面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC-V物語 作:ジャギィ
……1日経っちゃいましたけどね、ハイ。でもこの「面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC–V物語」も書き続けて、晴れて1年目を迎えることになりました!今更ながら作品名長すぎるなぁって反省する時があるジャギィです。まる
ARC–Vも終わりが近づき、この作品がいい感じに完結できるかは僕の技量次第…この小説を読んでくださっているみなさま、これからも白星風斗くんたちをどうか、よろしくお願いいたします!
それでは新年記念の、すれ違う第33話ドーゾ!
「ふ〜んふ〜ん、ふふんふ〜ん♪……おっ、遊矢」
「あ、風斗」
雲ひとつなく、爽やかな風が吹き抜ける晴天の下でカードショップから帰路についていた僕は、遊勝塾の入り口から外に出る遊矢と鉢合わせた
「どっか出掛けんのか?」
「柚子とアユが買い物に行って遅いからって、俺が迎えに行くことになったんだ」
「さいよか。まあ、沢渡がまたなんか仕掛けてこないとも限らないし、お前のペンデュラムが目的のやつもいるんだから気をつけて行けよ」
「うん、ありがとう!」
遊矢がそう礼を言うと、僕が歩いてきた道を逆走するように走って行った
「ただいま〜」
川沿いに建てられた建造物、遊勝塾のガラス戸に手をかけて帰宅の声をかける。中に入ったらデュエルコートはもぬけの空で、隣の観戦ルームに大勢の人が集まってはしゃいでいた。なんか楽しそうだなぁと眺めつつ、おかえりの意で子供たちに振られた手を振り返しながら、僕は僕の楽しみ…幸福を得るために台所に向かった
舞網市のとある一角に「
そしてその店には1ヶ月に各10個、「ブリューナク」アイス、「グングニール」シュークリーム、「トリシューラ」プリンが販売されるのである。個数が限定されるだけあって、その人気は凄まじいものだ
僕もその人気商品の虜になってしまった1人であり、最初はロクに買えなかった3つの商品も今では徹夜待ちの甲斐あって各3つも買えるほどのレベルである。ARC-Vの世界にもトリシューラプリンがあったのが舞網市に来て1番の驚きだった。とにかく、週に1度は3種のうち1つは美味しいデザートを食せるのだから、甘党の僕からすればこんなに嬉しいことはない。ちなみに遊勝塾の3時はこのデザート争奪戦でジャンケンやデュエルが勃発することもある
リビングを経由してキッチンのフローリングに足を踏みしめ、今日はトリシューラプリンな気分の僕は多分気持ち悪いニヤ顔を浮かべながら、覗き込む姿勢で冷蔵庫を開ける
「……ん?」
だが、分かりやすく手前に置いておいたプリンの容器はどこにも見当たらず、代わりに奥に置いてあったグングニールシューが見えた。あれ、なんでトリシューラプリンないの?先週間違って食ったっけ…?いや、昨日と一昨日とその前も風呂上がりにプリン見ながら楽しみにしてたから絶対に残っていたはずだ
「なんだろ…なんか果てしなく嫌な予感がする」
冷蔵庫を閉めながらなんとなく台所のシンクに目を通す
そして見ると、食器などが片付けられた綺麗な水洗い場の中央に……空になったトリシューラプリンがスプーンと一緒に無残に倒れていた
「プリイィィィーーーーーンンッ!!?」
戦場で隣にいた戦友が撃たれて倒れたかのような心境で、喉を強く震わせた
「人のトリシューラプリン勝手に食ったバカはどいつだァ!?」
できるだけ目立つように、かつご近所に迷惑にならない音量で僕は観戦ルームの扉を荒く開けた。そして聞こえたであろう僕の魂の叫びに対するみんなの反応は…1人を除いて呆れかえっていた。おい、なんだその反応
そんなみんなの気持ちの代弁の代わりか、砕羽が首を振りながら息を吐く
「……急に入ってきて何事かと思ったらたかがプリンのことか。驚かすなよ」
「おいコラたかがプリンだと?あれお前らの分まで手に入れるのにどんだけ眠たい思いしてると思ってんだ?何より僕は予定を崩されるのが大嫌いだっていうのを知ってての言葉か、アン?」
「知るかよ……」
もはや不良のような口調と
「あ、あのプリンお兄さんのだったんだ。おいしかったよー!」
「テメエかああぁぁぁあぁーーーーっ!!!」
ーー床のタイルに靴跡を残すほどの勢いで蹴りつけ、さながらパチンコで飛ばされた球めいて紫雲院に掴みかかった
だが、さすが融合次元アカデミアで養育されたエリートデュエル戦士というべきか、僕の突然の強襲に対して素早くその場を離れることで逃れてみせた
おのれ逃れやがったかクソが!だが絶対に逃がさん!!
「待てや紫雲院!食いモンの、トリシューラプリンの恨みは恐ろしいぞ!!」
「へっへーん!鬼さんこっちだよー!」
プッチンッ
きれたよ…ひさしぶりに……ぶちぎれしちまったよ…!!
