「疲れたぁ...」
咲はそう言いながら机に突っ伏した。目の前の画面には4位という文字が表示されていた。
翌日、前の日と同じ練習メニューを5人はしていた。時間帯はお昼頃、咲は長いことパソコンと向かい合っていたため目がだいぶ疲れていた。
「お、咲終わったか。」
すぐ近くに座っていた監督が話しかけてきた。
「あ、また長いあいだやってましたか?」
「3,4時間やっとったで。目だいぶ疲れとるやろ。」
「はい、しぱしぱします...」
「気分転換に外にでも出てみたらどうや?ついでにお昼時だから何か食べてきたらどうや?」
「先輩方はもう食べたんですか?」
「まだやけど、あの様子やと昼抜きでぶっ通しでやりそうやわ。」
そう言って七実たちの方を見る。
今卓を囲んでいるのは七実、怜、竜華、憩の4人であった。全員闘争心全開であるため、確かにこのままやり続けそうだ。一方、洋榎は咲と同じくネット麻雀をしている。三連続で他家を飛ばすという課題をなんとかクリアしたため、今は『半荘のうちに役満で2回あがる』という無理難題を押し付けられていた。監督曰く、「洋榎にこれ以上やらせることないからこれくらい無理なことでもええやろ。」ということらしい。
「・・・わかりました。ちょっと気分転換とお昼を兼ねて、外に行ってきます。」
「ちょい待ち、ちゃんと携帯を持ったか?」
「そうでした!」
危うく忘れて出かけるところであった。誰も付き添ってくれない以上、咲にとっては携帯だけが唯一の生命線である。
今度はしっかりと持って、
「それでは監督、行ってきます。」
そう言って、咲は外へと出かけていった。
***
「あれ、ここどこだろう...」
旅館を出て数分後、案の定咲は道に迷っていた。旅館近くのところのどこかで昼食を済ませようと考えていたのだが、知らぬ間に商店街らしきところに来ていた。周りの人に旅館への帰り方を尋ねるも、だんだん旅館から遠くなっていってしまっているような気がした。
「どうしよう、本当に迷子だよ...携帯は充電切れてて使えないし...」
前に咲は携帯の使い方の練習をしていたのだが、その時充電をせずにしていたため、こんな大事な時に使えないということになってしまった。
「誰か一緒の方面に行く人がいればついていけるのに...」
咲がそう思っていると、近くを女子高生と思しき2人組が通りかかった。
「おい、どうするんだ。あっちこっちに寄り道してたお前を私が追いかけてたうちに、2人とも照たちからはぐれたじゃないか。」
「菫先輩、携帯とかでテルと連絡取れないんですか?」
「取れてたらこんなに騒いでないだろ。私の携帯はお前を追いかけるために照に渡してそのままだ。」
「私、携帯はホテルに忘れてきたけど、携帯の充電器は持ってますよ。」
「本体がなきゃ意味無いだろ!」
照、菫。聞き覚えのある名前を彼女達は口にしていた。
もしかしてあの人たちって...
そう思って彼女達の方を見ると、1人は咲の知っている人であった。
「菫さん!?」
「ん、誰だ?・・・って、咲ちゃんじゃないか!?どうしてここにいるんだ!?」
そこにいたのは、春季大会のときに照と一緒にいた白糸台の部長、弘世菫であった。
「旅館の近くでお昼食べてこうと思ったんですけど、いつの間にかこんなところに来てて...携帯は充電が切れてて使えないので連絡も取れないし...」
「流石は照の妹と言ったところか...ってちょっと待った。咲ちゃん、その携帯貸してくれないか?」
「?いいですけど。」
そう言って咲は菫に持っていた携帯を手渡した。
「淡、お前充電器ならあるって言ったよな?」
「ありますけど、携帯はないですよ?」
「とりあえずその充電器を貸してみろ。」
菫は充電器を手に取ると、咲の持っていた携帯にさしてみた。すると見事に咲の携帯とあった。
「まさかとは思ったが、咲ちゃんの携帯と淡の充電器がぴったりあった...これなら充電して連絡を取ればお互い万事解決だ!」
「流石は菫先輩!やっぱり頼りになります!」
2人でキャッキャしていたが、咲はある点に気づいていた。
「あの菫さん、コンセントがないと充電できないんじゃないですか?」
「・・・あ。」
先程までの喜びようが嘘のように、菫は硬直していた。
「菫先輩、どこか充電させてもらえるところを探せばいいんじゃないですか?」
「おぉ、それだ!よし2人とも、私が探しに行ってくるからここでおとなしく待ってるんだぞ!」
そう言い残して、菫は駆け足で去っていった。
どうしよう、2人きりになってしまった。
咲は淡と呼ばれていた少女の方を見た。白糸台の制服を着ていることや、話している内容から彼女もまた白糸台の麻雀部の部員なのだろうと察した。しかし、春季大会の時には見かけなかった顔だが一体なぜそんな子がここにいるのだろうか。
「ねぇ」
不意に彼女から声をかけられた。
「さっき菫先輩が『流石は照の妹』って言ってたけど、テルと姉妹関係なの?」
そういえば、菫さんそんなこと言ってたなぁ。姉妹関係のことは他言無用でお願いしたつもりだったんだけど...
