個人的にギャグが好きなので、こういう話は書いてて楽しいです。
「…誰もいないな」
鎮守府の執務室のドアを開け、俺は外の廊下に目をやる。
10月30日の夜8時。 廊下の窓からはハロウィンのイベントでにぎわう艦娘たちの声が聞こえ、外では出店や催しのステージから上がるライトが窓からも見えてきた。
だが、そんな楽しそうな外とは裏腹に俺の心は違う意味でざわついている。
左手に大きな袋を持ち、慎重な足取りで俺は廊下から下に下りる階段に向かって移動していた。
誰もいない薄暗い廊下を進み、もうすぐ階段にたどり着くときであった。
「ヘーイ提督ー♪ トリックオア…!」
「やはりきたか金剛!!」
階段近くに差し掛かると同時に勢いよく俺に飛び掛ってきた金剛。 俺はとっさに左手にある袋に手を突っ込み、その中身を金剛の口に押しこんだ。
「トリ…むぐぅ!!」
「お菓子を上げたからイタズラはなしだ。 残念だったな」
「ウー、残念デース…」
口に押し込まれた飴玉をコロコロと転がしながら落ち込む金剛。
反対に俺はそんな金剛の姿を見て胸をなでおろした。
「予想通り、先手は金剛が来たか。 他の連中もどう動くか分からないから、気をつけなければな」
そう言うと、俺は飴玉の入った袋の口を閉めなおし、階段を駆け下りていった。
きっかけは数日前のことだ。
「いやー、司令官。 もうすぐハロウィンの季節ですね~」
朝の食堂で突然楽しそうに話題を上げる青葉。 俺は朝食の秋刀魚を咀嚼しながら青葉の話に耳を向ける。
「そうだな。 もうすぐ10月も終わりだしな…」
「それでですね、私達艦娘もこういう日ぐらい何か催しとかあってもいいと思うんですよね~」
「…確かにな」
そう言ってくる青葉の気持ちは分かる。
艦娘たちは、普段は主に出撃や遠征などの作業に追われ、休みの日では個々に羽を伸ばすことはあっても皆で楽しむなんてことはなかった。
たまにはイベントと称して皆で遊ぶというのも悪くない。 艦隊の仲間と親睦を深めることも出来るしな。
「よし、今度のハロウィンの日になにかイベントを行うことにしよう。 でも、内容はどんな感じにするんだ?」
「それについてはお任せを! すでに青葉が考案済みです。 ただ…」
「ただ…?」
「それには司令官の協力が必要なんですよね。 それさえ通れば後はすべて大丈夫なんですけど…」
「俺の協力? 別にいいぞ、俺に出来ることならやってやるぞ」
この言葉が間違いだった。
その台詞を聞いた青葉はにやりと笑うと、食堂中に聞こえるほどの大声を上げた。
「皆さん、言質いただきました!!」
食堂中に響く青葉の声。
その声に反応するかのように沸き立つ艦娘たち。
まるで状況が飲み込めず唖然としている俺に、青葉が嬉しそうに説明してくれた。
「いや~ じつはですね、今回のイベントというのはハロウィンの夜に司令官からお菓子を催促しようという企画なんです。 いわゆる、『trick or treat!』ってやつです」
「なんかイベントと言うにはあまりに地味だな」
「いえ、大事なのはここからです。 もし私達艦娘からお菓子を催促されても出せなかった場合、司令官には代わりに私達のお願いを何でも一つ聞いてもらいます。 どんなお願いでもです!!」
「…なんか、嫌な予感がするが。 お願いの内容は、常識の範囲で考えていいんだな?」
「それは他の皆さんが決めることです。 もちろん、司令官に拒否権はありませんから覚悟してください」
「なっ!?」
「だって司令官さっき言ったじゃないですか。 俺に出来ることなら何でもやるって♪」
「何でも、とは言ってねーよ!」
「残念ですけど、もう決まってしまった事なので観念してください。 ほら、他の皆さんも喜んでいるじゃないですか」
青葉の指差す先、食堂の中央ではイベントが決まったことが嬉しいのか、艦娘たちのはしゃぐ姿が見受けられた。
