「へぇ、そこまで言うなら聞かせてもらおうか。咲の考える私の能力がどういったものなのかを。」
咲の発言に、哧がそう答えた。
「ちょっと待って咲、悟楽の能力って『相手の技を真似る』みたいな能力じゃないの?」
「違うよ。それはチーちゃんの能力に偶然がうまく噛み合ってできたいわば幻のようなものかな。」
咲はそう淡に説明した。しかし、淡はそれだけではどういうことなのか分からない、といった顔をしていた。
「もう少し詳しく話すから大丈夫だよ。」
咲は笑って淡にそう言った。
「まず、なぜチーちゃんの能力が他人の技を真似ることではないのかについてです。確かに、淡ちゃんのダブリーを真似したかのように思えるあの和了り方を見た時は、私も淡ちゃんと同じ考えでした。でも、そうすると一つ矛盾してくるところがあるんです。」
「矛盾?」
菫がそう言ったのに対して、咲は頷いて答えた。
「その矛盾というのはチーちゃんが最初にあがった時に、なぜあんな和了方をしたのかということです。真似ができるならそこでやっても良かったんじゃないかと私は思ったわけです。」
「でもそれは、淡に来ている流れを一旦止めてから反撃に出ようとか、もう一度淡の技を見ようとかあったんじゃないか?」
「確かにそうも考えられます。ただ、それを考慮してもあのあがり方には不可解なところがあるんです。」
哧の方に目を向けると、少し険しそうな顔をしていた。
「それは鳴いて一通を和了りにいったことです。仮に流れを止めるために鳴いて手を早めるのだとしたら、普通は断幺九や役牌で和了りにいったほうがより確実にあがれます。」
「確かにそう考えるとおかしなところがあるね。そうすると悟楽の目的はそういつたことじゃなかったってこと?」
淡は咲にそう尋ねた。
「そう。そしてその目的がなにかを考えたとき、私はこう思いました。あれは多分一通であがらなくてはいけなかったんじゃないかと。そしてそれであがることがチーちゃんにとっての能力発動の条件なんじゃないかと。」
咲は大きく深呼吸をした。チーちゃん、これが私の出す答えだよ。咲は心の中でそう思い、言葉を続けた。
「一通であがらなければいけないという点を踏まえて、私はチーちゃんの和了りに注目しました。覚えていますか、チーちゃんが和了ったときを。」
「えっと、1回目は一通のみ、2回めはダブリー、一発、平和、一盃口、ドラ3、3回目はリーチ、門前、ダブ南、三暗刻、ドラ3でしょ。これに何か法則性とかある?」
うーん、と淡は悩んだ。すると、菫が突然声をあげた。
「そうか、あがったときの役の数字が増えていってるんだ!
「その通りです。だからチーちゃんは『一』と名のつく一通で最初に和了る必要があったんです。他にも『一』がつくものはありますが、『一発』や『一盃口』は鳴いたら作れないため、淡ちゃんの能力が発動中では厳しく、『清一』も五向聴からだと難しいです。『混一』は不可能ではないですけど、あの時のチーちゃんの捨て牌を見る限り、役牌が全く来なかったためこれも作れなかったんだと思います。」
淡はなるほどといった顔をしていたが、あれっとふと思ったことを口にした。
「でもダブリーの『ダブル』は数字の2って考えていいの?」
「ダブリーは漢字で書くと『二重立直』とも書くから大丈夫だよ。それと、2回目に
「その次って『4』のつくものだな?それって...」
そこまでいったところで、菫はことの重大さに気がついた。どうやら淡も同じようだ。
「『四暗刻』、『四喜和』、『四槓子』の3つで、いずれも役満です。」
「それってオーラスで悟楽がこの3つの役満の中のどれかで和了るってこと?それ全部に警戒しとかないといけないのか...」
「そうだね。でも使う本人も何が来るのかわからない。」
咲は哧の方を見た。
「2回目の和了のとき、チーちゃんは淡ちゃんの真似をするような素振りをしたのは配牌が終わったあとだった。もし自分で操作できるなら、配牌前にやりそうなものだと思うけど。でも、これについてはあくまで推測かな。」
咲がそう話終えると、哧は苦笑いをしながら口を開いた。
「まさかここまで的確な答えが返ってくるとは思わなかったよ。しかも最後のその推測もあたっているよ。大したものだね、咲。だけど分かったところでそう易々と止められる技じゃない。」
「止められるよ。」
咲ははっきりとした声で、強くそう哧に言った。
「チーちゃんの技が自分でも何が来るのかわからないなら、私に止めることは出来る。」
咲の目は真剣そのものであった。なるほど、冗談で言っているわけでもなさそうだ。
「分かった。だったらこのオーラスで、私の和了を止めてみな。」
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────────
『なんで荒川先輩は槍槓であがれたんですか?』
咲が洋榎たち3人との再戦を申し込まれたその日、対局が終わったあとに、咲は憩にそう質問した。あの時の槍槓は意図してやったように感じていたからだ。
『そんなん偶然や。』
咲の想像していたものとは違う、なんともあっさりした回答が返ってきた。
『でも、国士無双を槍槓であがるなんて、そんな偶然そう簡単に起こるものじゃないですよ。それに、私には意図してやったように感じましたし。』
『そう言われてもなぁ...』
うーん、と憩は考え込んでいたが、一つ思いついたように言った。
『まぁ確かに咲ちゃんの言う通り、槍槓であがれることは珍しいことやと思う。けど咲ちゃんがカンをしてくれることは確信しとったよ。』
『それって私の能力が嶺上開花であがることだって思ったからですか?』
『せやな。傍から見たら『たまたま嶺上開花であがれてラッキーだなぁ』程度にしか思われないやろうけど、あのチャンピオンの妹やし、そういった能力があっても不思議には思わんかったよ。』
さらに付け加えるように憩は言った。
『うちがあがれたのは国士無双という役をここぞとばかりに持ってこれた運の良さ、咲ちゃんがカンしてくれると信じてたこと、この二つが偶然合わさったことでできたんやと思う。』
そして、憩は咲の頭に手を置き、優しくなでた。
『せやから、もし咲ちゃんがさっきのうちみたいな和了をしてみたいと思うなら、運を味方につけて、なおかつ相手がどう出てくるかを読む力が大事になってくるな。』
────────
(あの時の私にはまだ荒川先輩の言っていることがいまいちピンとこなかった。でも、今この状況に出会えたからこそ先輩の言っていたことが理解できる。)
咲はこれから始まる最後の大一番に向けて、意識を集中した。
(チーちゃんの一つ一つの細かな言動を観察して、そして運も私の味方につける!)
