「それにしても、照に妹がいたなんて知らなかったなぁ。」
照の説明でなんとなく状況が理解できてきた菫が驚いたように言った。照との付き合いは長いものだったが、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
「一度も言ったことなかったからね。特に質問されなかったし。」
「いや、いると思わないだろ。照の家に行った時も妹の影なんかこれっぽっちもなかったぞ。」
そこで菫は、「そう言えば」と言って照と咲の方へ顔を向けた。
「なんで2人は一緒に住んでないんだ?なにか理由でもあるのか?」
咲と照は互いに顔を見合わせて困った顔をした。余程言いにくいことなのだろうか。
だが意を決したのか、咲と照は覚悟を決めた顔をして菫に目を向けた。
「菫、今からいうことはまだ私たち家族しか知らないことだ。だから他言無用にして欲しい。」
「・・・・分かった。誰にも言わないと約束するよ。」
照のその真剣な眼差しを見て菫はそう答えるしかなかった。もとより、そんなことを言う気など無かったが。
そして照は語り始めた。
****
「やっぱりまただ...」
照は目の前の光景を見て確信した。咲はわざとプラマイゼロを狙っていると。
照も咲もまだ幼い頃、両親を含めた4人で家族麻雀をやることが宮永家では当たり前になっていた。始めた頃は2人とも役を覚えたりする事に必死になっていたが、徐々にそのへんは慣れてきた。2人とも新しい趣味ができたためか夢中になってやっていた。
そして、最初に実力が現れてきたのは照であった。照の実力は凄まじく、毎回1位になる程のものであった。それを両親は誇らしく思っており、将来はプロになれるだろうと考えていた。また、咲はそんな姉を尊敬していて、照を越せるくらいの実力をつけたいと考えていた。
その願いが通じたのか、咲も次第に実力をつけてきて、終いには照を超えるほどになった。そのため、咲は毎回1位を取るようになった。
その頃から、家族麻雀はエスカレートしていって、いつの間にかかけ麻雀へと変わっていた。
(また今日も咲が勝った...咲が強くなってくれることは嬉しいことなんだろうけど、流石にここまで来ると...お年玉もだいぶ減ってきちゃったし...)
照のそんな苦しみを察したのか、その日以来咲はわざと負けるようになった。しかし、今までずっと勝っていた咲が急に負けるようになったため、照はすぐに咲がわざと負けたのだと悟った。
「いい加減にして、咲!何でそうやってわざと負けるの!?」
そうは言われたものの、咲はどうすることも出来なかった。勝っても照の機嫌を悪くさせ、負けても照を怒らせる。そして、最終的に咲のたどり着いた答えは
だったらプラマイゼロで終わればいいんじゃ
それが咲のたどり着いた答えだった。それから、咲はプラマイゼロで試合を終えるように努力した。最初は上手くはいかなかったものの、段々と慣れていつの間にかそれをすることが当たり前になってきた。それほど咲の力は凄まじかった。また、プラマイゼロは勝つわけでもなく負けるわけでもないため、誰も不審には思わなかった。
しかし、それも時間の問題であった。
「咲、今のプラマイゼロってわざとやってる?」
ある日、1局終えた後に照は咲にそう訊ねた。咲は遂にバレたかと思ったが、何とかごまかすことにした。
「そんなわけないよ、お姉ちゃん。プラマイゼロなんて珍しいものじゃないし。」
「それじゃぁ、昨日一昨日と三日連続でプラマイゼロで和了ることも珍しくないの?」
照は完全に気づいていると咲は感じた。もうこれ以上は誤魔化しきれない。
「なんでそんなことするの!?なんで本気でやらないの!?」
子供の頃の照には感情を抑えることができなかった。それほど照にとって屈辱的なことであった。
一方で咲は、堪えていたものがついに限界まできていた。そしてとうとう堪えていたものをぽろりと口に出してしまった。
「勝ったら不機嫌にさせちゃうし、負けたら怒られる。だから勝ちも負けもしない方法をとったけど結局それもダメ。だったら私、どうすればいいの...」
その時照は、自分の言動がここまで咲を追い詰めていたのだと気づいた。もうあの時のように楽しく麻雀をすることは不可能だった。既に取り返しがつかなかった。
「・・・・分かった。私、次は本気で戦う。でも私からもお願いがあるの。今日で...今日で麻雀するのは終わりにさせて...」
押し込めていたものをすべて吐き出し、涙ながらに咲は言った。もうこんなことで苦しみたくない。
そしてそれから、家族麻雀が行われることは二度となかった。また、母が仕事の都合で東京に住むと言った時、照もついていくと言ったためそこから2人は離れ離れとなった。
****
「────それで今日久しぶりに再会したってこと。」
「なるほどな...それじゃぁ、前に照がインタビューで言ってた『戦いたい相手』ってもしかして咲ちゃんのことか?」
「うん。あの時のようにまた打ちたいと思って再会を待つつもりだったんだけど、まさかこんなに早く会えるとは思わなかった。でもそのお陰で今咲にしっかりと伝えることができる。」
そう言って照は咲の顔を見つめた。
「咲、あんなにキツくあたっちゃってゴメンね。咲をあんなにも苦しめるようなことしちゃって...」
「そんなことない!お姉ちゃんは麻雀に対して真剣にやってたのに私は真剣にやってなかったから...」
お互いに今まで言えなかったことを今この場で言えたようだ。何だかんだで仲のいい姉妹何だろうと菫は思った。
「それで、咲は何でここにいるんだ?私に会いに来たわけでもなさそうだし。一応ここ、関係者以外立入禁止だよ?」
ひと段落ついたところで照は咲に聞いた。咲は「あっ!」と突然声を出した。
