初めて会ったやつじゃねえか」
その無神経な言い返しに、風斗の脳内ではカウンターが溜まるような音がした。3つ溜まれば、デュエルを介したリアルファイトが沢渡を襲うことになる
「本当に?」
「知らねえっての」
チャリーン。カウンターがも1つ乗る
「沢渡、最後のチャンスだ。よ〜く思い出してみろ。初めて僕と会った、あのバーガーショップでの出来事を」
「しつけえんだよ!テメェと初めて会った時のこと…なん…か……」
苛立ちとともに吐かれた言葉の最後が小さく途切れる。正面の風斗と遊矢や柚子たちの近くにいる瑠璃、2人の顔を交互に見て……顔を驚愕に染める
「あぁ!あの時一緒にいた!」
「ようやく思い出したか…良かったね、しっかり思い出せて。ついでにここにいる理由も分かって」
なんせ、1番厳しい罰ゲームは逃れられたのだから。知り合いが人質となればここにいる理由も説明がつくし
「さてと…これでお前に対しての心残りは無くなりました。あと必要なのは屈辱的な敗北だけだ。さあ、デュエルだ」
「ふざけんな!なんでお前とデュエルなんか…」
「別に逃げてもいいけど、その場合はテストと称してLDS内でデュエルを仕掛けるぞ。誰も見てないところで赤っ恥をかくのと、大勢に見られながら赤っ恥をかくのと、デュエルから逃げ出して赤っ恥をかく……さて、どれが良い?」
「なんで負けることが前提なんだ!!上等だ!最初の時みてえにテメェを這いつくばらせてやる!」
覚悟を決めた沢渡がペンデュラムのないダーツデッキでデュエルに意気込む。まあ別にそんなことは良いか。まともなデュエルなんかする気もないんだし
「アクションフィールドも残ったままだし、このままアクションデュエルと洒落込もうか」
さあ、初めて会ったあとの(一方的な)誓いを果たそうか沢渡ィ!
「口上は省略!デュエッ!!」
「ハァ!?…デュ、デュエル!!」
「ハァ、ハァ…ついたか」
膝に手をつけながら、砕羽はLDSのビルを見上げる
留守を任されていたはずの奴が急にその役目を俺にパスしてどこかに出掛けたことで、一瞬どうすればいいか分からなくなってしまった。けれど、同じくちょうどいいタイミングで戻ってきた柊塾長のおかげで危機は回避。塾長に事の顛末を説明してから、俺は白星が告げた第3デュエルコートとやらに向かった
白星は基本的に考えなしに動く男ではないと思っている。けどたった1つ…理由は全く分からないが、黒咲瑠璃が関わった時に限っては一転、慎重なんて言葉が投げ捨てられたようなあり得ない考えと行動に移る時があるのだ。その時の白星はいつもよりイキイキしてるようにも見えるから、きっとあれがあいつの素なのかもしれない。そして、もしあいつの暴走の原因が瑠璃だとすれば、遠因は俺にあることになる
買い物の途中で鮎川たちに出会って、目的が遊矢と柚子を迎えに行くといった内容だった。いつも遊矢とデュエルをしているから、何かあっても実力的に大丈夫だろうと安心して瑠璃を行かせてしまった
だが、その遊矢の実力を上回るアカデミアの刺客が瑠璃を攫いに来たら?そうではなくても遊矢たちと会う短い空白の時間に連れ去られたら?嫌な考えがどんどん溢れ出てくる
「俺も平和ボケしてしまったってことか…!」
しかし、今悔いても何も解決しない。1秒でも早く白星たちと合流しなければ。もしかしたらあいつがすでに撃退している可能性が高い確率であるが、黒咲瑠璃…そしておそらくだが、瑠璃とそっくりな柊柚子も赤馬零王の考えるアーク・エリア・プロジェクトの重要なファクターの1つであるはずだ
(ならば、件の人物の誘拐のためにアカデミアの幹部クラスの
「ッ……ここか」
何度かLDSに来ているおかげで、白星が言っていた場所に早く着くことができた
「開いてる……」
大きなドアは中の様子は見えなく、しかし閉まってはいないと分かる程度には扉が開かれていた。「立ち入り禁止」の看板が立てられているのに中途半端に開けられた扉…罠か?