いや… 俺も喜んでもらえるのは嬉しいんだけど、
「わーい! お願いなに聞いてもらおっかな―――!!」
「ハロウィンの日は夕立、提督さんといっぱい遊ぶっぽい!!」
「私、一番早く提督のこと捕まえちゃうからね!!」
「提督にお願い聞いてもらえるのでしたら、ケッコンカッコカリしてもらって、その後既成事実も……あっ! いえ、なんでもありません…」
「さすがに気分が高揚します…」
「何でも聞いてくれるのなら、これ以上北上さんに近寄らないようにがいいかしら? いえ、いっそのこと提督に自刃してもらうというのもありかも…」
なんか時折物騒な台詞が聞こえてくるのは気のせいだろうか……
「ふう… 今のところ誰にも遭遇しないな」
おれは階段を下りて、現在1階の廊下を歩いている。
青葉が決めたルールによると、制限時間はハロウィンパーティーが行われる午後8時から午後10時までの2時間。
艦娘が俺に「trick or treat!」と言ってきたとき、俺がお菓子を上げられなかったら代わりにお願いを聞く、というものだ。
普通に考えれば時間切れになるまで執務室にこもっていればいいものだが、それじゃイベントとして盛り上がらないし、なによりみんなのあの活気を見るとヘタすれば執務室のドアをこじ開けて突入しかねない…
さすがに俺もそれは困るので、現在こうして逃げ回っている最中なのだ。
「現在8時半か。 あと1時間半は逃げなくちゃな…」
腕時計で現在の時刻を確認すると、俺は明かりの落ちた食堂に訪れた。
現在艦娘たちの大半は外でハロウィンのお祭りに参加しているらしく、この鎮守府は現在もぬけの殻状態。 身を隠すには絶好の場所なのだ。
「さすがに今外に出るのはまずいからな。 しばらくここで身を隠すことにしよう…」
そういって、食堂の椅子に腰をかけたときだった。
「やはりそこにいたか、提督!」
食堂の出入り口から声高に叫ぶ声。
あわてて声のしたほうを振り向くと、そこには狼男…もとい狼女のコスプレをした長門がいた。
三角の犬耳にふさふさの尻尾をぶらさげ、毛皮を模した衣装は普段の格好に負けず劣らず露出の高いものであった。
「ふふん、外で姿を見かけなかったからな。 探しに来て正解だったぞ」
「ばれてしまったか…。 だが、俺もそう簡単には捕まらないぜ」
落ち着け俺。 こっちはこうなることを想定して手元に大量のお菓子を用意しておいたんだ。 用は『trick or treat!』のあとに飴玉を渡せばいいだけの話だ。
だが、対する長門も余裕の表情を崩さない。
軽い笑みを浮かべながら俺を見つめている。
「提督よ、このイベントは貴様がお菓子を渡せばこちらのお願いを阻止できるというルールだったな。 この私が、そのことに対して何の対策もしてないと思っていたか!?」
「な、なにをする気だ長門!?」
俺は思わず身構えたが、長門はこちらに向かってくる様子はなく、むしろ廊下に向かって誰かを呼びかけていた。
そして、廊下から姿を現したのは…
「「「「「提督ー! トリックオアトリート―――――!!」」」」」
大勢の駆逐艦娘たちだった。
彼女達はいっせいに俺に駆け寄ってきては我先にとお菓子を要求してきて、俺の持っていた飴玉はすさまじい勢いで減っていった。
「やってくれたな長門―――――――――――!!」
「私を見くびるな提督! 腕っ節の強さだけで名乗れるほど、ビッグセブンの名は軽くないぞ!!」
そうしている間にもどんどん減っていく飴玉という名の命綱。
お菓子をもらってほくほく顔で戻ってきた駆逐艦娘の一人、睦月は長門に尋ねてくる。
「長門さんはお菓子もらいに行かないんですか? 飴玉おいしいですよ」
「心配いらん、私は提督をおいしくいただ…ゲフンゲフン。 後で提督からもらいに行くからな」
おい、今何言おうとした…?