子供の挑発に難なくのってしまった僕は、逃げ出した紫雲院を捕まえるために、三次元機動を用いてデュエルコート内を全力疾走した
アクションデュエルを行うための広場で壮絶な鬼ごっこを繰り広げている風斗と素良くんを少し眺めてから後ろを振り返ると、砕羽と権現坂は仕方ないといった感じで一緒に首を振っていた。…きっと私も今、苦笑いを浮かべているのだろう
「まったく、何をやっとるのだあやつは…」
「
そう言いながら、2人はデッキの調整でもするつもりなのかデュエルディスクを取り出し準備をする。肝心のアクションデュエルをする場所は
いたずらを成功させた彼の顔は、心の底から楽しそうに感じる……こうやって見ていると、とても素良くんがアカデミアで優秀な戦績をおさめた融合次元の
いや、普通は思うはずがない。素良くんは私たちより年下でアユちゃんやフトシくん、タツヤくんより年上…身近な人で言えば、風斗の弟子の暗斎くんが1番近い年の子だ。今は中学に上がりたての頃かしら。勉強などが大変になる時期であれど、自分のやりたいことを思いっきり楽しめる時期でもあるわ
誰も想像できるはずがない。そんな彼が、ハートランドを滅ぼしたアカデミアの優秀な兵士であるなんて
(デュエルは楽しむもの…デュエルはみんなに笑顔をもたらすもの……)
デュエルは楽しむもの。それは、風斗が初めて兄さんとデュエルした時に叫んだ気持ちの中にあった心からの本音。そして、デュエルで笑顔を。この言葉は、この遊勝塾の創始者でもある榊遊勝がエクシーズ次元で広めた言葉であった
実は私は、エクシーズ次元の人たちは、遊矢のお父さんである遊勝さんを知っている。他でもない、エクシーズ次元のハートランドで彼のデュエルを見た。正確にはハートランドのデュエル・スクールであるクローバー校の人たちが、だけれど。ちなみに私と兄さんとユートはスペード校に通っている
遊勝さんのことを知ったのは、クローバー校に通っている友人のサヤカから聞いたのがキッカケだった。あの人は当時、エクシーズ召喚のような特殊な召喚法を使わずに、エンタメデュエルというデュエルで人々を楽しませた。その時に『デュエルは人々に笑顔をもたらせる、素晴らしいものだ』という彼の心を、みんなが教わっていた
融合次元で風斗と再会した時に、彼から遊勝さんの名前を聞いた時は驚いた。そしてその間に矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、私をアカデミアから強引に次元転移させた。言われたがままに遊勝塾に行き、再び彼と出会うことはできた
(風斗はそれを分かっていて、この塾を選んだのかしら?それとも、運命…?)
しかし、このスタンダード次元でも色々な出来事が起こり、その際に遊矢たちが遊勝さんに対して並々ならない思いを抱いていたことを知った。遊勝さんは3年前、この次元で行方不明になっていたからであった
そういう理由があるならば遊勝塾で彼の話を持ち出すことはできない。かと言って、今風斗はいずれスタンダードにも侵攻してくるであろう融合次元の対策などで時間に追われていて、2人きりでいる時間などまず作れない。そうやってみんなを気遣っている間に、1年もの月日が経ってしまった
(どうしようかしら……)
そうやって何度も繰り返した問答を頭の中で浮かべていると、アユちゃんが買い物袋1つを両手で持って帰ってきた。しかし、その表情は不安に染まって優れない
「みんな大変!柚子お姉ちゃんが大変なの!」
「え…どういうこと?」
肩で息をするアユちゃんに近づいて、膝に手をついて視線を低く合わせる。少し呼吸を整えて荷物を置いてから、詳しく状況を説明し始める
「えっと、柚子お姉ちゃんと帰っている途中に、沢渡たちが遊矢お兄ちゃんに仕返ししようって話してたの!それを聞いた柚子お姉ちゃんが、「私が止めてくる!」って行っちゃって……」
『『『えぇ!?』』』
部屋にいた全員が驚愕する。沢渡…先日のペンデュラムカード強奪の件で風斗が勝手に彼にお仕置き(という名の私刑)をしていたのだけれど、それで懲りていなかったという呆れと、1人でそれを止めに行った柚子の行動力に対する驚きを声に含めて出した
「それで急いで塾に帰ろうとしたら、途中で遊矢お兄ちゃんにあって……柚子お姉ちゃんのことを言ったら、遊矢お兄ちゃんも追いかけて行っちゃったの」
「何!遊矢もすでに沢渡とやらのところへ!?」
権現坂が声を荒げる。とりあえず柚子1人で沢渡たちに挑むなんて事態は回避できたが、ターゲットとされている遊矢が向かってしまったのはいけない。このままではこれを好機とみた沢渡が、遊矢たちに迫っているのかもしれない…!
不安を頭の中で張り巡らせていると、ガチャリと部屋の扉が開き、素良くんを脇に抱えて頰を軽く伸ばしながら風斗が戻ってきた。どうやら鬼ごっこは風斗の勝ちで終わったみたい
「むー!
