もう一つの千里山女子   作:シューム

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思っていたよりも早く次の話が書けました(笑)
なんとなくの構成があったので、結構スラスラ書き上げられましたけど、果たしてこれがいつまで続くのやら...


第34話「流局」

南1局2本場

 

怜は咲の方を見た。何やら決心がついたような、そんな覚悟の表れが伺えた。迷いは吹っ切れたというような表情ではあるが、それももう遅い。現状40000点近くの差が咲と怜の間にはできている。そうやすやすとひっくり返るような点差ではない。何より今咲が仕掛けてこようとしている場面でわざわざ危険を冒してまで攻め続ける必要もないから、怜は咲に和了れないように注意を払い、最悪流局させればよいと考えていた。

 

(とりあえずこの局は咲の出方を見つつ、攻めてくるようなら受けを、攻めてこなそうなら連荘を狙うか)

 

慎重な手つきで怜は1打目を切った。ターニングポイントになるとしたらこの局であろう。ここを乗り切れるかどうかがこの勝負の勝敗を分かつといっても過言ではない。怜もそれぐらいの意識で臨んでいた。

咲も落ち着いた様子で1打目の{①}を切った。その表情からは今回の手牌が良いのかどうかはわからなかった。二巡先を見てみてもまだ状況に変化は現れない様子である。

 

(まだ仕掛けてきぃひんだけか、それとも仕掛けられへんのか。いずれにせよまだ様子見やな)

 

****

 

事態が動き出したのは10巡目を過ぎたころ。ここまで誰も鳴くことなく場は淡々と過ぎていった。しかしその静寂な場の中で、怜は二巡先の未来に危険なものを見た。

 

(このまま進んでいくと、二巡後の咲の手番で{③}をカンしようとしてくるな...咲の和了への道筋のきっかけはほとんどこのカンから始まる。それやったら次の下家の{八}を鳴いてツモ順をずらすか。)

 

そう考えるや否や、怜は下家の{八}を鳴いた。

 

(これでツモ順はずらした。あとは咲がそれに気づいてツモ順をもう一度戻さなとしてくるかどうかやけど、まだ猶予はあるからそのときはもう一度鳴けるタイミングでずらしたらいけるやろ。)

 

怜はもう一度咲の方を見た。先ほどと変わらない表情である。しかしその裏でカンを虎視眈々と狙っていたと考えると、改めて恐ろしい後輩だと思い知らされた。普段の私生活やいつもの麻雀を打っているときには表情豊かな少女が、こうして真剣勝負の場に立つと冷静沈着を装いながら思いがけない手を探っているのだから、そのギャップを知る怜には尚のことそう感じた。

 

一方の咲は怜がそんなことを考えているなどつゆ知らず、少し焦りを感じ始めていた。

 

(今のところは順調に進められているけど、まだまだ危ない橋を渡っている状況に変わりはない。なるべく気づかれないようにできる限りのことはしたけど、いつこのことがばれちゃうかもわからないし...)

 

咲は手牌に視線を落とした。あとの足りないピースがそろうかどうか、そこはもう運にすべてを委ねるしかない。今はただ来ると信じて、うち進めるしかなかった。

 

****

 

残り三巡としたところまで進んだ。咲が仕掛けてくる気配は先の一度だけで、それ以降は特に何も感じていなかった。怜はそこでの鳴きで少し手が崩れたものの、一向聴までもってきていた。

 

(咲の手牌は見る感じまだはってなさそうやな。せやけど何やこの嫌な感じは...)

 

咲が最後の最後で何かを仕掛けてくるような、そんなことを感じ取っていた。もしこの最後で何かが起こるとすると、考えられることとしては...