こうして一人一人にライフラインである飴玉を配っていき、最後にやってきた一人に残りの飴玉を配った。
駆逐艦娘の襲撃は終わったが、同時に俺の命綱も底を尽きた。 もう、艦娘達に配るお菓子は残っていなかったのだ。
後に残った一人、長門はその隙を逃さなかった。
まるで本物の狼のように目をぎらつかせ、俺ににじり寄ってくる。
「さあ、提督よ。 お菓子がない以上、代わりに一晩私と付き合ってもらうぞ。 ふふふふふ…」
「ま、待て…、落ち着け長門!」
「心配するな、なにも本物の狼のようにとって食おうとしてるわけじゃない。 ただ今夜だけ私と夜の運動に付き合ってほしいだけだ」
そういってきた彼女の目はますます鋭くなり、呼吸はまるで獣のように荒くなっている。
装飾品であるはずのけも耳と尻尾も、まるで本人の心情を代弁するかのように耳はぴくぴくと動き、尻尾は激しく揺れていた。
「それって代わりに俺の足腰が立たなくなるじゃねえか! もうダメだぁ、おしまいだぁ…!」
長門はじりじりと俺との距離をつめてくる。 あと数歩も近づけば、簡単に押し倒されてしまう距離だ。
俺はもうだめだ。 このまま、目の前の狼に食われるんだ…
今までの思い出が走馬灯のように見えてきた。 そのときだった…
「あれっ、長門さんに司令じゃないですか! どうしたんですか、こんなところで?」
長門の背後、廊下から聞こえてきた救いの声。
その声の主、比叡は吸血鬼をイメージした黒いマントを羽織り食堂の入り口からひょっこり顔を出してきたのだ。
「二人とも、お祭り見てかないんですか? 外は今すごい盛り上がってますよ!」
比叡はイベントの事については知らないのか、単に状況を理解できていないのか分からないが、いつもの調子で俺達に話しかけてきた。
長門は比叡を追い払おうと話しかけようとしたが、そうは問屋がおろさない。
俺は長門より早く比叡に向かって叫んだ。
「助かった比叡! 頼む、あいつを止めてくれ」
「えっ、何ですか急に!? 突然そんなこといわれても…」
「協力してくれたら『一日金剛と二人で遊びにいく券』プレゼントするぞ!」
「よっしゃあああああ!!! 気合、入れて、行きます!!」
長門に負けず劣らずの気迫を出す比叡。
正面から長門に掴みかかり、お互い両手を押さえるがっぷり四つの構図になった。
「くっ…! 比叡、貴様私と提督との一時を邪魔する気か!?」
「生憎ですが、私もお姉様との一時がかかっているんです! ここは譲りませんよ!!」
戦艦どうし押さえ合う姿はさすがに壮観だったが、のんきに見てる場合ではない。
俺は二人の間を横切ると、即座に食堂から脱出した。
食堂の出入り口からすぐ廊下に出ると、そこには比叡とおなじ黒マントの姿をした榛名の姿があった。
「あっ、提督。 比叡お姉様見ませんでしたか? 一緒にいたんですけど…」
「榛名、司令をつれて逃げてちょうだい!」
「えっ!? 比叡お姉様、一体どういう…?」
「いいから逃げて! お願い!!」
「榛名、詳しい説明は俺がする。 だから、今は比叡の言うとおり俺と来てくれ!!」
食堂から聞こえた比叡の声。 榛名は驚きつつも、姉の忠告通り俺の手をとって一緒に廊下を駆け出していった。
「はあ… はあ… さすがに、ここまで来れば大丈夫か…」
「あの、提督…? さっきのは、一体どういうことだったんですか?」
俺と榛名の二人は廊下を駆け抜けたあと、渡り廊下を挟んで中央にある中庭に逃げてきた。
まるで状況を飲み込めてない榛名に、俺は先の出来事を話した。
「…なるほど。 それで危うく長門さんのお願いを聞くことになりそうだったんですね」
「ああ、そういうことだ。 まさかあんなやりかたで、切り札のお菓子を使い切らされるとは思わなかったよ」
そういいながら、俺は近くの壁に寄りかかる。 うかつにも、自分がとんでもないことを口にしたことに気づかずに…
「あの… 提督!」
「んっ? どうした、榛名?」
「今お菓子がないってことは、お願い…断れないんですよね?」
「あっ…!」
しまった! 長門にばかり気を取られすぎた。
艦娘である以上、榛名も候補に上がるのを失念していた。
当の榛名は目を輝かせながらこちらを見ている。 まあ、先の長門と違って良識人である榛名ならあんな変なお願いはしないだろう。
「提督… 榛名のお願い…聞いてくれますか…?」
「まあ、今の俺に断るという選択肢はないからな。 言ってみろ、榛名」
俺は軽い気持ちで榛名に聞いてみる。 そして、すぐに自分の考えが浅はかだったかを思い知った。
「お願いを聞いてもらえるなら… 榛名を…提督のお嫁さんにしてください!!」
「………えっ?」
「ケッコンカッコカリして……この戦いを終わらせて、そしていつか……榛名、提督の赤ちゃんを産みますね!!」
「いやいやいや、落ち着け榛名!!」
この子急になに言い出すの!? いきなりプロポーズきてしかも赤子産むって、どんだけ先の話してるんだよ!!