「やかましい。元を辿れば人のモン勝手に食ったお前が悪いんだろうが。分かりやすく“風”って字も書いていたのに……敗北を受け入れろ」
「むーーっ!!」
拘束している素良くんの抵抗を一蹴しながら彼はこちらに近づく。そして私たちの雰囲気に何か感じ取ったのか、疑問符を浮かべながら話しかけてきた
「…どうした?なんかあったか?」
問いかけに答えたのは砕羽だった
「あぁ、柚子が沢渡のところに向かって行ったんだ。どうも、遊矢の仕返し云々の話を聞いて、それを止めるために行ったって鮎川が……」
そこまで聞いて、頰を伸ばして遊んでいた手がピタリと止まる
「……今、なんて言った?」
「白星?」
「遊矢に報復しようとした沢渡を柚子が、止めに行っただと」
捕まえていた腕の力が緩まり、隙を見て抜け出した素良くん。でもそんなことがどうでもいいくらい、彼は顔色が悪くなっていく。表情が苦虫を噛み潰したかのように変わり、声も焦りの感情が過分に含まれている。こんなに余裕の無くした風斗を見るのは、私は初めてだった
「…柚子を助けにいってくる。遊矢のことも任せておいてくれ」
そう言って身を翻すと、すぐにドアノブに手をかけて柚子たちを助けに風斗は遊勝塾を出ようとしーーー
「ま…待って!」
ーー咄嗟に彼の手を掴んでいた
砕羽たちは私のこの行動に目を丸くしている様子だった。だけど、この場で1番驚いているのは私自身だった。これがきっと遊矢や砕羽などの他の遊勝塾メンバーだったならば、私は風斗の背中を見守っていただけなのだと思った。理由も根拠もないが、きっとそうだと確信していた
だけど、今彼が言った「柚子を助けにいく」という言葉を聞いて、何か言いようのない不安が心によぎっていった。柚子を助けに行くと言った彼が嫌だと思ってしまった。柚子のことが嫌いになってしまったのか…そんなことはない。彼女は大切な友達なのだから
だけど、それならばこの気持ちは何?なぜ私は彼の手を握っているの?
「た、大切な話があるの、とても大切な話が」
考えても考えても、この気持ちの正体が理解できない。だけどこのまま彼を無言で引き止め続けるのはあまりにも不自然だから、なんとか話を繋げようと言葉に詰まりながらも話しかける
ちょうど彼にはずっと黙っていた、エクシーズ次元に現れた遊勝さんの話があったから、それで風斗を引きとめようとして……
「…ゴメン。今優先すべきことがあるから、あとにしてくれ」
風斗は申し訳なさそうにそれを告げると、握っていた私の手を離した
「あ……」
離された手を再度掴もうとしても、2度目はない。大きなガラス扉が閉まる音とともに、彼は柚子の元へ駆けていった
中途半端に開けられた扉の前で、虚空を掴んだ手を私は下ろした。胸の中でざわめく、この気持ちの悪い感情を抑えながら
それを聞いた時に僕が思ったことは、ひとえに「やらかした」という、己を自虐する言葉であろう
「あぁ、柚子が沢渡のところに向かって行ったんだ。どうも、遊矢の仕返し云々の話を聞いて、それを止めるために行ったって鮎川が……」
遊矢への逆襲を語る沢渡、それを聞いて止めに向かった柚子……僕の中で、ARC–Vの1つの出来事が脳内再生されていた
それは薄暗い倉庫の中で、「凍氷帝メビウス」が「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」に一撃で屠られる光景ーーそして顔が晒される、ユートの姿
ユートがこの次元に来ている…つまり、ユートとコンタクトを取れるかもしれない状況が、すでに柚子の近くに迫っている状況であった
(てっきりもう1週間は先に起こるイベントだと思っていたのに…行動力が無駄にあり過ぎんだよ沢渡のやつ!)
「…柚子を助けにいってくる。遊矢のことも任せておいてくれ」
急がないとダメだ。仮とはいえ赤馬たちと同盟関係である以上、早いうちにユートと…多分この次元にいるであろう黒咲を赤馬と会わせておきたい。早く会えれば、それだけ距離が縮まる…ことがなくとも両者の確執をなくすことはできる。デニスの件が無視できない以上、ここでユートと会えなければ会える機会は殆ど無くなる!
故に、僕は急いでユートと合流するために柚子を探しに行き……
「ま…待って!」
扉を通ろうとしたところで、手を握られて足を止めた。声の主は瑠璃だった。後ろを振り返ると、瑠璃は不安そうな表情で僕を見つめていた。何かにすがるような…そんなイメージを感じさせる赤い瞳が僕を貫く
長いような、短い沈黙が漂う
「た、大切な話があるの、とても大切な話が」
(大切な話?)
しどろもどろになりながらも、言葉を切り出したのは瑠璃の方だった。こんな時に話?瑠璃だって今の柚子の現状は理解しているはずだ…つまり、それを含めても今話すべき大事な内容ってことか……?
