もう一つの千里山女子   作:シューム

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第35話「部長」

洋榎が試合会場の方へと歩みを進めていると、途中のところで一人の人物が立っていた。竜華である。

 

「まさか、洋榎とほんまに戦うことになるとはなぁ。」

「せやな。ただ、予選の日にも言うたように全力で行かせてもらうで。」

「変わってへんようで安心したわ。」

 

微笑んだ様子で竜華が言った。しかし、それもすぐにキッとした表情に戻った。

本選最終戦、この1局で全国に進む3人が決まる。現状、得点をみるに憩と咲はほとんど確実と言っていい圏内に入っており、残る1枠を竜華と争う形となる。

 

(絶対にこの最終戦、負けへんで。)

 

洋榎は竜華とともに会場に入った。

 

****

 

最終戦を早々に終えた咲は、G卓の試合が行われている様子を見に、モニターのある部屋へときた。試合はまだ東3局竜華の親番であった。

 

「点差もほとんど開いてへん、まだ静かな立ち上がりって感じやな。」

 

不意に咲の後ろで声がしたので振り向くと、そこには七実がいた。

 

「藤白さん⁉どうしてここにいるんですか?」

「いやな、近くで試合があったんやけど、今日が個人戦やってるって知ってせっかくやから見に来たんや。そういう咲ちゃんも試合は大丈夫なんか?」

「私はさっき終わって今来たところです。藤白さんに教わった合宿での成果もしっかり発揮できました。」

「おぉ、それは教えた甲斐があるってもんや。」

 

そういうと七実は再びモニターの方へと視線を移した。その表情には自分の教え子たちの成長を見守るような優しさがあった。

咲はふと、先ほどの泉と風香との話で疑問に思っていたことを七実に聞こうと思った。

 

「そういえば、部長と清水谷先輩ってどっちの方が強いんですか?」

「せやなぁ...」

 

七実はしばらく考え込むと、

 

「実力的にはほとんど互角ってところやな。いっぺん二人が真剣勝負したことがあるって話は聞ぃたことがあるけど、そん時は決着がつかへんかったはずや。」

「それっていつの話ですか?」

「確か3年が引退するときに、洋榎たちの代の誰が部長をするかって話の時やったと思うけど...」

「でも今部長って愛宕先輩ですよね?それって結果的に部長が優勢で終わったってことですか?」

「詳しくは知らんけど、そないなことはなかったはずや。」

 

二人の過去にいったいどんなことがあったのだろうか。昔を知らない咲には想像の付かないものであったが、ただ一つ、この試合はもしかしたらその時決着がつかなかった試合の続きなのかもしれないと感じた。

 

────────

 

「・・・そういうわけで、仕事としてはこんなかんじやな。」

 

千里山の部長、蔵垣るう子から洋榎と竜華はそう告げられた。千里山女子が全国大会出場を決めた日の夕方、るう子に呼び出されて部室へ行った二人には、来年への引継ぎの話をされた。

 

「それで、そろそろどっちが部長をやるか決まったか?」

 

洋榎と竜華には部長と副部長として今後の千里山を引っ張っていってほしいとの話をすでにしており、どっちがどっちをやるかについて今日中に決めてくるように言っていたが、二人は首を横に振るだけであった。

 

「まぁ今すぐ決めなあかんわけやないけど、ぼちぼち決めへんと来年の方針が定まれへんからなぁ...」

 

ふむと少し難しそうな顔をしたるう子を見て、竜華が口を開いた。

 

「うちとしては洋榎にやってもらう方がええと思うんです。まわりをしっかり見れとって、みんなを引っ張っていけるだけの力もありますし。」

「それを言うたら、竜華はいつも落ち着いててしっかりしとるってところがいいと思うし。」

 

お互いがお互いを部長に適していると主張するだけに、なかなか決まらないでいた。

 

「部長としてはどっちがええと思いますん?」

「せやなぁ...どっちもええところがあるしぃ...」

 

再びるう子は考えるそぶりを見せた。部長がここまで考えても決められないことを、自分たちが決められないだろうと二人は考えていた。するとるう子があっと言い、こんな提案をしてきた。

 

「せやったらもうどっちが強いか麻雀で決めるのはどうや?」

「実際に打って、その実力で部長を決めるってことですか?」

「そうや、二人が真剣勝負で打ちあって、勝った方を部長とする。実際部長になるだけの力はあるわけやし。そうと決まったら善は急げや、あと一人探さな。」

 