だがそんな俺をよそに、榛名の暴走は止まらない。
「そのためにも、まずお互いのことを知らなくてはいけないと思うんです! 身も心も!!」
「服を脱ぎながら近づくな!! お前いつからそんな肉食系になったんだよ!?」
ああ、そうだ… 彼女はあの金剛の妹だ…
金剛は普段は積極的だけど、いざとなると押され気味になる。
逆に榛名は普段はおとなしいけど、こういう状況になると逆に積極的になる子なんだな… 以前秘書艦やってたとき、朝俺の布団に潜り込んできたこともあったしな……
一難去ってまた一難。 息を荒くしながら近づく榛名に、俺は壁際に追い込まれた。
ああ… 今度こそ俺終わったな…
さすがにもう駄目だと思ったとき、突然俺の後ろに何かが飛んできた。
「うおっ!?」
「あっ!?」
俺の後ろに飛んできたもの、妖精の乗った艦載機は機体に俺の服を引っ掛け、そのまま上に運んでいった。
「な、なんだ一体!?」
まるで訳が分からないまま俺は艦載機に引っ張られていき、鎮守府の屋上で落とされた。
「あいてっ!? なんだってんだよ……」
俺は痛む尻をさすりながら、周囲を見渡した。
屋上は雲のない星空に照らされ、夜でも周りが良く見えた。
外側が転落防止用の柵で囲まれ、四角く出っ張った部分は出入り口用の扉がついている。
そして、出入り口とは反対側、屋上の奥のほうには星空を眺める一人の艦娘の姿があった。
「危なかったわね…」
クールな顔つきと口調で俺に話しかけてくる艦娘。
俺は彼女に向かい、声を掛ける。
「ああ、助かった。 ありがとう、加賀」
「お礼はいいわ。 代わりにお願いを聞いてもらえれば…」
ああ、やっぱそうなるよな…
さすがに3度目ともなれば、俺だって学習するさ。
艦載機で俺を救出してくれた正規空母、加賀は淡々と返事をする。 彼女もまたハロウィンに則ってか、長門や榛名と同様に三角帽子に黒いローブという魔女を模したコスプレをしていた。
「一応言っとくけど、屋上唯一の出入り口は赤城さんに見張ってもらっている。 逃げられないし、そもそも逃がさないわ…」
「分かってるよ。 それで、お前は一体どんな要求をして来るんだ?」
半ばやけくそで質問する俺に、加賀は若干言いづらそうにゆっくりと口を開いた。
「…提督、ファーストキスはもうしたのかしら?」
「な、何だ藪から棒に!?」
あまりに唐突過ぎる質問に思わずあっけに取られるが、加賀は少し顔を赤くしながら俺を睨みつける。
「質問に答えて…!」
「…そりゃ、まだだけど。 どうしたんだ加賀、お前がそんなムキになるなんて珍しいじゃないか」
俺の返答に、「そう…」といつものようにクールに返す加賀。 気のせいか、その姿はほっと胸をなでおろしているようにも見えた。
「それじゃ、言うわ。 私のお願いは…」
彼女は急に俺のすぐ近くまで寄ってくると、顔を近づけ口を開いた。
「提督。 あなたの『初めて』を私にちょうだい……」
そういって、自分の顔を俺の顔に近づけてくる。
こ、これはまずい…! 加賀の顔が近づくたび、彼女の体が密着してくる。
そのたびに聞こえる加賀の吐息と、ローブ越しに触れてくる豊満な胸が俺の心臓を早鐘のように鳴らす…
さすがにこれは俺の理性も大破寸前になる…。 何とか持ちこたえなければ!!