「…ゴメン」
だけど、僕はそのお願いを断る
「今優先すべきことがあるから、あとにしてくれ」
「あ……」
できるだけ優しく瑠璃の手を解いて、僕は沢渡が根城にしている船舶地帯を目指す。探す時間も考えれば、今彼女の話を聞いている暇はない
『良かったのか?』
「仕方ないだろ、緊急事態なんだから。…でも、あとでキチンと話は聞くよ」
黒星に言われたことをしっかり噛み締める。……あとでちゃんと謝って、その時に話を聞こう。そう頭の中で考えて、僕は急いで空の下を走った
…このやり取りが瑠璃とのすれ違いを作るきっかけになったのだと気づくのは、とても後の話だった
薄暗い倉庫の中で、少女の声が響き渡る
「何度でも言ってやるわよ!アンタみたいな二流、三流…いいえ、百流
沢渡の後を追いかけ、沢渡のアジトに辿り着いた柚子は真正面から遊矢への襲撃を止めようとしていた。売り言葉に買い言葉、沢渡がこれからしようとしていることを真っ向から否定した挙句、百流
「この生まれ変わったネオ沢渡に対して、言うに事欠いて百流
「御託はいいわ。さっさとかかって来なさい!」
強気でそう言う柚子であったが、他にも取り巻きが3人いることが彼女からデュエルを仕掛けることを躊躇わせていた。扉も閉じられた以上、デュエルは避けられない……そう覚悟した時だった
「フッ!」
「えっ?」
突如上から人が飛び降りて来て、自分の目の前に着地した。飛び降りて来た人は柚子や沢渡と同じくらいの少年であり、その顔には黒いマスクとゴーグルをつけ、完全に顔を隠し切っていた。紫と黒に分かれた髪色の頭髪が軽く揺れる
「なんだテメェは!」
突然の乱入者に沢渡が吠える。これからレアな俺に恥をかかせた榊遊矢への逆襲の第一歩として、柊柚子をデュエルでコテンパンにしてやろうと考えていた時に邪魔をして来た謎の男。沢渡が機嫌を悪くするには十分すぎる理由だった
だが男はそんな言葉などなんともないと言った風に流すと、デュエルディスクを構え、ゴーグル越しに鋭い視線を突きつけた
「…彼女をデュエルさせるわけにはいかない……俺が相手をしてやる」
「あん?なんだと」
「ちょ、ちょっと!?何勝手なこと言ってんのよ!」
急に言われた自分勝手な宣言に、柚子が怒りを表す
「大体あなたは誰!?急に現れたと思ったら私抜きに話を進めて…これは私の問題なんだからーー」
マシンガントークのように吐き出される言葉の弾丸を受けて、彼は柚子の手を掴む。突然見知らぬ少年に手を掴まれて、柚子は顔を赤くする
「な、何急に…」
「………俺は……」
未だ赤面して恥ずかしがっている柚子をよそに…彼は、その思いを絞り出す
「もう、俺は…誰も傷つくところを見たくない…!!」
切実な思いで口から出て来たその言葉に、柚子は思わず黙ってしまう。何があって、何を思ってそんなことを言ったのか…気になって仕方のなかった柚子であったが、現状が質問することを許さなかった
「君は、俺が守る」
「なんだ、
「それにしては随分な格好だけどな」
「痛い痛い」
柚子を庇うように前に出る姿を、柿本と山辺と大伴は嘲笑う。どういう意図で絡んで来たのかは知らないが、沢渡はこれを逆にチャンスと思い込んだ。自分の真の力を柊柚子、ひいてはこの正体不明の男に見せつけるチャンスだと
「ちょうど良い。テメェにはこのネオ沢渡が対榊遊矢…つまりはペンデュラム召喚対策に作った新しいデッキの試運転に付き合ってもらうぜ!」
「対ペンデュラム召喚用のデッキ!?」
「ペンデュラム……」
沢渡が自信満々にそれを告げると、柚子は驚き、謎の男は小さく呟いた。それを驚愕による反応だと思った沢渡の気分は有頂天となり、目の前の敵を叩き潰すためにデュエルディスクを起動させる
「さあいくぜ!捻り潰してやる!!」
「来い」
「「デュエル!!」」
???? LP4000 手札 5枚
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 5枚
先行は、謎の少年の方からであった
「俺の先行!ーー俺はカードを5枚伏せて、ターンエンド!!」
「なんだと?」
「最初のターンなのに、手札を全部伏せた!?」
……が、彼が初ターンで行ったことは、手札全てを伏せるーーいわゆる“ガン伏せ”というものであった
???? LP4000 手札 0枚
伏せカード 5枚
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 5枚
あまりに迷いのない動作に、沢渡が訝しむ。しかし短絡思考な取り巻きたちは、ただ沢渡が勝つだろうと確信していた
「なんだぁ、手札でも事故ったのか?」
「沢渡さん、「大嵐」っスよ!!」
モンスターが場に存在せず、手札は全てセットされている。この状況であのカードを全部破壊できれば、勝つことなんてもう不可能だというのは沢渡もよく理解していた。所詮苦し紛れのブラフだと思うことにした
だが、あの中に攻撃反応のカウンター罠がないとも言い切れなくもない。もっと言えば非常に癪だが、白星とのデュエルは沢渡の視野を広げてはくれたのだ。……僅かと言える程度ではあるが
(苦し紛れのブラフの可能性もあるが、それに紛れて何か仕掛けてくるかもしれねえ。それに伏せることに迷いがないってーことは、
「だがな、どんなデッキだろうとこのネオ沢渡の前には無意味なんだよ!俺のターン、ドロー!まずは「帝王の深怨」を発動!手札の「氷帝メビウス」を見せることにより、俺はデッキの「帝王」カード、「帝王の溶撃」を手札に加える!」
まず最初に行われたのはカードのサーチ。おそらく重要なカードだろうと警戒しつつ、公開された「氷帝メビウス」の存在に少年は注視する
「そして俺は、「氷帝家臣 エッシャー」を特殊召喚!」
直後、沢渡の前に冷たい風が巻き上がり、そこに胡座姿勢で宙に浮く「エッシャー」が現れた。身につけた鎧は冷たさを感じさせる青と光沢を放っていた