 

(海底か河底やな)

 

咲がこれまで海底や河底で和了ったところを怜は見たことがなかった。しかし、咲が天江衣との対局で何かをつかんでいたり、咲の嶺上開花で和了る能力がもしも王牌、それ以上に及ぶものになっていたらもしかしたらが起こるのかもしれない。

 

(なんにせよ、咲の打牌を見ながら考えていかなあかんわな)

 

咲が{西}を切ってきた。これにより鳴きがなければ咲の手番は後2回。残り2巡で終わるなら怜の能力で戦況が読める。

 

(ここで咲が何を仕掛けてくるか、見させてもらうで!)

 

しかし、意外にも怜の見た未来では咲は何もしかけてこなかった。ただ淡々と牌を切り、そのまま流局になる流れまで見えていた。

怜は少し拍子抜けした。この局、咲が必ず何かを仕掛けてくると考えていたが、結局何事もなく終わろうとしている。あの時感じた覚悟の表れはいったい何だったのか。もしかしたらこの局はまだ様子見のようなもので、本当に仕掛けてくるのは次局以降だったのかもしれない。とりあえずは、今この局については流局でうまく流せそうな状況にある。

そう考えた怜はふぅと一息ついた。咲を警戒して意識をかなり張り巡らせていたため、肩の荷が一気に下りた。視線を下へ落そうとしたとき、怜は衝撃的な現状を目の当たりにした。

 

(なんや...これ...)

 

怜が目にしたのは咲の河である。そこに捨てられていた牌はすべて幺九牌であった。一度も鳴かれることなく、捨て牌すべてが幺九牌の状態で流局した場合成立する特殊な役...

 

(咲が初めから狙っていたのは、この流し満貫やったんか!)

 

ようやく咲の本当の狙いに気づいたときにはもう遅かった。怜の見ていた二巡先では咲の捨て牌はすべて幺九牌、加えて誰かが和了ることもないため流局する事態は避けられなかった。

思い返せば咲が10巡目過ぎにカンを仕掛けようとしてくる未来が見えたとき、あの時に意識を咲がカンするかもしれないと方向に向けすぎてしまっていて、尚且つ最後の海底・河底に備えて身構えてしまっていたことにより、河への意識をそらそうとしていたのかもしれない。

 

(やってくれるやないか、咲。)

 

苦々しい表情で咲を見ると、咲は怜が自分の本当の狙いに気づいたことを察したのかにこりとした表情をしてきた。

そのまま場は流れ、誰も和了ることなく流局した。

 

「流し満貫です。」

 

まさかこの土壇場で流し満貫で和了ってくるとは、怜にとって予想外のことであった。しかし、怜自身が夏合宿で能力を強化させていたように、咲も咲でこうした事態に対応できるようネット麻雀での経験を活かし、和了るための手数を増やすことでこの発想に至ったのだろう。

 

「そう簡単に園城寺先輩に流れは渡しませんよ。」

「連荘を止めたくらいで流れは変わらんわ。ここからうちとの点差を詰めなあかんのやから。」

「勝ちますよ、絶対に。」

 

そう言った先から放たれるオーラは今まで以上のものであった。

 

(いや、いっぺんだけこれと同じのを感じたことがある。確か咲が入部を決めるきっかけになってん日の...)

 

怜の頭の中には、洋榎と憩と咲とで打ったあの日の記憶が蘇った。南3局で咲がドラを絡めて嶺上開花で和了ったときと同じ状態であった。今がその時と同じ状態であるのなら、また咲がドラを絡めた和了を決めてくるはずである。

 

(あの時は一巡先しか見えへんかったけど、今は二巡先が見える。今なら対応できるはずや。)

 

そう考えながら南2局に突入したが、怜の予想を上回る事態が起きた。咲があっさりとカンをして嶺上開花を決めてしまったのだ。当然、怜は二巡先を見て咲がカンをしてこないように警戒していた。しかし、咲の手牌にはすでに4つ同じ牌がそろっていたのである。こうなると怜の二巡先を見る能力を前にしても止めることができなかった。

 

「ツモ。嶺上開花、門前、三暗刻、ドラ4の4000,8000です。」

 

当然と言わんばかりに裏ドラを絡めて和了ってきていた。しかもしっかりとカンした牌をのせて。

 

(こうなってくるとかなりきついな...)

