第19話「プロとの出会い」
「それじゃ、順番に説明していこか。まず憩ちゃんの質問やけど、うちは個人戦に出とったで。一応準決勝まで行ったんやけど、そこで宮永にあたって何も出来ずに負けてもうた。ほんまに大したやつやわ。」
昔を懐かしむかのように七実は言った。もうその話は2年も前の出来事となっていた。
「そんで次は咲ちゃんの質問やな。さっきの話の続きやけど、うちとの試合のあとの決勝戦で宮永は良子ちゃん、今は戒能プロか、に負けたんや。」
「その『戒能』さんはそんなに強いんですか?」
「なんや、良子ちゃんを知らんのか?結構有名やと思ったんやけど。」
「咲ちゃんは最近まで麻雀とは関わってなかったんですうー。」
憩の答えにそういう事かと、納得した表情をした。
「じゃ、少し良子ちゃんの話をしとこか。良子ちゃんはうちと同じ世代やけど突出した才能を持っとるなぁとは昔から思っとった。さっきも言ったように、宮永照を唯一破った存在やし、プロになってからもその力は健在で、去年は『ルーキーオブザイヤー』と『シルバーシューター』を獲得しとったからな。」
「その人が、お姉ちゃんを倒した唯一の人...」
咲はそのとき世界の広さを感じ取った。自分が憧れるほどの強さを持っていた実の姉、その姉は春季大会で咲の知っていた頃とは比べ物にならない強さになっていた。しかし、その姉をも凌駕する力を持つ人。そんな人がゴロゴロいるプロの世界。戦ってみたい。今の自分がどこまで行けるのか試してみたい。
「そんじゃ、うちの質問に答えてもらうで。宮永照は咲ちゃんの姉貴なんか?」
「そうです。子供の頃にいろいろとあって、今は別々のところに住んでますけど。」
「何やいろいろあったようやけど、そこまでは踏み込まんでおくわ。それにしても、まさか妹がいるとは...」
「・・・あの藤白さん、ひとつ聞いてもよろしいですか?」
「ん、なんや?」
「戒能プロとは今会うこととかできないですか?」
「ちょ、咲ちゃん。流石にそれは無理やろ。」
憩に言われるまでもなく、咲自身もそう思っていた。プロにホイホイ会えるわけがない。大会中ならまだしも、今は何もやっていないのだから。
しかし、七実の答えは咲の考えとはまるっきり逆だった。
「会えると思うで。さっきまで良子ちゃんと対局しとったからまだ帰ってないと思うし。」
「本当ですか!?」
「一応、連絡入れとくわ。」
そう言って、七実は携帯を取り出した。
プロの人と会える。それも、お姉ちゃんより強い人だ。それだけでも咲をワクワクさせるのには十分だった。
「お、返信返ってきた。・・・オッケーやって。ほんなら今から行こか。」
「はい、お願いします!」
「憩ちゃんも来るんでええよな?」
「はい...あ、でも先輩たちの昼ご飯買わなくちゃいけないんですぅー。」
「せっかくの機会なんやし、行ってもええんやないか?会うだけやからそんな時間かからんやろうし、何か言われたらうちのこと言っとけば何とかなるやろ。」
「それやったら...うちも行きます。」
「よし、決定やな。ほんなら案内するで。」
****
七実に連れられて、咲と憩は大きなビルの前まで来ていた。
「ここが待ち合わせの場所や。この中でプロの雀士が対局するんやで。」
「思ってたより大きいですぅー。」
「撮影機材とかも置いてあるからな。さて、良子ちゃん、入口入ってすぐのところにいるって言うてたけど...お、おった!」
入口に入ってからそう離れていないところに戒能良子はいた。
「良子ちゃんさっきぶりー!もうお昼は食べたんか?」
「オフコース、とっくに食べたよ。それで、メールで言ってた私に会いたい子達は?」
「後ろの2人やで。」
七実にそう言われたので自己紹介をしようとした咲たちであったが、それより先に良子が口を開いた。
「おや、そっちの子は千里山の荒川憩じゃないか?」
「うちのことご存知だったんですかぁー!」
「去年の個人戦で上級生相手に奮闘して2位という結果を残したんだ、それくらい知ってるよ。仮にも解説をやってるわけだし。」
「プロの方に名前を覚えて貰えてるって嬉しいものですぅー。」
憩は照れたような顔をした。
「それで、もう一人の子は...」
「あっ、荒川先輩と同じ千里山の宮永咲って言います。」
「・・・もしかして、お姉さんが『宮永照』だったりする?」
「そうですけど...」
今までも咲は既に何度かこの質問をされているため、特に気にすること無かった。が、良子の今の質問の仕方は咲と照が姉妹関係であることを既に知っているかのようであった。
憩もどうやらそのことに気づいたらしい。
「戒能プロは咲ちゃんと会ったことあるんですかぁ?」
「いや、今日が会うのは初めてだ。正確に言うと、
「それってどういうことですか?」
「春季大会の準決勝の日、解説が終わったから別室へと向かっていた時、ちょうど休憩所で咲が麻雀をしているのを見かけたんだ。」
「それって...」
咲が外のときのことを思い出すのにそれほど時間はかからなかった。なにせかなり印象に残る出来事であったからだ。
「天江衣と戦っていたときのことだ。」
「咲ちゃん天江衣と戦ったんか!?」
「あ、はい。天江さんから誘われて...でも結局惨敗でしたけど。」
「まぁ、『牌に愛された子』と言われるくらいの子なんだ、そう易々と倒せる相手ではないだろう。それより私は、咲の内にある潜在能力が気になっていたんだ。」
「潜在能力...ですか?」
「そう、しかもかなり大きな力を持ったものだ。咲に会う前にどこかで似たようなことを感じたなぁと思ってたんだが、咲の名前を聞いて思い出したよ。二年前、私が個人戦の決勝で戦ったときの宮永照とそっくりだったんだ。」
「お姉ちゃんと...ですか...」
その頃のお姉ちゃんはまだ私と同じくらいだったのかもしれない。でも準決勝での試合のように、今はその能力を存分に発揮している。もしかしたらまだすべてを出し尽くしていないのかもしれない。そう考えると、自分の『全国の舞台にいる姉に会いに行く』という目標は達成されたとしても、まだまだ未熟な自分じゃ相手にならないのではと、咲は思った。
(そのためにも、荒川先輩が言っていたように経験をたくさん積まなくちゃ。)
そう改めて思った咲に、願ってもないチャンスがやって来た。
「良子ちゃんがそこまで言うくらいの子なんか...ちょっと戦ってみたい気もするわ。」
「ミートゥー。・・そうだ、せっかくだからこの4人で打ってみない?」
「「いいんですか!?」」
咲と憩がハモった。
「もちろん、無理にとは言わないけど。」
「やります、やらせてください!」
「私もやりたいです!」
「2人ともがっついてくるなぁ。やる気があるのはええことやけど。」
「オーケー、それじゃぁ対局室へ行こうか。私が案内するよ。」
そして4人は、対局室へと向かっていった。
****
「始める前に、ルールの確認をしておこうか。基本的ルールはインハイと同じにしよう。」
向かっている途中、良子がそう説明した。
「『インハイと同じ』って他は違ったりするんですか?」
「中学とかプロの世界とかでそれぞれルールがあるから、インハイのルールがすべてに共通してるってわけでもないんやで。」
「そうなんですか。」
「今回は半荘で持ち点25000、それとドボンはなしよう。半荘しっかりやりきりたいからね。」
「わかりました。」
「了解ですぅー。」
「お、ちょうど着いたか。それじゃぁ、試合といきますか。」
次回は対局からです。