氷帝家臣 エッシャー
レベル4 DEF1000
「「エッシャー」は相手のフィールドに魔法・罠が2枚以上伏せられている場合、手札から特殊召喚することができる!罠を張ったつもりが、逆に仇になったってわけだ!」
「よ!さすが沢渡さん!」
「カッコイイー!」
取り巻きたちは喝采をあげるが、指を振ってそれを制止する
「チッチッチッ、違うだろお前ら。生まれ変わった俺の名はーー!」
「「「ネオ、沢渡さーーーん!!」」」
「グッド!!」
沢渡…否、ネオ沢渡は芝居掛かった感じにポーズを決めてそう返す
しかし、ノリノリで返してくれるのは柿本たち三人のみ。柚子はアホを見るような冷たい視線で、少年は無関心な様子でデュエルの進行を待つのみだった。居心地の悪さを感じた沢渡は軽く舌打ちする
「まあ良い。これは布石中の布石だ。今からお前は為す術なく、このネオ沢渡に敗れるんだからよ!「エッシャー」をリリースして、「氷帝メビウス」をアドバンス召喚!」
氷帝に仕える家臣が光の粒へと返還され、それと同時に凄まじい冷気が吹き荒れる。「エッシャー」の鎧よりも透明感があり、水のような揺らぎを見せる青。フルフェイスで隠された兜の下から、背筋が凍るような黄色い眼光が走る
氷帝メビウス
レベル6 ATK2400
「アドバンス召喚に成功した、「氷帝メビウス」の効果!相手の魔法・罠を2枚まで破壊することができる!俺が破壊するのは右端の2枚だ!」
沢渡が指示を出すと「メビウス」は両手を合わせるように胸の前に持っていき、合わさった掌の間で漲る氷のエネルギーを相手のリバースカードに向けて解き放つ。着弾と同時に捲り上がった「
「その様子だと、どうやらお目当のカードを破壊できたわけじゃなさそうだな」
「…………」
黙秘を貫く
「しかし!それが逆にお前を追い詰めることになる!俺は手札から魔法カード「アドバンス・カーニバル」を発動!これで俺はこのターン、もう1度アドバンス召喚をすることができる!」
「もう1度アドバンス召喚!?まさか2体の「メビウス」を!」
柚子が少年の後ろで顔を歪ませる。その表情に気分を良くして、沢渡は肯定する
「そのとーり!しかもただの「メビウス」じゃねえ!進化した「メビウス」だぜ!俺は「氷帝メビウス」をリリース!「凍氷帝メビウス」をアドバンス召喚!!」
「メビウス」に冷気が集う。ピキピキと鎧をさらに氷結させ昇華する様は美しさを見出せて、氷山の山岳のような鋭い角が身体中から伸びる。やがて「氷帝」をも大きく上回る「凍氷帝」が姿を見せ、凍てつくプレッシャーが「メビウス」と少年のマントを浮かせる
凍氷帝メビウス
レベル8 ATK2800
「レベル8のモンスターを1体のリリースでアドバンス召喚ですって!?「メビウス」にダブルコストの効果はないはずなのに!」
ダブルコスト…1体で2体分のリリースコストにできる効果を持つモンスターがデュエルモンスターズには存在する。例を出せば「
「甘いんだよ。「凍氷帝メビウス」は、アドバンス召喚したモンスター1体でアドバンス召喚することのできるカード!俺のように強い奴こそが使って輝くレアカードってもんだぜ」
「この前遊矢に負けたくせに何言ってんのよ!」
「ぐっ、うるせえ!次は俺が勝つから良いんだよ!」
セリフの穴を突かれて一瞬詰まる沢渡は、暴論で返す。改めて相手に向いて「凍氷帝」の効果を始動させる
「「凍氷帝メビウス」の効果!アドバンス召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを3枚まで選んで破壊できる!さらに水属性モンスターをリリースして召喚に成功した場合、「メビウス」の効果で破壊されるカードは効果を発動できなくなる!」
「そんな!「氷帝メビウス」は水属性……!」
「そうだ!よって残りのカードも確実に破壊だ!やれ「メビウス」!「ブリザード・ディストラクション」!!」
「メビウス」の背後の暗闇から、暴風のような猛吹雪がリバースカードを襲う。仮に伏せカードをチェーンで発動しようにも凍ってしまった裏側のカードは完全に機能を停止し、完全に凍結した3枚のカードは亀裂が入って砕け散った
「へへ、これでテメェを守るものは全部無くなったぜ…バトルだ!「凍氷帝メビウス」でプレイヤーにダイレクトアタック!「インペリアル・チャージ」!!」
手札もフィールドも完全に0枚となったことで、沢渡は確実に大ダメージを与えられると踏んで直接攻撃を敢行する。溜め込まれた超低温のレーザーが少年に向かって突き進み……
「墓地の「
「何!?」
レベル4 DEF300
レベル4 DEF300
レベル4 DEF300
攻撃が当たる直前、突如少年を庇うように3体の馬に跨った霊騎士が出現する。3体のうち真ん中の1体に水色の線は直撃し、瞬時に全身を凍らされた霊騎士はそのまま爆散した。結果、ライフは1つも減らずに「メビウス」の攻撃は終了した
「ッ………」
「くっ…俺の攻撃に反応して、墓地から罠カードを発動だと!?」
「そうだ。「
「チィッ!だがテメェの手札は0!そんなザコモンスターなんかじゃ、俺の「メビウス」を倒すことなんかできねえよ!」
チラリと、手札を見やる。沢渡の残りの手札は「帝王の溶撃」と「天帝アイテール」の2枚。それに仮に「メビウス」を倒せたとしても、沢渡には対抗できる手段があるからだ
(仮に次のターン、あいつが強力な効果を持つモンスターを召喚してきたとしても、「帝王の溶撃」で効果を無効化すれば俺の勝ち!「帝王の溶撃」が破壊されても「アイテール」の効果で墓地の「帝王」魔法・罠カードを除外してアドバンス召喚すれば、「アイテール」の効果でデッキの「光帝クライス」を特殊召喚して「クライス」の効果で自身とそのモンスターを破壊すれば同じこと!くう〜、これだけのカードが1ターン目で全部来るとは、やっぱりレアな俺様は持っているぜ!)