(けど、あいつが戦っているかもしれない!)
ならばここで立ち止まる理由はない!細心の注意を払って扉に手を掛け、バレない程度に隙間を広げ中の様子を伺い…その光景に一瞬目を疑った
白星 風斗 LP4000 手札 3枚
セットモンスター
セットモンスター
伏せカード 4枚
VS
沢渡 シンゴ LP1000 手札 1枚
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム
レベル8 ATK3000
そこでは、白星が実に愉快そうに高笑いをあげながら…確か沢渡だったか?そいつを溶岩でできたモンスターが首からぶら下げてる檻の中に閉じ込めている光景が広がっていた
「俺をここから早く出しアッチィ!!…アツ!出しやがれ!こんなことしてタダで済むと思ってんのかぁ!?」
「出たければ出ればいいんじゃない?攻撃なりなんなりして」
「クソ!「ラヴァ・ゴーレム」、とっととその雑魚モンスターを破壊しちまえ!!」
閉じ込められていた奴がそう叫ぶと、命令に呼応するように溶岩魔神は緩慢な動きでポッカリと空いた口から裏守備モンスターに向かって高熱の炎を吐き出す。が、裏守備を守るように炎の前に立ちはだかり、身を挺して高熱を受けきる。割り込んできたもの…ボロボロの鉄くずでできた
「罠「くず鉄のかかし」ね。「ラヴァ・ゴーレム」の攻撃を無効、発動後効果で再びセットされる」
「汚ねえぞテメェ!テメェのモンスターに閉じ込められてるおかげで、俺はアクションカードすらまともに拾えねえんだぞ!」
「フハァ♪フハァ♪フゥハハハァ♪どんな手を使おうが、最終的に、勝てばよかろうなのだ!!」
ひでえ。俺は心の中でそう呟くしかなかった
あの「ラヴァ・ゴーレム」というモンスターは、会話からして白星が沢渡のフィールドに召喚させたモンスターであろう。攻撃力3000のモンスターをわざわざ相手フィールドに召喚させるということはデメリットモンスターか?けど、それに加えてあのモンスター特有の演出なのか、プレイヤーは「ラヴァ・ゴーレム」の首に下げられた縦長の鉄檻に閉じ込められている。さらにあのモンスターは見た目からして熱そうだから…あの檻の中にいる自分は想像もしたくないな
そして白星は大量のリバースカードとほぼ独り占め状態のアクションカードで「ラヴァ・ゴーレム」の攻撃を対処する…なんてひどい絵面だ
「モンスターの攻撃をわざと外してるだけでも温情と思えよなぁ……で、攻撃終わったみたいだけどどうすんの?なんか伏せる?」
「ぐぎぎぎぎ……ターンエンドだちくしょう!!」
「ほいほい僕のターン、ドロー。反転召喚、「デス・ラクーダ」」
伏せられていたモンスターのうちの1体…腐った肉を覆い隠すように顔や身体や二つコブを、ズタボロの包帯で巻きつけたラクダが瘴気のような息を吐き出す
デス・ラクーダ
レベル3 ATK500
「「デス・ラクーダ」が反転召喚に成功した時、カードを1枚ドロー。……まあ、十分罰は与えたし、「ラヴァ・ゴーレム」はもう破壊してやるよ」
「何!?本当だな!?」
「ホントホント。もう1体反転召喚…モンスターは「スカラベの大群」」
もう1体のモンスターが表になる。するとどこからともなく焦げ茶色の甲殻を持った小型の蟲、スカラベが凄まじい群体と化して現れる
スカラベの大群
レベル3 ATK500
「うげ!気持ち悪!」
「何言ってんだよ、可愛げのあるモンスターなのに……」
(可愛げ?)
信じられない一言に俺は思わず戦慄した。あいつ、まさかそういう趣味があったのか……?
