しばらく提督代理シリーズやヤンこれ物を書いてたので、久しぶりにこちらも書きたくなってきた次第です。
突発的に書いたこの話、見てもらえれば幸いです。
とある鎮守府の食堂。 いつもは艦娘と提督の食事に使われているこの場所だが、この日はある大規模作戦の成功を祝して、あちらこちらでどんちゃん騒ぎとなっていた。
「そのケーキおいしそー! どこにあったの?」
「あっちのテーブルだよ。 間宮さんが今日の為に作ってくれた特別製だって♪」
「この鶏肉もおいしいー! これって何の鳥?」
「私知ってる、それって七面鳥だよね!」
「誰が七面鳥よ誰がー!!」
「うわぁっ! なんで瑞鶴さんが怒ってるのー!?」
「いくら戦勝祝いと言っても……ハグ… あまり浮かれすぎるのも…あむ……どうかと思われます。 …モグ、モグ」
「こーら、浜風。 ちゃんと食べるかしゃべるかどっちかにしとき。 行儀が悪いよ」
文字通り飲めや歌えの大騒ぎになっている中で、ひときわ盛り上がっていたのが、
「カンパーイ!!」
酒飲み勢たちによる酒盛りだった。 那智や隼鷹・千歳など、何かと理由をつけては飲みたがる連中が集まっているが、その中でも浴びるように酒を飲み干すものが一名いた。
「ング…ング……プハーッ!! えへへー、これで終わりですかー?」
「…勘弁してくれ、ポーラ。 お前相手にこれ以上やりあったら、俺アル中で死んでしまうぞ…!」
それは、今しがた提督と飲み比べをしていたイタリアの艦娘、ポーラだった。
酒好きということで酒飲み勢と気が合う彼女だったが、ポーラの場合好きの度合いが違いすぎた。 普段から酒を水のように飲もうとするのは日常茶飯事で、仕事が終わって提督と飲みに行こうとするときは周りもドン引きするくらい飲みっぷりを披露し、挙句に酔って暑さのあまり服を脱ごうとする始末。 姉のザラが止めてくれなければ、間違いなく憲兵にしょっ引かれていただろう……
「さっすがポーラ! 提督にも圧勝だねー♪」
「提督もなかなかの飲みっぷりだったぞ。 いい勝負だった」
二人の飲み比べを傍で見ていた隼鷹と那智が二人を褒めたたえる。
提督も酒にはそれなりに強い男だったが、彼女に至ってはどこにそれだけ入るんだと言わんばかりの飲みっぷりで、とても太刀打ちできる相手ではなかったのだ。
提督は頭を抱えグロッキー気味だったが、ポーラの方はぜんぜん応えた様子はなく、
「もっとお酒ありませんか~? ポーラ、まだまだいけますよ~♪」
などと余裕発言を繰り出している。
「お前な、ポーラ… いい加減にしとけよ、これ以上飲みすぎるのはさすがに……」
さすがに見てられないと思ってか、提督はポーラを止めようと声をかけたとき、何者かがポーラの背後に現れた。
「…こんなところにいたのね、ポーラ。 貴方、またずいぶん派手に飲み散らかしたわね……」
背後から聞こえた声に、ポーラは急に固まった。
酒で真っ赤になっていた顔は見る見るうちに青ざめていき、冷や汗をだらだらたらしながらポーラは後ろを振り向いた。
「あ…ああ……! ザ…ザラ姉さま……!?」
ポーラの背後にいたのは、優しい笑みを浮かべながら背後に怒りのオーラを放つ彼女の姉、ザラだった。
「今日はお祝いだし、盛り上がるのはわかるけど、物には限度ってものがあるでしょ? おまけに提督まで巻き込むなんて、お姉ちゃんすこーしばかり怒ってるかな……」
「ひ、ひええ……!!」
怒り心頭のザラに完全に気圧されるポーラ。 こうなったときのザラはどれだけ恐ろしいか、妹である彼女は嫌というほど知っている。
「あー… ザラ、一応ポーラの飲み比べに付き合った俺にも非があるし、あまりあいつを責めないでやってくれ…」
すっかり酔いが覚め、縮こまってしまったポーラ。 さすがに気の毒に思ったのか、提督はポーラをフォローしようとザラに声をかけるが、