あまりに完璧な対抗策に内心ほくそ笑みながら、デュエルディスクにカードをセットする
「俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」
己の勝ちを確信しながら、沢渡はエンド宣言をした
???? LP4000 手札 0枚
レベル4 DEF300
レベル4 DEF300
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 1枚
凍氷帝メビウス
レベル8 ATK2800
伏せカード 1枚
「俺のターン……ドロー!!」
冷たく凍える極寒のような暗闇で、少年はカードを引き抜く。そして引いたカードを見て…彼はデュエルを終わらせるべく動く
「どうだ?良いモンスターは引けたか?」
「…いいや。俺が今引いたのは魔法カード、「メビウス」を倒せるモンスターカードではない」
その言葉に柚子は「そんな…」と呟き、対峙している沢渡は高笑いをあげる。心の琴線に触れて来る、ゲスな笑いだ
「ハッハッハッハー!!どうやら俺の勝ちが決まったようだな!」
「…………」
「だが悲観することはないぜ。手札の良過ぎた俺と事故を起こしたお前とじゃ、1ターン守っただけでも良くやった方だと……」
「……だが、お前を倒す算段は整った」
「…あん?」
思わず聞き返す。倒す算段だと?魔法カードを引いたというのに?そんなザコ2体だけで?バカなことを言う相手に沢渡は問いかける
「倒すだと?たった2体のザコモンスターでどうやって」
「ーーならば見せてやろう。俺たちの、レジスタンスの絆を!俺はレベル4の「シャドーベイル」2体で……オーバーレイ!!」
「な、何!?」
ゆらりゆらりと、今にもこの世から朽ち果てそうな2体の騎士は闇色の球に変化して蠢き、フィールドの中央に現れた巨大な渦の中心に飛び込んでゆく。全ての球が飲み込まれた直後に、稲妻のように激しい柱が天を貫く
「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!………エクシーズ召喚!!」
雷が鳴り響く暗雲から姿を現したのは、黒く細い体躯の、強大な愚者に反逆せし黒竜
「現れよ!ランク4!「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」!!」
彼の切り札である“
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
ランク4 ATK2500
「エ、エクシーズ召喚だと!?」
「LDSでもないお前が、なんでエクシーズ召喚を!?」
「うるせえんだよ!落ち着けお前ら!」
エクシーズ召喚に驚いた…驚きはしたが、前例がある以上別に言うほどの事態ではないと沢渡は内心区切りをつけた。次に考えたのは、「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」を召喚してきた意図
(攻撃力は「凍氷帝メビウス」より下…つうことはモンスター効果か!)
「俺のフィールドにアドバンス召喚したモンスターがいてエクストラデッキにカードがない時、永続罠「帝王の溶撃」を発動!」
オープンされた罠カードから「メビウス」のような冷気とは一転、灼熱の溶岩が「ダーク・リベリオン」に襲いかかる
「このカードが存在する限り、フィールドのアドバンス召喚以外で召喚したモンスター全ての効果が無効となる!そのモンスターの効果で「メビウス」をどうこうしようとしたんだろうが、残念だったーー」
「チェーンして墓地の「
「ーーなぁー!?また墓地から罠カードだと!?」
「「帝王の溶撃」の効果を、このターンの終わりまで無効にする!」
だが、漆黒の反逆竜を守るように鎖が絡みついた盾が、「溶撃」による攻撃を防ぎきる
(まだだ!まだ俺の手札には「アイテール」がある!)
「「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」のモンスター効果!