「私、大会が行われる場所がどういうところか見たくて友達と一緒に来てたんだった!それで私迷子になって、気づいたらここにいて...」
「迷子って...姉妹揃ってそっくりだな。」
「私はそんなに迷子にならないぞ。」
「それは私が照が迷子にならないように見張っているからだろ。入部した時なんかどれだけ探したことか...」
菫は呆れたように言った。
「ともかく、早く友達のところに帰った方がいい。ここの道を真っ直ぐ行けばここの人がいると思うから、わからなくなったら聞けばいいし。」
「分かりました、ありがとうございます!」
そう言って咲が去ろうとした時、照が言った。
「ねぇ咲、咲も春季大会出るんだよね?」
「うん、私も出るよ。千里山の副将に選ばれたからね。」
「そっか。...ねぇ、咲は今の私の実力知ってる?」
「今のお姉ちゃんの?いや、お姉ちゃんの試合まだ見たことないから分からないよ。」
「・・・・それじゃぁ、咲たちとあたるかもしれない準決勝で私の今の力を見せてあげる。」
きっとこれは照が本気になってかかってくることを意味しているのだろうと咲は感じた。しかし、同時にあることを思い出した。
「あ、でも先輩たちが中堅までに飛び終了させるっていってたからもしかしたらお姉ちゃんの大将戦まで回ってこなかもしれないよ?」
「なるほど、千里山は中堅までに飛び終了させるのか...だったら私は先鋒戦だけで終わらせようかな。」
「先鋒戦だけって、お姉ちゃん大将でしょ?」
「おい照、それ以上は言わない方が...」
「大丈夫。結局知られるのが早いか遅いかだけの話だから。」
そして照は咲の方を指さして
「私は今回先鋒として出場する。そして、先鋒戦で準決勝を終わらせるよ。」
照はそう宣言した。
次回かさらにその次あたりから春季大会始められるかと思います。(もうしばらくお待ちを)
オマケ
「世間ではもうすぐホワイトデーやな。うちらも何かやるか?」
練習を終えた後に部室でゆったりしていたとき、竜華が言った。
「いや清水谷先輩、まだ4月ですよ?3月まではまだまだ期限がありますって。」
「こっちの世界の話やないで咲。現実世界の方や。」
「ここも現実世界ですよ!?」
竜華にツッコむと、今度は怜が
「咲。ここは一応オマケなんやから別にここの世界の話をせんでもええんやで。」
「いやメタイですよその発言!それに、何でホワイトデーはやってバレンタインデーは何もやらないんです?」
「バレンタインデーの時は、まだ本編で咲が入部しとらんかったから5人で集まってのネタができなかったんや。」
「ツッコミませんからね?」
咲のツッコミが収まったところで、洋榎は竜華に質問した。
「ホワイトデーやるのは構わんけど、ここ女子高やで。そもそもあげる相手がいないやん。」
「せやったら男子みたいな女子があげるのはどうや?」
「それだったら部長だけがチョコあげることになりますぅー。」
「憩、うちのどのへんが男っぽいんや?」
「まぁ、確かに洋榎はガサツやからこの中だと男っぽいわな。」
「怜までもか!?」
収拾がつかない状況になってきたため咲が止めに入る。
「まぁ一旦落ち着いてください。そもそも、部長があげるにしても肝心のチョコがないじゃないですか。」
「うち、チョコ持ってるで。」
そう言った怜は、カバンの中を漁り始め中からチョコを取り出した。
「なんで園城寺先輩持ってるんです?」
「いや、バレンタインのときに竜華からチョコもろたんやけどその時うちチョコ忘れとったんや。せやから渡しそびれたのをちょっと早いけど今日渡そうと思って。」
「怜...」
竜華はそう言って怜の元へ駆け寄り、怜を抱きしめた。
「おおきに、怜!大事に食べるわ!」
「竜華、苦しい...胸が...うち、窒息してまうわ...」
「園城寺先輩と清水谷先輩っていつもあんな感じなんですか?」
怜と竜華を尻目に、咲は洋榎に聞いた。
「せやな、2人きりの時はいつもあんな感じやで。」
「仲いいですもんねぇー。中学生の頃からの付き合いでしたっけ?」
「そうや。ちなみに、うちも竜華たちと同じ中学やで。」
「幼なじみっていいですねぇー。うちは知り合いが多くても、今も付き合いがある幼なじみはいないですし...咲ちゃんは幼なじみとかいるんか?」
「私ですか?まぁ、長野にいた頃の中学の友達とは今も連絡取り合ってますけど。」
「お、それって男か!?女か!?」
「部長食いつきすぎです。...一応両方ですけど。」
「じゃぁ、ホワイトデーの日に貰えるかもねぇー。」
「そんなことないですよ!?それに長野から大阪って距離そこそこありますし!」
「・・・・とか言いつつ、顔赤くなってるで咲。」
「!!もういいです、今日はこれで帰ります!」
そう言って咲はカバンを持って足早に部室を出ていった。
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「ただいま。」
「おかえり、咲。」
咲を出迎えてくれたのは父であった。今日は仕事が早く終わったらしく、家でくつろいでいた。
「そうだ咲、夕方頃に宅配便が来てたぞ。」
父はそう言うと、それを咲に手渡した。
「ありがとうお父さん。じゃぁ、ちょっと荷物置いてくるから。」
咲は自室へと戻っていった。部屋に入ると、ベッドに腰をかけて中身を開け始めた。中にはキーホルダーと手紙が入っていた。咲はその手紙を読み始めた。
長々と書かれた手紙を咲は読み終えた。
(京ちゃんたち元気そうだなぁ。高校生活も充実してそうだし。)
その時の咲の顔は自然と綻んでいた。
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いずれ咲の中学生編も書きたいものですがいつになるやら...