「反転召喚に成功した「スカラベの大群」のモンスター効果で、相手の場のモンスター1体を破壊する。「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム」を破壊」
破壊対象を選択すると、丸みのある蟲たちがさらに増殖しながら溶岩でできているはずの「ラヴァ・ゴーレム」に這い上がり這いずり回る。檻の中にも入られたのか、時折沢渡の悲鳴も上がる
「………ハ!そういえば瑠璃たちは!?」
インパクトの強過ぎる光景にここに来た目的を忘れかけていた。もう少し扉を開けると見えたのは、白星のデュエルをドン引きしながら観戦している男3人と鮎川たちと瑠璃、そして遊矢は1つか2つ年下の少年に肩車されながら楽しそうに絡まれていて、柚子がそれを宥めていた
「ね〜ね〜、いいでしょ〜。僕を弟子にしてよ〜ししょ〜」
「ちょっ、待てって!分かったから降りろって!」
「え!弟子にしてくれるの!?」
「いや、そうじゃなくて……!」
「ちょっと、遊矢が困ってるでしょ!早く降りなさいって!」
「うわ!柚子!俺がこけるから引っ張らないでくれ!」
そんな遊矢たちのやり取りが、どうも俺が必死に走ってきた理由と一致しなくて困惑する
「何やってんだあいつら……」
「「スカラベの大群」でダイレクトアタック!」
「バカめ!あのうざったらしいモンスターがいなくなればもはや俺様のもんだ!アクションマジック「回避」を発ーー」
「カウンター罠「魔宮の賄賂」。魔法・罠の発動を無効にして破壊する。その後相手はカードを1枚ドローする」
「ーー動……って、へ?」
「「回避」を無効にするけど、お前はカードを1枚引けるってわけ。ほら引いた引いた」
「え、あ、おう!ドロー!」
「んじゃ、「スカラベの大群」の攻撃続行ねー」
「ギャアアアーーーッ!!」
「「「さ、沢渡さーーーん!!」」」
まるでコントのような流れで沢渡がスカラベの波に呑まれていくが、なんだか様になる光景だと思った。ああいう扱いに慣れているのではないかと勘繰ってしまうほどに、見事なやられっぷりであったのだ
「……しかし……」
隠れる必要もないと扉から身体を出して、周囲を見渡す
予定調和のように繰り広げられるギャグめいたデュエル、沢渡に何かあれば叫ぶ3人とドン引きする子供たちとため息を吐く瑠璃、なんだかよく分からない少年に振り回されている遊矢と柚子
己が想像した、死闘のデュエルを繰り広げている凄惨な光景と180度違うデュエルコート内の様子に、こう呟くしかなかった
「……なんだこのカオス」
「デス・ラクーダ」に跳ね飛ばされた沢渡の姿を見て、俺が想像してたよりずっと規模の小さな、そんな事件の終わりを理解した
今回更新されたのは「閃光の決闘者編」までです。この設定、今更になって足引っ張ってる感が凄まじいなぁ…自分でやった手前、最後まで頑張るけど
ちなみに一方的な約束っていうのは初めて沢渡と会った最後に外道カウンター“マリク風味”でいじめ抜いてやるって話。詳しくは瑠璃少女への贈り物を確認してください
最近、ニートな日々から脱出して就活支援センターに通っているジャギィです。ここで書いてることと大差ありませんが、もしよければ活動報告の方も見ていただければと思います
では次回予告!
沢渡へのストレス発散も終わらせた風斗たちに待ち受けていたのは、紫雲院素良の登場であった!砕羽は彼に己の変化したデュエルを見せることが、果たして出来るのか!?そしてトラウマは払拭されるのか!?
「俺は変わった。その証を、このデュエルで見せてやる!」
「エクシーズの力を得たって、君がやってきたことは変えられないんだよ」
「分かっている…だから俺は、アカデミアと戦うと決めたんだ!」
面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語
第32話 「戦士だった男の闇」
お楽しみは、これまでだ!