「ダーク・リベリオン」の翼が展開される。翼についた赤い宝玉から紫電が走ると、それは「メビウス」の力を奪うべく大量に放出される
「そう何度もやらせねえんだよ!相手ターンに墓地の「帝王の深怨」をゲームから除外することで、手札の「天帝アイテール」はアドバンス召喚することができる!」
「何!」
「こいつも「凍氷帝メビウス」と同じで、アドバンス召喚したモンスター1体でアドバンス召喚することができる!現れやがれ!「天帝アイテール」!!」
「凍氷帝メビウス」をも粒子へと還られていき…天から光が瞬間的に降り注がれる。そこから降りてきたのは白金の鎧を着込み金の錫杖を手に持った、天を司る女帝。玉座に座るその立ち振る舞いは、修道士のような儚さと優雅さが混ざりあっていた
天帝アイテール
レベル8 ATK2800
“サクリファイス・エスケープ”によるカード対象の消滅…効果対象である凍氷帝が消えたことにより、「ダーク・リベリオン」が放った雷は途中で霧散した
「「天帝アイテール」がアドバンス召喚に成功した時、デッキの「汎神の帝王」と「真源の帝王」を墓地に送ることでデッキから「光帝クライス」を特殊召喚する!」
「アイテール」が錫杖を振るう。すると何もない天井から光が差し込み、そこから新しい帝王が降臨した。それは光り輝く、全身が金鎧で包まれた光の帝王「クライス」であった
光帝クライス
レベル6 ATK2400
「「光帝クライス」は召喚・特殊召喚に成功した時、フィールドのカード2枚までを選び、そのカードを破壊することができる!当然選ぶのは「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」1体のみ!」
「クライス」が放った光球の乱撃に、「ダーク・リベリオン」は無残に破壊される
「「ダーク・リベリオン」……ッ!」
「「クライス」の効果でカードを破壊した時、破壊したカードのコントローラーは破壊された数だけ1枚ドローすることができるが…ご自慢の切り札は墓地!これでテメェは完全に終わりだ!」
今度こそ沢渡は、自分の勝利だと確信した。引いたカードを含めても手札はたったの2枚。「ダーク・リベリオン」の効果も把握し、手札も状況を覆せないチンケな魔法カード1枚のみ
しかし、少年はそんな状況だろうと何事もないとデッキトップに手を置いて…カードを引く
「ドロー!!」
そして引いたカードをジッと見つめて…手札に加え、残りの手札を発動する
「俺は手札から「死者蘇生」を発動!」
「残ってたカードは「死者蘇生」だったか…!」
沢渡の墓地には「アイテール」と同じ攻撃力の「凍氷帝メビウス」が存在する。それを特殊召喚して「クライス」を戦闘破壊すれば…沢渡が導き出した、相手の取ってくる最適解がそれであった。実際それは間違ってはなく、
「俺は、墓地の「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」を特殊召喚する!」
だが、そんな予想に反して現れたのは、反逆の名を冠する漆黒の竜であった
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
ランク4 ATK2500
その謎の、というよりは間違ったプレイングを、沢渡は腹を抱えて笑った
「ハハハハハ!
沢渡の言うように、確かに少年の残りの手札のカード枚数を考えればエクシーズモンスターを蘇生させたのはプレイングミスと捉えられてもおかしくないものだった
……だが、そのカードは……
「………俺はーーー
ーーー手札から「
スタンダードにはない、進化の結晶。予想と状況を覆す、魔法カードであった
「「
見たこともない、聞いたこともないカードに首を傾げる4人。正確には取り巻きたち3人は前日に「
「「
しかし、そのデュエルの時に人質となっていた柚子は、「
「このカードは、俺のフィールドの「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」をランクが1つ上のエクシーズモンスターに、ランクアップさせる!そしてこのカードは、ランクアップしたエクシーズモンスターの
「エクシーズモンスターのランクアップだと!?」
「俺は「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」で、オーバーレイ!!」
すると、発動した「
「煉獄の底より、未だ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れよ!!」
やがて内側から書き換えられていったその姿が、雷鳴と共にさらけ出される。全身に付け加えられた、骨のような色と形の装甲。枝のような翼はより多く枝分かれし、腕に追加された曲刀がごとき剣が、進化した竜の殺意を高まらせているように見えた
「ランクアップ・エクシーズチェンジ!!出でよ、ランク5!「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン」!!」
繭のように纏ったプリズムを砕き、魂を鎮める咆哮を上げた
ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン
ランク5 ATK3000
柚子を含めた、全員が絶句していた。エクシーズモンスターを素材にエクシーズ召喚する…とは違う、文字通りエクシーズモンスターを進化させるエクシーズ召喚に、誰もが容易に口を開かなかった
「ぐ、ぐくぅ……!「
(「クライス」の効果を発動させないために、あいつは「アイテール」を攻撃するはず!だが「アイテール」で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに手札に戻る。次のターンに墓地の罠モンスターの「真源の帝王」を特殊召喚して「クライス」をアドバンス召喚すれば、今度こそ奴のフィールドはガラ空きに……!)
必死に思考を張り巡らせ、勝利への算段を立てる。しかし、それは取らぬ狸の皮算用というもの…彼に次のターンなどあるはずがない
「いいや、このターンで決着をつける。「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン」のモンスター効果!