そう言って扉の方へるう子が向かうと、プリントの束を抱えた憩がちょうど入ってきた。

 

「部長、頼まれてた資料持ってきましたよ。」

「おぉ、ちょうどいいタイミングに来よったな憩。今から一局やるんやけど、付き合うたってくれへんか?」

「今からですか?別に構いまへんけど。」

 

その返事を聞き、るう子は洋榎と竜華の方に向き直った。

 

「ほなら勝負といこか!」

 

 

****

 

東一局 親:荒川憩 ドラ{南}

東:荒川憩 25000

南:愛宕洋榎 25000

西:蔵垣るう子 25000

北:清水谷竜華 25000

 

ルールとしては東風戦で、最終的に洋榎と竜華の点数の高い方を勝ちとするものである。また、るう子と憩はあくまでこの勝負に水を差さないように打ち、仮にどちらかの点数がマイナスになろうとも洋榎か竜華がマイナスになったり東場が終わらない限り終了しないというルールも追加されている。

 

「チー!」

 

序盤の段階で洋榎が鳴き仕掛けをしてきた。洋榎としては、竜華の実力を認めそれでいて竜華が部長になる方が適していると考えているが、こうして真剣勝負をするとなった以上、手を抜いてわざと負けたりすることなく、本気で竜華に勝ちに行こうと考えていた。多分竜華も同じようなことを考えていることだろう。

二人がこうして本気で打ちあうことは入部して以来初めてのことであったため、結果がどうなるかなど想像がつかなかった。

 

「ツモ。混一色、対々和の2000,4000や。」

 

出だしは洋榎が快調に和了った。今日の自分の手を見るにツキは結構来ているように思えた。状態としては悪くない、むしろかなり良い方であった。このまま進めば難なく勝てるだろうと洋榎は感じた。

続く東二局の洋榎の親番でも、手牌は二向聴と良いスタートとなった。トントンと手は進み、跳満手をツモってきた。

 

(実力差はそこまでないと思っとってんけど、序盤で34000点の差がつくとはなぁ。東風戦やからこの点差をひっくり返していくのはなかなかにしんどいけど。)

 

洋榎の軽快な和了を見て、るう子は思った。このままいくようであれば洋榎の勝ちで終わりそうだが...

ふと竜華の方を見ると、この状況でありながらもかなり落ち着いた様子であった。いや、いつもの落ち着き様とは何か違う。落ち着きすぎているというか、どこか達観した様子に見えた。この異様な雰囲気をどうやら洋榎と憩も感じ取っているようだった。これまで竜華を見てきたるう子にとって、こんな様子の竜華を目にするのは初めてのことであった。

 

(これはなかなかにやばそうやな。何を仕掛けてくるかはわからへんけど、稼げるうちに点数を稼いでおかんと。)

 

ツキがまだ自分にあるうちに点差をさらに離しておこうと洋榎は考えた。

 

****

 

東二局一本場 親:愛宕洋榎 ドラ{三}

東:荒川憩 15000

南:愛宕洋榎 51000

西:蔵垣るう子 17000

北:清水谷竜華 17000

 

今回の洋榎の手もまずまずといったところであった。高めの手をつくるために手をかけすぎると、今のかなり危険な状態の竜華にまくられかねないため、ここは手堅く安めでも早く手づくりにしようと考えた。そのためにも今手牌にある{東}の存在は洋榎にとってはかなり大きいものであった。

 

(ダブ東が確定している今、ここは東一局のときと同じく鳴き仕掛けで和了ったほうがいいか。)

 

そんな中で憩の手牌から{二}が漏れた。洋榎にとってこの{二}はかなり手を進められるものなためなんとしても鳴いておきたいところである。

 

「チーや!」

「ポン」

 

洋榎のチーと同時に誰かがポンと宣言した。その声の主は竜華であった。同時のチーとポンだとポンが優先されるため、{二]は竜華のもとへと流れていった。

その時に洋榎は先ほどから感じていた竜華のいつもとは違う違和感についてなんとなくではあるものの察した。

 

(この変な感じ、竜華にうちの手牌や切りたい牌、向かいたい和了をすべて見抜かれている感じや...)

 

手を見透かされている以上、洋榎の考えが読まれている以上、洋榎が今できることはもうなかった。ただ、見透かされていながらもなんとかして和了を目指していくことしかできなかった。




蔵垣るう子についてはアニメでふなQのタブレットに表示されていたセーラが1年の頃の千里山のオーダー表から取りました。昔の千里山について原作本編などで掘り下げられないかなぁと思っていたり...
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