***
南四局 親:哧悟楽 ドラ{②}
南:弘世菫 21700
西:大星淡 23500
北:宮永咲 14700
東:哧悟楽 40100
(あの4つの中だと一番可能性のありそうなのは四暗刻だな。役満の中なら一番出やすい役だし。)
菫はそう思った。とはいえ、他の役で和了る可能性もゼロではない。どう和了るかは当の本人が決めるものだ。
(とりあえず四喜和や四槓子のことも頭に入れて打っていかなくてはいけないな。)
そして場は進んでいき十巡目
(風牌が一つも出てきてないな。淡や咲ちゃんが私と同じように、警戒して流していないのか、それとも既に哧の手牌の中にあるのか...)
そう菫が思っていた時、この局で初めてとなる風牌が現れた。捨てたのは咲であった。
「ポン」 {横西西西}
({西}を鳴いてきた!四暗刻はなくなったけど、四喜和の線がこくなってきたよ。)
淡はこの局、哧が役満であがることを知ってあえてダブリーはかけなかった。不用意に振込みたくなかったからである。しかしダブリーを使っていないとはいえ、配牌の時点で既に聴牌していた。
(だけど、風牌が来たから捨てられなくて、結局一向聴になっちゃったよ...結果的に悟楽が四喜和を狙ってるっぽいことが分かったから、捨てなくてよかったけど。)
そう思っていた淡のところに、再び風牌がきた。
(うわっ、捨てられるわけないじゃん!しかも{東}とかまだ場に出てないし。仕方がない、{3}を捨てるか)
淡はそう思って{3}をきる。
「ポン」
「・・・えっ?」
つい淡はそう口にしてしまった。もう一度場に目をやると、既に哧が淡の牌を取って右端に置いていた。
(なんで!?悟楽の狙っている役は四喜和なはずじゃ...いや違う、四喜和であってるんだ。)
菫も淡と同じようなことを考えていた。
(これは多分四喜和の中の、小四喜狙いだな。しかもこのタイミングで風牌以外を鳴いてきているあたりからして、最悪聴牌しているかもしれない...)
菫のその最悪の場合はあたっていた。今淡から鳴いたことによって、哧は聴牌していた。
(さぁ咲、ここからどうやって和了りにいく。私が和了るまでの時間はもうほとんどないけど。)
しかし、咲は次の巡ではあがらなかった。ただ牌を引いてきて手牌の中から一つ抜き出し、そしてその牌を捨てるだけであった。それだけであったのだが、
(今、咲が牌を引いてきた瞬間、咲からとんでもなくヤバイ感じがした。)
(一瞬ではあったが、照以上に強いオーラを感じた。)
(それが最後の抵抗ってことか、咲。でも、あがれないなら意味ないよ。)
咲が捨てた後、哧は牌を引いてくると牌を4つ倒した。
「カン」
その牌は風牌とは全くもって無縁の{⑨}であった。
(さっき淡から{3}を鳴いてたが、今{⑨}をカンしたってことは、哧の手牌は四喜和なんかじゃなくて...)
菫は哧の方を見る。哧は不敵な笑を浮かべていた。
「気づいたようだけど、もう遅いよ。誰も私を止められない。」
哧は嶺上牌を引いてくると、また手牌から4つの牌を倒した。
「カン」
今度は{⑦}であった。そしてその4つの牌を、また右側へやり、引いてきた嶺上牌をまた倒した。そこには{西}と刻まれていた。
「カン」
そう言って哧は加槓した。王牌へと手を伸ばし、また嶺上牌を取ってくる。
「咲が何か凄いことをしようとしていたのはさっきのオーラで感じ取れたよ。でもあと一歩足らなかったね。この流れでわかるだろうけど、今私が引いてきた牌は{3}。そして、それを加槓して嶺上牌引いてきて私はあがれる。」
哧はカンと宣言して{3}を倒した。
「・・・多分、私はチーちゃんがチーちゃんでなかったら勝ててなかったのかもしれない。」
咲が突然口を開いた。しかし、哧には咲の言っている意味がわからなかった。
「どういうこと?私が私じゃないって。それに、咲の負けは決まったんだよ?」
「チーちゃんが一貫した考えでいてくれていたってことだよ。途中でその考えを曲げていたなら私はあがれていなかった。」
咲がそこまで言ったところで、不意に咲から先程感じたオーラがまた現れた。
「これで私の勝ちだよ。」
咲はそう言って手牌を倒した。
{2222466888發發發}
「ロン。緑一色で32000。」
というわけで、次回で一旦終わりとなります。ちょうどキリよく30話になりますかね。
また、次回の投稿なのですが、多忙な場合来週の日曜までにあがられるかどうかわからないので、予めご了承ください。その場合はいつも通り活動報告の方に書いておきます。