だが、意識しないようにすればするほど彼女の色香に俺の意識は蝕まれていく……
駄目だ… もう… このまま……
「「ダメ―――――――――――――――――――――!!!!」」
静かな屋上に場違いな黄色い声と共に、すさまじい速さで飛んできた彩雲が俺と加賀の間に割って入った。
俺は彩雲が飛んできた方向に顔を向けると、屋上のドアの前に彩雲を飛ばした張本人である五航戦の二人、翔鶴と瑞鶴の姿があった。
「い、いくら加賀さんといえど、てて…提督とチュウしようだなんて、み…み…見過ごせません!!」
「そうよ! いくら一航戦の先輩だからって、提督さんのファーストキスを奪おうだなんてそんな泥棒猫みたいな真似は瑞鶴達が許さないわ!!」
かみかみになりながらも牽制する翔鶴と、毅然とした態度で反論してくる瑞鶴。
突然の伏兵に、さすがの加賀も動揺を隠せなかった。
「あなたたち一体どうやって!? そこは赤城さんが見張っていたはず…!」
「すいません、加賀さん! 私としたことが、五航戦の巧みな罠にうかつにも隙を突かれてしまって…!!」
屋上のドアから申し訳なさそうに加賀の元までやってきた赤城。 必死に謝罪する彼女の口元には、ついさっきついたばかりであろうお菓子の食べかすがあった。
こいつ、お菓子に釣られたな。
おそらく、加賀も同じことを思っているだろう…
「……顔を上げてください赤城さん。 過ぎたことを悔いても、仕方がありません……」
加賀はいつものポーカーフェイスで赤城にそう伝える。 だが、表情こそいつも通りだけど絶対内心呆れてるな、あれは…
「それにしても、泥棒猫とはずいぶん失礼な言い草だこと。 五航戦の子っていうのは、目上の者に対する礼儀もなってないのね」
「本当の事言われて怒ってるんですか? 提督さんを色香でたぶらかそうだなんて、一航戦の先輩っていうのはずいぶん手癖が悪いんですね」
「ひどいですよ瑞鶴さん! 加賀さんだって今日のために勝負下着までつけて頑張って来ているんですよ!!」
「赤城さん… それ、フォローじゃなくて追い討ちですよ…(汗」
ついさっきまで静かだった鎮守府の屋上は、四人の正規空母による姦し空間と化していた。 というか赤城、今さり気に爆弾発言してたが聞かなかったことにしよう……
「このままじゃ埒が明かないわ。 あなたのような礼儀知らずは、口で言うより体で教えたほうがよさそうね…」
「上等じゃない! いつまでも五航戦が一航戦に劣ってると思ったら大間違いなんだから!!」
「あわわわ…! まずいですよ赤城さん、二人とも弓を構えて臨戦態勢です。 止めないと…!!」
「ごめんなさい、翔鶴さん。 私も加賀さんの分のボーキをもら……一航戦の誇りのため、親友のためにもここで引くわけにはいかないんです!!」
「赤城さんまでそんな――!? ていうか、赤城さん加賀さんからボーキサイトもらう約束してたんですか―――!?」
もう、俺そっちのけで一航戦・五航戦ペアによる戦闘が始まった。
彗星天山流星烈風が縦横無尽に飛び回る戦場で、四人を止めるという選択肢は俺にはなかった。 ああ、資材と修理費に翼が見える……
呆然と立ち尽くしていると、俺の制服のすそを引いてくる一人の艦娘の姿があった。
「しれえ、トリックオアトリートです! お菓子ください」
そこにいたのは、頭にジャックランタンの帽子をかぶった雪風が、俺にお菓子を要求して来た。
でも、俺は今お菓子持ってないからこれを言うしかないか…
「…悪い、今お菓子もってないんだ。 代わりに一つお願い聞いてやるからそれで勘弁してくれ」
「ほんとですか!? それじゃ、明日一日雪風と遊んでください!!」
戦場と化した屋上で俺は雪風と約束の指きりを交わし、こうして青葉発案のハロウィンイベントは静かに幕を閉じたのであった。
次の日、俺は朝の食堂で雪風と一緒に朝食のカレーを食べていた。
「しれえ、このカレーおいしいですね!」
「ああ、さすがは間宮さん。 お菓子だけじゃなく、料理もうまいな」
カレーを口にほおばりながら食べる雪風の姿はとてもほほえましかったが、俺はそれ以上に周りの視線が気になってしょうがなかった。
「ぐぬぬぬ… 次こそは…次こそは必ず……!!」
「提督… 榛名、これぐらいでは負けません!!」
「私は諦めませんよ。 提督…」
いろんな艦娘達の羨望と嫉妬と決意の声が怨霊のように聞こえてくる。 そんな中、騒動の元凶である青葉がひょっこりと俺の前に現れた
「どうも、司令官。 昨日はお疲れ様でした♪」
「並の疲れたじゃすまないがな…。 ある意味でみんなの知らない一面を見ることが出来たよ…」
「まあ、そうむくれないでくださいよ。 イベントにはハプニングも付き物なんですから」
アレがハプニングですむレベルか…!? いろんな意味で俺の身がやばかったぞ!!
とはいえ、もうイベントは終わったんだ。
これで、いつもの平和な鎮守府に戻るな。
だが、次に青葉が放った一言は、俺のそんな淡い希望を粉々に打ち砕いてくれた。
「ところで司令官、次のクリスマスのイベントなんですけど…」
『ガタタッ!!』
朝の鎮守府の食堂。
そこにはさらりと爆弾発言を放つ青葉。
その言葉に反応する艦娘たち。
そして、
「もう…勘弁してくれ……!!」
机に突っ伏し静かに涙を流す提督の姿があった。