「提督も提督です! あまりポーラを甘やかしてはダメって前にも話したじゃないですか! この子ったら、お酒が入るとすぐ図に乗るんですから!」
その行為が返ってザラの怒りに油を注ぐ事になってしまい、提督とポーラはザラにしょっ引かれる形で食堂を後にし、祝勝会はお開きになったのであった。
次の日の朝。 昨日の飲み比べのせいで二日酔い気味の提督は、痛む頭を押さえながら執務に取り掛かっていた。
「あー、痛つつ… いくら付き合いとはいえ、あいつとの飲み比べはほどほどにしないとな」
一人ぼやきながら作業をこなしていると、ノックもなしに唐突に扉が開き、件の彼女が姿をあらわした。
「おはよーございます、提督~♪ ポーラ、今日一日秘書艦としてがんばりまーす」
いつものように浮ついた口調で、ポーラは執務室に入ってきた。
提督はポーラを見ると、頭を抱えた。 二日酔いのせいではなく、彼女の手にしているものを見て呆れたからだ。
「お前な、ポーラ… 昨日あれだけザラに叱られたっていうのに、なんでお前は酒瓶片手に入ってきてんだ?」
「こんなの、ポーラにとってはお水と一緒です! 大丈夫、これはいつも飲んでるお酒よりアルコールが低いです♪」
「そういう問題じゃないだろ! 仕事中に酒を持ち込むなと言っているんだ俺は! またザラに怒られたいか!?」
机をたたきながら怒る提督。 姉の名前が効いたのか、ポーラはしゅんとしおらしくなる。
大人しくなったポーラを見て、提督も小さくため息をついて落ち着きを取り戻した。
「むう~、提督イジワルですよー。 ザラ姉様を引き合いに出すなんて…」
「そう思うなら、せめて仕事中は酒を控えろ。 仕事が終わったなら、俺もまた飲みに付き合ってやるから」
「ほんとですかー!? それじゃ、ポーラも頑張ります!」
「ああ、そうしてくれ。 俺も、ポーラと一緒に飲む酒はうまいから好きなんだよ」
「えへへー、嬉しいこと言ってくれますねー♪ それじゃ、仕事を始めるためにも景気づけに一口…」
「だから飲むなー!!」
朝っぱらから響き渡る提督とポーラのやりとり。 その声は廊下にいた艦娘たちにまで聞こえていた。
時刻は昼頃。 食堂では提督とザラの二人が相席しながら食事をとっていた。
提督から今朝の出来事を聞き、ザラはテーブルに両肘を置いたまま、顎を両手に乗せ、溜息を吐いた。
「もう、あの子ったら… あれだけ言ってもちっとも懲りないんだから…」
「俺からも注意したんだが聞かなくてな… あいつにも困ったものだ」
ザラの顔を見ながら、提督も両手を組み渋い表情を見せる。
彼女の酒飲み癖に関しては、二人とも再三注意してきたが、一向に彼女が酒を自粛する姿は見られなかった。
結局、ポーラの飲酒を改善することはできないのかと思い、二人が頭を抱えていた時、
「よお、お二人さん。 仲良くお昼かい?」
「ずいぶん浮かない顔をしているが、何かあったのか?」
食堂にやってきた隼鷹と那智が二人に声をかけてきた。
提督は二人に顔を向けると、ポーラの酒飲みについて困っていることを話した。 いくら注意しても、彼女が酒を控えないと…
すると、二人は顔を合わせ、驚いた様子で提督とザラに言った。
「二人とも知らないの? ポーラはああ見えて、結構飲酒には気を使っているんだよ」
隼鷹の言葉に、今度は二人が驚く。 何せ、今まで自分たちにはそんなそぶりを見せなかったのだから…
「私の時はいつも朝食時に持ち込んでいた酒を持ってこなかったんだ。 忘れたのかと思って私が聞いたら、『今日は秘書艦の日だから、お酒飲んで提督に迷惑をかけたくないんです』と言っていた。 私も、それを聞いたときは正直驚いたよ」