「なんだとぉ!?」
「「レクイエム・サルベーション」!!」
「ダーク・レクイエム」の効果は、まさに「ダーク・リベリオン」が進化した力だと感じさせる強力なものであった。水晶から出た紫が入り交じった電撃が「アイテール」を捕らえ、拘束しながら力を根こそぎ吸い取る
???? LP4000 手札 0枚
ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン
ランク5 ATK5800
VS
沢渡 シンゴ LP4000 手札 0枚
天帝アイテール
レベル8 ATK 0
光帝クライス
レベル6 ATK2400
帝王の溶撃
「攻撃力、5800…ッ!?」
「これで終わりだ!「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン」で、「天帝アイテール」を攻撃!!」
「ダーク・レクイエム」は身体を縮こませると身体を横にして、翼が上に来るようにする
刹那、枝分かれした「ダーク・レクイエム」の翼に色が灯る。様々な色が歪な竜の翼を補完していき、不規則なステンドグラスの翼膜が完成した。その翼を羽ばたかせて「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン」は巨大倉庫の天井ギリギリまで飛び……そこから勢いよく滑空する
「「鎮魂の、ディザスターディスオベイ」ッ!!」
突き出された頭部の顎にある逆鱗が全てを貫く矛となり、凪ぐ剣となり、砕く槌となり、降下先の「天帝アイテール」に直撃した。全てを見下ろせる玉座から引き摺り下ろされた力ある愚者は、竜が奏でる
「グワアアァァァァーーーーーッ!!!」
???? LP4000 手札 0枚
ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン
ランク5 ATK5800
VS
沢渡 シンゴ LP 0 手札 0枚
通常のデュエルディスクには、アクションデュエルのような質量を持ったモンスターやフィールドの構築はできないため、ただのスタンディングデュエルであるこのデュエルで沢渡がダメージを負うことなどないが…事実沢渡は痛みに悶えていた
「ウグッ…バカな。スタンディングデュエルはただの
「沢渡さん!」
「おい大伴、これやベえんじゃねえのか!」
そのやり取りを見て、少年は忠告を投げかけた
「……加減はしておいた。次からは、もうこんなことをしないことだ」
「ねえ、ちょっと待って!」
それだけを簡潔に告げると、倉庫から出ようと扉の近くに移動し……そこで後ろから柚子に声をかけられた
「……なんだ?」
「助けてくれてありがとう。あなたが居なかったらどうなっていたか……」
「…そう思うのならば、次から気をつけることだ」
「って、待ってってば!」
すぐにその場から立ち去ろうとする彼の前に柚子は回り込み、引き止める
「助けてもらって何もお礼もしないなんて気分が悪いじゃない。何かお礼くらいさせなさいよ」
「すまないが、人を探している。それにこの場にいたら、また君も巻き込まれてーーーッ!?」
「……?」
突然、少年の様子がおかしくなる。先ほどまで何も問題なく話しかけていたのに、顔を隠しても分かるくらい動揺しているのだから
彼がそんな態度になっていた訳は…倉庫の扉から入った光が理由だった。倉庫の全体は殆ど陽の光が入ってこなくて、少年からすればピンボケに近い状態でしか人の顔を視認できなかった。顔を隠すためのゴーグルもその原因の1つとなっていた
ゆえに、彼は気がついていなかったのだ。陽の光で照らされた彼女の顔が……自分が助けた少女の姿が、探し人と瓜二つだったということを
「……瑠璃……?」
「え?」
蚊のような呟きを漏らすと、少年はおもむろにゴーグルとマスクを取り外し……
「柚子ー!大丈夫か!」
そのタイミングで、柚子を助けに来た遊矢が倉庫の重い扉を開けたことで…中に光が差し込む
「……遊、矢?」
マスクを取り外し、ゴーグルも取り払ったエクシーズ使いの少年の顔はーーー榊遊矢と瓜二つだった
「遊矢が、2人…?」
「お、俺と…同じ顔……?」
「君が、スタンダードの俺ということか…」
スタンダード次元の榊遊矢と柊柚子、そして…エクシーズ次元のユート
本来ならばあり得ない邂逅が、今ここで始まっていた
というわけで、
正直アニメのまんまでいいかな?なんて思ってもいましたけど、流石にそれはなんか味気ないので、この小説の物語ならではの変化を利用したデュエル内容に変えてみました!……「ダーク・レクイエム」が早く出たくらいですけどね
いい加減風斗と瑠璃の関係に変化を加えたかったので、瑠璃の自覚のない想いによるすれ違いを今話は書いてみました。ついでにユートとミスゆえに合流できなかったすれ違いも合わせて、タイトルに“重なる”を付け加えてみました。なんというか、ラブコメって描くの苦手だわ
それでは次回予告!
少しずつボロが剥がれながらも、エクシーズ次元のことを誤魔化し続ける風斗たち。そんな中、なぜか遊矢が沢渡を襲撃したということになっている件を理由に、LDSが遊勝塾の乗っ取りをかけたデュエルを仕掛けてくる…!!
「ペンデュラム召喚は実に素晴らしいものです…なんとしても手に入れたいくらいわね」
「LDS最強のエクシーズ使いが誰なのか、はっきりと分からせてやる!!」
「ペンデュラムは俺だけのエンタメだ、絶対に奪わせない!」
面倒くさがりな直感系決闘者がゆくARC–V物語
第34話 「セイクリッドの眩き」
お楽しみは、これまでだ!