なんというか、軍艦の史実って擬人化させるとすごい切ないですね…
そんな思いを抱きながら書いた作品です。
昼の鎮守府の食堂。 そこには複数で座れる長いテーブルと椅子が並び、一番奥は食事を受け取るための受け取り口があって、受け取り口の前には並んで待てるように空きスペースが設けてある。
テーブルには食事とおしゃべりを楽しむ艦娘の姿が見える。
そして、空きスペースには
「それ、ワンツー、ワンツー」
金髪をたなびかせ、華麗なステップで艦娘達の目を釘付けにする一人の少女の姿があった。
「やっぱり舞風はダンスが上手だな。 プロで通用するレベルだろ、これは」
見物客の一人で唯一の男性、提督は感嘆の声を上げて少女のダンスを眺めている。
空きスペースでダンスを披露する少女、駆逐艦舞風は明るい笑顔と楽しそうな声を上げながら踊り続ける。
つま先でくるりとターン、ステップを交えて軽くジャンプする姿は艦娘達の視線をより一層惹きつけた。
そして、いよいよラストの大ジャンプを披露する時だった。
「さーて、これでフィニッシュだよー!」
舞風が掛け声とともに大きく跳んだとき、
「がんばれ、舞風さん!」
「っ!? 赤城さん!?」
赤城に声をかけられた舞風は一瞬気をとられ、着地の瞬間足を滑らせ派手に尻餅をついてしまった。
「大丈夫か、舞風!?」
見物していた提督たちはすぐに舞風に駆け寄り怪我はないか、と声をかける。
「いたたた…。 失敗しちゃった」
「ごめんなさい、私が声をかけたせいで」
お尻をさすりながら立つ舞風に赤城は申し訳なさそうにかけよった。
だが、そんな赤城に対し舞風は大げさに手を振りながら答える。
「あ、赤城さんのせいじゃないよ! 舞風がドジっただけだから、赤城さんは気にしないで!」
「また今度踊るからね!」皆から心配の視線を向けられる中、舞風はそう言い残して逃げ出すように食堂を去っていった。
数日後
「今日もいませんね…」
赤城と提督は昼食を食べながら人気のない食堂の奥に目をやる。
あれ以来、舞風は食堂に姿を見せなくなった。
他の艦娘達の話を聞くかぎり、出撃や遠征には姿を見せているようだが食堂で踊る彼女の姿はまったく見られなくなった。
歌と踊りで食堂を盛り上げてくれた舞風。
彼女がいなくなった食堂は、まるで火が消えたかのように物静かになっていた。
「…提督。 彼女が来なくなったのは、やはり私が原因なのでしょうか?」
「深く考えすぎだ、赤城。 そんな顔してたらせっかくの食事もうまくなくなるぞ」
「でも、あの時の舞風さんは私を避けてるような気がしてならないんです…」
「むう…」
提督も、彼女の言い分は分からなくもない。
赤城が駆け寄ったときの舞風の反応は周りから見ても避けてるようにしか見えなかった。
それは彼女に話しかけた赤城自身が誰より強く感じているだろう。
「提督、私はどうすれば……」
「……赤城」
提督は食事の途中にもかかわらず、突然箸をおき赤城の手を掴んだ。
「来いっ!!」
鎮守府の執務室。
提督は一人椅子に腰を下ろし、一人の艦娘が現れるのをまっていった。
「提督、どうしたんですか? いきなり呼び出して」
執務室の扉を開け、顔をひょこっとだしながら舞風が姿を見せた。
「実はお前に聞きたいことがあってな」
「何ですか?」
「最近食堂で踊らなくなったが、何かあったのか?」
「あ、あ~そのことね…。 いや~最近体の調子が悪くてね」
「その割には出撃や遠征にはちゃんと顔を出しているようだが…」
「あ、あれ~? そうだっけ…?」
提督の質問にあからさまな動揺を見せる舞風。 目は泳ぎ、妙によそよそしい態度をとる彼女に提督は核心を突く質問をかけた。
「赤城のことだな」
「べ、別に赤城さんは関係ないよ!?」
「なら、この前赤城が駆け寄ったときの態度はどう説明してくれる?」
「えっと…それは……」
「図星なんだな?」
「……はい」
観念したのかしおらしく肯定の返事をする舞風。
悲しげな笑みを浮かべたまま、彼女は訳を話し始めた。
「赤城さんを見ると思い出してしまうんです…。 ミッドウェーの出来事を…、赤城さんを沈めたあの日のことを…」
そうだった…
1942年6月、ミッドウェー海戦で航行不能となった赤城を雷撃処分した第四駆逐隊。
その第四駆逐隊の一員が彼女、舞風だったのだ。
「あれ以来、踊ろうとすると赤城さんのことが頭をよぎって体がこわばっちゃうんです。 それで、踊ろうにも踊れなくて…」
「正直、怖いんです。 あの日のことを赤城さんに謝りたくても、まだ赤城さんが舞風のことを怨んでたらどうしようって……」
「なるほど。 そういうことか…」
舞風の独白を聞いた提督は、ゆっくりと執務室の扉に顔を向けると口を開いた。
「…だそうだ、赤城」
「…っ!?」