とは言え、白糸台の麻雀部員だったらいずれバレることだったであろうし、何より今ここで誤魔化す方が不自然かもしれない。そのため、咲は正直に打ち明けることにした。
「そうです、私とお姉ちゃん、宮永照は姉妹関係です。私の名前は宮永咲、千里山女子の1年です。」
「へぇ、本当だったんだ。」
そう言うと、彼女は咲の方へ寄ってきて、咲の全身をくまなく観察し始めた。
「・・・でもテルみたいな強さは感じられない。姉妹だからといって、強いとは限らないんだね。」
自分でもまだまだ実力が足りないことは自覚していたが、赤の他人にそう言われると、流石の咲もムッとした。
「紹介がまだだったね。私は白糸台高校の大星淡、咲と同じ1年だよ。」
淡はそう自己紹介をした。
「しかしこんなに弱そうなのに千里山にいるとは。そりゃ千里山が春季大会で準決勝敗退するわけだ。」
ここで咲の中の何かがブチッと音を立てた。
「私のことをどう言おうが構わないけど、千里山のことで何かを言われるなら黙ってるわけにはいかないよ。」
それと同時に、咲から禍々しいオーラが放たれた。この突然の出来事に淡は恐怖感を覚えた。
まさかこのやり方でここまで怒るとは、やっぱりテルの妹なんだ。
淡はそう感じていた。
────────
昔、初めて照と合った時、照に試合を申し込んだがあっさりと断られてしまった。何度目かでやっと試合を受け入れてくれたが、その試合で淡は完膚なきまでに叩き潰された。しかも、照はその時本気ではなかったのだ。
私の生涯の中で、これ程強い人とあたったことなんてなかった。この人の本気と戦ってみたい。
そう思い照に本気を出して戦うようお願いするも、『まずは本気じゃない私を倒せてからじゃないと』と言われ、取り合ってくれなかった。
そんな照の態度にしびれを切らした淡は、ある強行手段に出ることにした。それは、照が大事にとっておいたお菓子を全部食べてしまうことだった。前に菫から照はお菓子が大好きなことを聞いていたためこの作戦を決行することにしたが、これで照が本気を出してくれるかどうかは淡にはわからなかった。ただ、少しでも可能性があるならそれに賭けてみようと考えていたのだ。
するとその日の部活終わりに、ただならぬ雰囲気の照が淡の元へとやって来た。
『淡、私のお菓子どこに行ったか知ってるか?』
あれ、もしかしてこの作戦いけるんじゃ。そう感じた淡は答えた。
『知ってるよ。だってテルのお菓子は私が全部食べたんだもん。』
この瞬間、今まで照から感じたことのない、怒りに満ちたオーラを感じ取った。
『・・・そうだ淡、ちょっと卓についてくれないか?』
静かにそう言った照だったが、怒りは抑えきれていない様子だった。しかし、これで淡の悲願であった本気の照と戦うという目標は成し遂げられたのだ。
────────
(あの後、菫先輩とかも巻き込んで試合したけど、今までの比じゃない程にテルがボコボコにしにかかってきたっけ。あの時私は死を覚悟してたなぁ...)
今となっては懐かしい昔のことを思い返していた。
そんな照に妹の咲という子がいて、しかも私と同学年。これがどれほどの強さか見てみたいと思ってわざと挑発的な態度をとってみたが、思った通り、テルの妹と言うだけあって確かにとてつもない実力を持っているようだ。
(ちょっと怒らせすぎた感じもするけど結果オーライかな。)
淡は咲の言葉に返答した。
「そこまで言うんだったら、咲の実力がいかほどなのか見させてもらおうか。千里山の代表として。」
「・・・わかった。」
少し間があったが、咲は了承してくれた。
「それじゃ菫先輩が戻り次第、どこかの雀荘に行って勝負といこうか。」
やっとあわあわ出せました。前から出そうとは思っていたのですが...
原作の方のあわあわとは多少異なるところもあるでしょうが、大目に見てください...
次回は対局入るか入らないかくらいのところまで書くつもりです。また、オリキャラ1人を入れる予定ですが、詳しいことは次回の後書きで。