 

怜には今の状態の咲を止める手立てが見つからなかった。

 

****

 

終局を告げるブザーの音が鳴った。結局あの後咲が場を支配し、最終的には咲の上家がとび試合は終わった。

 

「まさかここまで強くなっとるとは思わんかったわ。」

 

かなりの力を使いへとへとになっている咲のところへ怜がやってきた。

 

「園城寺先輩も、二巡先を見る能力があったことでなかなか嶺上開花を使えなくて焦りましたよ。」

「そんな言うても後半は嶺上開花つこうてきたやん。」

「いつも以上の力が出せたからですよ。出せてなかったらあのまま押し切られて負けてたと思いますし。」

 

咲は笑って見せた。そんな咲を見て怜もつられて笑ってしまった。

 

「うちとの戦いで力を使い切った言うて負けるようなことがあったら、承知しぃひんからな。うちを倒したんやから、絶対に全国に行くんやで。」

 

そう言い残して怜は会場を出ていった。

そうだ、まだ試合は終わったわけではないんだ。ここから先同じ千里山同士での試合がもしかしたらあるかもしれないし、レギュラーメンバーと当たるとなると今と同じか、それ以上の力を要することになる。

 

(絶対に勝ってお姉ちゃんの待ってる全国に行くんだ!)

 

****

 

女子個人戦 2日目途中経過(9回戦終了時)

1位 荒川憩 千里山女子高校 2年 +283

2位 宮永咲 千里山女子高校 1年 +241

3位 清水谷竜華 千里山女子高校 3年 +210

4位 愛宕洋榎 千里山女子高校 3年 +207

5位 園城寺怜 千里山女子高校 3年 +173

 

「咲ちゃん2位じゃん!」

 

電光掲示板に表示されている途中経過を見て風香が声を上げた。本選も残り1試合とした中で咲は2位と全国大会出場圏内に入っていた。あれからレギュラーメンバーと当たることがなく、咲は順調に勝ちを積み重ねていっていた。

 

「うんそうだけど、やっぱりまだ油断はならないかな。ここから清水谷先輩や部長にまくられるかもしれないから...」

「多分その心配はないで。」

 

二人で話をしていたところへ泉がやってきた。

 

「いずみんどういうこと?」

「最後の試合、組み合わせは見たか?」

 

二人は見ていないと答えると、泉は紙を渡してきた。そこには最終戦の組み合わせがかかれていた。

 

「そこのG卓のとこ、見てみ。」

「えっと、G卓は...」

 

紙に書かれているG卓の対戦を見てみる。

 

「いずみん、これって...」

「せや、部長と清水谷先輩が直接対決するんや。」

 

部長と清水谷先輩との対決。普段部室での対局は何度かあるものの、こうして公式戦の場で戦うことは見たことがない。それだけに二人のうちどちらが勝つのか咲には想像がつかなかった。

 

「そういうわけやから、部長と清水谷先輩が3位枠を争う形になって、荒川先輩と咲はほぼ全国出場決定といったところやな。まぁ咲が大負けしなければやけど。」

「それなら咲ちゃんなら大丈夫でしょ!絶対に全国に行けるよ!」

「う、うん...」

 

二人が戦うことで自分の全国出場の可能性は確かにかなり上がった。しかしそのことよりも、今は洋榎と竜華との対局の行方が気になっていた。

 

(この一戦でどっちかが枠を勝ち取り、どっちかが出場できなくなる。この試合、どうなるんだろう。)

 

2日目、本選最後の試合は刻一刻と始まりを迎えようとしていた。




次回は個人戦最終戦、洋榎と竜華との試合になります。前々から最後の試合はこれにしようと考えていたので無事ここまで話がもってこられてとりあえず一安心です。(細かな内容はまだ決めていませんが...)

次回35話の更新も遅くならないように更新していく予定ですので、気長にお待ちください!
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