提督の視線と舞風が振り向いた先、開いた執務室の扉の裏から話の張本人、赤城が姿を現した。
まるで能面のような静かな表情を浮かべたまま、彼女は舞風の元に歩み寄った。
「あなたの気持ちはよく分かりました、舞風さん。 そして、その話を聞いたうえで私もあなたに言いたいことがあるの…」
自分を見下ろす赤城に舞風は思わず目を瞑った。
これから自分はどんな仕打ちを受けるのか、想像するだけで恐ろしかったのだ。
次の瞬間、
「えっ…?」
そこには自分を優しく抱きしめる赤城の姿があった。
「ごめんなさい、舞風さん。 あなたにそんな辛い思いをさせてしまってたなんて…」
「私もあのときの出来事は、今でも覚えているわ…。 でも、あなたは私よりずっと苦しんでいたのね…。 ごめんなさい、本当に…」
涙にぬれた顔でひたすら謝罪を続ける赤城。 そんな彼女の姿に舞風も思わず声を荒げた。
「あ、赤城さんが謝る必要なんてありません! 舞風だって、赤城さんにあんなひどいことをしちゃって…」
「…もし、あなたが私に償いたいと言うのなら、一つだけお願いを聞いてほしいの……」
赤城は舞風に真っ直ぐ顔を向け、涙で赤く染まった瞳に彼女の姿を映し出す。
「これ以上、過去に縛られないで。 私は、いつもあなたが楽しそうに踊る姿を見るのが好きだから…」
「で、でも…」
今、私は踊れない…。 舞風がそう言おうとした時、提督は急に舞風の手を掴んだ。
「来い、舞風」
訳が分からないまま腕を引かれる舞風にそれを追う赤城。
執務室を出て、夕日の射す廊下を抜けて、提督が向かった場所、そこは…
「提督、ここって…」
食堂の奥にある空きスペース。 舞風がいつも歌と踊りで皆を楽しませていた場所だった。
「踊ってみろ、舞風」
「えぇっ!? でも、できるかどうか…」
「できるさ。 お前はもう、仲間を手にかけるための軍艦じゃない。 歌と踊りが誰よりも似合う少女、駆逐艦舞風なんだ」
「赤城はお前の踊る姿を見たいと言ったんだろ? なら、言葉じゃなく踊りで赤城の気持ちに応えてみろ」
「…提督」
提督の言葉に決心したのか、舞風はゆっくりと空きスペースの中央に歩を進める。
そして呼吸を整え、軽くジャンプをするかのような足裁きでステップを踏み始めた。
(見ててください、赤城さん。 これが、舞風の精一杯の贖罪です)
腕を広げ、くるくるとスピンを披露する舞風。 その様はまるでつむじ風のように鮮やかだった。
(舞風が赤城さんを沈めたという過去は変わらない。 だから、これからは赤城さんにたくさん笑ってほしいんです)
指揮者のように華麗に腕をしならせながらステップを踏む舞風。 その姿は花畑を舞う蝶のように美しい。
(提督… あなたがいなかったら、舞風はいまだ過去に縛られたままでした。 だから、舞風はこの踊りにこめます。 赤城さんとあなたへの、感謝の気持ちを…)
それから、舞風は二人の見物客のために最高のダンスを披露してみせた。
彼女の楽しく、美しい姿に提督と赤城は言葉もなくただただ魅入っていた。
そして、前回は出来なかったラストの大ジャンプを華麗にこなした舞風は、息を切らしながら二人に言った。
「赤城さん… 提督… 舞風、踊れたよ!!」
「ああ… やったな、舞風!!」
「本当にすばらしかったわ。 ありがとう、舞風さん!!」
提督は舞風の頭を優しくなで、赤城は笑顔で拍手をかけた。
舞風はそんな二人を嬉しそうに見つめると、突然あるお願いをしてきた。
「あの… 提督、赤城さん。 実は、前から二人にお願いしたいことがあったんですけど…、聞いてもらえますか?」
「なんですか? 舞風さん」
「あんな踊りを見せてもらえたんだ。 言ってみろ、何でもやるぞ」
「えっとですね……」
数日後
「提督、ステップが遅い! それじゃダンスじゃなくただの千鳥足ですよ」
「しょうがないだろ…。 俺、ダンスなんて初めてやったんだから」
「確かにこれはテンポよく足踏みするのが大変ですね」
「そういってる割にはずいぶん上手だな、赤城…」
食堂の空きスペースでは舞風にダンスの指導を受ける提督と赤城の姿があった。
他の艦娘達からは好奇の視線を向けられ、提督が注意されると『クスクス…』という笑い声も聞こえてきた。
そのたびに提督は「誰だ、今笑った奴!?」と言って見物客を睨みつけ、舞風と赤城の二人はやれやれ、とため息をついていた。
「これは、舞風さんの願いがかなうのはまだまだ先ですね」
「いいんです、赤城さん。 願いがすぐかなったら、つまらないですよ」
それもそうですね。 と赤城が返事をすると、提督が二人に声をかける。
「おーい、二人とも練習再開するか。 舞風のお願いのためにもな」
そういって、提督はあのときの舞風の言葉を思い出した。
彼女が言った、お願いのことを…
『提督、赤城さん…。 いつか、舞風と一緒に踊ってください』