「あたしは前に酒飲みに行かないかって声をかけたんだが、断られたんだ。 何でも、『この前ザラ姉様を困らせたばかりだし、あまり羽目を外しすぎないようにしたいんです』って言ってたよ。 ああ見えて、ポーラもアンタに叱られたこと、結構気にしてるみたいだね」
二人の話を聞いた提督とザラは、文字通り目を丸くした。 自分たちの知らないところでポーラがそんなに真面目にしていたなんて……
午後になり、再び提督はポーラと執務をこなす。 鼻歌交じりに作業をこなすポーラの傍らには、やはり酒の瓶が置かれていた。
今のところ、飲んではいないようだが、なぜ自分の前では酒に手を付けるのか? 提督は思い切ってポーラに問いただした。
「なあ、ポーラ。 一つ聞いていいか…?」
「ふぇっ? 何ですか、提督。 ポーラ、お酒飲んでいませんよー?」
「ああ、それは俺も分かっている。 聞きたいのは、どうしてお前が俺の前では酒を飲もうとしてるのかだ」
提督がそういうと、ポーラは急に無口になった。
ポーラの顔を見据えながら、提督は話を続ける。
「那智や隼鷹から聞いたよ。 お前が俺やザラの知らないところで飲酒を控えているってな」
「なのに、お前はなぜか俺の前ではそれをしようとしない。 教えてくれないか、ポーラ? 俺の前ではなぜお前は酒を飲もうとするのかを……」
提督の質問に無言で耳を傾けるポーラ。 しばらくは沈黙を続ける彼女だったが、不意に提督の方へ顔を向けると彼女は口を開いた。
「…提督は、ポーラがお酒より好きなものがあると言ったら、信じてくれますか?」
突然のポーラの問いに戸惑う提督。 しかも、その内容は普段の彼女からはとても信じられないとしか言いようのない質問だった。
提督は少しの間考え込むが、何を思ったか「ふっ…」と口元で笑みを浮かべると、その問いに答えた。
「…普段のお前を見てるととても想像できないが、俺は信じるよ。 俺も酒は好きだが、それ以上に大事な部下がいる。 お前も含めて、な…」
提督の返事を聞いたポーラは、クスリと笑うと提督の目を見つめる。
「そうですか… それじゃ、ポーラも答えます。 ポーラが提督の前で飲もうとするのはですね……」
「…内緒です」
その言葉を聞いて、提督はガクッとずっこけた。
「オイオイ! 俺には言わせておいて、そっちは言わないのかよ!? ずりーぞポーラ!!」
「えへへ~、提督には教えてあげませーん。 今朝、ザラ姉様を引き合いに出したお返しです。 それより提督、もうすぐ仕事が終わるころです! 約束通り、ポーラと一緒に飲みに行ってもらいますよ~♪」
子供のようにキラキラと目を輝かせるポーラに、提督も「やれやれ…」と頭を搔きながら了承した。
「分かった分かった。 それじゃ、俺も片づけを終えたら行くから、先に居酒屋に行っててくれ。 言っておくが、くれぐれも一人で勝手に飲みすぎるなよ…」
「はーい、分かりましたー! では、ポーラ失礼しま~す」
執務室を出た後、夕焼け色に染まる廊下をポーラは一人歩く。 何も言わずに歩き続ける彼女だったが、ふと足を止めると窓越しに見える夕陽を見ながら、誰にでもなく一人呟いた。
「…提督がいけないんですよ。 提督ってば、いっつもポーラに優しくしてくれて、ポーラとの飲み比べも無理しながら付き合ってくれて、それでザラ姉様に叱られそうなときは自分も一緒に叱られてくれる。 そんなことされたら、いくらポーラでも提督の顔をまともに見れないんですもん……」
「どうして提督の前でポーラがお酒を飲むかって? それは飲んで酔わなきゃ提督の傍にいられないからですよ。 だって……」
「提督の笑顔は、どんなお酒よりポーラの体を熱くさせるんですから…」
提督のいない廊下で質問に答えるポーラ。 提督の言葉を思い出し、再び熱く火照ってきた体を冷ますため、彼女は手元にあるお酒を一口だけ飲むのであった。